――――サザーランド。ニゼッティーの神殿。地下部分。  
 
カツ、コツ・・・・カツ、コツ・・・・。  
 
磨き上げられた大理石を模した、セラミック・タイルの回廊に、規則正しい靴音が木霊する。  
足音の主は、黒いフロックコートに身を包む、痩せこけた老人・・・・  
ログレス軍の侵攻を受け、死と破壊によって覆い尽くされた、この<世界>――――サザーランドの管理者たる、賢者ニゼッティー。  
全てを合わせれば、数キロ近くも続いているだろうか?長大な円軌道を描く回廊を、  
杖の助けを借りて半周し、目的の場所へと到達する。  
 
「ついに・・・・最後の時が来た、か・・・・」  
 
呼吸を整えながら、ゆっくりと視線を巡らせる黒衣の老人。  
目の前に広がるのは、回廊の内径一杯を使って構築された、巨大な球状の魔道装置。  
セラミックと金属の構造材が、あたかも、巨人の内臓であるかの如く、複雑に組み合わさったその外観は、  
人工の物体であるのは明らかにも関わらず、何処か、現実離れした雰囲気を帯びていた。  
 
しばらくの間、老いた双眸を凝らしつつ、  
ニゼッティーは、数百年の長きに渡って稼動を見守ってきた、  
サザーランドの存在意義そのものとも言える魔道機械を、愛しげに眺めやる。  
 
――――と。  
 
『何をするつもりなのですか、ニゼッティー?』  
 
何の前触れもなく、老人の眼前に顕現したのは、純白の神衣を纏った女性の姿。  
この地より遥か遠く、幾つもの時空と次元障壁とを隔てた彼方にある、<夢幻界>を統べる超越的存在、<幻想王女>ヴァリアの思念によって生み出された、巨大なホログラムだった。  
 
「ヴァリア様・・・・」  
 
静かに頭を垂れ、立体映像の送り手への畏敬の念を示す老賢者。  
・・・・だが、表情には驚きの色は微塵も無く、  
彼女の突然の来訪も既に織り込み済みであった、とでも言いたげに落ち着き払っていた。  
 
『ここは、サザーランドの中枢、次元を超えて行き交う無数の魂が集う場所。それが、最後、とは?』  
 
均衡と調和を司る女神の思念にも、老人への詰問や制止を目的とする様子はあまりない。  
むしろ、彼の行動を確かめた上で追認を与えようという意図の下に発せられているかのような、  
何処となく、淡々とした調子を帯びている。  
対するニゼッティーは、問いかけへの答えをすぐには口にしようとせず、  
手にした白銀の杖を持ち上げると、数世紀にわたる使用によって磨耗しかけている握り手の部分に力を加え、静かに捻り込んだ。  
 
――――ジャラリ。  
 
取り外された杖本体の中から現れたのは、  
創られて以後、一度も使用を経ていないのが遠目にも明らかな、クリスタルの鍵。  
長年にわたって本来の用途を衆目から隠し通す役目を果たしてきた杖を傍らの壁に立てかけると、  
黒衣の賢者は、清冽な輝きを湛えた駆動キーに視線を落としつつ、はじめて口を開いた。  
 
「貴女さまも薄々はお気付きだったのではございませぬか?  
<暗黒界>の軍勢が来ようが来るまいが、サザーランドは既に死んだも同然だった事に」  
 
『・・・・・・・・』  
 
女神の立体映像の、瞳孔の無い双眸が僅かに翳りを帯びる。  
水晶の鍵を手にした老人は、無言のまま、更に数歩、回廊の終着点に向かって歩みを進めると、  
そこに鎮座している制御台に穿たれた黒い穴――――コントロール・キーの差込口に向かって先端部を押し込んだ。  
 
「もう何年も前から、サザーランドに新たな魂が転生してくる事はなくなっていました。  
おそらくは・・・・優子たち三人を生み出した、アイザード卿の一連の実験が、  
この<世界>の持っていた特殊な形質を変容させ、それを利用して行われていた、<戦士>の転生システムを機能不全に陥らせてしまったのでしょう」  
 
「この<世界>・・・・サザーランドは、もう、とっくに役割を終えていたのです」  
 
――――ガシャンッ!!  
 
些かの躊躇いも無く、コントロール・キーを半回転させる、ニゼッティー。  
更に、老人の皺だらけの手指が、制御台の上にあるスイッチやレバーを次々とONにしていく。  
 
ゴウゥウゥゥゥンンン・・・・!!!!  
 
地の底から湧き上がってくるかの如き重苦しい音が魔道装置の内奥から漏れ始め、  
地鳴りのような低周波振動と、古くなって錆付きかけた蝶番が軋むような耳障りな金属音がその後に続く。  
まるで、破滅の淵に瀕したサザーランドそのものが発する断末魔の喘鳴の如く、  
苦悶に満ちた響きを背にしながら、黙々と操作を続ける黒衣の賢者・・・・。  
 
「加えて、<暗黒界>の次元侵攻艦隊による今回の攻撃・・・・。  
即座の壊滅は免れましたが、魔道機械を維持するためのシステムに致命的な損害が生じ、  
残念ながら、回復する手段はございません。  
完全停止の前に、まだ残っている全ての魂を解放し、転生させる――――それが私の最後の務めとなるでしょう」  
 
『・・・・何と言って詫びれば良いのでしょう・・・・私は・・・・』  
 
意外にも、ヴァリアが発した言葉には、深い悔恨の念が滲んでいた。  
多元宇宙を律する数多の法則のうち、<明>の領域に属する全てを司る<夢幻界>の支配者のものとは信じ難い程に弱々しい、思念、そして、想い。  
 
