ヴェカンタリア。地下牢獄。  
 
「・・・・ううっ・・・・くっ・・・・ぐううっ・・・・」  
 
黴臭い空気の中に漏れる、くぐもった呻き声。  
戦いによる消耗を回復出来ないまま、手首と足首を鉄製の枷によって拘束された「戦士」は、  
変色した血痕が点々とこびりついた磔柱にかけられ、傷の痛みに苦吟し続けている。  
きつく縛められ血流を阻害された手足は、すでに血の気を失って青白く透き通り、  
このままでは、壊死を起こして根元から腐り落ちるのを待つばかりだろう。  
 
――――暗黒王ログレスとの戦いに敗れた、「ヴァリスの戦士」・優子。  
「戦士」としての力の源泉たる「ヴァリスの剣」を奪われた彼女は、  
城の地下牢へと投げ込まれ、処刑の時を待っていた。  
主が「戦士」としての力の全てを封じられた今、その身を覆う黄金の鎧もまた輝きを失い、  
防御力も何もかも無くして、少女の体にへばりつくだけの単なる金属製のオブジェと化してしまっている。  
 
「・・・・んうぅっ・・・・くっ・・・・あああ・・・・だ、だめ・・・・外れない・・・・!!」  
 
必死に両腕を動かし、邪悪な縛めを振り解こうとする優子だが、  
無論、その程度の事では、重く冷たい鉄の輪は微動だにせず、  
拘束金具と磔刑台との間を繋ぐ赤茶けた鎖が、ガチャガチャと騒々しく鳴り響いただけだった。  
やがて、少女の細腕に残ったなけなしの筋力さえ底を尽くと、  
哀れな女囚は脱力した体を前のめりに傾け、弱々しい啜り泣きを漏らし始めた。  
 
(・・・・もう・・・・もう・・・・ダメなの・・・・?  
・・・・この場所で・・・・このまま・・・・朽ち果てていくのを・・・・待つしかないの・・・・?)  
 
初めて実感する"死"の恐怖が、凍てつくような指先で心臓を鷲掴みにする。  
夢の中で聞いた声――――夢幻界の幻想王女ヴァリア――――に導かれるまま、  
与えられた一振りの剣だけを頼りに、ヴァニティの「戦士」として、  
襲い来るヴェカンティの怪物達との過酷な戦いを勝ち抜いてきたのが遠い過去の出来事のように感じられる。  
・・・・麗子との再会と死闘・・・・束の間の和解と悲しい別れ・・・・  
物言わぬ骸と化した親友の前で泣きながら誓った、暗黒王ログレスへの復仇・・・・  
だが、卑劣な罠に落ちて虜囚の身となり、緩慢な死の気配に怯え慄く今となっては、  
記憶も誓約も、これまでの戦いの全てと同じく、無意味で無価値な事でしかないのかもしれない・・・・。  
 
(・・・・いや・・・・いやよ・・・・死にたくない・・・・まだ・・・・死ぬ訳には・・・・。  
・・・・わたしには・・・・まだ・・・・やり遂げねばならない事が・・・・守らなければならない約束が・・・・)  
 
表情を歪め、悔し涙を滲ませながら、下唇をギュッと噛み締める優子。  
萎えていた心臓がドクンと強く鼓動を刻み、  
こわばりかけた拳の内側に、何とかもう一度、熱い血潮を通わせようと試みる。  
 
(・・・・そうだわ。まだ、諦める訳にはいかない。  
必ずここを逃げ出して・・・・麗子との約束を果たさなければ・・・・!!)  
 
――――――――だが。  
 
「・・・・残念だが・・・・そいつは・・・・無理な相談だなァ・・・・」  
 
突然、闇の中から発せられたしわがれ声が、少女の思考を断ち切り、現実へと引き戻す。  
薄暗い地下の石牢の中で目を凝らす優子の許へと近付いてくる、足音と息遣い、  
そして、腐乱しかけた死体のそれを連想させる不快な体臭。  
 
・・・・案の定、目の前に現れたのは、  
かろうじて人の形をした――――否、人の形に似せられた――――だけの、暗黒界の怪物だった。  
 
「・・・・今まで・・・・ここから・・・・逃げた奴・・・・いない・・・・」  
 
老婆のようにひどく曲がった背中とねじくれて節くれだった手足のせいで、随分と小柄に見える体つき。  
くすんだ灰色の皮膚は、色も見てくれも長い間風雨にさらされて劣化したゴムに酷似している。  
身に着けているのは、何か得体の知れない動物の皮で出来た腰巻だけで、  
垢と塵芥が幾層にも渡ってこびりついた身体からは、ひどい悪臭が漂っていた。  
 
