――――どうして、こんなことになっちゃったんだろう?  
 
・・・・気が付いた時、優子は、体操服姿のまま、  
校舎の屋上から、ぼんやりと校内の騒ぎを見下ろしていた。  
体育館の中に充満した黒い煙が、開け放たれた窓から、もくもくと立ち上る様子を、  
慌てふためいた生徒や教師たちが、教室の窓に鈴なりになって見物している。  
千人近い数の人間の、心配気な、それでいて、何処か楽しそうにも聞こえるざわめきに、  
五時限目の授業の終了を告げるチャイムの音と、火災報知機のけたたましいベル音とが重なって、  
のどかな午後の学び舎を襲った時ならぬ騒動は、ますます混乱の度合いを深めていくようだった・・・・。  
 
 
 
私立聖心女子学園。体育館。正午。  
 
チャイムの音を聞きながら、優子は、ふぅっ、と、小さく息をついた。  
授業は、その10分ほど前に切り上げられており、  
隣接する更衣室の方向からは、着替えを済ませた級友達の、教室へと急ぐ足音が聞こえてくる。  
あいにく、優子は、今週の体育当番にあたっており、  
しかも、今日に限って、もう一人の週番の生徒が、体調不良で早退してしまったため、  
四時限目の授業の後片付けを、一人でやらねばならない羽目に陥っていた。  
 
(・・・・あ〜あ、ツイてないわね。やっぱり、誰かに手伝って貰った方が良かったかな・・・・)  
 
襟元と袖口に紺色の折り返しのついた、白い半袖の体操服に、ぴっちりとした濃紺のブルマ。  
足元には、平均的な長さの無地のソックスとゴム製の体育館用シューズを履き、  
腰の上まで伸ばした艶やかな蒼髪は、体育の授業中、邪魔にならないように括ったまま、  
という出で立ちで、黙々と片付け作業を続ける優子。  
4面あるコートに張られたバレー用ネットを、ポールから外して床に下ろし、  
手際良く折り畳んでいくのは、骨の折れる仕事だった。  
授業が終わり、一旦は引いた筈の汗が、再びジワジワと沁み出して来て、優子をさらに憂鬱にさせる。  
 
「・・・・君。ええっと、たしか・・・・麻生さんだったかな?」  
 
唐突に、背後から呼び止められて、びっくりしたように振り向く優子。  
ネットを畳んでいる最中に、開け放してある出入り口から入ってきたのだろう、  
背の高い痩せ気味の身体を、ネズミ色の背広で包んだ男性が佇んでいた。  
顔に見覚えはあるものの、名前を思い出せず、困惑した表情の優子に、  
まだ20代後半といった年恰好のわりには、あまり見栄えのしない、  
何処となく陰気な雰囲気さえまとわりつかせたその教諭は、低い声で名前を名乗る。  
 
「・・・・すまない。驚かせちゃったかな?  
僕は、榊原精一。3年の数学を教えている」  
 
「・・・・ええと・・・・失礼しました、榊原先生。何か、ご用でしょうか?」  
 
名前を聞いて、ようやく目の前の相手が誰なのか、思い出した優子は、やや緊張した面持ちで答える。  
まだ2年生の彼女は、直接授業を受けた事もなく、それ以外の場で面識を持った事もなかったが、  
数学科の榊原と言えば、生活指導担当の教師の一人として、生徒達の間では有名な存在だった。  
聖心女子学園は、私立の女子高としては校則はゆるやかな方で、教師もあまり口喧しくはないのだが、  
彼、榊原精一は、数少ない例外の一人で、一部の生徒からは規律主義の権化の如く揶揄されている。  
 
「うん。実は、今朝、この周囲を見回っている最中に、万年筆を落としてしまってね。  
忙しい所を悪いんだけど、一緒に探して貰えないだろうか?  
多分、体育用具室の中のハズだから、そんなに時間を取らせる事はないと思う」  
 
「・・・・えっと、ハイ、分かりました。先生」  
 
「それじゃ、行こうか」と、言い、榊原は、体育館の隅にある用具室の方へとスタスタと歩き始める。  
バレー・ネットを抱え上げ、その後に続いた優子は、壁の時計を見上げて、もう一度、ため息をついた。  
 
(12時10分・・・・早く着替えて、お昼済ませないといけないのに、まったくもう・・・・!)  
 
