: 160%">  
 燦々と照り付ける太陽、鼻を擽る潮の匂い。 
波打ち際では何組ものカップルが戯れ、沖にはヨットを走らせる人々。 
8月、夏休みも半ばに入った頃、潮達は麻子の祖父母の経営する海の家、「かがみ屋」に向かっていた。 
先発隊のメンバーは、男性陣は潮、横尾、厚池、間崎、霧雄と引率の米次の6人。 
女性陣は麻子、真由子、礼子、史帆、憧子の5人だ。 
4日後には後発のメンバーが来て、更に人数は増える予定だが、現在のメンバーでは、 
引率の米次と恋人同士の間崎、礼子を除けば男女比は4:4。横尾などは来る前から、 
「こりゃまるで合コンだな〜。それに相手は美人揃い♪1週間も在るし、俺も今年こそ……」 
と大はしゃぎで、今日からの日々が楽しみで仕方無い様子だった。 
勿論、他のメンバーも横尾程では無いが、この日を楽しみに待っていた。 
只二人――潮と真由子を除いては。 
 
***** 
 
「海?そんな気分じゃねえよ」 
白面の者との死闘から3箇月が経過した7月の中旬の土曜日。 
突然家に押しかけて来た麻子に、潮は詰まらなさそうに答えた。 
「何よ!人が折角誘ってあげてるのにさ!私達、もう3年生だし、遊べるのも今の内よ」 
「海なら去年行ったじゃねえか」 
潮は全く興味が無さそうな素振りで麻子に背を向け、キャンパスに筆を走らせている。 
この3箇月、何をしても彼の退屈は満たされなかった。 
何かに打ち込み始めると途端に苛々して、詰まらなくなってしまう。 
今描いている絵にしても、部活引退前の最後の晴れ舞台である、 
夏休み明けのコンクールに出典する為に嫌々描いているものだった。 
当然筆の進みも遅い。彼の心には寂しい風が吹いていた。 
 
 
「海…か。去年みんなで行ったもんね……」 
「……お姉ちゃん?どうしたの?」 
翌日の昼。電話の向こうの麻子の誘いを聞き、涙を流す真由子を霧雄は心配そうに見詰める。 
彼女は去年の夏休みの事を思い出していた。 
今年は去年よりも参加者は増えているものの、今年は「みんな」の中に『彼』が居ない。 
喰う為だと言いながらも、生涯の愛を誓い合ったとら。彼の生涯はそれから幾許もせぬ内に終わってしまった。 
もう彼は戻って来ない。自分は彼から沢山の物を貰ったのに、それに対して何か返してやれただろうか、 
あの戦いで彼が死んだのは、「役目」を充分に果たせなかった自分の所為では無かろうか。 
様々な思いが彼女の心を苛む。 
「真由子、辛いだろうけど、その侭じゃ前に進めないよ」 
電話の向こうから、麻子の優しい声が聞こえる。親友はこんな自分を気遣ってくれている。それなのに自分は……。 
その事が更に真由子を苦しめた。胸を掻き毟りたくなる衝動を抑え、涙混じりの声で 
「解った…有難う。日程、決まったら教えてね」 
と答え、受話器を置いた。彼女は心にぽっかりと穴が開いた様な空虚感を覚えていた。  
 
 
「これで良しっと!後はあの馬鹿をどう動かすかね」 
満足気に受話器を置く。「あの馬鹿」とは勿論潮の事だ。お節介な麻子は、 
あの戦い以来塞ぎ込んでしまった二人を今回の旅行で何とかしてやりたいと考えていた。 
「麻子も素直じゃねえなぁ。ハッキリ言っちまえば良いの……」 
ゴスッ!! 
余計な口を出した米次の顔に、麻子の膝、続けて数発の拳が入る。 
カラカラカラ…… 
「今日は」 
青鳥軒の入り口の戸が開き、女性の澄んだ声が響く。 
「おう!蒼月の不釣合い夫婦か。須磨子ちゃん、相変わらず若えよなー。うちのなんざ干乾びちまっててよ」 
バキッ!!ドガッ!! 
「不釣合いとは何だ」 
「干乾びてるって何さ!」 
店の奥から痣だらけの顔でにっこり微笑みながら出て来た米次の頭に、前後から拳が飛んだ。 
 
