「・・・・ッ・・・・はあっ、はぁっ・・・・くっ・・・・ふはぁ・・・・んっ・・・・うくっ・・・・んむうぅん・・・・」  
 
薄暗い病室の中、簡素な寝台の上で、お互いを求め合う二人の少女。  
側頭部で結わえた赤いポニーテールを情熱的に揺らす、「レダの戦士」陽子。  
腰の上まで伸ばした豊かな蒼髪を、白いシーツの上に広げて荒く息を注ぐ、「ヴァリスの戦士」優子。  
自らの想いを優子に受け容れて貰えた安堵感ゆえに、陽子の動きは徐々に快活さを取り戻し、  
既に「レダの鎧」をあらかた脱ぎ去り、ほぼ生まれたままの姿となっている。  
一方、優子の方は、陽子の変化自体は歓迎しつつ、まだ何処かに釈然としない感情が残っているのか、  
下半身を覆う飾り帯とスカート、そして、蒸れ上がった果実を覆う薄いショーツは、身に着けたままだった。  
 
「・・・・はふぅっ・・・・ずるいわよ・・・・優子・・・・んむっ・・・・ちゃんと裸になるって・・・・言ったじゃない!?」  
 
身体の下に組み敷かれて、大きく息を弾ませている先輩戦士に向かって、口を尖らせてみせる陽子。  
ポニーテールの先端から滴り落ちた汗の滴が、  
ほんのりと甘酸っぱい匂いを漂わせながら、ピンク色に上気した優子の顔をくすぐる。  
微細な感触に、優子の口元から、んんっ、というくぐもった声が漏れると、  
瞼の裏に溜め込まれていた涙滴が勢い良く溢れ出し、  
つい先程、陽子の汗の粒が流れていった跡をなぞるように柔肌の上をすべり落ちていく。  
 
「・・・・ハァハァ・・・・だ、だって・・・・陽子・・・・やっぱり・・・・その・・・・ぁんっ・・・・はずかしいし・・・・ううっ・・・・」  
 
羞恥心で目元を紅潮させつつ、弱々しく反論を試みる優子。  
だが、見上げた視線の先で、無数の汗がキラキラと光る形の良い乳房が扇情的に揺れ動く様子に、  
我知らず、呼吸が乱れて、胸の奥の鼓動がどんどん速さを増していく。  
 
「もう〜っ、優子ったら、今になって、そんな事言い出すなんてっ!?」  
 
少し拗ねたような目で頬をふくらませる陽子。  
その仏頂面が、一瞬、麗子のそれと重なって見えた優子は、  
半ば反射的に、きゅっ、と目を瞑り、「ごめんなさい」と謝罪の言葉を口にした。  
 
「ダメダメダ〜メ!謝ったって、許してあげないっ!」  
 
ふくれっ面のまま、しかし、口元には悪戯っぽい微笑を浮かべて、  
陽子は、細い指先を、「ヴァリス・スーツ」の飾り帯へと伸ばし、  
深紅の宝玉とそれを囲む流麗な象嵌細工をあしらった帯止めの裏へと潜り込ませる。  
カチャッ、という音がして、止め金具が外れるのと同時に、  
有無を言わせず抜き取られたベルトの下から、やや縦長の浅い臍穴と程良くくびれた下腹部とが露わになる。  
 
「・・・・あぁんっ・・・・い、いやぁ・・・・か、返してよ・・・・くううっ・・・・」  
 
未だスカートは身に着けているものの、ベルトによる締め付けを失った下半身は、  
妙に頼りなく、フワフワした感覚に包まれているように感じられて、  
優子は、抑え切れない羞恥心に身体を熱くしながら、うるうると瞳を潤ませる。  
だが、陽子は、駄々をこねる幼児を連想させるその表情に、却って意地悪な感情を催したらしく、  
手にした飾り帯を放り投げると、今度は、純白の布地で出来たスカートの中へと指先を潜り込ませた。  
 
「・・・・あらら、優子ったら、直接触れた訳でもないのに、もうこんなにビショビショにしちゃってる!  
やだぁ、これじゃもう、下着穿いている意味なんて、ぜ〜んぜん無いじゃないの!」  
 
つい先刻まで、完全に自信を喪失して、自慰に慰めを見出していたのが嘘のような積極さで、  
上体を倒し、優子の身体に肌を密着させる陽子。  
スカートの奥に忍び込ませた方の手をゆっくりと動かし、  
ぴっちりと張り付いたショーツの上から、薄い恥毛に覆われた恥丘をそっと撫でる。  
もう一方の手で、快楽に蕩けかけてヒクヒクと痙攣している横頬を、つう〜〜っ、となぞり上げると、  
優子は、堪らず、あぁんっ、と甘い声を上げながら、ふるふると唇を震わせた。  
 
(うふふッ、あたしってば、麗子からいつもされてる事、優子にしちゃってる・・・・。  
・・・・こんな風にしてるなんて、何だか、とっても変な気分だわ・・・・)  
 
すかさず、その口元をキスで覆い、優子の唇の感触をたっぷりと味わった後、  
陽子は、更に口腔に舌先を突き入れ、柔らかい粘膜を貪欲に舐めしゃぶっていく。  
ピチャピチャと音を立てながら優子と舌を絡め合うと、  
まるで麗子に扮した自分が優子の唇を奪っているように感じられて、妙な可笑しさが込み上げてくる。  
 
(・・・・優子は、どう思ってるのかしら・・・・?  
今、こんな風にトロトロの目で見上げてるのは、あたしのカオ・・・・?それとも・・・・?)  
 
