――――サザーランド。  
 
剣を抜き放ち、対峙する二人の<戦士>。  
漆黒の甲冑に身を包んだ赤毛の少女は、やり場のない怒りを殺気に変えて煮え滾らせ、  
黄金の鎧を帯びた蒼髪の少女は、かつての友の変貌の真実を知った衝撃に、動揺を隠せずにいる。  
 
「どうしても、やるの?」  
 
「くどい!」  
 
問いかける声は、かすれかけ、弱々しい。  
対する、返答の言葉は、絶対零度の冷たさを纏っていた。  
 
「ウソだらけの過去なんて沢山よッ!!  
私は、三つに分かれたカケラの一つなんかじゃないッ!!  
今、それを証明してやるわ・・・・優子、アンタを倒してねッ!!」  
 
――――次の瞬間。  
 
「こ、これはッ!!」  
「空間が、歪められたッ!?」  
「麗子ッ!!」  
 
優子、ヴァルナ、ヴォルデス、三者の叫びが重なり合う。  
だが、<ヴェカンタの戦士>に届いたのは、目の前にいる少女の発した問いだけだった。  
夢幻界の王女と暗黒五邪神のそれは、  
空間を歪曲し、外部からの一切の干渉を撥ね付ける強大な<暗>の力場によって打ち消され、  
<戦士>たちが耳にする事は叶わない。  
 
「一体、何が起きたのですッ!?」  
 
血相を変えてヴォルデスに詰め寄るヴァルナ。  
彼女よりは落ち着いた表情で、中年男は自分に言い聞かせるように答えた。  
 
「二人だけで決着をつけたい、手出しをするな・・・・か。  
どうやら、我々は待っているしか無さそうだな」  
 
(――――くッ、なんて禍々しい気配なのッ!?)  
 
ねっとりと絡み付いてくる<暗>の瘴気に悪寒を感じながら、  
優子は、半ば本能的に、正眼に構えた<ヴァリスの剣>をぐっと握り締めた。  
 
「これで、もう何処にも逃げられないし、助けも呼べないわよ。  
フフッ、色々と便利に出来てるわね、<アンチ・ヴァニティ>の力って」  
 
くつくつと不敵な笑みを浮かべつつ、  
麗子は、油断なく、眼前の宿敵を睨み据える。  
ぬばたまの輝きを宿した切っ先からは、  
<ヴェカンタ>の赤黒い霊気が、燃え盛る地獄の業火のようにメラメラと立ち昇っている。  
 
「れ、麗子」  
 
悲しみに満ちた瞳で、赤毛のクラスメイトを見つめる<ヴァリスの戦士>。  
事ここに至っては、自分の言葉が届くとは思えなかったが、  
それでもなお、胸の奥にわだかまっている想いを口にせずにはいられない。  
 
「たしかに、あなたのご両親については、わたしに何か言える資格なんてない。  
でも、わたしたち二人が過ごしてきた時間はウソなんかじゃない筈よ」  
 
じわり、と熱いものが瞼の奥から込み上げてくる。  
ほとんど嗚咽に近い、くぐもった声で、優子は訴え続けた。  
 
「今だって・・・・これからだって、  
わたしはあなたのそばにいたい・・・・友達でいたいのッ!!」  
 
「ハッ、お笑い種だわッ!!」  
 
――――半ば予期していた事だったが――――悲痛な叫びにも<ヴェカンタの戦士>の心は動かず、  
返ってきたのは痛烈な皮肉だった。  
 
「友達も何も、アンタと私は敵同士じゃない!!  
こうして剣を向け合って、おまけに、<アンチ・ヴァニティ>なんて力で引き裂かれてッ!!」  
 
「・・・・・・・・」  
 
がくり、と肩を落とし、押し黙る優子。  
周囲の闇が、一層、濃密さを増したように感じられる。  
手にした<ヴァリスの剣>が、とても重く、冷たい。  
 
「さあ、おしゃべりは終わりよ。覚悟は良いわねッ!!  
 
「――――ぬあぁあああッッッ!!!!」  
 
怒号と共に、強烈な突きが繰り出されてくる。  
唸りを上げて襲い掛かる漆黒の刃を、紙一重のところでステップを踏んでかわす優子。  
艶やかな蒼髪の幾筋かが寸断され、ユラユラと宙に舞う。  
チッ、と小さく舌打ちを漏らした麗子は、  
最小限の動作で体勢を建て直すと、<影の剣>を水平に薙ぎ払う。  
 
ガシィィィンッ!!!!  
 
