ヴェカンティ。アイザードの居城。  
 
「――――逃げるんだ、優子」  
 
禍々しく熱せられた大気が憎悪を孕みつつ吹き寄せてくる中、  
切迫した声で、蒼髪の少女を急かすプラチナ・ブロンドの魔道士。  
しかし、彼女は、茫洋とした表情で周囲を見回すばかりで一向にその場から動き出そうとはしなかった。  
危険が迫っている状況はかろうじて理解できているようだが、  
それが、一刻も早く逃げなくては、という思考に結び付いていない。  
・・・・否、むしろ、自分自身で何かをしようとする意志そのものが、完全に消え失せてしまったかのようだった。  
 
(・・・・麗子がいる・・・・?)  
 
気だるい感覚に支配された世界。  
優子の意識は薄明の海原を行くあてもなくあてどもなく漂っていた。  
視界は寒々とした灰色に染まり、海底に潜っているかのように聴覚も鈍っている。  
目に映るもの、耳に聞こえるもの、肌に感じるもの、全てが曖昧で、  
まるで、無声映画のフィルムに閉じ込められてしまったかの如く、現実味が無い。  
 
(・・・・どういう事?これも、夢?それとも・・・・現実?)  
 
麗子とアイザードの姿は視認出来ているのだが、  
両者が何をしているのか?という所までは思考が働かない。  
ましてや、ベノンの存在など、関心の対象にさえなっておらず、  
せいぜい、二人以外の誰かが近くにいるようだ、という漠然とした感触しか持てずにいた。  
 
(分からない・・・・一体、何が真実で、何が幻なのか・・・・?)  
 
外の世界では、魔力を帯びた暴風が渦を巻き、  
邪悪な瘴気を纏った剣が猛々しく唸りを上げ、灼熱の炎が嵐となって吹き荒れているが、  
<戦士>の力を失い、魂までも病み衰えてしまった少女には、どうでも良い事でしかなかった。  
そもそも、何故、自分がこんな場所にいて、こんな恐ろしげな光景を目の当たりにしなければならないのか?  
という最も基本的な認識ですら、完全に崩壊してしまっていて、  
バラバラになったジグゾーパズルのピースのような、無秩序なイメージの集積と成り果てていた。  
 
(チィッ・・・・深層心理への干渉が強すぎた、か?)  
 
一向に動き出す気配も無く、茫然としたままの<ヴァリスの戦士>の姿に、  
内心で舌打ちを禁じ得ない、暗黒界の魔道士。  
 
単なる洗脳や意識操作によって、自我を消し去り、捻じ曲げるのではなく、  
心底から自分に依存し、追い求める――――下世話な言い方をすれば、自分に惚れる――――ように仕向ける・・・・、  
青年の目論見は、九分九厘まで達成された状態にあったものの、最後の最後で齟齬を来たしていた。  
彼女の心は、まさに彼がそうあれかしと願ったものへと変容を遂げているにも関わらず、  
優子は未だ自身に起きた変化には気付いていない・・・・少なくとも、はっきりと意識しては。  
 
(こうなったら、やむを得ないな・・・・)  
 
小さく呟いて、アイザードは決断を下した。  
目の前の少女が、心の在り様をしっかりと認識し、受容するには、きっかけが必要だ。  
だが、(当初の予定とは異なり)ベノンによる襲撃・・・・迫り来る死の恐怖だけでは不足だった。  
 
(恐怖では足らないのなら、実際に誰かの死に様を知覚させてやれば良い。  
・・・・危険な賭けだが、現状では他に方法が無い以上は仕方ない)  
 
万が一、それでも、混乱状態を脱し切れなければ・・・・万事休す、だ。  
彼女はベノンに殺され、苦労して準備を積み重ねてきた計画も水泡に帰す。  
ヴァリアが次の<戦士>を見付け出し、召喚を試みる頃には、  
おそらく、ログレスの軍団が夢幻界を席巻し、ヴァニティ城への総攻撃さえ始まっているかもしれない。  
 
「・・・・だが、賭けるしかない」  
 
自分と夢幻界、いや、三界全ての命運を、優子――――<ヴァリスの戦士>の覚醒に・・・・。  
 
帝都ヴェカンタニア。暗黒王の宮殿。  
 
「何だッ!?」「宝物殿の方じゃないのか?」  
 
慌しく駆けずり回る近衛兵共の足音に、暗黒界の支配者は、仮面の裏側で僅かに眉をひそめた。  
やや間を置いて、近習の者が玉座まで走り寄り、恭しく頭を垂れる。  
 
「陛下ッ、ご報告申し上げますッ!!」  
 
『<ファンタズム・ジュエリー>か?』  
 
玉座の主から発せられた言葉の響きは、下問というより、確認のそれ。  
驚きのあまり、声を詰まらせた側近をつまらなそうに一瞥して、下がってよい、と退出を命じた仮面の帝王は、  
この問題については一切興味を失ったと言わんばかりに、じっと黙り込んだ。  
・・・・もっとも、無機質な黄金の仮面の奥では、未だ奇妙な熱を帯びた双眸が冷徹に計算を巡らせているのだが。  
 
(アイザードめ、良く踊っておるではないか・・・・これまでのところは、だが)  
 
