リアリティ。東京。吉祥寺駅近くのデパート内。女子トイレ。  
 
「・・・・ッ・・・・ふッ・・・・うぅ・・・・んッ・・・・」  
 
人肌に温もった水流の感触が、排尿直後の臀部をじんわりと包み込んでいくにつれ、  
太腿の間に残っていた異物感――――満員電車の中で味わった屈辱の残滓――――が、  
完全とまでは言えないにせよ、洗い流されていく。  
小さく安堵の息を漏らした少女は、しかし、すぐには立ち上がろうとせず、  
淡いオレンジ色の照明に照らし出された閉鎖空間の中で、ぼんやりと物思いに耽った。  
 
(・・・・もう、行かないと・・・・。  
・・・・いつまでもこうしてたって・・・・何も変わらないんだし・・・・)  
 
そう、頭では理解していたのだが、  
腰の奥に、未だ、ずぅん、と重い感覚の残る身体は、簡単には言う事を聞こうとしない。  
温水の流れが途切れる都度、今度こそは立ち上がろう、と試みては、  
その度に、洗浄装置から湧き上がる清冽な水流の心地良さを思い出して決心を鈍らせ、  
気が付けば、またボタンを押し下げてしまっているのだった。  
 
(・・・・もう少しだけ・・・・こうしていさせて・・・・あと、ちょっとだけ・・・・)  
 
クリーム色の間仕切りによって外界から隔てられた、独りきりの空間。  
どうやら、他に利用する者もいないらしく、  
売り場の方から聞こえてくる軽音楽の調べと小川のせせらぎにも似た水音以外は、静寂に包まれている。  
下半身をゆるゆると洗い清めてくれる水流の、何とも言えない優しさと相まって、  
出来る事ならばいつまでもこうしていたい、とさえ、感じてしまう優子だった。  
 
・・・・無理も無かった。  
 
ほんの二、三○分前まで、少女は、何十人もの大人たちの欲情した視線に囲まれる中、  
見ず知らずの中年男性の指で、乙女の最も大切な場所を弄り回される屈辱感と、  
その巧妙な指技の前に心ならずも屈してしまい、押し寄せる快楽に飲み込まれていく無力感とを、  
交互に絶え間なく受け止め続けなければならなかったのである。  
 
それを忘れ去る事は、「ヴァリスの戦士」たる彼女の、強靭な精神力を以ってしても容易な事では無かった。  
・・・・否、確かに、優子は、三界に比類無き類稀な精神力の持ち主ではあるのだが、  
それは、必ずしも、苦痛や羞恥に対して、人並み外れた免疫を備えているという意味では無く、  
辱めを受ければ傷付きもするし、苦痛を感じれば気弱にもなる。  
むしろ、彼女もまた、思春期を迎えた多感な少女の一人である以上、  
その心には、ガラス細工のように繊細、かつ、傷付き易い一面も確実に存在していたのだった。  
 
(・・・・・・・・・・・・)  
 
――――それでも、痴漢男の指にまさぐられた場所を念入りに洗い流した後、  
ランジェリーの売り場で購入したばかりの真新しいショーツを身に着けると、  
優子の精神の、少なくとも表層的な部分にだけは、落ち着きと呼べる状態が戻っていた。  
勿論、袋から取り出したばかりのショーツである以上、  
穿き慣れたものに比べて、多少の違和感はどうしても感じてしまうのだが、  
最早衣服としての用を成さない程、グショグショに濡れそぼった元の下着を穿き続ける訳にも行かない以上、  
それぐらいは我慢するしかない。  
 
・・・・それに、もう一つ。  
優子の手には、ショーツと同じ売り場で購入した、肌色のストッキングが握られている。  
 
普段、ほとんど身に着ける事の無いパンストを敢えて着用する事にしたのは、  
万が一、痴漢男の指の痕が残っていて、それが麻美の目に止まりでもしたら、と考えての事だった。  
さらに正確に言えば、麻美の視線から下半身を隠す手段を講じないままでは、  
彼女の前でレオタード姿を披露するなど到底不可能だ、と、判断したためでもある。  
――――兎に角、敬愛する先輩に不審を抱かれるという最悪の事態だけは回避したい、  
その切実な想いの前では、パンストへの抵抗感など物の数では無かった、という訳だった。  
 
(・・・・で、でも・・・・この感じ・・・・思っていたほど、悪くはないかしら・・・・?)  
 
表面に少し光沢感のある、ストッキングの肌触りを確認しつつ、小首をかしげる優子。  
ビニールの包装袋から取り出して実際に手に取るまではそれ程でもなかったのだが、  
こうしていざ身に着ける段になると、単に素足を見られずに済むという理由だけでは説明しきれない、  
頼もしさが湧き上がってくるから不思議だった。  
 
(・・・・いつもは、全然使ってないせいかしら・・・・?  
・・・・ちょっぴりだけど、大人になったような気がするわ・・・・)  
 
独りごちながら、靴下を脱いだ後の爪先にナイロン地のパンストをあてがう。  
白く細い足首を中に通した後、しなやかな脹脛からむっちりとした太腿へと、  
伸縮性に富んだ薄い布帛を、まるでその感触を味わうかのようにゆっくりと引き上げていくと、  
行く先々で、タイトなフィット感が汗ばんだ下半身を包み込み、適度な引き締めを加えていった。  
普段は、その感触が窮屈なものに感じられて、あまり好きになれずにいたのだが、  
今この瞬間は、苦手だった筈の素肌への圧迫感が、逆に、何物にも増して心強く感じられる。  
 
・・・・とはいえ、一応の知識だけは持っていたものの、日常ほとんど使用しないため、  
実際の所、優子は、デパートの女性下着コーナーに陳列されていたそのパンストが、  
本当に自分の身体に合っているのかどうか、完全に理解した上で購入を決めた訳では無い。  
彼女がそれを選んだ基準はすこぶる単純で、  
下半身の何処かに痴漢男の指の痕が残っていた場合でも目立たないよう、  
自分の肌の色より少し濃い色合いのものを求めていたためと、  
清楚なパール・ホワイトのレオタードと組み合わせる以上、  
派手な色柄やレース飾りの付いた物などは避けねばならないためだったに過ぎない。  
 
