リアリティ。東京都三鷹市内某所。白影邸。  
 
50畳はあろうかという板敷きの間。  
床に敷かれた青色のフロアー・マットの上で、純白のレオタードを身に纏った少女が準備運動をしていた。  
軽い体操、屈伸と伸脚を数回ずつ、腰や膝、足首といった関節の柔軟・・・・、  
それらを、3回繰り返した後、今度は腕立て伏せと腹筋。  
 
「・・・・ッ・・・・んッ・・・・はぅッ・・・・くッ・・・・」  
 
軽めの運動にも関わらず、その額には皺が刻まれ、小さな汗の粒が幾つも滲んでいる。  
パール・ホワイトの輝きに包まれた身体は、筋肉も関節も、申し分なく、柔かくしなやかで、  
本来ならば、この程度の事で息を切らす筈など無い筈なのだが・・・・。  
 
(・・・・んあッ・・・・ま、まただわ・・・・ア、アソコが・・・・くぅッ・・・・擦れて・・・・んふあぁッ!)  
 
必死に歯を食いしばり、下半身を襲う感覚を堪えようとするレオタードの少女――――優子。  
今にも泣き出しそうな視線の先では、その部分だけ灰色に染まった化繊の布地が、  
太腿の間の、全身で一番敏感な領域をギリギリと食い締めている。  
元より、レオタードという運動衣が考案された目的が、  
女性の身体のラインが持つ美しさを最大限に引き出すためである以上、  
ぴっちりと身体に密着しているのは当然の事なのだが、それにしてもこれはただ事ではない。  
 
(・・・・うう・・・・脚を動かしただけで・・・・すぐに布地が食い込んじゃう・・・・!!  
・・・・ど、どうしよう・・・・もうすぐ先輩が・・・・一体・・・・どうすればいいの・・・・!?)  
 
電車の中で見知らぬ中年男の指戯によって散々に弄ばれ、アクメにまで導かれた上、  
今また、飲み物に盛られた淫毒により、内側から発情に導かれつつある肉体にとっては、  
股間を責め苛むその感触は、到底、堪え得るものではない。  
素肌との間には、コーチの「特別のはからい」によって着用を許されたパンストが存在しているものの、  
コンマ数ミリの厚みしかないナイロン製の薄布は、花弁の間から湧き上がる愛蜜によって濡れそぼった挙句、  
今やレオタードの股布とほとんど一体化して、緩衝材としての役割など到底期待できない有様だった。  
 
(・・・・と、とにかく・・・・食い込みを元に戻さないと・・・・)  
 
単なる圧迫感や痛みであれば、何とか耐え抜けない事もないかもしれないが、  
優子の下半身を包み込んでいる締め付け感は、  
それらに加えて、じんじんするような疼きと悪寒のようなむず痒さを伴っていた。  
 
(・・・・っ・・・・!?・・・・んッ・・・・ふあッ・・・・ああああッ・・・・!!)  
 
天使の悪戯か悪魔の誘惑か、股間に食い込んだ股布を元に戻そうとして伸ばした指先が、  
見えざる力に引っ張られるようにして、あらぬ方向へと逸れてしまう。  
しなやかな指先が捉えてしまったのは、じっとりと露に濡れたナイロンの肌触り、  
・・・・そして、その下から伝わってくる、火照りと震え、そして、信じられないほどの心地良さ。  
 
――――ドクン、ドクン、ドクン・・・・。  
 
心臓の鼓動が、次第に間隔を狭めていくのが自覚出来る。  
こんな事をしてはダメ、今すぐ手を離さなきゃ、と焦れば焦るほど、  
全身がカアッと熱く火照って、指を離す事も目を逸らす事も出来なくなっていく・・・・。  
 
――――麻美が練習場の中に入ってきたのは、まさにその瞬間だった。  
 
――――――――ガラガラガラッッッ!!!!  
 
背後で、入り口の引き戸が、勢い良く開け放たれ、  
初夏の陽光と共に入り込んできた一陣の清風が、少女の体に纏わり付いた陰気を吹き払う。  
文字通り、跳び上がるようにして後ろを振り返った彼女の目に飛び込んできたのは、  
艶やかな光沢感のあるローズ・ピンクのレオタードに着替えたこの屋敷の主の姿だった。  
 
「――――すっかり待たせちゃったわね。ちゃんと準備運動してた?」  
 
先日、体育館での練習に姿を見せた際には、上からトレーニング・ウェアを着込んでいたため、  
優子が、レオタード姿の麻美と対面したのは、これが初めてである。  
無論、あの日以降、新体操部の友人達から、写真誌や競技会の様子を録画したビデオを借りて、  
敬愛する先輩の流麗なプロポーションと躍動感溢れる演技を目に焼き付けてきたのではあるが、  
実際にこうして間近で目にするそのレオタード姿は、  
写真や映像に撮影されたものとは比べ物にならない程の存在感に光り輝いていた。  
 
すらりと伸びた長身の背丈に、キリリと引き締まった顔立ち。  
ポニーテールに括ったナチュラル・ブラウンの直髪は、  
新体操の選手にしては珍しく、団子状に結い上げたりせず、そのまま腰まで伸ばしている。  
すっきりと通った鼻筋とペアを組むのは、引き結ばれた桜色の唇だが、  
そこに浮かぶ落ち着いた微笑がアクセントとなって、ともすれば怜悧な印象を与えがちな表情を和らげていた。  
 
しっかりとした充実感を感じさせるバストの膨らみ、  
それとは対照的に、程よく引き絞られ、美しくくびれたウェストライン、  
そして、急角度でV字型に切れ上がったレッグ・ホールから伸びる肉感的な太腿と、  
見方によっては、非常にきわどいとさえ感じられかねない程豊かな、ヒップの稜線。  
 
その身体を包む、濃い ピンク色のレオタードは、基本的な形状こそ、あまり違わないものの、  
デザインもカラーリングも、大学生や社会人レベルの競技に用いられる本格的なタイプで、  
とりわけ、胸元から背中にかけて螺旋状に巡らされた、メタリック光沢の数本のラインが、  
優子が着用している純白のそれよりも、ずっときらびやかで大人びた雰囲気を醸し出している。  
 
(・・・・はぁ・・・・凄い・・・・私なんか、逆立ちしたって敵いっこないわ・・・・)  
 
目の前に現れた美神の化身には、ため息しか出てこない。  
その肉体に備わった、妖艶と言っても過言では無いほどの魅惑的な雰囲気は、  
高校生レベルとしては全く申し分ない水準にあるとはいえ、  
女性としての成熟度において、彼女とは比べるべくもない優子には、  
(現時点では)いくら望もうとも、手に入る可能性など皆無のものばかり  
・・・・あまりにも激し過ぎる格差に、嫉妬する気さえ起こらなかった。  
 
(唯一対抗できるとしたら、ヴァリア様ぐらいかしら・・・・?)  
 
ぼんやりとそう考えかけて、優子は、再び、自嘲にかられた。  
周囲の同性――――家族や友人、麗子をはじめとする夢幻界の面々――――の誰を思い浮かべてみても、  
これほどまでに肉感的な、大人の魅力に満ち溢れた肉体の持ち主は見当たらないのは事実だが、  
だからと言って、数千年の時を生きてきた異世界の女王と、  
現実界の母校の先輩とを引き比べてみる事自体、ナンセンス極まりない発想であるのは間違いない。  
 
――――こんな突拍子も無い事しか思いつけないなんて、やっぱり、私はまだ子供なのね。  
 
・・・・そう、口の中で呟きを漏らした少女は、  
しかし、麻美のラベンダー色の瞳が自分を冷たく吟味している事に、全く気付いてはいなかった。  
 
(見たところ、まだ足がフラついてる訳でもないみたいね。  
なかなか頑張ってるじゃない・・・・それとも、コーヒーに入れたクスリの分量、間違ってたのかしら?)  
 
観察と推理とを繰り返しながら、レズビアンの女子大生は、  
目の前の後輩の状況を冷酷に分析し、次の一手を思案する。  
効き目を現わすのは遅れ気味とはいえ、パール・ホワイトの薄布越しに漂ってくる汗の匂いが、  
すでに、甘酸っぱい、を通り越し、甘ったるい、と言わなければならない状態に陥っている事からも、  
また、おそらくは無意識的なものだろうが、丁度腰の部分の前を隠すような形で重ねられた両手首が、  
小刻みにヒクヒク震え続けている事からも、媚薬の力は着々と肉体を蝕み続けている事が伺えた。  
 
――――ならば・・・・どうする?  
 
