――――ビュオォォォッ。  
 
霙まじりの凍てついた寒風が吹きつけてくる。  
目の前には、天まで届くかのような高さの氷壁とその中腹にぽっかりと口を開けた岩の裂け目。  
 
「ハァッ・・・・ハァッ・・・・」  
 
真っ白な呼気のかたまりを吐き出しながら、雪の中に立ち尽くしている優子。  
長く伸びた蒼髪が寒風に舞い上げられ、  
首に巻いた深紅のスカーフと一緒になってバタバタとはためいている。  
 
(・・・・どうして、わたしなの?  
わたしは・・・・わたしは、ただの人間よ・・・・なのに、どうして・・・・)  
 
ゴウゴウと吹き荒ぶ吹雪の中、幾度と無く耳を澄ませてみたものの、答えは何処からも返って来ない。  
夢幻界を司る者、ヴァリア、と名乗った、あの不思議な女性の思念もすでに感じ取れなかった。  
五感に伝わってくるのはただ、荒れ狂うブリザードの不気味な唸り声と、  
その奥に隠れ潜んでいる、邪悪な何者かの気配だけ・・・・。  
 
(・・・・いったい、どうして、こんな事になってしまったの・・・・)  
 
(・・・・何か、近付いてくる)  
 
希薄化した意識の中、得体の知れない汚濁した感覚だけが際限なく膨張し続けていた。  
自分の身体に何が起きているのか、皆目見当が付かなかったが、  
確認のために瞼を開くのは、とても恐ろしく思えてならない。  
 
(ああッ・・・・い、いま、何かが脚を掴んだッ!?)  
 
途轍もなく嫌な予感が少女を鷲掴みにした次の瞬間、  
ビリリィッ、という弱々しい悲鳴と共に、股間を覆っていた布帛が剥ぎ取られる。  
 
引き裂かれた薄布が、失禁の痕も生々しい白い太腿から剥がれ落ちていくのと同時に、  
牡の欲望を滾らせた荒々しい吐息が、ぷっくりと隆起した恥丘の脹らみを淫靡に撫で回し始めた。  
割り拡げられた脚を必死に閉じようとしても、心身に負ったダメージのせいか、まるで力が入らない。  
もっとも、たとえ身体が意のままに動かせたとしても、怪物の前では無意味だっただろうが・・・・。  
 
(・・・・ッ・・・・ひ、ひぃぃッ!!)  
 
ベトベトとした唾液をたっぷりと絡ませたガイーダの舌先が、  
しなやかに伸びた太腿の内側を、まるで味見でもするかのように、ベロリ、と、ひと舐めすると、  
優子の心臓は跳ね上がり、今にも破裂しそうな勢いで激しく動悸を刻む。  
鱗が剥げ落ちたヘビのようなグロテスクな感触、  
加えて、表面を覆う不気味なビクビク感が、いやが上にも、不快感を掻き立て恐怖心を煽り立てる。  
 
(や、やめてッ・・・・おねがい・・・・も、もう、これ以上はッ・・・・!!)  
 
声にならない悲鳴を上げ続ける蒼髪の少女。  
だが、怪物の舌は、ザワザワと粟立った乙女の柔肌を堪能しながら、  
太腿から脇腹へ、更に下腹部へと、執拗に往復を繰り返す。  
その先には、まだ完全に生え揃ってはいない、柔らかな下草に覆われた恥丘と、  
中央に位置する、ぴったりと閉じ合わさったサーモン・ピンクの大陰唇が、不安げに顔をのぞかせ、  
迫り来る嫌悪感にブルブルと打ち震えていた。  
 
――――ぴちゃん。  
 
赤黒くヌメった舌先が、身体の中で最も触れられたくない場所へと襲い掛かる。  
その感触は、少女の理性をしたたかに打ちのめし、  
どす黒く濁った絶望の底へと叩き落すのに十分なものだった。  
衝撃のあまり、叫び声を上げようとした口元は奇妙な形に変形したまま凍り付き、  
代わりに、手足はひきつけでも起こしたかのような激しい痙攣に見舞われる。  
 
・・・・・・・・ぷちゅッ、びちゅるるッ!!  
 
意識を失って以来初めてとなる激しい反応に満足したガイーダは、  
嗜虐心と征服欲とをさらに昂ぶらせつつ、口唇の動きを加速させる。  
単に表面を舐めるだけでなく、敏感な場所にザラザラとした舌を押し当ててこそいだり、  
先端をドリルのように尖らせて花弁の隙間に捻じ込んだりと、  
緩急と強弱とを織り交ぜた巧みなテクニックを駆使して、標的の堅い守りを崩そうとする暗黒の巨人。  
性の経験に乏しい、というより、(ごく初歩的な自慰行為を除いては)皆無に近い彼女にとって、  
その責めに耐え抜くのは、困難を通り越して到底不可能な事だった。  
 
(あああッ・・・・ダメッ・・・・も、もう・・・・だめェッッッ!!!!)  
 
ゾッとするような蠢きに打ちのめされた優子は、気も狂わんばかりの苦悶にのたうち回る。  
つい先程まで、自分の身に起きようとしている悲惨な出来事を知るのが恐ろしく、  
必死に閉じ合わせていた筈の両の瞼が、カァッ、と見開かれ、  
凍りついた薄青色の瞳は、身体の上に圧し掛かっている醜悪な怪物の姿に釘付けになっていた。  
もっとも、涙でぼやけた視界に映し出されるのは黒々とした小山のような影だけで、  
今まさに陰唇の守りを押し破り、異性を知らぬ膣口へと突入しようとしている舌先も、  
その背後で出番を待ち構えている巨大なイチモツも、判別する事は出来ないでいる。  
 
(ひうぅッ・・・・た、たすけて・・・・誰か、たすけ・・・・あああッ!!!!)  
 
執拗な愛撫に堪え切れず、綻びを生じ始めていた肉蕾は、  
ほどなく、パックリ、と花弁を開き、大輪の花を開花させた。  
ヌルヌルとした滴りが、曝け出された鮮やかな紅色の粘膜を滑り降りていくと、  
はじめて味わう異性の体液に対して、本能的な興奮を覚えたのだろうか、  
少女の腰は、ググッ、とせり上がり、子宮の奥で湧き立つ濃厚な牝臭を陵辱者の鼻先に撒き散らしてしまう。  
 
――――直後、頭上に覆い被さってくる真っ黒な影を目にしたのを最後に、  
彼女の意識は希薄化し、漆黒の闇の底へと引き込まれていった・・・・。  
 
「フフフ、失神したか。他愛も無い・・・・ん?」  
 
涎にまみれた長い舌を引っ込めたガイーダ。  
代わりに、股間に聳え立つ肉の槍先を、無防備な恥裂にあてがおうとしたものの、  
ふと違和感を感じて、動作を止めた。  
 
「・・・・な、何だ、これはッ!?」  
 
気を失ったまま、ぐったりと横たわる現実界の娘・・・・  
その胸の上に、どこからともなく出現した無数の光の粒子が群れ集っていた。  
驚いて目を瞠る暗黒界の刺客の前で、何万もの輝きはしなやかに伸びる全身を覆い尽くし、  
さらに明るさを増しながら、幾つかの塊へと分かたれていく。  
目の前で繰り広げられている異変の意味を悟ったのだろう、  
愕然とした面持ちで手をどけた怪物は、二歩、三歩、と後ろに退いていった。  
 