・・・・あるいは、意識の表層を占める感覚とは裏腹に、優子の心の奥深く、無意識の領域においては、  
本来の肉体を覆い隠し、うわべだけを取り繕う事を是としない気持ちが根強く残っていたのかもしれない。  
潔癖症と言い切ってしまえばそれまでだが、そういった点における意外な程の頑なさは、  
彼女の性格の中にあって、良い意味でも悪い意味でも大きなウェイトを占める要素の一つであり、  
価値観や物事の良し悪しを測る際にも、少なからず影響を与え続けているのだった。  
 
(・・・・ンッ・・・・あッ・・・・はふぅ・・・・ッ・・・・!?)  
 
最初に右脚を、続いて左脚を通した後、最後にパンティの部分を腰まで引き上げると、  
それまで、足、脹脛、膝、太腿など、各部位に分散していた密着感が初めて一体のものとなり、  
下半身全体に均等な圧力が加わって、乙女の柔肌をタイトに引き締める。  
その感触に、思わず息を弾ませた優子は、  
続く数十秒の間、感情の昂ぶりを感じつつ、その表面に指を走らせて、  
皺や垂みが出来ていないか、入念に――――殆ど神経質なくらい、入念に――――確かめようと試みた。  
 
(・・・・や、やだ・・・・わたし・・・・何やってるんだろう・・・・!?)  
 
我に返ってそう感じた後も、なおしばらくの間、優子の指先は止まらなかった。  
あたかも、突如として腰から下に出現した、『第二の下半身』への疑念に駆られたかの如く、  
あるいは、衣服である事を忘れさせるくらい、肌理細かく滑らかな『人工皮膚』に嫉妬を覚えたかの如く、  
何かに憑かれたかのような執念深さで、ストッキングの繊維を追いかけ続ける。  
それは、密着感に肌がなじみ、締め付け感が遠退いていって、一応は収まったものの、  
その後も、優子は、時折、発作的に、下半身の様子が気になっては、  
半ば無意識のうちに、指を這わせては布地の感触を確かめる、という動作を繰り返したのだった。  
 
 
――――三鷹市内。玉川上水に程近い、住宅地の一角。  
 
「・・・・ここが・・・・先輩のお宅・・・・?  
住所は・・・・ええと・・・・確かにここで合ってる・・・・けど・・・・」  
 
住所を記したメモと町辻に掲示された街区表示を頼りに目的の場所を探し当てた優子は、  
目の前の光景に呆気に取られて、しばらくの間、その場を動けなかった。  
日本新体操界の新星と謳われる、現代の舞姫・白影麻美のイメージから、  
その自宅については、重厚な風格を漂わせる古めかしい洋館か、  
もしくは、超現代的な機能美に溢れた高級マンションに違いない、と考えていたのだが、  
目の前に現れた建物はそのどちらでもなく、本格的な日本庭園まで備えた純和風の木造家屋だったのである。  
 
(・・・・たしかに・・・・普通の『お宅』というよりは、『お屋敷』と呼ぶ方がふさわしいとは思うけれど・・・・)  
 
回遊式、と呼ぶのだろうか、まるで日本史の教科書に載っている平安時代の貴族の邸宅さながらに、  
幾つもの池や築山を配した広い庭を囲むような形で3棟の平屋が配置され、奥の方には母屋と離れがある。  
それぞれの建物は長い回廊で連結され、瓦葺きの屋根と白い障子戸とが延々と連なっていた。  
庭園の一角には、古びた茶室が閑雅な佇まいを見せており、  
今にも、何処からか鼓や琴の音が聞こえてきそうな雰囲気に包まれている。  
 
『・・・・よく来てくれたわね、優子。遠慮しないで上がって頂戴。  
ああ、玄関は門を入って右側よ。左に行くと、御社の方に出ちゃうから、間違わないようにね』  
 
何となく入りそびれた優子は、  
年代物の杉材を惜しげもなく用いたいかめしい門扉の陰に身体をかがめ、おそるおそる邸内を覗き込む。  
途端に、門柱に取り付けられたインターフォンから電子音が響き渡り、  
続いて、スピーカーの性能が良くないせいか、微妙に変調をきたした麻美の声が聞こえてくる。  
 
(・・・・ええっと・・・・たしか、オヤシロって聞こえたけど・・・・。  
・・・・この場所って神社の境内か何かなのかな?  
だとすると、先輩のご実家は、神主さまって事かしら・・・・?)  
 
キョロキョロと周囲を見回すと、  
麻美の言った方向に、確かに石造りの鳥居らしきものが立っているのが分かる。  
社殿のような建物は見当らないものの、小さな社が幾つか並んでいるのも確認できる。  
新体操のトップ・アスリートと神社という意外な取り合わせに首を捻りながら、  
優子は、改めてもう一度、目の前の屋敷へと視線を走らせた。  
 
(・・・・想像していたのとは、かなり違うけど・・・・やっぱり、凄い事には変わりないわね。  
こんなに広い敷地なのに、隅々まできちんと手入れが行き届いてるし・・・・)  
 
庭の掃除と草むしりだけで、一体、どれだけの手間がかかるのだろうか?と、  
優子は、半ば感動し、半ば呆れ返りながら、玄関へと向かう。  
・・・・だが、数歩も進まないうちに、その歩みは鈍ってしまった。  
 
(・・・・どうしてだろう・・・・何故か落ち着かない感じがする・・・・気のせいかしら?)  
 