その事を想像するのは、本来的には、とても情けない事である筈なのだが、  
今の陽子には、反対に、とても嬉しく、ある意味で誇らしい事でさえあるかのように感じられた。  
十中八九間違いなく、優子の瞳に映っているのは、自分ではなく、自分の中にある麗子の面影なのだろうが、  
この時、陽子にとっては、優子が、自分の中に麗子の姿を見出している事は、  
ある種のほろ苦さを感じこそすれ、必ずしも苦痛という訳では無かったのである。  
 
――――――――少なくとも、まだ、この時は・・・・。  
 
「・・・・はぁんっ・・・・うぁっ・・・・だ・・・・だめぇ・・・・んんっ・・・・うっ・・・・うぅんっ・・・・!  
・・・・あぁうっ・・・・そ、そこ・・・・そんなに・・・・ひぃっ・・・・いじっちゃ・・・・ふあぁぁっ・・・・!!」  
 
下着越しでさえそれと分かるぐらい、充血して硬く勃起した優子の陰核を、  
愛液で濡れそぼったショーツの薄い布地もろとも、親指の腹で軽く押さえつけながら、  
陽子は人差し指と中指とを器用に使って、肉莢の中に戻したり剥き上げたりを繰り返す。  
弱々しくかすれかけた涙声の合間に、甘いよがり声の混じるようになった優子は、  
不規則な間隔で痙攣し続ける太腿の間から、半透明な液体を間断なくジュクジュクと湧き立たせ悶え続けた。  
 
「・・・・うふふっ・・・・優子のココ、こんなにベトベトになって、いやらしくヒクついてるぅ  
・・・・優子ったら、責められてるのが、嬉しくて嬉しくてたまらないんだ・・・・!?  
フフッ、だったら、もっともっと、た〜くさん、感じさせてあげなくちゃあねっ!!」  
 
陽子の体の下で、右に左に大きく身体をよじりながら、快感に喉を震わせる優子。  
陽子の指に触れられた場所がじっとりと熱を帯び、耐え難いむず痒さに包まれていくのに合わせて、  
ビクンビクンと敏感な上下運動を続けていた腰が、ぐぐっと浮き上がって弓なりに反り返っていく。  
 
「ああっ・・・・あああっ!?だっ、だめえっ・・・・そこ・・・・いじっちゃ、だめぇぇっ!!  
ひあぁぁっ!!だめぇっ!!き、気持ち良いっ・・・・凄く気持ち良いよぉっ!!」  
 
陽子のそれよりも少しだけボリューム感に恵まれた胸のふくらみの頂きでは、  
一片の色素沈着とてない桜色の乳頭部が、罪深い性の衝動に煽り立てられて高々と屹立している。  
あまりに大量の愛液を吸い続けたため、ほとんど透き通りかけて、  
女性の最も恥ずかしい部分を覆い隠すという最低限の機能さえ果たせなくなったショーツの真ん中でも、  
散々に弄り回された陰核が、元の肉莢に戻る事を断固拒否してぷっくりと膨らんでいた。  
 
「・・・・うふふっ、優子って、本当に何処でも感じちゃうのね。  
乳首も、あそこも、もう限界って感じで、こんなにピクピクしちゃってるぅ。  
・・・・ん〜〜と、一回目は、どこでイカせてあげようかなぁ〜〜?」  
 
一旦手を止めた陽子が、興味津々といった表情で、見事な三日月型のアーチを形作った優子の体を眺め回す。  
発情しきった肉体を、好奇心満々な視線で見つめられた優子は、恥ずかしさに全身を一層固くしながら、  
今にも泣き出しそうな表情で、ハァハァと息を弾ませた。  
既に頭の中は真っ白で、陽子の次の一手によってもたらされる筈のエクスタシーの事しか考えられなかった。  
 
「ふあぁっ!!・・・・あぁぁっ!!ひいっ・・・・あくぅっ・・・・ふはあぁっ!!」  
 
迷った末、陽子は、ビショビショに濡れそぼったショーツをめくり上げると、  
指先を突き入れて、ヌルヌル液に浸かった恥毛の房を、ギターを爪弾くように丹念に撫で付けながら、  
肉莢を押し退けて突出しているピンク色の肉真珠の方向へと、ジワリジワリと肉薄を開始する。  
麗子の性のテクニックを見よう見まねで倣い覚えた指技は、まだまだ円熟の域に程遠いものだったが、  
絶頂寸前にまで昂ぶらされた状態の優子が相手であれば、それでも十分合格点と言って良かった。  
陽子の指が勃起陰核に触れる直前、その気配が伝わった瞬間に、僅かに残っていた優子の忍耐力は限界に達し、  
辛うじて押しとどめられていた性感は、快楽の頂点に向かって一気に上り詰めていく。  
そして、指の先が充血した肉の宝石に到達した後は、もはや何者もそれを遮る事は不可能だった。  
 
(・・・・うわぁ・・・・すごい・・・・何・・・・何なの、これ・・・・?  
・・・・ふあぁっ・・・・変だよ・・・・優子の声、聞いてるだけなのに・・・・どうしてこんなに感じちゃうのぉ・・・・!?)  
 
続けざまに襲い来る快感の大波に溺れ、全身をガクガクと揺らし続ける優子。  
その痴態を眺め下ろしつつ、陽子自身もまた、今にも達してしまいそうなくらいの陶酔感を感じていた。  
・・・・蕩けきった優子の表情、激しく痙攣する優子の手足、苦悶と喜悦とが無秩序に捩り合わさった優子の悲鳴・・・・  
目に映るもの耳に響くもの全てが、まるで目に見えない官能の茨と化したかのように五感に絡み付いてきて、  
体の芯がじんじんと熱せられ、激しく疼いてどうにも我慢出来なくなる。  
 
(・・・・ああああ・・・・何なの・・・・この感じ・・・・すっごく気持ちいい!!  
・・・・ひっ、ひぃんっ・・・・ダ、ダメ・・・・気持ち良すぎて、もう何も考えらんないィィ・・・・!!)  
 
