ヴェカンティ。辺境。霧に閉ざされた湿地帯。  
 
奇怪な暗緑色の柱が泥濘の中から突き出していた。  
何百匹もの触手生物、それに数倍する数の魔蟲の群れにより構築された、生ける磔刑台・・・・。  
グネグネと蠢く不気味な生物の中に半ば埋もれるようにして、ぐったりとした体を晒しているのは、  
悪辣な陥穽に落ち、囚われの身となった<ヴァリスの戦士>――――優子。  
 
古代の神殿に仕えていた気高き巫女を連想させる白い戦衣は、  
内側と外側の両面から汚液にベットリとまみれ、生気の失せた肌が透けて見える。  
堅牢な黒金の胸甲も、上下二層構造の白い肩当ても、  
<明>と<暗>、各々の力が最も高い水準で均衡してはじめて得られるエネルギーの供給を断たれて久しく、  
防御力も何も無い単なる装飾品と化して、主の身体を暗黒界の生物達に明け渡していた。  
 
「はぁッはぁッ・・・・あぐぅッ・・・・んんん・・・・はあぐぅうううッ!!!!」  
 
全身を覆い尽くした暗黒界の魔生物たちは力を喪失した<鎧>の存在などもはや意に介さず、  
皮膚と防具との間に出来た隙間を衝いて、その内部への侵入を果たしている。  
胸当ても肩当ても、ミシッ、ミシッ、という不気味な軋み音を引っ切り無しに奏で続け、  
引き伸ばされ捩じ上げられた戦衣は、今に引き千切れそうである。  
 
――――くちゅッ!!ちゅぶちゅぶッ!!くちゅるるるッ!!  
 
肘から先と膝から下は完全に緑色の柱の中に呑み込まれ、  
卑猥なリズムを刻む水音と共に入念に舐めしゃぶられている。  
肘当ての内側にもブーツの中にも、ナメクジやミミズのような体型をした奇怪な小動物が満ち溢れ、  
毛穴から滲み出る汗と自身の分泌する半透明な体汁を潤滑剤にして暴れ回っていた。  
逃げる場所とて無い肉蔓の群生の中、執拗に擦り立てられた手指や足指が、  
普段はほとんど自覚する事の無い、性感帯を暴き立てられ、  
むず痒さと気持ち良さが渾然一体となった、一種独特な刺激によって包み込まれている。  
 
(・・・・ヴァ・・・・ヴァリア・・・・さま・・・・)  
 
消耗しきった意識の中、脳裏に浮かび上がってくるのは、残忍王の居城で起きた惨劇の記憶。  
・・・・降伏の儀式・・・・武装解除・・・・3つの<賭け>・・・・あの、めくるめく快楽と苦痛の連環劇・・・・、  
圧倒的な陵辱に体を明け渡し、被虐の炎に心を焼き尽くされる、悪夢の時間。  
穢れなどとは無縁と思っていた自分の中に、おそるべき淫乱さと倒錯した性癖が宿っている事を、  
骨の髄まで徹底的に思い知らされた、身の毛もよだつような連続絶頂。。  
 
「・・・・ああ・・・・これが・・・・これが、むくいなのですか・・・・!?  
わたしが・・・・犯してしまった事への・・・・!!」  
 
震えるクチビルから零れ落ちた小さな呟きは、  
全ての想いが凝縮されているかの如く、重く、哀しく、歪みきっている。  
 
本来ならば、自分は、あの時・・・・残忍王メガスの圧倒的な力の前に膝を屈したあの時、  
死んでいた筈、否、死ななければならなかった筈。  
それなのに、今、わたしが、こうして生き長らえているのは、  
本来ならば、自分が身を挺してでも救い出さねばならなかった筈の夢幻界の女王が、  
反対に、その全てを投げ擲って、自分をたすけてくれたため・・・・。  
 
(――――そうしてまで、生き残ったというのに、  
わたしは、今また、メガスの復活を食い止める事叶わず、虜囚の辱めを受けている・・・・)  
 
瞼裏に蘇る、ヴァリアの最期。  
残忍王に両手首を掴まれ、宙吊りにされたまま息絶えている惨たらしい姿が、  
触手で出来た墓石に半ば埋もれるようにして拘束されている、今の自分と重なって見える。  
 
(・・・・・・・・)  
 
薄青色の瞳がぼんやりと見下ろす先にあるのは、グロテスクに隆起した肉の槍先。  
そのおぞましい形状といい、禍々しい雰囲気といい、  
女王の背中から飛び出した、あの血塗れの手刀を想起させずにはいられない。  
 
胸を貫かれ、真っ赤な血の海の中で絶命したヴァリアと、  
子宮を貫かれ、暗緑色の肉壁の中でのたうち回っている自分。  
 
――――『因果応報』という言葉が、すうっ、と、頭の中に浮かび上がる。  
意識の奥底に沈んでいた罪悪感が、軋むような叫び声を上げながらゆっくりと浮上を始め、  
それに呼応するもう一つの衝動、すなわち、罰への期待感もまた、胸の奥に滲み広がっていく。  
 
「ああッ・・・・いやぁん・・・・・ひぃああッ・・・・あくぅ・・・・んふはぁあッ!!」  
 
薄布に包まれたしなやかな背中に、ビチビチ蠢く蟲の群れが押し寄せ、秘められた性感を暴き立てていく。  
攻撃対象となる面積が広い分、異形の生物たちの数も種類もバラエティに富んでおり、  
その動きが紡ぎ出す多種多様な触感は、各々異なる波動となってぶつかり合いながら、  
複雑この上ない性のハーモニーを紡いでいた。  
 
「ひぃぃッ!!うあ・・・・あああッ!!ダ、ダメェ・・・・背中・・・・ダメェッッッ!!」  
 
さらには、優子自身もまた、背筋が特に敏感な体質だという事を忘れてはならないだろう。  
現実界での日常生活の中でも、満員電車の中で後ろの乗客が気になって仕方ないなどは日常茶飯事で、  
夏場など薄手の衣服しか身に着けていない時には、  
駅のホームに降りる頃には内股がジトジトに湿っていた事さえあった。  
麗子にとっては格好の標的で、少女同士の愛の営みの際には必ずと言って良い程前戯に組み込んでくるし、  
ヴァニティ城内で突然背後に彼女が現れたかと思うと、マシュマロのような胸を背中に押し当てられ、  
うなじに優しく息を吹きかけられただけで軽く達してしまった、という赤面モノの体験すらある。  
無論、相手が麗子だったから、という点は割り引いて考えなければならないとしても、  
優子の背中が刺激に対して非常に弱いというのは間違いのない事実だった。  
 
『・・・・クックックッ、そうか・・・・麗子・・・・あの裏切り者と貴様はそういう関係だったのか』  
 
ピンク色の靄に包まれた頭の中に響き渡る、ハイゼンの嘲笑。  
辛辣な揶揄に、咄嗟に抗議しようとするものの、  
先刻来、その口元は腐りかけの屍体によって塞がれてしまっていた。  
通常、遺体の腐敗が進行していく速度とは明らかに異なる、急激なピッチで朽ち果てていく死体、  
その胴には、相変わらず、<ヴァリスの剣>が深々と突き刺さったままである。  
だが、手を伸ばせば確実に届く所にあるにも関わらず、  
触手柱に緊縛された優子にとって、その距離は無限と言っても過言ではなかった。  
 
『フフフ、何を恥かしがっているんだ?  
男だろうが女だろうが、好きな奴が出来れば乳繰り合うのが人の性。  
<戦士>だからとて別に遠慮する事はない・・・・やりたい時にやりたい事をすれば良いではないか?』  
 
ねっとりとした思念に込められているのは、  
襲い来る肉悦と必死に格闘しながらも、徐々にその誘惑に抗えなくなりつつある少女への冷たい侮蔑。  
その『声』は、熱く欲情した生肌に絡みつき、執拗に嬲り続ける魔生物に似て、  
否、それ以上に、入念で、かつ、徹頭徹尾、容赦がなかった。  
彼女の弱りきった意志の力では、すでに全身を責め苛む淫気の奔流を押し返すどころか、  
次第に侵食され、脆くなっていく理性の防壁を支える事すら不可能だという事に気付きながらも、  
敢えて気付かないフリを通し、ジワリジワリと責め嬲るやり方を変えようとしない。  
 
