「うしおーっ! 早くしないと、また遅刻だよ!」  
「分かってる!! ……ふあぁ……ったく、なんでああ元気なんだ、麻子のやつ」  
俺──蒼月潮は込み上げてくる欠伸を噛み殺しながら、まだ半分眠ったままの目をこすった。  
季節は5月。何とか入ることができた公立高校での生活にも慣れてきて……慣れすぎて、遅刻を3度ばかり繰り返したら、案の定、麻子が  
顔を出すようになった。  
 
中村麻子。  
小さい頃からの幼なじみ。俺のオヤジが家を空けることが多かったせいで、麻子の家に世話になったことがきっかけだ。こいつときたら女の  
くせにやたら乱暴で、俺でも手こずる。しかも高校で空手部に入部して、ますます腕を上げてきている。  
「まったく、しゃきっとしなさいよね」  
「うるせえなぁ……こっちは寝不足なんだよ」  
「美術部の課題? あんたねえ、あのピカソも真っ青な絵はどうにかしたら?」  
「あれがげーじゅつっての!」  
まったく。  
肩をすくめようとした俺のすぐ隣を、麻子の体が通り過ぎる。ふわり、と風に揺れた髪から甘い香りが微かに漂った気がした。  
……あいつ……シャンプー変えたのかな……?  
そう思った途端、俺は頬が熱くなった。何考えてんだ、俺は!   
「? どうしたの、潮?」  
足を止めた俺に気づいて、麻子が振り返る。  
俺は慌ててそっぽを向いた。今の俺の顔──見られてないよな?  
「な、なんでもねーよ! それより、空手部の朝練はいいのか?」  
「今日は朝練休み。放課後にはあるけどね」  
明るく笑う麻子は前よりずっと……その、奇麗になった、と思う。相変わらず口は悪いし、口より手が先に出やすいし(しかも俺にだけ!)  
……けど、前とは違う。ちょっとした仕草や雰囲気に、俺の知ってる麻子にはない何かがあるような。  
「ほら、行くよ!」  
「へーいへい……」  
けど、元気よく歩いていく今の麻子は、俺が知っている麻子のままで。  
(……ま、あいつはあいつだよな)  
俺は鞄を持ち直すと、あいつの後を追った。  
春の風は、心地良かった。  
 

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