(多少時間はかかっても、どのみち結果は動かない筈だけど、  
クククッ、ま、たまには、薬に頼らないのも良いかもしれないわねぇ・・・・)  
 
小さく喉を鳴らしながら、口の中に湧き出してくる生唾を嚥下する。  
事前に立てた計画では、目の前の少女は、自分が練習場の中に入室する頃には催淫剤が全身に行き渡り、  
発情のあまり、正気を保つ事すらおぼつかなくなっている筈だった。  
だが、現時点においては、薬剤の効果は着実に現れているとはいえ、  
彼女の理性を完全に崩壊させるまでには至っているとまではとても言えない。  
 
(・・・・それならそれでいい。計画の一部を現状に合わせて手直しすれば良いだけの事だわ)  
 
「ちゃんとカラダはほぐしてあるようね、感心感心。  
・・・・じゃあ、早速レッスンを始めるから、こっちへ来て頂戴」  
 
麻美が優子を手招きしたのは、  
壁際に設置された2メートル四方はあろうかという大きな一枚鏡の前だった。  
いよいよ憧れの先輩との一対一でのレッスンが始まるのだ、と、内心ひどく緊張しつつ、  
蒼髪の少女は、妙に内股気味の走り方で、急いでその傍に駆けつける。  
 
「・・・・そうね、まず、"MGキック"をやって貰えないかしら?  
ただし、なるべくゆっくりと・・・・可能ならば、キックの状態で体を静止させて。どう、出来るかしら?」  
 
"MGキック"とは、幾つかある新体操の基本姿勢の中でもやや難度の高い部類に属すフォームで、  
ブリッジの要領で背中を床に向けて体を反り返らせた状態から、  
片方の脚を蹴り上げて、天井に向け高々と突き上げる、という技である。  
正しいポーズを決めるためには、持久力と瞬発力の両方を兼ね備えていなければならず、  
成る程、下半身の筋肉の動きを確認する、という(表向きの)目的のためには、理想的な方法だった。  
 
「・・・・・・・・」  
 
少女の顔色が、みるみるうちに真っ青に変わり、続いて、真っ赤に染まっていく。  
その様子を気取られないように盗み見ながら、にんまり、と狡猾な笑みを浮かべる新体操コーチ。  
"MGキック"を完成させるためには、まずブリッジの姿勢を取らねばならず、  
続いて、片足を蹴り上げて、ピン、と、真っ直ぐ垂直に突き上げねばならない。  
そうなれば、今この瞬間も、膣壁の間からじゅくじゅくと滲み出している愛蜜にジットリとまみれた、  
あさましい股間の有様を曝け出す事になってしまうのは明白だった。  
 
「・・・・え・・・・えぇと・・・・その・・・・わ、わたし・・・・」  
 
咄嗟に、『"MGキック"は初めてで・・・・』という言い訳が脳裏をかすめたものの、口にする事は出来なかった。  
先日、麻美が、コーチ着任の挨拶にきた折りに、バー・レッスンとそれに続く"個人指導"の後、  
たしか"MGキック"の練習もしている筈である。  
にも関わらず、これまで一度もした事が無い、などと言っても、信用しては貰えないだろうし、  
むしろ、どうしてそんな嘘をつくのか?と、怪しまれてしまうのがオチだろう・・・・。  
 
「"MGキック"、この前もやってたわよね?なかなか良いフォームだったのを覚えてるわ。  
・・・・ああ、空中で技を止めるのが難しい、という訳ね。  
だったら、私が手を貸してあげるから、とにかく一度、やってみせて頂戴」  
 
追い討ちをかけるように一気に畳み掛けられ、  
進退窮してしまった優子は、思わず、天を仰ぎ、  
・・・・そして、麻美の言葉を反芻して、ぎょっ、とした表情になった。  
 
(・・・・『手を貸してあげるから』って・・・・あああ・・・・そんな・・・・)  
 
脳裏に蘇ったのは、先日の体育館での出来事の記憶。  
引き絞られた弓のように、ピン、と張り詰めた自分の身体の上を、ゆっくりと滑り下りていった先輩の指先、  
あたかも魔法の杖の先でなぞられたかのように、触れられた部分の皮膚が熱を帯びて、  
不可思議な痺れと疼きに包み込まれていく、白昼夢のような体験・・・・。  
 
少女の心臓が、ビクン、と跳ね上がり、  
あぁっ、という、かぼそい呟き声が零れたかと思うと、  
目の前の景色が、グルリ、と一回転して、途方も無く不快な感触が頭の中を掻き回す。  
膝頭がガクガクと砕け、足首がゼリーのように溶け流れるような感覚に襲われた次の瞬間、  
グラグラッと傾いだ彼女の体は力無く崩れ、マットレスの上へと沈み込んでいった・・・・。  
 
(・・・・カ・・・・カラダが・・・・あつ・・・・い・・・・ち・・・・からが・・・・はいらない・・・・)  
 
はぁッ、はぁッ、と大きく息を弾ませる優子。  
全身に回った淫薬にからめとられて、すでに腰から下にはまるで力が入らない。  
座り込んでいる事さえ困難になった少女は、力尽きたように青いマットレスの上に倒れ込み、  
呆けたような虚ろ目で、照明灯の青白い光に浮き上がる、天井板の木目をぼんやりと見上げた。  
 
(・・・・ダメ・・・・先輩が・・・・見てる・・・・はやく・・・・立ち上がらないと・・・・。  
・・・・あああ・・・・で、でも・・・・動かない・・・・い、一体・・・・どうしちゃったの・・・・私のカラダ・・・・!?)  
 
涙でふやけた瞳はすでに視力が弱まり、焦点すら合わせづらくなっている。  
ぼやけた視界に黒い影が落ちてきて、かろうじて倒れた自分を麻美が覗き込んでいる事は判ったものの、  
口元から吐き出す事が出来たのは熱と湿気を多分に含んだ空気の塊だけで、  
助けを求める言葉は、どれだけ頑張っても声にはならなかった。  
 
「・・・・あら、残念。これからって所で、おクスリが効いてきたみたいね。  
クククッ、でも、折角だし、"MGキック"は見せて貰おうかしら・・・・?  
・・・・勿論、その様子じゃあ、手助け無しでは絶対にムリでしょうけどねぇ・・・・」  
 
とろん、とした目つきで、幻覚と現実の境界線上を彷徨っている優子。  
その上に屈み込んだ麻美の美しく整った唇は禍々しい笑みに満ち溢れている。  
だが、すでに意識と呼び得るもののほとんどは喪失してしまっている蒼髪の少女は、  
それに気付く事なく、力無くたるんだ口元から、くぐもった音を漏らし、  
懸命に自分の窮状を伝えようと足掻き続けていた。  
 
「・・・・フフフ、なぁに?よく聞こえないわ。もっと大きな声で話して貰えないかしら?」  
 
侮蔑の感情を満面に湛えつつ、純白のレオタードに手を伸ばす、同性愛嗜好者。  
滲み出した汗によって、しなやかな身体にピチピチと張り付く、ナイロン繊維の感触を楽しみつつ、  
性感帯の位置に沿い、ゆっくりとした愛撫を送り込んだ。  
たちどころに返ってきた敏感な反応にさらに気を良くして、より入念な刺激を送り込んでやると、  
微細な感触に昂奮して、胸の脹らみ、とりわけその頂き付近が怪しげなひくつきに覆われ始める。  
ムクムクッと勃起した乳首の姿は、ニップレスのお陰で、かろうじて隠蔽されていたが、  
結果から言えば、その事実は、優子の身にさらなる災厄を招き寄せただけだった。  
 
「・・・・あらあら、いけないコねぇ。  
アンダーは『全部』外して来なさい、と、あれほどきつく言っといたのに。  
いくら可愛い後輩でも、これは、ちょっとお仕置きが必要よねぇ・・・・」  
 
そう呟いた麻美は、胸乳をまさぐっていた手を一旦止めて、獲物の傍から離れていく。  
どうにか視力だけは取り戻せたものの、依然として手足の動きを封じられたままの優子は、  
やむなく、目だけを必死に動かしてその行く先を追いかけ、  
・・・・そして、戻ってきた彼女の手に握られた裁縫用の鋏に、掠れかけた叫び声を上げる。  
 
(・・・・せ、先輩ッ!!・・・・そ、それは・・・・一体ッ・・・・あああッ!!)  
 
怯えすくむ少女の様子がいたく気に入ったらしく、  
女切り裂き魔は、嬉々として、再度その細指を胸元へと伸ばしていく。  
もっとも、今回の標的は、適度な大きさと弾力に恵まれた柔乳ではなく、その上を覆った薄い布きれの方であり、  
凶器となるのは自分の指ではなく、反対側の手に握られた鋏だったのだが。  
 
乳首を隠蔽する邪魔な細片もろともに、伸縮性のある化繊の薄布が、ググッ、と引っ張り上げられ、  
恐怖に凍りつく後輩の目の前で、裁ち鋏の先端が鈍い銀色の輝きを発する。  
ニップレスに沿って、白い布地が、まるで出来損ないの切り紙細工のように醜く刻まれていくにつれ、  
未だ発育の途上ながらも、すでに充分見栄えのする乳房も、その頂きで震えている小さな薄桃色の乳頭も、  
冷たく歪んだラベンダー色の瞳の前に、容赦なく暴き出されてしまった。  
 
(・・・・あ・・・・あああ・・・・なぜ・・・・こんな事をッ・・・・!!)  
 