<ヴァリスの戦士>と<ヴェカンタの戦士>――――・夢幻界と暗黒界、双方の切り札を手中に収め、  
意のままに操る事によって、戦いをコントロールし、己に都合の良い状況を作り上げる・・・・、  
元夢幻界人の魔道士の野心の大胆さと数々の下準備の周到さは、  
今まさに三界の覇王の座を掴もうとしていたログレスにとってさえ、非常に興味深く感じられるものだった。  
だからこそ、暗黒界の支配者は、敢えて夢幻界との決着を急ごうとはせず、  
青年の野望の行き着く先を見届けようと、静観を決め込んでいたのだが・・・・。  
 
(・・・・興が、醒めたわ)  
 
麗子こそ首尾良く篭絡し、優子を捉える事にも成功したものの、  
結局、彼女を完全に支配下に置く前に、  
ベノン如きに――――無論、真の意図を気取られた訳ではないにせよ――――計画を阻まれ、  
進退窮しているとは、興ざめも良い所だった。  
勿論、アイザードの事だから、絶望的な状況の下にあっても、  
逆転の可能性を探して、必死で智恵を働かせている所だとは思うが、  
肝腎の<ヴァリスの戦士>が腑抜け同然の有様では、勝算など立つ筈もない。  
 
(――――あるいは、あの夢幻界人には、まだ何か、秘策があるとでもいうのか?)  
 
先刻、宝物庫から姿を消し去った宝玉の欠片を脳裏に思い浮かべながら、  
もう一度考え込んだ黒衣の魔王は、しかし、すぐにかぶりを振って、その可能性を否定した。  
魔道士が何を企んでいるにせよ、現実界の小娘に再起の目が無い以上、  
いくらファンタズム・ジュエリーといえども、宝の持ち腐れに過ぎない。  
 
(惜しかったな、アイザード・・・・所詮、あの娘では役不足だった、という事だ)  
 
最後に、クククッ、と、ひとしきり喉を鳴らすと、  
ログレスは優子についての検討を打ち切り、もう一人の<戦士>の処遇へと関心を移した。  
――――<ヴェカンタの戦士>桐島麗子。  
<ヴァリスの戦士>の命数が尽きたに等しい今、  
彼女の利用価値ももはや無くなったも同然、と言っても過言ではない。  
ましてや、アイザードの陥穽に嵌まったとはいえ、暗黒界の支配者たる自分を欺こうとした事実は事実、  
重い処分を下されたとしても文句は言えない立場だろう。  
 
(・・・・さぁて、如何にしたものかな・・・・?)  
 
――――ヴェカンティ。何処とも知れぬ場所。  
 
(ここは一体・・・・?)  
 
訝しげな表情で周囲を見回す、赤毛の少女。  
漆黒の闇に閉ざされた空間は、地底の迷宮なのだろうか、  
重く淀みきった空気が、ぬばたまの<鎧>から伸びる華奢な手足をねっとりと包んでいる。  
 
(・・・・つい、さっきまで、アイツの城で戦っていた――――いや、戦うフリをしていたのに)  
 
あるいは、これも、プラチナ・ブロンドの魔道士の仕業なのだろうか?  
たしかに、飛ばされて来る直前、  
空間転移の呪文を詠唱するアイザードの声を耳にしたのは覚えている。  
だが、優子は兎も角、(表向き、ベノンとの共闘関係を維持していた)自分まで、  
あの場から転移させねばならない理由があったは思えない。  
・・・・それとも、ここに飛ばされたのは、呪文の失敗か何かが原因なのだろうか?  
 
(そもそも、あのイヤミなキザ野郎は何処にいるのよ?  
いくら役立たずの優子を抱えていると言っても、  
ベノン如きの追撃を振り切れない程の低能でもないでしょうに。  
 
口の中でブツブツこぼしながら、  
周囲の暗闇に目が慣れるのを待って、ゆっくりと歩き出す麗子。  
わずかに感じる大気の流れは、この隘道が外界から完全に隔絶した空間ではないと教えてくれる。  
同時に、微量に含まれている瘴気・・・・ヴェカンタの気配は、  
足元にある大地が、現実界や夢幻界ではなく、暗黒界のものであると物語っていた。  
 
(・・・・あのグズ、ちゃんと逃げ延びたかしら?)  
 
どんよりと濁った黴臭い空気に内心閉口しながら、かつての親友の姿を思い浮かべる。  
魔道士の罠に落ちて力を奪われた上、  
記憶と感情まで操作されて、彼の意のままに動く木偶人形と化したハズのトロ臭い娘。  
・・・・だが、最後の最後で、彼女は男の期待に背き、  
差し伸べられた偽りの使命と偽りの愛を受け取ろうとはしなかった。  
無論、その全てが抵抗の結果ではなく、偶然による部分も大きかったのだが――――。  
 
(まぁ、アイツの事だから、これで終わりってワケではないでしょうけど)  
 
アイツとは、(無論)アイザードであり、優子ではない。  
本来ならば、再覚醒を遂げた<ヴァリスの戦士>と共にベノンを討ち取り、  
次いで、ヴォルデスをも屠って、ログレスを孤立無援の状況に追い込んだ後、  
反逆の狼煙を盛大に放ち上げる、という算段だったのだが、  
優子が最後まで覚醒前の無気力状態を脱し切れなかったせいで、計画は振り出しに戻ってしまった。  
まあ、何処までも冷徹で奸智に長けた青年の性分から言って、  
ヘタレ娘と共に身を隠し、再起の機会を窺っていると考えてまず間違いはないだろうが。  
 
(・・・・それにしても、嫌な雰囲気の場所ね)  
 
全身にねっとりと絡み付いてくるような澱んだ息吹に、少女は苛立たしげな舌打ちを漏らした。  
暗黒界の支配者から<ヴェカンタの戦士>の称号を授かった者とはいえ、  
光の差し込まない場所でも自由に動けるという能力が備わった訳ではないし、  
特段、暗闇の中にいると心が落ち着けるという訳でもない。  
 
