ヴェカンティ。全てが白く塗り潰された氷洞の中。  
 
銀灰色の長い体毛に覆われた巨大な狼から、  
殺意に煮え滾った視線が目の前に倒れ伏す獲物に向かって放たれている。  
 
獲物の名は――――優子。  
すらりと伸びたしなやかな身体は、女性としてはまだ発育の途上にあるものの、  
17歳という年齢にしては、申し分のないプロポーションに恵まれている。  
チャーム・ポイントの腰まで届こうかという豊かな蒼髪はしっとりとした光沢を湛え、  
みずみずしい乙女の柔肌と相まって、落ち着きのある楚々とした雰囲気を醸し出していた。  
 
・・・・そう、ほんの数時間前までは。  
 
(あああ・・・・だ、だめェ・・・・!!)  
 
今の彼女には、清楚な面影など微塵も見当たらなかった。  
それどころか、触手生物に絡め取られて奇怪な体液を浴びせられた皮膚は、  
不気味に腫れ上がり、ぞっとするような臭気を漂わせている。  
全身を覆っていた恐るべき業熱はどうにか弱火になりつつあるものの、  
淫気に冒されてしまった神経は汚辱感と疼痛感によって狂わされたままだった。  
 
(力が入らない・・・・身体が動かない・・・・)  
 
凍りついた地面に這いつくばる姿はブザマと言う以外無いが、  
頭蓋骨の内側は恐怖と苦痛によってあらかた麻痺しており、立ち上がる気力すら湧いてこない。  
もっとも、焦点を失った双眸は、あらゆるものをグロテスクに歪んで映し出している上、  
散々に酷使された筋肉はガチガチに強張ってとても使い物にならず、  
たとえ思考が正常に働いていたとしても、五体を意のままに動かせるとはとても思えなかったが。  
 
グルルル・・・・。  
 
見上げる先には、獲物を前にした狩人の如く、油断無く自分を睨みつけている逞しい獣。  
狼と言うより、ライオンやトラを連想させる程の威圧感を湛えた金色の眼玉に、  
じぃぃっ、と凝視されると、それだけで全身に震えが走り、生きた心地がしなかった。  
耳元まで裂けた口には鋭く尖った牙が並び、踏み締めた四肢には不気味に湾曲した黒い爪、  
そして、背中では、プラズマ化した青白い光がバチバチと火花を飛ばし続けている。  
 
(あのトゲ・・・・まるで機関銃だわ。  
あんなのを何度も喰らったら、いくらこの<鎧>でも・・・・)  
 
荒く呼吸を繰り返しながら、表情を歪める優子。  
激しい怯えと焦燥が、胸郭の中で響き渡る心拍の間隔を狭めていく。  
必死に周囲を探し続けた末に発見した<ヴァリスの剣>は、  
10メートル以上も離れた場所に突き刺さっていた。  
しかも、その間には灰色の獣が巨大な壁となって立ち塞がっている上、  
処刑劇の進行を固唾を呑んで観戦している雑兵たちが人垣を作り、  
仮に氷狼の牙を上手くかわせたとしても、脇をすり抜けて武器の許へ走り込むのは至難の業である。  
 
(くううッ!!一体、どうすればいいのッ!?)  
 
絶望に駆られる蒼髪の少女。  
追い討ちをかけるように、頭上から青白い光弾の群れが容赦なく降り注ぐ。  
ゴツゴツとした地面を転がってかわそうとする<戦士>だが、  
毒によって大幅に動きの鈍った身体は、普段の数分の一の敏捷性しか発揮出来なかった。  
 
「あぁあああぁッ!!」  
 
直撃を受けた優子は爆圧で木の葉のように舞い上がり、  
グシャッ、という不快な音と共に、近くの岩肌へと叩き付けられた。  
衝撃と痛みが瞼の裏で火花となって飛び散ったかと思うと、  
瞬間的に全身の感覚が途切れ、何も感じなくなってしまう。  
薄青色の瞳が反転し、白目を剥くのと同時に、  
力を失った少女の五体はズルズルと氷壁を滑り下り、地べたへ崩れ落ちてしまった。  
 
(・・・・うう・・・・だ、だめ・・・・もうカラダが動かない・・・・)  
 
倒れ伏したまま、身動き一つ出来ない優子。  
背乱れ広がった蒼髪の下では、光弾の雨を浴びせられた背筋が、  
まるで、革製の鞭で激しく打ち据えられでもしたかの如く、  
大小いくつもの暗紫色のミミズ腫れに覆われた無残な姿を晒している。  
 
ヴルルル・・・・。  
 
低く喉を鳴らしながら、美しい獲物を眺め下ろす銀灰色の死神。  
金色の眼がいよいよその輝きを強め、耳元まで裂けた顎から漏れ出す吐息が熱気を帯びていく。  
 
「いや・・・・あ・・・・」  
 
哀れな少女に可能だったは、弱々しく擦れ切った悲鳴を漏らす事だけ。  
すぐそばまで近付いてきた巨獣の息遣いが頬へとかかり、次いで、背中、脇腹、太腿・・・・、と、  
まるで最初の一撃を振り下ろす場所を決めかねているかのように、ゆっくりと全身を撫で回していった。  
 
(た、たすけて・・・・あああ・・・・誰か・・・・誰かぁッ!!)  
 
迫り来る死の恐怖に表情を歪めつつ、  
半ば無意識のうちに、来る筈の無い助けを呼ぼうと試みる少女だったが。  
口の中はカラカラに乾ききり、もはや、声を発する事すら叶わない。  
あたかも、見えざる手と化した周囲の冷気に心臓を鷲掴みにされたかのように、  
五感も思考も凍り付いて、混濁の中へと引き摺り込まれていった。  
 
――――だが、氷狼は、彼女にそのまま失神を許すほど、慈悲深い心の持ち主ではありえなかった。  
 
「・・・・な、何ッ!?」  
 
痛めつけられた背中の上へと垂れ落ちてくる、生温い液体。  
鼻腔の中に、むううっ、とする独特の獣臭が流れ込んでくると、  
ぞっとするような感触に、しなやかな四肢が、ギクギクッ、と、鋭い痙攣を放った。  
食道の奥から込み上げてきた嘔吐感が、激しいえずきとなって喉の奥で暴れ回ると、  
薄れかけていた意識が強引に引き戻されてしまう。  
 
・・・・・・・・ペチャリ。  
 
湿った音と共に、悪臭の発生源・・・・唾液まみれの真っ赤な舌先が内股に押し当てられたかと思うと、  
はじめて母親からアイスキャンデーを買い与えられた子供の如く、  
しなやかさと充実感が適度なバランスの下で共存している二本の太腿を交互にしゃぶり始めた。  
 
「ひッ・・・・ダ、ダメ・・・・いやぁぁッ!!」  
 
最初は何が起きたのかすら理解出来ずにいた蒼髪の少女も、  
時間が経過していくにつれ、(否応無く)その意図するところに気付いて、  
嫌悪も露わに表情を歪めながら、擦れた悲鳴を漏らし始める。  
 
・・・・そう、敗残の身となった自分に用意されていたのは、  
生きながらにして、腹を裂かれ、手足を貪り食われる、最期の数分間・・・・ではなく、  
想像する事すらおぞましい、陰惨きわまる獣姦ショーだったという事実に――――。  
 