「バ、バカなッ!!・・・・だが、あの鎧はッ!?」  
 
どこまでも清浄な光――――<明>のエネルギーに満ちた空間の中、  
優子の体は、不可視の力に誘われて空中へと浮かび揚がり、次いで、直立姿勢で静止する。  
鼻筋の通った端正な面立ちからは苦悶の色が消え去り、本来の柔和な微笑が舞い戻っていた。  
汚らわしい体液は勿論、一切の穢れを拭い去られた色白な肌の内側では、  
しなやかさとふくよかさ、二つの要素が絶妙の均衡状態を取り戻し、  
背中では、腰まで伸びた艶やかな蒼髪がキラキラと輝きながらゆったりとなびいている。  
 
幾つかの大きな塊に分かたれた眩い輝光は、やがて、各々、聖なる<鎧>へと形を変えていく。  
さほど大きくは無いが形の良いバストの曲線に見事にフィットした黄金の胸当て。  
精緻な装飾を施された黄金の飾り帯と、丈の短い純白のプリーツ・スカート。  
加えて、同じく金色の色彩で飾られた、肩当てと肘当て、膝までを覆うロングブーツに、  
ワンポイントとして、襟元を飾る真紅のスカーフ・・・・。  
いずれも皆、金属特有の重苦しさも冷たさも全く感じさせる事無く、  
柔らかな羽毛で出来たケープのように、少女の身体を優しく包み込んでいる。  
 
――――伏せられていた瞼が、静かに持ち上げられる。  
 
再び姿を現わした双眸からは、怯えも絶望も綺麗に消え去っていた。  
薄青色の瞳の奥には、身に纏う甲冑と同じ黄金色の意志が炎となって燃え上がり、  
先刻までとはまるで別人の如く、力強い視線を宿している。  
 
「まさか、この小娘が、本当に<ヴァリスの戦士>だというのかッ!?」  
 
戦慄に満ちたガイーダの問いに答えるかのように、  
数条の光が足元の地面から溢れ出し、清浄な波動が周囲を祓い清める。  
 
――――そして。  
 
瓦礫の下に埋もれていた筈の<ヴァリスの剣>が、  
刀身から白銀色の霊気を立ち昇らせながら躍り上がると、  
まるで磁石のN極とS極とが引き合うかのように、彼女の右手にすっぽりと収まった。  
 
『・・・・それこそが、あなたの戦士としての真の姿。  
<ヴァリスの戦士>として選ばれた、本当の証し・・・・』  
 
再び、頭の中に響き渡る、不可思議な<声>。  
『戦士』という単語に引っ掛かりを感じて、意味を訊き質そうとする優子だったが、  
思念の主はその問いには直接答えず、もう一度、同じ言葉を繰り返しただけだった。  
 
「ま、待って、わたしが戦士だなんて、何かの間違いよ。  
わたしに戦いなんて出来る筈が・・・・!!」  
 
『あなたは選ばれた<戦士>。臆することはありません』  
 
「そんな・・・・」  
 
なおも食い下がろうとした彼女の耳朶を、  
ギュゴオオオッ、という憎悪に満ちた轟音が激しく叩く。  
振り向くと、怒りに表情を歪めたガイーダが、  
全身を車輪状の攻撃形態へと変形させて、凄まじい速度で回転を始めていた。  
 
「たとえ、夢幻界の<戦士>であろうと同じ事ッ!!  
ログレス様のご意志に叛く者は捻り潰すのみ!!」  
 
甲高い喊声を上げながら、殺人ヨーヨーと化した巨体が砂塵を巻き上げ突進してくる。  
反射的に剣を構え、迫り来る黒い旋風を凝視する優子。  
・・・・しかし、この状態の彼に対して、光の弾丸は通用しないという事実は、  
先刻の戦いでしたたかに思い知らされている。  
 
(貰ったッ!!)  
 
切っ先を向けるだけで攻撃してくる気配の無い少女の姿に、  
己れの勝利を確信した暗黒界の怪物は、一撃で勝負を決しようと一直線に突っ込んでくる。  
鋼鉄と筋肉で出来た悪魔の大車輪に圧倒されたのだろう、  
蒼髪の少女は、もはや、逃げる事すら忘れて、茫然と立ち尽くすだけ・・・・。  
 
――――否、その筈だった。  
 
「なッ・・・・か、かわした、だとォッ!?」  
 
予想だにしなかった標的の行動に驚愕するガイーダ。  
・・・・直後、今度は、どんな攻撃にも耐え抜ける筈の体殻に冷たい刃が刺し込まれ、  
信じられない程の激痛が身体中を走り抜ける。  
 
「グッ・・・・オオオッ!?バッ、バカなッ!!」  
 
殺人ヨーヨーの突撃を紙一重の差でかわした蒼髪の少女は、  
返す刀で、<ヴァリスの剣>の切っ先を、  
回転する車輪の中心――――丁度、怪物の脇腹にあたる部分へと突き立てていた。  
光の弾丸であれば防ぐのも可能だったが、  
刀身そのものを直接刺突されてはさしもの重装甲も役には立たない。  
分厚い腹筋の層を貫通し、内臓にまで達する深手を負った暗黒の巨人は、  
ズズゥゥンッ、という山津波のような音を立てて、地べたへと倒れ込んでしまった。  
 
「す・・・・すごい・・・・」  
 
巨体から引き抜いた武器を握り締めたまま、優子は、半ば茫然と立ち竦む。  
目の前の光景が、自分の手で成し遂げたものだ、という事実を呑み込めていないためだろう、  
彼女の視線は、苦悶の喘鳴を漏らしながらのた打ち回っている傷負いの魔将と、  
右手の先で白銀色の輝きを放つ細身の剣の間を行ったり来たりしていた。  
 
『これが、あなたの中から発せられた力。  
<ヴァリス・オア>の剣と鎧が、あなたの生動波を力に変えているのです』  
 
「・・・・わたしの・・・・チカラ・・・・!?」  
 
『声』に諭されてようやく、(少しではあるが)実感が湧いて来た。  
と言っても、信じ難い――――あるいは、信じたくない、という思いは依然として大きく、  
また、話の中に出てくる『ヴァリス・オア』だの『生動波』だのという言葉が全く意味不明な事も手伝って、  
少女の混乱は終息する気配を見せず、むしろ、以前にも増して酷くなってしまったのだが。  
 
・・・・・・・・だが、それも、すぐに終わりを告げる事になる。  
 
「く・・・・喰らえッ!!アース・クェ・・・・!!」  
 
脇腹に開いた傷口からどす黒い体液を飛沫かせながらも、  
悪鬼そのものの形相で立ち上がり、必殺の地震波を繰り出そうとする暗黒の巨人。  
両の拳を地面に押し当て、暗黒の気を流し込もうとした、その刹那――――。  
 
(させないッッッ!!!!)  
 
反射的に飛び出した<ヴァリスの戦士>は、  
大地に突き立てられた両腕を狙い、手にした武器を一閃させた。  
肉が断ち切られる鈍い音・・・・、  
両断された腕が宙を舞い、切り株のような傷口から濁った血液が噴水のように溢れ出す。  
斬り飛ばされた二つの肉の塊が地面に落ちた瞬間、  
ガイーダは、邪悪な生命が世界に産み落とされて以来初めてとなる死の恐怖に直面し、  
肘から先が無くなった両腕を振り回しつつ、無様な悲鳴を連発した。  
 
「うぉおおおッ!!!!」  
 
獣のような咆哮を発しつつ、優子は無我夢中で<剣>を振り上げる。   
黄金の甲冑から立ち昇る気迫が、ヒュオオオッ、と甲高い風鳴りを巻き起こし、  
刀身を包んだ聖なる霊気がエネルギーの塊となって白熱した。  
 
――――ズドォオオオッッッ!!!!  
 
