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「遊びは終りだ!泣け!叫べ!そして死ねェッ!!」 
深夜。日付が変わろうとしている頃。倉本豪は自宅で今流行りの格闘ゲームに没頭していた。 
既に家の者は豪を除いて就寝している筈で、豪も区切りが付いたら寝ようと思っている処だった。 
そんな時―― 
ひたっ…ひたっ…ひたっ…ひたっ… 
開け放った自室のドアの向こうから、こちらへと足音近付いて来た。 
恐らく、目が覚めた母が姉が早く寝る様促しに来たのだろう。 
そう思った豪は、 
「あー、もうちょっとしたら寝るから。煩いならドア閉めといて」 
と画面を見詰めた侭、後ろを振り向きもせずに背後に立つ者に返事をした。 
だが、母か姉だと思っていた『それ』からの返事は無い。 
妙に思った豪が振り返る―― 
そこには、蒼白い顔に憤怒の表情を浮かべた『彼女』が彼を真っ直ぐ見下ろしていた。 
「いっ!?」 
絶対にそこに居る筈の無い存在に、豪は声も出ない。 
口をパクパクと動かすが、どんなに努めても声帯が震える事は無かった。 
彼女は鬼女の如き表情を作ったまま、ゲーム機のコントローラーを離して後退さる豪にゆっくりと近寄ると、 
彼の耳元で何かを囁き、彼の体が存在する空間に『同化』した。 
 
 豪は『彼女』が自分の視界から消えた事に安堵し、自分に幻覚を見たのだと言い聞かせた―― 
が、次の瞬間、彼は違和感を覚えた。 
呼吸が出来ない。苦しくて胸を掻きむしろうとするが、胸に手をやろうとした直後、胸の内側から物凄い激痛が全身に走った。 
酸素が不足した全身の筋肉から力が失われていく。 
豪には何が起こったのか解らない。助けを呼ぼうとするも、声は出ない。 
だが、彼は自分がこんな目に遭う訳を何と無くでは在るが理解していた。 
自分は『彼女』を怒らせてしまったのだ。多分、もう助からないだろう。 
そんな事を考え、朦朧とした意識の中、自分がした事を後悔し、 
自分の口から一筋の真っ赤な液体が流れるのを認識すると、彼の思考は停止した。 
放置されたゲームの画面には、 
[GAME OVER] 
の文字が点滅していた。  
 
 
 その日は朝から、太陽が昨日の曇り空の借りを取り戻さんとしているかの如き快晴だった。 
「あー!やっべえ!遅刻だ!!」 
涙目になりながら通学路を疾走する潮。 
麻子と真由子が起こしに来るのが当たり前になっていたのが災いして、目を覚ましたのは8時過ぎだった。 
とらが帰って来ていれば彼に頼んで(半ば脅して)学校迄背中に乗せて貰うのだが、 
どうやら昨夜から帰って来ていない様だった。 
朝食は抜きにして、ひたすら学校へと走る。 
只々脚を動かすと言う単純作業の中、思考を別の事に働かせた潮は違和感を覚えた。 
自分が今、こうして走っているのは学校に遅刻しそうだからだ。 
そして、遅刻しそうなのは、寝坊したからだ。 
寝坊したのは、麻子と真由子が起こしに来なかったから……。 
「ん?」 
昨日、真由子は、明日からは自分が一人で潮を起こしに行く、と言っていた筈だ。 
だがまぁ、頭の螺子が残らず抜けてしまっている彼女の事だから、きっと忘れているのだろうと考え、潮は走る事に専念した。 
 
「じゃ、出席取るぞー。蒼月ー!蒼月潮ー!」 
「はい!はい!はーい!!」 
大きな返事と共に潮が教室へ飛び込んで来る。 
「……早く席に着け。厚池ー!」 
担任の野崎は、潮にそれだけ言うと再び出席を取り始めた。 
何時もなら、ここで 
「遅刻に滑り込みもセーフも在るか!」 
と叱られる筈なのに、今日の野崎の反応は潮を拍子抜けさせた。 
「渡辺ー!」 
「はい」 
「中村以外は出席だな。良し、それでは朝のホームルームを始める」 
出席を取り終えると、野崎は淡々と話し始めた。  
 