激しく揺れる優子の乳房の躍動に感化されてか、陽子の胸までもが早鐘のように心音を打ち鳴らし、  
やや小ぶりな双乳の上でも、小さな乳首が精一杯背伸びをして、ツン、と先端を尖らせている。  
一方、まだあどけない雰囲気すら残る上半身に比べて、明らかに発育の度合いが勝った感のある下半身は、  
陰唇粘膜から分泌される半透明な愛液でベトベトに濡れ、卑猥なリズムで痙攣を繰り返していた。  
子宮の奥から溢れ出した蜜によって、念入りにデコレーションを施されたサーモンピンクの秘唇は、  
あたかもそれ自体が意志を持った一体の生物であるかの如く、  
欲望を剥き出しにして、目の前にあるもう一つの肉の果実へと飛びかかり、喰らい尽くそうと試みる。  
信じ難いほどの快感に揉み苦茶にされつつ、陽子は心の中に浮かんだ恋人の顔に向かって、叫び声を張り上げた。  
 
(・・・・麗子っ!!あああ、麗子、麗子、麗子ぉ・・・・!!  
・・・・ご・・・・ごめんねぇ・・・・麗子・・・・あたし・・・・今・・・・すっごく気持ちいいっ・・・・!!  
・・・・だから・・・・だから・・・・ちょっとだけ・・・・麗子の事・・・・忘れちゃうねぇ・・・・!!・・・・許して、麗子ぉっ!!)  
 
 
――――――――アシャンティ。ガルバ城内。  
 
「・・・・うっ・・・・ううっ・・・・んっ・・・・うくっ・・・・うむうぅ・・・・っ・・・・」  
 
地平線に没する直前の太陽に似た微弱な照明の中に、傷付き疲れ果てた体を横たえている麗子。  
両手両脚を大きく割り開かれた格好で、手術台を連想させる黒革張りの寝台の上に縛り付けられている。  
照射される光の中に含まれる微量のヴェカンタに反応して、時折、低い呻き声を漏らしつつ、  
手首と足首に嵌められた合金製の枷と寝台とを繋いでいる鉄鎖をジャラジャラと揺らすものの、  
疲労の極に達した肉体は鉛のように重く、頭の中はぼうっとして濃い灰色の靄に包まれているようだった。  
 
「フフフ・・・・いいわぁ、その力の抜けたカオ・・・・ホント、ゾクゾクしてきちゃう。  
まさしく身も心もズタボロの状態ねぇ・・・・迂闊に触れちゃったら、呆気なく壊れちゃいそう。  
ウフフ、さすがはメディアス、毎回毎回よくココまで徹底的に搾り取れるものねぇ・・・・感心しちゃう」  
 
拘束台の縁に腰を下ろした六本腕の男が、気色の悪いオカマ口調で一人悦に入りながら、  
半ば意識朦朧となっている麗子の表情に、ねっとりとした眼差しを這わせていく。  
本能的な嫌悪感ゆえにか、重く閉じた瞼がピクリと反応し、僅かに持ち上がりはしたものの、  
その下から姿を現した双眸は、輝きも力強さも失って、どんよりと濁りきっていた。  
 
(・・・・ううう・・・・また・・・・また・・・・負けたの・・・・あの女に・・・・。  
・・・・んうっ・・・・ダメ・・・・力が・・・・入らない・・・・ぐっ・・・・くぅっ・・・・)  
 
六つの手から生えた三十本の指が、肌の上からこびりついた泥土をこそぎ落としながら性感帯の位置を確認する。  
なけなしの力を振り絞って身体をよじる麗子だが、無論、逃れられよう筈も無く、  
反対に、抵抗力を喪失した惨めな姿が、阿修羅、と名乗るこのオカマ男の嗜虐の昂奮を倍増させたらしく、  
不快感に引き攣る麗子の顔に下卑た視線を這わせながら、耳たぶに生温かい息を吹きかけてきた。  
 
(・・・・ハァハァ・・・・や、やめろ・・・・気持ち・・・・悪いっ・・・・!  
・・・・ああっ・・・・ダメ・・・・それ以上・・・・触らないで・・・・くっ・・・・うううっ!!)  
 
ひょろっとした痩せぎすの体と青白く不健康な肌。  
金銀宝石を散りばめた、けばけばしい衣装の袖口には、神経質そうに常に動き続けている、左右三対の腕。  
それなりに整った目鼻立ちの顔も、塗りたくられた白粉と口紅によって台無しになっている。  
にもかかわらず、阿修羅が、自己の姿を中性美の極致と捉えて陶酔しきっている事は、  
必要以上に女性的な部分を強調した悪趣味な仕草と口調からも明らかだった。  
 
「フフフ、どうしたの?今日は、やけに大人しいじゃない。  
・・・・さては、アタシの良さがだんだんと分かってきたのね?どう、図星でしょう?」  
 
麗子の感情など一切お構いなく、はしゃいだ声を発する六本腕の変態男。  
鎖骨の窪みに指を這わせてすくい取った汗の滴を、目の前でペロペロとしゃぶってみせたかと思えば、  
腋の下に鼻先を突っ込んで、甘酸っぱい体臭を、くんくん、とこれ見よがしに嗅ぎ求める。  
羞恥心の高まりと共に激しさを増した呼吸動作、分けても、剥き出しの腹部の発するわななきに熱い視線を注ぎ、  
可愛らしいアーモンド形をした臍穴のひくつきに感嘆の声を漏らす。  
ついには、立ち位置を変えて、大きく開脚を強いられたしなやかな二本の太腿の間に屈み込むと、  
薄い黒地のショーツに包まれた女性器を食い入るように見つめながら、自らの一物を扱き立てさえした。  
 
