白面の者の脅威も去りもう3年あまり経とうとしていた。  
これはそんな夏のある日の出来事である。  
 
 白面の者が滅びたことによって、それを封印しその力を抑えるという「お役目」としての  
使命を免れた真由子の運命は、もはや彼女の成長を縛り付けることはなく  
その刻の歯車は他の者たちと同じように回り出していた。  
 真由子にとって、うしおや麻子たちとともに成長し老いてゆけるということは  
他に比類することのできない、人としての幸せであろうから……。  
 
 炎天下の日差しの中、うしおとキリオの2人が公園の雑木林の間の道を黙りこくって歩いている。  
 キリオが話したいことがあるらしく、暇そうにしていたうしおを散歩に連れ出したのだが  
時々にうしおがキリオに言葉をかける以外に2人の間に会話はなかった。  
 不意に立ち止まったキリオが、決心したように言葉を搾り出す。  
「お、お兄ちゃんは……麻子お姉ちゃんと真由子お姉ちゃん、どっちが好きなの?」  
 聞かれた当人は一瞬呆けた表情を見せた後で慌てたように取り繕う。  
 内容は、ただの幼馴染だとか、やれ腐れ縁だとか……どちらかというと  
麻子のことを悪く言って真由子のことは良く言っているとも取れる言い方がキリオの  
不安感をより一層煽り立てた。  
 
「僕は真由子お姉ちゃんのことが好きなんだよっ!!」  
 我慢が極限に達したらしいキリオが思わず本音を口にした。  
 その眼差しにははっきりと、自分と同じ想いならばうしおとだって勝負して  
好きな女を物にしてみせるという1人の男の強い意思と自信が表れている。  
 
 答えを緊張で張り詰めた面持ちで待つキリオの帽子にうしおがポンと手を添え、そして……。  
「真由子は俺の大切な幼馴染なんだ、泣かせたらただじゃおかねえからなっ!」  
 うしおはそう言うとキリオに背を向け、かっかと早足で歩き出した。  
 2人の距離が幾らか離れたところで後ろからキリオの歓喜の声が聞こえてきた。  
予想だにしなかった答えに呆けていたが、その意味を理解して感極まったようである。  
 
 うしおはキリオが真由子に告白し、それを真由子が困ったような顔を見せた後で快諾すると  
また一瞬呆けた後で歓喜に跳ねまわるキリオを想像してプッと吹き出した。  
 そして空を見上げると、果てしなく透き通った晴天の空に燦々と輝く  
真由子の笑顔のように眩しい太陽に、自身もまた満天の笑顔を返した。  
 

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