渾身の力を込めて振り下ろされた白刃の斬光が、  
竿立ちになった怪物の頭頂部から尾?骨の下までを一刀の下に断ち切り、両断する。  
身体の左右がほぼ等分に真っ二つになった暗黒界の魔将は、  
断末魔の絶叫を放ち上げると同時に、体内から途轍もなく禍々しい色合いの炎を噴出させた。  
赤黒く穢れた業火は、あっという間に全身へと燃え広がり、  
今まさに絶ち滅ぼされようとしている魂魄を糧としてゴウゴウと燃え盛る・・・・。  
 
「・・・・勝った、の・・・・?」  
 
勝利したのだ、という実感は全く無かった。  
それどころか、<ヴァリスの戦士>は、あの強大な魔物が斃れたとは到底信じられず、  
いつ何時、蘇った巨人が躍り出てくるかもしれない、と、しばらくの間、逆巻く炎に目を凝らし続けていた。  
だが、彼女の予想に反して、不浄な炎に身を焼かれた巨大な肉塊は二度と動き出す事無く、  
やがて、欠片も残さずに存在を消し去られていく。  
 
茫然と立ち竦む少女が見つめる前で、  
ガイーダの遺骸を焼き尽くした火と煙の勢いは次第に弱まっていく。  
・・・・と、視界の端に、チカチカと明滅する小さな物体が姿を現わした。  
 
「石?・・・・宝石なの?」  
 
唐突に、目の前に出現した、数センチ程の大きさの石片。  
虹色の輝きを放ちながらゆっくりと降下してきたそれは、  
半ば引き寄せられるように差し出された左手の中にすっぽりと収まった。  
透き通った水晶のような神秘的な光に、意識が、すぅっ、と引き込まれかけた・・・・次の瞬間ッ!!  
 
「・・・・あうッ!!な、何ッ、この感覚ッ!?」  
 
手の中の石が、信じ難い程の熱さを放つ。  
慌てて振り落とそうとする優子だが、赤熱した魔石はまるで手の平に張り付いたかのように離れない。  
さらに、五本の指までもが、自分の意志を無視して、  
焼け付くような宝石を握り締めたまま、開かなくなってしまった。  
 
「い、いやぁッ!!・・・・どうしてッ!?手が・・・・手が離れないッ!!」  
 
悲鳴を上げ、奇怪な宝玉を投げ捨てようとして躍起になる蒼髪の少女。  
すると、今度は、熱さはそのままに、石の感触だけが消失したかと思うと、  
奔流と化した灼熱感が、手の平から甲に、さらに、手首、肘、腕・・・・、と、猛烈な勢いで流れ込んでいく。  
どうすれば良いか分からないまま、恐慌へと陥りかける少女の体内で、  
エネルギーの激流は巨大な火の玉へと変貌を遂げると、  
全身の水分を沸騰させ、五臓六腑の全てをグツグツと煮え滾らせた。  
 
「あああッ・・・・こんな、こんなのッ・・・・嫌ァッッッ!!」  
 
見えない手で内臓を掴まれ、滅茶苦茶に引っ掻き回されているかのような衝撃が、  
優子の自我を叩きのめし、理性と感情とを激しく攪拌する。  
今にも張り裂けそうな勢いで心臓が鼓動を刻むたび、  
吐き気と悪寒が暴風となって襲い掛かり、  
ただでさえ過負荷状態に陥っている五感を決定的に狂わせていった。  
 
「たすけてッ・・・・だ、誰か・・・・おねがい・・・・あくぅぅッ・・・・誰かぁッ!!」  
 
表情を引き攣らせながら、哀れな少女は声を限りに絶叫を放つ。  
容赦なく心身を責め苛む正体不明の高熱により、  
しなやかな肉体の全て、そして、精神の主要部分の多くが侵略され、  
異質な何かへの変容を余儀なくされているのがひしひしと伝わってくる。  
 
その事自体も恐ろしかったが、彼女を最も恐怖させたのは、  
自分が自分で無くなっていく変貌が、今まで一度も経験の無い、凄まじい快美感を伴っている事だった。  
真っ赤に熱せられたマントルのような高温高圧のエネルギーが身体の奥底から込み上げてくるたび、  
信じ難いほどの快感が脳髄へと雪崩れ込み、神経を伝って全身の細胞へと広がっていくのである。  
 
・・・・ドクンッ!!ドクドクドクンッ!!  
・・・・じゅるっ!!じゅちゅるちゅッ!!  
 
狂ったように飛び回る心臓が胸郭に叩きつけられるたび、  
適度な肉感に恵まれた太腿の内側、純白のスカートと薄手のショーツに隠された未成熟な花園でも、  
サーモンピンクの粘膜が擦れ合って、淫靡なうねりが発生していた。  
彼女の注意は、専ら左手の中の宝玉に向けられていたため、  
秘所の異変が意識の中枢に届いたのはずっと後になってからだったが、  
その間にも、火照りと戦慄きは確実に下半身全体へと広がっている。  
 
「ひぐうぅッ・・・・も、もうだめぇッ!!おかしくなる・・・・し、死んじゃうぅッッッ!!!!」  
 
グッショリと汗にまみれた蒼髪を振り乱しつつ、  
優子は激しく左右にかぶりを振り、歪んだ口元から引き攣った喘ぎを迸らせた。  
もっとも、四方八方から押し寄せる苦痛の水位が忍耐力の限界へと近付いていくと、  
悲鳴は弱まり、表情からも力が抜けて、次第に曖昧なものに移り変わっていく。  
無論、少女は自分を奮い立たせようと躍起になり、  
闇へと押し流されていく自我を引き戻そうと試みていたのだが、  
時間の経過と共に、流れを押し留めるのはどんどん難しくなっていく一方だった。  
 
ガクン、と、膝が折れ、脱力した両脚が瓦礫の上へと崩れ落ちる。  
すでに感覚も消え失せて、妙に甘ったるい気だるさだけが全身を覆う中、  
必死に上体を起こした蒼髪の少女は、視界に残る最後の光・・・・トンネルの非常燈に向かって手を伸ばした。  
 
まるで死人の顔のような、青白く、冷たく、ぼんやりとした灯し火。  
――――これが、優子が現実界で目にした、最後の光景だった・・・・。  
 
――――その後で何が起きたのか、正確な記憶は残っていない。  
 
最初に気が付いたのは、真っ白な光・・・・あるいは、霧や靄の類だったかもしれないが・・・・に満ちた空間。  
一陣の突風が吹き寄せ、唐突に目の前が開けた、次の瞬間、  
現れたのは、綺麗に晴れ渡ったトルマリン・ブルーの空とその中に浮遊する無数の島々、  
そして、頭上を悠然と飛んでいく、見た事も無い生き物の姿。  
日本ではない、いや、自分が知っている世界の何処にも存在する筈の無い光景に、  
息を呑みながら見入っていると、頭の中に、またあの不思議な女性の声が差し込んできた。  
 
