――――因果律の彼方。時間と空間の狭間。  
 
(クククッ、残念だったね、麗子。  
今、優子に死なれては困るんだよ、色々とね)  
 
黒っぽい靄のような霊体・・・・  
かつて、三界の者からは、アイザード、と呼び習わされていた存在のなれの果てが、  
輪郭のぼやけたカラダをゆらゆらと揺らす。  
 
(フフフ・・・・君も同じだよ、デルフィナ。  
しかし、ドラコの奴も随分と過激な施術をやってくれたものだな、  
・・・・私が手を貸さなければ、どうなっていた事か・・・・)  
 
 
――――サザーランド。ニゼッティーの神殿最上階。結界の内側。  
 
「は、離せッ!!私の命令が理解できないのかッ!!」  
 
必死の叫び声にも、漆黒の触手の群れは何の反応も示す事無く、  
暴れ回る赤毛の少女の手足を絡め取り、締め付けていく。  
怒りと狼狽、そして、紛れも無い恐怖に駆られて、無我夢中で抵抗を試みる麗子。  
 
・・・・と、次の瞬間、その顔色が、サアッと蒼褪め、次いで、真っ赤に染まった。  
 
「はぁうッ!?」  
 
くぐもった悲鳴を漏らしながら、  
我知らず、全身を硬直させる<ヴェカンタの戦士>。  
 
丈の短いプリーツ・スカートを捲り上げた、<暗黒界>の魔生物が、  
恥ずかしい谷間を隠す、黒いショーツを巧みに脇へとどかせる。  
 
そして、彼女の最大の弱点であり、快楽神経の中枢でもある菊門へと触れたかと思うと、  
何のためらいも無く、すぼまりを刺し貫いて、奥へと突き進んでいく。  
 
「あぐッ・・・・か、はぁアアアッッッ!!」  
 
下半身を襲った激痛と、それを遥かに上回る快感とに堪え切れず、  
自慢の赤毛を振り乱し、あられもない嬌声を放ち上げる。  
 
ミチミチと軋んだ音を立てつつ、  
肛門をこじ開け、直腸の奥へと這い進んでいく、漆黒の肉蛇。  
 
思わず膝をつき、交尾する雌犬さながらに腰を高々と振り上げた黒衣の少女の背筋を、  
ゾッとするような悪寒が走り抜け、ヌルヌルとした生汗が噴き出してくる。  
 
「ひ、ひィィッ!!ど、どうして、急にコントロールがッ!?  
ふひゃああッ!!ダ、ダメッ、深すぎるぅッ・・・・!!」  
 
先程までの余裕は雲散霧消し、<ヴェカンタの戦士>は混乱の極みに達していた。  
 
肛門を押し開いて侵入してきた槍先に直腸を限界まで引き伸ばされるたび、  
あるいは、窄まった尻穴と蠕動する肉縄とが擦れ合うたび、  
排便が連続で行われているかのような感覚が頭の中を駆け巡り、愉悦の涙を溢れさせる。  
 
適度な成熟ぶりと未だ残るあどけなさとが絶妙なバランスで均衡を保つ桃尻を、  
ぬばたまの触手が、代わる代わる、執拗に撫で回す。  
 
不気味な粘液によってヌルヌルとなった尻たぶの狭間では、  
真っ赤に腫れ上がったすぼまりに、野太い怒張が激しく突き込まれて、  
皺深い小穴は本来の大きさの数倍まで拡張されていた。  
 
括約筋はとうに抵抗力を失い、ぐぼぐぼに成り果てているのだが、  
それでも、突き入れられた淫棒はあまりにも逞しく、充血したアナルは今にもはちきれそうである。  
 
「あああッ!!ら、らめぇ・・・・お腹の内側、ゴリゴリしないれぇッ!!」  
 
肛虐のヨロコビに我を忘れ、  
涙と涎をとめどなく流しながら、ろれつの怪しくなった口調で絶叫する麗子。  
 
その痴態に興奮を覚えたのだろうか、肛門を犯している魔生物は更に深くまで侵入し、  
ハラワタの間を好き勝手に這いずり、蹂躙していく。  
 
未だ一指も触れられてはいない筈の膣口から、熱く煮え滾った愛液が溢れ出し、  
まるで失禁でもしてしまったかの如く、体の下に卑猥な水溜りが形作られていった。  
 
ずるるッ・・・・ぬるッ・・・・じゅるりゅるるッ!!  
 
