ヴェカンティ。風邪アイザードの封土。  
黴臭い空気の充満する、洞窟の中の実験室――――。  
 
「もう一度訊くわ・・・・あたしの優子に何をしたのッ!?」  
 
ベトベトと肌に纏わり付く不快な湿気に苛立ちを募らせながら、  
赤毛の少女は、陰気な部屋の主を鋭い視線で睨みつける。  
・・・・だが、プラチナ・ブロンドの青年は平然とした態度を崩そうとはしないばかりか、  
色素の乏しい唇に薄く笑みを湛えて、碧色の双眸を挑発的に輝かせていた。  
 
背後に鎮座するのは、禍々しく黒ずんだ石の祭壇。  
台上には、意識を失った蒼髪の<戦士>が横たわり、  
邪悪な魔道の紋様の刻まれた実験台の縁からこぼれ落ちた片腕が、力無く揺れている。  
返答を待つまでも無く、その身に起きた出来事は一目瞭然だった。  
 
「・・・・別に、大した事はしてませんよ。  
今は気を失っていますが、じきに目も覚めるでしょう」  
 
しれっとした口調で言ってのけるアイザード。  
たしかに、少女の身体はぐったりと脱力しているものの、  
黄金の防具に包まれた胸元は未だ上下運動を止めてはいない。  
それを確認した麗子の口元に、ほんの一瞬だけ、安堵の微笑が浮かび上がった。  
 
・・・・だが。  
緩みかけた表情は、魔道士の妙になれなれしい口調によって、  
再び怒気を取り戻し、引き攣るように強張っていく。  
 
「そんな怖い顔をしなくたって良いじゃありませんか?  
こう見えても、私は味方なんですよ。  
現に、君の勝手な振る舞いだって、あの御方にも一言たりとも報告していないんですから・・・・」  
 
「・・・・・・・・」  
 
「・・・・うるさい」  
 
吐き捨てるような呟きと同時に、  
<影の剣>が鞘走り、魔道士の青白い喉元へと突きつけられる。  
 
「これ以上、その汚らわしい舌を動かしてみろ。  
二度と口をきけなくしてやるッ!!」  
 
どす黒い憎悪を煮え滾らせる暗黒界の<戦士>。  
発した科白が単なる脅しではない事を示唆するかの如く、  
漆黒の刀身からは、赤黒い邪気――――<ヴェカンタ>が立ち昇っている。  
 
・・・・だが、次の瞬間、言葉を途切れさせたのは、麗子の方だった。  
 
――――ギィイインッッッ!!!!  
 
突如として横合いから襲いかかってきた斬撃が、  
アイザードの首筋へと伸びていた漆黒の切っ先を絡め取り、巻き上げた。  
予想だにしなかった――――否、出来なかった――――衝撃を受け止めきれず、  
ぬばたま色の愛剣は、いとも簡単に白い指先から弾き飛ばされ、  
ひどく耳障りな軋み音を発しながら、洞窟の天井へと吸い込まれていく。  
 
「なッ・・・・バ、バカなッ・・・・!!」  
 
信じられない、という表情で、空っぽになった利き手を見つめる赤毛の少女。  
もしも、狙われたのが<剣>でなく、肘か腕だったならば、  
痛みを感じる間もなく、不恰好な切り株へと姿を変えられていたに相違無い。  
それ自体もさる事ながら、麗子を愕然とさせ、凍り付かせたのは、自分に痛打を浴びせた相手が、  
ほんの数秒前まで、ボロ雑巾のように転がっていた筈の少女であるという事実だった。  
 
「ぐ・・・・ううぅッ・・・・は、謀ったな・・・・アイザード!!」  
 
<ヴァリスの剣>を油断無く構えた優子の表情は、  
まるで蝋で出来た仮面の如く、感情らしきものの存在が全く感じられない。  
彼女の身に何が起きたかを悟った<ヴェカンタの戦士>は、  
無念さの滲む目で暗黒界随一の謀将を睨みつけた。  
 
 
夢幻界。ヴァニティ城。祈りの間。  
 
遥か頭上に設えられた水晶の丸屋根から美しい七色の光彩が降り注ぎ、  
法衣を纏った線の細い少女を優しく包み込んでいた。  
 
名を、ヴァルナ、という。  
ヴァニティ城の主であり、数千年の長きに渡って夢幻界を統治してきた超越的存在、幻想王女ヴァリアの娘。  
現時点では偉大な母親には及ぶべくも無いが、  
その魂に秘められた力を覚醒させた暁には、玉座の禅譲を受け、  
同時に、<明>の力の源泉である、<ファンタズム・ジュエリー>を引き継ぐ事を約束された存在・・・・。  
 
神に程近い存在であるヴァニティの王族は生殖のために異性を必要としない。  
ヴァルナもまた、母親であるヴァリアの単性生殖により、この世に生を受けた貴種だった。  
おそらくはそのせいだろう、すっきりと整った目鼻立ちは、  
ヴァリアに似て、というより、瓜二つと言って良いくらいヴァリアに生き写しである。  
もっとも、帝王としての威厳も神族としての聖性も未だ十分に備わっていない相貌には、  
何もかもが完成され尽くした感のある母親とは異なり、  
あどけなさと親しみ易さ(あるいは、子供っぽさと頼り甲斐の無さ)が同居しているのだが。  
 