「・・・・ぜ〜んぶ・・・・ここで・・・・死んだから・・・・」  
 
本来、人間の言葉を発するには不向きな発声器官から、無理矢理人語を絞り出しているのだろう、  
怪物の発する声は、おそらしく聞き取りづらく、濁りきった響きに包まれていた。  
何か喋っているかどうかには関係なく、半開きの唇の間からは絶えずシュウシュウと呼気が漏れ出し、  
不潔な黄色に染まった牙の列とドロドロの唾液に濡れそぼった真っ赤な舌が覗いている。  
顔の造作は妙にのっぺりとして凹凸に乏しく、  
一応、目も鼻も耳も揃ってはいるものの、お互いにバランスを欠いて、  
まるで、捏ね上げた粘土の上に顔のパーツを適当に並べただけの塑像のような印象を受ける。  
 
「・・・・俺が・・・・ヘヘヘッ・・・・殺したんだ・・・・ぜ〜んぶ・・・・俺が・・・・」  
 
おそらくバランスを欠いているのは、顔だけではなく、精神の方もなのだろう、  
恐るべき事実を事も無げに告げた怪物は、軽薄そうにヘラヘラと笑いながら優子の顔を覗き込み、  
恐怖と嫌悪とで青ざめたその表情に何度も頷いてみせる。  
そして、傍らの台の上に置かれた、一抱えもある薄汚れたタライのような容器を持ち上げると、  
おもむろに、その中身を磔刑台にかけられた少女の前にかざすのだった。  
 
「・・・・ッ・・・・ヒィィッ・・・・!!!!」  
 
眼前に突き出された"それ"を一目見るなり、  
かろうじて保たれていた優子の抵抗心は呆気なく四散し、情けない声を漏らしてしまう。  
金属製の標本容器の中に所狭しと並んでいたのは、  
醜怪な蒐集家にふさわしい、夥しい量のコレクションの数々だった。  
・・・・抉り抜かれた眼球、引き千切られた耳、もぎ取られた鼻、剥がされた生爪、等々・・・・  
厳重に防腐処置を施されているのだろう、吐き気を催すような陳列物は、  
一つの例外とてなく、つい今しがた、哀れな犠牲者から剥ぎ取られたばかりのような生々しさを保っており、  
これまで幾度となく、この場所で行われてきた死の儀式の惨状を雄弁に物語っている。  
 
(・・・・ああッ・・・・嘘・・・・嘘よッ・・・・!!  
・・・・こんな・・・・こんな事って・・・・あああ・・・・お願い・・・・嘘だと言ってッ・・・・!!)  
 
激しい動悸に襲われた心臓が狂ったように収縮運動を繰り返す。  
凍えきった舌からはもはや悲鳴を上げる力も消え失せ、  
血の気の引いた唇の間から、恐怖に震え慄く呟きを紡ぎ出すのが精一杯だった。  
反対に、酷使されて、すっかり萎えきっていた筈の両腕には、  
さながら熱病に冒された患者の末期症状のような激しい痙攣が湧き起こり、  
手首を繋いだ忌まわしい鎖の輪から、耳障りなガチャガチャ音を連発させる。  
 
「・・・・嘘・・・・?・・・・違う違う違う・・・・ぜ〜んぶ・・・・ホンモノ。  
・・・・俺が・・・・ぜ〜んぶ・・・・集めた・・・・前に・・・・ココに来た連中から・・・・」  
 
どうやら、この怪物には、優子が頭の中に思い浮かべた事を造作もなく読み取る能力があるらしい。  
それを示唆するかの如く、彼は、陳列物の中でひときわ優子の目を引き、その心胆を寒からしめた一品  
――――細長い神経索がへばりついたままの抉り取られた眼球――――を、大事そうにつまみ上げると、  
蒼白になった優子の前で、唾液にまみれた赤い舌を伸ばし、  
恍惚とした表情を浮かべつつ、透明な防腐膜に覆われたその表面を舐め回し始めた。  
 