「・・・・まるで、あの家(ウチ)にいるみたい・・・・」  
 
――――むしろ、長時間、漆黒の闇に包まれていると、  
ヴェカンティの人間として生きる、と決断した際に捨て去った筈の、  
苦々しい記憶の数々が脳裏に蘇り、過去からの亡霊の如く、執拗に追い縋ってくる。  
戦前から続く名門にして近隣に名高い大資産家、という虚飾の下、  
己の欲望のためには、血を分けた肉親ですら平然と犠牲にする、家族とは名ばかりの冷血動物の群れ。  
何世代にも渡って骨肉相食む争いを繰り返してきた、桐島一族の当主の一人娘として、  
麗子は、生まれた時から、嫉妬と羨望のまみれた大人たちの視線に曝され続けてきたのである。  
 
「・・・・ええい、あんな奴らの事なんて、もうどうでもいいのよッ!!  
今のわたしは、<桐島家のお嬢様>なんていう小綺麗なだけの飾り物の人形じゃなくて、  
<ヴェカンタの戦士>――――暗黒の力をふるって自分の道を切り開く、人間なんだからッ!!」  
 
必要以上の大声を張り上げ、激しくかぶりを振りながら、  
赤毛の少女は、思い出したくもない想い出を頭の隅へと追いやった。  
荒々しい怒号が生温い大気を鳴動させ、  
ヌルヌルとした黒いカビ状の物体に覆われた地底の岩盤の間を木霊する。  
 
(馬鹿みたい・・・・こんな状況で、何やってるんだろう?)  
 
怒りを発散させたせいだろうか、幾分すっきりした気分になった麗子は、  
やや自嘲気味に笑みを漏らすと、足を止めて額の汗を掌で拭った。  
肌に触れる大気の感触は、相変わらず、不快さに満ちているが、  
出口に近付いた分だけ、空気の流れがはっきりと知覚出来るようになっている。  
おそらく、あと小一時間も歩けば、忌々しい穴蔵ともオサラバできる筈だ・・・・、  
そう判断した彼女はゆっくりと呼吸を整え、前進を再開すべく、更なる一歩を踏み出そうとした。  
 
――――だが、次の瞬間。  
 
・・・・・・・・ズブリ。  
 
何気なく踏み出した爪先を受け止めたは、  
硬い地面ではなく、ドロドロとした汚泥の感触だった。  
 
「し、しまったッ!!こんな所に地割れがあるなんて・・・・!!」  
 
驚愕の声を発する麗子。  
急いで脱出を計るものの、絡め取られた足首は、  
岩肌を覆っているカビ類が沈殿して出来たタール状の底無し沼にズブズブと沈んでいき、  
すぐに膝の辺りまで呑み込まれてしまった。  
手近な岩石に必死にしがみ付き、大地の亀裂から這い上がろうとするが、  
渾身の力を込めて握り締めた岩盤は、あろう事か、両手の指の間で脆くも砕け散ってしまう。  
 
「そ、そんなッ・・・・あぐうううッ!!」  
 
信じられない、という目で、麗子はボロボロと崩れ去っていく命綱を眺めやった。  
悲痛な呻きと共に、沈降を食い止める術を失った彼女の身体は、  
再度、腐敗した臭気を放つドロドロの液体の中へと引き摺り込まれていく。  
無論、どす黒く濁った汚汁を跳ね上げつつ、何度も泥地獄から脱け出そうとするのだが、  
その度に、カラダはますます深みにはまっていき、ついには殆ど自由が利かなくなってしまった。  
 
「あああッ・・・・こ、こんなッ・・・・こんな事がぁッ・・・・!!」  
 
汚泥の中からかろうじて顔だけを突き出して、  
刻一刻と迫り来る理不尽な死に対し、あらん限りの悪態をぶち撒ける<ヴェカンタの戦士>。  
これまでの人生も、生まれ育った世界も何もかも捨て去って、やっと手に入れた、自分が自分でいられる世界が、  
何の前触れも無く、幕を下ろされようとしている不運へのやり場の無い怒りが空気を震わせる。  
だが、すでに無力となった手足は地の底へと誘われていき、  
溺死の恐怖に青褪め、引き攣った表情もまた、一秒ごとに、泥に埋もれて見えなくなっていく。  
 
・・・・やがて、不幸な赤毛の少女は、完全に底無し沼に没し去り、  
最後まで喧しく響き渡っていた叫び声も、  
漆黒の水面の遥か下層、貪婪に顎を開いた暗渠へと吸い込まれて、聞こえなくなった――――。  
 
『・・・・麗子』  
 
わたしを呼ぶ声。  
もう、何も聞こえない筈なのに、一体、どうして・・・・?  
 
『・・・麗子・・・・』  
 
――――また聞こえてくる、あの声。  
・・・・一体、誰なんだろう?  
酷く禍々しい、それでいて、とても懐かしい、男の声。  
 
『・・・・お気の毒ですが、お嬢様はもう・・・・。  
発見があと少し早ければ、回復の可能性もあったのですが・・・・』  
 
これは・・・・この声は・・・・まさか!?  
 
(やめてッ!!思い出させないでッ!!)  
 
『それで・・・・警察の方には何と連絡を・・・・。  
お嬢様のご様子では、事故と言い張るのは難しいかと存じますが・・・・』  
 
(やめてッ!!・・・・お願い・・・・その先は・・・・!!)  
 