「今朝は大事な話が二つ在る。聞いても騒がない様に。良いかー?先ず、中村が欠席しているが、 
昨日の帰り道、自動車事故に遭ったそうだ。相手側の過失だが、犯人は捕まっていない。 
皆も気を付ける様に。」 
中学二年生にこんな事を聞かされて騒ぐなと言っても無理な話で、教室は予想以上のざわめきに包まれる。 
「蒼月君、何か麻子について知らない?」 
隣の席の麻子のグループの女子生徒が、潮に声を掛ける。 
「え?あぁ、いや大した怪我じゃねーみてえだぜ」 
潮は誤魔化し笑いを取り繕うが、妙な胸騒ぎを覚えていた。 
何故お喋りな彼女等が麻子の事を知らないのか。普通なら、真由子から連絡を受けていても良い筈だ。 
つまり、真由子は昨日帰ってから、彼女等に電話していないと言う事になる。 
とその時、野崎が出席簿で教卓を叩き、話を続けた。 
「おーい!まだ話は終わってないぞー! 
で、先生は今日の放課後、見舞いに行く予定だ。他にも見舞いに行こうと思う者は、後で私の処に来る様に。 
それからな……」 
野崎が教壇の上に在るスピーカーを見上げた時、そのスピーカーから放送委員の声が流れて来た。 
「皆さん、お早う御座います。今日は校長先生からの朝の特別放送が在ります」 
暫しの静寂の後、マイクの前で入れ替わる物音がし、スピーカーから校長の声が流れた。 
「えー、皆さん、お早う御座います。今日は、朝から悲しいお知らせをしなければなりません。 
昨夜から今朝方に掛けて、2年3組の倉本豪君が亡くなったそうです。 
そこで、今から彼を悼んで一分間の黙祷を行いたいと思います。黙祷………」 
ドッドッドッドッド… 
心臓はこんなに喧しい物だったろうか。潮は目を閉じながら、嫌な予感を覚えていた。 
倉本豪は元々そんなに評判の良くない生徒だ。と言うよりも3組自体が問題学級とされており、 
他の学級とは余り交流が無かった。 
一見無関係に思える豪の死と麻子の事故に潮は何か繋がりを感じて仕方無かった。 
気が付けば、何時の間にか黙祷は終り、担任の野崎が話を始めている。 
「あー、今聞いた様に―既に知っていた者も居るだろうが―3組の倉本が亡くなった。 
死因は良く解っていないが、肺の異常らしい。通夜は今夜8時からだ。 
では、朝のホームルームは以上。日直、号令」  
 
 1時限目が終わると、潮はすぐに2年5組を訪ねた。 
「おい、井上来てるか?」 
教室の入り口で雑談している女子生徒に尋ねる。 
「あら、蒼月君。真由子今日休みなのよー。先生も連絡受けてないって……」 
彼女はその後も何か喋り続けていたが、もう潮には何も聞こえなかった。 
ダダダダダ! 
「こらー!廊下走るなー!」 
嫌な予感がする。背中に教師の怒号が降り掛かるが、潮はそれに応える事無く自分の教室へと戻り、 
荷物と獣の槍を抱えると、その侭校門へと向かった。 
 
 真由子が危ない!急がなければ! 
真由子の家の前に辿り着いた時、潮は言い知れぬ戦慄に襲われた。見た目は何時もと変わらないが、 
今、この家が纏っている空気は明らかに異常だった。 
存在その物が妖であるマヨヒガですら、これ程薄気味悪い空気は纏えない。 
右手に握った獣の槍に目をやるが、槍は何の反応も示していない。それ処か、槍はこの家の異様な雰囲気にすら気付いていない様子だった。 
潮は慌てて何度もインターホンを鳴らす。だが、返事は無い。真由子は外出しているのだろうか。 
いや、それは無い。真由子の性格からして、学校をサボって何処かをうろつく事など在り得ないからだ。 
「!!」 
潮は何故か確信した。この家の中に間違い無く真由子は居る。門をくぐり、玄関を開けようとするが、そこは堅く閉ざされていた。 
仕方無く、塀から屋根へと飛び移り、何故かそこに居る事が判る真由子の部屋のカーテンに閉ざされた窓へと向かう。 
周囲から見れば泥棒と間違われても仕方が無い状況だが、今の潮はそんな事を気にする余裕は無かった。 
潮は窓ガラスを軽くノックする。真由子はこの部屋に居る。それは間違い無かった。何度も根気良くガラスを叩き続けていると、 
カーテンの隙間が開き、その隙間から虚ろな瞳がこちらを覗き返していた。  
 