下半身を這い回る異形の群れが、さらに動きを激しくする。  
 
ビチビチと蠢きつつ肛門を犯し続ける肉蛇たちは、  
哀れな獲物の身体がどうなろうと知った事ではない、と言わんばかりに暴れ回り、  
凄まじい激痛と快感とを交互に浴びせていた。  
 
普通ならば、とうの昔に失神していてもおかしくない状況だったが、  
暗黒界随一の優秀な拷問吏たる淫獣たちは、  
彼女の意識が遠のき始めるのを察知する都度、責めを弱めて、気を失わせるようなヘマは決して犯さない。  
 
「い、いひゃあ・・・・ひゃめて、もう、ひゃめてぇッ!!」  
 
情けない悲鳴を漏らし、ガクガクと全身を痙攣させる。  
 
無論、冷酷なる陵辱者たちは、獲物の哀願など一顧だにせず、  
無慈悲なピストン運動により、少女の尻穴を貪り尽くしていった。  
 
さらに、これまで無視していた膣孔、そして、尿道まで、  
新たに毒牙にかけんと、何本もの魔手を繰り出してくる。  
 
「あああッ!!もう、らめぇッ!!お尻が灼ける・・・こわへるぅッ!!」  
 
肛門に突き刺さった肉槍が、びゅくん、びゅくん、と大きく脈を打ち、  
膨張した先端部分から、火傷する程熱く煮え滾った真っ黒な体液が吐き出された。  
 
スベスベとした直腸の粘膜に、ネバネバと糸を引く汚濁汁が迸り、  
ぞっとするような感触が、押し広げられた狭穴の隅々にまで拡がっていく。  
 
腸内に入り切らなかった淫液は、決壊寸前の排泄穴に向かって逆流し、  
極太触手と肉襞の間にある僅かな隙間から、真っ黒な鉄砲水となって噴き上がる。  
 
――――それとほぼ時を同じくして、麗子の理性は限界を迎えた。  
 
「ひぎぃいいいッ!!イクッ・・・・絶頂ッひゃううううッッッ!!!!」  
 
アナルの奥で弾けた灼熱の感触が、  
想像を絶する快美な波動となって、全身へと伝播していく。  
 
意識が吹き飛び、目の前が真っ白い閃光に包まれた。  
雷に直撃されたかの如き衝撃波が頭の中を無茶苦茶な勢いで駆け巡り、  
理性も感情も何もかも一緒くたにして、混沌の大渦へと引き摺り込んでしまう。  
 
「・・・・・・・・」  
 
エクスタシーの大波に呑み込まれた<ヴェカンタの戦士>が、  
白目を剥き、口泡を噴きながら、無様に崩れ落ちていく。  
ほぼ同時に、彼女によって作り出された淫獄の結界が消失し、  
漆黒の触手たちも、仮初めの肉体を構成していた魔力を喪失して、元の瘴気へと立ち戻っていった。  
 
――――後には、失神寸前の蒼髪の少女と、  
完全に失神して白目を剥いた赤毛の少女の二人だけが残された。  
 
 
――――サザーランド。アイザードの研究施設。実験棟。  
 
「デ、デルフィナ・・・・!!」  
 
粉々に砕け散った培養槽。  
部屋中に飛散した強化ガラスとセラミック合金の破片、  
そして、毒々しい光沢を湛えた液状の魔法金属――――<ヴァリス・オア>。  
 
・・・・それらの中心に、ブロンドの女エルフの白い肢体が横たわっていた。  
 
「大丈夫かッ!?おい、返事をしろッ!?」  
 
意識の無い彼女の肩を揺さ振るのは、緑色の鱗に包まれたベビー・ドラゴン、ドラコ。  
彼の表情は、いつになく必死、というより、完全に狼狽しきっていた。  
 
無論、自分の行った施術が如何に危険なものであるか?は十分に知悉していたし、  
何よりも『患者』自身の承諾を取り付けた上での行為だったのだが、  
目の前の惨状は、事前に予想した最悪の展開を遥かに超えている。  
 