「ヒィィッッッ!!う、嘘でしょう・・・・こ、こんなの・・・・うあああッ!!」  
 
信じられない、という顔つきで、ぶんぶんとかぶりを振る優子。  
無論、悲痛な叫びは、野獣の耳朶に到達する遥か手前で掻き消えてしまっている。  
もっとも、もし仮に、目的の場所まで届いたとしても、  
彼の意志を変え得る言葉は、主である暗黒五邪神が一将、水邪キーヴァの命令以外には存在しない以上、  
現状にはいささかの変化ももたらさなかっただろうが。  
 
「あッ・・・・あああ・・・・やめて・・・・おねがい・・・・もうゆるしてェッ!!」  
 
執拗な舌遣いはむっちりとした太腿を蹂躙し尽くし、  
表面がベトベトになるまでドロドロの唾液を塗り重ねると、  
更なる獲物を求めて、その先にひろがる尻丘の隆起へと侵略の手を伸ばしていく。  
捲れ上がった白いスカートの下の、ふっくらとした脹らみを守るのは、  
まだ失禁の痕が生々しく残る、薄手のショーツ一枚きり。  
しかも、下半身の一部には触手生物の淫毒の影響がしぶとく残り、  
荒々しいだけではなく存外に巧妙でもある氷狼の責めとも相まって、防衛戦の敗色は濃厚だった。  
 
じゅるッ・・・・ぴちゅるッ・・・・びじゅじゅるッ・・・・!!  
 
大きさは平均的だが、滑らかな弧を描く曲線の具合は申し分の無い、乙女の桃尻の上で、  
たっぷりと唾液を含んだ長い舌が、幾度となく、行ったり来たりを繰り返す。  
厚さ1ミリにも満たない極薄のショーツは元より何の防御効果も持ち合わせてはいなかったが、  
ヌルヌルの液体に濡れそぼり、半ば透明に透き通っている現状では、  
肌を覆い隠すという衣服としての最低限の機能さえも放棄してしまっていた。  
 
「ふぁ・・・・ああ・・・・んふぅ・・・・ひあ・・・・はぁくうう・・・・」  
 
おぞましい愛撫にさらされるうち、地面に横たわった青い肉体は忘れかけていた昂ぶりを取り戻していく。  
皮膚にぴっちりと張り付いて完全に用を為さなくなった下穿きもろとも、稜線が舐め上げられるたび、  
腰椎の真ん中に、何千匹もの小さな蟻が這い回るようなゾクゾク感が生まれ、  
剥き出しになった背中全体を、びゅくびゅくびゅくッ、という激しいわななきが包んでいった。  
嫌悪感に引き攣っていた声音にも次第に妖しげな響きが現れ始め、  
弱々しい呻きに代わって、切迫した喘ぎ声の占める割合が加速度的に増加していく。  
 
(ひあああッ!?な、何ッ・・・・何なの、これぇッ!!  
んぁあッ・・・・だ、だめぇ!!そんなにお尻ばかり、舐めちゃあ・・・・ひはあああッ!!)  
 
下半身から這い上がってくる狂おしい欲情を、必死になって否定しようとする優子。  
半ば本能的な、これだけは絶対にいけない、ダメなものだ、という強い禁忌の感情が溢れ出してくる。  
・・・・勿論、肛門性交という人間同士であっても倒錯した嗜好とみなされている性愛行為については、  
好奇心旺盛なクラスメイト達の間でも、さすがに大っぴらに話されたりはしていないため、  
今まで、そういった行為が世の中に存在している事実さえ知らずにいたのだが。  
 
「んふぁああッ・・・・い、いやぁ・・・・やめて・・・・もうやめてぇッ・・・・!!」  
 
このままされるがままの状態が続けば、何か途轍もなく恐ろしい事に、  
・・・・そう、上手く言葉には出来ないが、とにかく、一度それを味わってしまったら最後、  
自分が自分でなくなって、もう二度と元には戻れなくなってしまうような気がしてならない。  
だが、彼女が、絶対に感じたりするものか、と必死になればなるほど、  
舌先の感触はますます鮮明なものとなり、未成熟な少女の心身を追い詰めていくのだった。  
 
「・・・・ああッ、いやぁああッ!!」  
 
鋭い絶叫が迸り、周囲の氷壁に反響して洞窟中に響き渡る。  
舌先の動きにばかり気を取られていた隙に、  
巨獣の両顎がビショビショに濡れそぼったショーツを咥え込んでいた。  
グググッ、と力を込めて引っ張られると、  
潤滑油代わりの唾液にまみれた極薄下着は、あっという間に摺り下ろされてしまう。  
 
「ひいいいッ!!み、見ないで・・・・ふひゃあああッ!!」  
 
呆気ないほど簡単に剥ぎ取られてしまった最後の護り・・・・。  
剥き出しにされた尻肉の脹らみは、  
汗腺から滲み出した白い汗と塗り重ねられた魔獣の唾液とでベトベトだったが、  
それでいてなお、匂い立つようなフェロモンを発散させていた。  
左右の隆起に挟まれた谷間は、狭過ぎる上に浅過ぎて、  
一番奥まった所にある恥かしい場所を覆い隠すにはあまりにも微力である。  
 
もはや隠蔽する手段とて無く、白日の下に曝け出されてしまった排泄器官には、  
氷狼は勿論、周囲を半円状に取り囲んだ怪物たちの無数の視線が鋭い刃となって突き刺さる。  
気の遠くなるような屈辱感のあまり、顔面蒼白となった優子は、  
全身を硬直させたまま、ブルブルと震え慄く事しか出来なかった。  
排便の際にトイレット・ペーパーを用いて拭き取る以外には、自分自身でさえ触れる事の無い不浄な場所、  
そんな所を見られていると思うだけで、意識が飛び去りそうになってしまう。  
 
――――だが、(勿論、優子自身は知る由もなかったものの)その小さな窄まりは、  
糞便の排泄を司る器官であるとは思えない程、清潔に保たれていた。  
十数本の繊細な小皺が寄り集まった表面はほんのりと薄いピンク色に色付き、  
まるで野に咲くバラがつける蕾のように愛らしい。  
極限まで高まった羞恥心がもたらす断続的な痙攣と、  
妖しげなリズムが醸し出す、たとえ様も無く扇情的な雰囲気さえ無ければ、  
おそらく、この突起物が人体の一器官であるとすぐに気付く人間は少数だろう。  
 
・・・・・・・・じゅるり。  
 
涎まみれの長い舌が尻たぶの一番ふくよかな部分へと押し当てられた。  
そのまま谷間へと這い進んだ肉ブラシは、目的地である菊座を目指して、  
羞恥に悶える乙女の肌を堪能しつつ、ゆっくりと滑り降りてくる。  
先端がすぼまりの表面に近付いてくる気配だけで堪え切れなくなった優子は、  
盛大な悲鳴を張り上げつつ、背筋を大きく波打たせ、反り返らせた。  
 
(は、はずかしい・・・・恥かしいよォッ!!)  
 
