ちりーん。  
 
澄んだ音を響かせながら、風鈴がそよかに揺れる。  
畳に正座して向き合った父と子は実に真剣な顔で睨みあっていた。  
 
「うしお。父が、今までお前に無理な頼みをしたことがあるか」  
「そんなんばっかだったじゃねーか」  
「……。」  
 
ちりりーん。  
 
また、風鈴が揺れた。  
初夏の香りが、庭のあちこちに訪れている。  
修復されたばかりの彼らの家は日光がよく入り、明るかった。  
うしおの分厚い眉がぴくりと動き、紫暮の神妙な顔が歪んだ。  
次の一瞬張り詰めた空気が爆発した。  
 
「なんでオレが出て行かなきゃなんねーんだよっ!!」  
「出て行けとは言っておらぬ、この馬鹿息子が!  
 一晩だけ麻子ちゃんのおうちに御厄介になって」  
「小学生じゃねーんだ、そんなことできるかよっ!!」  
 
紫暮ははっと黙った。  
真っ赤になって反論する息子を、穴が開くほど真剣に見つめる。  
 
「な…なんだよ」  
「…ははーん、この愚息が色気づきやがったな。なら構わん。  
 そんっっなに麻子ちゃんの家で劣情を抑える自信がないのであれば  
 別に麻子ちゃんのお宅でなくとも構わん。要は一晩この家を明けてくれればよいのだ」  
「てめぇ、劣情たぁ言ってくれるじゃねーか!!このスケベ親父が!」  
 
うしおはすぐ脇にあった変な形の壷を投げつける。  
紫暮はさっとそれを受け止め、投げ返した。  
 
「夫婦が親交を深めて何が悪い!」  
「息子にいちいち伝えて厄介払いする親なんて親じゃねー!!」  
「ええい、須磨子と二人きりの熱い夜を一晩貰いたいと頼んでいるだけではないか!  
 父がこうして頭を下げて頼んでいるというのに、それがどーして分からんか!」  
「熱い夜、じゃねえー!!いちいちそこまで言わんでもいいわっ!」  
 
すでに互いの唾が顔にかかるくらいの距離である。  
白熱した二人の間を、炎が飛び交う。  
 
うしおとて長い間離れ離れだった両親を二人きりにしてやりたいと思わぬはずがない。  
むしろ一晩といわず、長いこと旅行にでもじっくり行ってくればいいと思っている。  
そもそも紫暮は以前からうしおを一人家に置き去りにしては  
全国を飛び回っていたのだから、それで困ることもないのだ。  
照道さんも来てくれるだろうし、それは全く構わない。  
だがしかし。  
しかし直接的な表現であまりにも露骨に、その上堂々としかも挑発的に、  
美しい母と二人きりの夜を過ごしたいのでお前はどこぞで一晩潰して来い、  
ということを言われると、うしおとしてはひどくカチンとくるのである。  
 
だいたい頭も下げてねえ!  
 
「この愚息がー!!」  
「じゃあかしい!だいたいオヤジ―」  
 
あわや殴りあい勃発というその瞬間、須磨子が顔を覗かせた。  
 
「あの…二人とも、家は壊さないでくださいね。」  
 
ほんやりと微笑をたたえてそれだけ言うと、  
料理の途中で来たのであろう、菜箸片手に前掛け姿で、  
須磨子はいそいそと台所へと戻っていった。  
 
ちりーん。  
 
沈黙の上から、涼やかな鈴の音がしみる。  
二人は仕方無しにごほごほと咳払いをし、顔を背けたままで一時休戦した。  
 
「あー…とりあえず、そこに座れ。話せば分かる」  
「…おうよ」  
 
父と子は再び正座し、真剣に向かい合った。  
 
冒頭に続く。  
 
 
 
 
 
(翌朝) 
「ただいまー!あれ、かあちゃん、オヤジは?」  
「うふふ…実は、ぎっくり腰なんですって」  
「そ、そうかあ〜あははオヤジも間抜けだなあ!(イイトシシテムリスルナヨバカオヤジ…・゚・(ノД`)・゚・ )」  
 
 

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