金属同士が打ち合わされる、甲高く澄んだ音が響き渡り、細い手首を微かな痺れが走り抜ける。  
毒蛇の如く獲物を求めた神聖ならざる切っ先は、  
清浄な白銀の輝きを湛えた刀身によって行く手を遮られ、  
<ヴァリスの戦士>を切り裂く事は叶わなかった。  
 
「ふんッ、前に会った時より、多少は使えるようになったじゃない。  
でも、防いでばかりじゃ、勝負は付かないわよッ!!」  
 
吼えながら、赤毛の少女は、剣を握っていない方の腕を振り上げた。  
<ヴェカンタ>の瘴気が手の中に集まり、どす黒く濁った闇のムチとなって襲い掛かる。  
 
「あぐぅッ!!」  
 
脇腹を打たれて、<ヴァリスの戦士>はくぐもった叫び声を漏らした。  
<ヴァリスの鎧>の守りに弾かれたのだろう、  
打撃そのものは大したダメージをもたらさなかったが、  
甲冑の力でも中和しきれなかった暗黒の魔毒が、生白い肌を黒ずんだ紫色に変色させていく。  
 
「ククッ、剣の腕前は上達しても、トロ臭いのは相変わらずねぇッ!!」  
 
けたたましい哄笑を放ち上げながら、麗子は闇のムチを振りかざした。  
さらに、愛剣にも暗黒のエネルギーを注ぎ込み、  
漆黒の刀身をムチ状に変形させて、目の前の少女を執拗に追い回す。  
二匹の闇の蛇に代わる代わる打ち据えられた優子の身体は、  
見る間に傷だらけになっていき、そして――――。  
 
「うぐッ・・・・あああッ!!」  
 
強烈な一撃を利き腕に浴びて、蒼髪の少女は、<ヴァリスの剣>を取り落としてしまった。  
カラン、という虚ろな音を立てて足元の地面に転がり落ちる聖なる<剣>。  
激痛を堪えつつ伸ばそうとした指先も、冷酷なムチさばきによって弾かれてしまう。  
 
「勝負あったわねッ!!」  
 
黒革のブーツに包まれたしなやかな爪先が、  
優子の愛剣を手の届かない場所へと蹴り飛ばし、  
続けざまに、少女の鳩尾深く、突き刺さる。  
ぐふッ、と、弱々しく呻くと、<ヴァリスの戦士>は、胸を押さえて崩れ落ちた。  
 
「他愛も無いッ!!やはり、<アンチ・ヴァニティ>の力が相手だと、手も足も出ないみたいねッ!!」  
 
勝ち誇った表情の赤毛の少女。  
閉鎖空間の向こうで、ヴァルナが驚愕に蒼ざめ、  
ヴォルデスでさえ驚きを隠せずにいるのを横目で眺めつつ、天を打ち仰ぎ哄笑する。  
自分の勝利だ、これでウソだらけの世界ともおさらばできる、と。  
 
――――だが。  
 
「違う・・・・それは違うよ・・・・」  
 
苦しげな息の下から囁くような擦れ声で反駁する蒼髪の少女。  
まだ抵抗する気なの?と、些か鬱陶しげに足元を見やった麗子だったが、  
彼女の目に映ったのは、傷付き、憔悴しつつもなお、  
凛とした輝きを失わずにいるディープ・ブルーの双眸だった。  
 
「どういう事よ、一体、何が違うって言うのッ!?」  
 
内心の動揺を押し隠しつつ、  
<ヴェカンタの戦士>は少女の髪を掴み取り、グイッ、と乱暴に引っ張り上げた。  
対する優子は、苦痛に顔面を歪めてはいるものの、  
毅然とした態度を崩す事無く、真っ直ぐな視線で麗子を見据え、  
――――そして、そのラベンダー色の瞳を凍りつかせるに充分な一言を言い放つ。  
 
 
 
 
 
「<アンチ・ヴァニティ>の力なんて存在しない・・・・そんなものは幻だよ」  
 
 
 
 
 
「・・・・・・・・」  
 
一瞬、重く押し黙る、<暗黒界>の<戦士>。  
何を馬鹿な、一笑に付そうと試みはしたものの、  
目の前の少女の眼差しには、それを許さぬ気迫が満ち満ちていた。  
 
「よく聞いて、麗子。  
たしかに、あなたと戦った直後、わたしは力を出せなくなって、  
アイザードの放った魔物に追い詰められて瀕死の重傷を負わされたわ。  
でもね、その後、当のアイザードによって、わたしは救われたのよ。  
・・・・何故だか、あなたに分かる?」  
 
「そりゃ、アイツの事だから、色々下心があったんでしょうよ。  
例えば、思ったよりも良いオッパイだった、とか――――」  
 
わざと茶化そうとした麗子だが、自分から言葉を切り、考え込む。  
言われてみれば、確かにアイザードの行動には矛盾があった。  
優子を死地から救ったのは、無論、彼なりの打算によるものだろうが、  
ならば、あの時の彼女にどんな利用価値があったというのか?  
 