自分ではそう叫んだつもりだったが、  
口元から飛び出したのは完全に意味不明となった金切り声に過ぎない。  
だが、優子は、もはやそれにさえ気付かない、否、気付く事が出来ないまま、  
蒼髪を振り乱し、さかんにかぶりを振りながら泣き喚くだけ。  
そこには、すでに凛々しさも勇ましさも微塵も感じられず、  
淫虐な罠に陥り、為す術も無く嬌声を上げ続けるしかない、哀れな牝犬の表情しかなかった。  
 
・・・・じゅぷッ・・・・ちゅるちゅる・・・・じゅるるるッ!!  
 
獲物の痴態に興奮したのだろう、肛虐の切っ先はますます烈しさを増していった。  
ただ単に表面を舐め回すだけでは、もはや飽き足らなくなり、  
先端をドリル状に尖らせて、小皺の中心・・・・直腸へと続く尻穴の内部にまで捻じ込もうと試みる。  
わずかに残った理性が試みた最後の抵抗がブザマな失敗に終わると、  
もはやその動きを止めようとする者は皆無となり、  
巨大な体躯からは想像し難いほどに巧緻を極める舌技の前に無力化された括約筋は、  
直腸へと続く回廊の支配権を易々と明け渡してしまった。  
 
(・・・・あああ・・・・力が抜ける・・・・ど、どうしてぇッ!?  
ふひぃぃッ・・・・も、もう、だめぇ!!お尻の穴、ヘンになっちゃう・・・・!!)  
 
窄まりの守りを突破した邪悪な侵略者は、更に執拗な攻撃を繰り返し、  
今や、直腸の入り口は完全に揉み解されてしまっている。  
ザラザラとした感触が菊門の内側を舐め擦るたび、腸液の飛沫がピュルピュルと滲み出し、  
小さな汗の粒で覆われた背筋が、ピクピクピクッ、とせわしない痙攣を連発した。  
 
「はぁう・・・・くぅぅんッ!!はひぃッ・・・・くふぁあああッ!!」  
 
すでに、絶望の呻き声ですら、官能の毒に汚染され、微細な震えに覆い尽くされている。  
得体の知れないゾクゾク感が下半身を席巻し、全身へと飛び火していった。  
ほんの数分前まで、あれほど自分を苦しめていた異物感は、  
えも言われぬような心地良さとなって少女の五体をトロトロにし、禁断の快楽を撒き散らしている。  
 
にゅる・・・・にゅりゅるる・・・・ちゅる・・・・じゅにゅるるる・・・・!!  
 
湿り気を帯びた恥かしい水音が響き渡るたび、  
肛門の内径が少しずつ押し拡げられ、鈍い痛みが増していく。  
だが、すでに頭の中にはピンク色の靄がかかり、尻穴舐めからもたらされる妖しい肉悦が席巻していた。  
性の経験に乏しいカラダは性感の泥沼にどっぷりと浸かり、  
理性も感情も押し寄せる欲情の大波に洗われて、フニャフニャに蕩けつつある。  
 
(・・・・あああ・・・・ダ、ダメぇ・・・・だめエェェッ!!)  
 
気が付けば、優子は、高々と突き上げた尻をさかんに振り立てながら、  
甘く上擦った声を引っ切り無しに放ち続けていた。  
しかも、この上なくあさましい己の姿にショックを受けつつもなお、  
跳ね回る腰を止める事は叶わず、むしろ、その動きはますます過激さを増す一方だった。  
 
(ふあああッ・・・・と、止められないッ!!  
何かが・・・・あああ・・・・体の奥から・・・・我慢出来ないィィッ!!!!)  
 
肛門の守りを突破した邪悪な舌先がとうとう直腸の最深部にまで到達すると、  
これまで一度も味わった事の無い快感を伴った、熱い衝動の塊が、下腹部から全身へと広がっていき、  
まだ各地で散発的な抵抗を続けていた理性の残滓を跡形も無く粉砕してしまった。  
真っ赤に上気した顔面は未知なる喜悦に深く酔い痴れ、  
濃密なピンク色の靄によって覆い尽くされた意識の中で、極彩色の火花が破裂を繰り返すたび、  
強烈な興奮の波動がフラッシュして、自我の壁を突き崩していく。  
 
――――次の瞬間、視界の中で、信じ難いほどの輝きを放つ純白の閃光が炸裂した。  
あらゆる感覚が、思考が、感情が、一緒くたに眩い輝きの中へと吸い込まれ、  
・・・・・・・・そして、何も見えなくなる。  
 
・・・・しばらくの後。  
 
「・・・・ハァ・・・・ハァ・・・・ハァ・・・・」  
 
クレバスを登り切った先は、周囲を氷河に囲まれた小さな窪地になっていた。  
長時間に渡って酷使し続けたせいだろう、両腕は情けない悲鳴を上げ続け、  
両手の指もほとんど麻痺しかかって、カチコチに硬直しきっている。  
 
「・・・・・・・・」  
 
それでも、優子は、地底からの脱出に心底から安堵を感じていた。  
要した時間は、実際には精々二、三十分といったところだったが、  
頭上の小さな裂け目から注ぎ込む僅かな光だけを頼りに、  
真っ暗闇の中、ほぼ垂直に近い角度で切り立った断崖を素手だけでよじ登っていく作業は、  
何時間にも及ぶ苦行にも匹敵する行為に他ならない。  
いくら<ヴァリスの剣>が、それを可能にするだけの筋力と敏捷性を供給してくれたとはいえ、  
今まで、フリー・クライミングなど、TV番組の中でしか知らなかった女子高生が、  
初めての挑戦で、パニックにも陥らず、これだけの事を為し遂げたのは、一種の離れ業だと言って良いだろう。  
 
(・・・・本当に、幸運だったわ・・・・)  
 
久方ぶりの新鮮な空気で肺の中を満たしながら、少女は、思わず、涙ぐんだ。  
タイミングが一つでも狂っていたら、  
今頃は、大量の岩石に押し潰されるか、地底の断層に墜落するかして、  
永遠に呼吸など必要の無い存在になり果てていたに相違ない。  
 
「・・・・風が、気持ち良い・・・・」  
 
どうやら、この場所はブリザードの通り道からは外れた位置にあるらしく、  
吹き渡る風こそ冷たかったものの、大気の湿度は少なく、眺めも良い。  
それだけでも随分気分が楽になった優子は、  
尾根の間を駆け抜ける寒風に豊かな蒼髪をなびかせながら、しばしの間、黙想に耽った。  
 
・・・・頭蓋骨の中身が残らず焼け焦げるかのような強烈なスパークが炸裂した、あの瞬間。  
・・・・突如、目の前を覆い尽くした真っ白な輝き。  
・・・・耳をつんざくような大音響・・・・そして、信じ難いほどの衝撃・・・・。  
 
――――もうだめだ、助からない、と諦めかけたその時、  
フワリと宙に浮くような不思議な感覚が全身を包み込み、それから・・・・。  
 
途切れた記憶が回復したのは、(多分)その数秒後の筈だった。  
未だ不気味な震動の収まらぬ中、おそるおそる目を開いた少女は、  
最初のうち、視界に広がっていた景色が現実のものだとはどうしても理解できず、  
何度となく、自分の正気を疑わずにはいられなかった。  
 
「な、何ッ、これは!?一体、何がどうなってるのッ!?」  
 
洞窟内の風景は完全に一変していた。  
岩盤は至る所で無数の地割れを生じ、  
凍てついた地面の底から何トンもの土砂が露出している。  
瓦礫の間からは、怒れる大地に飲み込まれ、噛み砕かれたのだろう、  
頸から上だけを残して原形を留めない程押し潰された姿となった氷狼が、光の消えた瞳で虚空を見上げ、  
周りでは、雑兵たちの体が(文字通り)挽き肉と化していた。  
 
「ど、どうして・・・・これが、ここにッ!?」  
 
不可解、かつ、凄惨きわまる状景に、反射的に顔を背けた優子。  
・・・・だが、視線を逸らした先には、更なる衝撃が待ち受けていた。  
何事も無かったかのように目の前の地面に突き立っている、<ヴァリスの剣>。  
戦いの中で引き離されてしまった筈のそれが此処に在るのは一体・・・・?  
 