広壮な邸宅、優美な日本庭園・・・・何もかもが、非現実的なまでに美しく整えられた空間。  
目に映る物全てが、古い日本の風情に彩られた光景は、  
勿論、美しくはあるのだが、同時に、何処か現実離れした、得体の知れない空気を漂わせてもいる。  
まるで、全てが完璧な世界の中で自分だけが異質な存在であるかのような居心地の悪さを感じた優子は、  
漠然とした不安感に表情を曇らせ、思わず自分の肩を抱き寄せた。。  
 
・・・・だから、玄関先に、部活の時と同じトレーニング・ウェア姿の麻美が待ち受けているのを見付けた時は、  
唯一、日本的でない服装に身を包んだその姿が、途轍もなくリラックス出来る存在に思えたのだった。  
 
(・・・・ウフフッ、どうやら、この手は、このコにも上手く効いてるみたいね・・・・)  
 
にこやかな笑顔を浮かべて、母校の後輩を迎える麻美。  
しかし、そのラベンダー色の瞳の奥には、奸智に満ち溢れた冷たい光が宿っていた。  
あの庭を通って、自分の許に辿り着くまでの間、目の前の少女が何を感じたのか、  
そして、庭を抜けた先のこの場所に、周囲とは不釣合いな格好で現れる自分の姿がどのように映っているのか?  
麻美は、この古い日本家屋で20年以上もの間暮らしてきた経験から、全て知悉し尽くしていたのである。  
 
「驚いたでしょう?・・・・まぁ、無理も無いけど。  
初めてうちに来た人は、大抵そんな顔をしてるわ・・・・」  
 
悪戯っぽい笑みの下にどす黒い欲望を隠した麻美に先導され、板敷きの廊下を進んで行く優子。  
さすがに江戸時代まで遡る事は無いのだろうが、築数十年を数える日本家屋の中は、  
庭園と同じく、ここが東京都の一角である事を忘れてしまいそうになる程の静寂感と、  
陰鬱という程ではないが、何処か外界とは一線を画した、独特な空気によって支配されている。  
麻美の説明によれば、少し前までは、神前に奉納する巫女舞の稽古場を兼ねていたとの事だったが、  
たしかに、この場所の得体の知れない雰囲気には、  
単なる風雪の重み以上のものの存在を感じさせる、何かが確実に含まれていた。  
 
「・・・・でも、今は、私が新体操の練習に使うくらいで、ほとんどの部屋は空っぽ同然よ」  
 
案内されたのは、母屋を挟んで向かいに位置する平屋建ての離れの一つだった。  
麻美の言葉通り、新体操の練習場として用いられているらしく、  
フロアー・マットが敷かれ、筋力トレーニング用の機器が並べられた、50畳程の板の間を中心に、  
ちょっとしたトレーニング・ジム並に、更衣室やシャワールーム、手洗いなどが配置されている。  
 
「・・・・・・・・!!」  
 
その中の一つ、私的な客間を兼ねているらしい休息部屋に招き入れられた優子は、再び瞠目した。  
部屋の造作そのものは典型的な和室のそれなのだが、  
床にはカーペットが敷かれ、空調や照明は最新式のもの、内装や家具のセンスも極めて現代的である。  
床の間には、軸物の代わりに、クリスチャン・ラッセンの幻想的なアクリル画が掛けられ、  
これまでに麻美が制覇してきた、国内外の大会のトロフィーや優勝盾が誇らしげに飾られていた。  
 
「・・・・ちょっと待ってて。すぐお茶を淹れて来るから」  
 
そう言って、一旦、席を外す麻美。  
母屋の方に走り去る後姿を見送った優子は、  
改めて、ぐるりと客間の中を見回すと、新たな発見に胸を躍らせた。  
一見しただけでは分からなかったが、注意して眺めれば、  
室内の至る所に、現役の女子大生らしい繊細な置物や可愛らしい小物が飾られているのが目に留まる。  
 
(・・・・良かった・・・・白影先輩もやっぱり女の子だったのね・・・・)  
 
優子の口元に、愛想笑いではない心底からの笑みが浮かんだのは、屋敷の敷居を跨いで以来初めてだった。  
何もかもが『古き良き日本の伝統』のイメージの下に厳然と統一された白影邸の中にあっては、  
この部屋は異質と言う他無いのだが、(先刻の麻美の服装と同じく)外界からの訪問者である優子には、  
その異質さが、却って心地よく、窮屈さを感じずに済むのである。  
 
本来ならば、この部屋も、古色蒼然とした山水画や読解不能な漢文を書き連ねた墨蹟、  
あるいは、確かに美しくはあるものの、一女子高生に過ぎない優子が鑑賞するには難解過ぎる、  
美術品や骨董品の類によって占領されていなければならない筈である。  
だが、麻美は、敢えてそれら全てを取り去り、部屋の造作との調和に目を瞑ってまで、  
部屋の中に招じられた者が、心の底からくつろげるようにしてくれていた。  
その気遣いがとても有難く、また、嬉しく感じられて、  
(彼女の計算どおり)優子の心の中では、麻美への傾倒がますます深まっていったのである。  
 
 
白影邸。セキュリティ・ルーム。  
 
――――カチャカチャカチャッ。  
 
キーボードを弾く無機質な音が、壁面に張られた何層もの防音材に吸収され、消えていく。  
密室の真ん中に設けられたコンソール・デスクには、  
黒革張りのアームチェアに身体を沈め、腕組みをして思考を巡らせる麻美の姿。  
時折、超高解像度の液晶画面に映し出される客間の様子に鋭い視線を投げかけては、  
前後左右から被写体の動きを自動追尾可能な隠しカメラに向かって、指示を与え続けている。  
 
(・・・・一体、どういう事なの?今日に限ってストッキングだなんて・・・・。  
どうやら家からずっと穿いて来たようじゃないようだけど・・・・途中で何かあったのかしら?)  
 