『それはならん・・・・断じてならんぞ。  
私の一人娘が、男に勧められて覚醒剤に手を出したというだけでも十分に恥さらしな話だ。  
ましてや、薬物性ショックで植物状態に陥ったなどと世間に知られたら、桐島家の体面は丸潰れになる』  
 
『では、どのように?』  
 
『男の方は口を塞げ。  
麗子は・・・・やむをえん、何か適当な病名をつけて『病死』させろ。  
いいな、警察やマスコミは勿論、私以外の家の者にも絶対に知られてはならんぞ・・・・』  
 
(・・・・ああ・・・・やめて・・・・もう・・・・やめ・・・・て・・・・)  
 
『――――久しぶりに、前世を思い返してみるのも一興だったかな?』  
 
(・・・・!?)  
 
聞き覚えのある声――――否、頭の中に直接響き渡ってくる、思念――――に、  
ぎょっ、となって、顔面を凍りつかせる麗子。  
 
『フフフ、いささか刺激が強すぎたのかな。我が<戦士>殿?』  
 
「・・・・・・・・」  
 
黙り込んだまま、返答を返さない少女に向かって、暗黒界の支配者は低く笑ってみせる。  
喜怒哀楽をはじめとする感情の一切を感じさせない、乾き切った笑い。  
・・・・それは、アイザードとの関係がすでに察知されている、という事実を悟らせるに充分なものだった。  
反射的に<影の剣>を実体化させ、身構えようとした<ヴェカンタの戦士>だったが、  
手足は、すでに何らかの魔術的手段によって、雁字搦めに緊縛されており、  
愛剣を出現させる事はおろか、満足な身動きさえ叶わない。  
 
『・・・・心配は無用だ。生命まで奪おうとは思わぬ。  
予は過ちに対しては寛大だ・・・・汝の父親とは違って、な・・・・』  
 
発した言葉とは裏腹に、ログレスの口調には寛大さなど微塵も含まれてはいない。  
だが、目に見えないロープによって縛り上げられ、指一本動かせない赤毛の女囚は、  
鳩尾に冷たいものを覚えつつも、成り行きに身を任せる他無かった。  
 
(殺しはしない・・・・でも、あっさり許す気も無い、という訳?)  
 
努めて平静を装おうとはするものの、表情を取り繕うのが精一杯で、  
カラダの震えや心臓の戦慄きまでは止めようも無かった。   
実際、黒衣の魔王は、生命は保証する、とは言ったが、  
それ以上のもの――――自我、あるいは、正気――――についてまでは、何の約束もしていない。  
麗子にとっては、面と向かって処罰を言い渡されるよりも、この沈黙の方が何倍も不気味で恐ろしかった。  
 
『フフフ・・・・まずは、こんな趣向はどうかな?』  
 
暗黒王の人指し指が、パチン、と乾いた音を立てた。  
同時に、強大な魔力が、四方八方から華奢な身体に向かって吹き寄せ、包み込む。  
思わず、ぎゅッ、と目を瞑り、全身を硬直させる麗子。  
両手両足が今にも引き千切られそうなくらいの怪力で引き伸ばされてビキビキと悲鳴を発し、  
関節が許容出来るギリギリの所まで強引に捩じ上げられていく。  
 
「あぐぅうううッ・・・・!!」  
 
苦痛に呻く虜囚の足元から、何か大きなモノがせり出して来る。  
――――次の瞬間、麗子は、拘束された姿勢のまま、ガクン、と真下に落とされ、  
全く無防備な状態の内股を、その物体・・・・硬く冷たい大理石製の拷問器具の上へと叩きつけた。  
少女のカラダの中で最も柔かく、打たれ弱い部分を、強烈な衝撃が貫き、  
一瞬、視界が閃光の嵐で埋め尽くされたかと思うと、  
腰椎を巨大なハンマーで粉砕されたかのような激痛が股間から脳天へと駆け上がっていく。  
 
「ひぃッ・・・・ぐがぁああぁぁッッッ!!!!」  
 
痛みと恐怖のあまり、カッ、と見開かれた双眸に映ったのは、  
黒大理石を彫り込んで作られた、筋骨隆々たる悍馬の彫像。  
そして、背中を跨ぐ格好で、打ちつけた両脚の付け根を深々と鞍上に食い込ませている自らの下半身・・・・。  
 
「ま、まさか・・・・これは!?」  
 
更によく目を凝らせば、石像の背中の部分が、  
子供の頃に図鑑で目にした、アジアの砂漠地帯に住む双コブ駱駝のように、異様な形に盛り上がり、  
黒絹のプリーツ・スカートと下穿きに包まれた乙女の腰周りを、  
前後から挟み込み、ずり落ちないようにがっちりと固定している。  
異形の馬体は、彼女の下半身にピッタリとフィットし、薄気味悪いほどの密着感を演出していた。  
それだけならまだしも、鞍下にあたる場所には、  
股布一枚隔てただけの恥裂の形状にぴったりと合致する細長い溝が穿たれており、  
空洞内では、這いうねる無数の触手がジュルジュルと妖しい粘着質の旋律を演奏し続けている。  
 