「おじさん、おばさん、今日は!潮は?」 
麻子も店の奥から出て来て、注文を待っている紫暮と須磨子に声を掛ける。 
「あぁ、あの馬鹿は部屋に籠って絵を描いてるのが楽しいんだとよ。今日も一日籠ってるんじゃないか」 
「貴方、そんな言い方は……」 
ここでも「あの馬鹿」呼ばわりされている潮。本人はさぞかし、くしゃみが止まらない事だろう。 
「そう……二人にお願いが在るんだけど、聞いて貰える?」 
麻子は自分の計画した夏休みの旅行の事を二人に話した。 
 
 
「潮、ちょっと……」 
その日の夜の事。襖が静かに開き、須磨子が潮の部屋の中に入って来た。 
「何だい?」 
彼女が潮の部屋を訪ねる事は珍しかった。潮は彼女に何時もとは違う気配を感じ取り、思わず身構える。 
「今日のお昼、麻子さんのお店に行ったんだけど、貴方海に行くのを断ったって?」 
「麻子から聞いたのかよ?別に母ちゃんには何の関係も……」 
潮がそう言い掛けた時、須磨子が腰を上げ、潮の耳元で妖しく囁いた。 
「母さん……貴方に海に行って貰いたいの」 
「え?あ…な、何でだよ?」 
若く美しい母親のそんな素振りに既に潮の心臓は口から飛び出さんばかりに跳ね上がり、 
彼の脳から正常な思考を奪ってしまう。 
「訊かなくても貴方ももう中学生……解るでしょう?母さん、14年も海の底に居て、父さんと会えなかったのよ」 
「い?え?その…それって……」 
「何?言わせるの?」 
「い、いや、良いって!解った!行くよ!行くから!」 
両手で後退りし、須磨子から急いで離れる潮。彼は早く彼女を部屋から追い出してしまいたかった。 
「そう。宜しくね」 
須磨子は何時も通りの雰囲気に戻り、潮に優しく微笑んで部屋を出て行った。 
一階へ続く階段で待っていた紫暮が下りて来る須磨子にウインクして見せる。 
「これで…良かったのですか?」 
全ては紫暮の差し金だったのだ。 
「あぁ、あいつは頑固だからな。この手が一番効くんだよ」 
「処で、嘘も方便とは良く言ったものですが……この話は嘘じゃ在りませんよね?」 
「あ?ゴホン!…あ、あぁ……」 
 
*****  
 
「良ーし!みんな、降りるぞー!!準備しろー!!」 
電車の中に米次の威勢の良い声が響く。電車は程無くして夜波駅に到着し、 
順番に電車を降りる潮達に元気な声が届く。 
「お姉ちゃん、兄ちゃん、いらっしゃい!久し振り!」 
タツヤは麻子から連絡を受け、駅に出迎えに来ていた。 
「タツヤ君!背、伸びたねえ」 
「うん!もう僕、5年生だよ」 
再開を喜び合う麻子とタツヤ。潮は彼に合わせる顔が無かった。 
1年前、自分は偉そうに彼に「母ちゃんに良いとこ見せようぜ」などとのたまった。 
そして今の彼はその言葉通り輝いている。それに比べると、潮は今の自分の不甲斐無さが許せなかった。 
「そっかぁ、これからもっと大きくなるよ。あ、こっちはタツヤ君と同い年の霧雄君。仲良くしてあげてね」 
「僕、引狭霧雄。宜しくね」 
「うん。僕は中島タツヤ。引狭君、ボート乗った事在る?」 
真由子は新しい友達が出来て楽しそうな霧雄を見て、ほんの少し心が和んだ。 
 
「おう、良く来たなぁ!」 
海の家に到着した潮達を麻子の祖父母が歓迎する。 
「お爺ちゃん、お婆ちゃん、今年も世話んなるよっ!」 
「麻子か。おお、おお、去年より大きくなりおって。揉んじゃろ!」 
ごん★ 
「やーね、お爺ちゃん!」 
例年通り、麻子の拳に祖父の腕は防がれた。  
 
 
『序章・初日昼』一時閉幕

楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] ECナビでポインと Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!


無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 解約手数料0円【あしたでんき】 海外旅行保険が無料! 海外ホテル