『夢幻界へようこそ、優子・・・・えらばれし<ヴァリスの戦士>よ』  
 
・・・・否、今度は、『声』だけではなかった。  
何処までも広がる、突き抜けるような青い天空の遥かな高みに、  
如何なる原理によるものなのか全く想像もつかないが、途轍もなく巨大な立体映像が映し出され、  
驚きのあまり言葉を失った少女を静かに見下ろしている。  
黄金と色とりどりの宝石で飾り立てられた、ゆったりとした聖衣を身に纏い、  
ローマ法王の三重冠に似た荘厳な宝冠を頭上に頂く、神秘的な女性――――いや、女神。  
 
『私の名はヴァリア・・・・夢幻界を司る者。  
そして、ここは夢幻界。あなた方の住んでいる世界とは別の時空です』  
 
少し青みがかった色合いの透き通った肌。  
面立ちには威厳と慈愛とがバランスよく調和し、  
まるで、古代の遺跡から出土した大理石の彫像のような美に満ち溢れている。  
切れ長の双眸の中には瞳らしきものは存在していないが、  
湛えられた淡い色の光には、とても清らかで温かみのある雰囲気が滲み出ていた。  
 
「一体、何のことなの!?わからないわッ!!  
そ、そうだ・・・・きっと、私、夢を見てるんだわ。  
ねぇ、そうなんでしょ!?・・・・お願い、そうだと言ってッ・・・・!!」  
 
一方、優子は、一時の驚愕が収まるや否や、今まで積もりに積もった感情を爆発させて、  
目の前の女神にむかって、矢継ぎ早に質問をまくし立てていた。  
――――これまでに起きた事についての説明を得るため、ではなく、  
突如として地下鉄構内に現れた怪物の群れ、<剣>との邂逅、ガイーダとの死闘・・・・。  
自分の周りで起きた一連の出来事は全て虚構だったのだ、との言質・・・・確信を求めての問いである。  
それは、現実の尺度では説明不可能な体験を続けざまに味わってきた彼女にとって無理からぬ事だったし、  
また、そのように考えなければ、正気を保つ事すら難しかっただろう。  
 
・・・・だが、自らを、夢幻界を司る者、ヴァリア、と名乗った異界の女神の答えは、  
少女を気遣い、慎重に言葉を選んではいたが、期待していたものとは全く異なっていたのだった。  
 
『突然の出来事で、全てがあなたの理解を超えていることでしょう。  
・・・・でも、これは夢ではないのです。  
どうか、落ち着いて、これから私の言う事をよく聞いて下さい・・・・』  
 
そう、前置きし、語り始める夢幻界の女王。  
 
最近、優子の世界――――彼女は<現実界>(リアリティ)と呼んだ――――で多発している暗い出来事、  
・・・・戦争やテロ、犯罪などの凶事・・・・は、人の心の<暗>に作用する<ヴェカンタ>という力のせいである。  
それを操っているのは、ここ、<夢幻界>(ヴァニティ)、とは別の時空、  
<暗黒界>(ヴェカンティ)を統べる、ログレスという邪悪な支配者。  
永きに渡った均衡状態を破り、<夢幻界>に奇襲攻撃を仕掛けた彼は、  
<暗>の力<ヴェカンタ>に対抗できる、<明>の力<ヴァリス>を略奪すると、  
<ファンタズム・ジュエリー>という特殊な宝玉の中に封印し、更に打ち砕いて、  
それぞれの欠片を<暗黒五邪神>と呼称される、五人の強大な配下に守らせている。  
同時に、最初の攻撃を耐え凌いだ<夢幻界>の残存勢力を掃討すべく、  
<暗黒の戦士>を誕生させ、近々、総攻撃に移る構えを見せているのだ――――。  
 
(ログレス!?)  
 
聞き覚えのある名前に、優子のみぞおちを冷たいものがすべり下り、  
沸騰していた思考が急速に落ち着きを取り戻していった。  
戦いの最中、ガイーダが『あの御方』と呼んでいた人物、  
・・・・では、怪物たちを送り込んできたのは、そのログレスという存在だったのか・・・・?  
あまりにもスケールが大き過ぎて、内心、何処まで本当なのか疑わしい、とさえ思っていたヴァリアの話が、  
ログレスの名が告げられた瞬間を境に、徐々にではあるが現実味を帯びて感じられるようになる。  
 
・・・・だが、まだ彼女の話の全てに納得がいった訳ではない。  
 
(――――何故、この異世界の女神は、ただの無力な女子高生に過ぎない自分に、  
世界の命運に関わるような重要な話を打ち明けたりするのだろう?  
そもそも、わたしに魔物たちと闘う手段を与えてくれたのは、なぜ・・・・?)  
 
顔色を曇らせる少女の姿に、胸中にわだかまっている疑心の深さを悟ったらしく、  
美しい女神は、(密かに呼吸を整えると)これまでよりも一歩踏み込んだ言葉を切り出した。  
 
『ログレスを倒すには、バラバラになった<ファンタズム・ジュエリー>を一つに戻し、  
<明>のエネルギーを解放しなければなりません。  
そのためには、どうしても<戦士>の力が必要なのです・・・・』  
 
「・・・・ま、まさかッ!!そのために、わたしに<戦士>になれ、って言うのッ!?  
その上、見た事も無い世界のために戦え、とッ!!」  
 
ヴァリアの話に驚き、次いで、憤激を発する優子。  
あまりにも身勝手で一方的な要求――――そう受け取った彼女は、  
嫌悪の感情を隠そうともせず、強い口調で女神に対峙する。  
だが、その反応は、ある程度までは織り込み済みのものだったらしく、  
ヴァニティの支配者は、冷静な表情を崩そうとはしなかった。  
 
『優子、もはや時間がないのです。  
<暗黒界>にはすでに<戦士>が誕生しています・・・・』  
 
冷徹な、いやむしろ、冷酷にすら映るその態度が少女の心に怒りを点す。  
口をついて出る反駁の叫びはますます激しさを増していった。  
 
「・・・・だからって、何故、わたしなのッ!?  
<夢幻界>の危機なんて関係のないことよ!  
第一、わたしは、ただの女子高生で、力なんて何も・・・・」  
 
『それは違います・・・・あなたには力がある。  
現に、あなたは、わたしの『声』を聞き、<ヴァリスの剣>を受け取り、  
そして、<暗黒五邪神>の一人を倒したではありませんか?』  
 
「あ、あれは・・・・仕方なくやっただけよッ!でなければアイツに・・・・」  
 
途中まで言いかけたところで、蒼髪の少女は、ハッ、として、左手に視線を落とした。  
ガイーダがログレス配下の<暗黒五邪神>の一人だったという事は、  
例の不思議な宝石が<ファンタズム・ジュエリー>なのだろうか?  
でも、あの石は、いつの間にか何処かに消えてしまった筈・・・・。  
 
『いいえ、優子、<ファンタズム・ジュエリー>は無くなってなどいません。  
<ジュエリー>の・・・・<明>のエネルギーは、あなたの中に。  
心を静めて意識を集中すれば、存在を感じ取れる筈です』  
 
低く囁きかけるよう女神の思念は、しかし、有無を言わさぬ迫力を帯びていた。  
思わず反論の言葉を失う少女。  
・・・・直後、カラダの芯を強烈な波動が駆け抜けた。  
驚きを感じる暇もなく、衝撃は情欲の迸りへと変化して四方八方へと広がっていき、  
肉体を、次いで、精神を、熱とエネルギーの暴風で薙ぎ払う。  
 
(ああッ・・・・か、身体が熱い・・・・あの時と同じだわッ!!)  
 
