イタヅラが過ぎて、ヤンキーのラジカセを壊してしまったタツヤ。  
そこに偶然通りかかった麻子(水着)が助けに入った。  
 
「ちょーっとぉ、いい大人がよってたかって、小さい子供相手に何やってんのよぉ?」  
「あぁ? なんだ、このアマ!」  
見るからに人相の悪い3人組が、殺気立った。  
しかし、麻子の方が速い。先手必勝。あっと言う間に二人に肘と膝を叩き込む。  
その場にくず折れる二人。  
麻子は流れるような動きで、リーダー格と思しき残りの一人に、掌打を叩き込もうとする。しかし。  
伝わる筈の衝撃が無く、麻子はバランスを崩した。  
(かわされた?)  
思ったのと、鳩尾に激しい衝撃を受けたのが、同時。  
「ぐぅ・・・ハァ」  
今度は、麻子が崩れ落ちる番だった。呼吸が出来ず、腹を押さえたまま蹲る麻子。  
「まぁまぁ出来るみたいだが、相手が悪かったなぁ」  
頭上から、リーダー格らしい男の声が降ってきた。  
苦痛と屈辱に、思わず麻子の目から涙が零れる。  
 
そのうち、先に倒した二人も立ち上がってきた。  
「イテテテ、チクショー、このアマ・・・」  
「このアマ、どうします?」  
「そうだなぁ・・・とりあえず、あのガキつかまえとけ。」  
リーダー格の男が顎をしゃくった。  
それまで呆然と見ていたタツヤが、ハッと我に返り、反射的に逃げ出そうとしたが、  
すぐに手下の男に捕まった。  
「おら、大人しくしてろ、このクソガキ」  
僅かに抵抗したタツヤだったが、軽く小突かれただけですぐ大人しくなった。  
もう一人の手下は、無理矢理麻子を引き起こすと、両腕を捻り上げて押さえつけた。  
「おねえちゃぁん」  
タツヤは文字通り首根っこを掴まれ、ベソをかいている。  
「その子をどうするつもり?」  
「そのガキはどうもしねぇよ。お前が大人しくしてりゃあな」  
リーダー格の男はニヤニヤ笑いながら、麻子の胸を軽く突付いた。  
「そんな怖え表情すんなって。よく見りゃ可愛い顔してんじゃねぇか」  
麻子は身をよじるが、勿論逃れることは出来ない。  
「やめなさいよ。変なことしたら、タダじゃ済まないわよ」  
麻子の強がりを、男は鼻で笑った。  
「ま、とりあえず一緒に来てもらおうか。」  
そう言って男は背を向けて歩き出した。その後を麻子とタツヤ、そして二人を押さえた男たちが続いた。  
(このままじゃ・・・。でもどうしたら・・・)  
麻子は必死で周囲に視線を走らせるが、生憎と人影は無い。  
夏の日がゆっくりと傾き、辺りは薄暗くなっている。  
 
一向はすぐに路上駐車してあるワゴンに行き着いた。後部にはスモークが貼ってあり、中が見えないようになっている。  
リーダー格の男が、ガラリとドアを引き開けた。  
「乗りな。おかしな真似はするなよ。」  
手下の男が麻子から手を離した。麻子はリーダー格の男とタツヤを見比べた。  
リーダー格の男は車に寄りかかり、余裕の笑みを浮かべている。  
タツヤはスリーパーホールドを掛けられた状態で、ベソをかいている。  
観念したように、麻子はワゴンに乗り込んだ。誰か見ていないかと、最期の希望に縋って周囲を見渡したが、やはり誰の姿も無い。  
(潮・・・!)  
心の中で呼んでみたが、無論、奇跡など起こらなかった。  
続いてリーダー格の男とタツヤたちが乗り込み、ドアが閉められた。  
麻子を押さえていた男が運転席に周り、そうして車は出発した。  
 