(まさか、あの時、本当は力を失ってなどいなかった、というのッ!?)  
 
――――いいや、そんな筈は無い、と、心の中で大きくかぶりを振る。  
現に、優子は、アイザードに<ファンタズム・ジュエリー>を奪われた挙句、  
自分や暗黒五邪神などよりも遥かに格の劣る雑兵相手に惨めな敗北を喫したのだ。  
力を喪失していたのでなければ、到底、説明がつかない。  
 
「アイザードも、最初はそう考えたんだと思うわ。  
魔物たちに襲われて虫の息だったわたしを捕獲し、徹底的に調べ尽くすまでは」  
 
「な、何だとッ!?」  
 
驚愕に息を弾ませる麗子。  
対する蒼髪の少女は、クラスメイトから視線を逸らさないまま、語り続ける。  
 
――――結論から言えば、あの時、わたしは<戦士>の力を失っていた訳ではなくて、  
一時的に使えなくなっていただけだったのよ。  
わたしの身体と精神を隅々まで調べて、それに気付いたアイザードは、きっとこう考えたんだと思う。  
 
『<アンチ・ヴァニティ>の力では、<ヴァリスの戦士>の能力を一時的に封印は出来ても、完全に奪い去る事は出来ないのだ』  
 
「アイザードは、わたしたち三人の素となった、<戦士>の魂を創造した魔道士よ。  
だから、わたしたちに関する事柄で自分に理解不能なものなど無い、と認識してたんでしょうね。  
・・・・その想いが、死の直前まで彼の目を曇らせていたのよ!」  
 
(アイザードが状況を見誤っていた、というのッ!?)  
 
無意識のうちに、ゴクリ、と息を飲む、赤毛の少女。  
世迷い事を、と笑い飛ばしてしまうのは簡単だったが、  
もしも、優子の言葉が真実だとすれば、たしかに、あの時の彼女の敗北は、  
単に、自分の持つ<アンチ・ヴァニティ>の力によるものではない、というだけでなく、  
そもそも、<アンチ・ヴァニティ>なる力の実在そのものを疑わせるに足る証拠となり得る。  
そして、その可能性を否定し切れるだけの確信は、麗子も持ち合わせてはいなかった。  
 
「本当はね、怖かっただけなの・・・・わたしの中にある力が。  
一歩間違えば、友達を殺していたかもしれない、  
あるいは、世界も何もかも破壊し尽くしてしまうかもしれない、  
――――そんな強大な力を宿してしまった、という事実が、ね」  
 
「・・・・・・・・」  
 
無言のまま、じっと優子の瞳を見つめる麗子。  
語るべき事を全て語り終えた蒼髪の少女もまた、  
静謐な表情で、かつての親友の眼差しを受け止める。  
 
「変わったわね、優子」  
 
先に視線を逸らしたのは、<ヴェカンタの戦士>だった。  
手にした<剣>の漆黒の切っ先を僅かに下げ、呟き声で話しかける。  
 
「修羅場を潜り抜けてきて、逞しくなったのかしら?  
フフッ、以前は、いつも何処かオドオドして周囲の顔色を伺う様なところがあったのに。  
――――いいわ、アンタの言う事が正しいかどうか?試してみようじゃないッ!?」  
 
「試す、って?」  
 
鸚鵡返しに訊き返す、<ヴァリスの戦士>。  
赤毛の少女は即答せず、ニィィッ、と歪んだ笑みを向けた。  
 
そして――――。  
 
「こうやるのよッ!!」  
 
<ヴェカンタの戦士>の叫び声と同時に、  
周囲を覆い尽くした闇の瘴気が膨れ上がり、  
強大な<暗>の波動が、優子に、さらには麗子にまで襲い掛かってくる。  
 
「な、何ッ、一体、何をする気なのッ!?」  
 
「アハハハッ!!  
簡単な話よ、私とアンタ、どちらかが先に倒れるまで、<ヴェカンタ>を受け続けるのッ!!  
万に一つ、いや、億に一つ、先に私の方が意識を失ったら、  
<アンチ・ヴァニティ>の力なんて存在しない、って認めてあげるわッ!!」  
 
明らかに音程の狂った、けたたましい哄笑と共に、  
暗黒のエネルギーが無数の触腕となって二人の少女を絡め取っていった。  
慌てて逃れようとする優子だが、  
<ヴァリスの剣>を失った身では抵抗もままならず、瞬く間に手足の自由を奪われてしまう。  
 