(・・・・うう・・・・まただ・・・・また・・・・負けてしまう・・・・。  
・・・・ろくに抵抗も出来ず・・・・弄ばれ・・・・踏み躙られて・・・・ちくしょう・・・・こんなの・・・・惨め過ぎる・・・・)  
 
屈辱的な扱いに、きつく眉根を寄せ、ぎりっ、と奥歯を噛み締めて堪え続ける麗子。  
だが、これより以前、メディアスと名乗った女闘奴との闘いによって消耗しきった肉体にとっては、  
未だ前戯という水準にも達しない、悪ふざけのような行為ですら重い苦役に他ならなかった。  
すぐに息が切れ、目の前が霞んで、視界の中のものが抽象絵画のようにグニャグニャと混じり合っていく。  
混濁していく意識の中、麗子は、目の前の変態男の姿がぼやけて、もう一人の敵の姿へと変じ、  
柔肌に触れる卑猥な指先の動作が、容赦なく繰り出される打撃へと置き換えられていく錯覚に陥って、  
締め付けられるような恐怖感に、全身を激しく震え慄かせるのだった・・・・・・・・。  
 
 
――――――――数時間前。ガルバ城内。メディアスの闘技場。  
 
古代の円形闘技場を模して作られたのだろう、浮遊城内のこの施設は、他の区画とは異なり、  
金属とセラミックの構造材がむき出しになった、鉄の牢獄のような無機質空間ではなく、  
本物の石材と土とを用いて、ある程度まで、地上に似せた作りとなっていた。  
 
「・・・・だらしないねぇ。アンタ、一応は「ヴァリスの戦士」って奴なんだろ?  
それが、この程度の事でへばって、もう手も足も出ないってのは、一体全体どういう訳なんだい?」  
 
南洋の密林に生息する極彩色の鳥類を連想させる、明るい緑色を基調とした甲冑に身を包んだ大柄な女が、  
腰の先まで伸ばした、豪奢な、だが、あまり手入れの行き届いていないブロンドを揺らしながら、  
起き上がる事すら出来ない麗子の頬に、金属製のブーツの爪先を乗せ、体重をかける。  
うぐぅぅっ、と呻き声を上げて、苦痛と、それに数倍する屈辱感に表情を歪める麗子。  
その姿を傲然と見下ろしながら、女闘奴は、薄笑いを浮かべて、泥土まみれの靴底を容赦なく押し付けた。  
 
「ハーッハッハッハッ、どうしたんだい?てんで弱っちぃじゃないか?  
・・・・もしかして、「ヴァリスの戦士」ってのは、その程度のモノなのかい?」  
 
踏みつけられる麗子の横顔が、たちまちのうちに泥にまみれ、痣だらけになる。  
肩口で刈りそろえた赤銅色のショートヘアが土埃で黄土色に染まり、唇の端が切れて血が滲んだ。  
頭上から投げ付けられた冷やかな女の声に、辛うじて視線を上げて怒気を示しはするものの、  
膝から下は完全に力を失い、萎え凋んでしまったかのように頼りない感覚に覆い尽くされて立つ事も出来ない。  
目もくらむような屈辱感と無力な自分への怒りによって、「戦士」のプライドがズタズタに切り裂かれていく。  
 
「つまんないねぇ、ホラ、少しは抵抗してみせてよ。  
それとも、もしかして、今日はアレの日なのかい、お嬢ちゃん?」  
 
頭に足を乗せたまま、ボロボロに傷付いた麗子の姿を冷ややかに見下ろすメディアス。  
顔色は土気色に変じて、活力の欠片も感じられず、  
息をしているのかどうかも危ぶまれるほどの疲労に覆われた肉体は、どの筋肉も棒の様に硬直しきっていた。  
至る所に痣と打撲の痕が痛々しく刻み付けられた肌は、薄墨を流したかのようにくすんで見え、  
高度な魔力を付与され、多少の疵であれば、ひとりでに修復してしまう筈の漆黒の鎧さえもが、  
心なしか磨耗したかのように表面の光沢を減じ、所々、細かいひび割れや浅い窪みが散見できる状態である。  
 
――――――――囚われの身となって数日。  
麗子は、メディアスという名のこの女闘奴と、もう一人の六本腕の男によって、交互に慰み者にされていた。  
一日の半分は、この闘技場で、メディアスを相手に死力を尽くした格闘を強要され、  
もう半分は、隣接する区画にある拷問室で、精力絶倫の阿修羅から強姦されるという過酷な捕虜生活は、  
麗子の強靭な精神力を以ってしても、次第に耐え忍ぶ事は困難となりつつある。  
 
日々繰り返される、「格闘」とは名ばかりのほとんど一方的な暴行と、  
痛めつけられ疲労困憊した肉体を、徹底的に嬲り尽くす執拗な陵辱。  
「戦士」としての麗子と、一人の少女としての麗子・・・・その二つを同時に傷付け、穢し、叩き潰す試みは、  
ゆっくりと、しかし、着実に成果を上げつつあった。  
 
無論、彼らの意図に気付いた麗子は、この悪魔的な罠を掻い潜ろうと死に物狂いで逃げ道を探していた。  
だが、ヴァニティへの復讐に燃えるゼルとダリスが、持てる知識の全てを動員して生み出した二つの人工生命は、  
身体能力の強大さは勿論、知力にも優れ、思慮にも富み、とりわけ、各種の経験からの学習能力は並外れていた。  
一日一日、着実に熟練を積み、技術を会得し、腕前に磨きをかけていく彼らの姿を目の当たりにし続けるうち、  
最初の驚愕は、戦慄に、次いで、焦りに取って代わられ、やがて、閉塞感へと変わっていく。  
毎日、少しずつ真綿で首を絞められていくようなプレッシャーが心の中に重く圧し掛かって、  
今では逃げ道を探すどころか、逆に、抵抗の意志が萎え縮んでいくのを押し留める事すら難しくなりつつあった。  
 