――――――――ピチャピチャ・・・・クチャクチャ・・・・。  
 
執拗な水音が、塞ぐ事の出来ない耳朶の中に響き渡るたび、  
磔刑台に繋がれた少女は、(窒息の危険を避けるため)唯一拘束されていない首を左右に振り動かし、  
既に深い苦痛に覆われて見る影も無く憔悴したその貌に、新たな皺を刻み付ける。  
無茶苦茶に振り回した手首の皮膚は醜く破れ、出血して、ひどい痛みとヌルヌル感に覆われていた  
 
(・・・・ひぐ・・・・うぅっ・・・・ダ、ダメ・・・・もう・・・・わたし・・・・耐えられない・・・・)  
 
絶望に浸る優子には御構い無く、刳り抜いた目玉を何度も何度もしゃぶり上げた怪物は、  
まだ飽き足らないのか、キズを付けないよう細心の注意を払いながら、  
口の中に含んだ眼球を膨らませた両頬の間でキャッチボールするという離れ業まで演じて見せる。  
おぞましいショーにより、徹底的に打ちのめされた少女は、逆流して来る胃液に食道を灼かれながら、  
真っ黒いカビに覆われた牢の壁面に、半ば放心したかのような視線を彷徨わせる事しか出来なかった。  
 
(・・・・く・・・・狂ってる・・・・コイツ・・・・完全に・・・・)  
 
ついこの間まで、ヴァニティやヴェカンティの存在など知る由も無く、  
一介の女子高生として退屈ながらも平穏な日々を過ごしてきた優子がそう思ったのも無理はない。  
いくら彼女が、心の中の陽と陰の要素を、  
最もバランス良く――――「戦士」として選ばれるまでに――――調和させている者だと言っても、  
ヴェカンティに生れ落ち、闇と穢れを糧として育った者の価値基準を理解する事など不可能事であり、   
目の前の怪物の行為には狂気以外の何物も感じ取る事は出来なかった。  
 
(・・・・わたし・・・・こんなヤツに・・・・殺されちゃうの・・・・?  
・・・・死んだ後も・・・・こんな風にバラバラにされて・・・・酷い事され続けるの・・・・!?)  
 
「ヴァリスの剣」を振るい、ログレスの軍団と死闘を演じていた時は、文字通りの無我夢中で、  
ために、却って、"殺される"という実感を明瞭に感じ取る暇すら無かった優子だったが、  
こうして囚われの身となり、死体愛好家の胸の悪くなるような言動を見せ付けられると、  
好むと好まざるとに関わらず、目の前に迫りつつある自分の死について考え込まざるを得なくなる。  
 
・・・・自分はどんな風に殺されるのだろう・・・・?  
・・・・死ぬ瞬間はどんな感じなのだろう・・・・?  
・・・・死んだ後はどうなるのだろう・・・・?  
 
――――――――それは、優子が、正常な精神状態の下で行った、人生最後の思索だった・・・・。  
 
 
 
「・・・・いぎぃぃぃっ・・・・!!ひぃがああっ・・・・あぎぃいいいっ・・・・!!」  
 
引き攣った悲鳴が、地下牢の石壁に反響し、幾重にも木霊する。  
先端部がギザギザ状になった鋳鉄製のペンチが、  
防御力を失ったスカートの布地もろとも、柔らかい太腿の肉を咥え込んでいる。  
自分の身体の一部が今にも捻じ切られようとしている事に対する恐怖のあまり、  
狂ったように泣き叫びながら全身を打ち揺らす優子だが、  
手足を拘束する鉄枷はビクともせず、熟練した拷問吏の手元が狂う事も無かった。  
 
「ぎぃあああああッッッ!!!!」  
 
拷問器具の冷酷な刃先に抗しきれなくなった皮膚が断ち切れ、柔肉が喰い千切られた。  
ひときわ鋭い絶叫が響き渡り、無残に開いた傷口から真っ赤な血が溢れ出す。  
みるみるうちに、飛び散った鮮血で深紅に染まっていくスカートの下で、  
ぶじゅじゅうっ、という情けない音を立てつつ、少女の排泄器官が決壊した。  
ジュジュジュウ〜〜、という、まるで詰まりかけの排水溝の発する濁った水音のような異音と共に、  
優子の下半身を流れ下った尿液は、捲れ上がった傷口にも容赦なく押し寄せ、その痛みを倍増させる。  
 
「・・・・あがぁっ・・・・うぐぅうう・・・・あぁ・・・・ぐぐっ・・・・ぁぐああぁっ・・・・!!」  
 
傷の痛みと失禁の恥辱感とが大嵐となって意識の中を暴れ回り、沸騰した脳漿をグジュグジュに掻き回す。  
出血が原因の、一時的なショック状態に陥ったためだろう、ひどい耳鳴りと視野狭窄に襲われた優子は、  
ヒタヒタとにじり寄ってくる死の影に怯えつつ、ぼうっとなった頭をフラフラと揺らした。  
 
(・・・・嫌ッ・・・・嫌よッ!!・・・・死ぬなんて・・・・このまま死んじゃうなんて・・・・絶対に嫌ッ・・・・!!)  
 