室内に並ぶモニターは一つだけではなく、  
壁にも床にも天井にも、大小二十台近い画面がひしめき合っていた。  
勿論、そこに映し出されているのは、  
自分の身体が、360度あらゆる角度から撮影されているなどとは露ほども思わず、  
リラックスしきった表情で客間の調度を眺め回している蒼髪の少女に他ならない。  
ここに来るまでの間、電車内で相当揉み苦茶にされたらしいという事は、  
セーラー服の様子を一目見ただけで分かったものの、その事とストッキングとの関係が理解できず、  
こうして、隠しカメラを用いた、より詳細な分析を試みているのだった。  
 
客間に設置された隠しカメラの性能は、言うまでも無く、折り紙付きである。  
最初に、対象の何が見たいのか?を指定入力するだけで、  
内蔵されたAIが何千通りもの撮影パターンの中から被写体の動きに合わせて最適なものを組み合わせ、  
迫真映像をリアルタイムで届ける事が出来るのは勿論、赤外線や紫外線を用いた特殊撮影も自由自在である。  
客間には、その高性能カメラが、実に8台もセットされていた。  
 
――――否、客間だけではない。  
 
門扉にも、庭園の中にも、玄関にも、廊下にも、白影邸全体に張り巡らされたシステムが、  
対象が敷地内に一歩足を踏み入れた瞬間からその一挙一投足を監視し、データを収集し続けている。  
家族や使用人には『防犯対策』と説明しており、  
実際、空き巣の侵入を感知して捕縛するのに役立った事もあるのだが、勿論、真の目的は別に存在していた。  
 
白影麻美の隠された性癖の一つ・・・・『盗撮』のためである。  
 
(・・・・ちょっと見た目には分からない程度だけど、  
太腿からお尻にかけて長時間圧迫を受けた後が幾つも残ってるわね。  
・・・・成る程、ここに来るまでの間に・・・・多分、電車の中ね・・・・痴漢に遭った、という訳か・・・・)  
 
優子が必死に隠そうと努力していた恥辱の痕跡は、あっさり見破られてしまっていた。  
所詮、ナイロン製のストッキング程度では、人間の目は誤魔化せても、  
高感度カメラのレンズを欺く事など不可能である。  
さすがにスカートの奥の様子までは撮影出来ずにいるものの、  
同時に行った、サーモグラフィーによる体温分布の測定結果でも、  
下腹部から尿道口にかけての広い範囲で体温が異様に上昇している様子がはっきりと看て取れた。  
 
「・・・・可哀相に・・・・きっと、かなりしつこく責められたんでしょうね・・・・。  
フフフ、でも、おかげで、こっちのとしては随分やり易くなったわ・・・・」  
 
満員電車の中、身動きもままならず、偏執的な痴漢の指先で弄ばれる後輩の姿を脳裏に思い描きながら、  
口元に、にんまり、と粘ついた笑みを浮かべる麻美。  
目の前の液晶画面に映し出されている端正な少女の顔が、  
羞恥心と恐怖によって惨めに歪みきっている様子を想像しただけで、口の中一杯に生唾が湧き出し、  
ライト・グレーのトレーニングウェアに包まれた、しなやかな肢体が、じぃん、と痺れていく。  
すでに、太腿の間は、堪え性も無く秘裂の奥から滲み出てくる生温かい液体でじっとりと湿りつつあった。  
 
(・・・・何だか、すごく興奮してきちゃったわ・・・・。  
フフッ、ダメよ、麻美、そんなに焦っては・・・・折角のご馳走なんだから、じっくり味わわなくちゃ・・・・)  
 
ニヤリ、と笑みを漏らした麻美は、一旦、コンソールを離れて、調理場へと向かった。  
セットしていたコーヒーメーカーから、ドリップを終えたコーヒーを取り出し、  
用意していた白磁のカップへと注いで、銀製のスプーンを添える。  
角砂糖は各々3つで、よく見ると、片方にだけブラウン・シュガーが1つ混じっている。  
 
(・・・・すでに優子のカラダの準備が出来上がってるのなら、ここまでする必要は無いのかもしれないけど。  
・・・・でも、まぁ、念には念を入れておきましょうか・・・・?)  
 
楽しそうな表情で、麻美は、懐から小さなガラス容器を取り出すと、  
慣れた手つきで、ブラウン・シュガーを添えた方のカップの上へとかざし、  
中に入っていた少しドロリとした半透明な薬剤を、二、三滴、注入した。  
豊かな芳香を漂わせる飲み物の中に注ぎ込まれた無味無臭の溶液は、  
熱に反応して、一瞬だけ、漆黒の水面に白っぽい油膜のような固形分を生じたものの、  
すぐに拡散を始め、やがて、完全に周囲の液体と同化して見分けが付かなくなってしまう。  
それを確認した麻美は、注意深くガラス瓶に蓋をしてポケットの中に戻した後、  
おもむろに表情を改め、にやついた笑いを沈着冷静なコーチの顔の裏へと仕舞い込んだ。  
 
(これで、準備よし、と。・・・・クククッ、待ってなさい、優子。  
もうすぐ、ここに来る前に味わったのと同じ、いいえ、それ以上の悦びで、貴女をトロトロにしてあげるわッ!!)  
 