(――――違う。<剣>がわたしの所へ来た訳じゃなく、わたしの方が引き寄せられたんだ)  
 
軽い悪寒を感じながらも、蒼髪の少女は、改めて、周囲に視線を巡らせた。  
白銀色に輝く刀身の真下からは、地面を切り裂いた断層が真っ直ぐに延び、  
その先端は暗黒の軍勢を呑み込んだ土石流へとつながっている。  
咄嗟に脳裏をかすめたのは、以前経験したある現象・・・・  
場所こそ異なるが、ここと同じく、地の底を穿ち抜いた回廊で経験した、凄まじい大地の力だった。  
 
(アースクェイク!!地下鉄の時と同じチカラ!?  
もしかして、アイツのファンタズム・ジュエリーを手に入れたから?)  
 
驚嘆する<ヴァリスの戦士>・・・・だが、詳しく調べている余裕は無さそうである。  
先程からずっと岩盤を伝ってきている不気味な揺れは、  
収まる気配を見せるどころか、逆に、ますます大きく激しいものへと変わっていた。  
それどころか、場所によっては、地盤に大小の亀裂が走り、岩石の剥落が相次いでいる所さえある。  
 
(――――これはさすがに不味いかも)  
 
鳩尾のあたりにヒヤリとしたものが流れ落ちる。  
・・・・その時には、破局はもう足元にまで忍び寄っていた。  
 
突如、メリメリバリバリという凄まじい圧壊音と共に、釜の底が抜け、奈落への入り口が出現する。  
外見はいかにも頑丈そうだった氷洞も、内部の地層は案外脆い構造だったらしく、  
一箇所で落盤が始まると、連鎖反応的に付近全体の地盤が崩れ始め、  
天井が、壁が、地面が、信じ難いほどの勢いで地の底へと沈み込んでいった。  
 
(・・・・こ、今度からは、技を使う時はちゃんと場所を選ばないと・・・・)  
 
大急ぎで<剣>を引き抜くと、優子は無我夢中で跳躍を繰り返し、  
かろうじて氷壁に出来た張り出しの一つにしがみつく事に成功する。  
・・・・もっとも、その場所とて、壁というよりは、むしろ、断崖といった方が正確な様子で、  
とても安心できるような状況ではなかったのだが。  
 
(・・・・見ちゃダメ・・・・見ちゃ・・・・)  
 
心の中で呪文のように唱え続けながら、  
蒼髪の<戦士>は、暗闇の中、指先の感覚だけを頼りによじ登れそうな場所を探し出し、上を目指す。   
ほぼ垂直に切り立った絶壁は遥か頭上まで聳え立ち、  
一番てっぺんに小さな裂け目が存在しているのがわずかに窺えるだけ。  
一方、足元には何百メートルあるか分からない断層が口を開けて落下してくる獲物を待ち構えている。  
滑落の危険を何度と無く冒しながら、どうにか出口に辿り着いた頃には、  
全身、グッショリと汗に漬かり、完全に息が上がってしまっていた。  
今まで高い所に上る事には苦手意識を持っていなかったのだが、  
もしかしたら、明日からは高所恐怖症と呼ばれる神経症状に悩む人々の仲間入りをしているかもしれない。  
 
――――だが、彼女の前に立ち塞がる危難は、まだまだ序の口に過ぎなかったのである。  
 
「ククク・・・・」  
 
乾いた寒風に乗ってやってくる、低い笑い声。  
悪意に満ちた響きに、ハッ、として愛剣を構え直した優子の耳朶に、  
バサバサッ!!という耳障りな羽音が飛び込んでくる。  
 
「お前だね、ガイーダを倒した<戦士>というのは?」  
 
声のした方向を振り向くと、  
やや離れた場所にある、雪原から隆起した岩棚の上で、  
野生の猛禽と人間の特徴が入り混じった奇怪な生き物が、冷やかな目でこちらを凝視していた。  
 
嘴の代わりに鋭い牙が生え揃った口元を開き、  
妙にざらついた響きの、だが、紛れも無い『人語』を発する、人面鳥身の怪物。  
緑系統の色調の羽毛で覆われたその身体は、3メートルそこそこの身長しかないものの、  
最大の特徴である双翼は、左右の端から端までを正確に測ったならば、  
身長の2倍、いや、3倍はありそうな特大サイズである。  
 
(も、もしかして!?)  
 
――――そして、もう一つの特に目立つ身体的特徴が、  
ふさふさとした体毛に覆われた胴体の真ん中から隆起した豊満な肉の果実。  
たわわに実ったメロンを思わせる一対の乳房は、  
両肩から生えた双翼を開閉するたびに、プルンプルンと大きく揺れて、  
外見はともかく、質量においては、少女のそれを遥かに凌駕する事実を見せ付けている。  
 
「あなたも、暗黒五邪神の一人なの!?  
・・・・やめてッ!わたしは<戦士>なんかじゃないわ!  
戦う理由なんて何処にも無い・・・・ただ、自分の世界に戻りたいだけよッ!!」  
 
自分でも驚くぐらいの激しい口調で、蒼髪の少女は怪物の言葉に反駁する。  
・・・・だが、鳥女にはまともに議論する意思など最初から無かった。  
その態度は、まるで、女性の持つマイナスの形質だけを縒り集めて出来ているかのように、  
ひどく尊大で、嘲笑的で、あらゆる種類の悪意に満ち溢れている。  
 
「フフン、あのガイーダを手にかけた、って聞いたから、どんなバケモノじみた女かと思っていたら、  
クックックッ、まだ、<戦士>として目覚めていなかったとはねぇ」  
 
ほんの一瞬だけ、唇の端に、軽い驚きの感情が浮かんだような気がしたものの、  
すぐに掻き消え、侮蔑に満ちた冷たい笑みに取って代わられた。  
同時に、最大限の浮揚力を得られるように左右の翼が大きく広げられ、  
ギラギラと鉄色の輝きを放つ長い鉤爪が、  
ガリッガリッ、と危険な音を立てながら、足元の岩肌に食い込んでいく。  
 
「ハハハハッ、それは好都合ッ!!  
私の爪で、引き裂いてあげるよ・・・・ズタズタにねぇッ!!」  
 
甲高い声を発するなり、怪鳥女は猛然と足場を蹴り、空中へと跳躍した。  
周囲の尾根から吹き降ろす気流に乗り、一気に上空まで急上昇すると、  
獲物の頭上を旋回しながら、狩りの開始を宣言する。  
 
「殺す前に教えておいてやるよッ!  
私の名はキーヴァ、暗黒五邪神が一将、水邪キーヴァ様だッ!  
すべてを凍らせるこの私の世界からは逃れる事などできんッ!」  
 
――――ビシュッ、ビシュシュシュッ!!!!  
 