『ククッ、俺様のコレが欲しくて欲しくて堪らない、というカオをしているな。  
・・・・さぁて、どうしたものかなァ?』  
 
びしょびしょに濡れた恥部の様子に満足げな笑いを含ませながら、  
わざとらしく腕組みをして逡巡するフリをする蟲獣将。  
すでに芯まで痺れが回っている少女の頭ですら、その意図する所を理解するのは簡単だった。  
 
「あ・・・・あう・・・・あぅあああ・・・・」  
 
すでに思考は半分以上停止した状態で、快楽への期待だけが際限なく膨れ上がっていた。  
かぶりを振る動きさえも力を失い、どんどん弱まっていくばかりである。  
言語中枢に浮かび上がるのは、最後のスイッチを押下させる隷従の言葉、  
己れの肉体と精神に永遠に消える事の無い奴隷の烙印を刻み込む禁断の誓いだけ。  
 
――――それを拒み通せるだけの強靭な意志は、  
もはや、今の優子の何処を捜しても、見つけ出すのは不可能だった・・・・。  
 
「・・・・はぁはぁ・・・・お、おねがい・・・・します・・・・!!  
もうダメ・・・・カラダが・・・・カラダの中全部が・・・・熱くて、苦しくて・・・・もう我慢できないッ!!」  
 
零れ落ちた啜り泣きは、か細く、擦れかかっていた。  
"下の口"と同様、生温い体液でグチョグチョに濡れそぼっているクチビルは、  
こちらも実に艶かしく紅潮して、微細な震えに包まれている。  
思考も感情もトロトロに蕩けきっているせいだろう、  
口走っている言葉の半分以上は、脊髄反射的に飛び出しているに過ぎず、  
実のところは、自分でも何を喋っているのか、理解出来てはいなかった。  
 
『フフフ、そうか、そんなに苦しいのか?  
ならば、特別に情けをくれてやらん事もないが、さて、何処をどうして欲しいのだ?  
生憎とリアリティの女には無知なものでな、具体的に言って貰わねば分からん事だらけなのだ。  
――――たとえば、ここはどうだ?』  
 
ぬけぬけとまくし立てるハイゼンの霊。  
一方、その肉体の方はと言えば、半ば朽ちかけた巨体を屈めながら、  
唇が腐り落ちて剥き出しになった、真っ黄色の乱杭歯を、  
触手生物の壁の中から突き出ている、愛らしい形の耳たぶへと近付けてくる。  
異形の生き物たちの大群に負けず劣らず、酷い臭いのする吐息を吐きかけられ、肌を粟立たせる蒼髪の少女。  
ニタリ、と、いやらしい笑みを漏らした生ける死者は、  
その口元を、目の前で縮み上がっている聴覚器官へと押し付けた。  
 
「・・・・ッ・・・・アアッ・・・・んんんッ・・・・うくぅ・・・・んぐぅううッ!!」  
 
愛らしい耳たぶを甘噛みされ、思わず漏れる、懊悩の呻き。  
ほんの一瞬だけ、『そこじゃないッ!!』という叫びが出かかったものの、  
触手舌の淫靡な感触と巧妙な愛撫の前に、すぐに押さえ込まれてしまう。  
さらに、先端部分を糸こよりのような細く薄い形状へと変えた侵入者が、  
半透明な唾液を流し込まれ、ビチョビチョになっている耳穴に潜り込むと、  
呻き声は戦慄きへと変わり、やがて、切迫した喘ぎへと近付いていった。  
 
――――チュルッ!!チュパッ!!チュルチュルルルッ!!  
 
不規則に伸びたり縮んだりを繰り返しながら、狡猾な責め手は狭い耳孔の中をほじくり返していく。  
隠されていた弱点が、次々とその存在を暴き立てられ、甘やかな官能の火照りが疼き出すと、  
耳元だけでなく、顔面全体、それに、首筋までもが、ゾクゾクッ、と引き攣り、  
呼吸の乱れが、より一層激しく、艶かしいものへと変化していった。  
優子とて、耳たぶや耳の穴にも性感帯が走っている事は、一応理解していたつもりだったのだが、  
女性器や胸乳や尻丘とは異なり、ここまで本格的な刺激を受けた経験は無く、  
その官能が如何ばかりのものなのか?について意識したのは、事実上、今回が初めてと言って良い。  
 
「んぅッ・・・・くッ・・・・あぁん・・・・うむぁッ・・・・はぁううんッ!!」  
 
麗子との情熱的な交合の中でさえ経験した事の無い、耳穴の快感は、  
新鮮な衝撃となって心身を掻き乱し、狂おしいまでの情欲に燃え立たせる。  
耳という、性的なイメージとは、一見、全く無縁に思える器官を嬲られて、  
激しい興奮を覚えているという事実それ自体も非常にショッキングな出来事であり、  
全身を覆う震えは、留まるところを知らず、大きく、烈しいものへと変わっていった。  
 
『おやおや、ちょっと耳を舐められたぐらいで、よもや、ここまで酷く乱れるとは・・・・  
貴様だけが特別なのか、それとも、現実界の女は皆こういう趣味を持ち合わせているものなのか  
・・・・クックックッ、こいつは実に興味をそそられる問題だなァ・・・・』  
 
拍車を掛けるように、言葉責めも辛辣さを増していく。  
無論、性感帯の位置や性的な刺激に対する敏感さの強弱は千差万別であり、  
耳を責められて感じてしまうからと言って、一概に倒錯的な趣向の持ち主とは限らないのだが、  
性に関する知識や経験が十分とは言えない者は、とかく、そのような錯覚に陥りがちなものである。  
おそらく、麗子は、こうなる事を見越した上で、最愛の親友である彼女を不必要に傷付けぬよう、  
賢明にも、耳穴には手を付けようとしなかったのに相違無い。  
 
『どうした、感じているんだろう?  
だったら、叫べばいい・・・・いやらしく喘ぎながら、思いっきりよがり狂えよ』  
 
くつくつと笑う魂魄の『声』。  
一方で、その死体は、耳穴を掻き回しているものとは根元の部分で枝分かれした、  
言わば兄弟分とも言うべき、もう一本の舌先を、  
身動きできない口元へと捻じ込んで、清潔なピンク色の歯茎を堪能し始める。  
じゅるッじゅるッ、と、忌まわしい舐め摺りの音が響き渡るたび、  
腐りかけの舌根から滲み出るヌルヌルとした液体が、  
少女の唇に妖しい彩りを塗り重ね、官能への欲求を引き摺り出していく。  
 
(・・・・はぁ・・・・はぁ・・・・はぁッ・・・・く、口の中が・・・・とろけそう・・・・。  
なんで・・・・こんなに気持ち悪いのに・・・・は、はふぅ・・・・どうしてなの・・・・)  
 
ふやけた意識の中、性への欲求だけが、巧みに掻き立てられ昂ぶりへと誘導される一方で、  
それ以外の感覚や思考は、目論見の障害となるのを防ぐべく、  
ぼんやりとした薄明の中へと沈められるか、あるいは、完全に骨抜きになるまで無力化されてしまっていた。  
もはや、優子の中では、溢れ出る肉悦への欲求だけが野放図に膨れ上がり、  
ともすれば、相手がつい今しがた手にかけたばかりの死体である、という事実すら忘却して、  
欲情に蕩けた眼差しを向けてしまいそうになってしまう。  
 
(ふあ・・・・ふわぁああッ!!きもちわるい・・・・でも、すごくきもちいいッ!!  
あああ・・・・だ、だめ・・・・頭の中ぐちゃぐちゃで・・・・もう何も考えられないッ!!)  
 
身体の奥底から湧き上がってくる、異様な熱気にあてられたせいだろう、  
焦点の合わなくなった瞳は灰色の大気に覆われた空をあてどもなく彷徨い歩いている。  
聴覚器官の片方をドロドロになるまでしゃぶり尽くした舌先は、残るもう一つの方へと移動し、  
口腔内を満遍なく味わい尽したその兄弟分もまた、喉奥を目指してより深く潜り込んでいく。  
 
(んあッ・・・・あッあッ・・・・そ、そこイイッ・・・・あァッ・・・・も、もっとぉッ・・・・!!  
くッ・・・・あぅう・・・・そう、その場所よ・・・・もっと激しく・・・・んふううッ!!)  
 