無残に抉り取られた純白のレオタードから頭を突き出した胸乳を弄ばれ、顔を引き攣らせる優子。  
しかし、太腿の間では、じゅん、という湿った水音が漏れ、  
トロトロに蕩けた花弁の奥から、ヌルヌルとした半透明な蜜液が溢れ出している。  
保水力の限界に達していたパンストには、それを吸収しきる余力は到底無く、  
最後の防波堤たるレオタードの股布も、似たり寄ったりの惨めな情況を呈していた。  
 
――――じゅるッ、じゅるるッッッ。  
 
愛液の奔流は、縁に細いゴムの入ったレッグ・ホールを掻い潜り、  
適度な弾力としなやかさを内包した太腿へと滲み出していく。  
それは、少女の心と身体が、麻美の巡らせた周到な罠に完全に絡め取られてしまった証であり、  
とりわけ、その欲望が、理性の束縛など、ものともしなくなった事実を雄弁に物語るものに他ならなかった。  
未だ、自制心も羞恥心も、意識の中から完全に消えて無くなったという訳ではないものの、  
それらは、すでに昂ぶり狂う欲情を押し留めるにはあまりにも無力な存在に過ぎなくなっていたのである。  
 
(・・・・ああ・・・・センパイ・・・・ど、どうして・・・・ううっ・・・・い、いやぁっ・・・・もう、触らないで・・・・!!  
・・・・んあぁっ・・・・やめて・・・・やめて下さい・・・・あああっ・・・・もう、やめてぇッッッ・・・・!!!!)  
 
悲痛な懇願など意に介さず、麻美は、レオタードから頭を出した胸丘を、徐々に力を加えつつ、揉みしだく。  
打ち上げてくる官能の大波に全身を掬われ、全身を激しく痙攣させた優子は、  
それと前後して、洪水の如く押し寄せてきた既視感に、声にならない悲鳴を張り上げた。  
 
――――周囲から隔絶された密室・・・・。  
――――言葉も動きも封じられた自分・・・・。  
――――敵意と欲望をむき出しにして、迫ってくる人間・・・・。  
 
・・・・状況は違えども、自分は、以前にも、これと同じ経験をしていたのではなかったのか・・・・?  
 
(・・・・・・・・ああッ・・・・そ、そんな・・・・まさかッ・・・・!!!!)  
 
――――つい2ヶ月ほど前、あの、体育用具室の中で・・・・。  
 
(・・・・そ、そんな・・・・うそ・・・・嘘でしょ・・・・白影先輩がッ・・・・!!)  
 
全身を走り抜ける巨大な衝撃、  
・・・・それは、間断なく押し寄せる悦楽の波動すら忘れさせる程の、激しい恐怖感だった。  
必死にかぶりを振って否定を試みる優子・・・・だが、次の瞬間、大きく見開かれた彼女の双眸は、  
目の前で揺れるピンクのレオタードから、どす黒く濁った得体の知れない妖気の塊が立ち上るのを捉えていた。  
 
(・・・・<ヴェカンタの炎>・・・・ああッ・・・・こんな・・・・こんな事ってッ・・・・!?)  
 
震え慄く唇の間から弱々しい喘ぎが漏れた途端、  
麻美の身体に絡みついた瘴気のかたまりは、邪悪な輝きをひときわ強く燃え立たせ、  
あたかも、あらゆる抵抗の術を失った、少女の惨めな有様を嘲笑するかの如く、猛り狂う。  
時を同じくして、罠にかかった美しい獲物の姿に見入っていた麻美の瞳もまた、  
澄んだラベンダー色から毒々しく燃え盛る業火の炎色へと変貌を遂げていた。  
 
・・・・凍てついた氷の刃と化した絶望感が、優子の心臓を深々と抉り、串刺しにする。  
 
(・・・・い、いやぁッ・・・・こ、来ないで・・・・!!・・・・あああッ・・・・た、助けてぇッ!!)  
 
あまりのおぞましさに我を忘れ、無我夢中で麻美の体を押し退けようとする優子。  
しかし、魔薬によって完全に呪縛されてしまった身体は、  
どれだけ必死に命じようとも、ピクリ、とさえ動かない。  
しばらくの間、冷然とその様子を眺めていた麻美は、やがて、酷薄な笑みを浮かべると、  
赤黒く輝く<ヴェカンタの炎>を纏わり付かせた指先で、少女の華奢な右足首を絡め取った。  
 
(・・・・ひぃっ・・・・嫌ぁッ・・・・は、放してッ・・・・!!  
・・・・あああ・・・・だめぇッ・・・・お願い・・・・もうやめてぇッッ・・・・!!)  
 
怯えすくむ獲物の傍らに腰を下ろした女狩人は、目の前のしなやかな右脚を抱え上げると、  
じっとりと汗に濡れたストッキングを指の先でなぞり上げながら、  
その表面に顔を寄せて、芳醇な匂いを鼻腔一杯に吸い込み、満喫する。  
生理的な嫌悪感に苛まれつつも、生温かい鼻息の感触に、ビクビクッ、と、鋭い反応を返した右足は、  
大腿の付け根から爪先までが、ピーンッ、と一直線に伸びて、天井に向かってあさましく突き上がっていった。  
 
「・・・・フフフ、な〜んだ、やる気になれば、簡単に出来ちゃうじゃないの。  
ま、ちょっと不恰好ではあるけれど、一応、"MGキック"の型にはなってるしねぇ、クックックッ・・・・」  
 
侮蔑に満ちた口調で、囚われの少女を嬲る新体操コーチ。  
・・・・確かに、今、彼女の身体は、胴体が完全なブリッジの態を成していない点を除けば、  
"MGキック"のフォームをほぼ再現していた。  
自由の利かない体を人形のように弄ばれる事が口惜しく、情けなく感じられて、  
両方の目に溢れんばかりの涙を溜め込む優子、  
・・・・だが、淫乱コーチによる恥辱のレッスンはまだまだ始まったばかりだった。  
 
「・・・・うっ・・・・うう・・・・んっ・・・・うくっ・・・・んんんッ・・・・!!」  
 
食いしばった口元から漏れる、くぐもった呻き声をバック・コーラスに、  
麻美は、ほぼ垂直に近い角度でそそり立った目の前の右脚を、  
ストッキングの繊維もろとも、丹念に舐め回していく。  
シューズを剥ぎ取られて弱々しく空中を泳ぐ繊細な足指、若鹿の如くスラリと伸びた美しい脹脛、  
一見、華奢のように見えるが、その実、しっかりと中身の詰まったピチピチの太腿・・・・。  
淫蕩極まりない口唇愛撫の洗礼は、それら全てを貪欲にしゃぶり尽し、  
よく引き締まった健康的な乙女の美脚は、あっという間に半透明な唾液で塗り潰されていく。  
 
(・・・・うッ・・・・あッ・・・・い・・・・いやぁッ・・・・!!  
・・・・ひぐッ・・・・うああッ・・・・そ・・・・そこッ・・・・舐めちゃ・・・・ひあああッ!!)  
 
巨大な津波と化して、再び盛り返してくる淫靡な感触。  
その衝撃で、恐怖のため、一時的に麻痺していた感覚が一気に回復していく。  
それと前後して、全身に行き渡った催淫剤の成分に対して、  
抗戦を諦め、順応を選択する体内器官が大幅に増え始め、  
抵抗の放棄と引き換えに、抑え込まれていた身体の機能が相次いで息を吹き返していった。  
 
「・・・・んあああッ・・・・ダ、ダメェッ・・・・!!  
・・・・か、感じる・・・・感じちゃうッ・・・・ヒィッ・・・・い、いやぁッ・・・・もう・・・・だめぇッッッ・・・・!!」  
 
久しぶりに声を取り戻した口元から、銀色に輝く涎の飛沫と一緒に、紛れも無い嬌声が迸った。  
抑圧され続けていた反動からか、ほとんどの器官が、自由を取り戻すや否や、  
放埓な性の衝動に身を任せて鬱積したストレスを吐き出しにかかり、  
それが更なる性感を誘発して、優子の体内に性欲の無限連鎖を完成させてしまう。  
身体中で噴出した快感により、少女の全身は真っ赤に染まり、生汗で飾り立てられた上、  
両脚の間の恥ずかしい場所からは、失禁でもしたかのような大量の吐淫を垂れ流していた。  
 