――――暫くの後。  
 
「・・・・ええっ!?・・・・レ、レオタードの下に・・・・何も着けずに、演技するんですか・・・・!?」  
 
素っ頓狂な声を上げて両目を大きく見開く、蒼髪の少女。  
驚きのあまり、テーブルの上に置かれた白磁のコーヒーカップを引っくり返しそうになるが、  
幸い、中の液体は、すでに胃壁の奥へと吸収されていたため、大事には至らなかった。  
愕然とする少女を軽くいなすと、ポニーテールの新体操コーチは、  
意地の悪い笑みをとり澄ました表情の裏に隠したまま、何食わぬ顔で用意していた説明を付け加える。  
 
「・・・・そう、アンダーも何も着けずに、よ。  
特に、腰から太腿にかけての部分についてだけれど、筋肉の動きをもっと詳しく確認したいの。  
恥ずかしいと思う気持ちは分かるけど、凄く大事な事だから、我慢して協力して貰えないかしら?」  
 
「・・・・は・・・・はぁ・・・・そ、そういうこと・・・・なんですか・・・・」  
 
淫らな欲望がとぐろを巻く本心などおくびにも出さず、あくまで冷静な口調を崩さない麻美。  
困惑する優子だが、日本新体操界のホープと目される女性に、  
新体操のトレーニングのために必要な事だ、と言い切られては、有効な反論など出来よう筈も無かった。  
逡巡の末、うっすらと頬を火照らせつつ、応諾の返事を返してきた後輩の姿に、  
コーチの胸郭の奥では、心臓の鼓動が、殆ど動悸と言って良いくらいに速度を増していく。  
 
「・・・・それじゃあ、着替えをお願いするわ。  
更衣室は練習場の横よ・・・・鍵は掛けてないから、自由に使って頂戴。  
私は、ちょっと用事を片付けてから行くから、着替えた後は適当に柔軟やっといて。・・・・分かったわね?」  
 
・・・・勿論、筋肉の動きを見たい云々は、完全な出鱈目である。  
インナーを着用せず、白地のレオタードを素肌に直接纏うとなれば、密着度は倍増し、  
場所によっては、薄い布地越しに乙女の柔肌が半ば透けて見えそうになる事も考えられなくはないが、  
レオタードと同じかそれ以下の厚みしかない新体操用のインナー・ウエアや、  
それよりも更に薄い、ストッキングを取り去ったぐらいの事で、  
筋肉や骨格の動きの見え具合が劇的に向上したりする筈が無かった。  
 
「・・・・え・・・・ええっと、その・・・・先輩・・・・やっぱり・・・・それは・・・・あの・・・・」  
 
一方の優子は、不承不承とはいえ、一度は応諾した筈だったものの、  
いざ実行となると、やはり、羞恥の感情が勝るのか、退室しようとする麻美を必死に引き留めにかかる。  
先程までとは打って変わった狼狽ぶりに、瞳の奥で小さく笑みを漏らした麻美は、  
だが、表面上は、あくまでも冷静なスポーツ・インストラクターの顔を装いつつ、  
しょうがないわねぇ、と、ため息をついて、更にもう一言、用意していたセリフを言い放った。  
 
「・・・・そこまで言うなら、こうしましょう。  
インナーは絶対に認められないけど、特別にそのストッキングだけは穿いてていいわ・・・・これならどう?」  
 
(・・・・そ、そんな・・・・ストッキングだけだなんて・・・・)  
 
思わず言葉を失ってしまう優子。  
厚さ1ミリにも満たない薄布を1枚身に纏ったところで、アンダーの代わりなど到底務まりはしないだろう。  
素肌の上に直接レオタードを着けるのと事実上何の違いもない、と言っても決して過言では無い。  
だが、その一方で、優子の心の中では、麻美の関心が、  
パンスト――――正確にはそれにより直視を免れている下半身――――に向けられた事への危機感が、  
より大きく、深刻なショックとなって、警告音を鳴り響かせてもいる。  
 
(・・・・せ、先輩が・・・・先輩が、私の脚を見てるッ!!  
・・・・ああっ・・・・だ、だめぇ・・・・脚が震えちゃう・・・・押さえきれないッ・・・・!!  
・・・・い、嫌ぁッ・・・・こ、このままじゃ、先輩に、変に思われちゃうよぉッ・・・・!!)  
 
敬愛する先輩の奇異の視線が、下着よりも薄い布切れの上から、  
今この時、一番触れて欲しくない場所へと注がれているのだと思うと、  
単なる気恥ずかしさや羞恥の感情を飛び越えて、恐怖のあまり、背筋に冷たい汗が噴き出してくる。  
元よりこのような事態になるを想定して、パンストを購入し、身に着けていた筈だったが、  
実際に麻美の目に見つめられると、普段穿き慣れていない分、どうしても不安感の方が先に立ってしまう。  
 
・・・・そして、その感覚は、今の優子には絶対に耐え難いものだったのである。  
 
 
――――再びセキュリティ・ルーム。  
 
「・・・・ンっ!・・・・クッ・・・・うふッ・・・・!」  
 
黒革張りのチェアに深々と体を預け、コンソール・デスクの上に両脚を投げ出して寝転がった麻美。  
ライト・グレーのトレーニング・ウェアは、上下とも無造作に脱ぎ捨てられ、  
いま、彼女の肢体を包んでいるのは、光沢感のある紫色のレオタードだけだった。  
優子と異なり、普段からアンダー無しでレオタードを纏う事に何の抵抗も持たない彼女は、  
むしろ、ぴっちりと肌に張り付く化繊の感触を愉しみながら、  
ふっくらと隆起した胸丘の脹らみをリズミカルに揉みしだき、  
鼻にかかったような切なく甘い喘ぎ声を引っ切り無しに漏らし続けている。  
 
「・・・・・んん・・・・くふッ・・・・んぐぅッ・・・・!!・・・ハァハァ・・・・ンむッ・・・・ふぐぅッ・・・・!!」  
 
隠し部屋の四方に配置された液晶画面を埋め尽くす、更衣室内の盗撮映像。  
写し撮られた着替えシーンは、休む間もなく電気信号へと変換され、  
LANサーバーを通じて画像処理システムへと転送され続けている。  
とりわけ、正面のひときわ巨大なモニターに映し出される、あられもない姿の優子の映像は、  
室内に据え付けられた、マジック・ミラーの全身鏡の裏側に隠されたカメラにより、  
着替えの為に鏡の前に立った被写体を、真正面から余す所無く撮影しているものだった。  
勿論、少女の姿態を追いかけるレンズはそれ1つだけではなく、  
更衣室の中にいる限り、360゜どの角度からでも自由自在に盗撮可能なのは言うまでも無い。  
 