「フフフ、闇の気配が心地良い・・・・ゾクゾクするわ」  
 
同じく、漆黒の魔縄に縛められた麗子が、うっとりとした表情を浮かべた。  
神聖ならざる闇の牢獄にあって、なお一段と黒く、不吉な色合いに染め抜かれた、ぬばたまの甲冑。  
それによって護られている、白大理石のような柔肌の各所――――  
頭に、首筋に、腹に、腕に、太股に、物質とも霊体とも判別出来ない、不気味な触手がまとわりつき、  
ズルズルと這い回って、おぞましい粘液を擦り付けてくる。  
意志の弱い者ならば、それだけで精神に異常をきたしかねない体験となっただろうが、  
<暗>の力に慣れ親しんだ赤毛の少女には、逆に、この感触が何とも言えず心地良かった。  
 
「うッ・・・・ぐッ・・・・んぐぅッ!!」  
 
一方の優子は、苦悶の表情を浮かべ、早くも呼吸を荒らげてしまっていた。  
 
目の前で相対している麗子と同様に、  
蒼髪の少女にも、周囲の闇を凝縮したかのような触手の群れが襲い掛かり、  
寄ってたかって五体の自由を奪い去り、乙女の柔肌を思うがままに蹂躙している。  
無論、彼女は、<ヴェカンタ>の妖気に慣れたかつてのクラスメイトとは違って、  
間違っても、このような行為を心地良いなどとは思わなかったし、  
そもそも、<明>の力をエネルギーの根源とする<ヴァリスの戦士>にとって、  
彼らの発する<暗>の波動は、致命的ではないにせよ、着実に生命を削り取っていく妖毒に他ならない。  
 
(うぐ・・・・くぅううッ!!く、苦しい・・・・身体が締め付けられて・・・・)  
 
ただ単に、苦しい、というだけではない。  
邪悪な魔力を帯びた蛇縄が全身に食い込み、情け容赦なくギリギリと締め上げてはいたが、  
その動きは、単純に自分を窒息させたり、縊り殺したりする目的のものではなく、  
もっと陰湿で、嗜虐的な意図さえ感じさせる性質を帯びていた。  
喩えて言うならば、囚人にたっぷりと死の恐怖を味わわせ、苦痛と絶望の底に突き落としながらも、  
決して生命までは奪おうとはしない、冷酷で、熟練した拷問吏の技のような・・・・。  
 
「ウフフフ、どうしたの、優子、随分と辛そうじゃない?  
<アンチ・ヴァニティ>の力なんて存在しないんじゃなかったのかしら?」  
 
からかうような麗子の声が、追い討ちをかける。  
必死に言い返そうとする少女だったが、  
身体中を這い摺り回るおぞましい肉蛇に、言葉を発する事もままならない。  
腰まで伸びた豊かな蒼髪に潜り込まれ、うなじを撫でられる感触に肌が粟立ち、  
丈の短いプリーツ・スカートの中に入り込んだ触手に、  
内股をピチャピチャと舐めしゃぶられる恥辱には、顔全体が、かあっ、と朱く染まった。  
 
(ううッ・・・・き、気持ち悪いッ!!  
で、でも、負けないッ・・・・絶対に、負けを認める訳にはッ!!)  
 
必死にかぶりを振り、執拗にカラダを嬲る不快さに耐える<ヴァリスの戦士>。  
 
――――だが、この時既に、邪悪な暗黒の分身は、  
それまでの戦いによって消耗しきっていた<鎧>の加護を打ち破り、  
本来ならば、彼ら程度では束になっても果たせなかった筈の、  
聖なる黄金の甲冑に護られた乙女の肉体そのものへの侵略にも成功しつつあったのである。  
 
「んはぁッ!?や、やめ・・・・ッ!!」  
 
じゅるり、と湿った感触が、優子の頬筋を舐め上げ、さらにクチビルへと這い進んでくる。  
咄嗟に口を閉じ、歯を食いしばって抵抗する少女だったが。  
 
「あうう・・・・はぐぅううッ!!」  
 
別の一匹に喉元を締められ、苦しさのあまり、口を開けてしまう。  
途端に、どす黒い肌をした、アメフラシのような触腕が滑り込み、  
生臭い匂いを放つドロリとした体液で、狭い口腔の中を一杯に満たしてしまった。  
 
「はふぅ・・・・んぐ・・・・ふぐぅ・・・・」  
 
歯茎の間を這い回る触手の動きに、  
思わず、意識を蕩けさせてしまう<ヴァリスの戦士>。  
その瞬間を待ち構えていた暗黒界の魔生物たちは、  
呼吸を合わせて、一斉に動き出していた。  
 