「クククッ、タイヘンねぇ・・・・アナタのあそこ、おツユの栓が壊れちゃったんじゃない?」  
 
ヌラリとした鈍い光沢を放つレオタードの股布部分を、人差し指の先で、つうう〜〜ッ、と、なぞり上げると、  
途端に、優子の腰は、ギクギクッ、と、鋭く硬直して、高々と突き上がる。  
ポニーテールを揺らしつつ、甲高い笑い声を上げた麻美は、  
多量の水分を吸って、肌との密着度を極限まで高めた挙句、  
大陰唇の形状をくっきりと浮き上がらせるまでになっているその場所を興味深そうに覗き込んだ。  
 
「・・・・ひぃッ・・・・一体・・・・な、何を・・・・!?  
・・・・ああッ・・・・だ、だめッ・・・・そんなこと・・・・い、いやぁぁぁッッッ!!!!」  
 
引き攣った悲鳴が、涎まみれの口元を激しく歪ませる。  
ビクンッ、ビクンッ、と不規則に痙攣する太腿を抱きかかえた性悪女は、  
こちらも負けてはいられないとばかりに卑猥なダンスを跳ね踊る腰を掻き寄せた上、  
先程太腿に対して行ったのと同様に、ベトベト状態の股間に鼻先を近付け、香しいその臭いを嗅ぎ回した。  
恥ずかしさで卒倒しそうな表情の後輩少女に聞かせるため、わざとらしく喉を詰まらせ、咽せ返ってみせると、  
極限に達した羞恥の感情が被虐の快感となって背筋を駆け巡り、目元に溜った涙が堰を切ったように溢れ出す。  
 
――――――――ジュルッ!!ジュルジュルッ!!ジュルルルゥゥゥッッッ!!!!  
 
そのまま目の前の恥丘にむしゃぶりつく麻美の唇。  
膣壁の奥から湧き出してくる愛蜜によってビチョビチョに濡れまみれ、  
まるで粘膜と一体化したかのように隙間無く張り付いているレオタードを、唇と舌先とで卑猥に捏ね回しながら、  
上下の前歯を使ってしごき立て、あるいは、前歯を軽く立ててこそいでいく。  
 
「・・・・ひあああッ!!・・・・いぎぃッ・・・・ひっ・・・・ぎひぃいいいッッッ!!」  
 
唇が、舌先が、歯が、入れ替わり立ち代り、充血して厚味を増した秘裂の谷間を執拗に嬲るたび、  
優子の下半身には気が狂いそうな程の快感が押し寄せる。  
濃厚な牝汁の滴る化繊の生地を咥え込まれて、グググッ、と引っ張られると、  
ぷっくりと隆起した大陰唇の上端にカオを覗かせていた勃起陰核の包皮までもが一緒に捲れ上がり、  
極限まで感度を増した真珠玉が、ピュクンッ!!と、勢い良く跳ね起きてしまう。  
目ざとくそれを見つけたレズ女が、真上からヌルヌルとした唾液を垂らしつつ、  
細長く尖らせた舌の先端を器用に駆使して優しく突付いてやると、  
雷に打たれたかのような衝撃が少女の全身を激しく打ち震わせ、上下の口から悲鳴と愛液とを噴出させた。  
 
「どう、優子、このままイキたい?  
・・・・それとも、もっともっと気持ち良くなってからイク方がいいかしら?」  
 
優子と自分自身の体液によって淫猥に彩色された口元から発せられる、  
追い詰めたネズミを嬲り殺しにする性悪猫のような粘ついた笑い。  
だが、もはや呼吸すらままならない状態にも関わらず、  
蒼髪の少女は、最後の気力を振り絞って、淫靡な降伏勧告への拒否を貫き続けていた。  
 
「ふぅ〜ん、それだけ息が上がっちゃってるのに、まぁだ余裕があるってワケ?  
・・・・クククッ、貴女って、本当に頑張り屋さんなのねぇ。  
オーケー、分かったわ。じゃあ、降参する気になるまで、とことん楽しませてあげる・・・・」  
 
言い終わるや否や、淫乱コーチは、練習場内を見回して、使えそうな品々を物色する。  
目を止めたのは、ロープにリボン、それに、クラブといった、いずれも新体操に用いられる手具の類  
・・・・だが、その用途は、まかり間違っても、演技指導などではあろう筈が無い。  
硬直しきった表情の少女を冷たく一瞥した麻美が、どす黒い笑顔を一層凶悪に歪ませたかと思うと、  
一度は引っ込みかけていた<ヴェカンタの炎>が、再度、背中からメラメラと立ち上って、  
暗紫色の不浄な光が、練習場の中を不気味に照らし出した。  
 
「――――うはぁッ・・・・くッ・・・・はぐっ・・・・あうう・・・・んうぅッ・・・・」  
 
バー・レッスンに用いる可動式の支柱に括られた両足が、ピクピクッ、と引き攣るたび、  
しなやかな太腿にへばりつくようにして垂れ下がったストッキングの残骸が、力なく揺れ動く。  
支柱の高さは1メートル強、丁度、肩甲骨から上が床に着く程度に調整されているため、  
ほんの少し目線を上げただけで、剥き出しになった胸丘越しに、  
散々に弄ばれ、唾液と汗と愛汁によってズブ濡れになった己の股間を目の当たりにする事になる。  
 
未だ、その部分だけは、(少なくとも、外見上は)目立った破損も無く、原形を留めているものの、  
周囲の薄布は、容赦なく切り裂かれ、破られて無残な姿を晒している。  
その代わりに、優子の身体を飾り立てているのは、  
支柱に縛りつけられた二本の美脚を割り広げ、屈辱的な大開脚の姿勢を強要するロープと、  
同じように、バンザイの格好で大きく左右に開かれた格好の両腕を拘束しているリボンだった。  
どちらも、新体操に用いられる手具の一つであり、  
伸縮性に優れた新素材を用いて流麗な演舞を実現できるようにした物だったが、  
同時に、変化に富んだ動きにも耐えられるよう、見た目とは逆に、かなり丈夫にも出来ている。  
 
「・・・・ふぁッ・・・・んッ・・・・せ、センパイ・・・・。  
・・・・うくぅッ・・・・お願い・・・・あああッ・・・・も、もう・・・・やめ・・・・うぐぐッ!?」  
 
弱々しく喘ぎつつ、哀訴の言葉を呟き続ける口元に、  
レズ女は、これも新体操の手具の一つであるクラブを突き付けると、  
グリグリと捻りながら、喉の奥へと押し込んでいく。  
異物感にえずきながら、必死に吐き出そうと試みる蒼髪の少女だが、  
クラブの先には甘い香りのするローションが塗り込まれており、  
柔らかい口腔粘膜を擦られ続けるうちに、いつしか顎の力が抜け落ちていった。  
 
「・・・・んんッ・・・・むぐぅ・・・・むむッ・・・・んぐぐ・・・・んんん・・・・んむむぅ・・・・」  
 
彼女の両目がトロンと潤みを帯びたのを確認すると、  
麻美は、だらしなく緩んだその唇から、唾液の糸を滴らせる棍棒をゆっくりと引き上げ、  
今度は、それで胸の脹らみの頂きに屹立するピンク色の突起を優しく愛撫する。  
ふあああ・・・・、と、悦楽に浸りきった声を漏らしながら、  
卑猥なクラブの動きとそれに絡め取られていく乳首の脈動を蕩けた視線で追いかけていた優子は、  
やがて、保健の授業で教わった男性の生殖器官の姿に酷似したその手具が、  
向かっている先に気付くと、拘束された全身を、ひときわ大きく揺らし始めた。  
 
――――・・・・スリ・・・・スリ・・・・スルリ・・・・。  
――――・・・・すり・・・・すり・・・・するり・・・・。  
 
丸みを帯びたクラブの先端がクレヴァスの上をゆっくりと上下する。  
最初は浅く、少しずつ、少しずつ、割れ目の奥深く食い込んでいく手具の動きに、  
はじめのうちこそ、歯を食いしばって堪えようと試みていた優子だったが、  
自分自身の唾液によってヌメヌメと不気味な光沢を帯びてたクラブの先が、ある一点を捉えた瞬間、  
なけなしの忍耐力はついに砕け散り、ビュクン、と、卑猥に体をくねらせてしまった。  
 
――――・・・・スルリ・・・・スルリ・・・・ビクンッ・・・・!  
――――・・・・するり・・・・するり・・・・びくんッ・・・・!!  
 