「詫びる、と仰いましたか?」  
 
静かな声で問い返す、黒衣の老賢者。  
その間も、コンソールを操作する手は休む事無く動き続けている。  
しばしの間、口篭った女神からは、やがて、苦渋に満ちた思念が返ってきた。  
 
『――――<暗黒界>は、いわば私の半身。  
遥か昔、己れの中に在る<ヴェカンタ>を、忌まわしきものと看做し、否定し、葬り去らんとして、  
私は、あれを、遠い次元の彼方に封じました。  
時空の安定のためにはこうするしかない、と考えた上で。  
しかしながら・・・・今にして思えば、本当にあのやり方で良かったのか?  
もっと他にやりようが在ったのではないだろうか?と――――』  
 
「フム・・・・貴女様といえども、そのようにして、ご自分をお責めになる事がお有りなのですかな?」  
 
最後のレバーに手をかけながら呟いた、ニゼッティーの言葉は、  
もはや耳を聾するばかりにまでなった騒音と振動によって半ば掻き消されている。  
だが、老人は、己れの意志があらゆる時間と空間を超越して、<夢幻界>の神座へと届いている事に微塵も疑いを抱いてはいなかった。  
 
「――――時には、ご自分の決断を振り返ってみるのも良いでしょう。  
しかし、過去の出来事に囚われているだけならば、  
それは結局のところ、堂々巡りに過ぎないのではございませぬか?」  
 
老いさらばえた腕に残った力が振り絞られ、ゆっくりとレバーが押し下げられていく。  
途端に、それまで周囲を煌々と照らし出していた人工照明が、パッ、と消え去り、  
非常電源に切り替わった事を知らせる赤色灯が、切迫した間隔で明滅を繰り返し始めた。  
聳え立つ魔道装置のあちらこちらで、ロックが外れ、隔壁が開放される騒々しい大合唱が始まり、  
途方もない負荷に耐えかねた一部の構造材がひしゃげて、砕け散っていく。  
 
「さぁ、そろそろお別れです・・・・ヴァリア様」  
 
額に滲んだ汗粒を袖口で拭ったニゼッティーは、  
女神の立体映像に向き直ると、背筋を伸ばして直立不動の姿勢をとり、  
次いで、黒衣に包まれた老体を折って、深々と一礼した。  
背後で、轟音を発する魔道機械が真ん中から分離し始め、  
開口部分から飛び出してきた、無数の光・・・・転生の道を閉ざされたまま、空しく時を過ごしていた<戦士>の魂魄が、無秩序な軌跡を描きながら、二人の周囲を踊り回る。  
 
「・・・・彷徨える魂たちを、どうか、お導き下さい。  
そして、手を差し伸べてやって下さい。  
たとえ、闇雲にであろうと、ひたすら前に進み続けようと希い求める者達に――――」  
 
『ニゼッティー・・・・』  
 
黙礼したまま動きを止めた黒衣の賢者の姿が光の渦の中へと呑み込まれ、消えていく。  
幾世紀にも渡る使命を果たし終えた老人の最期を看取ったヴァリアの思念体もまた、  
託された数多の<戦士>の魂と共に、サザーランドの大地を離れ、時空の彼方へと飛び去っていく。  
 
内部に封じられていた全ての魂を解き放った後、誰からも顧みられる事のなくなった魔道機械は、  
やがて、力尽きたかのように動きを止めると、自らの生み出した負荷に耐えかねて圧潰し始めた。  
前後して、装置を維持し、<戦士>たちの魂を守るために、かろうじて保たれていた機能が停止し、  
<世界>そのものが虚数の海へと呑み込まれていく。  
 
――――それが、サザーランド・・・・三界の狭間に位置する黄昏の世界の、終焉だった。  
 
 
 
――――因果地平の彼方。何処とも知れぬ、薄明の世界。  
 
(フフ・・・・ニゼッティーも逝きましたか。  
しかも、あんなに沢山の置き土産を残してとは、些か驚かされましたよ)  
 
かつて、美貌と強壮を誇った肉体は滅び去って久しく、  
かろうじて冥府に没する運命からの脱出には成功した魂魄も、  
いつ終わるとも知れぬ、幽閉同然の日々によって徐々に衰弱し、  
すでに、幽鬼としてすら、自己の存在を維持出来なくなりつつある。  
 
それでいて、<彼>の意志は磨耗するどころか、益々堅固さを増していた。  
・・・・妄執、否、もはや、確信と言っても過言ではないだろう、  
最近では、<彼>は、はっきりと自覚するようになっていた――――己れが、新しき神となって、全ての時空を手中に収め、睥睨する姿を。  
 
(まぁ、良いでしょう。  
いずれ、この私の血となり肉となって、新たなる秩序を創り出す源へと生まれ変わる者達なのですから。  
ククク・・・・ニゼッティー、あなたからの最後の贈り物、せいぜい有難く使わせて頂くとしますよ・・・・)  
 
 
<暗黒界>。帝都ヴェカンタニア上空。  
 
(――――もう、何も・・・・誰も失いたくないッ!)  
 