「・・・・すまないな。僕はこっちの方を探すから、麻生さんは、そっちを頼むよ」  
 
体育用具室の中はそれほど広くは無かったものの、跳び箱やマット、各種のボールや運動用具が、  
最低限の分別だけで無造作に放り込まれている。  
普段、授業の準備や片付けに使うだけならば、その状態でもあまり不便には感じないのだが、  
この中から万年筆を捜すとなると、ひと苦労は覚悟した方が良さそうだった。  
抱えてきたネットをバレー用具の置かれた一角に下ろした優子は、  
とりあえず、跳び箱や平均台の間を探そうと、窮屈そうに身体を折り曲げ、しゃがみ込んだ。  
 
身体を屈め、手探りで体育用具の間の狭い空間を捜索する優子。  
普段は閉め切られている体育用具室の中は、換気が悪く、独特の臭気がたちこめている。  
淀んだ空気を我慢しながら、床を這うように探索の範囲を広げていくのは、予想外の重労働で、  
先程までの授業と後片付けの疲れも手伝ってか、すぐに優子の体は小さな汗の粒に覆われ始めた。  
丸められた背中に、下着のラインが浮かび上がり、  
体操服の裾がめくれ上がって、下から、よく引き締まった背中が顔を覗かせる。  
その下では、濃紺のブルマに包まれた形の良いお尻と、  
しなやかに伸びた健康的な太腿が、上体の動きに合わせて、リズミカルに揺れ動いていた。  
 
・・・・何の疑いも差し挟む事も無く、万年筆探しに没頭する優子の後ろ姿を見下ろしながら、  
榊原は、懐の中から、丁度手の中に収まるくらいの大きさの器具を取り出し、素早く袖の中に隠した。  
ニヤリ、と口の端を歪め、声を立てずに笑いつつ、足音を殺して忍び寄っていく。  
だが、「ヴァリスの戦士」として幾多の死線をくぐり抜けてきた優子の五感には通用しなかった。  
 
「・・・・先生?どうかされましたか?」  
 
振り返った優子の怪訝そうな声に、危うく驚愕の声を上げそうになる榊原。  
どうにかこうにか、口の中でその叫び声を噛み殺しつつ、素早く彼我の距離を目測する。  
(少し厳しいか・・・・?)一瞬、次の機会を狙おうか?と、弱気な考えが脳裏に浮かんだものの、  
しかし、榊原はすぐに心の中で強くかぶりを振り、その考えを打ち消した。  
 
(・・・・馬鹿を言え。次の機会だと!?こんなチャンスが、そうそう滅多にあるものか!?  
・・・・なぁに、いざとなれば、奥の手だってある訳だし、多少、手荒な事をしたって大丈夫だ!!)  
 
「・・・・あ・・・・ああ、うん、その・・・・さっき、その跳び箱の奥の方で、何か光ったような気がしてね。  
ちょっと、手を伸ばしてみてくれないか?」  
 
内心の葛藤を見せまいと、努めて冷静な素振りを装う榊原。  
優子は、小首をかしげながらも、さっさと切り上げて教室に戻りたい、という気持ちの方が優ったのか、  
言われた通りに、狭い跳び箱の奥へと身体を押し込み、腕を伸ばして辺りをまさぐり始めた。  
その様子を覗き込む風を装いながら、無防備な背中に視線を落とす榊原。  
袖の中に隠した凶器を手のひらに滑り込ませ、体操服越しに優子の背中に押し付ける。  
 
「・・・・えっ・・・・!?先生、なに・・・・きゃああっ!!」  
 
振り返ろうとしたその瞬間、背後で、バチバチッ、と青白い火花が飛び散ったかと思うと、  
背中を襲った衝撃と激痛が全身に燃え広がって、優子の視界は、真っ白い光で覆い尽くされた。  
一瞬、否、半瞬のうちに、呼吸が詰まり、心臓が悲鳴を上げ、手足に捻じ切れるような痙攣が走る。  
助けて、と、叫ぼうとした時には、既に声も出なくなり、意識が朦朧となり始めていた。  
そのまま、目の前が真っ暗になり、五感が消失した優子は、  
自分の身に何が起こったのか、全く分からないまま、榊原の足元へと崩れ落ち、気を失った。  
 
「・・・・へッ、へへへ・・・・おいおい、麻生君、一体、どうしたんだね・・・・?  
・・・・困るじゃないか、こんな所で寝ちゃったりしたら・・・・くくッ、くッくくッ・・・・」  
 