「・・・・ふぅ・・・・」  
 
先刻来、聖所に籠ったヴァルナは、  
安置されている二つの霊石――――優子が奪還したジュエリーの欠片――――に手をかざし、  
思念を集中して、<戦士>の動静を把握しようと努めている。  
だが、彼女自身が術者として未だ熟練の域には達していないためだろうか、  
その試みは、今の所、大した成果を生む事無く、時間のみを無為に費やしている状況だった。  
 
「・・・・ここにいたのですか、ヴァルナ」  
 
「あ、お母様・・・・」  
 
静かな衣擦れの音と共に、愛娘の許へと近付いてくる幻想王女。  
話し方も立ち居振る舞いも、臣下に接する際のそれではなく、  
血を分けた娘に対する母親としての情愛に満ちたものであるにも関わらず、  
ある種の気後れを感じてしまうのは、やはり、彼我の存在感に埋め難い開きがあるためだろう。  
無論、彼女とて、暗黒界との戦いさえ無かったならば、本格的な後継者としての教育を授け、  
今頃は支配者としても術者としても、持てる力を十全に開花させていた筈なのだが・・・・。  
 
「<ヴァリスの戦士>の様子が気になって。  
・・・・ファンタズム・ジュエリーを通して見ようとしたのですが、なかなか上手くいかなくて・・・・」  
 
ため息交じりのヴァルナの言葉に、  
夢幻界の女王は、(内心、やるせなさを覚えつつも)静かにかぶりを振ってみせる。  
たしかに、愛娘自身が認めている通り、能力的にはまだまだの部分が多いのは事実だが、  
今回の試みが上手く行かない理由は別に存在していたのだから。  
 
「無理もない。このような小さなカケラでは。  
昔はあの天井に達するほど巨大だったジュエリーも、今ではたった・・・・」  
 
幻想王女の視線ががらんどうの空間を寂しげに上下する。  
夢幻界創造の際、自分の降誕と時を同じくして生成された、<ファンタズム・ジュエリー>。  
<明>の力によって調律され、あまねく世界に光を送り続けてきたエネルギーの源も、  
暗黒界との果てしない闘争の中で少しずつ失われ、今や僅かな欠片が残っているに過ぎない。  
しかも、そのうちの幾つかは、奸智に長けた裏切り者によって暗黒王ログレスの許に売り渡され、  
暗黒五邪神と呼称されるヴェカンティの魔将達によって守られているのだった。  
 
(それも皆、私の力の衰えゆえかもしれません。  
・・・・あるいは、私の役目が終わる日も近い、という事なのでしょうか・・・・)  
 
純白の法衣の袖の内側で、ほっそりとした手が拳を作り、固く握り締められる。  
自らの側近くに仕え、ヴァニティ城の最重要区画にも出入りを許される立場にあった者が、  
<暗>の力に魅せられ暗黒界に走るなど、以前ならば到底考えられなかった。  
情報によれば、ログレスに忠誠を誓った彼・・・・アイザードは、  
<ジュエリー>奪取の功と昨日まの同胞たる夢幻界の民への仮借ない攻撃によって寵愛を獲得し、  
ついには暗黒五邪神の一将に名を連ねるまでに取り立てられたという――――。  
 
「・・・・一度だけ、優子の目を通して、あの男の姿を見ました。  
もしかしたら、行方がとらえにくくなっているのは、  
<ファンタズム・ジュエリー>だけのせいではないのかも・・・・」  
 
ヴァルナの分析にゆっくりと頷き返す夢幻界の女王。  
愛娘の推論は、おそらく、否、間違いなく正鵠を射ている筈だ。  
あの狡猾な青年ならば、<ジュエリー>だけでなく、<戦士>にまで食指を伸ばしていたとしても不思議は無い。  
そういえば、最近、彼女の力に、何か不安定な・・・・揺らぎのようなものが現れるようになったのだが、  
これも何か関係があるのだろうか・・・・?  
 
(暗黒界側の召喚した<戦士>・・・・アンチ・ヴァニティの力・・・・?  
・・・・しかし、何故?ログレスならば兎も角、彼の臣下に過ぎない筈のアイザードが・・・・)  
 
アイザードの魔力で作り出された悪夢の中。  
鬱蒼と木々の生い茂る薄暗い森を抜け出せぬまま、彷徨い歩く<ヴァリスの戦士>。  
 
「・・・・はぁっ・・・・はぁ・・・・はぁ・・・・」  
 
・・・・何だろう?  
<鎧>が少し重くなったような気がするのは。  
まさか、戦いが続いたせいで疲れが溜まってるとか?  
 