至る所から炎と煙を噴き上げ、暖炉に投げ込まれたコークスのように燃え盛る魔都。  
空中には、散々に撃ち減らされたにも関わらず、今なお数百隻に及ばんとする数の艦艇がひしめき合い、  
後方に鎮座するログレスの王城  
――――すでに地上構造部分の大半は破壊し尽くされ瓦礫の山と化していたが――――を、  
それでもなお、死守せんと迎撃を試みている。  
 
「時間が無い・・・・あの裂け目から城内に突入するぞッ!!  
城の地下まで、一気に突き破るッ!!」  
 
残存艦隊による死に物狂いの弾幕射撃をものともせずに、  
背中の蝙蝠羽根を一杯に拡げ、風鳴り音を轟かせながら、急降下していくドラゴ。  
後続するのは、二人の<ヴァリスの戦士>・・・・優子とヴァルナ。  
次元の回廊を通り抜けて、暗黒王の支配領域に突入した時の人数から、一人が減っていた。  
 
(・・・・デルフィナ・・・・)  
 
涙で霞んだ優子の視界。  
映っているのは、美しいブロンドをなびかせた女エルフの、在りし日の姿。  
少しはにかんだ微笑みを浮べつつ、握手を求めて利き手を差し出している、もはや、三界の何処にも存在しない彼女。  
<ヴァリスの戦士>である自分とヴァルナの進路を切り開くため、  
己れの身を<ヴァリス・オア>に捧げて散った生粋の<戦士>と、はじめて心が通じ合った瞬間の記憶だった。  
 
――――――・・・・。  
 
「さらばだ、ドラゴ。地獄で待っているぞ・・・・」  
 
ドラゴンの背中から空中に身を躍らせた時、デルフィナの肉体はすでに限界に達していた。  
炎邪ベノンの呪詛に蝕まれた心身を保たせるために縋った禁断の施術、  
<ヴァリス・オア>の注入によって、かろうじて生命永らえはしたものの、  
優子たち三人を誕生させた実験と基本原理を同じくするアイザードの技術により、<戦士>としての形質の一部を後天的に移植されていたと言っても、  
結局のところ、彼女は真正の<ヴァリスの戦士>では有り得なかった。  
注入された<ヴァリス・オア>は体内で安定する事無く、  
ベノンの毒に冒された部位だけでなく、正常な体組織までも喰らって、癌細胞のように増殖を続けている。  
これまでは、意志の力で何とか暴走を抑え込んで来たのだが、  
ヴェカンタニア上空におけるログレスの軍団との激闘に次ぐ激闘は、  
女戦士の精神を疲弊させ、<ヴァリス・オア>の侵蝕に抗い得るだけの余裕を奪い去っていた。  
 
天空を埋め尽くすかの如き大艦隊の艦列を削り取りながらじりじりと前進を続け、  
ログレスの居城まであと僅か、という地点に達した時には、  
すでに<ヴァリス・オア>による侵蝕はデルフィナの右半身全体に及ぼうとしていた。  
 
右腕の肘から先と右脚の膝から下は、得体の知れないクリスタルによって完全に覆い尽くされ、  
残りの部分も、細胞組織の変容が内臓器官にまで達しようとしている。  
優子たちと出会う遥か以前の戦闘によって視力を喪失した右目  
――――仲間たちの前では、刀の鍔を模した眼帯で覆っていたが――――は、赤々と光り輝く紅玉によって取って代わられ、  
その周囲の面立ちも、有機物とも無機物ともつかない、不気味な物質への変成が進行しつつある。  
 
(もはや、これまでか・・・・)  
 
変わり果てた自らの容姿に、最後の覚悟を固める女エルフ。  
自分でも不思議な事に、口惜しさや未練といった感情は殆ど無く、心の中は晴れやかに澄み渡っている。  
たしかに、最後まで優子の傍で戦えないのは残念だったが、  
すでに自分の肉体はボロボロの状態で、ドラゴの助けなしでは移動さえままならない。  
どう考えても、このままでは足手まといになるだけなのは明白だった。  
あの<現実界>の少女の友として、いや、それ以前に、一人の<戦士>として、  
そんな無様な有様となってまで生に執着する姿を戦友たちの眼前に晒すのは、恥辱以外の何物でもない。  
 
(お別れだ、優子、ヴァルナ。短い間だったが、一緒に戦えた事を誇りに思うぞ)  
 
視力の衰えた隻眼を懸命に凝らし、  
蒼髪をなびかせつつ<ヴァリスの剣>を振るう優子と、  
杖をかざし、一心不乱に呪文を詠唱するヴァルナを遠目に眺めながら、別れの言葉を呟くデルフィナ。  
次いで、未だ完全に侵蝕が及んでおらず、指先の感覚が残っている左手で、  
緑色のウロコに覆われた、風のドラゴンの背中を、愛しそうに撫で上げ、肌触りを記憶に刻み込む。  
 
(――――さぁて、それじゃあ、最期に、死に華咲かせて貰うとするよ)  
 
目線を上げて、周囲を見回す。  
すでに<ヴァリス・オア>による侵蝕が視神経にまで達しているのだろう、  
まるで、太陽に飛び込んだかのように、視界全体が真っ赤に染まっていた。  
肉体の変容ぶりは更に凄まじく、クリスタル化した体の一部は物質としての実体さえ保てなくなって、  
膨大な量のエネルギーを吐き出しながら、自壊を始めている。  
 
(最後の相手くらい、ゆっくりと選ばせて欲しいものだが・・・・そういう訳にもいかないようだね)  
 
軽く舌打ちを漏らしたデルフィナは、手早く周囲に視線を巡らせて、最後の獲物を物色する。  
・・・・幸か不幸か、獲物を発見するのに時間は要さなかった。  
真紅に染まった視界に浮かぶ、最も大きく、禍々しいシルエット・・・・  
ログレス城の直上を守る、おそらくは<暗黒界>側の総旗艦、地獄への道連れにするには、まさにうってつけの存在だ、と言って良いだろう。  
 