緑色の翼から撃ち出された無数の羽根が、  
鋭い風鳴りの音を空中に撒き散らしつつ、急降下してくる。  
反射的に身を投げ出し、すんでのところで攻撃を回避する<ヴァリスの戦士>だったが、  
雪の上に突き刺さっていた凶器の禍々しい正体には、驚きの色を隠せなかった。  
 
「こ、氷の羽根ッ!?」  
 
今まで自分が立っていた場所に降り注いでいたのは、  
彼女の二の腕の長さ程もあろうかという氷の矢、・・・・いや、氷の短剣と呼ぶ方が正確だろうか?  
何とか全部かわしきれたから良かったものの、  
先刻の洞窟内での戦いとそれに続く脱出行による消耗から立ち直れていない現状で、  
こんなものを何発も受ければ、身に纏う黄金の甲冑とて防ぎ切れる保証は何処にも無い。  
 
「フフフフ・・・・気に入ってくれたかい、私のアイスフェザーは?」  
 
狼狽する少女の様子に満足そうな表情の水邪キーヴァ。  
洞窟内での部下達との戦いを通じて、すでに<ヴァリスの鎧>の弱点は割り出していた。  
防御障壁を正面から打ち破るのは、不可能とは言わないにせよ、かなり骨が折れるのは事実、  
だが、一度に展開できる障壁の数、言い換えれば、防御可能な攻撃の量には限りがある。  
要は、甲冑が対応できる以上の火力を浴びせ、手数で押し切れば良いのだ。  
その点、一撃毎の威力は高く無い代わりに、発射速度と弾数の多さでは抜きん出ている自分の得意技は、  
まさしく理想的な攻撃手段であると言える。  
 
(・・・・それに、これには、もう一つ、とっておきの使い方もあるしねぇ・・・・)  
 
ニヤニヤ笑いを浮べつつ、必死の形相で防御の構えをとる<戦士>を一瞥した怪鳥女は、  
どす黒い悪意を無数の氷の弾丸に変えて、再度、機関砲の如く、地上を掃射した。  
聖なる<剣>が煌き、刀身から幾筋もの斬光が放たれるものの、  
高速で空中を飛び回る敵影をとらえるには距離が開き過ぎている。  
何より、撃ち出されるアイスフェザーの数は圧倒的で、すぐに優子は防戦一方に陥ってしまった。  
 
「あうッ!!」  
 
頼みの綱である<鎧>の護りも、これまでの消耗が響いて満足に力を発揮出来ずにいた。  
攻撃が始まって数分も経たないうちに、不可視の壁は対応能力に事欠くようになり、  
やがて、守りを掻い潜った最初の氷弾に直撃を許す事になる。  
ビシッ、という乾いた音を立てて、左の肩当てを直撃したその一撃は、  
貫通こそしなかったものの、衝撃はかなりのもので、  
肩の骨が砕けるかのような痛みと共に、全身のバランスが大きく崩れてしまった。  
 
「ひうッ・・・・あぐぅうううッッッ!!」  
 
何とかして体勢を立て直そうと試みる優子だが、  
あらゆる角度から無数の敵弾に狙われている状況では思うに任せなかった。  
更に数本のアイスフェザーに痛撃され、後方へと吹き飛んだ少女は、  
激しく背中を打ちつけた反動で、一瞬、呼吸が止まり、身体の自由が利かなくなる。  
・・・・無論、キーヴァがその好機を見逃す筈が無い。  
続けざまに連撃を叩き込まれた<ヴァリスの戦士>は、  
たちまちのうちに、対応不能な数の凶弾を全身に受け、  
悲痛な叫び声を上げたきり、立ち上がれなくなってしまった。  
 
(はぁ・・・・はぁ・・・・か、体が・・・・冷たい・・・・。  
だ、だめ・・・・凍えてしまう・・・・何とかしないと・・・・このままじゃあ・・・・)  
 
凍土の上に倒れ伏した蒼髪の少女は、口元から真っ白な呼気を吐き出しつつ、  
肌に突き刺さるような冷気を感じて、手足を弱々しく痙攣させた。  
執拗な攻撃を受けるたび、輝きをすり減らし、今や曇りガラスのように鈍い色合いに変じた黄金の甲冑は、  
防御障壁の展開は勿論、寒さを遮断し体温の低下を防ぐ能力さえ喪失しかけている。  
青白く血の気の失せた指先は、未だ<ヴァリスの剣>を握り締めてはいたものの、  
身体を起こす事さえままならない状態では、有効な反撃の手段など到底思い付けなかった。  
 
「どうした!もう、逃げ回る元気も無いのかいッ!」  
 
頭上から響き渡る嘲りの言葉。  
怒りのこもった眼差しを天空に向かって放ち上げた優子だったが、  
悔しさに滲んだその涙は頬に流れ落ちた途端に白く凍りついてしまう。  
上空からその様子を見下ろした怪鳥女は、フン、と、つまらなそうに鼻を鳴らすと、  
攻撃を一時休止して、目の前の敗者をどう料理するか、思考を巡らせた。  
 
すでに勝負の帰趨は明らか、小娘には一分の勝機も無い。  
おそらく、このまま一切手を出さずに、雪山の中に放置しておいたとしても、  
哀れな敗者を待っているのは、惨めな凍死の運命以外にはありえないだろう。  
主であるあの御方、暗黒界を統べる偉大な覇王からの命令は、  
ただ、『夢幻界の<戦士>を迎え撃ち、首級を持ち帰れ』というだけで、  
方法については特に何も指示はないのだから、それでも何ら問題無いハズ・・・・ではあるのだが――――。  
 
(だけど、それじゃあ物足りないねぇ。  
クックックッ、やっぱり、最後はアレで締め括るのが粋ってものだろうしねぇ・・・・)  
 
怪鳥女の口元が、楽しげに、ニィィッ、と吊り上がる。  
改めて下界を見下ろすと、蒼髪の少女は残った力を振り絞り、何とかして起き上がろうともがいていた。  
汚物でも見るような目でその様子を眺めつつ、  
キーヴァは、尊大極まりない態度と口調で、無慈悲な死刑宣告を叩き付ける。  
 
「そろそろ遊びは終わりだッ、<ヴァリスの戦士>!!  
ハハハハッ、そうだな、ここまで楽しませてくれた礼に、せめて楽に死なせてやるよッ!!」  
 
甲高い叫び声と共に、左右の翼が大きく広げられ、アイスフェザーの大群が解き放たれる。  
反射的に身を伏せた優子だったが、  
何千もの冷気の刃は、今までの動きとは異なり、直接彼女に殺到してくる代わりに、  
ゴウゴウと恐ろしい唸り声を上げるブリザードと化して周囲を取り囲むと、  
その身体をすっぽりと覆い尽くす、氷雪の檻を完成させてしまった。  
 
「こ・・・・これはッ・・・・!?」  
 
混乱の極に達した思考でも、それが尋常な事態ではない事は理解出来たらしく。  
本能的な恐怖に背中を押された優子は、痛みを忘れ、無我夢中で飛び起きた。  
不吉な予感は的中し、周囲の気温はあっという間に氷点下に達して、  
肌に突き刺さる魔性の冷気が容赦なく体力を奪い取っていく。  
 