巨大な灼熱感の塊が身体の中心で燃え盛り、全身の血液を煮え滾らせる。  
頭の中にはショッキング・ピンクの靄が立ち込め、  
理性も思考も感情も全てが一緒くたに混交してドロドロにされてしまった。  
腰椎の真ん中で爆発が起こり、一時的に小さな太陽が誕生して、  
子宮の内腔を真っ白な輝光で照らし出し、灼き尽くしていく・・・・。  
 
『それが、<明>の力・・・・<ヴァリス>。  
状況が許すのであれば、もっと詳しい説明をして差し上げたいのですが、  
・・・・でも、優子、これ以上の問答はあなたを混乱させ、あなたの中の<ヴェカンタ>を増殖させるだけ。  
今は私の言っていることの意味がわからないとしても・・・・このまま行って下さい』  
 
「・・・・ま、待って!!・・・・そんな・・・・でも・・・・わたしはッ・・・・!!」  
 
『<ファタズム・ジュエリー>の欠片が、他の欠片たちの元へ導いてくれるでしょう・・・・』  
 
悲痛な声を上げる少女を冷たく突き放すように、ヴァリアの姿が遠ざかっていく。  
必死で呼び止めようとする優子だが、カラダの奥底から湧き上がってくる淫気により、  
叫ぼうとした言葉は喉元で掻き消え、唇から吐き出されたのは熱く湿った吐息だけだった。  
やがて、(地下鉄の時と同じように)湧き上がる炎が身体中へと燃え広がると、  
視界は霞み、足がもつれ、立っている事すら困難になってしまう。  
 
「そ、そんなッ・・・・ひどい・・・・あああああッ・・・・!!!!」  
 
地面に倒れ、無様にのた打ち回る蒼髪の少女。  
瞼の裏側で強烈なフラッシュが何度も焚かれ、すさまじい眩暈が襲い掛かってくる。  
まるで脳震盪でも起こしたかのような異様な不快感が頭蓋骨の中身を攪拌し、  
泣き叫ぶ事はおろか、まともな呼吸さえ叶わなくなってしまう・・・・。  
 
――――だがしかし、彼女自身は(まだこの時点では)気付いてはいなかったが、  
希薄化し朦朧としていく意識とは裏腹に、未開発の肉体は溢れ返るエネルギーに湧き立ち、  
同時に、間もなく訪れるであろう至福の瞬間を予感して、淫靡な波動に打ち震えていたのだった。  
 
『優子・・・・闘いの中であなたが目覚めてくれることを、わたしは信じています。  
・・・・そう、キッカケさえつかめれば、必ず。  
たとえ、そのためにかけがえのないものを失うことになっても、それが<戦士>の宿命だと・・・・』  
 
――――そして、再び気が付いた時には、  
少女は、一面、雪と氷に閉ざされた荒野の真ん中に突っ伏していたのである。  
 
(・・・・・・・・)  
 
一体、これで何度目だろう――――今までの経緯を思い出し、嘆息を漏らしたのは。  
こうしていた所で、周囲の状況が変化する訳ではない、  
・・・・それは、すでに十分過ぎる程分かっているのだが、  
さりとて、このまま目の前の雪洞へと分け入るのは、あの女神の思惑通りに動くようで抵抗を禁じ得ない。  
 
(・・・・といっても、いつまでもこんな所に突っ立っている訳にもいかないわよね・・・・)  
 
事実、背後には灰色の雪原が延々と広がり、猛烈なブリザードが荒れ狂っていた。  
黄金の甲冑に何らかの力が備わっているためだろうか、  
見渡す限り雪と氷とか存在しない、白銀の荒野の真っ只中にいるというのに、  
凍えるどころか、指先が悴む気配すらないのは有り難かったが、  
だからと言って、地図も道標も無しに猛吹雪の中を彷徨い歩くのは自殺行為に等しい。  
悔しいが、やはり、現状では、ヴァリアの企図した通りに前に進む以外の道は無さそうだった。  
 
(予想はしてたけど、やっぱり、ただの洞窟じゃないみたいね)  
 
薄暗い雪洞に足を踏み入れてから、ものの数歩と進まないうちに、  
優子は、ゴツゴツとした岩の陰に隠れ、あるいは、カチコチに氷結した万年雪の下に潜みつつ、  
自分の気配を窺っている、無数の視線の存在に気付いていた。  
巧妙に殺気を隠蔽しながら、<戦士>の周囲に包囲網を形成していく異形達の数、二十、いや、三十近く、  
他にも、洞窟の奥で息を殺し、攻撃開始のタイミングを窺っている者が数十、もしかすると、百以上・・・・。  
 
(・・・・来るッ!!)  
 
けたたましい喊声を放ちながら躍り出てきたのは、  
抜き身の曲刀を構えた骸骨戦士と両刃の斧を振りかざした有翼の半獣人。  
前後左右、あらゆる方向から、標的の少女に向かって殺到してくる暗黒界の軍兵は、  
いずれも、さしたる知能を有している訳ではなかったものの、  
この状況が自分たちにとって著しく有利なものであるのは分かるのだろう、  
彼らの表情は一方的な殺戮への確信によってギラギラと輝いている。  
 
――――ドガァァッ!!ザシュゥゥッ!!  
 
・・・・だが、彼らを待ち受けていたのは、  
奇襲攻撃に慌てふためき、為す術も無く切り刻まれていく哀れな小娘ではなく、  
飛躍的に強化された知覚力によって襲撃の兆候を完璧に捉えていた、一騎当千の<戦士>だった。  
待ち伏せのために準備されていたのは、人体の能力限界を遥かに超える研ぎ澄まされた感覚と俊敏な機動力、  
そして、身体の周囲に不可視の防御障壁を展開して攻撃を防ぐ黄金の防具に、  
今、相手にしているような低級な怪物であれば、刃先に触れただけでも致命傷を与える事の出来る武器。  
 
一方、自分達の存在が気取られているとは思わず、反撃の可能性を考慮していなかった襲撃者達は、  
連携も戦術も皆無で、力押し以外の戦い方など最初から頭の中に無い。  
だが、いくら数の点で圧倒的な優位に立つとはいえ、  
狭隘な洞窟の中では、それを完全に活かし切るのは不可能である。  
むしろ、数の多さが災いして、洞窟内で満足に身動きが取れなくなった兵士たちが、  
俊足を活かして凍りついた岩壁の間を巧みに駆け抜ける優子に翻弄され続ける場面も多く見られた。  
第一、腕力任せでロクに狙いを定めもしない彼らの攻撃は空しく宙を切るばかりで、  
偶然、目標を捉えても、不可視の護りに弾かれるだけなのに対し、  
少女の手にする<ヴァリスの剣>が目標を外れる事は滅多に無く、  
ひとたび命中すれば、骨も筋肉も鎧もバターを切り分けるように簡単にスライスしてしまう。  
 
「・・・・ッ!?・・・・もう新手がッ!!」  
 
洞窟の奥から木霊してくる騒々しい足音。  
予想していたよりも早い増援の到着に軽く舌打ちを漏らした優子は、  
しかし、すぐに気を取り直すと、素早く身体を引き、呼吸を整えた。  
相も変らず数頼みの密集隊形で押し寄せてくる魔物の群れに向かって<剣>を構え、精神を集中する。  
 
「ハアッッッ!!!!」  
 
鋭い気合いと共に、切っ先から眩い輝きを放つ光の弾丸が撃ち出され、  
ひとかたまりになって突っ込んでくる襲撃者達の真ん中へと吸い込まれていった。  
大音響と共に炸裂した<明>のエネルギーが猛烈な爆風と熱線と化して、  
逃げる場所とて無い氷洞の内部を駆け巡り、醜怪な暗黒の兵士達を挽き潰す。  
同時に、爆発は、周囲の永久凍土を融解させて濛々たる水蒸気を発生させ、  
かろうじて被害を免れた軍勢からも視界を奪い去った。  
 
(今のうちに、奥へッ!!)  
 