「んむ・・・・むぐぐッ!!」  
 
胸元を襲った違和感に、慌てて視線を落とすと、  
先端部分をドリル状に尖らせた触手生物が、  
胸当てと乳房の間に出来た隙間からカラダをねじ入れようと試みていた。  
無論、黄金色の魔法金属とふくよかな肉の脹らみ、両者が重なり合う僅かな間隙に異物が入り込めば  
撓められ、押し凹まされるのは後者の方である。  
 
「くふッ・・・・むふぅううんッ!!」  
 
暴れ回る淫蛇に口腔内を好き放題にされながらも、  
優子は必死に身を捩り、身体を揺らして逃れようとする。  
だが、雁字搦めに緊縛された手足は元より自由に動ける筈も無く、  
その上、着実に乳房を這い進んでいく侵入者は、  
タコの吸盤のように皮膚に吸着して、払い落とす事など到底不可能だった。  
程無く、先端部は完全に胸当ての内側に潜る事に成功し、  
脹らみの中心、淡いピンク色に色付いた小さな突起の周囲をピチャピチャと舐めしゃぶり始める。  
 
(い、嫌ッ・・・・いやぁあああッッッ!!)  
 
生理的な嫌悪感に顔を歪める優子。  
肌が粟立つような感覚に、理性が失われ、負の思考がとめどなく溢れ出す。  
このままでは負けてしまう、という焦り。弱く惨めな自分への怒り。  
穢れを知らぬ乙女としての羞恥心、そして――――。  
 
びくんッ!!!!  
 
不気味なぬめりを帯びた触腕に撫で上げられて、  
豊満という程の大きさではないが、美しく整った形の良い乳房が、  
黄金の胸甲の中で、いやらしく跳ね上がった。  
最初のうちは気持ち悪いとしか思わなかった、卑劣な侵入者の愛撫が、  
時間と共にジワジワと馴染み始め、今では不思議なくらい心地よい。  
 
(だ、だめ・・・・心を、弱くしては・・・・ふはぁあッ!?)  
 
悲壮なまでの決意とは裏腹に、  
柔肉の中心、固くしこったピンク色の突起を突かれるたび、少女の抵抗は大きく揺らぎ、  
止める事は勿論、無視する事さえ出来ない衝動が、みずみずしく張った双乳を駆け巡る。  
 
「んむぅ・・・・ふへゃあああッ!!」  
 
次第に敏感になっていく反応を楽しむかの如く胸元を弄んでいた赤黒い触手が、  
にゅううッ、と、圧迫を強くして脹らみを締め上げ、  
同時に、屹立しきった乳首を甘噛みするかのようにじんわりと押し潰していった。  
途端に、別の一匹によって蹂躙されていた口元から、  
喘ぎとも呻きともつかない、弱々しい悲鳴が漏れ、  
湿り切った吐息と共に溜まっていた大量の唾液がだらだらと流れ落ちる。  
口内でビチビチと跳ね回る異形を感じつつ、  
蒼髪の少女は、己れの肉体が快楽に溺れつつある事実をはっきりと認めざるを得なくなっていた。  
 
(はぁ・・・・はあっ・・・・はああっ)  
 
舐め転がされる乳首は、自分でも明確に知覚できるくらい、熱くしこり切っていた。  
敏感さを増した突起を包み込む感覚も、  
もはや疑う余地など無い、甘く、心地よいものへと変化を遂げている。  
それは、無数の触手によってまさぐられ、あるいは、締め付けられている、  
太股でも、腹でも、背中でも、それどころか、腕や指先のような場所でさえ、同じだった。  
 
じゅるり、と撫でられ、にちゅり、と粘汁が塗り込まれるたび、  
嫌悪に由来するものとは明らかに異なる、鋭敏な震えが全身を覆い、びくつかせる。  
肉縄が卑猥なピストン運動を繰り返すたびに、淫靡な水音が耳の奥に直接響き渡り、  
僅かに残ったなけなしの理性に嘲笑を浴びせるかの如く、頭蓋骨の内側で共鳴し合った。  
肩当ての内部へと潜り込んだ触腕が、半形状の防具を、ぐぐっ、と押し上げると、  
黄金の甲冑は呆気ないほど簡単に外れて、美しいカーブを描く肩口のラインが露わになる。  
 
「んんッ!?むぐぅ・・・・んむぅううッ!!」  
 
熱い涙滴にふやけかけていた優子の目も、さすがに大きく見開かれた。  
聖なる加護によって守られている<ヴァリスの鎧>は、  
その主である自分が命じるか、少なくとも、外部からの干渉を拒絶しない限りは、  
何があろうと剥がれ落ちたりはしない筈である。  
これが、いとも簡単に引き離されてしまった、という事は、すなわち――――。  
 
(あああ・・・・だ、だめ・・・・だめぇッ!!!!)  
 
