「ねぇ、一夏ぁ、暇ぁー。遊ぼうよー」
舞夏はベッドにだらしなく寝そべって足をぶらぶらさせながら本当に暇そうに大きく欠伸をしてみせた。
「駄目ですよ。仕事が済んでからでないと。ほら、もうすぐ終わりますから」
一夏は洗濯物を干しながら、優しくたしなめた。
「むー」
舞夏は不満そうに頬を膨らませると洗濯籠をぼんやりと眺めていたが、急にその目が悪戯っぽく輝いた。
「あ、手伝ってくれるんですか?」
洗濯ロープを手に近づいてくる舞夏を視界の片隅に確認し、一夏は嬉しそうに尋ねた。
舞夏はそれには答えず、妙に甘えた声を出してみせた。
「ね、一夏、ちょっと両手を後ろに組んで、背中向けてみて♪」
「はい? …こうですか?」
一夏は不思議そうに首を傾げながらも、無防備に要求に応え、白い腕を重ねて見せた。そのとたん…。
「それっ!」
「え? ええっ? 舞夏ちゃん?」
突然手首に生じた違和感に、戸惑った声をあげる一夏。彼女が狼狽えている間に、舞夏は見事に一夏の手首を縛り上げてしまった。
「ちょ、ちょっと、舞夏ちゃん、何でこんなことするんですか!?」
「ん? いや別に。ただ暇だったから」
「ひ、暇だったからって…ほ、ほどいて下さいっ!」
ようやく状況を飲み込み暴れ始める一夏だが、時既に遅し。舞夏は余裕で、洗濯ロープの残りを、今度は一夏の体へと回していく。
「ん…く…苦しいです…」
舞夏がぎゅっとロープを引き絞るのに会わせ、小さな呻き声をあげる一夏。舞夏はロープを一夏の胸の上に二巻きすると、続けて胸の下に二巻きし、仕上げにそのロープを脇の下で巻くようにしてロープの続きをはわせ、強く引き絞った。
「はうっ…」
胸を上下に挟んだロープは、脇の下へと引き絞られ、一夏の腕をぎっちりと体に固定する。手首も、後ろ手に上に引き上げられた状態で固定されてしまった。
「よーし、第一段階終了っと。さてお次は…」
楽しそうにどこかに何かを物色しに行った舞夏を茫然と見送った一夏は、次の瞬間気を取り戻し、舞夏がいなくなった隙にと慌ててもがき始めた。しかし…。
「あうっ!」
もがくと同時にロープが体に食い込んで小さく悲鳴を上げる。
「う…嘘…なんなんですか、これ…」
こんな風に縛られたことが初めての一夏は、堅い戒めの感触に戸惑いの声を上げた。昔、小さな子供だった頃、泥棒ごっこか何かで、体をぐるぐる巻きにされたときには、体を揺すってもがいていれば、ロープがずり落ちて隙間ができ、腕を引き抜くことができた。
しかし、舞夏の縛り方では、もがいても全くロープが動くことがない。ぴったりと体に貼り付いたロープが、肌に食い込むだけである。
「う…く…ふぁっ…」
食い込むロープの痛みに耐えながら、それでも絶望的な抵抗を続けているところに、鼻歌混じりの舞夏が戻ってきた。
「あ…舞夏ちゃん! 早く…早く助けて下さい! これ…ほどけないですよぉ!?」
必死で体を捩りながら訴える一夏。
「そりゃそうよぉ、だって解けないように縛ったんだもん」
「そんなあ…」
弱々しく呟く一夏を無視して、舞夏は嬉しそうに手の中にあるものを見せびらかした。
「じゃーん! これ、なんだと思う?」
「え…ハンカチ…ですよね?」
意図が掴めず首を傾げながらも、律儀に答えてしまう一夏。
「正解っ! …じゃ、何に使うと思う?」
「え…あの…」
首を傾げた一夏は、突然恐ろしい可能性に思い当たって凍り付いた。
「ま…まさか! 猿轡じゃないですよね!?」
「おおっ、そんな使い方があったか! 一夏って天才!」
実にわざとらしく感心してみせる舞夏。
「リクエストされちゃったら答えないわけにはいかないなぁ」
「そ、そんなっ! 私、リクエストなんてしてませんっ!」
罠にはめられ、慌てる一夏。
「まあ、そう言わずに♪」
「い、いやっ! やめて下さいっ! んーっ!」
丸めたハンカチを口元に押し付けられ、堅く口を結んだまま首を振って必死で拒否しようとする一夏。
「そんなことしても無駄なんだけどなあ」
舞夏は優しく一夏の鼻をつまんだ。
「んっ!?」
大きく目を見開く一夏。しばらく息を止められたまま必死で堪えていたが、やがて体が震え出す。
「んんっ、ぷはーっ!」
もがいた瞬間にロープが胸に食い込み、その衝撃に思わず小さく口を開いて息をもらしてしまう。
「それっ!」
「んんーっ!」
その瞬間、口の中に大きなハンカチの固まりが突っ込まれた。続いて、真ん中に結び目を作ったもう一枚のハンカチが、唇を割るようにして押し込まれた。
「んーっ、んーっ!」
嫌々をするように必死で首を振るが、ハンカチはそのまま首の後ろで堅く結ばれてしまう。
「どう? 吐き出せそう?」
「んあーっ! んんあーっ!」
決して舞夏のリクエストに答えたわけではないが、何とかハンカチを吐き出そうと必死で頭を振る一夏。しかし舌を押さえつけられたまま、何の効果を得ることもできない。
「よーし、オーケーね」
「んーっ! ふぉふぉいふぇー! ふぉふぉいふぇー!」
目を潤ませて必死で解くよう訴える一夏。
「え、何言ってるのかわからないよぉ? もっとはっきり言ってよぉ」
「んーっ!」
流石に温厚な一夏の目にも、抗議の色が溢れる。
「あ、そか。ごめんごめん」
ほっと息をつく一夏。
「ちゃんと足も縛ってあげなくちゃね」
一夏の目が大きく見開かれた。
「んんーっ!」
一夏は声にならない悲鳴を上げて勢いよく首を振った。
<取り敢えず、完>