・・・・と、一瞬、金髪の戦士の睫毛が、ピクリ、と動いた。  
 
「デルフィナッ!?」  
 
破滅的な事態からの奇跡的生還に我を忘れて、友の体に抱きつく風の小竜。  
・・・・だが、薄目を開けた彼女の唇が、未だ意識が完全に回復し切らないうちに呼んだのは、  
付き合いの長さという点では確実に優っている筈の、目の前のドラゴンではなく、  
今この場には姿の無い、現実界の少女の名前だった。  
 
「よく頑張った、よく頑張ったよッ!!」  
 
幸いにして、その呟きは感涙に咽び泣く小竜の耳には入らなかったらしい。  
驚嘆と安堵の入り混じった表情で、  
同志であり戦友でもある金髪美女を抱き締め、温もりを確かめるドラコ。  
フッ、と声を立てずに笑った女エルフは、  
珍しく、彼の抱擁を許容しながら、死の淵からの生還を果たした己れの身体を眺め回した。  
 
(これが・・・・私のカラダか?)  
 
一見した限りでは、施術前と比べて、特に違いは見当たらなかった。  
変化らしい変化と言えば、ベノンの瘴気に冒されて黒々と醜く変色していた右腕が、  
元の白絹のような白さと健康的な色艶を取り戻している事ぐらいだろうか。  
 
――――だが、五感は、全身に無数の違和感を感じ取っていた。  
確かに自分の体であるにも関わらず、同時にもはや自分の体とは思えない、二律背反的な感覚・・・・。  
まるで、作り物の体の内部に、魂だけを移し変えられてしまったかのような、  
如何ともし難い居心地の悪さが全身を覆っている。  
 
(・・・・これが、人の身で<ヴァリス・オア>を取り込んだ代償、か)  
 
いや、人の身ならば、<ヴァリス・オア>を注入された途端に、死ぬか、廃人と化していた筈だ。  
自分が生き残れたのは、アイザードの手によって、後天的にとは言え、調整されていたため。  
つまり、優子のような、真正のものではないにせよ、  
彼女と同じ力のいくつかを肉体と魂とに付与され、それに近い形質を有していたがために相違ないだろう。  
 
そこまで考えたところで、デルフィナはかぶりを振り、それ以上の思索を打ち切った。  
そして、自嘲を含んだ微笑を浮かべつつ、心の中で呟きを漏らす。  
 
「フフ・・・・まぁ良いさ、理由はどうであれ、いま少しの間、私はこの世に留まれる。  
そう、たとえ、<戦士>もどきに過ぎないとしても、私はまだ戦える・・・・あの娘のために」  
 
 
――――夕暮れなずむ、ニゼッティーの祭儀場。  
 
がっくりと肩を落としたまま、無機質なコンクリートの床に突っ伏した麗子。  
その正面に立ち、無言のまま、かつてのクラスメイトを見つめる<ヴァリスの戦士>。  
やや距離を置いて、夢幻界の王女と暗黒界の雷龍の化身が並び立ち、  
事態の推移を固唾を呑んで見守っている。  
 
「うっ・・・・うっ・・・・」  
 
がくがくと肩を震わせつつ、くぐもった嗚咽を漏らす赤毛の少女に、  
優子からの決闘の申し入れを受けて立った時の不敵さは、微塵もない。  
 
「なんで・・・・なんでよぉ・・・・」  
 
蒼褪めた頬筋をびしょびしょに濡らす、幾筋もの涙。  
絶望に打ちひしがれ、弱々しくかぶりを振り続けながら、  
こんな筈じゃ無かった、こんなのは何かの間違いよ、  
と、壊れかけたテープレコーダーさながらに、何度も何度も繰り返す・・・・。  
 
「よく見て、麗子・・・・これが現実よ」  
 
一方、足元に蹲った元クラスメイトと同じく、大きく肩で息をしつつも、  
蒼髪の少女は、しっかりと、大地を踏みしめて立ち、  
凛然とした表情で、目の前に広がる世界の風景を静かに見据えていた。  
 
「目を背けちゃいけない、現実よ」  
 
「イ、イヤッ・・・・嫌ァあああああッッッ!!」  
 
泣き叫びながら、立ち上がる敗残の<戦士>。  
自慢の赤毛を振り乱し、半狂乱の態で優子に掴み寄り、殴りかかる。  
・・・・だが、阿修羅の如き必死の形相とは裏腹に、  
腕にも拳にも、全くと言って良いほど、力は入っていなかった。  
 
「もう、おしまいよぉッ!!何もなくなっちゃった・・・・何もかもなくしちゃったッ!!  
アンタの・・・・アンタのせいよ、優子ぉッ!!  
アンタのせいで・・・・わ、私・・・・もう何もかも・・・・全部、無くなっちゃったァッ!!」  
 
「・・・・・・・・」  
 
一瞥と沈黙。そして、次の瞬間――――。  
 
パァンッッッ!!!!  
 
