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 堅い背中に何とも言えない柔らかい感触が伝わる。潮の脇の下から伸びるか弱い腕を見れば、振り向かずとも今の状況を推察出来た。 
潮の背中と小夜の胸を介して、互いの心臓が激しく脈動す様が伝わる。 
「ちょ…小夜さん、どうしたんだよ?」 
「肌の感触って、気持良いね。暫くこの侭で居させて」 
全身が強張り、動けなくなってしまう潮。小夜の乳房と密着した背中に、徐々に硬くなって行く乳首を感じ、彼の陽根も力を得た。 
「はぁ…はぁぁ…ん…ふぅ」 
抱き付いている小夜の息が荒れ始める。これ以上は理性を保てないと感じた彼女は、思い切って潮に切り出した。 
「潮君。お願いがあるの…一度で良いから…私を抱いて」 
潮は一瞬、小夜が何を言っているのか解らなかった。だが、それを理解した時、彼は興奮よりも先に、 
普段なら恥ずかしがって言えないで在ろう我侭を言ってしまう程に理性を失う迄に、自分を愛してくれている小夜の事が愛しくて堪らなくなった。 
既に、潮にとっての『女』の存在は小夜以外に無くなっていた。 
 
 無言で振り返ると、そこに居るのは、月明かりの下ですら判る程に全身を紅潮させた愛しの女性。 
今度は正面から互いを抱き締め合い、互いに唇を近付け、重ね合った。 
気を付けて抱き締めていないと、壊れてしまいそうな程に華奢な小夜の体。その体から発せられる意外な程の高熱が湯冷めした体に心地良い。 
そして、ゆっくりと小夜の口内で舌を絡め合う。実際には味のしない唾液が、この上無く美味に思える。 
(潮君…有難う) 
唇を離すと、小夜は柔らかな草の上に寝転がった。 
 
 (小夜さん、綺麗だな) 
全てを曝け出した小夜を見て、潮は感動すら覚えた。生物である以上、必ず不完全で、何処かに醜さが存在する筈なのに、彼女の体にはそんな部分は皆無であり、ある種の芸術品を思わせた。 
潮の震える掌が、小夜の乳房に触れ、恐る恐る揉みしだく。 
「そんな腫れ物みたいに扱わなくても大丈夫…はあ…ん…良い。もっとして」 
小夜は潮の手を取り、胸に押し当てた。一月前、眠っていた潮に悪戯した時の記憶が蘇る。 
だが、意思を持って動く潮の手からもたらされる快楽は、その時とは比べ物にならなかった。 
潮は、既に大量の血液が流れ込み、その色を透かしている為に色付いた乳首を見ると、本能からその小さな突起に吸い付いた。 
「俺、良く判らないんだけど、こんな感じで良いのかな?」 
小夜は、その問い掛けには答えず、只々嬌声を上げ、潮の髪を掻き毟った。  
 
 「見て…ここ。女の人って、好きな人に気持良くして貰うと、こんな風になるんだって」 
この一箇月で身に付けた知識を総動員して、潮を先導する。自らの指で開かれた陰裂には、卑猥さは一切無く、開花したばかりの可憐な花の様だった。内側に見える控え目な花弁は愛液でしとどに濡れ、血液の色をその侭透かしている。 
その上端には、興奮して膨らんでも尚小さな陰核が莢から微かに芽を出し、時折刺激を欲するかの様にひくひくと蠢いている。 
「あの…こんな処見るの嫌だった?」 
潮がその部分から目を離す事も出来ず、何も言えない状態で固まっている事に不安を感じて声を掛ける。 
「い、いや、全然そんな事無いって。唯、小夜さん、あんまり綺麗だから、見蕩れちまって…」 
小夜は、潮がお世辞を言わない男だと言う事は、この同棲生活で良く知っていたので、その言葉を聞いて安心した。 
「その…ここも好きな人に触って貰うと、とっても気持良いらしいの……してくれると、嬉しいな」 
こんな時ですら控え目に頼み事をする小夜。潮には、そんな彼女がこの上無く可愛く思え、彼女が望むのなら、徹底的に尽くしてやりたい気持になった。 
 