「・・・・フフフッ、まだだよ、麗子。まだ休みはやらない。  
・・・・ほぅら、美味しいご馳走の用意が出来た。クックックッ、これで、またヤル気が出てくるわよ」  
 
ようやく足を退けたメディアスが、陰険な笑みを浮かべつつ、麗子の傍らに屈み込み、  
無残に踏み躙られてグシャグシャに乱れた髪の毛を鷲掴みにする。  
地べたに這いつくばったまま、弱々しく身体を震わせる少女の体を力任せに引っ張り上げ、  
地面から引きずり起こすと、その目の前で、手にした小さな物体をこれ見よがしにかざしてみせた。  
半死半生の状態で、しばらくの間ぼんやりとそれを眺めていた麗子は、  
やがて、放出され始めた邪悪な気配からその正体に気付くなり、恐怖のあまり、表情を凍りつかせた。  
 
「・・・・ひっ・・・・ぐぅっ・・・・いやぁっ・・・・!!あああっ・・・・や・・・・やめて・・・・も、もう・・・・!」  
 
怯えすくんだ瞳に映る、赤黒い焔のような瘴気を噴き上げる小さな多面体の輝石・・・・  
特殊な技術を用いて物質化させた、「ヴェカンタの炎」に他ならない。  
極大の危険を感知した、漆黒の「ヴァリスの鎧」が、防御フィールドを展開しようとするものの、  
途端に、闘技場全体に張り巡らされた特殊な力場が活性化して、その力を押さえ込む。  
力を封じられた「鎧」を難なく透過した、「ヴェカンタの炎」の生温かい舌先が、  
小刻みに震える麗子の肌を、まるで味見でもするかのように、チロチロとくすぐっていく・・・・。  
 
「・・・・むああっ・・・・や、やめて・・・・おねがい・・・・来ないで・・・・あああっ・・・・いやああぁっ・・・・!!  
・・・・あうう・・・・ヴェ、ヴェカンタが・・・・流れてくる・・・・だめぇっ・・・・抵抗・・・・できないィっ!!」  
 
凝固した血のような色合いの結晶体から溢れ出した負の力に、悲痛な叫びを上げる麗子。  
ヴァニティの住人となる以前、「ヴェカンタの黒き戦士」として、  
暗黒王ログレスその人から、魔に属する諸力の特性と制御法を教え込まれた麗子ではあったが、  
いまメディアスの手の中の宝玉から放射されているヴェカンタの魔力は、  
その知識を以ってしても、手に余る程の強大なエネルギーに満ちていた。  
 
元より、強力ではあるものの、恐ろしく不安定なヴェカンタの力は、  
慎重の上にも慎重な取扱いによって制御下に置かない限り、  
遅かれ早かれ使用者の身に破滅的な結果をもたらしかねない剣呑な代物である。  
その実例を、幾度と無く目の当たりにしていた麗子は、こうして強制的に「ヴェカンタの炎」を注ぎ込まれる度、  
足元にぽっかりと大きな口を開けて待ち構えている奈落への入り口を覗き込む思いで、  
到底冷静でいる事は叶わず、全身をがくがくと打ち揺らさずにはいられなかった。  
 
「ウフフッ、いつもながら往生際が悪いわよ、お嬢ちゃん。  
どのみち、最後には我慢出来なくなっちまうんだから、とっとと諦めて素直になったらどうなの?」  
 
恐怖に身をよじり、全身に纏わりつく赤黒い瘴気から逃れようともがく麗子を、  
碧の鎧を纏った人間兵器が、さも面白そうに眺めやり、豊かな金髪を揺らしながら嘲笑する。  
冗談ではない、と必死にかぶりを振る麗子だったが、  
その一方で、彼女の指摘通り、たしかにその肉体は戦闘で失ったエネルギーの補充を渇望してもいた。  
 
(・・・・あああ・・・・だ、だめ・・・・入って来る・・・・ふああっ・・・・滲み込んで来るぅっ・・・・!  
・・・・ひいぃっっ・・・・いや・・・・いやよ・・・・こんな力・・・・いらない・・・・いらないのにィッ!!  
・・・・ひあぁっ・・・・だめぇっ・・・・入って来ちゃう・・・・と、止まらないよぉッッ!!)  
 
あたかも、砂漠を彷徨う旅人が、蜃気楼となって現れるオアシスを無視出来ずに、  
幻と知りつつ、その方向に足を向けざるを得ないのと同じ理屈で、  
理性の制止を振り切った麗子の肉体は、禁断の力へとむしゃぶりつき、思う存分身体の奥へと流し込んでいく。  
ましてや、「ヴェカンタの炎」が与えるのは、砂漠の蜃気楼などでは決してなく、  
破滅と隣り合わせの均衡の上に成り立つ危険極まりない性質のものとは言え、  
紛れも無く、今の麗子が欲してやまないエネルギーそのものである。  
・・・・麗子が、どれだけ気力を振り絞り、自制心を取り戻そうと躍起になろうが、  
少しでも多くの活力、すなわち、生き抜くための生命の糧を得たい、という本能に抗う事は不可能だった。  
 
(・・・・だ・・・・だめぇ・・・・止まらない・・・・止められない・・・・よぉ・・・・。  
・・・・くぅぅっ・・・・い、一体・・・・どうすれば・・・・どうすればいいの・・・・!?)  
 
