一ノ瀬さんがいません。もうずっと、おうちに帰ってきていません。メールを送っても深夜に一言だけ。電話も勿論できません。
それというのも、いま一ノ瀬さんは映画の撮影中なのです。
新人なのに主役に大抜擢!さすが一ノ瀬さんです!
でも、天候の関係でロケが延長してしまって、もう何週間も一ノ瀬さんと会ってない。
早く会いたいです。
さすがにそんなわがままは言えないので、心の中だけで一ノ瀬さんに甘える。
ただいま、ってぎゅってしてほしい。私だけが知る一ノ瀬さんの微笑みを見せてほしい。
ちょっとしたイジワルだって、今なら喜んで受け入れますから。
恥ずかしいけど、もしいま一ノ瀬さんに会えたら、私からキスをしてみたい。そしたら痛いくらいぎゅっとしてくれる。
一ノ瀬さん、淋しいです。
寮のベッドは私のサイズに合わせてあるのに、何故かとても大きく広い感じがする。一ノ瀬さんと一緒に眠ると丁度良いのに。
私は人恋しさを紛らわせるために枕を抱きしめて丸くなった。
膝も抱えてしまおうとしたとき、体の中心……いつも一ノ瀬さんにいじられるソコが熱くなっているのに気づいた。
「う、うそ……」
ちょっと一ノ瀬さんのことを考えただけでこうなっちゃうなんて!
気になってしまったが最後。
足を少し動かしただけで下着が擦れて、なんだかすごくじれったい。
「ちょっと、だけ……」
パジャマの中に手を入れて、下着の上から触れてみる。それだけで、布地と肌の間に粘液がたまっているのがわかる。
いてもたってもいられなくて、下着の中に手を差し入れてしまう。
一ノ瀬さんの指は、いつもこの粘液を掬っては塗っていくような動きをしていた。
私は自然と、一ノ瀬さんの動きを思い出しながら、指を動かしていた。緊張で指先は冷たいのに、触れるところが熱くて、なんだか変な感じ……。
「ふぅっ、ん…」
敏感なところがどこか、一ノ瀬さんにたくさん教えてもらったから、わかる。一ノ瀬さんに触れられている時はいつもぼんやりしちゃってるけど、こんな時にしっかり思い出しちゃうなんて……!
「ぁ、あ……っ」
指を入れて欲しい。たくさんかき混ぜて欲しい。一ノ瀬さんに、名前を呼ばれたい!
「いちのせ、さ……!」
くちゅくちゅ、と指を動かす度に、恥ずかしい音が私の耳を刺激する。恥ずかしいけど、一ノ瀬さんにしてもらってるときみたいで、気持ちいい。
「んーっ……!」
指が止まらない!
一ノ瀬さんの名前を何度も呼んで、キスをしてくれたことを思い出して、私は夢中で自分を慰める。一ノ瀬さんにしてもらうみたいに、指を入れたり出したり、グリグリと抉ってみたり。
自分でするのは初めてなのに、一ノ瀬さんみたいにしたくて激しく動かしてしまう。
……その感覚はすぐにきた。
絡みつく、なんていつも一ノ瀬さんが言うように、私の熱い内壁がきゅうきゅうと指を締め付ける。
「あっ、…んっ」
一ノ瀬さん、一ノ瀬さん!