涙ながらの抗議も空しく、  
身体の各所から、守りの力を失った金色の甲冑がもぎ取られて、  
ドロドロの体液にまみれた乙女の柔肌が曝け出されていく。  
肩当てに続いて、肘当て、膝当て、ブーツからベルトに至るまで、  
手当たり次第に引き剥がされ、生まれたままの姿へと変えられていく<ヴァリスの戦士>。  
――――勿論、ふくよかな双乳を覆った黄金の胸甲も例外ではない。  
 
(あうう・・・・や、やめて・・・・これ以上はッ!!)  
 
胸元をかすめた異様な感触におそるおそる目をやると、  
防具を外され、ぷるん、とまろび出た二つの乳房が、  
色とりどりの粘液にまみれて妖艶に揺れ動いていた。  
一瞬、自分の置かれている状況を忘れて、反射的に両手で覆い隠そうとする優子だったが、  
無論、彼女の五体を拘束している触手はビクともしない。  
程無く、柔らかな脹らみは悪辣な魔縄によって幾重にも巻き取られてしまった。  
 
「んぐッ・・・・ふぐぅ・・・・ふはぁああッ!!」  
 
屈辱感に咽び泣きながらカラダをよじる少女の胸乳が、  
鱗の無い蛇によって、ギュウギュウと締め付けられては緩められ、  
グニュグニュと揉み込まれては、また引き伸ばされて、自由自在に捏ね回されていく。  
肉の悦楽に侵食された腰椎がガクガクと揺れ動くたび、  
忌み嫌うべき感覚が次から次へと生まれ出で、じっとりと湿り気を帯びた喘ぎ声となって空気を震わせた。  
 
気が付けば、身体は地面から50センチ近くも持ち上げられ、  
両脚をアルファベットのMの字の形に開かされた、恥ずかしすぎる格好で責め嬲られ続けている。  
そこで身悶える姿は、まるで触手で出来た電気椅子に座らされた死刑囚のように見えた。  
 
――――ブチィンッ!!!!  
 
股間から響き渡った小さな破裂音に気付いて、顔を動かすと、  
触手の一匹が、端が破れた小さな白い布切れを、勝ち誇った様子で咥え、振り回している。  
・・・・その切れ端が、大事な場所を覆っていたショーツの残骸であると気付いたのは、  
恥丘を撫でた生温い空気の感触によって、だった。  
 
(ひぃぃッ!!いや・・・・嫌ァアアアッッッ!!!!)  
 
乳房を曝き立てられた時とはまた異なる、圧倒的な恥辱感が、優子の心を満たしていく。  
愕然と、あるいは、茫然と、血の気の引いた表情で、  
今や、秘所を守る最後の砦――――と言うには、あまりにも頼りない存在だったが――――となった、  
丈の短いプリーツ・スカートを見下ろす蒼髪の少女。  
視線の先では、猛り狂った生ける槍先が、数本、いや、数十本、  
無防備状態の秘密の谷間の方向を向いてひしめき合い、進軍の時を今や遅しと待ち構えている。  
 
「あ・・・・ああ・・・・うあああッ!?」  
 
声にならない悲鳴を漏らしながら、  
<ヴァリスの戦士>は、自由を失ったカラダを力なく打ち揺らした。  
圧倒的な敗北感が心に重く圧し掛かり、恐怖の色に染め上げていく。  
 
(ひぃッ!!)  
 
獲物の感情を感じ取ってのものだろうか、  
肉蛇の群れの中から、ひときわ胴回りの逞しい、優子の手首ほどの太さもあるモノが立ち現れ、  
敵を威嚇するコブラのように鎌首をもたげて這い進んでくる。  
同時に、少女の下半身を絡め取っていた異形たちも、  
幾重にも巻き付いて自由を奪っている太股を股関節の許すギリギリの角度まで大きく割り広げる一方、  
腰の位置を押し下げて、近付いてくる巨大触手の真正面にクレヴァスが占位するよう姿勢を改めた。  
 
「んひッ・・・・うぐぅ・・・・うぎゅうううッ!!」  
 
プリーツ・スカートが難無く捲り取られて、  
未だ完全に生え揃ってはいない茂みに飾られた恥丘が露わになる。  
王者の風格さえ漂わせる、野太く逞しい触手は、  
毒々しい分泌物に濡れた先端部分を、ぐぐっと持ち上げたかと思うと、  
そのまま何の躊躇いもなく乙女の花園へと踏み込んで、サーモンピンクの秘花弁を左右に押し開いた。  
 
じゅちッ・・・・ずちゅる・・・・ずりゅるるるッッッ!!!!  
 