その様子を眺めやり、灰色の頬をたるませながら、声を立てずに笑う拷問吏。  
元より、そう簡単に優子を死に至らしめるつもりはなく、  
太腿から肉を削ぎ取るにあたっても、動静脈以下主要な血管の位置を把握した上で、  
万が一にも、致命的なダメージを与える事の無いよう、細心の注意を払っている。  
看守長にして死刑執行人たる彼が、ヴェカンティの絶対者たる暗黒の王から命じられているのは、  
地下牢に送られて来る虜囚たちに対して、入念かつ徹底的に苦痛と恐怖を与え、  
その意志を跡形も無く粉々にした上で処刑する事であり、簡単に死なせるなど論外だった。  
 
・・・・もっとも、今回に限っては、必ずしもそれだけが理由という訳ではなかったのだが。  
 
「・・・・くけけっ・・・柔らけぇ・・・・お前の肉・・・・今までで一番・・・・柔らかくて・・・・うめぇ・・・・」  
 
ペンチの先にへばり付いている潰れた肉片にむしゃぶりついた拷問吏は、  
つい先刻まで優子の肉体の一部だったそれを、先程の眼球と同じく、舌の上で丹念に転がしながら、  
口の中に広がる血の味と生温い感触とを満喫し、感嘆の声を上げる。  
あまりのおぞましさに全身の皮膚を粟立たせた優子は、  
真っ青な顔で震え慄き啜り泣く以外に為す術を知らなかった。  
 
「・・・・ひっ・・・・ひぃぃっ・・・・い、いや・・・・もう・・・・やめて・・・・。  
・・・・ううう・・・・こんな酷い事・・・・お願い・・・・もう・・・・もうっ・・・・」  
 
血の気が引いた唇を必死に動かし、哀訴の言葉を絞り出す優子。  
クチャッ、クチャッ、というガムを噛むような咀嚼音が耳朶を打つたび、  
涙でベトベトに濡れた表情を醜く引き攣らせ、苦悶に満ちた喘ぎに喉を詰まらせる。  
拷問吏の計算通り、太腿からの出血は次第に量を減じていき、  
その後を追うようにして、ショックの症状も和らいでいったのだが、  
肉体以上に深々と抉られた心の傷口からは、留まる事を知らぬ血涙がどくどくと流れ出し、  
恐怖と絶望をはじめとする負の感情の養分となって、これらを育み続けていた。  
 
(・・・・ヘヘッ・・・・あと・・・・もう一押し・・・・いいや・・・・二押しってところかぁ・・・・?)  
 
ようやく堪能し終わったか、口の中の肉片を、ゴクリ、と呑み込んだ拷問吏は、  
最後に、食道の奥へと消え沈んで行く柔肉の感触を堪能した後、  
怯えきった優子の視線を背中に感じつつ、拷問道具の物色を再開する。  
・・・・先端がドリル状になった千枚通し、刃先が波打っている不気味な短剣、  
無数の棘の生えた長い鞭に得体の知れない生物の鱗の生えた皮をなめして作った拘束衣・・・・、  
ひとつ、またひとつ、と、恐ろしげな器具が目の前に並べられていくたび、  
磔にされた少女はかすれた嗚咽を漏らしながら細い喉を震わせるのだった。  
 
「・・・・ああ・・・・あああっ・・・・!!やめてッ・・・・お願い・・・・お願いだから・・・・もう・・・・!!」  
 
やがて、作業を終えた怪物は、磔柱の上で震える哀れな囚人を一瞥を送ると、  
曲がった背中をギシギシ言わせながら、胸元を覆う黄金の胸当てに手を伸ばし、ぐぐっ、と力を込める。  
「戦士」の力が健在ならばこの程度は何でもない筈の胸甲が、無残に圧壊する様子を茫然と眺めた優子は、  
露わにされた胸の谷間と深い皺を刻んだ額から冷たい汗を噴き出しつつ、  
蜘蛛の巣に掛かった蝶の様にもがきつつ、ふるふるとかぶりを振り続けるしかなかった。  
 
――――――――ブスッッッ!!!!  
 