判明してしまったウィーク・ポイントの周りを、円を描くようにして優しく撫で回されたり、  
上下左右に不規則な変化を加えつつ、執拗に擦り上げられたりするたびに、  
胎盤の中を衝撃が走り回り、強烈なゾクゾク感が脊髄の中を猛スピードで駆け抜けていく。  
身体中から力が抜け、呼吸がどんどん速くなっていくのが自分でも分かるが、  
想像しうる限りの手練手管を織り交ぜて徹底的に弱点を突いてくる攻撃の前には手も足も出ない。  
 
「・・・・ぁあんッ・・・・い、いあッ・・・・んんッ・・・・うああ・・・・あうぐッ・・・・ひはああああッッッ!!」  
 
押さえ切れない嬌声が、喉の奥から引っ切り無しにこみ上がってくる。  
食い込んでいる、というより、咥え込んでいる、と形容する方が適切だろう、  
もはや、彼女の秘裂は、レオタードに包まれているとは到底思えない程しっかりと、  
手具の突起を掴んで離そうとはせず、あさましい疼きに、為す術も無くのた打ち回っている。  
 
「ウフフフ、ようやく、素直になったようねぇ。  
・・・・でも、こんな棒っきれでイクのは、貴女もつまらないでしょう?」  
 
囁きながら、麻美は、グショグショに濡れた股間からクラブを引き抜き、  
代わりに、自分の右手の人差し指と中指を、切り裂かれたレオタードの間から侵入させる。  
手具が取り除かれた後も元には戻らず、ぱっくりと口を開けたままの大陰唇に沿って這い進む二本の指が、  
ビショビショに濡れそぼった薄い陰毛を、ギターを爪弾くように撫で付けてやると、  
気も狂わんばかりの快感に屈して何も考えられなくなった少女は、  
淫蕩極まりない感触に身体をよじりながら、自動人形のような身振りで首肯のゼスチュアを繰り返した。  
 
「・・・・あぁんッ!!・・・・んッ・・・・はぐぅッ・・・・!!くはぁッ・・・・ひぁうッ・・・・ふひぁああッッ・・・・!!!!」  
 
ベトベトに濡れたレオタードの中に侵入した指先は、潤沢に溢れ返る体液を潤滑油代わりにしつつ、  
慣れた手付きで、完全に熟しきった瑞々しい果物から、既に用を為さなくなったパンストを引き剥がしていく。  
ブチブチッ、と、引き千切られた化繊の切れ端が充血した粘膜を擦り上げるたび、  
子宮全体が、ビクンビクン、と激しくわななき、膣口から新たな愛汁が飛び出して、  
出し入れされる指は無論の事、右手全体を、あっと間に妖しく彩っていった。  
 
(・・・・あああ・・・・もう・・・・ダメぇ・・・・気が・・・・遠くなりそう・・・・)  
 
敏感さを増しているのは、何も膣穴だけに限らない。  
先程から、尿道口は、その先端を魚の嘴のように尖らせて、  
今にも、プチン、と音を立てて弾けてしまいそうなくらいに膨れ上がっていた。  
すでに、時折、プシュッ、プシュッ、と情けない音がして、  
半分壊れかけた水門に亀裂が生じ、生温い飛沫が飛び出しているのだが。  
ただでさえ、襲い寄せる快楽の大波によってフニャフニャにふやけてしまった下半身が、  
この上更に、排尿欲求まで相手にする事のは全く不可能な事だった。  
 
「フフフ、いいわ・・・・優子・・・・アナタのその表情・・・・本当に素敵・・・・。  
・・・・イッちゃいたいのと、イキたくないのと・・・・二つの気持ちが鬩ぎあって・・・・ヘトヘトになるまで闘って、  
・・・・でも、最後は、やっぱり、イッちゃいたい気持ちが競り勝っちゃったのね・・・・ねぇ、そうなんでしょう!?」  
 
このまま指だけでフィニッシュに持ち込むのも勿体無い、と感じたのか、  
麻美は、指の動きをわざと弱めると、少女の顔の上に身を乗り出してその瞳を覗き込む。  
・・・・だが、時すでに遅く、初登頂の権利を巡って壮絶なマッチ・レースを繰り広げていた性的興奮と排尿欲求は、  
下半身の感覚を臨界点にまで押し上げており、  
もはや燃料供給を止めただけでは、性感の暴走を停止させる事は不可能だった。  
満足に呼吸も出来ない状態の哀れな生贄は、口だけをパクパクさせつつ、  
言葉どころか声にすらならない、切迫した喘ぎを発し続ける事しか出来ないでいる。  
 
「・・・・あらあら、感じ過ぎちゃって声も出ないの・・・・!?  
クックックッ、いいわ・・・・凄くイイ・・・・今の貴女のカオ、最高にブザマだわッッッ!!」  
 
ヒステリックな喊声を発し、自らも魔悦の極地に浸りつつ、レズ女は最後の行動に出た。  
屈辱的な大開脚のポーズで割り開かれている、しなやかな白い太腿を跨ぐと、  
自身の右半身と優子の左半身とを交差させ、目の前で震えている膝頭をググッと抱き寄せる。  
丁度、上下から二本のピンセットが組み合わさるような形で、  
それぞれローズ・ピンクとパール・ホワイトのレオタードに愛蜜をたっぷりと滲ませている二つの花弁が、  
初めてお互い同士を突き合わせ、そして、一つに溶け合っていった。  
 
「・・・・ひぐッ!?ヒッ・・・・アアアッ!!・・・・あがッ・・・・うはぁあああッッッ!!!!」  
 
薄暗い室内に響き渡る、魂の凍りつくような悲痛な叫び声・・・・。  
凄まじい快感が逆さ吊りにされた少女の身体を串刺しにし、  
沸騰した血流が頭の中に押し寄せてきて、脳味噌も何もかも一緒くたに掻き回した。  
感情も思考も意識も、全てが、強引に一つに捩り合わされた上、  
猛り狂う衝動の大臼の中へと叩き込まれ、木っ端微塵に碾き潰されていく。  
 
――――ブジャアッ!!ブジャアアアアッッッ!!!!  
 
濁りきった圧壊音を立てて、膣口と尿道口が同時に決壊する。  
白い湯気を噴き上げながら溢れ返る愛液と小水の前には、  
すでにズブ濡れ状態の化繊の薄布などは無いのも同然で、何の役にも立ちはしない。  
その上から圧し付けられていた麻美の下半身すら、一瞬、浮き上がった程の勢いの体液の奔流は、  
とどまる所を知らず、断続的に、間欠泉のような潮吹きを繰り返した。  
 
「いあああッッッ!!いッ・・・・いぎぃッッッ!!ひぃぎぁあああッッッ!!!!」  
 
カッ、と見開かれた両目、引き攣った頬、ちぎれんばかりに大きく開いた口元・・・・、  
表情からは本来の清楚さも冷静さも跡形も無く吹き飛び、  
悲惨を通り越して凄絶と言う他ない所まで歪みきっていた。  
蒼髪を結わえていたゴム紐が、激しく左右に打ち振られる首の動きに耐え切れずにプッツリと切れると、  
大量の汗を吸った長い髪の毛が、マットレスの上に、バサァッ、と四散する。  
急角度のアーチを描いて仰け反った頤の上では、  
悲鳴と喘鳴とを交互に噴き上げる唇の間から白い泡に覆われた舌先が突き上がり、奇怪なダンスに興じていた。  
 
――――それでも、淫乱女は獲物の体を放そうとせず、倦む事無く貪り続けるのを止めようとはしない。  
 
逃げ場を求めて上下左右に動き回る腰を、ガッチリと抱え止めたまま、  
激しい動作のおかげで、細く紐状に捻れてしまっているクロッチの上から、  
同じように捩れ上がって媚肉に食い込んでいるピンクのレオタードもろとも、  
二人分の淫液にまみれた陰唇を執拗に押し付け、相手のそれを吸い立てる。  
性悦の炎に焙られ続ける秘裂は、めくるめく快感を押し込まれて真っ赤に充血し、  
膣壁は普段の倍近くまで厚みを増して、襞という襞をビュクビュクと蠢かせていた。  
どうやらタンクが空になったらしく、尿道口からしぶく小水の方は急速に勢いを弱めていったものの、  
愛液の分泌量は相変わらずで、衰える気配など微塵も見せはしない。  
 
「・・・・っ・・・・が・・・・・あががッ・・・・あぐぅ・・・・うぐ・・・・あうぁああああッッッ!!!!」  
 
間断なく降り注ぐエクスタシーの絨毯爆撃に呼吸が追いつかず、  
上気してピンク色に色付いていた顔色は、次第に生気を失って蒼ざめていく。  
ごった煮状態の頭の中はとうに正常な思考などとは無縁な代物に堕していたものの、  
限界を超えた快楽の奔流に呑み込まれて攪拌され続けるうちに、  
かろうじて正常さと異常さを隔てていた垣根さえも取り払われてしまい、  
何が正常で何が狂っているのかの識別すら困難になっていった。  
 
――――――――・・・・ッ・・・・ぶじゅッ・・・・ぶじゅじゅ〜〜〜ッ・・・・!!  
 
