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「ね、みんなに会いに行こ!今夜は、とらちゃんのパーティやろうよ!きっとみんなも喜ぶよ。  
あ、私ね、作家になったんだぁ。好きな時に休みが取れるから、明日は一緒にお買い物行こうね!  
それから、お昼は、とらちゃんの大好きなマドロス・バーガーで…それからね…」  
真由子は眩しい程の笑みで、はしゃぎながら今は人の形態を取っている大男の手を引く。  
こう言う処は、8年前と何も変わっていなかった。  
「あ…あぁ、そうだな」  
とらの方はと言うと、以前と同様、強引な真由子に振り回されている。だが、その様子は何時もと違った。  
「どうしたの?みんなに会うの嫌?あ、もしかして照れてるのぉ?」  
感受性の豊かな真由子は、すぐにそれを察知し、訊ねる。  
「い、いや…土から立ち返ってから、三日、何も喰ってねえんだ…。もう、人を喰う気も起きねえしよ」  
 
「あっ!真由子〜!!」  
既にメールで事情を聞いた麻子と潮は、芙玄院の前で待っていた。麻子が2人のもとに駆けて来る。  
潮はと言えば、どう対応して良いのか分からないのだろう。その場から動かず、立ち尽くした侭だった。  
ハンバーガーを貪っている男が言う。  
「何湿気た面してんだ?チビ槍人間。少しはデカくなったみてーだな」  
「何ぃ?これでも20pも伸びたんだぞ、糞妖怪!」  
「わしから見りゃ、全然変わっとらんな、うすらバカちび」  
「そりゃお前がデカ過ぎるんだろが!畜生…お帰り…あほんだら」  
麻子も真由子も涙で見えなかったが、その時確かに潮の目には涙が光っていた。  
 
 
to :間崎礼子  
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sub :パーティやるよ!p(^o^)  
本文:おっひさ〜。みんな元気してた?麻子だよ☆今からみんなで飲もうよ!  
   凄く嬉しい知らせがあるんだb(^。^)。明日は月曜日?そんなの有休!有休!  
   雲外鏡のおんじに頼んで、こっちに送って貰うから、準備出来たら鏡の前で  
   待っててね。てな訳で、小夜ちゃん達は、お化けのみんなに連絡回しといて。  
   それと、純さんは絶対お兄さん引っ張ってでも連れて来ること(笑)!  
   礼子達も旦那連れて来なよ。  
   じゃ、また後で、潮んちで会おうね〜♪  
 
「メール送っといたよ。おじさん、おばさん、良いよね?」  
「ええ、きっとみんな喜びますよ。困るのは、本堂で騒がれる仏様位かしら」  
「なに…構わんだろ。今夜位は仏様も許して下さるさ。酒なんざ、久し振りだな」  
既に住職の座を潮に譲り、今は潮に法力の指導をしている蒼月紫暮とその妻・須磨子。  
二人は、近所でも有名な鴛鴦夫婦になっていた。  
須磨子は当然の事ながら、紫暮も8年前から全く変わっていない。それ処か、14年振りに逢えた妻との生活で、若返っている様にすら見えた。一方、二人に仏道修行をさせられている潮はと言えば、流石は二人の息子と言った処か、めきめきと頭角を現し、杜綱達元伝承候補者ですら敵わぬ程の法力を身に付けていた。  
それでも本人は画家になると言って聞かなかったが。  
その点では麻子も同じだった。米次は彼女にしきりに店を継ぐ事を薦めたが、彼女は快諾しなかった。  
そして、その侭ズルズルとOLを続けている。勿論、将来潮と暮す時の事を考えての事だが。  
 
「うん…うん。そうなの。とらちゃんが帰って来たの!今、潮君ちだから、すぐに来て。じゃね〜」  
カチャ…  
「…………」  
井上家リビング。引狭霧雄は受話器を置いた。とらが帰って来た。その事実は、彼にとっては素直に喜べなかった。  
この8年間、自分は何時壊れてしまってもおかしくない真由子の事を必死で支えて来たつもりだ。  
とらを失った彼女が、ここ迄立ち直れたのは、自分の努力に依る物だと言う自負も在る。  
それが、彼が帰って来たのでは、自分の存在理由が無くなってしまうのでは無かろうか…そんな事を考えると、胸を掻き毟りたくなる様な衝動に襲われる。霧雄は高校に通いながらも、光覇明宗の仏道修行を続けていたが、以前は紫暮、秋葉流に次いで強大だった法力も、今は自分よりも遅れて修行を開始した蒼月潮に追い抜かれてしまっている。  
もう一度、自分の存在意義を己に問い掛け、押入れの中から、埃を被ったエレザールの鎌を取り出し、リュックに詰めた。  
今夜、全てに決着を着けんが為に…。  
 