大混乱に陥った暗黒界の雑兵共を尻目に、  
蒼髪の少女は素早く身を翻すと、複雑に枝分かれした洞窟の深部へと駆け出していく。  
ヴァリアの言葉通り、<ファンタズム・ジュエリー>が引き合っているせいなのだろう、  
目印も何も無い氷の迷宮であるにも関わらず、何処をどう進めば良いかは、何となく理解出来た。  
勿論、女神の思惑に沿う形で動いている現状は決して愉快なものではなかったが、  
今の所、その選択肢以外に、生きて元の世界に戻る術があるとも思えない・・・・。  
 
――――ビュルルッ!!ビシュルルルッッ!!  
 
突如、不気味な響きが耳朶を叩いたのは、  
入り口からかなり奥まった所まで分け入った頃だった。  
動物とも植物ともつかない、赤茶色の表皮に包まれた一つ眼の化け物が、  
左右の氷壁に穿たれた隙間から数メートルもの長さの触腕を伸ばし、少女を絡め取ろうとする。  
軽快な身のこなしで回避を試みる<ヴァリスの戦士>。  
だが、運悪く、かわし損なった一本が左の手首に巻き付いてしまい、  
不恰好な体格に似合わぬ怪力で、ギュルギュルときつく締め上げられてしまう。  
 
「くうッ・・・・!!」  
 
動きの止まった優子に向かって、再度、触腕の群れが襲い掛かった。  
第一波と同様、その殆どは<鎧>の展開する防御障壁に弾かれ、目的の達成は叶わなかったのだが、  
さらにもう一本がブーツに包まれた左脚を絡め取り、  
最大の武器である俊敏な機動力を完全に奪い取ってしまう。  
 
「・・・・な、なんて事ッ!!油断してたわッ!!」  
 
知らず知らずのうちに甲冑の能力を過信していた事を悔やむ、蒼髪の<戦士>・・・・だが、もう遅かった。  
さらに数度にわたり、<鎧>が一度に障壁を展開出来る能力を上回る数の醜怪な肉蛇が押し寄せてきて、  
残った手足も次々と縛り上げられ、反撃は勿論、逃走すら不可能な状態へと追い込まれてしまう。  
 
――――ギュルッ!!ギュルルゥゥゥ・・・・!!  
 
左右の手首に巻き付いた触手が、強引に両腕を捩じ上げ、後ろ手に結わえ付けようと試みる。  
歯を食いしばり、痛みに堪える少女だったが、  
彼らに備わっていたのは万力のようなパワーだけではなかった。  
肘を覆う黄金のガントレットが悲痛な軋み声を上げる一方で、  
両手の筋力が、すううっ、と抜け落ちていき、次第に指の先が冷たくなっていく。  
 
(ああッ・・・・だ、だめぇッ!!)  
 
抵抗も空しく、ジリジリと後ろに引っ張られていく優子の細腕。  
すでに指先の感覚は殆ど消失し、手の平や甲のそれも大幅に鈍くなっている。  
やがて、右手が完全に握力を喪失すると、  
青白く変色した指の間から<ヴァリスの剣>が零れ落ち、  
足元の凍りついた岩盤の中に深々と突き刺さってしまった。  
 
「うああッ・・・・ぐッ・・・・ううう・・・・んぐッ・・・・あああッ!!」  
 
弱々しく喘ぎながらも、少女は、邪悪な縛めを振り解こうと足掻き続ける。  
だが、太い部分では彼女の腕回りほどもある肉縄は、ちょっとやそっとでは外れる筈も無く、  
むしろ、もがけばもがくほど、より深く、よりタイトに、柔らかい生肌へと食い込んでいった。  
 
縛められているのは両腕だけに留まらない。  
不運な同胞達の犠牲の上に、甲冑の護りを掻い潜る事に成功した触手は、  
ある者は、純白のスカートの下からのぞく、むっちりとした白い太腿へと巻き付き、  
別の者は、黄金に輝く胸当てと美しい飾り帯の間の柔かいわき腹に汚れ汁を擦り付け、  
さらに別の者は、深紅のスカーフに取って代わるべく細い首筋の周りに絡み付こうとするなど、  
瑞々しいカラダの上を傍若無人に暴れ回っていた。  
 
(あああ・・・・嫌ぁッ・・・・き、気持ち悪い・・・・)  
 
全身を覆った肉蛇のおぞましい感触に、少女の心が悲鳴を上げる。  
スーパーの鮮魚コーナーに並んでいる加熱調理した蛸に似た、暗い臙脂色の生ける拘束具は、  
時折、表皮から半透明な体液を分泌して、肌理の細かい乙女の肌を汚していた。  
生ゴムのような皮膚の下には、ブヨブヨとしたペースト状の肉が詰まっており、  
引っ切り無しに、ビュクビュクビュクッ、と不規則な痙攣を発しながら、  
健康的な肢体の上を這い摺り回り、不快さを煽り立てる。  
 
「くッ・・・・ううッ・・・・あぅうう・・・・」  
 
ゴミ捨て場の残飯と害虫駆除用の農薬が入り混じったような刺激臭が鼻腔に突き刺さり、  
蒼髪の少女は充血した眼尻からポロポロと涙を流しながら、苦悶に咽いだ。  
粘液に含まれる毒性物質は、<鎧>の力で分解され、有害成分を弱められているのだが、  
悪臭とぞっとするようなネバネバ感だけは、しぶとく生き残って呼吸器を冒している。  
その上、どのような仕組みなのか皆目見当も付かないが、  
触手に巻き付かれた手足は、しばらく経つと急速に動きが鈍っていき、  
また、一時的に感覚が麻痺したり、逆に極めて過敏になったり、と様々な変調にも襲われていた。  
 
(・・・・ダ、ダメ・・・・外れない・・・・ううう・・・・こ、このままじゃあ・・・・)  
 
心臓を容赦なく締め付ける不安と焦燥。  
心拍数が跳ね上がり、呼吸によって供給される酸素の量では追いつかなくなると、  
貧血を起こした時のように、意識が朦朧としてくる。  
それが更なる恐怖を呼び起こし、今や優子の心は恐慌の淵に立たされていた。  
 
「・・・・ッ!?」  
 
とどめを刺すかのように、背後からの騒々しい物音が耳朶を叩く。  
骸骨戦士、半獣人、その他雑多な怪物たちからなる混成部隊、  
先刻の戦いぶりからも分かる通り、個々の戦闘能力は大した事の無い、低級な雑兵達に過ぎないが、  
五体の自由を失い、足元に突き刺さった剣を拾い上げる事すら叶わない今、彼らの接近は死と同義だった。  
絶望に駆られた少女は、闇雲に手足をばたつかせて、おぞましい縛めから逃れようとするものの、  
なけなしの体力を更に消耗しただけで、絡みついた触手は微動だにしない。  
 
(・・・・ハァハァ・・・・ど、どうして・・・・なんで、外れないのよッ!?)  
 