車は段々と海から離れるように進み、15分程走って停まった。  
麻子たちが車から降ろされると、そこには1件の別荘風の建物が鬱蒼とした木々に囲まれ、ポツンと建っていた  
「良い所だろう? 海からはちょっと遠いが、静かなのが取り柄でな」  
思わず辺りを見回すが、森が広がるだけで、他の建物は見当たらない。  
麻子にはそこがどこなのか、見当もつかなかった。  
「まあ、遠慮せずに入れや」  
男に背中を押され、建物の中に入ると、僅かにカビ臭い匂いがした。  
全員が入ると、リーダー格の男が鍵を掛けた。  
「こんな所、誰も来やしねえが、念のため、な」  
玄関を上がり、最初の部屋がリビングになっていた。リビングと言っても、ソファが2組とテーブルが一つ、あるだけだったが。  
3人の男たちは思い思いの場所に座ると、好色そうな視線を隠すことなく、水着しか着ていない麻子の身体をねめ廻している。  
夕暮れとはいえ、夏だというのに、麻子は薄ら寒いものを感じて、思わず自分の肩を抱いた。  
 
男たちはその様子を楽しむように見ていたが、やがてリーダー格の男が口を開いた。  
「これからどうなるか、見当もつかないってぇ、カマトトぶるつもりは無えだろ?」  
麻子は無言で睨みつけた。  
「大人しく言うこときいてりゃ、手荒な真似はしねぇ。そのガキも無事に帰してやる。どうだ?」  
「・・・・・もう、家に帰して」  
「おいおい、人の話はちゃんと聞けよ。無事に帰すって言ってんだろ?」  
「今すぐ、よ。これ以上、何か変なことしたら、タダじゃ済まないんだから!」  
麻子が語気を強めると、脇で鈍い音と悲鳴が起こった。  
ゴキ! 「ギャウっ!」  
タツヤが頬を押さえて倒れている。  
「君、大丈夫!?」  
タツヤに駆け寄る麻子。  
「お、おねぇぢゃあん」  
タツヤが泣きながら縋り付いて来た。  
「なんてことするの!」  
麻子が叫んだが、男たちはニヤニヤ笑っている。  
「だから言ったろ? お前次第では、そのガキはもっと痛い目に会うぜ。」  
「卑怯者! こんなことして、恥ずかしくないの!?」  
麻子の悲痛な叫びも、男たちには届くはずも無かった。  
麻子は男たちを睨みつけていたが、やがて目を伏せ、搾り出すように言った。  
「・・・どう、すれば、いいの?」  
「そうそう。そうやって素直にしてりゃ、そのガキも痛い思いしなくて済んだんだぜ。じゃ、場所を移動だ」  
リーダー格の男が、隣の部屋を指差した。  
麻子が立ち上がると、タツヤが縋りついた。  
「おねえちゃん!」  
「大丈夫よ。すぐ帰れるから、ここで大人しく待っててね」  
麻子は無理に笑顔を作ると、言われるがままに隣の部屋へと向かった。  
 
そこは、リビング以上に殺風景な部屋だった。  
部屋の真ん中に、マットを置いただけのパイプベッドが一つ。そしてそれを囲むように、三脚に乗ったカメラとモニター、ビデオがあるだけだった。  
「そこに、横になるんだ」  
リーダー格の男が、ベッドを指差す。  
激しい嫌悪感と戦いながら、麻子は何とか言われる通りにした。  
「頭上に腕を伸ばせ」  
男たちは、渋る麻子の腕を、半ば強引に伸ばさせた。  
麻子の頭上で、カチャカチャと、冷たい金属音が鳴った。  
見上げると、両手を手錠でベッドに繋がれていた。  
麻子は反射的に引っ張ってみたが、冷たい感触は簡単に外れそうにない。  
「な、何をする気?」  
麻子の問いに、男たちは答えようとしない。  
「じゃ、始めるか」  
リーダー格の男がそう言って、麻子に馬乗りになった。  
「!」  
男が手にした物を見て、麻子は思わず息を呑んだ。それは裁縫用のハサミだった。  
男は麻子の目の前で、そのハサミを見せつけるように2,3度、チャキチャキと開閉させた。  
「暴れると、怪我するぜ・・・」  
馬乗りになったまま、男は麻子の水着の肩紐を切った。  
ジャギ、ジャギと、小気味良い音が響く。  
「やめてぇ!」  
思わず麻子が叫ぶ。男は躊躇することなく、もう片方の肩紐も切り裂いた。  
(潮・・・、助けて、潮・・・)  
麻子は心の中で、悲痛な叫びを上げた。その名前を浮かべたことで、強気に振舞っていた心が折れ、ついに麻子の瞳から涙が流れ落ちた。  
 

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