化繊を織り込んだ綿混の布地が焼け焦げる、いやな臭いに眉をひそめつつ、  
榊原は、手にしたスタンガンを脇に置くと、失神した優子の傍に座り込んだ。  
醜悪に歪んだ表情を、抑えきれない嗜虐への欲求にプルプルと打ち震わせながら。  
目の前の床に、くの字型に身体を折り、倒れている少女を、舐め回すように凝視する。  
 
均整のとれた身体、すらりと伸びた手足、汗ばんで上気した肌は何処までもみずみずしかった。  
うなじは透き通るように白く、倒れた拍子にゴムが外れたのか、  
汗をふくんだ長い蒼髪が大きく広がって、キラキラと光沢を放っている。  
やや早熟気味な胸のふくらみを包み込んだ、白い体操服は、倒れた拍子に大きく乱れて、  
丸首の襟元から、鎖骨の窪みと中にワイヤーの入っていないブラジャーの肩紐がのぞいている。  
はだけた裾の下には、程良くくびれたウェストと浅い縦長の臍。  
そこから伸びる下半身の曲線は、色白の肌を覆う、ぴっちりとした紺色のブルマーによって、  
引き締められ抑制されていたものの、それでも充分に肉感的だった。  
特に、紺色の布地の切れ目に沿った辺りはそれが顕著で、  
太腿の付け根と尻たぶの裾野との境界線上にある、弾力に富んだ部分には、  
赤いラインが肌の上で何本も交錯し、抑圧に対する抵抗の大きさを雄弁に物語っている。  
 
「・・・・むふっ・・・・ふふふ・・・・全く、可愛い顔をして、困った生徒だねぇ、麻生君は・・・・。  
・・・・そういう生徒には、ちょっとばかり、おしおきが必要だな・・・・いひっ、ひひひっ・・・・」  
 
プツプツと訳の分からない事を呟き続けながら、神経質そうに両手をこすり合わせる榊原。  
邪魔が入らないよう、用具室のドアを閉め、つっかえ棒をして鍵がかかっているように偽装する。  
これだけ天気の良い日に、わざわざ職員室まで体育館の使用許可を貰いに行ってまで、  
昼休みにここでバレーやバスケに興じようという生徒がいるとも思えなかったが、  
念には念を入れて、この部屋の鍵は持ち出して来ていた。  
五時限目の体育の授業では、どの学年も体育館を使用しない事も確認済みである。  
六時限目の授業のため、一年の生徒たちが体育館にやってくるのは、午後2時30分頃のハズで、  
それまでの約2時間、この場所に関心を抱く人間が現れる可能性は皆無と言って差し支えなかった。  
 
「・・・・ひひ・・・・準備は万端、整いましたよ・・・・それじゃ、そろそろ始めるとしましょうか?  
麻生優子君への、おしおき・・・・いや、「教育的指導」を、ねぇ・・・・ひゃはッ!はははッ!!」  
 
音程の狂いかけたいびつな笑い声が、薄暗い室内に低く木霊する。  
理性の箍が外れ、厳格な生活指導担当の数学教師という仮面の裏で長い時間をかけて増殖してきた、  
倒錯した性的嗜好が一気に解放されて、榊原の表情をグロテスクに歪めていた。  
爬虫類を思わせるねっとりとした眼差しを、目の前に横たわる美しい獲物に這わせつつ、  
手近にあったロッカーから取り出した、陸上競技用の巻き尺をズルズルと引き伸ばし、  
頭の上で交差させた無抵抗な細い手首に、幾重にも巻き付けていく。  
 
「・・・・これでよし・・・・ひひっ・・・・いひひひっ・・・・大変よくできました」  
 
両手首をがんじがらめに縛り、その結び目をしっかりと締め上げた後、  
巻き尺が保管されていたのと同じロッカーから、布製の粘着テープを取り出す榊原。  
優子の口元に貼り付けようとした瞬間、微かにではあるが、苦悶の呻きが漏れる。  
一瞬、表情を凍りつかせた変態教師だったが、それ以上の反応が現れない事が分かると、  
急に大胆な動作になり、口を塞ぎ、靴下とシューズを取り去って、華奢な足首を踝の所で縛り上げた。  
 