更に三本目の舌触手が、野太いミミズのようにのたくりながら、  
高々と突き上げられた顎の下、荒々しいリズムを刻んで脈動する胸元へと這い降りていく。  
ほとんど何の抵抗も受ける事無く、黒金の胸当てを掻い潜って内部への侵入を成功させたそれは、  
しかし、生汗にまみれた脹らみをまさぐるでも、カチコチに充血した突起に触れるでもなく、  
屹立した乳頭の周囲、薄桃色に色付いたリングの表面を、チロチロと舐めしゃぶるだけ。  
容赦ない胸乳責めを予想して身構えていた彼女は気の抜けたような表情となり、  
ほどなく、炎を噴き上げる欲求不満に身を焼き焦がされて、上気した目元に涙を浮べてしまう。  
 
『ククク、カラダが疼いて仕方が無いというカオだな、<戦士>殿。  
・・・・おっと、ちょっと目を離した隙に、下穿きがこんなに濡れているではないか!?』  
 
容赦ない嘲弄が、掻き乱された胸の奥を容赦なく抉り抜く。  
・・・・だが、いまや、優子は、どれだけ口汚く罵られようとも、  
反論の言葉を口にする事は勿論、思い浮かべる事すらおぼつかなかった。  
むしろ、あさましい欲望に囚われ、為す術もなく肉悦に溺れるしかない、自分の姿を、  
痛烈に糾弾され侮蔑されるたびに、ゾクゾクするような被虐感が全身を駆け巡り、  
新たな性感の滾りとなって、肉欲を燃え立たせていく。  
 
(はぁう・・・・お願い・・・・も、もう・・・・意地悪・・・・しないで・・・・。  
あああ・・・・も、もっと触って・・・・うくッ・・・・もっと激しくぅぅッ!!)  
 
生殺しの責め苦に堪えかね、蕩けきった瞳を潤ませながら哀訴を繰り返す、哀れな女囚。  
もはや、頭の中は、手の打ちようもないほど昂ぶった牝の劣情で一杯で、  
<ヴァリスの戦士>としての誇りも矜持も、乙女としての慎みも無垢な心も、  
何もかも忘却の彼方へと追いやって、ひたすら欲求の充足のみを求め続けている。  
邪悪な思念から指摘を受けるまでも無く、大きく割り拡げられた太腿の狭間は大洪水で、  
失禁と見紛う程の漏蜜に濡れそぼった白絹のショーツは半透明に透き通り、  
秘裂の縦筋は勿論、陰核の勃起ぶりや厚みを増した大陰唇の様子までもが曝け出されていた。  
 
「んッ・・・・んぐ・・・・むふッ・・・・うむぅうッッ・・・・」  
 
赤紫色の舌蛇が口内を占領しているせいで、  
声となって外に漏れ出す喘鳴は、酷くくぐもって聞き取りづらかったが、  
テンションが高まるにつれてそのリズムはますます加速し、過激さを増していく。  
限界まで昂ぶった神経にとって、今や、焦らされる事は何よりも耐え難い苦痛に他ならず、  
猿轡代わりの触手の存在がなければ、後生だから情けを与えて欲しい、という懇願の叫びが、  
速射砲のような勢いで飛び出していたに違いなかった。  
 
(くぅああッ・・・・もう・・・・もうこれ以上・・・・我慢できないッ!!  
お、お願い・・・・早く・・・・それを・・・・は、早くぅッ・・・・!!)  
 
鬱積した性欲に血走った視線は、いつしか、眼前に聳え立つ醜悪な肉の凶器へと引き寄せられていた。  
つい先刻まで――――まだ、かろうじて自制心と呼べるものが残っていた頃は――――、  
身の毛もよだつようなおぞましさしか感じなかった筈の腐りかけの男根は、  
性的な飢餓状態に陥った今となっては、残された最後の希望以外の何物でもない。  
勿論、屍姦愛好癖がある訳でもない彼女の中から、  
死体の体の一部、それも、男性器を咥え込むなど論外だ、という拒絶感が消え去った訳ではないが、  
それ以上に、淫熱に蕩けたその全身は熱く煮え滾り、目の前の肉棒を欲してやまないのだった。  
 
まともな人間であれば、近くにいるだけで気分が悪くなる筈の、異臭を纏った突起物。  
それは、色といい、形といい、見た目の雰囲気といい、  
これまでに目にしたどの男性器、あるいは、触手や蟲などの異形の存在にも増してグロテスクで、  
およそ、こんな代物を受け入れて無事で済むとは考えられない程の、凶悪な存在感を放っていた。  
 
根元から筒先までの長さは優に三○センチを越えているが、その形状は真っ直ぐとは言い難い。  
全体の外観は、縊れや捩れが何箇所もある、出来損ないのフランスパンのよう、  
陰茎部分の直径は、一番太い所で少女の腕回りほど、細い所でも手首の太さに近く、  
異様に黒ずんだ亀頭部分は、傘の開ききったマツタケのような形状をしていた。  
表面には、緑色の地肌に赤紫色の斑紋のある細い触手が、毛細血管のように絡み付いているが、  
よく眺めると、その根元の部分は、爛れかけた股間の皮膚と同化してしまっているのが分かる。  
 
自然のままでは、勃起状態の継続はおろか、体組織の維持すら不可能だった筈の腐りかけの性器は、  
細胞レベルで触手と融合し、その一部となる事によって、仮初めの精力を取り戻していた。  
たしかに、外見こそ醜く変わり果てているものの、  
それ以外の場所とは異なり、この部分だけには、(少なくとも、外見上は)腐敗の進行は及んでおらず、  
それどころか、ビュクン、ビュクン、という異様に活発な脈動に包まれている。  
 
(あああ・・・・お願い・・・・早く・・・・早くしてぇッ!!  
もうダメなの・・・・我慢出来ない・・・・頭がヘンになりそうなのォッ!!)  
 
相変わらず口は塞がれているため、蒼髪の少女は、薄青色の瞳を涙滴で一杯にしつつ、  
専ら頭の中で、哀切極まりない懇願の言葉を繰り返している。  
耳穴と喉奥と胸丘とをまさぐり続ける三本の舌触手はそれぞれ特徴的な動きを見せてはいるが、  
それらからもたらされる快楽はいずれも限定的であり、真の充足とは遠く隔たっていた。  
 
舌触手に穿られ、弄ばれ続けている耳孔はどうか?  
これまで全く開発されていなかった場所への責めは、新鮮さ故に刺激的だったが、  
逆に言えば、身体が慣れていくにつれ、その快感は徐々に漸減していき、  
たしかに気持ち良くはあっても、何かもう一つ物足りないというもどかしさが付き纏い始めている。  
あるいは、その兄弟によってこじ開けられた口蓋は?  
割り広げられた唇の間からは生温い涎と湿った吐息とが交互に溢れ出し、  
犯され続ける喉奥の粘膜は灼け付くようなヒリヒリ感に覆われてているものの、  
その感触は、快楽以外の不純物をも多く含み、必ずしも心地良いという訳ではなかった。  
無論、固くカチコチにしこり上がった乳首には触れようともせず、  
周りを囲むピンク色の乳輪にばかり、緩急を付けた執拗な愛撫を集中させる胸への攻撃は、  
実に悪どく効果的とはいえ、これは最初から焦らし策であって、真の絶頂を与えるものではありえない。  
 
・・・・もしも、今この瞬間、手足の戒めが解け自由を得たとしたら、優子は、一体どんな行動をとるだろうか?  
ハイゼンの足元に這いつくばって、牝犬のように情けを乞うか・・・・?  
あるいは、問答無用で、逞しく勃起した怪物ペニスにむしゃぶりつき、  
とめどもなく溢れ返る愛液に濡れそぼっている己れの淫花へと咥え込むか・・・・?  
いずれにせよ、徹底的に焦らし抜かれ、膨張しきった欲求によって爆発寸前に追い込まれた少女の目には、  
もはや、活力に満ち溢れて聳え立つ異形の肉塊以外のものは、何一つ映らなくなってしまっていた。  
 
(フン、どうして、よりにもよって、この小娘なのだ。  
まったく、皮肉な巡り合わせにも程があるというものだ・・・・)  
 
肉欲の虜となった少女を見下ろす魔将の呟きは、何処か憮然とした響きを帯びていた。  
 
標的とした者の精神に作用し、その負の側面を増幅させる魔力を帯びた霧・・・・  
蓄積された<暗>の力は、時に、世界を律する因果の法則をも歪めてしまう程の強大なものとなり得る。  
問題は、それだけの<ヴェカンタ>を溜め込む事の出来る容器、  
すなわち、極めて強い心の持ち主を確保できるかどうかだった。  
 
並の人間なら霧の中に小一時間もいれば、強烈な幻覚や幻聴に耐え切れず逃走を図るだろうし、  
何らかの理由でそれが不可能となった場合には、  
一晩で、<明><暗>のバランスが決定的な破綻をきたし、人格が崩壊して廃人となってしまう。  
これは、<暗>の要素が精神の根本をなしている暗黒界の住人でも同じだった。  
重要なのは、どれだけの量の<ヴェカンタ>を蓄えられるか、という一点であって、  
<暗>の力に順応出来るかどうかは、あまり関係ないのである。  
 
(残念だが、他に選択肢は無い・・・・こいつの存在を抜きにして、メガス様の再臨はありえん)。  
 
この上なく忌々しい小娘・・・・今すぐ、その細首をへし折りたいという衝動が何度湧き上がってきた事だろう。  
だが、その先にいる少女こそが、三界で最も強靭な心の持ち主であるという事実だけは、  
目下の所、どう足掻こうとも、動かしようのない現実である。  
 
(この、蟲の中でも最も下等な連中に弄ばれて、ブザマに蜜汁を垂れ流すだけのメス豚がッ!!)  
 