熱く脈を打つ感触が、こじ開けられた大陰唇を抜けて膣口へと触れた。  
たちまち、ビクビクッ、と鋭い痙攣が花びらの間を走り抜け、  
信じ難いほどの快感の衝撃波が腰椎の底から脳天の先まで一気に駆け昇っていく。  
 
にゅるり。  
 
淫液まみれの亀頭は、何の障害も無く、簡単に入り口を広げていった。  
不思議な事に、全身の筋肉は、皆、無意識のうちに硬直し力みきっているというのに、  
肝心の場所だけは、全くと言って良いくらい、力が入らず、  
まるで不埒極まる侵入者を歓迎しているかの如く、一切の抵抗を拒み続けている。  
 
(ひぃッ・・・・ひっく・・・・な、何、これぇ・・・・ぁひぃ・・・・ひはぁああッ!!)  
 
膣内をゆるゆると這い進む触手の先端から、  
半透明な体液が引っ切り無しに湧き出し、肉襞の間に染み渡っていく。  
強力な鎮痛作用と、そして、催淫効果をもたらす魔液の効き目は絶大で、  
常人ならば、処女の証を破られた直後ですら、激痛を忘れて性の快楽に狂奔する程の威力を誇っていた。  
ましてや、優子は処女ではなく、(不本意極まる状況下に於いてとはいえ)今までに何度も、  
暗黒界の怪物や暗黒五邪神たちによって牝のヨロコビを肉体に刻み込まれてきている。  
 
「あうう・・・・うぶぅ・・・・むふぁうん!!」  
 
どくん、どくん、と、心臓が高鳴り、  
カラダの芯が、ぼうっ、と熱く燃え上がった。  
抵抗し難い、甘美な痺れが、全身の毛穴をザワザワと粟立たせ、  
芳しい汗の粒が一斉に噴き出してくる。  
脊髄の間を、ぞっとするようなゾクゾク感が走り抜け、  
手足の不随意筋が、ピクピクピクッ、と、一斉に出鱈目なリズムで動き始めた。  
 
(はぁう・・・・ら、らめぇ・・・・おさえられない・・・・はひぃあああッ!!!!)  
 
ユサユサと揺れ動く乳房が、一回り大きく膨らんだように感じられ、  
触手の先端で軽くブラッシングされただけで、パァン、と破裂してしまいそうな錯覚に囚われる。  
逞しい肉槍を咥え込んだままの秘裂はジクジクと熱を孕んで、  
トロリとした愛汁を湧き立たせ、垂れ流し続けていた。  
 
どれだけ必死にかぶりを振り、躍起になって否定しようと試みても、  
自分のカラダが淫らな波動によって覆い尽くされつつある現実を認めない訳にはいかなかった。  
凛々しさを失った目許には、トロン、と酒に酔ったかのような濁った光が浮かび、  
ゆっくりとしたリズムでピストン運動を繰り返す、口の中の生臭い侵入者ですら、  
時間の経過と共に舌に馴染んで、今ではすっかり心地良くなっている。  
それによって蓋をされているせいで、外に漏れ聞こえる事の無い呟きも、  
今や大部分は意味のある言葉ではなく、支離滅裂な単語と叫び声の寄せ集めと化してしまっていた。  
 
じゅちッ・・・・にゅじゅるッッッ!!!!  
 
そろそろ子宮にも届こうかという所まで到達した触腕が、  
突如、方向を変えて、膣壁を、ぐにゃり、と押さえ込み、あらぬ形に変形させる。  
 
「くがっ・・・・あぐぁあああッ!!!!」  
 
声にならない絶叫を放ちつつ、悶絶する優子。  
両の眼を張り裂けんばかりに見開いて天を仰ぎ、  
肉の磔刑柱に絡め取られた手足を見苦しくバタ付かせて、のた打ち回る。  
 
(あぁあッ!!も、もう・・・・らめぇッ!!  
あ、アタマの中が・・・・グシャグシャで・・・・ひ、ひんじゃう・・・・おかひくなりゅううッ!!)  
 
――――と。  
 
「フフフ、どうしたの?もしかして、もう降参とか?」  
 
嘲りの笑いに顔を上げると、異形たちの群れの向こうで、  
自分と同じく全身を肉縄に覆い尽くされた麗子が、  
陶然とした表情のまま、ニヤニヤとこちらの成り行きを眺めていた。  
優子のものよりも幾分小ぶりだが、形の良さとみずみずしさでは優るとも劣らない乳房と尻たぶを、  
惜しげもなく曝け出し、色とりどりの触手を何本も受け入れながらも、  
その態度は余裕に満ち溢れ、むしろ、自らの置かれた状況を愉しんでいるかのようにさえ見える。  
 
「んあぁッ!!あくぅ・・・・あふぁうううッ!!」  
 
触手たちによって掻き回される快楽に頬を緩めつつ、  
艶めかしく濡らした唇から突き出した舌先が卑猥な動きで円を描く。  
求めに応じ、野太い槍先が幾度と無く突き立てられるたび、  
総毛立つようなゾクゾク感が走り抜け、子宮の奥が熱く燃え盛った。  
 