「い、イッ……!」
つま先まで駆け巡る快感に圧されて、我慢していた涙が零れる。
一瞬止まった息を吐き出して、乱れた呼吸を整えようと深呼吸。
まだ残るわずかな快感と疲労感が、指を引き抜くのも躊躇わせる。
気持ちよかったのに、足りない。
いつの間にか私、一ノ瀬さんがいないとダメになっていたのかも……。
でも、ここに一ノ瀬さんはいません。
切なくなって、私は震えた声で、そっと名前を呼んだ。
「一ノ瀬さん……」
甘い色香を伴ったその声に、止まっていた思考回路が再び動き出すのを自覚した。
長引いたロケがようやく終わって、驚かせたくて連絡をせずに帰ってきた私を待っていたのは、ベッドで自分を慰めている可愛い恋人の姿。健気に私の名前を呼んで、淫らな音を立てて、懸命に快感を追う姿に、こちらの方が驚かされてしまいました。
壁側に向かって猫みたいに丸まっている上に、自慰に夢中な所為で、春歌はまだ私が帰宅したことに気づいていないのでしょう。
果てる時にまで名前を呼んで、なんて可愛らしい……。
絶頂を迎えて少し冷静さを取り戻したのか、先ほどよりははっきりした発音で私の名前を呼ぶ。
衝撃から解放された体で、足音を立てずに静かに寄っていく。ベッドに手をついたと同時に覆い被さって、春歌の腕を撫でながら素早く下着の中に手を入れる。
「きゃん!……え、ええ!?い、一ノ瀬さん!?」
「ただいま、春歌」
ちゅっと頬にキスをすれば、ふわりと微笑み返してくれる。本人も無意識なこの笑みにどれだけ私が弱いか、君は知らないのですよね。
「こんなに長く一人にしてしまって、どうなるかと思いましたが。意外と楽しんでいたみたいですね?」
そう言いながら、まだ入れっぱなしの春歌の手に自分の手を添えて、濡れた指と指の間に人差し指をねじ込んでいく。ぬるぬると簡単に入ったことに気をよくして、中指も同じく挿入する。
「んん…っ」
まだ時折痙攣する内部をかき混ぜると、すぐに甘い嬌声が紡ぎ出される。春歌の手を押し付ければ、その下にある敏感な突起を刺激されて、春歌の背中が弓なりに反る。
可愛い。
こんなに我慢していたのです。早く味わいたいと思うのは当然。
春歌の絶頂がすぐそこに来ているのを理解していながらも、春歌の手ごと指を引き抜き、覆い被さっていた身体を離す。
期待を裏切られた表情も可愛くて、思わず笑いながらキスをする。久しぶりの彼女の唇の感触を堪能しながら、手早く服を寛げ、再び華奢な身体を組み敷く。
唇を合わせたまま春歌の足を広げて片足を私の肩に載せる。普段なら恥ずかしがってイヤイヤと泣くのに、今日は歓喜に満ちた顔でキスに応えてくれる。
普段の初心な春歌も可愛いですが、こんな風に素直に求められるのも良いですね。
濡れそぼった入り口に私のものをあてがって漸く唇を離すと、とろけた瞳が雄弁に見つめてくる。その視線に微笑みで答えると、私は一気に根元まで挿入した。
「きゃっ……、っあ、やあああんっ」
指でいじった時に絶頂の寸前でやめたからか、春歌は挿入と同時に果てた。ぎゅうぎゅうと締め付けてくる膣の感覚は強烈で、私のなけなしの理性が焼き切れる音がした。
「すみません、少し激しくします」
痙攣を繰り返す内壁をこじ開けるように抉り、亀頭まで抜いては根元まで突き入れる。何度も何度も収縮する感覚と、あられもない嬌声に、春歌が絶頂を繰り返しているのを知る。
「やっ、だめっ、また、……ん、んんっ」
ああ、またつま先までピンと伸ばして、シーツを握りしめて……。
本当に、春歌は仕草ひとつひとつ可愛らしい。
きっと終わらない絶頂の所為で苦しいだろうに、それでも私は止められそうにありません。
「もぉだめ……っ」
ヒクヒクと入り口を私の形に歪ませて、乱れた息を絶え絶えにした春歌に、私はもう我慢できません。
「いちのせさんっ、いちのせさ…!」
「ああ…春歌、春歌っ」
境目すらなくなっていくような、熱の応酬。
名前を呼び合うことしかできす、私たちは久しぶりの愛に浸りあった。
一晩中繋がりあい、空が白み始めたころ。
欠けていた半身を埋めるような激しい貪り合いも一心地つき、ベッドで並んで横になる。
汗と愛液でベタベタしているのに、気にならないくらい心が満たされているのがわかる。
「言い忘れてました。お帰りなさい、一ノ瀬さん」
照れた笑みが可愛くて、優しく抱きしめてキスをする。
「ただいま、春歌」
きっと私も気持ち悪いくらいの微笑みを浮かべているのでしょう。でも、春歌はその顔すら好きだと言うくらいですから、気にしません。
「それにしても、意外でした。きっと大げさに驚いてくれると思ったら、私の方が驚かされましたから」
もちろん春歌の自慰のこと。
ああ、顔を真っ赤にして動揺する春歌も可愛い。
「あ、あれは一ノ瀬さんのことを考えていたら……!はっ、一ノ瀬さんはそういうこと、なかったんですか?」
「しませんよ」
嘘ですけど。
毎夜のように君を思い浮かべて慰めていたと知ったら、どんな顔をするのでしょうね。
それはそれで気になりますが、いまは私の嘘に騙された表情がたまらなく可愛らしいので、追々焦らず楽しみましょうか。