「・・・・はァはァ・・・・よろしい・・・・実によろしい・・・・いひっ、ひひひっ・・・・。  
足の指なら大丈夫だろうと、隠れてマニキュアなんぞ塗っている連中に見せてやりたいよ・・・・。  
この・・・・この、自然のままの、清潔な足指の美しさを・・・・むふぅ・・・・なんて素敵な指なんだろう・・・・」  
 
ソックスを脱がせた途端、かすかに甘酸っぱい汗の香りが榊原の鼻腔をそよがせ、  
半分開いた口の中から、唸るような、呻くような、欲情のわななきがこぼれ落ちた。  
かろうじて理性を保つ事が出来たのは、両足を括り終えるまでで、  
拘束を終え、自分を抑える必要が無くなると、榊原は、完全に我を忘れ、衝動の虜となる。  
 
「・・・・はぁはぁ・・・・あふぁっ・・・・ふうぁっ!・・・・んふっ・・・・んあがっ、あふぁあああ・・・・!!」  
 
剥ぎ取ったばかりのソックスを裏返しにすると、足裏の少し黒ずんだ部分を鼻に押し当て、  
布地の繊維に染み込んだ芳しい汗の匂いを、胸一杯に吸い込んでいく変態教師。  
生温かく、湿り気のある感触が顔面の皮膚を粟立たせ、  
甘酸っぱく、何処か爽やかな感じさえする優子の体臭が、呼吸を激しく乱れさせた。  
二度、三度と、深呼吸を繰り返すうち、榊原の表情は、いよいよ陶然となり、  
口元も眼尻もユルユルに緩んで、だらしなく垂れ下がっていく。  
 
「・・・・あぅうう・・・・想像していた通りだ・・・・なんて、なんて、素晴らしいんだ・・・・。  
・・・・はぐぅううっ・・・・たまらないぃっ・・・・あぁ・・・・も、もう・・・・我慢できないよぉぉ・・・・」  
 
興奮に血走った目をぎらつかせながら、榊原は、ブルブル震える手を目の前の優子の足へと伸ばした。  
普段あまり陽の光に晒される事のないせいか、一段と色白さの目立つふくよかなふくらはぎ、  
きつく巻かれたゴム製の巻き尺が肌に食い込み、静脈を青く浮かび上がらせている足首。  
すべすべとした足の甲の先端には、几帳面に短く切り揃えられた爪が綺麗に整列し、  
土踏まずの曲線はなめらかで、指で触ると、プニプニと豊かな弾力が返ってくる。  
踵には、ほんのわずかに、角質化の兆候が窺えるものの、まだまだ充分な柔らかさを保っている。  
 
ゴクリ、と喉を鳴らしながら、マッシュルームのような右足の親指に血色の悪い唇を近付ける榊原。  
半開きになった口の中では、今にも溢れ出しそうな唾液の海の中で、  
細長い舌が、ビュクンビュクン、と落ち着き無くのたうち回っている。  
 
――――唇の端が、丸みを帯びた親指に触れた瞬間、  
榊原の背中に、ゾクッ、と鋭い悪寒が走り、頭の中を意味不明な言葉の羅列が飛び交った。  
全身に鬱積した性への欲望に火が付くと、瞬く間に全身の神経が灼けつく様な狂熱に炙られ、  
沸点に達した血液が、重力の法則を無視して脳天を突き上げてくる。  
 
(うあああっ・・・・!!な、なんだ・・・・何なんだぁ・・・・この快感は・・・・!!  
ふがぁぁっ・・・・凄い、凄すぎるぅぅっ!!むぁああっ・・・・止まらない・・・・うふぁああぁっ・・・・!!!!)  
 
原初的な恐怖と歓喜とが頭の中を突き抜け、榊原は、無我夢中で優子の足にむしゃぶりついた。  
足指を口に含み、歯型が付くくらい強く噛み、狂ったように舌を絡めて、しゃぶり立てる。  
口の中に溜め込んでいた唾液が清潔な肌に醜く絡みつき、ベチョベチョに汚していく光景に、  
榊原の欲情は頂点に達し、発情した犬のように目一杯舌を伸ばすと、  
ザラザラとしたその表面を足裏に押し当て、何度も何度も、執拗に舐め重ねていった。  
 
「・・・・ハァハァハァ・・・・ぐぅッ・・・・ふっ・・・・んんっ・・・・むっ・・・・はぁはぁ・・・・」  
 
息が切れるまで優子の足を舐り回した榊原は、  
乱れきった呼吸を整えるのもわずらわしげに、猛り狂う性欲に煽られるまま、  
優子の身体を抱きかかえ、乱雑に積み上げられた体育用マットの上へと下ろした。  
依然、意識を失ったままの優子の顔を一瞥し、目を開ける気配がない事を確認した上で、  
背中をマットの山に寄りかからせ、拘束した両手首を頭の後ろに持っていく。  
 