 「ええと……何処を触れば良いのかな?ここ、ちょっと複雑で、良く判らないから…」 
顔を真っ赤にして苦笑混じりに問い掛ける潮。 
そんな恥ずかしい質問に答える事すら、欲求が羞恥を上回っている今の小夜には問題無かった。 
「最初はね…この両側の膨らみを優しく揉んで欲しいの……あぁっ!そう…よ。あふっ…」 
小夜が言い終わらぬ内に、潮は小夜の股間を指で優しく摘み、摩った。 
陰裂から更なる快楽の証が溢れ出し、それを見た潮は、教えられてもいないのに、その内側の花弁を摘み、引っ張る。 
「そう…あぁ…んん。そこも気持良い…ひっ」 
小夜の白魚の様な体が、潮の手の動きに合わせてびくびくと脈動し、潮に『男』としての自信を与えた。 
今、潮は大好きな小夜に悦びを与えてやれている事が何よりも嬉しかった。 
 
 熱心に悦楽の源を送り込んでいた潮は、小夜の性器の変化に気が付いた。 
「あれ?小夜さんのここ、さっきより…」 
そう言って、先刻より更に大きさを増し、今や包皮を脱ぎ捨てている、彼女の陰核に無遠慮に触れる。 
「ああぁぁぁぁー!!!!」 
突如、今迄の小夜では考えられぬ程の悲鳴とも嬌声とも取れぬ声が発せられ、潮は驚いて手を離した。 
温泉に浸かり、不干渉を貫いていた山の動物達ですら、その声に驚き、警戒の姿勢を見せる。 
「さ、小夜さん、どうしたの!?」 
驚いた潮は、自分が何かしてはいけない事をしてしまったのではないかと心配になり、グッタリしている小夜に声を掛けた。 
「だ、大丈夫。でも、そこはとっても…敏感だから…皮を被せて、そっと触って…」 
朦朧としかけている意識を必死に保ち、何とか答える小夜。完全に膨らみ切っても尚、 
やや大き目の米粒程度の大きさしか持たぬ小夜の陰核には、それを保護する包皮無しでの刺激は大き過ぎたのだ。 
言われた通りに、上に押し上げられている包皮を被せ、包皮の上から触れるか触れないか程の力で、その部分を撫で摩る。 
「あぁっ!ひぁっ!イイッ!!んん!」 
既に絶頂の手前迄押し上げられていた小夜は、少しでも長く潮の愛撫を受けていたかったが、その刺激に殆ど耐える術無く果てた。  
 
 一度絶頂を迎えた小夜は、すぐに次の快楽が欲しくなり、潮の頬に手を触れ、優しくキスをした。 
流石に二度目のキスは、先刻のそれよりもぎこちなさは消え、小夜に充分な快楽を与える。 
「愛してるわ…だから、私を抱いて。一度で良いから、貴方に抱かれたいの」 
普段の潮ならば、先程からの小夜の言葉の不自然さに気が付くのだが、彼もまた、正常な思考が出来ぬ程に興奮していた。 
「小夜さん、本当に良いのかい?」 
「ここ迄来て、そんな事訊かないで」 
小夜は傍に置いてあったポーチから、かがりの買って来たコンドームを取り出す。 
「赤ちゃん出来たら困るでしょ、ってかがりさんが…」 
(か、かがりだとぉ…?) 
その言葉を聞いて、潮は初めてかがりにしてやられた事に気が付く。 
だが、不思議と悔しくはない。それ処か、傍らの愛しい人に気付かせてくれた事に感謝すらした。 
「早く来て…」 
 