「それにしても、何処まで続いてるのよ、この森・・・・」  
 
すでに時間の感覚は失われて久しく、  
どれくらいの間、緑の迷宮を彷徨い歩いているのか、見当もつかない。  
<ヴァリス>の加護によって護られているせいだろう、飢えも渇きも感じないのは有難かったが、  
陰鬱な風景の連続に、いい加減、神経が滅入りそうだった。  
時折、黄金の甲冑から聖玉の力が開放されて、  
この森のどこかにある――――と思い込まされている――――聖玉の欠片を探知しようとするものの、  
戻ってくる反応は微かで、頼りないものばかり・・・・精神的な疲労だけが蓄積されていく。  
 
「でも・・・・探し出さなければ・・・・<ジュエリー>を・・・・麗子を救うためにも・・・・」  
 
――――淀んだ空気の垂れ込めた実験室。  
 
「フフフ、どうです?意地を張ってないで、あなたもこっちに来て楽しみませんか?」  
 
そう言って、アイザードは、背中から四枚の透き通った羽根の生えた青緑色の肌の女達  
・・・・邪悪な魔道の実験により生み出された異形の侍女に、血の色をした飲み物を用意させると、  
赤毛の少女に対して、優雅な仕草でクリスタルの酒盃を傾けてみせる。  
ジメジメとした部屋の隅で膝を抱えて座り込んでいた彼女は、  
返事の代わりに、嫌悪感も露わに表情を歪め、煮え滾る怒気を湛えた目で彼を睨み返した。  
 
「やれやれ、とりつくシマもありませんねぇ・・・・」  
 
軽く肩をすくめたブロンドの魔道士は、気分を変えようと思ったのか、  
暗紫色の液体を口に含むと、足元に跪くもう一人の少女に小さく目くばせする。  
そして、先刻の俊敏さから一変した緩慢な動作で顔を上げた蒼髪の虜囚に向かい、  
麗子に聞こえるよう、わざと大きな声で下半身への奉仕を命じた。  
トロリと酒に酔ったような光を湛えた薄青色の双眸の奥で、一瞬、何かがざわめく気配がしたものの、  
結局、一言も発しないまま、優子は侍女達の手を借りて主の衣服を脱がせ始める。  
 
じゅるッ・・・・ちゅじゅッ・・・・ぶじゅる・・・・じゅちゅるるッ・・・・!!  
 
耳朶の内側に押し寄せる、淫靡な水音。  
叫び出したくなるのを必死で堪え、冷静さを保とうとする<ヴェカンタの戦士>だったが、  
容赦なく鼓膜に殺到してくる粘っこい旋律は、否応無く、身体の芯を火照らせていく。  
 
青黒い血管の浮き出た肉の塊に丹念に舌を這わせ、  
柔かい口腔粘膜と固い上顎の違いを利用して敏感な亀頭部を責め立てる音。  
歯先を使って優しく甘噛みしつつ、  
ネチョネチョと男性器を舐めしゃぶり、喜悦の反応を確かめる音。  
先端部分を使ってたっぷりと塗り広げた唾液を、唇を使って綺麗に拭き取り、  
その上からもう一度、ヌルヌルとした涎汁を掛けて磨き上げていく音・・・・。  
 
(・・・・ゆ、優子・・・・まさか、本当に・・・・?)  
 
麗子の見つめる中、蒼髪の少女は、  
未だ熟練には程遠い技術ながらも、教え込まれた手練手管を駆使し、魔道士の剛直に奉仕し続ける。  
その外見は、暗黒界の軍勢を相手に聖なる剣を振るっていた時と何ら変わっていないにも関わらず、  
何か決定的なものが喪われ、あるいは、変質してしまっているように思えてならなかった。  
 
「最低ね・・・・悪趣味にも程があるわッ!!」  
 
口では強がってみせる麗子だったが、  
先刻からずっと、漆黒の肩当ては微細な震えに覆い尽くされていた。  
クラスメイトの唇が、舌が、歯茎が、卑猥きわまる音楽を奏でるたび、  
まるで自分自身の肌が舐め回されているかのように、  
胸の奥はチリチリと燃え、汗ばんだ背中にも、ピクン、ピクン、と断続的な痙攣が現わる。  
 
「フフフ、どうしたんです?顔を赤くして、もしや、熱でもおありなのでは?  
だとしたら一大事・・・・ここで君の身に何かあったら、私がログレス様からお叱りを受けてしまいます。  
さあさあ、遠慮などなさらず、どうぞこちらへ・・・・」  
 
陰茎のみならず、睾丸や太腿にまで口唇奉仕を要求しながら、  
アイザードは、慇懃無礼そのものの口調で、少女の足掻きを嘲笑する。  
――――くぅうッ、と擦れ声で呟き、悔しげに下唇を噛み締める赤毛の少女。  
その様子に、嗜虐欲求を大いに刺激された暗黒界一の陰謀家は、  
狡猾な笑いを浮べつつ、更なる言葉の鞭を打ち鳴らした。  
 
「・・・・<戦士>として、勇猛果敢なのは大変に結構な事なんですがねぇ。  
でも、少しくらいは殊勝な態度も見せてはいかがでしょうか。  
元はといえば、今回の騒動は君の軽率な行動が発端だった訳ですからねぇ・・・・」  
 