先端を鋭く尖らせた鉄串が、むき出しになった白桃色のふくらみに突き立てられる。  
その瞬間、取り立てて大きいという程ではないものの、申し分なく美しく整った少女の乳房は、  
衝撃のあまり、ビクンッ、と大きく飛び上がり、上下左右に弾みながら妖艶な演舞を舞い踊った。  
 
・・・・だが、目の前の怪物にとっては、  
美麗を通り越して卑猥にすら感じられるその動きも、さして興味を惹くものでは無かったらしく、  
無造作に、としか言い様の無い、素っ気ない手つきで、まだ無傷な方の果実を掴み取ると、  
暴れる優子をものともせずに、再度、狙い澄ました鉄串の一撃を繰り出すのだった。  
 
「・・・・ひぎぃッ・・・・ひぎゃあああッッッ!!!!」  
 
耳をつんざくような絶叫を上げ、狂ったように両腕の拘束具を打ち鳴らす優子。  
先程の太腿の傷と比べれば、出血は殆ど無いに等しかったものの、  
乳腺を貫き、乳腔の奥にまで達した刺し傷の深さは比較にならない。  
その上、鋭く尖った串の先が、柔肉の奥にズブズブと沈み込んでいくにつれ、  
今度は、体内で蠢く針先が醸し出す異物感が、激痛以上の苛烈さで少女の意識を責め立てるのだった。  
 
「・・・・がぁっ・・・・あがぁあっ!!・・・・ぐはぁっ・・・・はぁぐううっ・・・・ぐがはぁううぅっ・・・・!!」  
 
異物に貫かれた白い乳房が、ブルンブルン、と大きく揺れる。  
二本の兇器が充分奥まで突き刺さり、少しぐらい乱暴に扱っても抜ける心配が無くなったのを確認すると、  
暗黒界の怪物はますます大胆となり、二つの鉄串の握り部分を交差させ、打楽器のように打ち合わせた。  
ビィィィン、というビブラートのかかった音と共に、鉄串の中を微細な震動が走り抜け、  
・・・・そして、胸乳の中の責め具が生き物のように蠢く、想像を絶する不快感が襲ってくる。  
 
(・・・・あああッ・・・・う、動いてる・・・・く、串がッ・・・・胸の中でェッ・・・・!!  
ヒイィッ・・・・・い、嫌ぁあッ・・・・気持ち悪い・・・・あうッ・・・・うぐぅうううッ・・・・!!)  
 
何度となく気を失いかける優子だが、その都度、読心能力を持つ拷問吏は先回りして、  
緩急を交え、強弱を加減し、針先の動きが単調に陥らないよう工夫を重ねつつ、  
執拗に鉄串を打ち合い、新たな共鳴波動を生み出して、それを許そうとはしない。  
失神という形での休息すら叶わなくなった優子は、口元から青白い胃液の糸を垂れ流しつつ、  
いつ終わるとも知れぬ地獄の責め苦に悶絶し続ける事しか出来なかった。  
 
(・・・・うう・・・・も、もう・・・・ダメ・・・・。  
・・・・苦しい・・・・息が・・・・出来ない・・・・あああ・・・・ダメ・・・・ダメェ・・・・)  
 
涙で曇った視界には灰色の靄が厚く垂れ込め、耳朶の奥では耳鳴りが激しさを増していく。  
脳内の酸素が不足してきたためだろう、頭の芯がズクンズクンと激しい疼痛に包まれ、  
重度の乗り物酔いに見舞われた時のように、平衡感覚が失われて意識が混濁し始める。  
次第に鈍くなっていく五感の中、心臓の音だけが異様に大きく響き渡り、少女の不安を掻き立てた。  
 
(・・・・これが・・・・この感覚が・・・・"死ぬ"って・・・・事なの・・・・?  
・・・・あああ・・・・嫌・・・・このまま・・・・死ぬなんて・・・・絶対に・・・・ぜったい・・・・に・・・・)  
 