「アーハッハッハッハッ!!  
アイスフェザーのドームに包まれたが最後、中のものは全て、血の一滴まで凍りつくのさ!!  
ログレス様に楯突く身の程知らずめ、せいぜい己れのブザマさを恥じながら死んでいくがいいッ!!」  
 
死のドームに木霊する、けたたましい嘲笑。  
・・・・しかし、今や彼女の耳には、その声さえも殆ど届く事は無い。  
凄まじい冷気の渦に取り囲まれ、間近に迫った凍死の運命に怯えすくむしかない少女の体内では、  
極度の体温低下によって血行が阻害され、血液の循環機能が急速に衰えていた。  
みるみるうちに生気を失った皮膚は血の気を失って蒼白に変じ、  
わずかに残った水分も氷結して、霜が下りたような氷の薄膜が全身を覆っていく。  
 
「あ・・・・あああ・・・・く・・・・空気が・・・・凍っ・・・・て・・・・い・・・くぅ・・・・」  
 
すでに足元は真っ白な氷に呑み込まれ、  
毛髪や手指の先端から徐々に凍結が広がっていた。  
想像を絶する恐怖に打ちのめされた優子は、  
双眸を張り裂けんばかりに見開き、何かを叫ぼうとしたのか、大きく口を開けたまま、  
何層もの分厚い氷のジェルをコーティングされて、物言わぬ彫像へと変容を遂げていく。  
 
「フフフフ・・・・」  
 
柔らかな羽音と共に、キーヴァが地上へと舞い降りたのは、  
役目を終えた死の竜巻がようやく消え去り、雪原に静寂が戻った後だった。  
アイスフェザーのドームが聳えていた場所には、  
天空に向ってそそり立つ、円錐形の小さな氷山が出来上がっている。  
クリスタルガラスのように青く澄み切った棺の中には、美しい人形のような少女の姿・・・・  
光の反射具合によるものだろうか、その容貌は、  
まるで、今にも動き出しそうなくらいに瑞々しく、あるいは、生々しかった。  
 
――――だが。  
優子の生命は、未だ燃え尽きてはいなかった。  
 
・・・・トクン・・・・トクン・・・・トクン・・・・。  
 
肺腑の中の空気までもが凍りついた中で、  
胸郭の奥の心臓だけが、小さく、密やかな鼓動を刻んでいる。  
カチコチに固まって、本来ならば何一つ映し出せない筈の瞳の中にも、  
驚くべき事に、ひどくおぼろげではあるものの、視覚と呼べるものが舞い戻っていた。  
 
厳密に言えば、それを鼓動や視覚と呼ぶのは間違いかもしれない。  
絶対零度のドームの中で凍結し、氷のオブジェと化した蒼髪の少女の肉体は、  
いま現在、全ての機能を停止している状態にあるのだから。  
・・・・にも関わらず、現に、彼女の意識は保たれ続け、  
限定的なものとはいえ、五感のいくつかも正常に働いている。  
そして、脳機能も呼吸も何もかもがピタリと活動を止めてしまったにも関わらず、  
最低限の生命維持と思考の働きは維持されていた。  
 
――――一体、優子の身に何が起きたのか?  
 
(どうやら、助かったようね・・・・今度も間一髪だったけど)  
 
心の中で小さく息をつきながら胸を撫で下ろす<ヴァリスの戦士>。  
それに呼応するかの如く、左右一対の胸甲の狭間に嵌め込まれた楕円形の宝石の中で、  
紅色の輝きが微かに煌き、冷え切った体の中にじんわりとした温もりが染み込んでくる。  
 
(ファンタズム・ジュエリー・・・・やっと、応えてくれたみたいね)  
 
優子の呟きは、微かにだが、苦笑めいた響きを含んでいた。  
氷洞内でアースクエイクの発動を経験して以来、  
夢幻界の宝玉にはもっと別の働きもあるのでは?と考えて、力の開放を試みていた成果がようやく現れたらしい。  
おそらくは、完成したドームの中で荒れ狂う死の息吹に触れた瞬間、  
意識の中で弾けた生への執念がかつてない程強烈な光と熱への渇望となって、  
結果的に、聖玉の力の開放を促すトリガーとなったのに違いない。  
 
(でも、大変なのはこれからだわ。  
あの、キーヴァっていう将軍の強さは、今までの奴らとは質が違う・・・・)  
 
実際、目の前に立って自分の顔を覗き込んでいる怪鳥女は、  
これまでに戦ってきた、どの怪物とも異なるタイプの戦士だった。  
純粋な腕力や技の威力だけならガイーダの方がずっと上だろうし、  
生来その身に備わっている闘争本能という点では、部下であった氷狼の方が優っていたかもしれない。  
キーヴァの強さの根源は、そのどちらでもなく、  
狡猾さと用心深さ・・・・すなわち、持って生まれた天性の能力ではなく、戦いの中で会得した技術と経験にあった。  
 
(もしかしたら・・・・いいえ、きっと、今も完全に油断しきっている訳では無い筈だわ。  
迂闊に動けば、今度こそ、取り返しのつかない状況に陥ってしまう・・・・)  
 
それが杞憂ではない証拠に、アイスフェザーのドームが消え去った後もなお、  
氷の牢獄は一定の速度で体積を増し続けていた。  
あるいは、この敵将の目には、自分が本当に凍死したかどうか、疑わしく映っているのかもしれないし、  
そこまでは考えている訳ではないとしても、不測の事態への備えは間違いなく用意している筈である。  
兎に角、今は逸る心を抑え、ジュエリーの力を利用して出来る限り体力を蓄えながら、  
相手に本当の意味での隙が生じるタイミングを待つしかない・・・・それが、この時、優子の下した決断だった。  
 
――――だが、少女はすぐに気付く事になる。  
その策が、己の心身にどれだけの責め苦をもたらすものだったか?という事実に。  
 
(んッ・・・・うう・・・・んんんッ!!)  
 
チロチロと小さな光を発しつつ、赤熱していく夢幻界の聖石。  
キーヴァに気取られないよう、エネルギーの抽出には細心の注意が必要である。  
・・・・だが、一端に触れて、はじめて理解できたのだが、  
<明>の力を操る作業は決して楽なものだとは言えなかった。  
たしかに宝玉から放射されるパワーは強大であるが、  
それ故に、一旦、制御を誤れば、簡単に暴走を許してしまいかねない危険を伴っている。  
 
(・・・・そ、それに・・・・あううッ!!)  
 
切迫した喘ぎ声が口をついて漏れ出した直後、  
優子の肌を、ビクビクッ、と微細な電流が走り抜け、  
本来ならば開く筈の無い毛穴が開いて、汗腺から生温くネットリとした体液が浮かび上がる。  
数秒と経たないうちに、真っ白な霜と化して体を覆った氷の層に吸収されたとはいえ、  
少女の肉体に生じたのは、(常識では起こり得る筈の無い)発汗現象に他ならなかった。  
 
(くぅ・・・・むあぁッ・・・・こ、込み上げてくる!!  
熱い・・・・とても、熱いものがッ・・・・ふはぁああッ!!)  
 