「なッ・・・・言わせておけばッ!!」  
 
ギリリッ、と奥歯を噛み鳴らし、屈辱に耐える<ヴェカンタの戦士>。  
もっとも、この点に関しては、アイザードの言い分の方に理があった。  
何しろ、元々、ログレスは、彼の献策を容れて、  
強奪したジュエリーを夢幻界からも暗黒界からも隔絶した異空間に分散して秘匿する事により、  
ヴァリアの消耗を促進しつつ、夢幻界中枢に侵攻するための準備時間を稼ぐ、という戦略をとっていたのだが、  
それをご破算にしてしまった張本人が、他ならぬ麗子なのだから。  
 
「・・・・あのまま、もうしばらく時間を置いていれば、現実界から<戦士>を召喚する事さえ困難となっていた筈。  
なのに、君が、陛下の命令と偽ってガイーダをけしかけた結果、例の石の一つが夢幻界に戻り、  
力の一部を取り戻したヴァリアに導かれて彼女は夢幻界に辿り着いてしまった・・・・違うかい?」  
 
問いかけながら、暗黒界の魔道士は、チラリ、と優子に一瞥を走らせ、  
相変わらず、一心不乱に――――というよりも、むしろ、ゼンマイ仕掛けの自動人形のような動きで、  
性奴隷としての務めを忠実に果たし続けている様子を確認して、小さく笑みを漏らした。  
深層心理に幾重にも張り巡らせた催眠暗示は、どうやら会心の掛かり具合らしい。  
未だぎこちなさは抜けきっていないが、汗の粒に覆われた長い髪を小刻みに揺らしながら、  
咥えた逸物を口腔粘膜でくるみ、張り出したエラの窪みに沿って舌を這わせていく姿は、  
得体の知れないオーラに包まれ、拙い技量を補って余りある淫靡な雰囲気を醸し出している。  
 
「――――先刻だって、折角、あと一歩の所まで優子を追い詰めたにも関わらず、  
トドメを刺さずに己の欲望を満たす事に熱中し、結局、折角の獲物を横取りされてしまったでしょう?  
あれが私だったから良かったものの、もし、夢幻界の者に彼女を救い出されでもしていたら、  
今頃、君は、陛下のご不興を買う羽目に陥っていたかもしれませんねぇ」  
 
他人の獲物を横から掻っ攫った挙句、  
それを親切心の現われとまで言ってのける厚顔無恥な口上に、  
麗子の堪忍袋の緒は完全に断ち切れ、蓄積された怒りが雷鳴となって轟き渡る。  
 
「だったら、もう一度、コイツと戦わせなさいよッ!!  
こんな腑抜けた姿じゃない、まともな状態で!!  
その場でハッキリさせてやろうじゃない、あたしが<戦士>としてふさわしくないかどうかをッ!!」  
 
・・・・しかし、一方で、絶え間なく木霊して来る、ピチャッ、ピチャッ、という淫靡な吸着音は、  
少女の心に本能的な恐怖を呼び起こし、えずきとなってこみ上げてきている。  
こめかみをピクピクと脈打たせながらまくし立てた怒声でさえも、  
響きの奥には微かに震えが走り、口の中はカラカラに渇ききっていた。  
憤怒に赤く染まった形相は半分は本物だったが、残りの半分は焦りと恐れを隠蔽するための作り物に過ぎず、  
感情は、魔道の技によって精神を冒された元クラスメイトへの動揺によって掻き乱されている。  
それは同時に、(自分が為し得なかった)彼女の完全征服に成功した男の姿に、  
耐え難い敗北感と劣等感とを意識に刻み付けられた事の裏返しでもあったのだが・・・・。  
 
「ふぅむ・・・・」  
 
束の間、青年の碧色の双眸が思案げに宙を漂う。  
引き込まれるように体を乗り出す麗子・・・・  
知らぬ間に、その心は、九割方、アイザードの術中に嵌り込んでいたのだが、  
冷静さを失った彼女は、未だこの事に気付いてさえいなかった。   
 
(なかなか面白いアイデアですが・・・・出来れば、もう一捻り欲しいところですねぇ)  
 
笑いを噛み殺しながら、、夢幻界生まれの魔将軍は手玉に取った二人の顔を見比べる。  
逞しい男根を頬張りながら、焦点の合わない瞳で自分を見つめる<ヴァリスの戦士>と、  
己れがどれだけ危険な状況に置かれているのかも把握できないまま、  
激情に任せて、闇雲に食って掛かってくる<ヴェカンタの戦士>・・・・。  
対照的な取り合わせの両者の表情を観察しているうちに、彼自身も徐々に興奮を掻き立てられたらしく、  
どのみち手中に帰すのならより徹底的にものにしてやろう、という暗い情熱が湧き上がってくる。  
 
(フフフ、どうしましょうねぇ・・・・?  
折角、麗子が自分から言い出してくれたのですし、利用するのも悪くないでしょう。  
でも、その前に・・・・)  
 
グラスの中の芳醇な液体を飲み干した魔道士が、優雅な仕草で酒盃を侍女に戻し、  
それから、おもむろにどす黒い情念のこもった眼差しをひと薙ぎさせた。  
直後、主の意を察した人造生物たちが一斉に優子の体を絡め取り、身動きを封じてしまう。  
 
「とりあえず、埒を明けさせて頂くとしましょうかッ!!」  
 
――――ぶびゅッ!!ぶちゅぶりゅるッッッ!!  
 