「くッ・・・・ううう・・・・あうぅぅ・・・・!!」  
 
薄い布地越しに秘所に伝わる冷たい石肌の感触に慄然となり、うなじを逆立てた赤毛の少女は、  
必死に身を捩るものの、魔性の呪縛は依然として手足を絡め取ったままだった。  
漆黒の恥刑台からの脱出はおろか、満足に身動きもままならない美しき反逆者に可能なのは、  
自分を処罰するために特別にあつらえられたのであろう、陰惨な責め具の効能を思い浮かべながら、  
押し殺した声を漏らし、拘束された弱々しく体を揺らす事のみ。  
胸郭の内側では、心臓が早鐘のようにバクバクと鼓動を刻み、  
背筋には無数の汗粒がじっとりと滲み出して、皮膚の上を油膜のように覆っている。  
 
『・・・・どうした?一体、何を怯えているのだ?  
暗黒界の支配者たる予を相手に勝負を挑む程の<戦士>に、怖いものなど無かろうに?』  
 
相変わらず、ログレスの思念には、一片の憐憫も感じられない。  
そこにあるのは、裏切り者に対する冷たい怒りと嘲り、  
・・・・そして、この機会に、死よりも、遥かに辛く、おぞましい懲罰を与えて、  
二度と反逆など思い付けないよう徹底的に躾を施さねばならぬ、という断固たる決意。  
冷酷非情の統治者としての本性を露呈させた暗黒王を前にして、  
抗う術とてない少女は、極限まで恐怖を募らせ、打ち震えるだけだった――――――――。  
 
「あぐぅッ!!ああッ・・・・だめぇ!!くひいィィッ・・・・!!」  
 
不可視の荒縄に縛められたカラダが見事な半月形に反り返っている。  
魔力によって身動き出来なくされた下半身が責め嬲られるたび、  
あちこちの関節が、ギシッギシッ、と不気味な軋ばみ、  
汗の飛沫が銀色の輝きとなって周囲に飛び散っていった。  
 
「ダ、ダメェ・・・・グリグリしないれェェッ・・・・ひはぁああッ!!」  
 
一体、どれぐらいの時間が経過したのだろうか?  
すでに正確な思考も感覚も、麗子の頭からは完全に消え失せてしまっていた。  
馬上に引き据えられた格好のまま、触手の群れによって性感を貪られている女囚の体は、  
屈辱感と羞恥心を存分に煽り立てようとしての事だろう、  
腰から上を覆う漆黒の甲冑は、バンダナとスカーフだけを除いて全て剥ぎ取られ、  
色白な肩口もやや小ぶりな胸の脹らみも露わにされて、暗黒界の生物のおぞましい愛撫に晒され続けている。  
唯一の救いは、淡雪のような柔肌の中でも特に白さの目立つ一対の美乳の山頂で、  
ツン、と先端を尖らせているピンク色の乳首は、今の所、触手生物の標的からは外されている事だったが、  
それとて、魔王の気分一つで、どうなるか知れたものではない。  
 
一方、腰から下の甲冑はと言えば、奪い去られた物こそ無かったものの、  
無数の怪生物がひしめく馬の背に固定された恥部を護るモノと言えば、  
元より、薄手の絹地で出来たスカートと同色のショーツ以外には存在しない。  
無論、普段の状態であれば、単なる下穿きといえども、  
<ヴェカンタの戦士>の鎧を構成する武具の一つである以上、強力な闇の加護が込められており、  
下等な魔物如きが束になって襲ってきても、触れる事さえ出来なかっただろう。  
だが、今の彼女は、ヴェカンティの支配者によって、その力の全てを封印された状況にあり、  
知能さえ無い下等生物からの責め嬲りという、最低最悪の恥辱を甘受せざるを得ない立場にある。  
 
・・・・・・・・ぐちゅッ・・・・ぶちゅる・・・・じゅちゅッ・・・・ぶじゅるるる・・・・!!  
 
間断なく響き渡る、卑猥な粘着音。  
何処にも逃げ場の無い馬体の両側では、色とりどりの触手に巻きつかれたしなやかな太腿が、  
気味の悪い分泌液を塗りたくられ、不規則な痙攣を繰り返していた。  
さらに視点を移動させると、半透明な粘液に穢されたスカートを、  
ヌメヌメとした鈍い光沢を発する、鱗の剥げ落ちた蛇のような肉縄が捲り上げ、  
ビショビショに濡れまみれたショーツの中にまで頭を突っ込んで、暴れ回っている。  
 
「んぁあッ・・・・はくぅッ!!ああッ・・・・もう・・・・い、いやぁッ!!」  
 
紅潮しきった顔面はあさましい欲情に支配され、だらしない愉悦の表情を浮べつつ、蕩けきっている。  
不可視の魔縄に緊縛され、後ろ手に拘束されている両手は、  
手の平に爪が食い込んで血が滲むほど、固く、きつく握り締められ、  
全身に広がった快楽の火照りに煽られるまま、ブルブルと震え慄いていた。  
 
(――――ハァハァハァ、だめェ・・・・ガマンできないッ!!  
あああ・・・・アソコもお尻も・・・・熱くて・・・・グチョグチョで・・・・おかしくなりそう・・・・!!)  
 