(実際に呼吸している訳ではない以上、これを『息切れ』と呼ぶのは適切ではないかもしれないが)  
はぁッ、はぁッ、と荒々しく息を切らしながら、<ヴァリスの戦士>はかろうじて自制心を保った。  
半ば予想していた事ではあるが、優子の意識は、  
はじめて宝玉に触れた時と同じく、凄まじい衝撃に貫かれ、引っ掻き回されている。  
それも、一度や二度ではなく、力の開放を始めて以来、間断無く。  
 
(・・・・ううう・・・・た、堪えなくちゃ・・・・今はどんなに苦しくても・・・・)  
 
次第に昂ぶりを増していく性感に、歯を食いしばる蒼髪の少女。  
心臓の鼓動が高まり、次第に速く鳴り響くようになるにつれ、  
冷え切っていたカラダに血行が戻り始め、温もりが全身へと広がり始める。  
もっとも、身体機能の回復に伴って、失われていた感覚が蘇生していくと、  
もたらされる波動もまた、文字通りの肉感へと昇華して、これまで以上に生々しいものとなり、  
あちらこちらで神経をザワザワと騒がせ、掻き乱すようになるのだったが。  
 
(ひくぅッ・・・・ま、またぁ・・・・くはぁあんッ!!  
ううう・・・・どんどん強くなってる・・・・このままじゃあ・・・・!!)  
 
<明>のエネルギーを開放するたび、鉄砲水のように湧き上がってくる灼熱の大波は、  
ねっとりとした肉の悦びへと変換されて少女の心を荒らし回り、欲情を掻き立てる。  
また同時に、このまま全身の自由を一気に取り戻したい、という密やかな願望にも働きかけて、  
危険極まりない賭けへと突き進ませるべく、自制心を乱し続けてもいた。  
 
(くううッ・・・・ダ、ダメッ・・・・耐えて・・・・耐えるのよ、優子ッ!!  
こ、ここで先に動いたら、勝ち目は無い・・・・今までの苦労が水の泡だわッ!!)  
 
そう自分に言い聞かせ、必死に誘惑を払いのけようとするものの、  
<明>の力との初めての対決は非常に分の悪い戦いだった。  
時間が経つにつれて、カラダの奥から湧き上がって繰る滾りは勢いを増す一方となり、  
それに反比例するかのように、理性の制御は弱まっていく。  
もはや、ほんの少しでも気を緩めようものならば、濁流と化した性感が忍耐の堤防を乗り越え、  
心の中にあるもの全てを遥か彼方の世界へと押し流してしまうに違いない。  
 
(くひぃぃッ!!お、お尻・・・・お尻が、熱いッ!!  
ひあああッ!!た、助けて・・・・ヤケドしちゃうぅッッ!!)  
 
不意に、鈍い衝撃が下半身を貫いたかと思うと、腰椎の周囲が一斉に火を噴いた。  
優子が狼狽している間に、淫熱の舌先は、先刻、氷狼によって散々に弄ばれた菊座へと潜り込み、  
妖しげなゾクゾク感へと姿を変えて、肛門を囲む括約筋を揉みほぐしにかかる。  
 
(はぁはぁはぁ・・・・あああッ・・・・お、おしっこ・・・・漏れるうぅッ!!)  
 
妖しい感覚に責め苛まれていたのは肛門だけではない。  
ぷじゅん、と小さな圧壊音が響き渡ったかと思うと、  
凍えたショーツの中から生温い液体が滲み出してきて、太腿の表面を滑り落ちていった。  
まるで男子のように立ったまま尿を垂れ流しているのだ、という現実が、  
羞恥心をいやが上にも煽り立て、動かしてはならない手足をガクガクと打ち震わせる。  
その影響が最も顕著に現れたのは、腰骨の真ん中に位置する袋状の器官で、  
荒ぶる肉悦欲求は、もはや手の施しようが無いまでの高ぶりを見せていた。  
 
(はひぃぃッ!!だめえぇぇッ・・・おなかの中・・・・ビクビクするぅッ!!  
きひぃぃッ・・・・あ、熱い・・・・ひゃうあああッッ!!!!)  
 
生まれる前の赤ちゃんが育つための場所、と保健の授業で教わったその内腔は、  
どういう理由でか、他の体内器官よりも、宝玉から放出されるエネルギーをよく吸収し、  
また同時に、その影響がずっと顕著な反応となって現れていた。  
加えて、その場所から湧き出した肉悦の波動は、  
他のどの感覚よりも鋭敏に、かつ、何者にも邪魔されず、速やかに全身の神経へと伝播していく。  
 
――――びゅくんッ!!・・・・びゅくびゅくんッ!!  
 
熱い脈動が五臓六腑に染み渡り、死の冷気を打ち払っていくのと平行して、  
淫靡なわななきもまた、その支配領域を拡大していった。  
力の開放を中断すれば、昂ぶりも一時的に沈静化するのだが、  
再びジュエリーの熱を呼び戻そうとすれば、たちどころに欲情も舞い戻ってくる。  
何度かイタチごっこを繰り返した末、いよいよ抜き差しならない状況に追い詰められた優子は、  
いつしか目元も口元もトロンと蕩けて、だらしなく緩み切っていった。  
 
(はァううッ!!・・・・こ、氷が溶けていく・・・・!!)  
 
ピキッ、ピキッ、という妙に乾いた音を立て、  
目の前を覆っていた冷気のデスマスクが割れ剥がれていく。  
再び『表情』を取り戻していく少女だったが、  
それは同時に、擬態の維持が決定的に困難となる事でもあった。  
もはや、どれほど意志の力を振り絞って、喜悦にまみれた内面の露呈を防ごうとしても、  
苦悶と快楽の間で目まぐるしく変化し続ける感情は、否応なしに顔の動きとなって現れてしまう。  
 
(アッアッアッ・・・・だ、だめよ・・・・まだ、だめぇッ!!  
んふあぁッ!!もう少し・・・・あと少しだけ・・・・ぁあああッ!!!!)  
 
刻一刻と近付いてくる破局の足音が、深い絶望となって襲いかかる。  
身体機能の殆どは回復し、あとは<剣>を操るための右腕の筋力が戻るのを待つばかりだったが、  
吹き荒れる狂熱の暴風は、とっくに限界を突破していた。  
今この瞬間にも、全てが水泡に帰してしまうかもしれない・・・・、  
そう思うと、不甲斐ない自分に対する怒りと情け無さとで胸が潰れそうになり、  
やり場の無い哀しみが自暴自棄な絶叫となって込み上げてくる。  
 
(・・・・ど、どうして・・・・どうしてよッ!?  
我慢して、我慢して、我慢して・・・・やっとここまで来たのに!!  
なのに、何もかもが、無駄に・・・・無意味になってしまうというのォォッ!?)  
 