――――――――ハアッ、ハアッ、ハァッ、ハァッ・・・・・・・・。  
 
闘技場の地面に突っ伏した麗子の肩が、荒々しく上下する。  
「ヴェカンタの炎」のもたらすエネルギーを吸収して体力を回復した彼女の肉体は、  
今度は、溜め込んだその力を、目の前で挑戦的なポーズを示す金髪の女に向けて叩き付ける事を要求する。  
高熱にうなされる熱病患者のようにブルブルと痙攣する手足を必死に押し留めようとする麗子だが、  
ヴェカンタによって、力と共にその体にもたらされた、闘争と破壊への衝動の前には儚い抵抗でしかない。  
 
(・・・・ううっ・・・・くっ・・・・くそッ・・・・ダメ・・・・やっぱり、止められない・・・・!!)  
 
・・・・・・・・だぁんっ!!!!  
 
理性の箍が弾けた瞬間、地を蹴って跳躍した麗子の影が、勢いよく空中を舞い、  
腕組みしたままニヤニヤと薄ら笑いを浮かべていた金髪女の顔面に、必殺必中を期した飛び蹴りを食らわせる。  
だが、メディアスは、ひょいっと無造作に首を曲げただけで、それを難なくかわすと、  
その姿勢のまま、全く無駄のない動きで後ろに飛び退き、間合いをとった。  
着地した麗子が、無念そうな唸り声を上げつつ、素早く次の攻撃動作に移る構えを取ると、  
女闘奴もまた、体の重心を落として身構えはしたものの、依然口元には余裕の笑みが浮かんだままである。  
怒気に包まれた麗子の肩先がわななき、握り締めた拳がワナワナと震える。  
 
「・・・・っ・・・・ヤアアァァッッッ!!」  
 
甲高い喊声を放ちながら、突進する麗子。  
一気に間合いを詰めて女闘奴の懐に肉薄すると、獲物に飛びかかる猛禽のような勢いで手刀の連撃を放つ。  
再びかわされはしたものの、今度はそれを予期して攻撃を組み立てていた麗子は、  
メディアスの動作の中に出来た僅かな死角を衝いて足払いをかけ、バランスを崩す事に成功すると、  
その右腕を掴んで、肘関節に強烈な捻りを加えつつ、渾身の力を込めて投げ飛ばそうとした。  
 
(・・・・もらったっ・・・・!!)  
 
金髪女の長身が空中を泳ぐ。・・・・だが。  
 
「甘いねぇ・・・・そんな手を二度も食うほど、あたしは物覚えが悪くは無いわよ」  
 
空中で身体の位置を入れ替えたメディアスが、着地間際、驚く麗子の脇腹に強烈な蹴りを叩き込む。  
鈍い音がして、しなやかなウェストラインが醜く凹み、次いで、少女の体が力を失った。  
大きく見開いた目に、計算し尽くした筈の攻撃をいとも容易く見破られてしまった衝撃をありありと浮かべつつ、  
麗子は、くの字型に大きく身体を折り、地面へと崩れ落ちていく。  
 
(・・・・な、なんて奴なの・・・・っ・・・・!?)  
 
地べたに倒れ伏し、激痛に呻きながら、改めてメディアスの学習能力の優秀さを思い知らされる麗子。  
前にこの技を使ったときは、投げ飛ばすところまでは上手くいかなかったものの、  
関節の破壊には成功し、腕を一本、一時的に使用不能にする事が出来たのだが・・・・。  
 
(・・・・たった一度使っただけなのに・・・・しかも・・・・こんな短期間で・・・・)  
 
胃液と共に、底知れぬ恐怖がこみ上げて来る。  
自分の動作が全て捕捉され、データとして蓄積されているのは分かっていたが、  
その事と、実際に技に反応して、これをかわし、反撃まで出来る事とはあくまで別の話である。  
いくら情報が正確かつ豊富であっても、それを理解して自分の動きの中に取り入れるのは、  
どれほど柔軟な反応力と優れた反射神経の持ち主であっても、決して簡単な事ではない筈なのだが・・・・。  
 
(・・・・む、無理だわ・・・・歯が立たない・・・・こんな奴相手に・・・・どう戦えばいいの・・・・!?)  
 
「ヴェカンタの炎」によって高められていた戦闘意欲が急速にしぼんでいく。  
一旦、恐怖や消沈を感じてしまうと、ヴェカンタは、一転してこちらの感情を増幅させるようになり、  
同時に、肉体を燃え立たせ、活力を注ぎ込むのもやめてしまう。  
 
(・・・・やっぱり・・・・やっぱり・・・・こいつには勝てない・・・・勝てっこない・・・・)  
 
痛む脇腹を押さえて蹲ったまま、絶望の呟きを漏らす麗子。  
体力的な面だけを考えれば、今しばらくの間、攻勢を続ける事も出来る筈だが、  
既に気力の方は潰滅状態で、どう考えても勝ち目の無い闘いに集中し続けるのは不可能だった。  
それどころか、恥も外聞もかなぐり捨てて、メディアスの前に身を投げ出し、情けを請いたい、  
というあさましい衝動が、何度否定しても、繰り返し執拗に頭をもたげてくる始末だった。  
 
「フフンッ、どうしたんだい、さっきまでの威勢の良さは?  
ハッ、だらしないねぇ。この程度じゃあ、こっちは準備運動にもならないってのに」  
 
壁際に追い詰めた鼠にとどめの一撃を与える前に、小さな傷を幾つも与えて嬲り回し、  
恐怖に怯える様を眺めて楽しむ性悪猫のように、麗子の体をねめつける女闘奴。  
抵抗の意志を失った相手に向かって、わざとらしく大げさな身振りで、降伏を認める意思の無い事を示す。  
 