「・・・・んあぁッ・・・・き、綺麗よ・・・・優子ッ・・・・とっても、綺麗ッ・・・・!!  
・・・・ううッ・・・・そうよ・・・・くぅッ・・・・もっと、こっちを見てッ・・・・アアアッ・・・・もっと・・・・!!」  
 
激しい欲情に身を焦がし、あられもない言葉を連呼しながら、自慰に没頭する麻美の前では、  
自分の姿が盗撮されているなどとは夢想だにしていない優子がパイプ椅子に腰を下ろし、  
つい今しがた脱ぎ終わったばかりのスカートを行儀良く折り畳んでいる。  
すでにセーラー服は少女の身体を離れて、傍らのロッカーの中へと仕舞い込まれており、  
今身に着けている衣服は、ブラジャーとショーツ、そして、パンストを残すのみだった。  
 
(・・・・ハァハァ・・・・こ、今度は・・・・ブラの番かしら・・・・!?  
・・・・くふふふ・・・・そうよ・・・・優子・・・・焦らなくたって大丈夫・・・・。  
・・・・もっとゆっくりッ・・・・よぉく見せて頂戴・・・・貴方のカラダの、隅々までッ・・・・!!  
 
画面の中で、今しもブラジャーの肩紐に手をやろうとしている優子に向かい、  
勝手な要求を並べ立てながら、麻美は、さかんに自分の胸を弄り回している。  
ハイレグ・カットのレオタードに包まれた牝の身体が、カアァァッ、と熱く燃え上がり、  
心臓は、放っておけば胸郭を突き破って外に飛び出しかねないような勢いでバクバクと飛び跳ねていた。  
目蓋の内側で、青白い稲妻が何度となくフラッシュを繰り返す度、  
赤熱した衝動の塊が湧き上がってきて、すでに充分脆くなっている理性の城壁を容赦なく打ち崩していく。  
 
「はぁうううッ!!・・・・み、見てるだけで・・・・どんどんいやらしい気分になっていくぅッ・・・・!!」  
 
C、あるいは、Bプラスといった所だろうか、巨乳と言われる程の大きさではないにせよ、  
十分過ぎるほど健康的な張りと色つやに恵まれた乳房が簡素なブラの中から姿を現すと、  
欲情に血走った瞳が、たちまちその可憐な果実に吸い寄せられる。  
 
「・・・んふぁああッ・・・・も、もう・・・・止まらないッ・・・・あああッ・・・・ダメ・・・・止められないィッッ・・・・!!」  
 
コーヒーに混ぜた催淫剤の効果が早くも現れ始めているのだろうか、  
よく見ると、二つの美乳の中心に位置する淡いピンク色の肉突起は、  
初々しい外見とは裏腹に、随分と大人びた隆起ぶりを見せて、ツン、と先を尖らせていた。  
コチコチに固くなった己れの乳首を目の当たりにして、  
優子自身も、ようやく自分の身に何かが起きつつある事に気付いたらしく、  
目の前に現れた変調の兆候に不安と戸惑いの感情を隠せずにいる。  
嗜虐性癖の持ち主たる麻美にとっては、その表情もまた格別なものに他ならず、  
ゾクゾクするような快感が背筋を駆け巡っては、貪婪なメスの本能を解き放っていくのだった。  
 
(・・・・い、一体、どうしたというの・・・・?さっきから、カラダが凄く変だわ・・・・!?)  
 
敬愛する白影麻美が、自分の裸を盗み見て自慰に耽っているなどとは思いもしない優子だったが、  
猛々しく屹立したばかりでは飽き足らず、あろう事か、小刻みな痙攣を発しさえしている乳首を前にしては、  
急速に恐怖を募らせずにはいられなかった。  
視線の先では、乙女の柔肌がほんのりと薄く色付き、  
全体からすれば、まだ僅かな面積に過ぎないものの、  
首周りや鳩尾や腋の下といった汗腺の集中する部位に沿って、生温い汗の粒が滲み出し始めている。  
 
(・・・・も、もしかして・・・わたし・・・・感じてる!?・・・・あの・・・・電車の中・・・・みたいに・・・・!!)  
 
一瞬、脳裏をかすめた、ぞっとするような疑念を、  
――――それだけはありえない、否、あってはならない、と、強く否定する優子。  
・・・・だが、不吉な予感は、否定しても否定しても次々に浮かんできて、  
少女の心を暗澹とした影で覆い尽くそうと、執拗に画策し続ける。  
 
焦燥を感じた優子は、とにかく着替えだけは済ませてしまおう、と考えて、  
動揺に震える指先を叱咤しつつ、ゆっくりとパンストを引き下げていく。  
・・・・だが、ピッチリとした極薄のナイロン生地の下から姿を現した、しなやかな太腿と脹脛は、  
優子の祈るような期待の眼差しを見事に裏切って、白く輝く汗の粒に覆い尽くされていたばかりか、  
外気に触れるなり、堪え難いほどのむず痒さを発して、ヒクンヒクンと震え始めたのだった。  
 
(・・・・ヒィィィッ!!・・・・い、嫌ッ・・・・いやぁあああッ・・・!!!!)  
 
ストッキングの端を握り締めたまま、全身を凍りつかせる優子。  
両脚を覆うムズムズ感は、普段は滅多に着用しないパンストに対する一種の神経過敏が主な原因で、  
以前にも似たような事はあったのだが、完全に冷静さを失った優子はそんな記憶などすっかり忘れてしまっていた。  
 
・・・・そうなれば、導き出される結論は、性的な要因以外にはありえない。  
その結果、自分自身への激しい不信と嫌悪感を生じ、それによって激しく打ちのめされた優子の心は、  
為す術も無く、忘れかけていた、否、忘れようと必死に努力していた、あの忌まわしい記憶を、  
皮肉にも、自らの手で蘇らせてしまったのだった・・・・。  
 
(・・・・違う・・・・違うわッ!!あの時も、今も・・・・わたし・・・・感じてなんかいないッ・・・・!!  
・・・・あああッ・・・・違うのッ・・・・わたし・・・・わたし・・・・気持ち良くなんかッッ・・・・!!)  
 