――――それ故にこそ、彼は、『残忍王の復活を目論む輩がいる』との情報を流し、  
ヴァニティの間諜たちがその餌に喰い付いてくるのを根気強く待ち続けていたのだった。  
<ヴァリスの戦士>をこの沼地に誘い入れ、その内面を漆黒に染め上げるために・・・・。  
 
全ての企ては狙い通りに運んだ・・・・かに見えた。  
今や、魔霧に冒された優子の中には、許容限界ギリギリまで増殖した負のエネルギーが充満している。  
だが、(彼にとって信じ難い事に)生み出されてくる負の感情の殆ど全ては、  
残忍王の力――――彼女を<戦士>から一匹の牝獣へと変えた、あの圧倒的な力――――への畏怖ではなく、  
その前に惨めに敗れ去った筈の夢幻界の女王に対する、一片の感傷から生じているものなのだった。  
 
言うまでも無く、<暗>の力は、強大とはいえ、決して安定的ではなく、  
些細な事が原因で予期せぬ事態を引き起こす危険は常に存在している。  
今の状況が続く限り、彼女の中の<ヴェカンタ>を利用して世界を律している因果の法則を歪め、  
メガスの魂を現し世に呼び寄せるという企ては、いつ何時、破綻する事になるか分からなかった。  
それを避けるためには、優子の意識を、かつてその身に与えられた肉悦の記憶のみで満たし、  
ヴァリアの死に対する後悔や自責の念といった余計なものを、一片残らず叩き出すしかない・・・・。  
 
――――ちゅぽんッッッ!!  
 
栓を抜くような音と共に、耳孔と喉奥を塞いでいた触手舌が、ほぼ同時に引き抜かれる。  
前後して、胸当ての中の双丘を弄んでいたもう一本も引き揚げを開始した。  
もっとも、散々弄ばれた喉奥に残る汚辱感が、顎の感覚を麻痺させてしまったせいなのか、  
優子の口蓋は閉じるという動作を忘れてしまったかのように、だらしなく開き放たれたまま、  
毒々しい体液と混じり合った大量の涎を垂れ流し続けていた。  
 
「あふ・・・・ぁあぅ・・・・ふはぁうう・・・・」  
 
精根尽き果てたように、ぐったりと頭を垂れる優子。  
だが、どうやら、今度こそは待ち焦がれていたモノが与えられそうだ、という安堵からか、  
その表情は解きほぐれ、漏れ出す吐息の音色も心なしか和らいでいる。  
それは、これまで必死の思いで守り通してきたものの一切合財を打ち捨てる行為に他ならないのだが、  
今の彼女にとっては、もはや、それはどうでも良い事でしかなかった。  
この時、蒼髪の少女の目に映り、瞼に浮かび上がっていたのは、  
硬く、熱く、屹立している醜悪な肉の塊と、それが与えてくれるであろう至福の肉悦のみであって、  
それ以上の価値を持つものがこの世界に存在しているなどとは、考え付く事も出来なかったのだから。  
 
―――すでに、挿入に邪魔な股布は掴み上げられ、脇へと退かされていた。  
 
まだ十分に生え揃っているとは言い難い、細く柔らかな恥毛に縁取られた大陰唇は、  
過度の興奮によってボリュームを増してぷっくりと隆起している。  
そのせいで、もはや隙間無く閉じ合わさっている事が出来なくなった小陰唇は、  
ピクンピクンと恥ずかしそうに震えながら、谷底から鮮やかな桜色の顔を覗かせていた。  
 
視点を下から上へと転ずれば、そこには、自然に反転して捲れ上がってしまった薄い包皮、  
そして、その中から、ニュッ、と頭を突き出している、ピンク色の肉真珠・・・・。  
普段は小豆粒くらいの大きさしかない快楽神経の集積体は、  
執拗に焦らし抜かれたお陰で、ビー玉大に膨れ上がっているばかりか、  
今にも弾け飛んでしまいそうな程の、激しい痙攣に包まれていた。  
 
それら全ては、濃厚な牝臭を漂わせる淫液を浴びて、ヌラヌラと鈍い光沢を放ち、  
まるで白く濁った蜂蜜を塗りたくられているかの如く、汚れきっている。  
しかも、ジュクジュクと滲み出す愛蜜の滴りは、ますますその量を増していき、  
それに比例するかのように、咽せ返るような甘ったるい芳香とドロリとした粘り気もまた、強まっていた。  
 
『フッフッフッ、何ともあさましく変わり果てたものだなァ。  
これが、我らを散々に苦しめ、あの御方の生命までも奪った、<ヴァリスの戦士>の成れの果てとは・・・・』  
 
<ヴァリスの戦士>という単語にも、『あの御方』という呼び名にも、  
もはや、優子は何の反応も示そうとはせず、  
呆けたような笑みを浮かべつつ、目の前に突き出された、肉凶器をボンヤリと眺めるばかりだった。  
焦点の定まらないその瞳はとうにふやけきり、高熱にうなされる病人のようなドロリとした光を湛えている。  
 
『そうら、お望みのイチモツだぞぉ。  
クククッ、安心しろ・・・・そんなに物欲しそうな顔をしなくても存分にくれてやるから』  
 
干からびて、元の太さの半分以下にまで痩せ細った屍体の指が、  
毒々しい色をした何本もの触手が網の目のように表面を覆う、股間の隆起物を扱き立てる。  
腐りかけの残飯のような悪臭を漂わせているそれは、  
男性器と言うよりも何か奇怪な寄生植物を思わせるグロテスクな代物へと変貌を遂げ、  
びゅくん、びゅくん、と不規則な間隔で脈打っていた。  
黒ずんだ亀頭部分には半透明な先走りの体液が滲み出し、  
ヌラヌラとした不浄な光沢が、ただでさえ醜怪なその外観を一層おぞましく彩っている。  
 
――――ちゅぷッ・・・・ちゅッ・・・・にちゅちゅッ!!  
 
枯れ枝のような指先が、愛液に濡れそぼった大陰唇へと伸ばされ、  
ぼってりと厚みを増した花弁を左右に割り開いていく。  
いやらしい音を立てながら、ぱっくりと分たれたサーモンピンクの谷間のほとりで、  
限界まで膨張した陰核が、ひときわ卑猥に、プルン、と震え上がった。  
 
「あッ・・・・くはッ・・・・あうう・・・・ふぁはッ・・・・はぁうんッ!!」  
 
小陰唇を穿ち抜かれた瞬間、  
蕩けきっていた表情に、一瞬だけ、パッ、と火花が瞬いたかのように思われたものの、  
その気配はすぐに掻き消え、代わりに、淫猥な湿り気を帯びた喘鳴が漏れ始める。  
迫り来る陵辱の予感・・・・昂ぶりゆく興奮に戦慄きを隠せない少女の肉体。  
その一方で、瞳の奥には鉛色の色彩が重く垂れ込め、  
底知れない悲しみと諦めとが灰色の濁流となって、幾重にも渦を巻いていた・・・・。  
 
(ああッ・・・・くッ・・・・ぁはあッ・・・・むはぁあッ・・・・!!)  
 