「ダメだよ・・・・ダメダメ、そんなカオをしたって、まだまだ許してはやらないよ。  
もっともっと痛めつけて、お前の力なんてたかが知れたものだと理解させてやれってのが命令だし、  
大体、このまま終わりにしたんじゃあ、あたし自身がちっとも面白くないからねぇ」  
 
おどけた口調で、酷薄きわまる宣言を行うや否や、メディアスは麗子に向かって突進を開始する。  
痛む体を引き摺るようにして、横っ跳びに体を投げ出し身をかわそうと試みる麗子。  
何とか間に合ったと思ったその瞬間、麗子の背中に向かって、  
あらかじめその動きを予期してタイミングを合わせていた、強烈な蹴りが放たれた。  
避ける術とて無く、直撃を受けた麗子の身体が、地面に叩きつけられ、  
まるで空気の抜けかかったゴム鞠のように、二度三度と、低くバウンドしながら転がっていく。  
 
「アーッハッハッハッ!!どうだい、苦しいだろ!?痛いだろ!?惨めだろ!?   
・・・・クククッ、でも、まだだよ、まだまだ許してはやらないッ!!  
麗子、お前の心が完全にブッ壊れて、二度と元に戻らなくなるまで許す気はないからねッ!!  
徹底的に嬲り尽くして、ヴェカンタの力で回復させて、また嬲り尽くす・・・・  
お前の心から光が消えちまうまで、何十回でも何百回でも繰り返してやるから、覚悟しときなッッ!!!!」  
 
豪奢な黄金の髪を揺らしながら、高らかな勝利の勝ち鬨を轟かせるメディアスの声が、  
土埃にまみれて地面に身を横たえる麗子の耳朶を激しく打ち据える。  
背骨がバラバラに砕けたかのような衝撃のせいで、満足に呼吸する事もおぼつかず、  
激痛と敗北感とで蒼白に変じたその顔は、凛々しさも知性も完全に消え失せ、醜く歪みきっていた。  
 
「・・・・あがっ・・・・ああ・・・・い、いや・・・・ぐぐぅ・・・・もう・・・・ううう・・・・いやぁ・・・・。  
・・・・あふっ・・・・ぐぐっ・・・・や、やめて・・・・おねがい・・・・もう・・・・ゆるして・・・・うううっ・・・・」  
 
ひとしきり哄笑した後、再び冷酷な表情に戻ったメディアスが大股歩きで近付いてくる。  
必死に逃げ出そうとするものの、背中に受けた痛打のせいで、起き上がる事すら出来ない麗子。  
あっという間にすぐそばまでやってきた金髪女は、その痛々しい姿を冷ややかに眺めつつ、  
再度あの宝玉を取り出すと、身動き一つ出来ない少女の体に「ヴェカンタの炎」を注ぎ込んでいく。  
 
「・・・・い、いや・・・・あああ・・・・いやよ・・・・もう・・・・いやぁっ・・・・!!  
・・・・ひいぃっ・・・・ゆるして・・・・おねがい・・・・もう、だめぇっ・・・・あああっ・・・・たすけてぇっ・・・・!!」  
 
がくがくと震えながら、傷ついた肉体の中で再び存在を増していく灼熱感に対して狼狽の声を漏らす麗子だが、  
打ちのめされ無力感に喘ぐその心には、もはやその誘惑に抗しうるだけの力は残されてはいない。  
息を吹き返した激情が、火口から噴出した燃え盛る溶岩流のような勢いで、  
「ヴァリスの戦士」としての使命感も誇りも意地も何もかも、全てを呑み込んで焼き尽くしていく。  
 
「・・・・たすけて・・・・たすけてぇっ!!ひぎぃっ・・・・カラダが熱いっ・・・・熱いよォっ!!  
・・・・あああ・・・・燃える・・・・何もかも・・・・燃え尽きていくぅッ・・・・うああぁぁっ!!」  
 
連続して起こった衝撃が、何度も何度も麗子の体を激しく揺さぶる。  
もはや、自分の身に何が起きているのかすら把握出来なくなった少女には、  
絶望に駆られて、闇雲に悲鳴を上げ続けながら、  
ただひたすら、この悪夢のような時間が一秒でも早く過ぎ去る事を咽び泣きながら祈るのが精一杯だった・・・・。  
 
・・・・・・・・ピチュッ!ピチュピチュッ!!ピチャッ!ピチョピチョピチョッ!!  
 
湿った水音と巧緻を極める口唇愛撫とが、麗子の意識を現実へと引き戻す。  
耐え難い疼痛感に覆われた頭を弱々しく揺らしながらも、  
ともかく悪夢から目覚める事が出来た事に安堵のため息をつくが、それも長くは続かない。  
今度は、肉体ではなく、五感と理性とを激しく責め立てる陰湿な悪意が、弱りきった自我を蝕んでいく。  
 
(・・・・くうぅっ・・・・ダ、ダメ・・・・我慢・・・・しなきゃ・・・・はうっ・・・・ううぅっ・・・・)  
 
必死に堪える麗子だったが、柔らかい唇のしわを一本一本引き伸ばすかのように執拗に舐めしゃぶられるうちに、  
むず痒さと熱っぽさとがじわじわと蓄積していき、固く閉じ合わされていた口元が少しずつ緩み始める。  
それを確認した上で、今度は、鼻筋へと指を伸ばし、鼻腔を押さえて気道を塞いでしまう阿修羅。  
悪辣なやり口に怒りの視線を発した麗子も、こうなってしまってはもはや口を開く以外に道はない。  
なるべく開口部の面積を狭くして、邪悪な舌先の侵入を阻もうとはするものの、  
白く輝く清潔な歯並びと滑らかなピンク色の粘膜に覆われた歯茎の上を這い回る、少しざらついた舌の感触は、  
綻びを生じつつあった少女の守りをあっさりと打ち破るのに十分なだけの卑猥さを帯びていた。  
単に呼吸不足によって引き起こされただけのものではあり得ない、猛烈な息苦しさが麗子を追い詰めていく。  
 