「・・・・ふひぃ・・・・ひッひひひ・・・・一体、どうしたのかなぁ・・・・?まぁだ目を覚まさないなんて?  
げふふふ・・・・これは・・・・もっともっと、お仕置きが必要みたいだねェ・・・・げふッ、げふッ・・・・」  
 
荒々しく肩を上下させながらも、ブツブツ呟くのを止めようとしない榊原。  
顔中に滲み出した脂汗が吹きこぼれて、純白の体操服の上に、点々と薄黒い染みを作っていく。  
やにわに、優子の両膝を掴み、胡座を掻くような姿勢を強制したかと思うと、  
正面に自分の身体を持って行き、緊縛した両脚を持ち上げて、足首の間に頭を潜り込ませた。  
 
「・・・・ああっ・・・・んああっ・・・・!!んくっ・・・・ううっ・・・・!!あうっ・・・・あううんっ・・・・!!」  
 
ふくらはぎの内側のなめらかな感触と程よい圧迫感とが、変態教師の両頬を包み込む。  
えも言われぬ快感に言語中枢が混濁し、啜り泣くような弱々しい喘ぎ声を漏らすのが精一杯だった。  
しばらくの間、その変態的な姿勢のまま、硬直していた榊原は、  
やがて、何をしているのか、自分でもほとんど分からないまま、  
上半身をスライドさせつつ、優子の身体をたぐり寄せ、じりっじりっ、と前進を開始した。  
1センチ進むごとに、弾力に富んだしなやかな両脚が、榊原のたるんだ頬っぺたをこすりつけ、  
喉の奥から、悲鳴混じりの切迫した喘鳴と意味不明な言葉の残骸とを吐き出させる。  
両膝を通り過ぎた頃から、挟み込まれた顔の両側に感じる柔肌の感触は、いよいよ豊かさを増し、  
その中から伝わってくる圧迫感によって、榊原の呼吸器は窒息寸前にまで追い詰められていった。  
 
「・・・・むがっ・・・・ふぐっ・・・・ううっ!?・・・・うっ・・・むぁううっ!?・・・・んぅっ、くうぁああっ!!」  
 
――――やがて、変態教師の至福の行進は、濃紺の肉壁の前に到達し、終わりを告げた。  
脂の浮いた鼻の頭が、少しざらつきのある化繊の布地によって、やんわりと押し返されるのと同時に、  
甘酸っぱい汗の香りとも、柔らかく落ち着きのある肌の芳香とも、明らかに異なる、  
濃密で、肉感的で、妖艶さすら漂わせた牝の臭いが、繊細な香気に慣れた嗅覚を容赦なく串刺しにして、  
夢想と現実との狭間でふらついていた榊原の感覚に喝を入れる。  
 
瞠目しつつ、目の前の紺色のふくらみを注視する榊原。  
ブルマ越しに見る優子のその部分は、特別に肉付きの良さが目立つという程ではないものの、  
下腹部から続いて太腿に至る、すっきりとした、ややおとなしめのラインの中では唯一、  
しっかりと自己を主張して、伸縮性のある丈夫な布地に対しても、抵抗を試みているようだった。  
ブルマの裾にあたる、両脚の付け根の部分に沿って走る、何本もの食い込み痕と考え併せると、  
どうやら、多少窮屈さを我慢しながらも、ひと回り小さいサイズを穿き続けているらしい。  
(・・・・なかなか可愛いところもあるじゃないか)妙に感心を覚え、いやらしそうに目を細める榊原。  
膝立ちの姿勢から、むき出しの太腿に両腕を絡めて、ぐぐっ、と腰を引き寄せる。  
持ち上げた膝を肩に担ぐと、丁度、ブルマーに包まれた下腹部が、顔のすぐそばに迫って来た。  
 