「――――あとは、上手くやれよ・・・・優子ッ!!!!」  
「デ、デルフィナァアアッッッ!!!!」  
 
天空の戦場に木霊する、二人の<戦士>の叫びと叫び。  
死に行く者と生き続ける者、両者の想いが、時間と空間を超越して交錯し  
――――その直後、圧倒的な熱と光が全てを呑み込み、掻き消してしまう。  
 
「し、城がッ!?」  
 
<ヴァリス・オア>と半ば融合した女戦士の、文字通り、生命を燃やし尽くした特攻によって、  
グロテスクな形状をした巨大戦艦は一瞬にして火達磨と化し、轟沈する。  
その爆発は周囲に展開していた大小の艦艇を巻き込んだだけでなく、  
直下に聳え立つ暗黒王の居城に向かって、燃え盛る流星へと変じた無数の破片を降り注がせた。  
これには、堅牢無比と謳われた<暗黒界>の王城も、無傷では済まなかった。  
天を衝いて聳え立つ尖塔も、幾重にも張り巡らされた城壁も、ボール紙のように引き裂かれて、無残な瓦礫の山へと変わっていく・・・・あたかも、城の真ん中で、小さな星が爆発を起こしたかの如く。  
 
(デルフィナ・・・・)  
 
頬を伝う涙が、銀色の光となって流れ落ちていく。  
彼女との出会いはほんの数日前の出来事だというのに、  
しかも、出会った直後は、互いに少なからぬ誤解と反発を抱き合い、  
全て帳消しにして分かり合うまでに幾度となく衝突を繰り返した筈なのに、  
もう何年もの間、ずっと一緒に過ごしてきたかのように感じられてならないのは一体何故だろう?  
 
『お前の事が気に入った!――――それだけじゃ、不足かな?』  
 
<現実界>と<暗黒界>、生れ落ちた<世界>の壁を乗り越えて、友情を誓い合った、  
あの時のデルフィナの笑顔、そして、握り締めた手の温かな感触は未だに忘れられない。  
考えてみれば、彼女は、自分が心を通わせ合う事に成功した最初の異世界人だった。  
彼女と信頼関係を構築出来たからこそ、  
ヴァルナをはじめ、ドラゴやヴォルデスとも、あんなにもスムーズに手を取り合えたのだし、  
麗子との和解という、限りなくゼロに近い可能性に賭けてみる、  
傍目には、暴挙としか映らない決断に踏み切る勇気も持てたのかもしれない・・・・。  
 
「それだけじゃない・・・・」  
 
――――加えて、もう一つ、今の優子には良く理解出来る事がある。  
デルフィナは、戦いに・・・・その結果、好むと好まざるとに関わらず、他人を戦いに巻き込み、傷付けてしまう事に怯え竦み、  
<戦士>の心を失いかけていた自分を彼女なりに気にかけ、優しく包み込んでくれていた、という事実。  
多少、やり方が強引だったのは間違いないし、そのせいで彼女の真意を随分と誤解したりもしたのだが、  
今、振り返ってみれば、あの行為は自分の不安を消し去り、励ましたいと考えてのものだったに違いない。  
 
(・・・・そうだよね・・・・デルフィナ・・・・)  
 
そっと瞑目し、在りし日の記憶を掘り起こす蒼髪の少女。  
瞼に浮かぶのは、彼女と出会った直後の出来事・・・・  
ベノンの追撃を避け、身を潜めていた安ホテルの一室で、  
負傷した腕を治癒させるための『治療行為』という名目で耽溺した、めくるめく愛欲の思い出に他ならない。  
 
「胸当てが邪魔だな。外すぞ」  
 
そう、ベッドの上に組み敷いた優子の耳元に向かって囁きかけながら、  
デルフィナは、黄金の輝きを放つ胸甲の曲線を人差し指でそっとなぞった。  
実際には、素肌はおろか、鎧の表面にさえ触れられていないにも関わらず、  
指の動きを感じただけで、呼吸を弾ませ、悩ましげな喘ぎ声を漏らしてしまう、蒼髪の少女。  
カチャリ、と小さな音がして、留め金が外れ、形の良い脹らみを優しく包み込んでいた防具が取り払われると、  
これまで執拗に繰り返された前戯によって、たっぷりと汗に濡れ、ピンク色に上気した乳房が曝け出された。  
 
「フッ、大きさは今一つだが、綺麗な乳だ・・・・どれ、少し味見させてくれ」  
 
妖艶な微笑を湛えた女エルフのクチビルが、目の前の生白い果実へと近付いていく。  
無論、今一つの大きさ、というのは、彼女自身のバストサイズと比較しての話であり、  
お行儀良く並んでいる少女の双乳は、  
同じ年頃の<現実界>の娘たちと比べて、平均以下のボリュームしかない、とは到底思えなかった。  
むしろ、未だ発育の途上にあるにも関わらず、  
これだけの豊かさを誇っているのは大健闘と評しても過言ではない筈である。  
 
「フフ、見られただけで乳首が硬くなってきたぞ?随分と感度が良さそうじゃないか・・・・」  
 
興味津々な眼差しが、ほのかな桜色に染まった乳輪とその中央に位置する乳頭に向かって注がれる。  
クチビルが触れるか触れないかの所まで来て、一旦停止し、生温かい息をそっと吹きかけると、  
顔面を真っ赤に紅潮させた蒼髪の少女は、焦れったそうに眉を寄せて、睫毛の先をピクピクと震わせた。  
 