「・・・・んっ・・・・ぅっ・・・・ぐっ・・・・うう・・・・はっ・・・・はぅぅ・・・・あ・・・・かはぁっ・・・・!!」  
 
苦悶に満ちた喘鳴と共に屈辱の呻きを吐き出しながら、大きく口蓋を開け放つ麗子。  
間髪入れず、グネグネと蛇のようにのたくる長い舌を捻じ込んだ阿修羅の顔が、勝利の笑みに包まれる一方、  
口の中を我が物顔で蹂躙していく舌先の感触に、改めて敗北を実感した麗子の目から涙が零れ落ちる。  
だが、一旦、喉の奥から気管にまで達する人間離れした長大なサイズの舌に触れられると、  
その刺激に、口腔粘膜はざわざわと敏感な反応を示し、生温い唾液がジュルジュルと湧き出してくる。  
 
「・・・・っ・・・・あぁっ・・・・!!・・・・っくぅ・・・・くっ・・・・くはぁ・・・・くはぁぁぁっ・・・・!!!!」  
 
とめどなく分泌される甘い唾液が口の中を一杯に満たし、力の抜けた唇の端から、とろ〜り、と垂れ落ちる。  
巧みに誘い出されたピンク色の可憐な舌先に、とても同じ器官とは思えないグロテスクな青紫色の舌が絡み付き、  
激しく、しかも、十分に計算された動きで、貪欲にしゃぶり尽くしていく。  
高度な技術に裏打ちされた濃厚で執拗な愛撫の前に、性愛の達人としての自負を打ち砕かれた麗子の中で、  
抵抗の意志が音を立てて崩れ、代わりに、ゾクゾクするような被虐感と淫らなメスの欲望が存在を増していった。  
 
(・・・・だ・・・・だめぇ・・・・止まらない・・・・止められないよぅ・・・・!!  
・・・・あああ・・・・堕ちる・・・・堕ちていくのが分かる・・・・!!もう、だめぇっ・・・・おかしくなるぅっ!!)  
 
ピチャピチャと大きく水音を立てながら舌を絡める一方で、  
阿修羅は六本の腕を伸ばし、身動きできない麗子の身体を思いのままにまさぐり回る。  
二本の腕と十本の指だけでは決して味わう事の出来ない快感の多重奏に弄ばれる麗子は、  
ひぃひぃと泣きじゃくりながら、ひたすら悶絶し続けるだけだった。  
 
(・・・・ああ・・・・もう・・・・やめて・・・・ゆるしてぇっ!!  
・・・・おねがい・・・・も、もう、ダメ・・・・気が変になる・・・・あああっ・・・・もう・・・・もうっ・・・・!!)  
 
噴き出した汗の粒でヌルヌルし始めたみぞおちに滑り込んだ一対の手指が、  
各々、毀たれ薄汚れて光沢を失った漆黒の胸当ての中に潜り込み、  
蒸れてマシュマロのように柔らかくなった乳房をやわやわと揉みしだきながら、  
さらには、刺激に対して敏感に反応してむっくりと身を起こした乳首を捉まえて、コリコリと擦り立てていく。  
上へ上へとせり上がっていく剥き出しの腹部を撫で回していた手が、  
その真ん中にある臍穴へと伸びたかと思うと、小指の先を突っ込みグリグリとほじくり返す。  
残る三本の手は、拘束された体に許された限界ギリギリまで浮き上がった腰の前後から、  
一斉にスカートの中へと侵入し、黒いショーツをビリビリと引き裂くと、  
そそり立つ陰核を摘んで扱き立てつつ、秘裂と肛門を強引にこじ開け、容赦なく指先を突き入れた。  
 
「・・・・ああ・・・・あああ・・・・いや・・・・もう、いやぁ・・・・!!  
こ、壊れる・・・・壊れちゃう・・・・!!・・・・うあああ・・・・死んじゃうぅぅっ・・・・!!」  
 
時には乱暴に、時には優しく、時には焦らしながら、快感のツボを完璧に押さえた阿修羅の責めは、  
強すぎず弱すぎず、烈し過ぎず緩過ぎず、標的の状態を常時確認しつつ、着実に性への欲求を煽り立てていく。  
その点は、優子や陽子を存分によがらせ、忘我の境地へと誘う麗子の手管と基本的には同じなのだが、  
阿修羅の性技には、あたかも標本用の死体を切り刻む解剖医の如く、労りも情愛も無く、  
むしろ、徹底的に相手を貶め、嘲弄して、絶望へと追い込もうとする陰険な意図が滲んでいる点が決定的に異なっていた。  
 
「・・・・あが・・・・あああっ!!・・・・もう・・・・もう・・・・だめ・・・・だめえぇぇっッッ!!!!」  
 
その事に気付きつつ、それでもなお、あさましい肉の悦びに震える自分自身を止めることの出来ない無力感は、  
メディアスの圧倒的な身体能力と戦闘技術によって叩きのめされるのとは、また違った意味で、  
麗子の自尊心を深く抉り、心の中に重く垂れ込める、途方も無い自己嫌悪を生じさせていた。  
その心理的陥穽に陥った者は、やがて、心の中に、自分自身への深刻な不信を抱くようになり、  
阿修羅の、そして、彼を生み出したゼルとダリスの、真の狙いである、  
自らの心を自らの言葉によって、縛り、穢し、傷付ける、逃げ道の無い無間地獄を出現させてしまう事になる。  
 
そして、その先に待っているのは・・・・・・・・。  
 
 
――――――――TO BE CONTINUED.  
 

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