 
 はらり…… 
「っかしーな。これで良い筈だぞ?」 
麻子が入院している病院。その外壁に貼り付けた半紙が剥がれ落ちるのを見て、とらはいぶかしんだ。 
記憶がくすぐられ始めたのは何時の事だったか。とらは(注)との闘いを思い出していた。     (注)「金」編に「票」 
彼の操る符術。あれを昔、自分も何処かで使っていた様な気がするのだ 
――それは、決して彼が取り戻す事の無い、人として生きていた頃の記憶だった。 
彼が人であった頃、妖と闘う手段として桃源郷の導師から習い覚えた符術。 
今、とらはそれを使ってこの病院に結界を張ろうとしていた。 
彼の言い訳としては、麻子が死んでしまっては潮が気落ちし、喰う時に張り合いが無くなる、と言う理由だったが、 
単に先日から彼女等を取り巻く異様な空気が気に喰わなかったのだ。 
「印は間違っちゃねえんだよな。紙も墨も準備したしよー……」 
とらは、潮の部屋から拝借した習字道具を見詰め、うんうんと唸った。 
「面倒臭えっ!直接書くか!」 
病院の外壁に大筆を宛がい、一気に文字を描く。 
「邪怪駆逐!天地万物の理に依りて……」 
両手で印を組むとらの周囲に密度の濃い空気が集まって行く。 
「呪怨の出入りを禁ずる!禁!!」 
バシュッ! 
一瞬、病院の外壁に描かれた文字が輝いたかと思うと、次の瞬間、墨は跡形も無く蒸発していた。 
「な、何だってんでぇ…こりゃ」 
とらは信じられないと言った表情で目を見開いた侭、空中で静止していた。  
 
 
 緋崎憧子は気付いていた。自分の目的を邪魔しようとしている者が居る。 
先程も結界による邪魔が入った。 
大した邪魔にはならなかったが、憧子はその存在が憎くなった。 
どうやらその者は人外――妖の一種らしいが関係無い。機会を見てその内消してやろう。 
あの倉本豪の様に……。 
「ふふふふふふ……」 
暗闇の中、何時迄も微かな笑い声が響いていた。 
 
 
「潮君!」 
カーテンの隙間から覗く目は、真由子の物だった。 
その目は憔悴し切り、落ち窪んで、下には隈を作っている。 
彼女の魅力の一つである、何時もの明るい笑顔は片鱗すら残っていない。 
真由子が窓の鍵を外すや否や、潮は自分と彼女を隔てている窓を開き、驚いた。 
開け放った窓から思わず顔をしかめたくなる様な異臭を含んだ生温い空気が漏れて来る。 
どうやら臭いの原因は、真由子の部屋のゴミ箱らしかった。 
「潮君!ふえぇぇ……」 
靴を脱いで部屋に上がり込む潮に抱き付き、その胸の中で子どもの様な安堵の嗚咽を上げる真由子。 
潮は彼女の髪を撫で、彼女の錯乱を静めてやりながら、先程から強烈な異臭を放つゴミ箱を覗く。 
そこには腐敗臭を放つ尿が満たされ、数枚のティッシュがその中に沈んでいた。  
 
「手……放さないでね」 
潮と真由子は手を繋いだ侭一階へと降り、真由子は台所で麦茶を飲み始めた。 
余程喉が渇いていたのだろう。真由子はがっつく様な勢いで何杯も飲み干し、そこで漸く落ち着きを取り戻した。 
「で、昨日あの後、何が在ったんだ?」 
潮はどんな時にも眩しい程の笑顔を見せるこの少女が、 
今は笑い方を忘れたかの様に無表情で、疲れ切っている事が不憫でならなかった。 
「うん…あのね……」 
居間のソファに腰掛け、真由子はゆっくりと昨日の出来事を話し始めた。 
 