「あうう・・・・そ、そんなコト、言わないで・・・・恥ずかしい・・・・」  
 
ビンビンに張り詰めた、左右の脹らみが、緊張に耐え切れず、不規則な痙攣を発し始めると、  
その先端部、ピンク色の乳輪から突き出した可愛らしい突起物に向かって、  
くすぐったいような、むず痒いような、明状し難い感覚が流れ込んでいく。  
こみ上げてくる疼きに耐え切れず、普段は小指の先ほどの大きさしかない乳首が、  
みるみるうちに隆起し、カラダをカチカチに強張らせていくにつれ、  
胸郭の内側で律動を刻む心拍が、異様に甲高く、せわしなく鳴り響き、  
口をついて漏れる吐息も、荒々しく、熱っぽいものに変わっていった。  
 
「もう、先っちょが尖り始めてるな。もう我慢が利かなくなったのか?」  
 
少し意地の悪い笑いを浮べながら、片方の乳房をすくい取った女エルフは、  
親指の腹を使って、ピンク色の突起の根元にサワサワと優しく刺激を加える。  
途端に、ひゃあッ!?という素っ頓狂な悲鳴を漏らした<ヴァリスの戦士>は、  
勢い良く頤を跳ね上げ、生白い喉下を惜しげもなくさらけ出した。  
たたでさえ硬くしこりつつある乳首は、巧みな愛撫によって送り込まれる性感に耐え切れず、  
じんじんと熱く火照りつつ、まるで別の生き物であるかの如く、勝手に蠢き始めている。  
 
「どうした?舐めて欲しいんだろう?  
だったら、こう、声に出して言ってみろ。  
"わたしのオッパイを口に含んで、噛んで、しゃぶって、吸い尽くして下さい"・・・・と」  
 
――――ちゃんと最後まで言えたら、その通りにしてやる、と金髪美女は悪戯っぽく囁いた。  
同時に、刻々と変化する優子の表情を観察しつつ、強弱や間隔を調整し、左右の脹らみをリズミカルに揉み込んでいく。  
時に甲高く、切迫した、時に低く、伸びやかな、官能を滲ませて響き渡る喘ぎ声のトーン、  
痙攣に包まれた手足の筋肉が飛び跳ねる間隔、秘裂の奥から湧出する愛液の量と粘つき具合・・・・、  
敏感さを増した肉体は、みずみずしい胸乳に加えられる僅かな力の加減に対しても、各々異なるリアクションを返し、責め手の好奇心を飽きさせなかった。  
いつの間にか、少女の背筋は見事な半月形のアーチを描いて反り返り、  
甘い痺れに覆われた全身の汗腺からは、甘酸っぱさの中に牝のフェロモンが程よく溶け込んだ汗粒が無数に噴き上っている。  
 
「ハァハァ・・・・わ、わたしの、オッパイをッ、  
く、口に含んで・・・・噛んで・・・・ああッ・・・・だ、だめぇ・・・・ッ!!」  
 
卑語を言葉にしているうちに完全に我慢できなくなってしまったのだろう、  
蕩けきった目元に大粒の涙滴を溜め込んだまま、まるでむずかる赤子の如く、イヤイヤを繰り返す優子。  
もはや一刻の猶予もならないのか、今にも泣きそうな表情を浮かべている。  
だが、それでも、ブロンドのエルフは焦らし責めをやめようとはしなかった。  
 
「フフフ、ダメだ・・・・最後まできちんと言えないなら、舐めてはやらん。  
ほら、もう一度だけチャンスをやる、今度はちゃんと言ってみろ。  
そぉら・・・・あと、5秒だ。4、3、2、1・・・・」  
 
「う、ううっ・・・・わたしの、オ、オッパイを――――」  
 
全身を苛む性感の疼きよりも、デルフィナの脅し文句への恐怖の方が優ったのだろうか?  
蚊の鳴くような弱々しい声で、要求された通りの卑猥なセリフをなぞる<現実界>の少女。  
途中、何度となく、しゃくり上げて来る喘ぎによって中断しながらも、  
どうにか最後まで言い終えると、もう辛抱堪まらない、とばかりに、  
自分から乳房を突き出して、約束の履行を催促し始めた。  
 
「フフッ、しょうのないヤツだなァ」  
 
ニヤリ、と、ほくそ笑んだブロンド美女は、目の前で弾む生汗の滲んだ双乳へと手を伸ばした。  
途端に、少女の口から、くはぁあッ!!という、あさましい嬌声が迸り、  
純白のプリーツ・スカートの奥の谷間から  
――――ちなみに、すでにショーツは摺り下され、ロングブーツの爪先にかろうじて引っ掛かっている状態だった――――、  
ムッとするような濃密な牝花の匂いが立ち昇る。  
 
「そ〜ら、お待ちかねのご褒美だよッ・・・・存分に味わいなッ!!」  
 
言うが早いか、デルフィナは、たっぷりと焦らされて限界寸前までしこったピンク色の突起にしゃぶりつき、  
反対側のそれには細長くしなやかな指を絡めて、キュッ、キュッ、とテンポ良く扱き立て始めた。  
左右の乳首へと襲い掛かる舌先と指先、各々触感の異なる、  
だが、巧緻を極めたテクニックという点ではどちらも甲乙付け難い、快美な刺激・・・・。  
 
「んぁあッ・・・・あくぅ・・・・はぁうんんッ!!」  
 
トロトロの唾液を含ませた真っ赤な肉ナメクジが動き回るたび、  
ザラザラとした味蕾が性感帯へと触れて、甘美な電流が背筋を走り抜け、  
不随意筋が、ピクン、ピクン、と、活発に震えを発して、硬直と弛緩を繰り返す。  
もう一方の、ツン、と身を尖らせている乳首に対しては、  
強過ぎず弱過ぎず、絶妙な塩梅の指技が繰り出され、限界を超えた次元まで欲情を昂ぶらせていた。  
執拗な焦らし愛撫によって極度に感じ易くなっていた肉ボタンは、  
すでに直接触れられなくても、何かが近くを通過しただけで気配の変化を察知し、  
ビクン、ビクン、と、あさましい脈動を発するまでに至っている。  
 