 潮の陽根が、小夜の陰裂の宛がわれる。しかし、暗闇の中、初めてな事も在って、なかなか旨くは入ってくれない。 
「あれ?え?ここじゃ無いかな?」 
しどろもどろする潮にもどかしくなった小夜は、潮のペニスを握る。滾った血液に依って膨らんだその部分はとても熱く、潮の興奮を小夜に伝え、その事で、小夜を更なる興奮に導いた。 
そして、遂に二人の距離がマイナスになったその瞬間、小夜は今迄の発情が全て消し飛んでしまう程の耐え難い激痛を感じた。 
「ぐぅ…うっ…」 
苦悶の呻きと表情を見せる小夜。優しい彼女は、潮に心配を掛けまいと堪えているにも関わらず、明らかに苦しそうな表情を見せる。 
その痛みは途轍も無い物だと言う事は、潮にもすぐに判る程だった。 
「小夜さん、大丈夫?」 
苦しんでいる自分を心配し、潮が自身を引き抜こうとするのを感じ、小夜は彼を抱き締めた。 
「駄目…抜かないで。大丈夫だから…暫く、この侭で…」 
だが、その時間も長くは続かなかった。 
潮の陽根は既に小夜の最深部迄達しており、潮が動かずとも小夜の膣は、潮から子種を搾り取ろうと蠢き、彼に刺激を与え続ける。 
「駄目だ…俺、もう…」 
「良いわ。気持良くなって」 
小夜が潮に口付けするのと同時に、潮の怒張は今迄の彼の人生で最大の量の精液を吐き出した。 
 
 潮が小夜の体内から自身を抜き、彼女の横に寝転がった時、彼の体で塞がれていた小夜の視界に、空から思わぬ贈り物が届いた。 
天の川――一切の灯りの無い山奥では、それは天に純白の橋が架かっているかの様に見え、 
両側の牽牛星と織女星も再会を喜ぶかの様に輝いて見えた。その美しさは、小夜に破瓜の痛みすら忘れさせる程の物だった。 
「見て…星があんなに綺麗よ」 
言われて潮も空を見上げる。 
「そうか…今日は七夕だったな。こうして空を見上げたのって、久し振りな気がするぜ。 
湯冷めしちまったし、もう一度温泉に浸かろうか」  
 
 再び温泉に浸かった二人は、迷い家が用意した弁当箱に小夜が詰めた夕食を頬張る。 
「雰囲気出てるよなぁ。俺、こんなの似合わねえのに…」 
苦笑してみせる潮。そんな潮を見て、小夜は微笑み、 
「潮君、七夕の謂れ知ってる?」 
と訊ね、七夕の伝説を語り始めた。 
「機織の仕事をしていた織姫は、年頃になっても仕事一筋で、純潔を護り続けたの。 
それで、心配になったお父さんが、牛飼いの青年を結婚相手に薦めたんだけど、 
そしたら織姫は、その青年との愛に溺れてしまったの――大事な機織の仕事を止めてしまう程にね。 
それで、怒ったお父さんが、二人を『仕事を熱心に続けるなら、一年に一度青年に会わせてあげる』 
って約束で、二人を引き離したんだって」 
「ん〜良く解んねえや」 
七夕を単なる遠距離恋愛のカップルの話位にしか考えていなかった潮には何が何やらさっぱりである。 
「御免ね。難しかったかな?でもね、私は織姫みたいに、一生懸命生きるから…時々、本当に時々で良いから、潮君に会いたいなって思うの。私達、もうすぐ学校から貰ったお休みも終わっちゃうから…会えないでしょ?」 
小夜の大きな瞳から熱い物が溢れ、最後の方の言葉は殆ど涙声になってしまっていた。 
潮は何も言わず、彼女を抱き締める。そして、ゆっくりと彼女に言い聞かせた。 
「そんな悲しまなくたって…すぐに夏休みが来るじゃねえか。それに、おんじか時逆・時順に頼みゃ、毎週だって会えるぜ」 
だが、潮の言葉を聞いても尚、小夜の涙は止まらない。彼女の悲しみは、潮の考えている物より遥かに大きかった。 
 