***** 
 昨夜、彼女は自室に転がり込んだ後、近付いて来る足音に耳を傾けていた。 
自分以外に誰も居らず、絶対にする筈の無いその足音は真由子の部屋の前で消えた。 
だが、真由子には判っていた。『それ』がドア一枚隔てた向こう側に居る事が。 
見える筈は無いのに、『彼女』の様子は手に取る様に判った。 
『彼女』は真由子の部屋の扉の前に立ち、じっとドアを透かしているかの様にこちらを見ている。 
真由子は部屋の扉から目を離す事が出来ず、只々布団の中で震えていた。 
何故か音を立ててはいけない様な気になる。真由子はその場から動く事も出来ず、扉の向こうの『それ』と向き合っていた。 
彼女はふと気付く。何故、『それ』は入って来ないのだろうか? 
それを考えると、何と無くだが、自分が気を張っている間は、『それ』はこの部屋に入って来られない様な気がした。 
だが、『それ』はじっと動かずに、自分が力尽きるのを待っているかの様にも思える。 
真由子の防衛本能は、『それ』を絶対に部屋に入れてはならないと叫び続けていた。  
 
 どの位時間が経過しただろうか。真由子は部屋から出られない事が、自分の『負け』に繋がると実感していた。 
この侭では、飲食物を取りに行く事も、風呂やトイレに行く事も出来ない。相手は人間では無いのだ、 
真由子が消耗し、力尽きるのを待てば良いだけなのだろう。『それ』は未だにドアを通して真由子を見詰めている。 
そして、その事は徐々に、だが確実に真由子の精神を恐怖で蝕んでいった。 
真由子の飢え、渇きを潤す物は、病院に行く際バッグに入れて行ったペットボトルのみ。 
飢えや体を洗えない不快感は我慢出来たが、尿意だけはどうにも耐えられない。 
どうしてもトイレに行きたかったが、今部屋を出る訳にはいかなかった。 
已むを得ず、扉から目を離さぬまま、傍らのゴミ箱を手に取り、その中に放尿する。 
物心が付いてから、トイレ以外で用を足した事の無い真由子には、それはこの上無い屈辱だった。 
屈辱に涙が流れる。だが、『それ』は同情する事も無く、依然変わらず真由子を見続けていた。 
 
 ピンポーン! 
「!」 
朝になっても変わらぬ家の中に、インターホンの音が鳴り響く。 
『彼女』が自分を部屋から出す為の策略かも知れない。そう考えると、真由子はその場から動く事が出来なかった。 
ピンポーン! 
インターホンは立て続けに何度も鳴らされる。明らかに意図を持って鳴らされるそれに真由子は恐怖した。 
「潮君…とらちゃん…」 
彼女の頭にうしおととらの顔が浮かぶ。そうだ。彼等はどんな時にだって自分が危ない時には助けに来てくれた。 
それを考えると、挫け掛けた彼女の心に少し勇気が湧いて来た。だが、奮い立たせた心はすぐに折られてしまう。 
コンコン…コンコン… 
真由子はその音に体を震わせた。何物かが窓をノックしている。『彼女』かも知れない。 
だが、『彼女』の気配はドアの前から動いていない。そっとカーテンを開けると、そこには心配そうに覗き込む潮の顔が在った。 
そして、真由子が潮の存在を認識すると共に、『彼女』の気配はドアの前から消え失せていた。 
***** 
 
 「だから、潮君が来てくれたって判った時、凄く嬉しかったよ……有難う」 
再び潮に抱き付き、涙を流す真由子。だが、その涙は先程の物とは違い、喜びに心を震わせる涙だった。  
 