じりじりと包囲の輪を狭めながら近寄ってくる化け物の群れ。  
手に手に、蛮刀や手斧、槍や棍棒など、  
遠目にも切れ味が悪そうな、だが、重量だけはたっぷりとある得物を携え、  
抵抗の術を失った哀れな標的を嬲り殺しにすべく、ゆっくりと歩を進めてくる。  
対する優子は、戦慄で声もかすれがちになりながら、  
なお、僅かな望みを託し、残った力を振り絞って手足を動かし続けていた。  
 
――――無論、奇跡などは起こらなかった。だが・・・・。  
 
(と、停まったッ!?)  
 
獲物まであと数歩という所で、怪物の軍団は急に進軍を止める。  
何の前触れもない出来事に、ほっとするよりも、むしろ、薄気味悪さを覚えて周囲を見回した蒼髪の少女は、  
・・・・次の瞬間、両目を、かぁッ、と見開いた。  
 
両手両脚を拘束している赤茶色の触腕、汚らわしい表皮のあちこちが捲れ上がって、  
内側から、極彩色の縦縞模様で覆われた、細長い突起物が顔をのぞかせている。  
・・・・いや、よく見れば、それは触手の一部ではなく、  
体長二〇から三〇センチメートルほどの独立した生き物だった。  
鱗の無いヘビ、あるいは、特大サイズの大ミミズを連想させる不気味な生物は、  
宿主の半透明な体液にまみれた身体を、芋虫のようにビクンビクンと収縮させながら、  
触腕の中から這い出し、彼女の方へとにじり寄って来る。  
 
「い、いやぁッ!!来ないで・・・・来ちゃだめェッッッ!!!!」  
 
あまりにも毒々しい姿に、引き攣った悲鳴を漏らす蒼髪の少女。  
醜悪な容姿という点では、周囲を取り囲む骸骨兵や半獣人をはじめ、凡そ今までに目にしたどの怪物達も、  
粘り気のある体液を滴らせながら這い寄ってくる、この異形の蟲には及びもつかなかった。  
それは、単に気持ち悪いとかおぞましいとかという類の感覚を超越する、  
動物に備わった火を恐れる本能のように、生まれる以前から意識の中にある何かに根差した、  
いわば、原初的な恐怖の発露に他ならない。  
 
「ヒィィッ!!ダメ・・・・ダメぇッ!!あああッ・・・・もうダメぇッ!!」  
 
美しき獲物は、泣きじゃくりながら、絡め取られた身体をブルブルと打ち震わせた。  
おぞましい肉蟲の群れが近付くにつれ、名状し難い不快さが大波となって押し寄せ、  
同時に、体力はおろか気力までもが払底していくような枯渇感が襲ってくる。  
 
――――やがて、最後に残った僅かばかりの力も尽き果ててしまった少女は、  
かろうじて立っているのがやっとの、惨めな有り様となってしまった。  
・・・・否、今や、彼女の体が地面に崩れ落ちるのを免れているのは、  
皮肉にも、両手両足を雁字搦めに縛り上げている触手のおかげに他ならない。  
その縛めにほんの少しでも緩みが生じたならば、  
ガクガクになった膝関節は体重を支えきれず、ブザマな転倒は避けられないだろう・・・・。  
 
「くひィッ・・・・あくぅ・・・・きひィィッ!!  
あぁあ・・・・ぐぐぅ・・・・いひぁッ・・・・あ・・・・ひぎィィッ!!」  
 
不気味に這いうねる極彩色の悪魔が、  
薄いピンク色に上気し、白く光る無数の汗の粒に覆われた太腿の上を、  
ピチャリピチャリといやらしい音を立てながら這い進んでいく。  
ぞっとするような感触に、音程の外れかけた叫びとくぐもった喘ぎとが交互に放ち上げられ、  
高い氷洞の天井にぶら下がったツララの間で反響し合って奇怪な和音を奏で上げた。  
 
(んくうぅ・・・・あ、熱いッ・・・・!!  
ううう・・・・な、何・・・・まさか、毒なの・・・・くふぁああッ!!)  
 
異形の蟲が通り過ぎた後の皮膚は赤く腫れ上がり、鈍痛と異様な熱気を発している。  
一見したところ、爛れたり膿を生じたりしている様子は無いものの、  
グロテスクなカラダを覆う半透明な滴りには、  
(<鎧>の力を以ってしても太刀打ちできない程の)強力な毒が含まれているのは間違いなかった。  
これまでにも増して、冷たい戦慄を覚える優子だったが、  
どうする事も出来ないまま、全身がジワジワと熱に冒されていく様を眺めているしかない。  
 
(・・・・はぁッ・・・・はぁッ・・・・熱い・・・・苦しい・・・・ああああ・・・・)  
 
気が付けば、縦縞模様の毒虫は、  
太腿だけでなく、両腕にも、胸にも背中にも、首や顔にまで張り付いていた。  
真っ赤な腫れは黄金の甲冑によって護られている部分以外の全てを舐め尽くし、  
ねっとりとした火照りを伴う疼痛感も身体中に広がる勢いを見せている  
 
(ふぁあッ・・・・そ、そんな所までッ・・・・!?)  
 
健康的な太腿に粘汁を塗りたくり、見るも無残な姿へと変貌させた魔蟲の一匹は、  
更に這い進んで、丈の短いスカートの中にまで潜り込もうとしていた。  
もはや、行く手を阻むのは、汗ばんだ肌に張り付いた厚さ1ミリにも満たないショーツのみ  
・・・・勿論、おぞましい侵入者は、何の躊躇も無く、深く切り込んだ股ぐりの下へと頭を突っ込むと、  
純白の布帛の中心を目指して、ズブリズブリと突き進んでいく・・・・。  
 
「アアッ・・・・んぅンッ!!  
あくッ・・・・んうう・・・・ぐぐぅ・・・・ふぁッ・・・・はぁぐあああッッッ!!!!」  
 
身体中で最も触れられたくない器官を、最も触れられたくない相手にまさぐられ、  
激しく表情を歪めながら身悶えする優子。  
腕や脚などを這いずっていた時も、無論、不快極まりなかったのだが、  
自分自身ですら殆ど手を触れた事の無い恥かしい部位を穢されていくのは、  
清純な乙女にとっては、想像を絶するおぞましい体験に他ならない。  
 
(くぅああッ・・・・も、燃えるッ・・・・ア、アソコが・・・・熱いィィッ!!  
ひぃんッ・・・・熱いッ・・・・や、火傷しちゃうッ・・・・!!)  
 