・・・・だが、首から上が、まさしく悲惨さの極致と言うべき状況にあっても、  
他の部分、特に下半身は、それとは全く対照的な、めくるめく快楽の真っ只中に在り続けていた。  
子宮の奥で新たな衝動が生まれるたびに卑猥な痙攣を発し続ける、サーモンピンクの膣壁からは、  
疲労の極に達した身体の、一体、何処にこれほどの水分が残っているのか?と、  
不思議に感じられるほど、大量の淫汁が湧き出してくる。  
快感地獄と化した連続絶頂の中で、拘束された手足をひたすらよじらせ、のたうち回らせるうちに、  
全身の筋肉と関節からは、ミシミシという不気味な軋みが連発されるまでに至っているにも関わらず・・・・。  
 
(・・・・あああ・・・・ダメ・・・・もう・・・・もう・・・・ダメェ・・・・。  
・・・・ひぐぅ・・・・た・・・・たす・・・・けて・・・・おねがい・・・・これ以上は・・・・もう・・・・)  
 
未来永劫続くかのようにすら感じられた絶頂の合間には、  
慈悲深い闇の帳が何度と無く優子の意識を包み込み、失神という名の安息へと誘おうと試みている。   
だが、それらの兆候は、幾多の同性を搦め取りモノにしてきた、麻美の観察眼の前には一目瞭然であり、  
緩急と変化を巧みに織り交ぜた巧妙なテクニックで新たな刺激と欲望を掻き出されて、悉く水泡に帰していた。  
気を失う事すら許されない蒼髪の少女にとってせめてもの救いは、  
<ヴェカンタの炎>の作用なのだろう、疲れも倦怠も一切感じる事無く、  
貪欲かつ冷酷な責めを続行しているレズ・コーチの艶かしい腰が深々と覆い被さっているせいで、  
あさましい吐淫を続ける下の口の有様を直接目にせずに済んでいる事だけだった。  
 
(・・・・たすけ・・・・て・・・・ヴァルナさ・・・・ま・・・・麗・・・・子・・・・)  
 
勿論、優子は、朦朧としていく意識の中、(本当の意味での)救いを求める言葉を発し続けていた。  
だが、彼女の身がリアリティの内にある限り、  
ヴァニティの者であるヴァルナや麗子の介入は期待できる所ではなく、  
逆に、待てども待てども、救いの手は一向に差し伸べられない非情な現実は、彼女の衰弱を一層加速させていく。  
このまま陵辱が続けば、いずれ自分の精神は消耗し尽くすなり、破綻を来たすなりして、  
無明の闇の中へと引き摺り込まれ、二度と戻って来る事が出来なくなるかもしれない、という恐怖感が、  
時間を追う毎に募っていき、ほどなく、完全な絶望へと変化していった。  
 
(・・・・どうし・・・・て・・・・?なぜ・・・・たすけ・・・・て・・・・は・・・・くださらないの・・・・ですか?)  
 
何十回となく繰り返した血を吐くような苦悶の問いかけが全て徒労に終わった末に、  
ついに、優子の心は、目の前が真っ暗になるような絶望に押し潰されてしまう。  
その様子をじっと見下ろしながら、麻美は、  
・・・・否、『白影麻美』としてこの世界に転生してきた魔性の女は、冷酷な笑みを浮かべ上げた。  
 
『馬鹿な娘ね・・・・まだ気付かないの?』  
 
紡ぎ出されたのは、およそ人間の発したものとは思えない程にひび割れた声。  
その中に満ち溢れる尋常ならざる邪悪な響きに、恐れおののく少女の前で、  
<ヴェカンタの炎>が、勝利を確信したかの如く、高々と立ち上り、  
どす黒い血反吐のように濁りきった瘴気を、あたり一面に撒き散らす。  
 
――――その直後、異界の女は、優子の下腹部に僅かに残る、最後の布帛へと片手を伸ばし、  
白濁した生命のエキスをたっぷりと吸い取ったそれを、無造作に鷲掴みにした。  
 
――――ブチブチブチィィィッッッッ!!!!  
 
ぞっとするような破断音。  
そして、もはや悲惨な程に弱々しいものでしか無い、かすれきった悲鳴。  
 
無残に裂けた化繊の布地の下から露わになった白い肌は、  
何度と無く繰り返された絶頂のたびに溢れ出した淫液をはじめ、  
生乾きの汗や、濃厚なアンモニア臭を漂わせる尿液や、今も唇の端から垂れ落ちる涎などで、  
ベトベトに汚れ、到底正視に堪えない姿へと変貌を遂げてしまっている。  
 
「・・・・い・・・・いや・・・・あああ・・・・いやぁ・・・・み・・・・みないで・・・・みないでぇッ・・・・!!」  
 
一糸纏わぬ姿に剥かれてしまった事よりも、  
ここまで汚穢にまみれた体を晒している事の方がずっとショックで、  
蒼髪の少女は、思わず、ギュッ、と目を瞑り、狂ったようにかぶりを振る。  
すでに涙腺が空っぽで、涙の一滴すら出てこないために判然としないが、  
時折、くしゃみを我慢しているかのように鼻をシュンシュン言わせているのは啜り泣きに違いなかった。  
全身を覆う震えだけは相変わらずだったが、よくよく見れば、  
息もつかせぬ連続絶頂の果てに枯渇してしまった体力を反映してか、一時のような鋭さや烈しさは影を潜め、  
何処と無く気の抜けた、力の無い揺れ方しか出来ないでいる。  
 
『・・・・どうやら、終わりのようね・・・・フフッ、考えてみれば、アナタも哀れよねぇ。  
なまじヴァニティの<戦士>なんかに選ばれたおかげで、  
あっさり殺しても貰えず、こんな屈辱的な死に様を晒す事になるんだから・・・・』  
 
再び漏れる、ひび割れた呟き。  
・・・・かろうじて、優子は、それが目の前にいる先輩のものではなく、  
彼女をこの世界へと送り込んだ、<暗黒界の後継者たち>の一人のものだと気付いたものの、  
すでに体力も気力も底を尽き、睨み返す事すらおぼつかない。  
 
『・・・・ま、そのお陰で、私は、ヴェカンティの玉座を手中に収める事が出来るんだけど・・・・。  
・・・・クックックッ、それにしても、皮肉な巡り合わせよねぇ。  
アナタが<戦士>で、しかも、リアリティにいてくれるお陰で、  
結果的に、私は、誰からも邪魔されず、アナタを狩る事が出来たワケなんだし・・・・』  
 
完全に罠に嵌り、身動きすら出来なくなった、<戦士>の前で、依り代の口を借りた、<彼>は、  
凡そ、その瑞々しい唇から発せられるものとは似ても似つかぬ、ガラガラと耳障りな笑い声を迸らせる。  
口調だけは麻美のまま変化しないのが、余計にその不気味さを強調し、おぞましさを増幅させていた。  
 
(・・・・どういう・・・・事!?・・・・わたしが・・・・<ヴァリスの戦士>で・・・・リアリティにいる・・・・せいで・・・・?  
・・・・誰からも・・・・邪魔されなかった、って・・・・一体・・・・どういう意味なの・・・・!?)  
 
完全な混濁に向かって、ずるずると引き込まれていく意識の中、  
優子は、麻痺しかけた思考を必死に揺り起こし、<彼>のその言葉を反芻した。  
 
――――本来、ヴェカンティの者がリアリティの住人を襲うには、多大な困難を伴う筈ではなかったのか?  
――――榊原のように、リアリティの住人を洗脳し、刺客に仕立て上げる、という方法を取ったとしても、  
それに要する労力は、ヴェカンティの怪物を直接送り込むのと大して変わらない筈ではなかったのか?  
 
(・・・・その・・・・どちらでも・・・・無いとしたら・・・・!?  
・・・・も・・・・もしかしてッ・・・・先輩の・・・・正体は・・・・まさかッ・・・・!?)  
 
力無く閉じていた瞼が、パッ、と持ち上がり、  
見開かれた瞳に、まず、驚愕が、続いて、戦慄が浮かび上がる。  
リアリティにいる<ヴァリスの戦士>を、最も少ない労力で葬り去る事の出来る手段であり、  
同時に、その手段を実現可能なものに出来る存在・・・・すなわち――――――――。  
 
(・・・・<ヴェカンタの黒き戦士>!!!!)  
 
『フンッ・・・・やっと分かったようね。  
てっきり、このまま、最後まで気付いて貰えないかと思ったわ』  
 
ぞっとするような笑みを浮かべながら、<ヴァリスの戦士>をねめつける異界の女。  
表情を凍りつかせる優子の目の前で、  
先刻、彼女を生れ落ちたままの姿に剥き上げたばかりの爪を、今度は自らのレオタードへと突き立てる。  
 
――――――――ビリリリィィィッッッ!!!!  
 