喉元まで出かかった、あさましい嬌声を、  
僅かに残った理性で必死に押し留めながら、火照ったカラダを波打たせる。  
とりわけ、この期に及んでもまだ攻撃対象から外されたままの胸元では、  
真っ白な汗粒にびっしりと覆われた乳房の上で、淡いピンク色の肉突起が、精一杯、背伸びをしつつ、  
あたかも、他の場所と同じように情け容赦なく弄って欲しい、と懇願するかのように、  
びゅくん、びゅくん、と、扇情的なひくつきを披露していた。  
 
「ふひぃぃッ!!・・・・はぁはぁ・・・・あくぅうううッ!!」  
 
無論、その間も、異界の生物は前後の穴に対して次々に攻撃を仕掛け、  
下半身の感覚がなくなる程の快楽を注ぎ込んでいる。  
最後の守りである黒絹のショーツは、奇跡的に未だ形を留めているものの、  
吐き出されたドロドロの分泌液と己自身の秘裂から溢れ返る愛液とによってグジュグジュに濡れそぼり、  
もはや、衣服としての最低限の機能すら果たせなくなってしまっていた。  
 
「あくうううッ!!あッあッあッ・・・・ひはぁあぁぁッ!!」  
 
肩口に達する手前で切り揃えた紅い頭髪を盛大に振り乱しながら、  
肉欲に歪みきった表情を涙と涎と鼻汁とでベトベトにする麗子。  
あさましい欲情に洪水状態となった恥丘の上では、  
普段は慎ましく縮こまっているピンク色の陰核が、  
今にも破裂しそうなくらいに腫れ上がった脹れっ面を、肉莢の内側から、ぴょこん、と突出させている。  
その真下に位置する恥ずかしいクレヴァスの裂け目には、  
沖縄特産のニガウリを連想させる、外皮に小さなイボイボのついた触手が数本  
代わる代わる没入しては、狭い膣道をこじ開けて、子宮に到達するまでタイムを競い合っていた。  
 
すでに抵抗を諦めてされるがままになっている秘裂に向かって、  
異形の魔物たちは、入れ替わり立ち代り、執拗に侵攻を繰り返す。  
疲れも倦みを知らない侵略者の前に、少女の体力はすぐに底を尽き、  
しばらくすると、気力さえも限界へと近付いていった。  
 
(く、悔しいッ・・・・こんな、触手なんかにッ・・・・!!  
あああ・・・・で、でも・・・・イイッ・・・・気持ち良過ぎるぅッ・・・・!!)  
 
弱々しくかぶりを振りながら、自身の不甲斐なさを呪い、責め苛む。  
快美感に屈した肉体はトロトロに蕩け切り、  
サーモンピンクの花弁からは半透明な淫汁が止め処なく流れ落ちていた。  
限界まで膨らんだ陰核が、滑らかな黒大理石の表面に押し付けられるたび、  
ぞっとするような冷たさと綯い交ぜになった法悦が下半身をガクガクと揺さぶって、  
まるで、別の生き物のように、ビュクン、ビュクン、と激しく脈打たせている。  
 
「ふひゃああッ!!ら、らめぇッ・・・・お尻もなんてッ!!」  
 
一方、白桃色に色付いたヒップの谷間に息づく、密やかなすぼまりを担当していたのは、僅かに一本だけ。  
太さは麗子の親指よりも一回り大きい程度、表面には目立った凹凸やヒダなどもなく、  
一見、何の変哲も無い、ごくシンプルな形状をしたその肉蛇は、  
しかし、女体を責め嬲る能力において、膣を受け持った連中に優るとも劣らなかった。  
 
「くひゃぁぁッ!!な、なんなの・・・・これぇぇぇッ・・・・!?」  
 
恥裂と同様、トロトロに蕩けかけていた菊門の、形ばかりの抵抗をものともせずに潜り抜けた直後、  
平凡な見てくれの触手生物は恐るべき本性を明らかにした。  
排泄器官の中へと侵入を果たした肉突起は、何本かのより細い触腕へと枝分かれし、  
さらにその一本一本から、何十もの繊毛が生え出てきて、一斉に蠢き始めたのである。  
もしも、彼女の皮膚と内臓を透視して、体内の様子を直接視認出来る者がいたとすれば、  
肛門と直腸とを繋ぐ、狭い回廊の内側を何匹もの奇怪な毛虫がひしめき合いながら這いずり回っている、  
一目見ただけで吐き気を催すような、おぞましい光景を瞼に焼き付ける事になっただろう。  
幸か不幸か、少女自身がその光景を目にする事は無かったものの、  
アナルの奥で蠢いている得体の知れない怪生物についての想像は脹らむ一方で、  
頭に思い描くその姿形は、時間と共に、実態以上の恐怖をもたらす存在となって彼女を責め苛むのだった。  
 
・・・・グチュッ!!ギュプッ・・・・グチュルルッ!!  
 
腸壁の許容出来る体積を遥かに上回る異形の軍団が、  
肛門から直腸にかけての狭い空間に潜り込み、激しくのたうち回った。  
そのたびに、半剥けになった尻たぶが、ブルブルッ、と震え、  
内股の筋肉がキリキリと引き攣って、黒大理石の馬腹をあさましく締め付ける。  
 
「ヒィィッ・・・・ひゃ、ひゃめてえェェェッ!!  
オヒリの穴・・・・も、もうダメ・・・・あああ・・・・漏れる・・・・あふれちゃううッ!!!!」  
 
真っ赤に上気した顔面をクシャクシャに歪めながら、赤毛の少女は盛大に泣き叫ぶ。  
だが、非情な魔道の呪縛によって拘束された四肢に許されているのは、  
鞍上から僅かに数センチメートル腰を浮かせて、最大で彼女の肩幅分程度、左右にスイングさせる事だけ。  
無論、アナルを深々と穿ち抜いた淫蟲を振り払う事など出来る筈もなかった。  
 