「くはぁッ!!ふひゃあぁああッ!!」  
 
次の瞬間にも絶頂へと昇り詰めかねない勢いで、  
あられもない悲鳴が室内に響き渡り、備え付けのダブルベッドがギシギシと軋む。  
水分を含んでぐっしょりと湿ったシーツを破り千切らんばかりにきつく握り締めて、  
蒼髪の少女は高々とアーチを描く背筋をガクガクと揺すぶった。  
捲れ上がったスカートの下から、失禁でもしたかのように大量の愛汁に濡れそぼった恥丘が姿を現し、  
甘酸っぱさの奥にたっぷりと蒸されて凝縮された淫蕩なフェロモンの混じる牝臭を撒き散らす。  
 
「クククッ、お次は、乳首と陰核、どっちを触って欲しい?」  
「あああ・・・・い、いやぁッ・・・・そんな恥ずかしいコト、訊いちゃダメぇッ!!」  
 
丹念に唾液を塗り込められつつ舐め転がされる乳首に、生温かい吐息まで吹きかけられて、  
顔面を真っ赤に紅潮させ、駄々っ子のようにかぶりを振る<ヴァリスの戦士>。  
淫猥極まる衝動が全身をあさましく波打たせ、毛穴という毛穴が、ザワザワッ、と、一斉に鳥肌立つ。  
 
「フフ、ココをこんなに濡らしおいて、今更、恥ずかしいも何も無いだろう?  
さぁ、素直に答えるんだ。オッパイとオマ○コ、どちらでイキ狂いたい?」  
 
あううっ、と羞恥に打ち震えながらも、この上なく卑猥な二者択一に頭を悩ませる優子。  
そうして迷っている間にも、デルフィナの指先は、隠された性感帯を的確に探り当てては、  
場所ごとに異なる感度に応じて絶妙な緩急を加えた愛撫を送り込んでくる。  
弱々しく響く喘ぎ声は、すぐに切なげな擦れ声へと切り替わり、  
さらにもうしばらくすると、本格的なよがり泣きへと変貌を遂げていった。  
半分伏せられた瞼の裏側で、極彩色の花火が大輪の花を咲かせるたび、  
うなじの辺りが、じぃん、と熱っぽく痺れていくのが、自分自身でも良く分かる・・・・。  
 
「・・・・オッパイ・・・・乳首で・・・・絶頂せて・・・・」  
 
限界ギリギリまで迷った挙句、  
優子は、精根尽き果てたかのような返答の言葉を絞り出した。  
・・・・別段、陰核で達するよりも乳を弄られてイク方がマシだ、などと思案した上での決断ではない。  
単に、昂奮してビンビンに感度が高まっているとはいえ、  
未だ、直接、舌や手で触られた訳ではない、ピンク色のクリトリスの方が、  
ほんの僅かばかり、欲情の度合いが少ない、というだけの理由に過ぎなかった。  
 
実際、ぷっくりと充血した大陰唇は、じゅくじゅくと湧出する大量の愛蜜でトロトロの状態だった。  
それどころか、発情させられてぷっくりと膨らみ、厚ぼったさを増した恥丘の傍を、  
女エルフのむっちりとした太ももが通り過ぎただけで、ゾワゾワと甘い電流が背筋を駆け抜ける始末。  
肉莢からまろび出た淫核は、まるで、胸ばかり弄ばれるのは不満だ、と主張するかの如く、  
ピクピクと微細な痙攣を発しつつ、発情のシグナルを発信し続けている。  
 
――――だが、徹底的に焦らされ、極限状態に留め置かれた上で、  
一転して、一気呵成の責めにさらされた双乳を襲っていた昂ぶりは、それを遥かに凌駕していたのである。  
 
「んくっ、ふぐぅぅッ!!」  
 
搗きたてのお餅よろしく柔かく揉み解された脹らみが無造作に持ち上げられて扱き立てられる。  
同時に、デルフィナの妖艶なクチビルが、左胸の先端に有る、真っ赤に充血した突起へと吸い付き、  
白くしなやかな手指が、反対側にあるカチコチにしこったそれを摘み取った。  
たちまちのうちに、胸乳に溜め込まれた情欲の滾りが熱い衝動と化し、今にも爆発しそうになる。  
 
(くうぅぅッ・・・・弄ばれてる・・・・わたしのオッパイ、オモチャ扱いされて・・・・ひぁああぁッ!!)  
 
偽りの授乳感覚がもたらす女の喜悦に、背筋がゾクゾクと粟立った。  
乳首は勿論、至る所に無数の快感神経が集約されている乳房を、  
ブロンド美女の磨き抜かれたテクニックが、驚くほど甘く、優しく、愛撫してくる。  
右手は、ちゅうちゅうと卑猥な水音を放ちながら吸い立てられている乳輪をテクニカルに揉みしだき、  
左手は、右の乳房と乳首を巧みに愛撫して、性感を昂ぶらせていた。  
黄金の胸甲を剥ぎ取られ、押さえる物の無くなった脹らみが根元からグニグニと揉み込まれるたび、  
たっぷりの牝汁が詰まった瑞々しいフルーツが、タプン、タプン、と揺れ動く。  
勿論、若く、張りのある乳肉は、どんなに乱暴に捏ねくり返されようとも、  
圧迫に屈する事など知らないかの如く、すぐに元の美しい曲線を取り戻すのだったが。  
 
ぴちゅッ・・・・ちゅぱッ・・・・ぶちゅるるッ!!  
 