鋭い悲鳴を上げて引き裂かれていく、ローズ・ピンクの化繊布。  
・・・・その下から姿を現した肉体は、  
あたかも抜き放たれた真剣のように、美と恐怖とが緊張をはらみつつ均衡を保っている。  
細い指の先に引っ掛かったレオタードの残骸を、鬱陶しげに払い除けながら、  
“白影麻美”は、自分の本性が如何なる存在であるのかについてのヴェカンティの大貴族の宣言を、  
自分自身の声と言葉を用いて、囚われの身の<戦士>へと伝えた。  
 
『・・・・そう、<戦士>であれば、力を与えるのも、次元の狭間を越えて汝の世界へと送るのも、容易な事。  
・・・・とは言え、<戦士>の素質を持つ者を、他の<後継者>には内密に探し出すのは存外に難しくかったわ。  
それに、この世界の因果律に干渉して、“白影麻美”という存在を一から作り上げるのも、大変な難事だった・・・・』  
 
『驚いた?<ヴァリスの戦士>。・・・・クククッ、さてはヴァニティの連中、肝心な所は何も話してないのね。  
この程度の介入であれば、私たちの持てる力だけでも、決して不可能ではないの  
・・・・勿論、ログレスやメガスのように、容易に事を運べるという訳ではないけれど・・・・』  
 
依代の唇の端が、やや苦笑気味に、ニィッ、と吊り上がる。  
その一方で、ログレスとメガスの名に触れた際の口振りには、  
明らかに、今、彼らの跡を襲って覇王の座に王手をかけているのは自分なのだ、という自負が見え隠れしていた。  
他の<後継者>たちは勿論、ヴァニティの住人であるヴァルナや麗子でさえ手が出せない状況の下で、  
周到に張り巡らせた罠に落ち、絶体絶命の危機に瀕した美しい獲物に、  
今まさに最後の一撃を加えようとしている事への、甘美な陶酔感と共に・・・・。  
 
『・・・・さぁて、おしゃべりはここまでよ、<ヴァリスの戦士>。  
これから、お前の生命が尽き果てるまで、間断なく責め抜いてあげる。  
フフフ、たっぷりと見届けてあげる・・・・ログレスとメガスを倒し、三界最強と謳われた<戦士>が、  
よがり、苦しみ、己の無力さと愚かさを呪いながら死に行く様を・・・・アハハッ!!ハーッハッハッハッ!!!!』  
 
勝利の雄叫びとも狂気の哄笑ともつかない絶叫が響き渡った直後、  
優子の両足を拘束していたロープが、ひとりでに、スルリ、と解けて、  
支えを失った下半身がマットレスの上へと落下していく。  
床に激突する寸前にそれを抱き止めた“白影麻美”は、あまりのおぞましさに放心状態の少女を一瞥すると、  
これまでの責めによって完全に蕩けきっている媚肉を口に含み、美味しそうに啜り始めた。  
 
「・・・・アッ・・・・アアッ・・・・いやッ・・・・アアア・・・・いやあああッッッ・・・・!!」  
 
再開された口唇愛撫は、以前にも増して、貪欲で荒々しかったが、  
しかし、すでにめくるめく快美感をもたらすものでは無くなっていた。  
これ以上は無いと思えるぐらい、冷酷、かつ、残忍で、愛情はおろか、欲望や性的関心の一片すら窺わせない、  
あたかも、検死台に横たわる死体を切り刻む解剖医のメスのように無機質な口唇の動き・・・・  
非人間的なまでに血の通わないその吸引によって、柔かい秘所の粘膜が舐り回されるたび、  
ある種の波動が生み出されているのは紛れも無い事実だったが、  
同時にそれは、凡そ『性感』と呼ぶには、あまりにもおぞまし過ぎる代物に他ならなかった。  
 
(・・・・ああッ・・・・ダメ・・・・な・・・・なに・・・・この・・・・感じ・・・・!?  
・・・・あああ・・・・いやぁ・・・・だ、だめ・・・・この感じ・・・・いや・・・・いやぁあああッ・・・・!!)  
 
じゅるっ、じゅるっ、と卑猥な音を立てながら、目の前の花弁から蜜液を吸い立てていく“白影麻美”。  
そのたびに、ゾッとするような悪寒が、少女の肌を粟立たせ、  
まるで内臓そのものを吸い出されてしまうかのような不快極まる感触が、嘔吐感を催させる。  
先程までの優子であれば、自分の股間から発せられる、  
ピチャッ、ピチャッ、という湿り気を帯びた囀りを耳にしただけでも、  
身体の芯が、カアッと熱く火照って、煮え滾る血液が全身をくまなく駆け巡った筈だった。  
しかし、今、こうして、秘所を舐めしゃぶられて感じるのは、  
圧倒的な苦痛と嫌悪感、そして、自分に向けられた偏執狂的なまでの憎悪に他ならない。  
 
「・・・・い・・・・いや・・・・す、吸い取られる・・・・うああ・・・・どんどん、吸い取られていくぅッ・・・・!!  
・・・・はぐぅッ・・・・ああ・・・・だ、だめぇ・・・・抵抗できない・・・・あああ・・・・止まらないィィッッッ・・・・!!」  
 
少女の顔は恐怖に歪み、清らかな乙女の心は絶望によって引き裂かれていた。  
今や彼女の下半身を包んでいるのは、汲めども尽きぬ熱い滴りに濡れた歓喜の戦慄きではなく、  
凍てつくような冷気を思わせる生理的嫌悪感がもたらす激しい痙攣に他ならない。  
必死の抵抗も空しく、おぞましい感覚は下腹部から胸へ、首筋から頭部へと流れ下り、  
絶対零度の指先で、破裂寸前の心臓を鷲掴みにして容赦なく締め上げていく。  
 
――――死が、もう、そこまで迫っている。  
 
その事実をひしひしと実感し、思わず、掠れかけた喘ぎを漏らす優子。  
もはや抵抗する術とて無く、目前に迫った破滅の時をただじっと待ち続けるしかない自分が、  
あまりにも惨めで、情けなく感じられてならない。  
力尽きた女囚に許されたのは、焦点を失った瞳でぼんやりと中空を眺めながら、  
これまでの短い人生の中で出会った中で、最も愛しく、信頼できる友の姿を思い浮かべ、  
もはや動かない唇の奥で、哀切極まりない謝罪と別れの言葉を呟く事だけだった・・・・。  
 
(・・・・ごめんね・・・・麗子・・・・もう一度・・・・会い・・・・たかった・・・・)  
 
――――そのまま、優子は意識を失い、永劫の暗闇の中へと落ちていった。  
 
 
 
・・・・・・・・そこは、真っ白い光に満ちた空間だった。  
 
・・・・流れ込んでくる暖かな光が白い裸身を包み込み、長い蒼髪に反射して柔かく光沢を放つ。  
 
「・・・・・・・・っ・・・・ん・・・・んふ・・・・うっ・・・・?」  
 
何かが、頬に触れる。  
少しひんやりとした、だが、とても心地良く、そして、懐かしい、その感触・・・・。  
ゆっくりと瞼を開けた優子は、目の前に、穏やかな微笑を浮かべた親友の姿を認め、小さく呟いた。  
 
「・・・・麗子・・・・良かった・・・・また、会えたんだ・・・・」  
 
無言のまま頷くと、紅髪の少女は、親友の体に、そっと腕を回す。  
どこまでも優しく安らぎに満ちたその抱擁に、心底からの安堵感が込み上げてきたのだろう、  
とうに涸れ果ててしまったとばかり思っていた涙腺から、大粒の涙を溢れさせた優子は、  
麗子の腕の中へと身を投げ出し、ひっく、ひっく、としゃくりあげながら咽び泣いた。  
 
「・・・・ごめんね、優子。こんなに遅れちゃって、本当にごめん。  
もっと早く駆けつけたかったんだけど、色々手間取ってしまって。  
・・・・でも、もう大丈夫、何も心配いらないわ。解決したのよ、何もかも全部・・・・」  
 
そう、耳元で囁いた麗子は、最愛の友の身体をそっと抱き起こし、  
薄い絹のような繊維で織られた白いケープを羽織らせると、  
柔かく清潔な人指し指の先で、泣き腫らした目元を優しく拭う。  
ようやく落ち着きを取り戻した蒼髪の少女が顔を上げると、  
それまで二人の周りを包んでいた乳白色の光のヴェールが、サッ、と掻き消えて、  
初夏の陽射しが燦燦と降り注ぐ、木立の中の小さな空き地が姿を現した。  
 
「ここは、何処?・・・・先輩は、一体、どうなったの?」  
 
まだ完全に回復しきらない頭を振り動かし、  
しつこくまとわりつく靄のような感覚を追い払いながら、周囲を見渡す蒼髪の少女。  
・・・・と、その視界の隅に、見覚えのあるものが映り込んだ。  
木々の向こうに見える古い石造りの鳥居と小さな社が並ぶ神域・・・・  
それは、確かに、白影邸の庭先から目にした、あの光景に間違いない。  
 
(・・・・じゃあ、ここって、もしかして・・・・!?  
・・・・で、でも・・・・だったら、これは一体・・・・どうなってるのッ!?)  
 
