白面との戦いから数年後。
真由子とキリオはそれぞれ高校生と中学生になり、家族として平和に暮らしていた。
真由子は相変わらず華奢だが、やはり胸や腰は、女らしい曲線を帯びてきた。
キリオは、早くも身長でマユコを追い越し、細く長い手足を持った若者に成長していた。
そんなある日の、初夏の日曜日。
朝から好天に恵まれ、ちょっと動くと汗ばむような陽気になった。
8時を過ぎた頃、キリオが真由子の部屋のドアをノックした。
「お姉ちゃん、起きてる?」
「は〜い。どうぞ〜」
真由子の元気のいい声が返ってきた。
キリオはドアを開け、部屋の中に入り、そこで凍りついた。
真由子は下着姿で、キリオに背を向け、2枚のワンピースを交互にあてがいながら、姿見に向かっていた。
「ご、ごご、ゴメ・・・」
慌てて部屋を出ようとしたキリオだが、真由子は気にするでもなく振り向いた。
「丁度良かった。どっちが良いと思う?」
言いながら、2枚のワンピースをかざしてみせる。
真由子はキリオを本当の弟のように思っているのか、キリオの前で下着姿になることを、全く気にしない。
その為、キリオが真由子の下着姿を見るのは珍しいことでは無いのだが、キリオは未だに慣れることができない。
いや、慣れるどころか、互いの成長に伴い、益々意識してしまうようになっていた。
薄い黄色が基調の花柄のワンピースと、上から下へ、白から淡い水色へと段々と色が濃くなっているワンピース。
だがキリオは、真っ赤になって下を向いたまま、真由子の方を見られない。
キリオはオズオズと、適当に指差した。
「うん、やっぱりこっちよね」
真由子は水色のワンピースをベッドに投げると、黄色いワンピースを持って、またキリオに背を向けた。
フンフンフン♪と、なにやら怪しげな鼻歌を歌いながら、真由子が着替える。
真由子が向こうを向いたことで、キリオはようやく顔を上げた。
真由子は背中のファスナーを引き上げているところだった。
「キリオくん、ホック止めてくれる?」
背中のファスナーを引き上げた真由子が、声を掛けた。
「え? あ、うん・・・」
ボーッと見ていたキリオは、我に返った。
真由子は邪魔にならないように、首筋の髪をそっと掻き分ける。
白い項が露わになり、それを見たキリオの鼓動が、ドクン、と高鳴った。
キリオの視線は真由子の白い首筋に釘付けとなり、その白さが、下着姿を連想させた。
キリオの記憶にある限り、真由子は白以外の下着を身に付けていたことが無かった。
「? どうしたの?」
一向にホックを止めようとしないキリオに、真由子が声を掛けた。
「う、うん・・・」
キリオはゴクリ、と唾を飲み込んで、ノロノロと腕を伸ばす。
真由子の髪から、ほのかなリンスの香りが立ち昇り、キリオの鼻腔をくすぐった。
「お姉ちゃん!」
次の瞬間、キリオの伸ばした腕は、背後から真由子を抱きしめていた。
「キャッ」
不意をつかれた真由子が、小さく悲鳴を上げる。
「ど、どうしたの?」
「お、お姉ちゃんがいけないんだ! そんな格好で、いつも、僕を、僕を・・・えーっと・・・」
キリオは興奮も手伝って、『挑発』という言葉が、出てこない。代わりに、抱きしめる腕に益々力を込めた。
真由子は、キリオが自分に欲情するなど夢にも思っていないので、まだ事態を飲み込めておらず、怪訝そうに声を掛ける。
「どうしたの? キリオくん?」
キリオは答えず、抱きしめた腕を一瞬ほどくと、肩を掴んでクルリと真由子を反転させた。
そして、間髪を入れず唇を重ねる。
「!」
真由子は驚きに目を見張った。
そして、唇をはなしたキリオと目が合った。
そこには、いつもはにかんだように自分を見つめる少年はいなかった。
そこにいるのは、欲情に燃える「男」だった・・・。