喉奥に聳える淫肉の塊が、ビュクン、と爆ぜ、  
決壊した筒先から熱く煮え滾った牡液が鉄砲水のように噴出した。  
輪精管が、ビクビクッ、と、大きく痙攣を発し、  
極限まで大きさを増した亀頭が狭い口腔粘膜の間を跳ね回る。  
本能的に異物を吐き出そうとする少女だが、  
猛烈な勢いで精を撒き散らす悪魔の槍先からの退路はすでに断たれてしまった後だった。  
 
「んぶッ・・・・うぶぅうッ!!げはぁッ・・・・あう・・・・ぅぐう・・・・むぐぅあああッ!!」  
 
傍若無人に跳ね回る暴れ棒の先端から、夥しい量の精液が放出され、  
生温かい牡液が、喉奥から唇に至るあらゆる場所を不浄な白濁で染め上げていく。  
気道に流れ込んだ汚れ汁が喘息患者のような激しい咳を引き起こしたかと思えば、  
食道から胃袋の底にまで侵入したネバネバ液は猛烈な拒否反応で迎えられ、  
おぞましい嘔吐感へと姿を変えて口元へと逆流していく。  
パニックに陥った優子は、胃液と唾液と精液が入り混じったドロドロの液体を吐き散らし、  
不潔な石床の上をゴロゴロとのたうち回った。  
 
(・・・・あああ・・・・こ・・・・こんなのって・・・・)  
 
凄惨な光景に、我知らず、顔を背ける麗子。  
実験室の石壁に反響する苦悶の喘ぎと激しい吐瀉音の前に、  
暗黒界の<戦士>の怜悧な顔つきはとうに消え失せていた。  
しばらくの間、冷やかな目でその様子を見下ろしていたアイザードは、やがて、無言のまま、  
胃の内容物を全て吐き出した後もえずきが収まらずにいる少女を強引に引き摺り上げると、  
放出を終えたばかりだというのに、もう凶悪な怒張を回復している股間のイチモツを、無理矢理に頬張らせた。  
 
「フフフ、良いですよ・・・・実に良い。  
口の中がビクビクと痙攣して、たまらない感触ですねぇ」  
 
いかがわしい笑みを浮かべた魔道士の双眸が、赤毛の少女を舐め回す様に眺めやる。  
恐怖と嫌悪によって相貌を青白く引き攣らせた麗子は、  
まるで、自身の唇の間にも、目には見えないおぞましい異物が突き入れられているかの如く、  
こみ上げてくる嘔吐感と必死に闘いながら、小刻みに身体を震わせている。  
 
(ひ・・・・酷い・・・・酷すぎるッ!!)  
 
俄かには信じ難い事だったが、情け容赦なく蹂躙される元クラスメイトの姿を見ていると涙腺が緩み、  
お願いだからもうやめてくれ、と、叫び出したい衝動が湧き出してくる。  
あれほど憎しみを募らせ、消えていなくなれば良い、と呪い続けていた相手だというのに、  
<戦士>としての誇りはおろか、少女としての清純さも、人間としての尊厳も、何もかも踏み躙られ、  
圧倒的な暴力と魔道の技とで強制的に服従させられているのを目の当たりにしていると、  
何故なのか、自分でも理解不能な理由ながら、押し潰されるような苦痛で胸が塞がってしまうのだった。  
 
(ククク・・・・睨んだ通りですねぇ、『麗ちゃん』は。  
――――まあ、だからこそ、あの御方は、彼女を選んだのでしょうけれども・・・・)  
 
青白く引き攣った麗子の表情を眺めやりながら、小さくほくそえむアイザード。  
目の前にいる小娘は(おそらく)何一つ知らされてはいないだろうが、  
彼女が暗黒界に召喚されたのは<戦士>としての天分を備えていたからでは決して無い。  
単に<ヴァリスの戦士>・・・・今や牝獣の境遇に堕ちた哀れな女囚・・・・に対抗できる、  
<アンチ・ヴァニティ>の能力を買われたまでの事に過ぎなかった。  
 
(・・・・何しろ、あの力が発現するのは、  
夢幻界側の<戦士>として選ばれるだけの素質の持ち主が、現実界において育った期間、  
とりわけ、最も多感な時期に、最も精神的に強く結ばれていた者だけですからねぇ)  
 
確かに、その意味においては、麗子は他に取替えようのない貴重な戦力であると言えるかもしれない。  
・・・・だが、それも、優子という相手が存在していてこその話だった。  
夢幻界の最後の切り札が、自我を失い、命じられるままに奉仕を行うだけの性奴隷と化した今、  
<アンチ・ヴァニティ>能力の価値は、消滅したと言って良い。  
無論、召喚された直後とは異なり、現在では彼女自身の力も侮り難い水準に迫っているが、  
これとて、夢幻界が滅んだならば、不要のものとなるのは自明の理だった。  
 
(・・・・まあ、その辺りの事情は、我々暗黒五邪神にしても、似たり寄ったりなんですが・・・・)  
 
「・・・・さぁて、仕上げと行きましょうかッ!!」  
 
――――ビュクンッッッ!!!!  
 