「潮〜元気にしてたか〜!!」  
最後の客、イズナが鏡から飛び出す。その夜、芙玄院本堂で行われた宴は、周囲から見れば、宛ら各地の伝承に在る、百鬼夜行の様に見えたであろう。何しろ、集まった面々の半数以上は、妖だったのだから。  
鷹取小夜、八十神史帆、設楽水乃緒。これ等三人の妖に深く関わる運命を持った女性は、白面との大戦後、  
重要になった人間と妖との間の橋渡し役としての仕事をしていた。それで、今日は潮ととらに親しい妖を召集する事が出来たのだ。  
「へぇ、とら君か…ちゃんとお話するのは、初めてだよね」  
黄金の獣の前ではしゃぐ二人の女性。香上裕美と片山歩。彼女達は、それぞれ既に旦那を持ち、赤ん坊を抱いていた。  
潮ととらは、知らず知らずの内にこの二組のカップルの愛のキューピッドの役を果たしていたのだ。尤も、そんな事を彼等に言っても、  
「へっ!気色悪い!わしゃそんな積もりは毛頭無かったぜ」  
と言われてしまうだろうが。  
 
 人や妖の区別無く、この8年間の事を語り合い、つまらなさそうに話を聞くとらに絡み、とらの隣の席を巡って、真由子、かがり、鳥妖、詩織の四人が揉める。その光景は、一夜限り、昔に戻ったかの様だった。皆で笑い合い、罵り合い、また語り合う。  
そこに在るのは、8年前の彼等の姿だった。誰もあの闘いでの死者の事は口に出さない。  
彼等にも、出来ればとら同様帰って来て欲しかったが、彼等は残らず満足して逝ったのだ。それを今更口に出すのは、彼等に失礼な事の様に思われた。  
 
 宴も終り、誰もが酔い潰れて本堂に雑魚寝している状況だった、そんな中、動く影が一つ。  
「とら…起きてるよね?話が在るから、下の公園で待ってるよ…」  
影はそう伝えて出て行く。月明かりが、彼を照らし出す。男の名は、引狭霧雄。その顔には、強い決意と覚悟が秘められていた。  
そして、彼が出て行き、続いてとらが出て行くのを見てから動き出す影が二つ。二人の間に言葉は無かったが、彼女達には、互いに言わんとしている事が解った。そして、それ等を見守る二人。  
「モテる男は辛いってか。私達にはそんな事は無かったよな」  
「うふふ…貴方も充分『イイ男』ですよ」  
「ばっ馬鹿!何処でそんな言葉覚えたんだ?」  
「でも、止めなくて良かったんですか?」  
「ま、心配要らんだろ。そう思ったから、お前も止めなかったんだろ?」  
「そうですね…救急箱の用意位はしておいた方が良さそうですけど」  
 
「で、おめーは何の用でわしをこんな処に呼び出したんだ、霧雄?」  
既に四肢も伸び切り、すっかり大人の様相を見せる霧雄にとらが声を掛ける。  
「とら…は、真由子お姉ちゃんの事、どう思ってるの?とらが居なくなってから、お姉ちゃんは毎日泣いてたんだよ!  
僕は…僕はそんなお姉ちゃんをずっと元気付けて来たんだ。それなのに…いきなり帰って来て、  
お姉ちゃんを僕から奪おうとするんだったら許さない!!!!」  
霧雄は手にエレザールの鎌を携え、叫ぶ。  
「何言ってんだお前?ま、おめーの言う事ァ正しいぜ。人の世でのこう言う時のルールは一つ。  
強い方が正しい…かかって来な!」  
とらが人であった頃の姿に戻り、人差し指で手招きする。  
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」  
霧雄はエレザールの鎌を放り、素手でシャガクシャに殴り掛った。  
 
「え!?霧雄君が私を?」  
芙玄院、潮の自宅の裏庭。井上真由子は、鎌鼬のかがりに告げられた事実を飲み込めないでいた。  
「そうよ。今日見ていて、ハッキリと確信したわ。あの子は貴女を慕っている。それも、尋常では無い位にね」  
霧雄に慕われている事は、勿論真由子にも解っていた。唯、それは単に姉に向けられる様な感情だと思っていたのだ。  
「私は妖。とら様も妖。貴女は人間。あの子も人間。私の言いたい事、解る?」  
「私が…とらちゃんを好きになると、みんなが不幸になるって事?でも、私はとらちゃんも霧雄君も大好きなんだよ!?  
好きになるのに、お化けとか人間とかって、関係無いじゃ無い!!そんなの…おかしいよ…」  
かがりは既に涙声になっている真由子に、冷たく言い放つ。  
「そうかも知れない。でもね、人を傷付けるのに、『知らなかったから仕方が無い』と言うのは、理由にならないわ。だから…」  
その時、かがりと真由子は、すぐ側の公園に異変を感じた。  
「話は後ね。行ってみましょう」  
 