「どうしたんだよ?俺、小夜さんの事大好きだぜ。それに…あんな事しちまったから、俺小夜さんと…」 
「駄目!」 
小夜は、彼女にしては意外な程大きな声で、潮の言葉を遮る。 
「私は、一度潮君に抱いて貰えたら満足なの。そんな非道い女なのよ。『蒼月君』には麻子さんが居るじゃない。だから…」 
「いや、でも俺は小夜さんの事が…俺の気持は無視なのかい?」 
「そうよ。非道い女だって言ったでしょう?だから、今夜の事は忘れて、今迄の関係に戻りましょう。もう東京に帰って!」 
そこ迄一気に言い終わると、小夜は嗚咽を漏らし始めた。 
 
 翌朝、微かな朝日の差し込む迷い家の玄関。今日で静養期間も終り、潮は出立の迎えに来る雷信を待っている。 
小夜の見送りは無い。彼女は独り部屋に引き篭もり、考え事をしている様だった。 
小夜は、迷い家の一室で、決して届く事の無い手紙を綴っていた。 
〔御免ね、潮君。私はお日様みたいな貴方が大好きだった。そして、お月様の役割を担っていたとらさんが居なくなった時、私が代わりにお月様になりたかった――お日様が沈んだ時、代わりに照らしてあげるお月様に…。でも、私は貴方を傷付けただけ。 
結局私はお月様にはなれなかったわ。でもね、私の人生はこれで満足。私は貴方に愛されてはいけない女。 
それなのに、一時でも愛してくれて有難う。そして、さようなら〕 
そこ迄綴り、筆を置いて窓の外を見ると、丁度潮が雷信の背中に乗ろうとしている処だった。 
「また、私に出会ってね…」 
小夜は、潮には届かぬ程の声で、そう小さく呟いた。  
 
 
 森の中を駆け抜ける雷信。その背中に乗り、何時転落してもおかしくない程に落胆し、脱力している潮に声を掛ける。 
「潮殿、少しお時間を戴けますか?かがりが話したい事が在るそうで…」 
潮はその声に無表情に答える。 
「悪い。今は誰とも話したくない気分なんだ」 
「お時間は取らせません。それに、その話を聞けば、潮殿の憂さも晴れるやも知れません」 
 
 迷い家の隣山に在る、鎌鼬の棲む家。かがりは、二人の到着を玄関で待っていた。 
潮は雷信の背中から降りると、奥の客間へと案内される。その顔は、先月遠野に来た時と同じか、それ以上に陰鬱だ。 
「潮様。お久し振りでございます。昨夜の出来事、一部始終山の動物達から知らせが届いており、 
それについてお話ししたい事がございます故、こうしてお越し戴きました」 
そして、かがりは先月、小夜に初めて会った時の事を話し始めた。 
「……と言う次第で、私はあの娘の手助けをしようと思ったのです――潮様には内密に事を運んだ事、誠に申し訳在りませぬ。 
処があの娘は……」 
かがりは、小夜が潮を拒んだ理由を話し始めた。 
白い髪の一族は、並外れた霊力を行使出来るが、それには対価として、己の魂を削る必要が在る。 
その為、その寿命は普通の人間の4分の1かそれ以下で在り、小夜の母・明代が早逝したのもそれ故だった。 
小夜は、15年間もその力を酷使し続けた為、その寿命の殆どを使い果たし、残された寿命は長くて10年。 
それを知っていたが為に小夜は潮の求愛を拒んだのだ。 
その話を聞いて、潮の顔が明るくなる。そして、その事に驚いく鎌鼬兄弟。 
「何だ。そんな事か…てっきり嫌われちまったと思ったじゃねえか。雷信、悪いけど、もう一回迷い家迄連れてってくれねえか。 
この侭じゃ納得出来ねえ!」 
 
 再び迷い家の玄関。だが、小夜の気持を酌んだ迷い家は潮を拒むかの様に堅く門を閉ざしている。 
「チッ!邪魔するんじゃねえ!ここを開けやがれ!」 
潮が叫んでも、迷い家は全く動じず、門を開こうとしない。潮は塀をよじ登り、庭に入り込むが、そこに飼われている馬や牛達が潮の行く手を阻もうとする。 
「馬鹿野郎!妖ってのは、何で陰気な考えしか出来ねえんだよぉ!雷信、強行突破だ!」 
潮は雷信の背に乗り、迷い家の中に飛び込んで行った。  
 