――――実際には、優子が陥りかけていたのは一時的な意識障害に過ぎず、  
"死"からすれば、ずっと手前の状態に過ぎないのだが、  
そんな事など知る由も無い彼女が、そう誤解してしまったのも無理はない。  
だが同時に、それ――――"自分は死んでしまう"という強烈な思い込み――――は、  
今の彼女の精神状態の下では、ある意味、単なる意識障害などよりずっと厄介で危険な代物だった。  
 
「・・・・ううう・・・・た・・・・たすけて・・・・お願い・・・・生命だけは・・・・」  
 
口をついてこぼれ出す、屈辱的な命乞いの言葉。  
意識の隅に僅かに残っていた「戦士」の矜持が悲痛な叫び声を上げるものの、  
弱りきった優子の心は、圧倒的な恐怖と絶望によって覆い尽くされていた。  
「戦士」としてのプライドも「乙女」としての潔癖さもかなぐり捨てて、  
少女は、かすれかかった涙声を搾り出し、必死に助命を願い続ける。  
 
「・・・・んんっ・・・・お願い・・・・たすけて・・・・たすけて・・・・ください・・・・。  
・・・・ひうう・・・・お・・・・お願い・・・・します・・・・ど、どうか・・・・生命だけは・・・・」  
 
無論、そんな事で、目の前の怪物に憐憫の情を催させる事など期待出来る筈も無い。  
むしろ、優子の意図とは裏腹に、その屈従の態度は拷問吏を有頂天にし、  
こみ上げる歓喜に両眼をギラギラと輝かせつつ、加虐への欲求を最高潮に漲らせただけに終わった。  
嬉々として新たな拷問道具の選定に取りかかる獄吏の姿に、ようやく我に返った優子は、  
冷静さを欠いた己れの行為が招き寄せた事態を前に茫然となり、愚かな自分を呪うしかなかった。  
 
「・・・・ヒャッヒャッヒャッ・・・・どうしたんだ・・・・命乞いは・・・・もうお終いかぁ・・・・?  
・・・・ブフフフッ・・・・それとも・・・・もう・・・・ひと思いに・・・・殺して欲しくなったのかぁ・・・・?」  
 
欲情にまみれた笑いを満面に湛えつつ、拷問吏が手を伸ばしたのは、  
汗と塵埃に加え、ちびり出した尿液までもがベットリと染みを作って、  
本来の清楚な雰囲気など微塵も感じられなくなったスカートだった。  
主の敗北により、「鎧」としての防御力を喪失して、いまや単なる布切れと成り果てたそれを、  
薄い下着もろとも、ビリビリィッ!!と勢い良く引き千切ると、  
恐怖に震え慄いている陰阜のふくらみをを引っ掴み、野太い指に下草の群生を絡め取っていく。  
 
――――――――その、次の瞬間。  
 
「・・・・ッ・・・・ぐッ・・・・!?ヒィッ・・・・ヒギィイイッッッ・・・・!!!!」  
 
連続した破断音と共に、秘部の表面を薄く覆った恥毛が、一本残らず引き抜かれる、  
下半身から脳天へと駆け上がった衝撃波が、優子の頭の中を真っ白に変えた直後、  
ほぼ垂直に仰け反った喉首から断末魔の叫び声が噴き上がり、  
即座に失神しなかったのが不思議なくらいの凄まじい激痛が意識を打ちのめした。  
一瞬にして、見るも無残な姿へと変貌を遂げた恥丘の表面で、  
毛穴からポツポツと滲み上がってきた無数の血の粒が寄り集まった紅い小川が誕生し、  
凍りついた花弁の縁を伝って、ピクピクと痙攣を発する太腿へと流れ落ちていく。  
 
「・・・・げひゃっひゃっひゃっ・・・・!!いいぞぉ・・・・もっと泣け・・・・喚けェ・・・・!!  
・・・・綺麗な顔を・・・・苦痛によじらせて・・・・ひひひ・・・・悲鳴を上げろォ・・・・!!!!」  
 
だらしなく半開きになった口元から発情した牡犬のように長い舌を垂らして、  
ハァッ、ハァッ、と、熱い吐息を漏らすヴェカンティの怪物。  
野良犬のように鼻をひくつかせ、むしり取った藍色の縮れ毛の匂いを胸一杯に吸い込みながら、  
目の前の哀れな犠牲者の姿がもたらすグロテスクな興奮に浸り、  
邪悪な知性と精神とが紡ぎ出す、加虐のエクスタシーに全身を熱く湧き立たせる。  
 