・・・・だが、気持ちとは裏腹に、電車内で体験した悪夢の記憶は、  
ジワリジワリと全身を冒していく催淫剤の効き目との相まって、少女の心を着実に責め立て苛んでいった。  
身体の内側からトロ火で焙られていくようなその感覚の前には、否定の言葉など何の役にも立たず、  
むしろ、もがけばもがくほど、より深い泥沼に入り込んで、這い出せなくなってしまう。  
一方的な敗北の末に、精も根も尽き果ててしまった優子は、  
夢遊病患者のように立ち上がると、何かに吸い寄せられるようにして目の前の全身鏡に寄りかかり、  
僅かばかりの涼と引き換えに、魔熱に蝕まれた柔肌を擦り付けつつ、ついに咽び泣き始めたのだった・・・・。  
 
「・・・・はぐぅっ・・・・いっ・・・・いひぃっ・・・・いいわぁッッッ!!  
・・・・ゆ、優子・・・・その・・・・表情ッ・・・・!!ひあああっ・・・・凄く・・・・感じるぅッッッ!!!!」  
 
無論、地獄の苦痛に悶絶する優子の姿は、隠し部屋の同性愛者にとっては最高のご馳走に他ならない。  
体育の授業、あるいは、学校のクラブ活動で用いられるものとは、デザインからして明らかに異なる、  
妖艶な紫色のレオタードに包まれた肉体は、立て続けに激しい喜悦に襲われ続けていた。  
すでに、その指先は、胸乳をまさぐるだけでは物足りなく感じるようになり、  
ハイレグ・カットのレオタードのタイトなクロッチ部分の上を狂ったように暴れ回っている。  
 
「・・・・あああッ・・・・可哀相な優子ッ・・・・!!・・・・辛いのね!?・・・・苦しいのね!?  
フフフッ、そうよ・・・・もっと苦しんで、もがいて・・・・んあッ・・・・そして・・・・最高の表情をッ・・・・!!」  
 
いまや全身に広がった、ねっとりと絡みつくような快美感に屈服しかけ、  
端正な顔を無残に歪めて弱々しくかぶりを振る後輩の姿は、ラベンダー色の瞳を釘付けにしていた。  
サディスティックな欲情に衝き動かされる白い指が、レオタード越しに敏感な花弁に触れるたび、  
子宮の奥が熱く疼いて、薄布の下の括約筋が、ビュクン、ビュクン、と不規則な上下運動を繰り返す。  
やがて、キュルキュルッ、という、ある種の小動物の啼き声にも似た奇怪な音が漏れ響いたかと思うと、  
熟しきった肉果実から、生温かい愛蜜が、じゅくじゅくと滲み出てきて、  
光沢を帯びた紫色の隆起の表面に、ぱっくりと口を開けた秘裂の様子を鮮明に浮かび上がらせた。  
 
「・・・・あッ・・・・あッあッ・・・・いいッ・・・・さ、最高だわッ・・・・!!  
ふはぁああッ・・・・この私を・・・・こんなに・・・・感じさせるなんて・・・・くああああッ!!!!」  
 
黒革張りのソファの上で、一匹の牝獣と化した肉体がガクガクと揺れ始める。  
勢い良く跳ね上った爪先が、コンソール上のキーボードを薙ぎ払い、  
ガシャン、という派手な音と共に無残なガラクタに変えてしまったが、拾い上げる気にもなれない。  
もはや、レオタード越しに触るだけでは飽き足らなくなった麻美は、  
ぐじゅぐじゅに濡れそぼった股布部分を捲り上げて、強引に横にずらすと、  
猛然と裂け目の間に手指を突き入れて、愛汁にまみれた敏感な粘膜を掻き回し始める。  
 
「・・・・あああッ・・・・優子ッ!!イ・・・・イクッ・・・・!!わたし・・・・もう・・・・イッちゃうッ!!  
ひぃあああッ・・・・ダ、ダメぇッ!!優子・・・・わたし・・・・も、もうッッッ・・・・!!」  
 
普段の言動からは想像も出来ない、はしたない大声を上げ、歓喜に咽び泣く麻美。  
絶頂の足音が間近に聞こえるようになったのだろう、椅子の上の身体は、  
まるでブリッジでもしているかのように高々と反り返っていた。  
その頂きからは、ぶじゅッ、ぶじゅじゅッ、という濁った水音が引っ切り無しに上がり、  
むき出しになった火口から半透明な溶岩が溢れて、紫色の斜面を流れ下っていく。  
それを支える下半身は、関節炎にうなされる中風患者のようにガクガクと震え続け、  
今にも大崩落を起こして、奈落の底へと引き込まれていきそうな有様である。  
 
「・・・・っ・・・・んっ!?・・・・ひぃあっ・・・・あああッ!!」  
 
限界の訪れは急だった。  
ひときわ甲高い奇声が空気を震わせ、汗まみれの身体が跳ね上がる。  
頭の中で真っ白な閃光が炸裂し、  
ほんの一瞬、全ての感覚が粉々に粉砕されて、何も感じ取れなくなった。  
 
――――――――その、次の瞬間。  
 
「ひぃぎああああッッッッッ!!!!!!」  
 
麻美の体の中で新しい太陽が誕生し、  
圧倒的な光と熱とが、ちっぽけな意識を一呑みにする。  
理性も思考も感情も、何もかもが、凄まじい衝撃によってバラバラにされ、  
同時に一緒くたにされて、エクスタシーという名の巨大な溶鉱炉の中へと投げ込まれる。  
心臓をはじめとする五臓六腑は、巨大な爆風に煽られて残らず千切れ飛び、  
沸点に達した全身の血液は、毛穴という毛穴から蒸気になって噴き出していく。  
 
――――アッ!!アッ!!・・・・アアッ!!・・・・アアアアッッッッ!!!!  
 