極限まで拡がったすぼまりからは、  
僅かに黄色く濁った粘汁・・・・通常は、排泄物の通りを良くするために、直腸の肉襞から分泌される腸液が、  
不規則な間隔を置いて、ピュルッ、ピュルッ、と間欠泉のように迸っていた。  
幸い、暗黒界の住人として転生した後は、  
食事を摂らねば生命を維持出来ない、という現実界の原理からは解放されており、  
従って、腸内には糞便や消化中の食物といった見苦しい代物は一切存在していないのだが、  
だからと言って、こんな格好のまま、腹中の物体をひり出すという行為が最悪の恥辱であるのは変わり無い。  
 
「あああッ・・・・も、もうだめぇッ!!  
しょ・・・・触手に犯されて・・・・ヒィィッ・・・・イッちゃうぅぅッッッ!!!!」  
 
拘束された下半身が、ひときわ大きく波打つのと同時に、  
赤熱した快感の塊が子宮の奥底から込み上げてくる。  
強烈な肉悦の衝撃波が瞬時に全身へと広がっていき、  
脳味噌の内部を快楽物質で満たし、神経という神経をズタズタに寸断して、  
最後に残っていた理性の残滓をも綺麗に吹き飛ばしてしまった。  
 
・・・・ぶじゅううッ・・・・じゅぼじゅぼッ・・・・ぐじゅじゅるるる・・・・!!!!  
 
ほぼ同時に、限界に達した尻穴からも、  
腸液に濡れまみれた繊毛まみれの肉塊が派手な飛沫と共に噴き出していく。  
内臓が弾け飛ばんばかりの内圧が下腹部をビクビクと痙攣させ、  
今まで一度も味わった経験の無い快美な感覚が肛門のすぼまりを無様に押し拡げた。  
もはや、悲鳴を発する気力さえ萎え尽きてしまった麗子は、  
灼けつくような業火が直腸を熱く煮え滾らせ、屈辱的な馬上排泄を強要するたびに、  
肛虐の悦楽にだらしなく表情を蕩かせ、拘束されたカラダを不規則にびくつかせる。  
 
アクメに達した前後の淫穴からもたらされる恥辱のエクスタシー。  
為す術もなく屈服した赤毛の少女は、更なる悦楽を求めて牝犬のように腰を振り始めた。  
熱気を帯びた肉体は喜悦の波動に浮かれ騒いでザワザワと総毛立ち、  
身体中の毛穴から、壊れた蛇口から溢れ出す水道水のように、沸騰した汗粒が湧き出してくる。  
 
「ふひゃあああ・・・・ら、らめぇ・・・・もう・・・・もう・・・・」  
 
頬は紅く色付き、白痴のように、ぽかん、と開け放たれた口元からは、  
鈍い銀色に輝く涎の糸が細長い滝となって垂れ流れている。  
ラベンダー色の瞳は、酩酊状態に陥ったかの如く、トロン、とぼやけきり、  
怜悧な知性の光も苛烈な意志の力も悉く姿を消してしまっていた。  
視界にはショッキング・ピンクの靄が深々と立ち込め、  
あたかも、目に映るもの全てが形を失い、渾然一体となって混じり合っているかのように、  
曖昧で捉えどころの無いものとしてしか認識出来なくなっている。  
 
「あああ・・・・お、お許しを・・・・どうか・・・・もう・・・・もう・・・・」  
 
弱々しく擦れかかった声で、涙ながらに哀願を繰り返す囚われの<戦士>。  
勿論、冷酷非情な暗黒界の支配者が願いを聞き届ける可能性は皆無に等しい、と分かってはいるのだが、  
どんなに無意味な言葉であっても、舌を動かしていなければ、  
増大し続ける淫靡な欲望が言語中枢を支配してしまうような気がしてならなかった。  
実際、今この瞬間も、頭蓋骨の内側では、  
『お尻の穴をもっと虐めて』『膣も子宮も徹底的に弄り抜いて』などと、  
あさまし過ぎる叫びが木霊し合い、幾重にも重なり合って蟲惑的な和音を奏でている。  
 
『フフフ、他愛ないな、麗子。・・・・だが、まだ終わりではないぞ?』  
 
「あああッ・・・・そ、そんなッ!!」  
 
母親に駄々をこねる幼児のように激しくかぶりを振る赤毛の女囚。  
だが、両の眼には、恐怖と嫌悪の感情の他に、  
更なる肉のヨロコビを欲し求めるあさましい牝の劣情がチラチラと垣間見えていた。  
事実、触手生物達の波状攻撃によって、最低最悪の絶頂へと引き摺り上げられた挙句、  
恥辱と苦悶とにのた打ち回っている筈の意識の中は、  
もっとおぞましく、背徳的な行為によって穢し尽くされたい、という被虐願望によって席巻されつつある。  
 
『フフフ、考え違いをするではない。  
最初に言った通り、予には汝を罰するつもりなどない。ただ・・・・』  
 
石像の胎内では、一度はおとなしくなった異形達が、再度、活発に蠢き始め、  
まるで獲物を前にしたハイエナが舌なめずりをするような、粘ついた水音が聞こえてくる。  
その音を耳にし、動きを感じ取った少女は、  
我知らず、くはぁッ、と、小さな喘ぎ声を漏らし、達したばかりの膣穴を、キュウウ、とすぼめてみせた。  
 
『・・・・ただ、汝の予に対する忠誠を確認したいだけなのだ。  
今後も予の臣下で在り続けたいという、汝の意志が真実かどうかを・・・・』  
 
麗子の哀願に対するログレスの回答は(予想通り)にべもなかったが、  
言葉にはならなかった、本当の願望については寛容だった。  
華奢な裸身を緊縛し、自由を奪っていた不可視の荒縄が、すううっ、と消え去ったかと思うと、  
大理石の黒馬が、前脚を折って、馬首を下げる。  
『降りろ』という意味だと気付いた<ヴェカンタの戦士>が、  
フラフラと力の入らない体を苦労して動かし、どうにか指示に従い終えると、  
漆黒の石像は、再び立ち上がった・・・・今度は、二本の後ろ脚だけで。  
 