はだけられた胸元――――漆黒の胸甲はとうの昔に剥ぎ取られて、足元に転がっていた――――では、  
生白い乳房が何本もの肉縄によって掬い上げられ、ギチギチと巻き絞られて、  
カチコチに充血した先端部分だけを、ぐにゅうッ、と限界まで引っ張られていた。  
愛撫と言うには、あまりにも乱暴極まる締め付けだったが、  
すでに、赤毛の少女の発する叫び声も表情も、  
痛みと恐怖ではなく、赤裸々な欲望と強烈な性の喜悦によって覆い尽くされている。  
 
「あああッ、す、凄い・・・・気持ち良いッ!!!!」  
 
肩口で切り揃えられた、自慢の赤毛を振り乱し、  
押し寄せる快感にあられもない嬌声を上げる<ヴェカンタの戦士>。  
べっとりとこびりついた半透明な分泌液が、  
すらりと伸びたスレンダーな体躯の上で妖しく濡れ光っている。  
 
――――どぴゅッ、びゅくびゅくッ!!  
 
彼女の腕回り程もある、極太の淫蛇がいやらしく脈打ち、  
先端部から腐りかけのヨーグルトのような白濁した汚汁をぶちまける。  
躊躇いも無く、指先で掬い取った麗子は、  
強烈な牡臭を放つそれを、己の秘所へと運び、  
肉莢の間からまろび出たピンク色の真珠玉・・・・陰核の表面に塗りたくった。  
 
「きひぃッ!!あぎぃいいいッッッ!!!!」  
 
途端に、気も狂わんばかりの衝撃が子宮を直撃し、  
頭蓋骨の中身がグチャグチャに攪拌されて、意識全体が真っ白になっていく。  
 
「・・・・・・・・」  
 
凄絶なまでのアヘ顔を晒しながらエクスタシーの頂きへと昇り詰める友の姿を、  
優子は、信じられない、とでも言いたげな表情を浮べて、見つめ続ける事しか出来ないでいる。  
 
ほんの一瞬、脳裏をかすめかけた勝利の予感  
――――より正直な表現をすれば、麗子がこのまま自爆するのではないか?という密かな期待感――――は、  
連続絶頂にイキ狂いつつも、決して自分から逸れる事の無い視線の前に、呆気なく萎んでしまっていた。  
むしろ、これほどの快楽地獄に身を置いてなお、  
決して自我を見失わない<ヴェカンタの戦士>の強靭な精神力を思い知らされた気がして、  
殆ど敗北感と言っても過言では無い程の暗澹たる感情さえ湧き上ってくる。  
 
――――さらに、そこへ追い討ちをかけるかのような、辛辣な一言。  
 
「はぁはぁ・・・・でも、いくらアンタが口先だけの人間でも、  
うくッ・・・・あれだけの大口を叩いておいて・・・・まさか、本当に降参って訳はないわよねぇ、優子?」  
 
(く、口先だけの人間・・・・この、わたしがッ!?)  
 
グサリ、と、少女に突き刺さる、言葉の刃。  
馬鹿な、自分は決してそんな人間ではない、という反発心と、  
もしかしたら、その通りなのかもしれない、という弱気さとが葛藤を呼び、  
束の間、心の中を嵐が吹き荒れる。  
 
――――だが、激しく揺れ動いた天秤は、  
この時はまだ、かろうじて優子の側に踏み止まったのだった。  
 
(ち、違うッ!!わたしは・・・・口先だけの人間なんかじゃないッ!!  
そうよ・・・・わたしのこの考え、この気持ちはッ!!)  
 
強くかぶりを振って、込み上げてくる衝動を押し留める<ヴァリスの戦士>  
忘却の彼方へと飛び去ろうとしていた理性が息を吹き返し、  
トロトロに蕩けかけていた薄青色の双眸に、  
肉欲に押し流されまいとする抵抗の意志が、久方ぶりに姿を現した。  
 
(フフッ、そう。まだ、楽しませてくれるのね)  
 
眼前の様子を眺めやる、<ヴェカンタの戦士>。  
クチビルの端を吊り上げ、ニィィ、と、小さくほくそえむ。  
 
(――――くくッ、まぁ、簡単に堕ちたんじゃあ、楽しくないからね。  
ええ、そうよ。私に向かって、あんな大口を叩いたからには、この程度の責めで終わらせるもんですか。  
今から、本当の地獄を見せてやるから、せいぜい覚悟しておくことねッ!!)  
 
 
 
――――――――TO BE CONTINUED.  
 
 

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