麗子の白い片頬が乾き切った音を発し、  
その直後、糸の切れたマリオネットのように華奢な身体が崩れ落ちて、トスン、と尻餅をつく。  
 
「あ・・・・あうっ・・・・」  
 
紛れも無い恐怖の表情を浮かべる、赤毛の少女。  
平手打ちを受けた頬が赤く腫れ上がり、熱さを伴った痛みが激情を忘れさせる。  
一方、<ヴァリスの戦士>は、片手をゆっくりと下ろすと、驚くほど静かに口を開いた。  
 
「・・・・何も無い、なんて事はないよ。  
何も無い人なんて、何処にもいないわ・・・・そんな人、何処にもいないッ!!」  
 
「うっ・・・・ううっ・・・・」  
 
くぐもった嗚咽を漏らした赤毛の少女は、  
胸の奥で、半ば鸚鵡返しに、蒼髪の少女の言葉を幾度も反芻し、  
・・・・そして、弱々しくかぶりを振った。  
 
(嘘よ・・・・所詮、私たちは出来損ない・・・・。  
最高の<戦士>になり損ねた存在の・・・・惨めなカケラに過ぎないわ)  
 
(なのに・・・・どうして?)  
 
・・・・だが、それでいながら、  
ラベンダー色の双眸は、これまでになく激しく揺らいでいた。  
涙腺が緩み、熱い液体が、じんわりと視界を浸していく。  
 
(・・・・どうして、優子、あなたは、  
そんなに毅然として、胸を張っていられるの・・・・!?)  
 
(――――私は、今まで、あなたを倒す事だけを考えてきた。  
あなたを倒せば、自分はあなたとは違う、と・・・・  
あなたのような出来損ないなんかじゃないと証明できる、ってッ!!)  
 
優子、あなたは私とは違うの?  
ならば、あなたは何のために戦ってきたの?  
 
「・・・・確かに、私たちはカケラかもしれない。  
最高の<戦士>になり損ねた・・・・失敗作なのかも」  
 
「――――でも、それが、一体、何だっていうのッ!?」  
 
(・・・・ッ!?)  
 
優子の言葉に、雷に打たれたかのような表情を浮かべる麗子。  
 
間髪を入れず、駆け寄ってきた蒼髪の少女がクラスメイトの華奢な体を抱き締める。  
熱い血汐の滾りと高鳴る心臓の鼓動が伝わってきて、  
少女の心を覆い隠した分厚い氷壁が焙り溶かされていく・・・・。  
 
「完全な人なんて、何処にもいないわッ!!  
欠点があるから、足りない所があるから、  
・・・・だから、助けたり、助けられたりして、大切な人が出来ていくんでしょうッ!?」  
 
「ゆ・・・・ゆう・・・・こ・・・・」  
 
涙で言葉が詰まり、声にならない。  
優子の抱擁がただひたすら温かく、心地よかった。  
 
(ああ・・・・ゆう・・・・こ・・・・)  
 
「欠点だらけの私だったから、ここまで来る事が出来たのよ。  
今まで戦ってきて、何度も何度も、挫けそうになったり、諦めそうになったり・・・・でも」  
 
「そのたびに、麗子ともう一度分かりあいたい、心から笑い合いたい、って願い続けたッ!!」  
 
――――だって、私にはあなたが必要だもの。  
同じ<戦士>から分かたれた存在かどうかなんて関係無く、  
今までだって、これからだって、ずっと、ずっと一緒に・・・・。  
 
「ああッ!!優子・・・・優子ォ!!!!」  
 
感極まり、無我夢中で目の前の優子にしがみつく麗子。  
彼女の温もりが、冷たく凍えきっていた心を溶かし、  
とうの昔に失くしたと思っていた、光り輝く希いを思い出させる。  
 
・・・・その瞬間、少女の視界は、この上なく清浄な、純白の光によって満たされた――――。  
 
 
 
――――――――TO BE CONTINUED.  
 
 

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