「・・・・んっ・・・・むっ・・・・んんっ・・・・」  
 
激しい動きに、粘着テープで封じられた優子の口から、再び苦しげな呻き声が漏れる。  
だが、榊原は、ほとんど気に留めようともせずに、小刻みに震える両手をブルマの裾へと伸ばした。  
口の中一杯に広がった生唾を、ジュルジュル、と不快な音を立てて啜りながら、  
柔らかい脇腹に食い込みかけているゴムの部分に人差し指をかけて、ゆっくりと引っ張る。  
先程嗅いだのと同じ、むうっ、とするような牝臭が、今度はより鮮烈に立ち上り、  
汗を吸って、一段と深い色合いに変じたブルマの裏地の奥から、  
じっとりと蒸し上げられた飾り気の無い白綿のショーツと、薄桃色の肌がその姿を現した。  
 
「・・・・あっ・・・・ああ・・・・っ・・・・うう・・・・あああ・・・・ん・・・・むう・・・・んっ・・・・」  
 
感極まって、まともに言葉も結べず、優子の三角地帯を食い入るように凝視する変態教師。  
夢にまで見たその光景は、幻想的なまでに淫らで、そして、美しかった。  
禁欲的な人格を装うための、ねずみ色のスーツの中で、榊原の牡としての本能がムクムクと隆起し、  
肛門が、キュウウッ、とすぼまって、背筋を、ピリピリッ、と悪寒に似た痺れが這い上がる。  
我慢しきれずに、情けない声を上げながら精を放つと、  
濃密な精液が、ブリーフの中をベトベトにしただけでは収まらず、  
スラックスの股間の部分にまで滲み出し、黒々とした大きな染みが浮かび上がった。  
 
「・・・・・・・・」  
 
射精を終えた榊原の陰茎は、萎え縮む事も無く、大きさも硬さも維持したままだった。  
自らの体液にまみれたブリーフの中の感触は最悪だったが、  
目の前の少女の汗ばんだ下腹部と、そこに張り付いた薄い下着のもたらす衝動とは比べ物にならない。  
むしろ、体内に溜め込んでいた澱を放出して身軽になれた分、集中力が増して、  
冷静とまではいかないものの、気を散らすことなく、優子の肉体を鑑賞出来るようになっていた。  
 
太腿の半分くらいまで摺り下げたところで、榊原の手はブルマを離れ、ショーツへと移動する。  
上半身を前に傾け、脂汗に塗れてギトギトになった指先を薄い布切れにかけると、  
心臓は早鐘のように動悸を刻み、こめかみからはとめどなく汗が滴り落ちた。  
そろりそろり、まるで繊細なガラスの工芸品に触れるかのように、  
飾り気の無いシンプルなデザインのコットン地の下着をずらしていく榊原。  
ぷっくりと隆起した恥丘の上を薄く覆った柔らかそうな恥毛の間から、  
綴じ合わさった大陰唇が、サーモンピンクの色合いも鮮やかにその姿を露わにする。  
 
「・・・・惜しい・・・・ああ、何故なんだ!?・・・・この、邪魔な陰毛さえ無ければ、何もかも完璧なのに・・・・!  
・・・・真性の美少女のこの部分には、陰毛など一本たりとも生えていてはならないというのに・・・・!!」  
 
勝手な事を言いながら、榊原は、こんな時のためにと用意していた、安全剃刀を取り出した。  
アルミ製の鋭利な刃先と剥き出しになった優子の股間とを見比べ、重々しくうなずきながら、  
空いている左手の人差し指と中指を口の中に突っ込んで、唾液を含ませる。  
シェービング・クリームの代わりに、陰毛全体にたっぷりと垂らし、  
ピチョピチョと卑猥な水音を立てながら、入念になすりつけていった。  
 
「・・・・うっ・・・・ううっ・・・・んっ・・・・むっ・・・・くっ・・・・うふぅ・・・・」  
 
半透明な粘液に濡れそぼった、産毛のように細く柔らかい恥毛をよじり合わせ、  
キラキラと光る刃先をあてがって、ククッ、と忍び笑いを漏らす榊原。  
爛々と輝く双眸には、目の前の少女の肉体に存在する唯一の「汚点」を取り除いて、  
自らの理想とする無垢なる乙女の姿へと昇華せしめるのだ、という、  
彼以外の人間には全く理解不能な使命感が宿っていた。  
 
――――ようやく意識を取り戻した優子が最初に目にしたのは、  
何か黒っぽい小さなものを摘み上げて、音程の外れた笑い声を立てる榊原の歪んだ表情だった。  
それが一体何であるか、優子が理解出来たのは、更にもう少し経ってからの事である。  
 
 
――――――――TO BE CONTINIED.  
 
 

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