 暖かい水流が、汚れと共に彼女の疲れを流して行く。真由子は今、風呂場でシャワーを浴びていた。 
昨夜から散々汗を掻いたのに、風呂に入る事も出来なかったのだ。先程は恐怖で混乱していた為、気が付かなかったが、 
そんな汚れた格好で潮の前に立つ事は憚られた。心に並外れた強さを持つとは言え、彼女も思春期の少女なのだ。 
潮はと言えば、真由子が余りに必死で頼むので、脱衣所で彼女が出て来るのを仏頂面で待っている。 
何時もなら、潮の頭の中の悪魔が、 
「少しだけ覗いてしまえ」 
と囁くのだが、今日はそんな気にもならなかった。気丈に振舞ってはいるが、真由子は明らかに弱っている。 
誰にも迷惑なんぞ掛けない様なあんな良い娘が、こんな怖い目に遭っていた事が、潮は許せなかった。 
だが、『それ』は諦めた訳では無かった。彼女は気配を消して家の中に潜み、待っていたのだ。 
再び真由子が潮と離れる時を……。 
 
 シャーー……キュッ 
体を洗い終えた彼女は、髪の毛に湯を掛けると、後ろ髪を洗い始めた。 
今日は、何時もの彼女御得意の鼻歌も出て来ない。潮の前では出来る限り明るく振舞ったものの、どうしても気が滅入ってしまう。 
「はぁ……ダメね、私。自分の事ばっかり」 
外の潮に聞こえない程度の声で呟く。どうしようも無かったとは言え、あの時は自分の事しか考えられなかった。 
病院の麻子の事を思い出し、心配する余裕も無かったし、正直、潮やとらが早く来ない事に理不尽な怒りを覚えもした。 
それなのに、潮が来てくれた時には手放しで喜び、麻子の立場も考えずに抱き付いたりした。 
あの状況なら誰だってそうなってしまうのだろうが、真由子は自分でそれが許せなかった。 
「ダメダメ。もっと強くならなきゃ」 
自分に言い聞かせ、前髪を洗い始めたその時―― 
バシン! 
ブレーカーでも落ちたのだろうか。急に風呂場の電球が消える。そして、 
ピィィィィーンン…… 
再び彼女の耳の奥で、あの軽い金属を弾く様な音が聞こえた。嫌な予感を感じて、慌ててシャンプーを洗い落とし、顔を上げると…… 
空の浴槽の中に『彼女』が立っていた。 
「ひぃぃぃぃぃ!!」 
『彼女』は無表情にこちらを見詰め、真っ暗な中でぼうっと蒼白い光を放っている。 
「潮君!潮君!」 
風呂場の入り口に向かって大声を上げ、扉を開こうとするが、どうしても開かない。脱衣所に声が届いている筈なのに、潮の反応も無い。 
真由子はまるで、この風呂場だけが別の世界に切り離されてしまった様な錯覚を覚えた。 
『彼女』は真由子の方を向き、彼女の肩へとゆっくりと手を伸ばした。  
 
 シャーーー 
潮は相変わらず続いているシャワーの音に耳を傾けていた。後で病院へ行こう。 
真由子の事も心配だったが、麻子も昨日の一件で相当に弱っている。それに、今朝鞄の中に入れた、彼女の似顔絵をプレゼントして、 
元気付けてやろう。今回の絵は、自分にとってはかなりの自信作だ。麻子はこれを見て、どんな顔をするだろうか。 
そんな事を考え、真由子から気が逸れていた事に気付くと同時に、潮は違和感を覚えた。 
風呂場からは先程と変わらぬシャワーの音が続いている。そう、音が途切れる事無く、だ。 
普通は髪や体を洗う際は、シャワーを止める筈だ。そう考えると、何か言い知れぬ胸の高鳴りを覚え、潮は真由子に声を掛けた。 
「井上ー、大丈夫かー?」 
返事は無い。潮が慌てて風呂場の扉を開けると―― 
「キャアァァァァァァァ!!」 
耳をつんざく様な悲鳴と共に全裸の真由子が飛び出し、潮にぶつかって来た。 
「のわっ!?ま、真由子?」 
「もうやだ……もうやだよぅ……」 
彼女は倒れ込んだ潮の上でわんわんと泣き続けた。  
 

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