粘膜をこそぎながら、狭い膣道を押し広げる、干からびた指先は、  
血流が止まり、真っ黒く変色して、冷たく強張り、  
しかも、触手や蟲達と比べても遜色がない程、奇怪な感触を帯びていた。  
もはや、肉体の一部分と呼ぶ事さえ躊躇われるような指先が、おぞましい楽曲を奏でるたび、  
喉奥から漏れ出す声は、大きさもトーンも、狂ったような乱高下を繰り返し、  
暗緑色の拘束台の中では、絡め取られた手や足が、関節も弾け飛べ、とばかりに凄絶なダンスに打ち興じる。  
 
(ひぃッ・・・・あぐぅッ・・・・うああ・・・・あぎぃッ・・・・ひぐぁあああッッッ・・・・!!)  
 
秘裂の中の指先が、まともな人体では考えられない角度に折れ曲がり、  
生温かな愛液に濡れまみれた肉の回廊を、ギュルギュルと押し潰す。  
気も狂わんばかりの快感と気持ち悪さとが子宮を直撃し、  
目の前が、何千ものフラッシュの放列で覆い尽くされて何も見えなくなった。  
数瞬後、どうにか視界が回復した後も、激しい衝撃は収まる気配とて無く、  
焼け付くような痛みと強烈な嘔吐感とが断続的に込み上がってきては、  
少女の脳髄を掻き回し、醜く引き攣った唇から、えずきとなって溢れ出していく。  
 
「ふひぁああッ!!・・・・むあッ・・・・くはぁあああッッッ!!!!」  
 
狭く窮屈な回廊を貫き通し、子宮口にまで到達する死体の指先。  
散々に弄り回され、掻き嬲らされた媚肉粘膜は、熱い疼きに覆い尽くされ、  
ビクビクと痙攣しながら、半透明な愛蜜を引っ切り無しに分泌し続けている。  
すでに小さな絶頂を幾度と無く味わっているためだろう、  
顔面全体が真っ赤に上気して、真珠のような汗の粒が一面に滲み出していた。  
 
『ククク・・・・随分と手間を掛けさせてくれたが、どうやら頃合いのようだな・・・・』  
 
満足げな笑みを漏らすハイゼン。  
徹底的に焦らし尽くされ、暴発寸前まで高められた少女の性は、  
狂おしい淫欲の炎となってメラメラと燃え上がっていた。  
あともう一押しするだけで、その火勢は意識全体を丸呑みにし、  
彼女の中に存在するあらゆる想いを焼き尽くす巨大な業火と化すに違いない。  
 
「あくッ・・・・ううッ!?んはッ・・・・あああ・・・・ひぐあぁッッッ!!」  
 
――――ずりゅずりゅっ、という、妙にベトついた吸着音と共に、  
魔性の愛撫に昂ぶらされた肉孔から、枯れ木のような指が引き抜かれる。  
途端に、大量の愛蜜を溜め込んでいた肉襞が、ビクビクッ、と痙攣を発し、  
溢れ返る淫ら汁の卑猥なヌメリが粘膜全体を水浸しにしていく。  
指が取り去られた後もすぐには元の姿に戻ろうとしない秘穴の中、  
まるで解き放たれた暴れ龍の如く溢れ返った熱い迸りは、  
膣口に達してもその勢いを減じる事無く、栓の抜けたサイダーのように外界へと噴出していった。  
 
「・・・・ッ・・・・むふあああぁッ・・・・!?」  
 
優子を拘束している触手生物の群れが大きくうねり始めたかと思うと、  
大地に対してほぼ垂直に屹立する形で固定されていた体が後ろに倒され、  
地面からおおよそ45度の角度に達した所で停止する。  
それと同時に、胴体の他の部分はそのままに、腰だけがより高い位置へと持ち上げられ、  
久方ぶりに暗緑色の牢獄の中から解放された尻肉が外気の感触を味わった。  
最後に、頭部の後ろに占位している肉蔓たちがムクムクと盛り上がって、  
なだらかなスロープを描く自らの身体、とりわけ、卑猥な疼きに包まれた下半身と、  
その中心にピタリと照準を合わせた不気味な男根がよく見えるよう、幾度となく微調整を繰り返す。  
 
『・・・・クックックッ、随分と待たせて悪かったが、  
いよいよ、お待ちかねのクライマックス・ショーの時間だ。  
メガス様には及ばんだろうが、まぁ、たっぷりと楽しんでくれッ!!』  
 
囚われの<戦士>の耳元でけたたましく笑いながら、  
蟲獣将の魂魄は、数刻前まで己れの肉体だった肉人形に向かい、大仰な身振りで合図を送った。  
直後、半分崩れかけた死体の顔面に名状し難い表情が浮かび上がり、  
冷たく硬直した屍肉の塊がゆっくりと動いて、熱く火照った柔肌の上へと覆い被さる。  
腐りかけた体組織から発する腐敗臭が、一段とその濃度を増したように感じられて、  
少女が思わず咽せ返った――――その、次の瞬間。  
 
「んひッ・・・・うあぁッ・・・・ッ・・・・あぁあああッッッ!!!!」  
 
真っ黒に黒ずんだ亀頭部分が、愛蜜に濡れそぼった秘唇へと突き刺さる。  
本能的に、ギュギュッ、と、入り口をすぼめ、侵入者を拒もうとする膣筋の機先を制して、  
陰茎部分を覆っていた網状触手が、サッ、と広がり、  
大陰唇の内側へと殺到すると、不気味な蠕動音を響かせながら、敏感さを増した粘膜に絡み付いた。  
一瞬、視界全体が真っ赤に染まったかと思うと、  
極彩色の爆発光が、バァン、と弾け、凄まじい衝撃波が、頭蓋骨の中身を滅茶苦茶に引っ掻き回す。  
 
「あぁッ・・・・がッ・・・・くあぁッ・・・・ひふぁあああッッッ!!!!」  
 
本隊に先立って、膣道内へと分け入った侵入者たちの役目はただ一つ、  
ただでさえ充血して厚みを増している粘膜がこれ以上膨れ上がり、通路を塞いでしまう事の無いように、  
いわば、防護ネットの役割を果たすというものだった。  
すでに通路が確保されており、潤滑剤も十分に用意されているとはいえ、  
許容量の上限に近いサイズの肉槍が狭い通路を行き来するのは、  
やはり困難な業であり、何らかの助けが必要だ、と計算した上での動きである。  
 
――――ギチィッ!!ビキビキッ・・・・ビギィィィッ!!!!  
 
事実、不恰好なキノコのように張り出した、エラの部分がめり込んでくると、  
引き伸ばされた出入り口は、たちまちのうちに真っ赤に腫れ上がっていく。  
ギチギチ、ミシミシ、という女陰の悲鳴が響き渡り、  
捲れ上がった小陰唇が、今にも千切れ飛びそうな様子でプルプルと打ち震え始めた。  
 
当然、異物を寄せ付けまいとする防衛本能も高まりを見せるのだが、  
その動きは触手ネットの前に封じ込められ、効果的な反撃となる手前の段階で頓挫させられてしまう。  
本来ならば、激痛と恐怖によって、激しく引き攣っている筈の顔立ちもまた、  
中途半端に凍りついたまま、しばらく経っても、大きな変化は現れなかった。  
 
「・・・・はあ、はあ・・・・くうう・・・・はくぅッ・・・・ふぁうううッ!!」  
 
同時に、それは、これまで徹底して繰り返された焦らし責めの中で、  
営々と生産され蓄積され続けた、大量の脳内麻薬の働きによるものでもある。  
限界量まで溜め込まれた快楽物質は、五感を司る神経系統を麻痺させたただけではなく、  
痛覚そのものについての定義まで一時的に錯乱させてしまい、  
『痛い』という感覚がどういったものであるのか?という基本的な認識自体を歪めてしまっていた。  
 
「・・・・ぁあう・・・・んはぁ・・・・うふぁ・・・・ぁはあぁぁ・・・・」  
 
やがて、雁首の全てが秘唇への没入を果たしてしまうと、  
その効果は一段と顕著に現れるようになり、表情にも膣口にも明らかな変化が見られ始める。  
次第に解きほぐれていく表情には、時折、ピクッ、ピクッ、という妖しいわななきが走り抜け、  
その都度、恍惚とした笑みが面積を増して、口元がだらしなく緩んでいった。  
相変わらず、侵入者の胴をきつく食いしばったままではあるものの、  
慎ましやかな秘裂もまた、まるで、呑み込んだその肉根を味見するかの如く、  
不規則な収縮とぎこちない律動からなる反復運動を繰り返し始めている。  
 
「ううッ・・・・あくぅッ・・・・つあぁあッ・・・・んあはぁ・・・・ひふぅううッ・・・・!!」  
 
間断なく襲い来る悦楽の大波の前に、  
いつしか、見開かれていた双眸も力を失い、熱い涙に潤んでいく。  
挿入が開始されてすぐの頃は、まだ、切迫した調子を残していた息遣いも、  
今ではすっかり大人しくなって、甘く湿った響きに満たされていた。  
 
――――ずぶッ、ずぶぶッ、じゅぷッ、じゅぼじゅぼッ・・・・!!  
 