形の良いクチビルに吸い付かれた乳首の方も、  
オッパイ以上の官能の波に晒されて、熱い痺れに包まれていた。  
猫科の愛玩動物を思わせる、女エルフのざらついた舌先が表面に触れるたび、  
極細の乳腺にまで刺激が伝わり、内側からの疼きがじんじんと高まっていく。  
その上、両手による揉み回しと連動する形で、脹らみが大きく弾んだ瞬間に、  
コチコチに勃起した突起が口元に咥えられたり、軽く歯を立てて甘噛みされたりして、快楽が倍加されてしまう。  
 
「きひぃいいッ!!き、気持ちいいよぉッ・・・・オッパイが・・・・ふはぁあ・・・・ヘンになっちゃうッ!!」  
 
巧緻を極める乳責めに、表情を蕩けさせつつ悶え狂う、蒼髪の少女。  
桜色に染まった乳果にはたっぷりと唾液を含んだ口腔粘膜が奇怪なツタ植物のように絡み付き、  
次から次へとエクスタシーの波動を送り込んでくる。  
手前から奥へ、そして、また手前に、グルグルと渦を巻き、グネグネとうねる波紋を描きながら、  
執拗でありつつ、同時に、動きが単調に陥らぬよう、細心の注意を払って這い回る肉ナメクジは、  
ピクピクと跳ね踊る淫蕩なサクランボを舐め転がし、美味しそうにしゃぶり続けている。  
 
「はぁひぃぃッ!!んふぁあッ・・・・あくぅううッ!!」  
 
客室中に響き渡る、喜悦の色濃く滲んだ、あられもない嬌声。  
ヌメヌメとした舌先に敏感なポイントを集中攻撃されて、  
蒼髪の少女は切迫した悲鳴を漏らし、総身を打ち震わせた。  
肉のナメクジが動き回るたび、えも言われぬ快楽電流がしなやかなカラダの内側を駆け巡り、  
鼻先に小さな星屑が舞い散って、僅かに残っていた理性さえ粉々に打ち砕いていく。  
 
・・・・乳房を掴み取る。揉み回す。締め付ける。  
・・・・乳輪をくすぐる。摘む。捻り、引っ張る。爪の先で引っ掻く。  
・・・・乳首にキスする。口に含む。しゃぶり上げ、舐め回す。やんわりと歯を立てる。  
 
一連の動作を、リズミカルに繰り返されていくうちに、  
大量に分泌された脳内麻薬の働きで頭の中身が真っ白になっていき、  
全身の血液が瞬時に沸騰してしまったかの如く、煮え滾る灼熱感が体の隅々にまで広がっていく。  
乳房と乳輪と乳首・・・・各々異なる肉悦を発する三箇所の快楽中枢を刺激されるたびに、  
優子は欲情にまみれた喘ぎを迸らせながら、  
壊れかけの自動人形のように背筋を波打たせ、手足の筋肉をガクガクと不規則に痙攣させるのだった。  
 
「アアッ・・・・もう・・・・もう、だめェッ!!  
胸が・・・・オッパイが熱くて・・・・あああ・・・・爆発しちゃうぅぅッ!!!!」  
 
しこりきった乳首にデルフィナの舌先が生き血を啜るヒルのように喰らい付き、容赦なく扱き立てた瞬間、  
目の前の視界全体に真っ白なフラッシュが爆ぜ、今までに感じた事の無い激烈な喜悦が少女の五感を包み込んだ。  
豊かさとしなやかさとが程よく調和した肢体が女エルフの下でビュクビュクと跳ね回り、  
胸元から発した快楽の波動がカラダの隅々まで伝播していく。  
 
ぷしゃああああッッッ!!!!  
 
牝唇に達した衝撃波が子宮を揺り動かし、大量の愛潮を噴き出させる。  
魚のクチバシ状に先端を尖らせた尿道口から放ち上げられた蜜汁は、  
半透明な弾丸となって卑猥極まる放物弾道を描きつつ、  
ベッドの背もたれを飛び越え、客室の壁を、女体の陥落を知らせる淫らなシミで飾り立てていく。  
 
徹底的に焦らし抜かれた末に迎えた絶頂に、  
美しく整った優子の相貌はトロトロに蕩け、欲情にまみれながら、訳も無く泣き崩れていた。  
滝のように流れ落ちる熱い涙を指の腹で優しく掬い取ったデルフィナは、  
呆けかけた表情を浮かべている<現実界>の少女に妖艶に微笑みかけると、  
性的絶頂の真っ只中に投げ込まれて、声にすら出来ない叫びに満たされた口元に、己れの唇をそっと重ね合わせる。  
 
「あむッ・・・・んん・・・・うむぅん・・・・っ・・・・」  
 
少女のクチビルを包み込む、生温かくネットリとした感触。  
それでいながら、デルフィナの口付けは決して不快なものではなかった。  
反対に、どこまでも心地良く、淫熱に冒された心に沁み入って来るかのような、甘美な味わいを伴っている。  
 
(・・・・デル・・・・フィナ・・・・)  
 
ぼうっとした眼差しで、数センチと離れていない所にある、エルフの貌を見上げる優子。  
ブロンドの女戦士は、(少なくとも、少女の前では)一度も見せた事の無い、慈愛に満ちた微笑を浮かべていた。  
 
(・・・・ああ・・・・この女性って・・・・こんな優しい笑い方も出来るんだ・・・・)  
 
エクスタシーの余韻に浸りつつ、  
あたかも母親の乳を求める赤子であるかの如く、デルフィナのクチビルを求める蒼髪の少女。  
無意識のうちに、両腕はパートナーの背中へと回され、  
たゆまぬ鍛錬と戦闘によって、しなやかに引き締まったカラダを、ひしっ、と、掻き抱いていた・・・・。  
 