「そう、優子、ここは白影邸のあった場所・・・・いや、少し、違うわ。  
“白影麻美”と同じく、あの屋敷もまた、奴が、この世界の因果律に干渉して作り出していた存在、  
だから、今ではもう、最初からここには何も無かった、という事になるわね・・・・」  
 
「・・・・そんな、何もかもが幻だったというの?先輩も、先輩のお宅も・・・・!?」  
 
――――違うわ、と、短く答えた麗子は、  
そこで一度、言葉を切り、何処か寂しげな眼差しを木立の枝の向こうへと投げかける。  
 
「・・・・あの女性は、本来、この世界の人間ではないの。  
ここと良く似てはいるけど、全く別の世界で、<戦士>としての宿命を持って生まれた一人。  
けれども、彼女は、私達がその素質に気付き、ヴァニティの<戦士>としての覚醒を促す前に、  
<暗黒界の後継者>の一人に発見され、<ヴェカンタ>に染められてしまっていた。  
そして、“白影麻美”という偽りの名を与えられて、この世界に転生させられたの・・・・」  
 
「“別の世界に転生する”という事がどういうものかは分かっているわね?  
本来いた世界に存在した痕跡は全て消え去り、最初から存在しなかった事にされてしまう。  
・・・・そう、全ての記録からも、友人や家族の記憶からも消え去るの・・・・この私のように、ね」  
 
(・・・・麗子・・・・)  
 
親友の表情に浮かぶ寂寥感の意味を察した優子。  
どんな言葉を掛ければ良いのか、咄嗟には思いつけなかったものの、  
その体は、意志の判断を待つ事無く、その場に最もふさわしい行動を取っていた。  
 
無言のまま、静かに親友の指先に触れる、優子の手。  
そこから伝わってくる感触は、麗子が自分と同じく、この世界の人間だった頃と全く変っていない。  
・・・・だが、今、リアリティの人間の中に、彼女の事を思い出せる者は、  
自分以外には誰一人として存在しない、という事実を優子は知っていた。  
 
差し伸べられた温もりを確かめるかのように、  
ぎゅっ、と力を込めて、少女の手を握り締めてくる麗子の手・・・・。  
優子が、しっかりとそれを握り返すと、  
木立の彼方――――かつての自分が暮らしていた街の方角――――を眺める友の双眸は、  
ゆっくりとではあるが、やわらかく暖かい光を取り戻していく。  
 
「・・・・いずれにせよ、“白影麻美”という存在は、もうこの世界にはいない。  
ちょっと苦労したけど、無事に洗脳を解き、本来の人格を取り戻す事が出来たから、  
今頃は、ヴァルナ様が、元の世界に・・・・もう一度“転生”させて・・・・送り返している筈だわ。  
彼女をこの世界に送り込んだ奴は、まだ一応息をしてるけど、  
すでに持てる力は費い果たしてるハズだから、もう一度同じ事を繰り返すのは不可能ね。  
そもそも、<戦士>の資質のある人間を見付け出して覚醒させる事自体、  
大変な労力を必要とする作業なんだから・・・・」  
 
――――そう言えば、あいつもそんな事を言っていたわ。  
 
『この程度の介入であれば、我らの持てる力だけでも、決して不可能ではない』  
『勿論、ログレスやメガスのようには、容易に事を運べるという訳ではなかったのだが』  
 
ひび割れた邪悪なしわがれ声が、優子の脳裏に蘇り、  
前後して、不吉な考えが胸の奥をよぎって、暗い影を投げかける。  
麗子の言葉が事実ならば、今回、“白影麻美”を刺客として差し向けてきた<暗黒界の後継者>が、  
再度、同じ事を試みるという可能性は排除しても良いのだろうが、  
それでは、別の<後継者>が、同じように彼女を洗脳し、新たな名前と人格を与えて、  
刺客としてこの世界に送り込んでくる、という可能性についてはどうなのだろう?  
あるいは、彼女以外の<戦士>の素質を持つ少女に目を付けるという可能性については・・・・?  
 
「・・・・残念ながら、そっちの可能性は否定できないわね・・・・」  
 
麗子の答えに、やはり、と、表情を暗くする優子。  
今回のような出来事が今後も続くのか、と思うと、  
危機をくぐり抜けた喜びも急速に色褪せ、口の中に苦いものが湧き出してくる。  
それと同時に、本来なら、夢幻界や暗黒界のような異世界が存在している事実さえ知らず、  
平穏な日々を送っていた筈の人間が、たまたま自分の周囲にいた、というだけの理由で、  
三界の覇権を巡る争いに巻き込まれている事に思い至ると、胸が締め付けられるような気分がしてならない。  
 
(・・・・きっと、新体操部のレギュラー選手たちの事故や病気も、アイツのせいだったのね。  
わたしと“先輩”の出会いを仕組む、それだけのために・・・・こんな事が、一体、いつまで続くの・・・・!?)  
 
言い知れぬ悲しみと共に、フツフツと湧き上って来る静かな怒りが、少女の心の水面に三角波を立てる。  
<ヴァリスの戦士>として戦い続けるという宿命を受け入れた以上、  
自分が狙われ続けるのは、ある意味、仕方ない事なのかもしれないが、  
そのために、自分の周囲の人々が、己れの行為の意味する所すら理解できぬままに、  
ゲームの駒として動かされ、傷付いていくのは、到底我慢出来そうにない。  
 
(・・・・本当に、このままずっと守りを固めてアイツらが諦めるまで粘り抜く事が、最善の方法なの?  
・・・・何か。もっと他に、打てる手はあるんじゃないかしら?)  
 
そのような存在である事は充分に理解していた筈だったが、  
それでもなお、<暗黒界の後継者>たちのエゴイズムに対し、これまでに無く強い憤りを覚える少女の中で、  
防衛一辺倒の現状に対する疑問が急速に膨れ上がっていく。  
麗子から伝え聞くヴァニティの現状を考え合わせれば、  
今すぐヴェカンティに乗り込んで、<後継者>たちを討ち果たすのはさすがに難しいにせよ、  
何らかの形で積極的な反撃に出て、彼らの機先を制する事は可能なのでは無いだろうか・・・・?  
 
――――――――そう思った時、優子の中で、何かが弾けた。  
 
「・・・・麗子。わたし、決めたわ」  
 
親友に向き直った優子の表情は、かつて暗黒界の覇王として三界を睥睨した、ログレス、メガスの両雄に対し、  
一歩も退く事無く敢然と立ち向かった、<ヴァリスの戦士>のそれへと変じている。  
さすがに驚きを隠しきれず、押し黙った夢幻界の友を、静謐さを湛えた双眸で見つめながら、  
蒼髪の少女は、落ち着き払った口調で告げ、  
それから、親友の手を握ったままの手の平に、ググッと力を込めてみせた。  
 
「――――これ以上、何もせず、守りだけ固めているのはイヤなの。  
アイツら・・・・<暗黒界の後継者>たちに好き勝手させたくない。  
だから、麗子、・・・・お願い、あなたの力を貸してッ!!」  
 
「・・・・・・・・・・・・」  
 
ここまで本気で怒った優子を見るのは久しぶりだわ、と、麗子は、思わず目を見開き、言葉を失う。  
その名が示す通り、優しく、柔和な少女が、  
これほど攻撃的な言葉を発する事は、ここ最近、無かっただけに、その驚愕は大きく、同時に、深かった。  
最も固く、確かな絆で結ばれた友の言葉にどう答え、その感情にどう応えるべきか、  
麗子は、しばらくの間、口元を厳しく引き結んだまま、逡巡に沈み――――その上で決断を下した。  
 
「・・・・そうね、たしかに、これまでの私達のやり方は少し消極的過ぎたかもしれない。  
ただ守りを固めて相手の疲弊を待つだけのやり方では、  
却って、戦いを長期化させ、あなたやあなたの周りの人々を危険に晒し続けるだけなのかも・・・・」  
 
そう答えを返した麗子は、半ば無意識のうちに、重ねられた友の手を、ギュッ、と握り返す。  
口元に湛える微笑は、あたかも内に宿る激情が伝染したかのように、凄みを帯び、  
その心臓は、不安やためらいの故にではなく、目の前の少女が見せる、かつて無いほどの闘志に共鳴した、  
晴れがましく浮き立つような高揚感に包まれて、力強い律動を刻んでいた。  
 
無論、戦いを前にして、胸の高鳴りを感じるなど、ヴァニティの者としては決して褒められた話では無いのだが、  
正直なところ、今の麗子には、そんな事など、殆どどうでも良い事にしか感じられない。  
――――否、それどころか、彼女は、その事について悪びれるどころか、  
実際には、胸のすくような爽快感を覚えていたのだった。  
 
「・・・・いいわ、優子。あなたがその気なら、とことんまで付き合ってあげる。  
そうよ。・・・・だって、私は、そのために、あの時、もう一度やり直す機会を貰ったんだもの・・・・!!」  
 
 
<<完>>  
 

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