再び肉管が躍動し、熱く煮え滾った体液をぶち撒ける。  
解き放たれた精子の塊は前回の射精時に発射されたものよりも更に濃厚で、  
嗅覚が狂いそうになるような強烈な牡臭を帯びていた。  
勢い余って、口腔内を飛び出したネバネバ汁の飛沫が、痛々しく歪んだ顔面にビチビチと飛び散り、  
青褪めた頬筋の上にグロテスクな水玉模様を描き上げていく。  
 
「・・・・ひゃぶううッ・・・・んぁう・・・・むはぅうッ・・・・ぁはぁあ・・・・はぶぅぅぅッ・・・・!!」  
 
喉奥を満たした汚液を吐き出そうとする優子だったが、  
今度はそれすらも許されず、侍女たちの青緑色の手が寄ってたかって口元を塞いでしまった。  
凍りついた視線で見つめる赤毛の少女の前で、凄惨な苦悶の呻きが響き渡り、  
呼吸を塞き止められた肢体が、ビクビクビクッ、と断末魔の痙攣を発する。  
 
――――次の瞬間。  
居ても立ってもいられなくなった麗子は、無我夢中で立ち上がり、叫び出していた。  
 
「・・・・やめてッ!!優子が・・・・優子が死んじゃうッ!!」  
 
――――悪夢の中。  
 
『・・・・ッ!!優子が・・・・優子が・・・・!!』  
 
(えッ!!な、何、今の声・・・・!!)  
 
樹海の奥から聞こえてきた声に、ハッとして足を止める蒼髪の少女。  
すぐに耳を澄ましてみるが、何も聞こえない。  
 
(・・・・空耳だったのかしら?でも・・・・あれは、たしかに麗子の・・・・)  
 
立ち止まったまま、思案に暮れる。  
・・・・と、その時だった。  
 
(・・・・ッ!?あ、あれは・・・・ッ!?こんな所に、どうして・・・・)  
 
黄金の胸甲に嵌め込まれた深紅の宝玉が燃え上がるような赤い光を発し、  
迸った光条が木立の一隅を明るく照らし出す。  
<ファンタズム・ジュエリー>が指し示した場所にあったのは、  
陰鬱な周囲の風景とは全く不釣合いな、鏡面のようにキラキラと輝く清冽な湧き水。  
聖なる光は、サファイヤ・ブルーの水底に向かって一直線に射し込んでいた――――。  
 
「・・・・おやおや、何を言い出すかと思えば・・・・」  
 
侮蔑も露わに、アイザードはオーバーな身振りで肩をすくめてみせる。  
その仕草によって、我を取り戻した赤毛の少女は、  
続いて、自分が発してしまった言葉に衝撃を受け、全身を凍りつかせた。  
 
(あ、あたし・・・・な、なんて事を、口走ってしまったの!?  
優子が死ぬ、って・・・・当たり前じゃない!!敵なんだからッ!!)  
 
「フン、これで、よく分ったんじゃないか?  
やっぱり、君は<戦士>には不適だよ・・・・能力以前の問題だ」  
 
魔道士の嘲笑が胸に突き刺さる。  
だが、もはや、麗子は、何一つ言い返せなかった。  
最も聞かれてはならない相手に、最も聞かれてはならない秘めた想いを叫んでしまったという事実、  
・・・・そして、己れに対する深刻な猜疑がもたらす、恐怖と無力感が相手では、  
肩を落とし、ブルブルと打ち震えながら、立ち尽くす事しか出来ない。  
 
――――まるで、毎日のように対立し、争い続ける父母を前に、  
為す術も無く泣き暮らすしかなかった、あの日々に戻ったかように・・・・。  
 
(・・・・ち、違う・・・・違うわ・・・・。  
あ、あたしは・・・・そんな・・・・弱い人間じゃ・・・・ない・・・・)  
 
僅かに残ったプライドが必死に抵抗を試みるものの、  
どす黒く濁った負の感情は増殖を続け、精神への腐食は止まらない。  
そもそも、彼女の自尊心の源となっているものは、『桐島家の令嬢』にせよ、『暗黒界の<戦士>』にせよ、  
自分自身の価値とは無関係に、他者から与えられた評価に依存するものに過ぎない以上、  
アイザードの巧みな心理誘導によって噴出し始めた自己不信を止める事は不可能に近い。  
 
「・・・・ひッ!!ゆ、優子・・・・な、何を・・・・あああッ!?」  
 
とどめの一撃とばかりに、背後から忍び寄ってきた蒼髪の少女が、  
しなだれかかるように顔を寄せ、白い液体の跡が生々しく残る口元を近付けてくる。  
生温かく湿った吐息が耳たぶをかすめ、憔悴しきった頬筋を妖しく撫でると、  
おぞましい感触に表情を引き攣らせた麗子からは情け無い叫びが放たれた。  
無様を通り越して滑稽にすら見えるその姿に、目の前の魔道士はあからさまな侮蔑の眼差しを浮かべ、  
周囲に侍る青緑色の肌の魔法生物達までもがキーキーと甲高い声を上げて笑い出す。  
 