淫靡な蠕動音が奏でられるたび、  
熟しきった南国の果物を思わせる陰唇粘膜に触手と同化した陰茎が擦りつけられ、  
胎盤がドロドロに溶け落ちてしまうような快感が湧き上がってくる。  
ゆっくりと、しかし、着実に、子宮との距離を縮めていく、異形の男根は、  
おぞましい融合によって仮初めの生命力を吹き込まれた代物だというのが嘘のように、  
逞しく勃起して、ドクンドクンと脈打ちながら、少女の肉体を責め立てていった。  
・・・・否、実際、これが死体の一部である事を示しているのは、冷温動物を連想させる表面温度の低さだけで、  
それさえ無ければ、その事実は、意識の中から完全に放逐されていたに違いない。  
 
(はふぁ・・・・だ、だめぇ・・・・き、気持ちいい・・・・ふはあぁぁ・・・・)  
 
挿入の直前まではあれほど圧倒的だった嫌悪感も何処へやら、  
今や、視線は、下半身を深々と貫き通す肉槍の動きに釘付けだった。  
大きく割り開かれた状態で固定されている太腿の間からは、  
太いところでは彼女の腕回りほどもあろうかという極太の剛直が、  
真っ赤に充血した膣口をこそぎながら、出たり入ったりを繰り返している様子が丸分かりである。  
 
(はああ・・・・しゅごい・・・・しゅごすぎるよぉ・・・・!!  
・・・・あああ・・・・来るぅ・・・・熱くて、逞しいのが・・・・へはぁあああ・・・・!!)  
 
卑猥に咲き誇る肉花弁の上端では、  
完全に反転しきった包皮の中から飛び出したピンク色の真珠玉が、  
今にも破裂してしまいそうなくらいに膨張して、淫らな痙攣に包まれている。  
優子の顔の位置からは、直接、目にする事は出来なかったが、  
オイルの代わりにヌルヌルとした分泌物を塗りたくられ、念入りなマッサージを施された尻肉もまた、  
先刻から、無数の蟻の群れにたかられているかのようなムズムズに包み込まれ、  
すでに、堪え性も無く、あられもないダンスを踊り狂っていた。  
 
――――プツン。  
 
乾ききった音が、心の中で響き渡った。  
何かとても大事な繋がりが切れ落ちてしまったような不吉な感覚にとらわれて、  
本能的に己れの身体を見やった少女は、次の瞬間、両目を見開き、愕然となる。  
 
これまで、肌と防具との間隙から、触手や蟲の侵入こそ許してはいたものの、  
それ以上の侵犯行為にはかろうじて抵抗を貫いてきた黒金の胸甲に、  
蜘蛛の巣状のヒビが入り、一部はすでに剥離して、白い汗にまみれた白桃色の乳房が露わになっている。  
残りの部分も、まるで酸性雨によって腐食されたトタン屋根のように朽ち果て、  
いつ、完全な崩壊を生じたとしても不思議ではない程の無残な有り様に陥っていた。  
 
「・・・・う、嘘ッ・・・・こ、こんな事がッ・・・・!?」  
 
上擦った叫び声を上げながら、ぶんぶんとかぶりを振る、<ヴァリスの戦士>。  
だが、どんな攻撃を受けても耐え抜けると信じていた無敵の鎧は、  
無情にも、赤茶けた破片と化し、次々と剥がれ落ちていく。  
勿論、この時、異変が生じていたのは胸当てだけではなく、  
毀たれたとはいえ、ハイゼンの渾身の一撃を見事に防ぎきった肩当ても、  
磔刑柱の中に飲み込まれた四肢をこれまで守り続けてきた肘当てやブーツも、  
殆ど一斉に、ボロボロの砕片と化して、あるいは、それすらも残す事無く、消え失せていく。  
 
「あああ・・・・だめ・・・・だめよぉ・・・・こんな・・・・こんなのぉッ・・・・!!」  
 
すでに防御力という点では存在していないのも同然の<ヴァリスの鎧>だったが、  
それでも、未だそれが形を留め続けているという事実は、ある程度の支えとなっていたのだろう。  
こうして、甲冑が失われていく様子を目の当たりにしていると、  
改めて、自分が置かれている状況の悲惨さがひしひしと実感でき、  
同時に、もはや全ての希望は断たれたのだ、という最悪の絶望が、萎えた心の中に広がっていく。  
 
「ひッ・・・・いやぁッ・・・・こ、来ないでェッ!!」  
 
追い討ちをかけるかのように、朽ちかけた枯れ枝を思わせる屍者の両手が、  
セイロの中で蒸し上がったばかりの肉饅頭を思わせる、ふくよかな胸の脹らみに迫ってくる。  
拘束された体を懸命に捩らせ、半ば白骨化したその指先から逃れようとするものの、  
僅かに残った胸甲の残骸と共に、輝きが去り暗赤色の石片と化していたファンタズム・ジュエリーまでもが、  
胸元から無造作に引き剥がされ、足元の泥濘の中へと払い落とされてしまうと、  
あまりの恐怖に放心してしまったのか、その動きは完全に力を失ってしまった。  
 
「はひぃッ・・・・あぁあ・・・・ひぐッ・・・・ひはぁああッ!!」  
 
すでに触手生物によって丹念に舐め上げられていた一対のふくらみは、  
透き通るような白い地肌に大量の生汗が噴き出し、妖しいヌメリに覆われていた。  
ミイラ化した手指が曲線の上を軽くなぞっただけで、  
ただでさえ感度の増している肉の果実は、かぁッ、と火照りを生じ、  
硬く勃起した乳首の芯から、ズキズキするような疼痛感が湧き出してくる。  
 
――――くにゅッ・・・・ぎゅぎゅッ・・・・ぷにゅッ・・・・ぎにゅにゅううッッッ!!!!  
 
本格的な揉み込みが開始されると同時に、  
優子は、拘束された体をガクガクと打ち震わせながら、悶え泣いた。  
死人の腕から発せられているとは思えないほど、力強く、しかも、巧妙な、愛撫により揉み転がされるたび、  
適度なボリュームに恵まれた形の良い乳房は搗き立ての餅のように捏ね回され、  
激しく、しかも、執拗な、歓喜の波動が、全身の神経を戦慄かせる。  
だが、限界を超えた刺激に堪えかねて五体を揺すろうとしても、  
動く事が可能なのは、磔刑柱から浮き上がった腰の部分だけであり、  
そこには、膣道を貫通して子宮にまで届こうとしている剛直が突き立てられたままなのだった。  
 
「むぁあッ・・・・あぎッ・・・・いぎひぃッ・・・・んああッ・・・・ひぐうぁあああッ!!!!」  
 
引っ切り無しに発せられる、無残に押し潰された悲鳴。  
甘やかな痺れに追い立てられるようにして身体を捩るたび、  
待ち構えている勃起肉茎が、膣襞を抉り、子宮へと突き刺さった。  
ただでさえ快楽に蕩けきっていた少女は、  
容赦なく浴びせられる連続攻撃によって一方的に打ちのめされていく。  
 
『三界最強と謳われた<ヴァリスの戦士>も、こうなっては哀れなモノだな。  
クククッ、さあ、そろそろ仕上げの時間だ・・・・覚悟はいいかぁッ!?』   
 
復讐の喜悦に酔い痴れながら、残忍極まりない宣告を突きつけるハイゼンの魂魄。  
前後して、死体の腰遣いに微妙な変化が現れ、  
力強さはそのままに、ピストン運動のストローク間隔が徐々に短く切り詰められていく。  
回廊全体を占領している陰茎もまた、これまでのものとは異なる小刻みな震動を帯び始め、  
亀頭付近では、筒先の中へと流れ込む、精液とも樹液ともつかぬ得体の知れない粘汁が、  
ビュクン、ビュクン、と、不気味に湧き立ちながら、その容積を増していく。  
 
(・・・・ああ・・・・ヴァリ・・・・ア・・・・さま・・・・。  
これ・・・・が・・・・あなたの・・・・あじわった・・・・くるしみ・・・・なのです・・・・ね・・・・)  
 
朦朧とした意識の中、優子は、我知らず、夢幻界の女王の身に起きた悲劇を思い浮かべていた。  
憎しみを込めた罵詈雑言を浴びせられながらの容赦無い陵辱、  
その限りない苦痛と恥辱感によって、発狂寸前まで追い詰められているヴァリア。  
にも関わらず、熟れた肉体はそれを無上の快楽として貪り喰らい、  
堕された心は、あさましい欲望をはちきれんばかりに膨らませてしまう・・・・。  
 
『違うッ!!ヴァリアではないッ!!  
貴様のその記憶は、メガス様の怒りだッ!!憎しみだッ!!復讐だッ!!』  
 
間髪を入れず、嵐のような怒声が頭蓋骨の中に響き渡った。  
 
――――貴様を責め苛んでいる記憶は、ヴァリアではなく、メガスが与えたものだ。  
――――貴様が欲する罰も復讐も、メガス以外からは決して与えられない。  
――――そう、貴様が真に求めるべき者の名は、メガスッッッ!!  
 