『――――!?』  
 
驚きに両目を瞠る虜囚の前で、黒い魔像は、みたび変容を開始する。  
隆々たる筋肉に鎧われた黒い馬体は、重厚な威厳をまとった裾長の大マントへと、  
今にも動き出しそうなくらいの精悍さに溢れた面立ちは、  
見るからに威圧的な雰囲気を宿し、不吉なオーラを放つ、無表情な黄金の仮面へと・・・・。  
 
『・・・・さあ、麗子、汝の忠誠を示してみよ。  
汝が、予の<戦士>たるにふさわしい者だという事を・・・・』  
 
――――バサァアアアッッッ!!!!  
 
漆黒の長衣が大きくはだけられ、筋骨隆々たる鋼の肉体が姿を現す。  
ブロンズ像を思わせる浅黒い肌、一分の隙も無く引き締まった筋肉、赤黒く浮き上がった太い血管。  
麗子自身、初めて目にする、マントの下のログレスのカラダは、  
禍々しい程の美しさと猛々しさと共に、内に秘められた強壮無比な力を感じさせずにはいなかった。  
とりわけ、密林のような剛毛の中から天を衝いて聳え立つイチモツは、  
人間離れした巨大さは勿論、嗅いだだけで窒息してしまいそうな濃密な牡のフェロモンを漂わせており、  
触手生物によって散々に弄ばれた女囚少女が魅惑に堪え得るのは到底不可能だった。  
 
「ふはぁ・・・・ああ・・・・あああッ!!」  
 
吸い込まれるようにしてログレスの許へと這い寄った赤毛の少女は、  
ビクビクと小刻みに脈動する逞しいイチモツを仰ぎ見ながら、ハァハァと荒い吐息を漏らした。  
拘束を解かれたばかりでまだ痺れの残る腕が自然に伸びて、  
白く細長い指先がはちきれんばかりの充実感を蓄えた肉竿を包み込む。  
 
「・・・・・・・・」  
 
もはや、言葉は不要だった。  
熱っぽく潤んだ瞳で、無表情な仮面の支配者を見上げた麗子は、  
発情した牝犬のようにハァハァと息を荒らげながら、  
圧倒的な迫力で迫る剛直を両手で押し戴き、黒光りする亀頭に唾液まみれの舌先を這わせていく。  
 
・・・・だが、そこまでだった。  
 
(精神はともかく)彼女の肉体は、あらゆる点で常識を逸脱したイチモツを受け容れるには未熟過ぎた。  
口腔でさえ、桁外れの巨根を喉奥まで導き入れるにはあまりに小さく、  
まだ半分近くを残しているというのに、早くも気道を塞がれて、苦しそうに噎せ返ってしまう。  
はずみで、陰茎に歯先が当たったらしく、  
仮面の下で冷やかな笑みを浮かべていた両の眼が、ほんの一瞬、不快げに細められた。  
 
(フン、こやつも所詮は小娘か。  
・・・・まあ、良かろう。一応、まだ利用価値はある)  
 
微かな失望を覚えつつ、暗黒界の支配者は、  
やにわに、漆黒のマントを反転させて、跪く<戦士>のカラダを包み込んだ。  
突如として、視界を漆黒の闇に奪われた赤毛の少女は、  
剛直の先端を口に含んだまままま、驚きに声を震わせ、全身をびくつかせる。  
 
「むぐッ・・・・ぐぅううッ!?」  
 
『――――さあ、行け。行って、もう一度、<ヴァリスの戦士>と戦うのだ。  
ただし、殺してはならぬ・・・・必ず生かしたまま、予の前に引き連れて来い。分かったなッッ!!』  
 
雷鳴のような怒号が響き渡った、次の瞬間、  
麗子の意識は、ぷつり、と途切れ、  
・・・・そして、底知れぬ無明の闇の中へと転がり落ちていった――――。  
 
次元の狭間。何処とも知れぬ場所で。  
 
『どうやら、優子とベノンは向こうに辿り着いたようだな。・・・・問題は、麗子か』  
 
ユラリ、と揺らめく、影法師のような曖昧な輪郭の何か。  
それが、己れが生まれ育った世界を捨て去ってまで手に入れた、  
ログレスの君寵と暗黒五邪神の座をフイにしてしまった青年魔道士、アイザードの成れの果てだった。  
 
『それと、この体だな・・・・早く依代となる者を見付けなければ』  
 
ベノンの炎の魔術によって、美しいプラチナ・ブロンドの肉体は灰燼へと帰していた、  
かろうじて逃亡に成功した霊体も、  
時間と空間の狭間――――三界を律する法則が曖昧に入り混じっているこの場所でなければ、  
長く留まっている事は出来ない、ひどく不安定な存在と化している。  
誰か、あるいは、何かに憑依しない限り、三界への影響力は微々たるものでしかないばかりか、  
時間が経てば、世界の法則に抗しきれずに存在自体が希薄化し、消滅してしまう可能性も否定しきれない。  
 
『・・・・選択肢は、あまり多いとは言えないな。  
デルフィナか、あるいは、あの子竜か・・・・さて、どうしたものか?』  
 
 
――――――――TO BE CONTINUED.  
 

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