ドカァッ! 
堅く閉ざされた小夜の部屋の襖が蹴破られ、血塗れの潮が転がり込んで来る。 
「ハァッ…ハッ…やっと辿り着けたぜ」 
恐らく、ここに来る迄に迷い家の執拗な抵抗に在ったのだろう。既に妖と闘う術を持たぬ潮は、全身傷だらけだった。 
「うし…蒼月君!大丈夫!?何で戻って来たの!?」 
小夜は、すぐに涙を拭っていたハンカチで潮から流れ出している血を拭き清める。 
「何でって…かがりに小夜さんの話を聞いたからさ。実に下らねえ話を…さ」 
「下らないって……まさか!?」 
小夜は、自分が必死で隠し通して来た秘密を知られた事を悲しみ、同時に口外したかがりを恨んだ。 
「そんな顔すんじゃねえ。親父が言ってたぜ。『人の価値は寿命では決まらない。死ぬ迄に何をなしたか、如何に懸命に生きたかで決まる』ってな。 
俺には難しい事は解んねえが、仏さんの教えなんだと」 
それを聞いて、小夜の貌から恨みや悲しみの感情が消える。 
「じゃあ…じゃあ…」 
「俺は、小夜さんが一生懸命生きていく手伝いがしたい」 
潮はそう言って、初夏の陽射しの様に眩しい笑顔を小夜に向けた。 
「私の10年、預かって下さい」 
 
***** 
 
 10年後。みかど市の病院のベッド。心配する友人達が見守る中、消えかける意識を必死で保とうとする小夜が、力無く潮に話し掛けた。 
「貴方…有難う。私、生きてて…良かった。貴方に…出会えて良かった。貴方に愛されて良かった。 
もう…充分過ぎる程に…幸せを貰ったから、私は…満足よ。だから…悲しまないで…ね」 
そこ迄言って、力尽きる小夜。 
「18時56分…御臨終です」 
担当医の悔しそうな声。、同時に室内に響く沢山の嗚咽。 
潮は独り、涙も流さずに、自分と小夜の思い出を振り返り、本当に充分な事をしてやれたかを内省していた。 
その時―― 
シャン! 
陽が沈み、月が昇る時刻の薄暗い室内に、潮の体から眩い光が溢れた。 
「この時を待っていました――この娘の体から、完全に魂が消えてしまう時を」 
「しょ、初代様!?」 
須磨子が驚きの声を上げる。 
それは、10年前。潮の魂が全て削られ、獣になりかけた際、彼を救う為に彼の体に入り込んだ決眉(ジエメイ)の魂だった。 
「今、この者の体から全て魂が消えた為、私はこの体に入れる様になりました。 
潮(チャオ)、貴方の体には兄さんの魂が住んでいる。私がこの体に移っても、死ぬ事は無いでしょう。 
それに、この娘の魂として生きるなら、何時も潮の体に入っている兄さんの魂と一緒に居られる。 
私は、この者を救う為、この体に入ります」 
そう言って、小夜の抜け殻に近付く決眉。 
「宜しくね、小夜(シャオイェ)」 
 
 「私…まだ生きられるのね。決眉さんから聞かされたわ」 
そう言って、起き上がる小夜。 
「何よ!泣いて損しちゃったじゃないの!!」 
「小夜ちゃん、良かったね。良かったね」 
そう言って抱き付いて来る親友達。潮はと言えば、彼女に涙を見せるのが照れ臭くて、背を向けている。 
ようやく意識がはっきりしてきた小夜に、紫暮が話し掛ける。 
「小夜さん、懸命に生き、幸せを掴んだ今迄の人生の価値は、とても大きいだろう。だが、幸せってのは、在って在り過ぎる事は無いんだよ。 
これからも愚息を宜しく頼みます」 
彼女を囲む、優しい人々。彼女を助け、沢山の愛をくれた愛しい夫。今、彼女は新たな幸せを手に入れた。 
L'amour est bleu.恋はみずいろ。その水色は、憂鬱の色ではなく、澄み渡った青空の色。  
 

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