主君の名を執拗に連呼し続け、深層意識への刷り込みを図るハイゼンの思念。  
その甲斐あってか、少女の中では、女王の存在感が少しずつ薄らぎ始め、  
代わって、残忍王の禍々しいイメージが支配力を拡大していく。  
 
『フフフ、いいぞ、その調子だ。もっと思い出せ、メガス様の事を。  
全てを征服し尽くす圧倒的な力をッ!!全てを喰らい尽くす底無しの欲望をッ!!』  
 
(・・・・メ・・・・メガ・・・・ス・・・・)  
 
茫洋とした薄青色の双眸に浮上した、恐怖の色。  
記憶の奥底に焼き付けられた凄惨な陵辱の情景が蘇り、  
いままさに己の身に襲いかかろうとしている、悲惨極まりない運命と重なり合う。  
 
・・・・ヴァリアを人質に取られ、為す術も無く、おぞましい取引を受け容れてしまった自分。  
・・・・陰湿極まりない魔王の責めに屈して、カラダを明け渡し、あさましいヨロコビに狂い果てている自分。  
・・・・今まさに血の海の中で息絶えようとしているヴァリアを前にしながら、指一本動かせずにいた自分。  
 
(――――ああッ、メガスッ・・・・!!)  
 
心臓の音がドクンドクンと猛り狂い、全身の体温が急上昇していく。  
己の存在の全てをかなぐり捨て、淫獄に繋がれた奴隷として追い求めた、  
あの、熱い滾りに満ちた肉欲の象徴・・・・。  
心身の耐え得る限界を遥かに超える快楽に屈服し、  
激しくのた打ち回りながら味わった、あの、果てしない肉悦の極み・・・・。  
 
(あああッ・・・・い、嫌ぁッ・・・・おねがいッ・・・・思い出させないでェッ!!!!)  
 
『駄目だッ、目を逸らすなッ!!己れの惨めなザマを直視しろッ!!  
そして、認めるのだッ!!貴様は、今でも、あの御方の・・・・メガス様の奴隷だ、とッ!!』  
 
溢れ出してくる忌まわしい既視感に重なる『声』。  
必死に否定しようとする優子だが、抗おうとすればするほどに、  
残忍王メガスと彼に与えられた最悪の恥辱は、より鮮明なイメージとなって心を責め苛む。  
 
(い、いやぁ・・・・いやよぉッ・・・・やめて・・・・もう、やめてぇッ!!)  
 
『止めて欲しいかッ!?ならば、認めろッ!!貴様自身の弱さをッ!!  
そして、思い出せッ!!あの逞しい剛直が、貴様を貫いた瞬間をッ!!  
メガス様の御力に圧倒され、永遠の奴隷となる事を誓約した、あの言葉をッ!!』  
 
一気に畳み掛けるハイゼン。  
追い求めていた獲物が張り巡らした罠に足を踏み入れた事を悟り、  
ランランと輝く両の眼は、この上なく甘美な復讐に陶酔しきっている。  
 
冥界に落ちてなお、強大な力を有する残忍王の魂と、  
現し世の側から彼を呼ぶ、<ヴェカンタ>に満ち溢れた、もう一つの魂。  
両者が合わさった時、必ずや、三界を律する法則の縛めは消し飛び、  
再びこの暗黒界へと降臨した彼の帝王は、恐怖と死に彩られた覇権を打ち立てるに違いない。  
 
・・・・そして、その時こそ、糞忌々しいこの小娘は・・・・。  
 
――――びくッ、びゅくびゅくんッッッ!!!!  
 
咥え込まれたイチモツが大きく震えたかと思うと、  
不気味に黒ずんだ亀頭の先端から、ドロドロとした粘汁が放出される。  
陰茎表面の生ぬるい触感とは反対に、筒内を流れる牡液は信じ難いほど熱く煮え滾っていた。  
それは、燃え盛る噴火口から溢れ出す溶岩流の如く、  
ほぼ一瞬のうちに、充血粘膜の全てを焼き尽くし、おぞましい汚濁により塗り固めてしまう。  
 
――――どぴゅッ!じゅぴぴゅッ!ぶぴゅぴゅびゅッ・・・・!!  
 
己の体内で最も敏感な場所を直撃した、信じ難い程の熱と衝撃・・・・、  
それは、心身に宿った最後の灯火を掻き消し、漆黒の闇を招来するのに充分なものだった。  
完全な恐慌に陥った感覚は無残に砕け散り、破滅的な錯乱状態に陥って、  
膣道から子宮へと流れ込む濁流の感触を、そっくりそのまま、全身の神経へと伝えてしまう。  
 
号泣の音色が声域の限界まで高まり、やがて、それをも突破したものの、  
悪夢のような射精は、一向に尽き果てる気配を見せない。  
恥骨の裏側を走りぬける白濁した洪水もまた、留まる所を知らず、  
極限に達した汚辱感は、今度こそ確実に、自我の息の根を止めると、  
その残り滓をも粉々に破砕し、決して浮かび上がる事の無い、暗渠の底へと沈めてしまった。  
 
・・・・もはや、叫び声すらも出なくなった彼女に可能だったのは、  
大きく開け放たれた口元を恐怖の形に凍りつかせたまま、幾度か短く息を吐き出し、  
――――そして、最後に待ち受けている、最低最悪の絶頂に身を委ねる事だけだった・・・・。  
 
『・・・・・・・・』  
 
相変わらず、グネグネと気味悪く蠢く磔刑台の上に横たわったまま、微動だにしない優子。  
空中からその姿を見下ろしながら、ハイゼンの霊体は、浮べていた笑いを静かに消し去った。  
冷やかな視線の先では、仮初めの生命の最後の一滴まで吐き出してしまったかつての身体が、  
腐肉の塊と成り果てて、<戦士>の足元に転がっている。  
 
『・・・・少し、勿体無い遣い方だったか?』  
 
饐えた臭気を放つ汚物の中、動いているものと言えば、宿り木を失った暗紫色の触手だけ。  
だが、その動きも、間近に迫った己の死を感じ取っているためだろうか、ごく弱々しいものに過ぎず、  
つい先刻まで、死者の股間にそそり立った醜悪なイチモツと融合し、  
目の前の少女を犯し抜いていた、あの猛々しい様子は微塵も感じられなかった。  
主の命じるまま、宿主はおろか自分自身の生命維持すら叶わなくなるまで精を吐き続けたが故の末路は、  
どうしようもなく惨めで、かつ、滑稽ですらある。  
 
『まぁ、やむを得んか。どのみち、残しておいた所で使い道がある訳でも無し』  
 
小さくかぶりを振って、ハイゼンの霊は、肉体への執心を払い除けた。  
失った体は、多少時間はかかるものの、また複製できるし、  
それを補完するために必要となる触手生物や蟲も、代わりは幾らでもいる。  
そんな事よりも、今はもっと重要な問題に思考を割かねばならなかった。  
暗黒界の諸王の中で、最も強大で、最も非情と謳われた男の魂を、  
冥府の底より救い出し再び現し世に降誕させる、という崇高な使命を果たすために。  
 
『では、始めるとしよう・・・・』  
 
起き上がる気配のない美しい生贄に向き直る蟲獣将。  
否、厳密に言えば、優子は気を失っているのでは無く、  
圧倒的な恐怖と絶望――――すなわち、極限まで増殖した<ヴェカンタ>の作用により、  
精神活動が極度に低下した、ある種の金縛り状態とでも表現すべき状況にあった。  
これが彼女以外の人間であったなら、<暗>のパワーの増大によって生ずる、  
圧倒的な重圧に押し潰されて、確実に破綻をきたしているに相違ない。  
その意味では、この少女の心は、一分の誇張も無く、三界最強と呼ぶにふさわしいものなのだが、  
一方で、その強靭さは、外部からの心理操作に対しても同じように発揮される訳ではないのだった。  
 