(――――あの時、デルフィナが本当に癒そうしていたのは、  
自分の腕じゃなくて、私の心の傷だったのかもしれない・・・・)  
 
あの時の女エルフの仕草を真似て、  
目元に溜まった涙を指の腹でそっと拭い去る、<ヴァリスの戦士>。  
 
勿論、彼女の死は辛く、悲しかったが、  
それ以上に、最後の瞬間まで、誇り高い<戦士>として振る舞い続けた事、  
そして、志を同じくする友として、文字通り、生命を燃やし尽くしてくれた事に対して、  
心からの感謝と敬意を感じずにいられなかった。  
 
(約束するわ。あなたの死を決してムダにはしない、って!!)  
 
<ヴァリスの剣>と<レーザスの剣>、  
三界を調和へと導く力と変化をもたらす力を具現化した、二振りの<剣>を両手に握り締め、  
戦友が、生命と引き換えに切り開いてくれた道を、ひたすら突き進んでいく優子。  
薄青色の双眸からは、すでに涙は消え去り、  
かけがえのない者から引き継いだ使命を生命を賭してやり遂げねば、という固い決意が、  
最下層に近付くにつれてどす黒さを増していく闇の気配にもたじろがない、清明な光となって輝いている。  
 
「見守ってて頂戴、デルフィナ・・・・麗子は、必ず救け出してみせる――――!!!!」  
 
 
――――<暗黒界>。ログレス城地下。最深奥部。  
 
『地上は、随分と騒がしいようだな。カトンボ共が・・・・』  
 
漆黒の闇の中に佇む、暗黒の支配者。  
無機質な光沢を湛えた黄金色の仮面の奥で、<ヴェカンタ>がチロチロと赤黒い焔先をのぞかせている。  
地上部分に築かれた城塞では、今頃、側近や将軍たちが、  
時空の回廊を抜けて<暗黒界>への突入を果たした、<ヴァリスの戦士>とアイザードの残党を迎撃すべく、  
全軍に召集をかけ、蜂の巣を突付いたような騒ぎになっている筈だが、もはや、自分の知った事ではなかった。  
 
(どのみち、城などは飾りに過ぎぬ・・・・軍団や艦隊とて同じよ。  
せいぜい、時間稼ぎにでもなれば良いわ)  
 
フン、と鼻を鳴らしつつ、ログレスは頭上を仰ぎ見た。  
聳え立つのは、巨大な黒い壁――――否、見上げる程に巨大な黒水晶の塊・・・・。  
物質としての実体を得て、<ヴェカンタ・オア>と化した<暗>の魔素と、  
そして、それを幾重にも縛めている朽ちかけた鎖、だった。  
赤茶色の錆びに覆われた縛鎖を構成する、無数の鉄環の一つ一つには、  
太古の昔より現在に至るまで忌々しい封印の力を宿し続けている、呪紋がびっしりと刻み込まれ、  
気の遠くなるような長い年月を経て、<ヴェカンタ>に曝され続けるようになった今日もなお、  
内部に閉じ込められた邪悪な存在の解放を頑強に阻んでいた。  
 
『奴らの好きにはさせぬ。  
あと一歩・・・・あと一息なのだ・・・・』  
 
――――ドクン、ドクン、ドクン・・・・・・・・。  
 
低く囁くようなログレスの声に応じるかの如く、  
周囲を覆う常闇よりもなお、暗く、黒々とした、<ヴェカンタ・オア>の結晶の中から、  
巨大な"何か"が息づく禍々しい胎動が、  
<夢幻界>の支配者たる<幻想王女>ヴァリア自らの手によって施され、  
暗黒王その人の力を以ってしても、未だ触れる事さえままならない封印を越えて伝わってくる。  
どんな妙なる楽の音よりも美しく響き渡る、力強い闇の鼓動に耳を澄ませつつ、  
<暗黒界>の支配者は高々と両腕を掲げ、<暗>の御子に向かって讃頌の言葉を呟くのだった。  
 
『目醒めの刻は、もう間近い。  
古の封印が解け、アレが産声を上げた瞬間に、  
旧き<世界>は残らず滅び去り、新たなる天地創造が始まるのだ・・・・』  
 
(そのためには、今一度だけ、彼奴の働きが要る・・・・不本意ではあるがな)  
 
仮面の下で、不快げに表情を歪める暗黒の王。  
本来であれば、<ヴェカンタの戦士>として力を与えられた身でありながら、  
己れの本性を見失い、事もあろうに<ヴァリスの戦士>として再覚醒した者など、  
最下級の奴隷としてさえ、生かしておきたくはなかったのだが。  
 
だが、ヴァリアによって<現実界>から召喚された、優子という名の小娘によって、  
彼が盤上に揃えていたゲームの駒――――-<暗黒五邪神>は悉く喪われ、  
現時点で手許に残っているのはあの赤毛の裏切り者だけだった。  
好むと好まざるとに関わらず、  
もう一度、麗子を己れの<戦士>として戦場に送り出さねばならない理由が、ログレスには存在しているのである。  
 
(・・・・とはいえ、所詮は負け犬、過大な期待などしておらぬ。  
要は、<ヴァリスの戦士>を釘付けに出来れば良いのだ。古の封印が破れ、アレが目を醒ますまでの間だけ。  
――――その後はあのようなクズなど用済みよ。  
予の創り上げる新たなる天地に、彼奴の居場所などありはせぬわッ!!)  
 
 
 
――――――――TO BE CONTINUED.  
 
 

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