骨格の許容する限界ギリギリまで突き上げた腰を激しく左右に振り乱し、悶絶する麻美。  
その頂きでは、あまりの快感に我慢できなくなったのだろう、  
充血しきった真珠玉が、自ら包皮を捲り上げると、  
溢れ返る愛液によって水浸しになった縮れ毛の林の中から、  
綺麗なピンク色をしたその顔を、ニョキッ、と突き出していた。  
 
――――・・・・ひッ・・・・!!いッ・・・・ひぎッ・・・・いぎひぃいいッッッッ!!!!  
 
口をついて飛び出していく喘ぎ声も、ますます荒々しさを増していく。  
だが、この期に及んでも、麻美の指先は、まるで別の生き物であるかのように、  
充血して倍近くまで厚味を増した膣壁を掻き回し、貪欲に快感を求め続けて止まなかった。  
その動きに合わせて、熱い飛沫が、ぴゅるッ、びゅるッ、と間欠泉のように噴き上がり、  
ほうき星のように長い銀色の尾を引きながら、濃厚な牝臭と共に飛び去っていく。  
 
めくるめく快楽の嵐の中で、頭の中は真っ白に塗り潰され、意識は完全に混濁しきって、  
吹き荒れる圧倒的な衝動に対し、ただひたすら屈従し続ける事しか出来なかった。  
輝きを失ったラベンダー色の瞳は、止め処も無く湧きあがって来る涙滴のヴェールによって覆い隠され、  
目の前のモニターに映し出される愛しい後輩の姿すら、ほとんど見えなくなってしまっていたのだが、  
もはや、快感に麻痺しきった彼女の思考は、それを残念だと思う事すら無くなった挙句、  
果てしなく湧き上がる快楽の大波に呑み込まれて、歓喜の叫びを上げ続けるだけだった・・・・。  
 
(・・・・う・・・・んっ・・・・んんっ・・・・)  
 
汗でグショグショに濡れて、半ば以上解けかけた焦茶色のポニーテールを、一、二度、物憂げに揺らして、  
ゆっくりと顔を上げた麻美は、薄目を開けて正面のモニターにぼんやりとした視線を投げかけた。  
淫楽に狂い果て、立て続けに何度も昇り詰めた身体は、  
えも言われぬ恍惚感と引き換えに体力を蕩尽し尽し、身を起こす事すら容易ではない。  
だが、その一方では、腰骨の奥には、未だ燃え尽きていない官能の残り火が燻り続け、  
再び火勢を増してレオタードに包まれた心身を焼き尽くす機会を、しぶとく窺い続けている。  
 
(・・・・優子は、何処へ?・・・・もう、更衣室にはいない・・・・ようだけど・・・・)  
 
無人の更衣室を確認して、束の間、:残念な思いにとらわれる麻美。  
もしも、蒼髪の少女が、ショックに我を失ったまま、着替えを終える事無く、へたり込んでいたならば、  
予定を早めて、有無を言わさず、レズビアンの悦楽を教え込んでやるつもりだったのだが、  
どうやら、激しい内面の葛藤の末に、かろうじて勝利を収めたのは、  
絶望と無気力ではなく、自分との約束を果たさなければならぬ、という義務感の方であったらしい。  
後輩少女の、可愛らしい顔と初心な性感に似つかわしくない、意外にタフな精神に軽い驚きを覚えた彼女は、  
しかし、すぐに狡猾な笑みを浮かべると、赤い舌先で唇の表面を、チロリ、と舐め上げた。  
 
「・・・・フフッ、まぁ、良いわ。  
楽しみはなるべく後まで取っておく方が、より状況を楽しめるというものですもの・・・・」  
 
解けかけたポニーテールを二、三度軽く振り、頭の中からもやもやした感覚を叩き出した麻美。  
汗まみれの身体を起こし、幾度か深呼吸して、素早く気分を切り替えたのに続いて、  
床に落ちて壊れた物の代わりに、予備のキーボードを取り出すとコンソールへと接続し直す。  
真新しいキーの上を、生乾きの汗と愛液の混合物を纏わり付かせた指先が走り出すやいなや、  
液晶画面の映像が切り替わって、今度は広々とした練習室の様子が映し出された。  
 
(・・・・いた、いた。クククッ、どうやら、言い付け通りに、ちゃんと柔軟やってるようね。  
・・・・さぁて、もう一つの言い付けの方はどうかしらねぇ・・・・?)  
 
ほくそえむ麻美の瞳からは、つい今しがたまでどんよりと垂れ込めていた消耗と倦怠の影が消え去り、  
狡知と情欲の光を宿した強い眼差しが、以前にも増して異様な輝きを放っていた。  
見つめる先では、パール・ホワイトのレオタードに身を包んだ蒼髪の少女が、  
一見、表情にも身体の動きにも、特に目立つような変化もなく、  
練習用のブルーのマットレスの上で、伸脚や屈伸などの柔軟運動を黙々とこなしている。  
 
・・・・だが、練習場にも配置されている隠しカメラの高感度レンズと、  
それを通じて、少女の一挙一投足を冷酷に観察する新体操コーチの目は見逃さなかった。  
よくよく注意してその部分を観察しない限り、まず分かりはしない程度ではあるのだが、  
少女の股間を包む、浅く切れ込んだクロッチ部分の一部には、本来の清冽な色彩にやや翳りを生じて、  
真珠の白、というより、むしろ、銀灰色に近い色合いとなっている場所が、確かに存在しており、  
そして、優子の体の動きに合わせて、その面積を少しずつ拡大させている、という事実を・・・・・・・・。  
 
 
――――――――――――TO BE CONTINUED.  
 
 

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