『・・・・さぁ、優子、あの方の御名を呼ばわれ・・・・』  
「・・・・・・・・」  
 
『・・・・呼ばわれ・・・・あの御方の名を・・・・貴様に無上の悦びをお与え下さる御方を・・・・』  
「・・・・ッ・・・・ううッ・・・・め・・・・めが・・・・め・・・・がす・・・・さ・・・・ま・・・・」  
 
『・・・・そうだ・・・・メガス様・・・・あの御方こそが・・・・貴様の望みを叶えて下さる・・・・』  
「・・・・ううう・・・・のぞみ・・・・ゆうこの・・・・のぞみ・・・・」  
 
『・・・・優子・・・・貴様は何を望む・・・・メガス様に何を望む・・・・?』  
「・・・・ゆうこの・・・・のぞみ・・・・あああ・・・・のぞみ・・・・のぞみは・・・・」  
 
『・・・・言え・・・・貴様の望みとは何だ・・・・?』  
「・・・・ゆうこの・・・・のぞみは・・・・ばつ・・・・おかしたつみへの・・・・ばつを・・・・」  
 
『・・・・犯した罪・・・・それは何だ・・・・何故に・・・・貴様は罰を望む・・・・?』  
「・・・・・・・・」  
 
『・・・・言え・・・・優子・・・・貴様の罪を・・・・貴様の欲する罰を・・・・』  
「・・・・ゆうこは・・・・まけました・・・・まけたのに・・・・いきのびてしまった・・・・  
・・・・たいせつなひと・・・・まもらなければならなかったひとを・・・・ぎせいにして・・・・だから・・・・ゆうこは・・・・」  
 
「・・・・たたかいを・・・・つづけます・・・・つみを・・・・つぐなうために・・・・」  
 
――――――――沈黙。  
 
次の瞬間、ハイゼンは宙を仰いだ。  
 
『・・・・なぜだッ!?一体、何が間違っていたというんだッッッ!!!!』  
 
無念さの滲んだハイゼンの叫び。  
凍りついた視線には、――――ばかな、という驚愕がありありと浮かび上がり、  
引き攣った口元は、激しい怒りと落胆を湛えて、彼女の言葉を噛み締めている。  
 
そして、もう一つ。  
地の底から湧き上がるかような苦悶の呻きがその上に覆い被さる。  
優子の意識――――そこに蓄積された膨大な量の<ヴェカンタ>――――に導かれて、  
冥府の底から現し世へと続く常闇の回廊を這い上がっていた、彼の主君もまた、  
予想だにしていなかった事態に狼狽し、かつ、憤怒を煮え滾らせていた。  
 
『オオオオオオ・・・・優子・・・・またしても、我を拒むのか・・・・優子ォッッッ!!』  
 
発せられた巨大な怒気は、一時的にとはいえ、世界の法則をも凌駕する程のものだった。  
 
無残に断ち割られ、毀たれた甲冑。  
幾筋もの斬撃や醜く焼け焦げた痕、無数の傷に覆われた身体。  
穴だらけの全身からとめどなく溢れ出す、どす黒い血液と濁りきったオイル。  
地上に生きる全ての者を憎悪し、滅ぼそうとするかのような邪悪な形相・・・・。  
 
かつて目にした断末魔の最期そのままの凄惨な姿を留めた悪霊が、  
灰色の霧の中に、禍々しいシルエットを浮かび上がらせる。  
勿論、さすがに、その魂魄の全てが地上に顕現出来たという訳ではなかったものの、  
それは、残忍王の二つ名を冠せられた男の影にふさわしく、どす黒い怨念に満ち満ちていた。  
 
『答えろッ、優子ッ!?何故だ・・・・何故に、貴様は我を拒む!?  
どうして、こんな状態になってもなお、あの女の事を思い続けるのだッ!?』  
 
苦吟に満ちた咆哮。  
憎悪の炎を噴き上げる苛烈な眼差しは、磔刑台に縛められた少女を呪殺せんばかりに睨み据えている。  
対する優子の表情は、死人のように蒼ざめ、強張ってはいたものの、  
発せられた言葉は驚くほどに静謐で、そこから想像されるような弱々しさとは無縁だった。  
 
「・・・・それは・・・・わたしが・・・・<ヴァリスの戦士>だから・・・・。  
<ヴァリス>の力・・・・愛の力・・・・によって・・・・繋がれているから・・・・」  
 
『・・・・ば、ばかなッ!?意識が戻っただとッ!?一体、どういう事だッ!!』  
 
叫んだのは、傍らに浮かんでいたハイゼンの霊。  
ありえる筈のない状況に直面したその顔は恐怖に引き攣っている。  
 
――――だが、事態の急変は、これで終わりではなかった。  
 
突如、分厚く垂れ込めた黒雲と不浄な濃霧の胸壁を突き破り、  
眩く輝く一条の閃光が、横たわる蒼髪の少女へと降り注いだ。  
本能的に危険を感じて飛び退いた暗黒界の将軍の前で、  
五体を覆っていた触手の群れが、胸の悪くなるような異臭を発しながら焼け爛れていく。  
さらに、解放された優子の肢体を押し包んだ清浄な霊気・・・・<ヴァリス>の波動は、  
その身体に瑞々しい生命の息吹を吹き込み、力強い輝きを取り戻させていった。  
 
『・・・・ま、まさか・・・・その力はッ・・・・うあッ・・・・がはぁあッッッ!!!!』  
 
目の前で起きている出来事の意味に気付き、『声』を張り上げようとしたハイゼンを衝撃が襲う。  
優子の精神と繋がったままの意識の中に、膨大な量の<明>の力が逆流してきたのである。  
慌てて接続を解除したものの、時すでに遅く、蒙ってしまった打撃は、  
もはや、霊体としてさえ、その場に留まり続ける事を不可能とならしめるものだった。  
己の消滅と忠誠心とを天秤に掛けた蟲獣将は、  
僅かに逡巡の気配を見せただけで前者を選択すると、主を打ち棄てて遁走を図る。  
 
『うがぁッ・・・・ゆ、優子ッ・・・・貴様は・・・・本当にそれで良いのかッ!?  
・・・・繋がれ、囚われて・・・・戦い続ける運命が・・・・本当に、貴様の望みなのかッッッ!?』  
 
最も信を置いていた部下にさえ見捨てられ、怒り心頭に発する残忍王。  
だが、(肉体を欠いた霊魂のみの状態とはいえ)現世の者であるハイゼンですら撤退を余儀なくされた今、  
いくら強大な力を有するとはいえ、未だ冥界に縛り付けられた存在に過ぎない彼が、  
いつまでもこの世界に留まり続ける事など、到底不可能な事である。  
回復した世界の因果律の前に、必死の抵抗も空しく、暗黒界の在る時空から弾き出されたメガスの魂は、  
怨嗟の絶叫を残して、冥界と言う名の魂の牢獄へと吸い込まれていくのだった・・・・。  
 
リアリティ。東京。夜。  
 
ビルの屋上に一人佇む、優子。  
月灯りの中、穏やかに吹き付ける心地よい夜風が、  
長い蒼髪をそよがせ、身に纏う夏服のセーラー服を優しく包み込む。  
 
冴え渡る美しい月光。  
瞬く天球の星々を静かに仰ぎ見ていた薄青色の双眸が、ふと、曇る。  
・・・・脳裏をよぎるメガスの言葉。  
 
『・・・・本当に、それがお前の望みなのかッッッ!?』  
 
青白い月の光が、白く透き通った頬筋に、微妙な陰影を投げかける。  
しばしの沈黙の後、少女は、ぽつり、と呟きを漏らした。  
 
「・・・・そうよ、残忍王。それが、わたしの選択」  
 
再度見上げた夜空では、青褪めた満月が、変わらず、穏やかな光に満ちている。  
幻想的な風景の中心にある月は、とても美しく、だが、何処か虚ろにも感じられた。  
・・・・まるで、彼女自身の心を映し出した水鏡であるかの如く。  
 
(・・・・決して望んだものではないけれど、  
でも・・・・それは、わたしに出来る、たった一つの償い・・・・あの人への贖罪なのだから・・・・)  
 
 
<完>  
 
 

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