 話は少し前の時に戻る。今、霧雄が立ち向かっているのは、嘗ては一国を護った伝説の勇者なのだ。  
そんな男に半人前の法力僧である霧雄が、体術で敵う筈も無かった。何度殴り掛っても、拳をいなされ、  
与える筈だったダメージの何倍もの攻撃が返って来る。既に霧雄の顔は誰だか判別出来ぬ程に腫れ上がり、  
全身痣だらけで、息も上がっている。内臓も痛めているのだろう。口からは血が流れ続けている。  
倒れ込んだ霧雄の腹に、シャガクシャの脚が飛ぶ。  
「オラ!立てよ!!まさか、これしきでくたばんじゃねーだろな?だがな、今更言うのも何だが、  
わし等がこんな事してても、最後に決めるのはあいつだぜ。だがまぁ、おめーの気が済む迄付き合ってやらぁ」  
霧雄の顔を掴み、その体を持ち上げた――  
カッ!! 
「まだだ!僕が何故ここに居るのか、それが解る迄、僕は負けない!!」  
「へっ!漸く根性見せやがったな…そう来ねえとな!!」  
シャガクシャの姿が、一瞬にしてとらの姿に戻り、霧雄もエレザールの鎌を握る。  
霧雄の目から法力が射出され、シャガクシャの右手の指を残らず奪う。  
「雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄!!!!」  
「光覇明宗単独滅殺封印!弧月!!」  
とらの稲妻と霧雄の法力がぶつかり、大爆発を起こした。尤も、公園の周囲には霧雄が結界を施しているので、周囲に音は漏れない。その爆発の後に立っていたのは…とらだった。  
 
 とらは、法力を消耗し過ぎて、立っていられなくなった霧雄の隣に座り込む。  
「人間にしちゃ、なかなかだったな。ここ迄やる奴ァ、ナガレ以来かもな。…お、どうやら、わし等の『答』が来た様だぜ」  
飛び散った指を手にくっ付けながら、顎で公園の入り口を指差す。  
パキィィン…  
霧雄の施した結界も、四代お役目の真由子の前では紙に等しい。駆け寄って来た二人は、彼等を見て驚いた。  
「キャッ!とらちゃんも霧雄君も血だらけじゃない〜!!もう!喧嘩しちゃダメでしょ〜!!」  
さっき迄かがりに責められていた自分の状況よりも、目の前の傷付いた二人を心配する。井上真由子はそんな女性だった。  
霧雄も、彼女のそんな人柄に惹かれたのだろう…そしてとらも。  
「あぁ、こりゃ殆ど奴の返り血だ。わしゃ右手吹っ飛ばされただけさ。で、この坊主がおめーに訊きてえ事在るらしいぜ」  
「何?霧雄君?そんな事より、病院行こうよ!」  
「いや、良いんだよ。僕が望んで、こうしたんだ。それでねお姉ちゃん…」  
 
「僕ととら、どっちが好き?」  
 
 真由子の隣に立つかがりから、刺す様な視線が向けられる。だが、真由子はそれに臆せず答えた。  
「あのね、霧雄君。私は二人共大好き。二人共とっても大事なの。二人が居なかったら今、  
私はこんなに幸せじゃなかったよ。でもね、大好きなんだけど…何て言うか、好意の向け方が違うの。  
お願い。解ってね。だから、どっちの方が好きとか、そんなの決められないよ」  
「これで、おめーの心に吹く風は止んだかよ?そう言う事らしいぜ。さて、ビョーインとやら迄連れてってやるぜ」  
「うん。御免、とら。有難う、お姉ちゃん…僕、勘違いしてたみたい」  
霧雄を抱えたとらの背中に、かがりの悲痛な声が突き刺さる。  
「あ、あの…とら様!とら様は私とその女のどちらをお選びになるのですか!?」  
とらは振り向く事も無く、背中を向けた侭答えた。  
「悪いな。わしゃ、コイツみてえに気の利いた言葉なんざ掛けられねえんだ。唯、言える事は、  
わしはもう、コイツと契りを結ぶ旨を誓っちまったって事だ。わしに惚れたのが運の付きだと思ってくれ。  
ま、何時でも遊びに来な。お前は、嘗ては只の1人も居なかった妖の…えーと、その、何だ、  
『友人』とか言う奴の1人だからな」  
 
 
 翌朝。芙玄院本堂に置かれた鏡の前。  
「では潮とその同胞よ、達者でな。また一緒に酒を飲もうぞ」  
「あぁ、長も元気で」  
「だ〜か〜ら〜、妖は何時でも元気なんだい!」  
イズナがおどけて答える。彼等は知らない。昨夜、男の闘いと女の闘いが繰り広げられていた事を。  
その事を知るのは、当人達と、光覇明宗三大酒豪に数えられる紫暮とその妻で、体質故に  
アルコールが全く効かない須磨子のみで在った。  
 
「あれ?とら、何処行くんだ?俺に取り憑くんじゃねえのか?」  
「半人前のお前も、そろそろわしに頼らねえ生活をしねえとな。で、今度はコイツに憑く事にしたのさ」  
その一言で、潮は全てを察した。  
「煩え!糞とら!さっさと出て行きやがれ!!…今度、遊びに行くぜ」  
「おめーみてえな奴にゃ来て欲しくねーな。あばよ!」  
 
 
 数年後。世界の何処か…。  
「ありゃ何て妖だ!?とらぁ!」  
「ゴルゴン…擬視した物を石に変えちまう西洋の妖よ。石になっても助けねーからな」  
「二人共!来るわよ!!気を付けて!」  
「気ィ抜くなよ、とらぁー!」  
「煩えっ!!おめえにだきゃ言われたかねーな、潮ォ!」  
 

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