睡魔のせいで、思った様に身体が動かない。こんなに眠いのは、本当に久しぶりだ。
と、ペンを握り締め、寝ぼけた頭でぼんやりと思う。彼女は終わらない宿題を見るなり、いかにも気分を害したという風に表情を変え、
机にもたれ掛かる姿勢で、彼女は寝息を立て始めた。
その頃、寝付いた彼女と同年代と思しき少女が、慣れた手付きで携帯電話を弄り、メールを作成していた。
送信を確認するなり、うつ伏せの姿勢で布団に身をうずめる。
落ち着かない様子で、十代特有の艶かしい肢体をばたつかせる。 その際、肩に付く程の髪が大きく乱れる。
が、意に介した風も無くその挙動不審な行動を続ける。
一頻り動いた後、大きく息を吐くと同時に携帯の画面を凝視し、数分間押し黙る。
その少女は頬を朱色に染め上げ、膨れている。その姿は、恋をしている少女、という単語がよく似合った。
着信が無い事を見止めると、やはり不機嫌そうな顔をし、その後、すぐにはにかんだ表情をし、
躊躇った末、携帯電話に軽く口付けをする。そして小さく何かを呟いたかと思うと、ふて寝する様にうずくまり、寝息を立て始めた。
戸を開ける音で、少女は机にもたれ掛かる姿勢で目を覚ました。音の大きさからして、
玄関の戸が開かれた音である事は察する事ができた。家に踏み込む音を聞き止め、侵入者の確認をしようと一瞬考えたが、
今の自分の状態を思い出す。Tシャツ一枚に、ショーツ一丁。寝る数時間前は半ズボンを履いていたような気がしたが、
多分、暑いという理由で脱ぎ捨てた記憶がある。部屋を探せばあるだろうが、もしそれを着用したとしても
人前に出られるような格好ではない。そもそも、誰が入って来たのだろう?こんな時間に……と思い時計を見ると、
時計の針は午前10時を指していた。成程、一般人ならとっくに起床していてもおかしくない。というか、起床していないとおかしい時間だ。
だが、今日は日曜日。誰が休日のこの時間帯に訪ねて来たのだろう。確か、自分以外の家族は全員出払っている筈で、全員帰るのは
夜になると聞かされていた。なら、誰なのだろう。泥棒か何かだろうか?だとしても、自分ができる事はなにもない、もう一度寝よう。
等と半覚醒状態特有の微妙にズレた思考回路で色々と考えている内に、足音はどんどんこちらへと近付いてくる。
起きた時と全く同じ姿勢で侵入者の足音を聞いていると、自分の部屋の前で足音が止まったのが分かった。
無断で人様の家に入ってきた癖に何を躊躇っているのか、数秒の間を置きゆっくりと戸は開かれた。
忍び足で部屋に侵入してきたのを耳を感じ取るが、全く足音を消せていない。素人の泥棒かな?等と余裕の思考を巡らせている少女は、
「うー」と寝言を漏らした振りをして微妙に顔を動かし、泥棒と思われるソレに半目を配らせようとした……が、
「きゃぁっ!!」
ソレは寝言に思わせた唸り声に驚き、派手に音を立て尻餅を付いて甲高い声を上げた。
少女は、その声に聞き覚えがあった、利き慣れた声だ。同級生で、しかも親友と言ってもいい関係にある女友達の声で、
昨日も同じ声を聞いた覚えがある。少女は顔を上げ、叫び声の主の顔を見やると、呆れた声で呟く。
「蛍子、何してんの?」