「アハハハッ!!いいねぇ、実に素晴らしい。  
麗子、君は本当に刺激的な女性だよ・・・・色々な意味でねぇッ!!」  
 
屈辱に身を震わせる<ヴェカンタの戦士>に向かって、  
底意地の悪いエスプリを織り交ぜた嘲笑を浴びせかける暗黒五邪神。  
反射的に言い返そうとした赤毛の少女だが、一瞬早く、優子の両手が唇と利き腕を絡め取ってしまう。  
つい先程まで、呼吸困難に陥って死にかけていた人間のものとはとても思えない筋力の前に、  
ささやかな反撃は封じ込まれ、失敗に終わった。  
 
「クックックッ、どうやらまだ納得できない様子ですねぇ・・・・まったく、困ったお人だ。  
・・・・では、物分りの悪い君のために、一度だけチャンスをあげるといたしましょう」  
 
狡猾な笑みを満面に貼り付けたアイザードが、怒りと悔しさとで蒼白に変じた顔を覗き込む。  
思わず、唾を吐きかけようとしたが、口元は優子の手で覆われたままだった。  
反対に、指先に残った生乾きの精液の臭いが鼻腔内に侵入したせいだろう、  
生理的な嫌悪感が掻き立られて、身動きすらままならなくなってしまう。  
その様子にゾクゾクするような興奮を覚えた暗黒界の青年は、半ば恍惚となりながら取引の条件を告げた。  
 
「・・・・これから、二人で乳繰り合い、愛の契りを結んで頂きます。  
首尾よく、優子を先に絶頂に導けたならば、  
彼女にかけた暗示を解いて、お望み通り、五分の状況で勝負をさせて差し上げましょう・・・・」  
 
「・・・・んッ!!むぐぅッ!!」  
 
白い指の間から漏れる、激しい動揺を孕んだ息遣いにはお構いなく、  
アイザードは、しれっ、とした口調で要求の言葉を紡ぎ続ける。  
 
「無論、私は手出ししませんし、あの御方にも報告はいたしません。  
・・・・どうです、決して悪い取引ではないでしょう?」  
 
「ううッ!!ぐうぅ・・・・」  
 
呻くような喘ぎを漏らした直後、  
憤激で血走った両目を、カッ、と見開き、目の前の卑劣漢を睨みつける麗子。  
 
――――だが、今の彼女に可能だったのはここまでだった。  
どう足掻いてみたところで、優子を押さえられている以上、魔道士の意向に逆らう事など出来はしない。  
この男の狙いが自分の従属にあるのは明白だったが、  
同時に、それが不可能と判断したならば、彼女をログレスの前に差し出すのを躊躇いはしないだろう。  
そうなれば、ヴェカンティの支配者の寵愛は彼へと移り、  
暗黒界における自分の立場は、(夢幻界との戦いの終わりを待つまでも無く)完全に失われてしまうに違いない。   
 
――――ぴちゃッ・・・・ぴちゅッ・・・・ちゅるッ・・・・ぴちゅるるるッ!!  
 
淀みきった空気の中、粘ついた吸着音が陰鬱な音色を響かせていた。  
籐椅子の肘掛けに頬杖を突きながら、  
暗黒界随一の策謀家は、聳え立つ肉の槍先に奉仕を開始した赤毛の少女を値踏みする。  
冷やかな視線の先では、<ヴェカンタの戦士>が、黒いバンダナの下の眉間に深い皺を刻みながらも、  
口に含んだ男根を、吸い立て、舐めしゃぶり、扱き上げていた。  
 
「・・・・見ての通り、優子は私を満足させるために体力を使っているからねぇ。  
このまま勝負させたのでは公平じゃないし、君だってそんな戦いは受け容れ難いでしょう?」  
 
フェアプレイの精神など薬にしたくても無い筈の男の物言いに再び激怒する麗子だが、  
もはや、どんなに理不尽な要求であっても、受諾以外の選択肢は存在しない。  
もっとも、掛け値なしの清純派だった級友とは違って、彼女には、  
現実界にいた頃、すでに何人かの相手と"不純異性交遊"を繰り返していた"実績"があったせいか、  
無理強い同然の形での性交という点を許し難く感じたのは兎も角、  
異性の性器を愛撫する行為自体への抵抗感は薄かったのだが。  
無論、アイザードの強請は、その辺りの事情も全て知悉した上でのものだった。  
 
「さあ、咥えてください。  
・・・・ああ、優子、私が精を吐き出すまでの間、君は少し体を休めているんだ。いいね?」  
 
加えて、突き出された男性器が人間離れした巨大なサイズでも奇怪な形状でも無かった点も、  
抵抗感を薄めるのに一役買っていた。  
・・・・とはいえ、本来の敵である優子以上に憎らしい、卑劣漢への奉仕はやはり苦痛でしかなく、  
ともすれば、この醜い肉の塊を噛み千切ってやりたい、という衝動が胸の奥に湧き上がってくるのだが。  
 
「ほぉら、さっさと口を開けるんだ。  
そうそう、それでいい・・・・やり方は分かってるんだろう?さあ、早く楽しませてくれ・・・・」  
 
(くッ・・・・急かさなくったって、やってやるわよ、変態男ッ!!)  
 