「・・・・や、やめて・・・・もう・・・・やめて・・・・アアッ・・・・やめてぇッッッ・・・・!!!!」  
 
心身に負った深手によって、思考が完全に動きを止め、  
自分が何を言っているのかさえ、判別出来ない状態へと陥った優子の口から漏れるのは、  
壊れかけのテープレコーダーのように、「やめて」という言葉だけ。  
さらに意識の混濁が深まると、かろうじて感じ取る事が出来るのは、  
絶え間なく振るわれ続ける暴力に耐え切れず、破壊されていく自分の体が発する喘鳴のみとなる。  
やがて、嗜虐の快感に全身を引き攣らせつつ哄笑する拷問吏の向こうに、  
全ての生命を刈り取る大鎌を手にした死神の姿が、ぼうっ、と浮かび上がるのが見えたかと思うと、  
弱りきった少女の精神は、そのまま、意識の底に黒々と穿たれた深淵へと吸い込まれていった・・・・。  
 
「・・・・あが・・・・あああ・・・・ふぐっ・・・・んっ・・・・ふぐあ・・・・ふぁぐううう・・・・」  
 
もはや顔を上げる気力とてなく、上体を力なく前に傾けたまま喘ぐだけの優子。  
ベットリと汗に覆われた身体が、磔刑台の上で弱々しく痙攣するたび、  
振り乱した蒼髪の中から僅かに覗くその表情は、血の気も無く、どんよりと澱みきっていた。  
死んだ魚のようなドロリと濁った瞳からは、全ての意志も感情も掻き消え、  
半ば土気色に変色した唇の端から、得体の知れない液状の物体が糸を引きながら流れ落ちている。  
 
「・・・・ふひぃ・・・・ひやよぉ・・・・ほぉう・・・・ひゃめてぇ・・・・」  
 
時折、かすれた呟きが、血泡と共に吐き出されてはいるものの、  
もはや、それは「言葉」と言うよりも、単に「鳴き声」と言い表す方がふさわしい代物へと成り果てていた。  
 
・・・・執拗に繰り返された拷問と絶え間無い苦痛と恐怖の連続の果て、  
優子の心は噛み砕かれ、今まさに無明の闇へと呑み込まれようとしていた。  
徹底的に痛めつけられ嬲り回された肉体は、それよりも一足早く破壊し尽くされてしまい、  
酸鼻を極めた拷問の影響も、堪え難い虚脱感を除いては、何一つ感じ取る事が出来なくなっている。  
 
――――もっとも、未来と共に、一切の希望が潰え去った今、  
その事は、優子にとって、むしろ、望外の僥倖と言った方が適切なのかもしれないのだが・・・・。  
 
「・・・・・・・・・・・・」  
 
対照的に、拷問吏の方は、死に瀕した優子の姿をじっと睨みつけつつ、  
血走った目玉の底に、未だ妄執に満ちた狂熱を宿し続けていた。  
断末魔の苦しみに喘ぐ優子の姿ならば、すでに十分すぎる程、堪能しているにも関わらず、  
なおも、その頭蓋骨の内側では、ねじくれた知性と欲望とが、  
永遠の安息の地から少女の魂を引き戻し、今一度、おぞましい饗宴を再開する術は無いものか、と、  
持てる全ての知識と経験を総動員して、必死に思考を展開し続けている。  
 
・・・・・・・・かなりの時間、考え抜いた末、ようやく、それが不可能である事を認めた後も、  
灰色のゴムのような瞼の奥で異様な輝きを放っている双眸は、  
なおも未練がましく、生ける屍と化した少女の上に留まり、飽くなき逡巡を続けていた。  
この後は、今までの数多の犠牲者に対して行ってきたのと同じく、  
五体をバラバラにし、皮を剥がし、血を抜き取り、内臓を掻き出した上で、  
気に入った部分だけを選り分けて防腐処置を施すだけなのだが、  
何処をどう切り分け、蒐集品の列に加えるのがベストなのか?未だ判断がつきかねていたためである。  
 
・・・・暗闇と屍臭に閉ざされた暗渠の中、身じろぎ一つせず、妄想に耽る異形の怪物。  
果つる事無き魂の飢餓を満たさんと足掻き続ける陰鬱な姿が、優子の目に映った最後の情景だった・・・・。  
 
 
<<完>>  
 

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