「クククッ、まったく、綺麗に仕上がったモンだねぇ。  
このまま打ち砕くのがもったいないぐらいだよ」  
 
まず生存の可能性は無いだろう、とは感じていたものの、念のため、しばらく様子を窺っていた怪鳥女は、  
やがて、どうやら杞憂だったらしい、との結論に達したらしく、  
もはや動く事叶わぬ虜囚の顔を分厚い氷のショーケース越しに覗き込みながら、満足そうに何度も頷いた。  
 
・・・・彼女にとっては不幸な事に(すなわち、優子にとっては幸運な事に)、  
血の一滴まで凍りついた(筈の)美しき獲物を前にしたその瞳は、  
迸る性感との間での生死を賭けたデッドヒートが本格化する直前に少女への関心を失っていた。  
代わりに頭の中を占めたのは、暗黒界の支配者の前に<戦士>の首級を献上する自分の姿と、  
他の暗黒五邪神――――今では一人減って四邪神だが――――が示すであろう落胆の情景。  
最後の最後で見せたその油断が、九分九厘まで手にしていた勝利を奪い去ろうなどとは露程にも思わず、  
キーヴァは、人生最後の数分間を甘美な夢想に費やしていた。  
 
「ガイーダには悪いけど、アイツが死んだ分、あの御方のあたしへの覚えもめでたくなるってもんだ。  
フン、まぁ、墓の一つぐらい立ててやるとしようかねぇ」  
 
いつも寡黙だった巨漢の僚将を思い出しながら、くつくつと笑う。  
一見温和そうな態度の裏で、腹の底では何を考えているか知れたものではない風邪アイザードや、  
陰険な策謀で相手を陥れる事に無上の喜びを覚える炎邪ベノン、  
他者を見下した傲慢な態度を一向に改めようとしない雷邪ヴォルデスらとは違い、  
生前のガイーダは、側に居て特に不愉快に感じるタイプではなかった。  
無論、完全に心を許せるような間柄ではありえなかったが、  
信頼関係とは言わないまでも、同盟関係と呼びうる程度の立場には在った筈だ・・・・。  
 
――――世界が暗転したのは、まさにその瞬間である。  
 
「な、何ッ!?」  
 
突如として、大地が鳴動し、地面が真っ二つに断ち割られた。  
目の前に立つ陰気な墓標が轟音と共に砕け散り、  
とうに死んだ筈の敵影が氷の棺桶の中から飛び出してくる。  
咄嗟に翼を広げて空中に逃れようとしたキーヴァだったが、  
一瞬早く、足元にまで達した地割れが両方の脚を挟み込んで身動きを封じてしまった。  
言葉にならない悲鳴を上げる彼女の胸に、鞘走った白銀の閃光が突き刺さり、  
どんな冷気よりも冷たく凍えきった鋼鉄の切っ先が、肋骨の間を滑り抜けていく――――。  
 
「がはッ・・・・ぐぎゃああああッッッ!!!!」  
 
絹を引き裂くような叫び声が峰々の間に響き渡る。  
信じられない、という面持ちで、胸元に食い込んだ白刃を見つめたキーヴァは、  
次いで、その視線を、恐るべき武器の持ち主である少女へと向けた。  
 
(な・・・・何故ッ!?・・・・貴様・・・・死んだ・・・・筈・・・・!?)  
 
口元からゴボゴボと鮮血を溢れさせながら、驚愕に打ち震える怪鳥女。  
ほんの数秒前まで、哀れな氷の彫像と化していた蒼髪の少女は、  
今もまだ、青白く引き攣った、幽鬼のような表情ではあったものの、  
間違いなく、彼女自身の足で大地を踏みしめ、自分の前に立ちはだかっていた。  
右手に握り締めた<ヴァリスの剣>を、  
前方――――つまり、自分の心臓に向って正確無比に突き立てながら。  
 
「バ、バカな・・・・あたしの・・・・アイスフェザーに・・・・耐え抜いたとでも・・・・?」  
 
ガクリ、と膝を折り、地面に崩れ落ちた暗黒界の女将軍。  
断末魔の喘鳴を漏らしながらも、懸命に言葉を絞り出し、問いを口にする。  
すでに顔面には死相が色濃く現れており、  
一秒毎に生命の灯が細く翳っていく様子が手に取るよう伝わってくるようだった。  
 
「・・・・賭け、だったわ・・・・。  
わたしが完全に凍りつくのが先か、お前が油断するのが先か・・・・」  
 
対する優子もまた、極度の疲労から、その場に、がっくり、と膝を落としていた。  
薄青色の瞳は虚ろで、放心しきった表情には生気のカケラも感じられない。  
ジュエリーによって与えられた力とその代償について何も触れなかったのは、  
何も隠し立てをしようとした訳ではなく、詳しく説明する余裕など何処にも無かったからに過ぎなかった。  
むしろ、両腕を突っ伏して、かろうじて上体を支えながら、荒々しく肩を上下させる姿は、  
まるで、彼女の方こそが戦いに敗北した側であるかのようである。  
 
「・・・・ふ・・・・ふふ・・・・雛鳥と侮っていたが・・・・とんだ誤算だったわけだ・・・・」  
 
悔恨と自嘲の入り混じった低い笑い声に、  
どう答えを返して良いか分からず、沈黙を保ち続ける優子。  
その反応をどう受け取ったのか、死に瀕した怪鳥女は、  
残された力を総動員し、最大限の侮蔑と呪詛を込めながら、最期の言葉を絞り出した。  
 
「・・・・この期に及んでも・・・・まだ、自分は<戦士>ではない、と言う気かい・・・・?  
クックックッ・・・・甘いねぇ・・・・どっちにせよ・・・・お前はもう・・・・後戻りなんか出来ないんだよ。  
あの御方に・・・・弓を引いた者の末路・・・・いずれ・・・・たっぷりと思い知らされる・・・・は・・・・ず・・・・」  
 
末尾の辺りに至っては、ひどく擦れて聞き取りにくいものだったが、  
おそらくは暗黒五邪神の一将としての最後の矜持を示そうとしたのだろう、  
彼女は、息を引き取る間際まで、昂然と顔をもたげたままだった。  
 
「・・・・・・・・」  
 
力尽きた直後、(ガイーダの時と同じように)不浄な瘴気に満ちた炎を発したキーヴァの身体は、  
ゴウゴウと燃え盛る業火の中で、邪悪な存在の全てを焼き滅ぼされていく。  
その様子を茫然と見つめながら、彼女の言い遺した言葉を反芻する蒼髪の少女  
・・・・暗澹とした感情に支配された瞳には、勝利の喜びなど微塵もなかった。  
 
(・・・・もう、後戻りは出来ない、か・・・・)  
 
――――その通りかもしれない、と、認めざるを得ない自分が、ひどく口惜しく、情けない。  
自分は夢幻界の<戦士>などではない、と言い張りながら、  
結局のところは、またしても、ヴァリアの思惑通りに動いてしまっただけ。  
・・・・そう思うと、とても喜べる気分にはなれず、  
むしろ、言い知れない後味の悪さが、胸の奥から湧き上がってくる。  
 
「・・・・ファンタズム・ジュエリー」  
 
以前と同じく、怪物の肉体が燃え尽きた後、忽然と姿を現わす光の聖玉。  
しばらくの間、逡巡していた優子は、やがて、小さくため息をつくと、  
眩い純白の輝きに包まれた小さな石片へとゆっくりと腕を伸ばし、手の平を差し出した。  
流れ込んでくる新たなパワーが疲れきった心身を半ば無理矢理に再活性化させていく一方で、  
灼け付くような業熱が体の内側に広がっていくのを感じながら、虚ろな眼差しを天空に彷徨わせる。  
 
(・・・・いったい、いつまで続くんだろう・・・・こんな戦いが・・・・)  
 
 
 
――――――――to be continued.  
 

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