やがて、暗黒界の魔蟲から分泌したヌルヌル液は、他と同じく、秘密の花園をも冒し始めた。  
違いがあるとすれば、一帯の感覚は、ここ以外のどの場所よりもずっと敏感で傷付き易いという事だろう。  
ビチュッビチュッ、と、細長い身体が蠢くたびに撒き散らされる毒の滴りは、  
量も成分も他と大して変わりなかったにもかかわらず、少女の受けた衝撃は桁違いだった。  
 
「アアッ・・・・ダメッ・・・・そこ、ダメェッ!!  
ふひぁああッ・・・・やめて・・・・お、おねがい・・・・舐めちゃ・・・・んあああッ!!」  
 
生まれて初めて、禁断の花園に、  
他人――――否、正式な名前すら判然としない異界の毒ミミズ――――を受け容れたショックは、  
理性を打ち砕くには充分なものだった。  
厳密には、まだこの時点では、魔蟲の侵攻は最も鋭敏な地点の表面をなぞるに留まっていたのだが、  
性に関しては無知に等しい彼女に、正確な判断が可能な筈もない。  
何より、体表から分泌される毒は、薄く柔らかな下草に覆われた恥丘の中心、  
ぴったりと閉じ合わさった肉の門扉を構成するサーモンピンクの粘膜にとっては、致命的だった。  
 
下半身を襲う地獄の苦しみに、優子は、腰まで伸ばした美しい蒼髪を振り乱しつつ、悶え狂った。  
大陰唇を焼き焦がす業熱が、目の前の全てを血の色に染め上げ、  
赤熱する火箸を股間に突き立てられるかのような激痛が意識を席巻して正常な思考は停止しまう。  
このままカラダの内奥から噴き出す炎に焙られていれば、  
いずれは肉も骨も内臓もドロドロに融解し溶け流れてしまう・・・・、  
本気でそのように思えてしまうほど、全身を責め苛む苦痛は圧倒的だった。  
 
――――しゅるッ・・・・しゅるしゅるッ。  
 
あまりにも激しく五体を揺らしたせいだろう、  
今までどんなに暴れても振り解けなかった触手が拘束を緩め、  
バランスを崩した身体が糸の切れたマリオネットのように地面に落下する。  
・・・・そして、次の瞬間、今にも炎を噴き上げんばかりに火照った肌に、  
凍りついた洞窟の岩肌から発する凍気が吹き付けて、少女を最悪の陥穽へと突き落とした。  
 
(ひぁッ・・・・つ、冷たいッ!!・・・・あああッ・・・・冷たくて、気持ち良いッ!!)  
 
本来であれば、皮膚を刺し貫くような凍土の冷気も、  
トロ火で焙られるような炎熱に冒された肉体には、信じ難いほど心地よい。  
燃え盛る地獄の業火の中から救い出された蒼髪の少女は歓喜の涙を流し、  
まだ身体中に残る、ネットリとした感覚を冷やすべく、  
あちこちに体をぶつけるのも厭わず、ゴツゴツとした氷洞の床を転げ回った。  
 
(アアッ・・・・す、すごい・・・・き、気持ちいいッ・・・・気持ちいいよぉッ!!  
ひあああッ・・・・だ、だめぇ・・・・気持ちよすぎて、止まらない・・・・止められないよォッッ!!)  
 
ゴロゴロと地面の上を転がり続けるうち、  
クチビルから漏れる随喜の叫びは、次第に音程の外れた金切り声と化していった。  
永久凍土の冷気によって、全身を覆っていた魔毒の熱があらかた中和され、  
涼を求める必要が無くなった後も、なお、狂躁は収まらない  
・・・・いや、もはや、止めようとしても止まらなかった。  
 
「ふあああッ・・・・き、きもちいい・・・・きもちいいのが、止まらないィィッ!!  
あッあッあッ・・・・どうして!?わ、わたしのカラダ・・・・一体、どうなっちゃったのォッ!?」  
 
狂ったような叫び声を上げ、悶絶する蒼髪の少女。  
先程までの異様な熱気に代わって、  
むず痒さとゾクゾク感が融合した堪え難い肉悦が全身を蝕んでいた。  
勿論、彼女は知る由も無かったが、  
それこそが、魔毒の本当の性質であり、最も恐るべき症状に他ならないのである。  
 
――――びじゅッ!!ぶしゃああああッッッ!!!!  
 
情けない音を立てて尿道口が破裂し、  
決壊した蛇口から噴出した大量の排泄物が生温い飛沫となって下半身を汚していく。  
股間を濡らす失禁の滴りと立ち昇るアンモニア臭とが恐慌に一層の拍車をかけ、  
最後に残っていた理性の欠片をも、水流と一緒に押し流していった。  
 
「あああ・・・・んくぅ・・・・くはぁ・・・・ふぁあああ・・・・」  
 
タンクが空っぽになってようやく、今にも気を失いそうな脱力に見舞われた優子は動きを止め、  
フラフラと頭を揺すりながら、呆けたような視線を空中へと彷徨わせる。  
清らかだった肢体は、屎尿と脂汗と泥水に汚れて見る影も無く、  
未成熟ながらも健康的な美によって光り輝いていた姿が嘘のように、汚穢と異臭を纏わりつかせていた。  
 
(・・・・ハァハァ・・・・ゾクゾクするぅ・・・・とまらない・・・・とめられないィィッ!!  
あああ・・・・なんで・・・・お漏らししちゃったのに・・・・こんなに気持ちいいのぉ・・・・!?)  
 
何よりも悲惨だったのは、恥も外聞も無く、失禁の快感に酔い痴れている表情だろう。  
上気した目元は、トロン、と蕩け、排泄液のこびりついた頬はだらしなく緩み、  
半開きになった口元からは、湿った吐息と共に白濁した涎の糸さえ滴っていた。  
先刻の苦悶から一転、頭の中は今まで味わった事の無い濃密な快楽によって支配され、  
海綿と化してしまったかのようにフニャフニャになったカラダにはまるで力が入らない。  
 
「・・・・んんん・・・・うむぅ・・・・ふあぁあ・・・・アア・・・・ン・・・・」  
 
最後に一度だけ、汚物にまみれた身体を持ち上げようしてブザマに失敗した少女は、  
ブザマに倒れ伏したまま、もはや、起き上がろうという気持ちさえ無くし、  
時折、ビクビクと不規則な痙攣を発するだけだった。  
あれだけ嫌悪を感じていた毒ミミズの感触が、今やそれ無しには片時も我慢出来ない程気持ち良く感じられ、  
ビチョビチョに濡れそぼったショーツの中で異形の蟲がモゾモゾと蠢くたび、  
ゾクゾクゾクッ、と、痺れるようなヨロコビの波動が駈け抜けていく。  
意識全体がピンク色の靄に沈み込み、渦を巻く性の衝動で攪拌されて、  
焦点を失った薄青色の瞳は、視界内のもの全てを途轍もなくグロテスクに歪めて映し出していた。  
 
――――グルルルル・・・・。  
 
痴態に耽る蒼髪の少女を取り囲んだ怪物たちの輪が開いて、  
長い銀色の体毛に覆われた巨大な狼が姿を現す。  
氷洞の主、<暗黒五邪神>が一将、水邪ガイーダより、  
罠に落ちた<戦士>の処分を命じられた、死刑執行人・・・・。  
耳元まで裂けた口には鋭い牙が生え揃い、  
喉の奥から漏れ出す唸りには、これから開演する殺戮劇への興奮が滲み出していた。  
 
――――じろり。  
 
金色の双眸が、地面に打ち伏したまま起き上がる事もままならない少女の姿を冷やかにねめつけた。  
そこには、もはや、敵と言うのも馬鹿馬鹿しく感じられる程に弱りきった標的への、  
限りない侮蔑と、嘲りに満ちた敵意とが仲良く同居している。  
だが、優子の目は、それでもなお、輝きを失ったまま、ねっとりとした昏い光の中に沈み込み、  
反撃の意志はおろか、立ち上がろうとする気力すら全く窺えない有り様だった・・・・・・・・。  
 
 
――――――――to be continued.  
 

楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] ECナビでポインと Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!


無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 解約手数料0円【あしたでんき】 海外旅行保険が無料! 海外ホテル