覚悟を決めた少女は、瞼を閉じて目の前の肉突起へとかぶりつくと、  
むわぁっ、と広がったアンモニア臭と生乾きの精液の感触とに内心閉口しつつ、  
唇をすぼめてエラの張った鈴口を締め付け、舌の先端で亀頭の表面を舐め回し始める。  
無論、こんな男の言いなりになるのはどうしようもなく癪なのだが、  
一方で、どうせ避けられないならば早々に済ませてしまえ、という半ば自棄気味な感情が働いたのも事実だった。  
 
「ううッ!?さ、さすがに上手いですね・・・・一体、何処で習ったんでしょうか?」  
 
皮肉を無視して、黙々と口唇愛撫を継続する<ヴェカンタの戦士>。  
味蕾の表面でピリピリと弾ける刺激感を我慢し、雁首の窪みに沿って舐め進み、  
こびり付いた恥垢をこそぎ取るようにして丹念に扱き立てていくと、  
程なく、輪精管の周囲から、ピクン、ピクン、と敏感なひくつきが現れる。  
薄目を開けて魔道士の様子を窺うと、芝居ではなく、本気で感じ出しているらしく、  
ブロンドの縮れ毛に覆われた下腹部がプルプルと小刻みな震えを発していた。  
 
(何、もう射精する気なの!?  
散々偉そうな御託を並べてくれた割には大した事無いのねッ!!)  
 
青黒い血管が浮き出した勃起男根を咥えたまま、  
赤毛の少女は冷笑を浮かべ、なおも、アイザードの様子を観察する。  
暗黒界に寝返った元夢幻界人は、先刻までの余裕綽々な態度は何処へやら、  
プラチナ・ブロンドを打ち揺らし、下半身から突き上げてくる快感に、早くも恍惚とした表情を浮べていた。  
フン、と不快げに鼻を鳴らした麗子は、こんな茶番はさっさと終わらせてしまうに限る、と考えて、  
頬を膨らませたり凹ませたりを繰り返し、一層激しく舌を動かし始める。  
 
(ホラホラ、我慢してないでさっさと射精しちゃいなさいよッ!!)  
 
――――だが、彼女が優位に立てたのはそこまでだった。  
 
「ふぁッ・・・・ああ・・・・れ、麗子ぉ・・・・!!」  
 
不意に、背後から響き渡った喘ぎ声が、  
喉奥に聳える肉棒を扱き立てていた赤毛の<戦士>の肩を、ビクンッ、と跳ね上がらせる。  
思わず、イチモツを吐き出した少女が後ろを振り返ると、  
石床の上に座り込んだ元クラスメイトが、侍女達に全身を舐め回されながら、  
自らもまた、敏感な場所に細指を這わせ、クチュクチュと卑猥な愛撫を続けていた。  
 
「あああ・・・・イイ・・・・気持ちイイよぉ・・・・」  
 
両脇からしなだれかかった青緑色の皮膚の魔法生物は、  
しなやかな太腿やじっとりと汗ばんだ背中は勿論、うなじや耳たぶ、両手の指の股、腋の下から脇腹に至るまで、  
甲冑によって覆われていない場所に存在する性感帯は一箇所たりとも見逃さなかった。  
ザラザラとした舌先が、皮膜のように広がる脂汗にベットリと覆われた肌へと唾液を塗り重ねていくたび、  
だらしなく半開きになった口元からはヨダレの糸が幾筋も流れ落ち、  
熱く、荒々しい吐息と共に、あられもない嬌声が溢れ出していた。  
 
「なッ・・・・話が違うじゃないのッ!?  
あたしがアンタの相手をしてる間、優子は休ませる、って事だったでしょ!!」  
 
気色ばむ麗子だったが、股間のイチモツを振り立てたアイザードは、  
別に命令してさせている訳ではない、と取り合おうとしない。  
怒りを通り越して呆れ返ってしまった赤毛の少女は、  
大きくため息をついて抗議を切り上げ、魔道士に向き直った。  
 
(まぁ、いいわ。アンタがそのつもりなら、今度こそ終わらせてやるッ!!)  
 
口の中で吐き捨て、再度、いきり立つ男根を頬張る<ヴェカンタの戦士>。  
・・・・だが、背後から響き渡る擦れかかった啜り泣きは、自身も知覚していない所で心身に影響を及ぼしていた。  
否、彼女がもっと注意深く、心の内を把握しようと努めたならば、気付く事も出来ただろうが、  
目の前の青年の何処までも卑劣なやり口に対する敵愾心に燃え立つあまり、  
少女は、物事に動じず冷静に状況を見極められる判断力という、  
己れに備わった最大の武器の一つを自ら封印してしまっていたのである。  
 
――――じゅるッ・・・・ずちゅッ・・・・ずじゅちゅるるッ!!  
 
そそり立つ男根を根元まで咥え込み、緩急を付けて扱き立てていく。  
舌先を器用に操りながら、ザラザラとした味蕾を押し当て表面にブラシをかけると、  
歯茎の付け根から、生温かい唾液が、じゅわわ〜ッ、と湧き出し、  
口腔全体が、まるで、女陰と化したかの如く、淫気を帯びていった。  
 
「あッ・・・・あうッ・・・・気持ち・・・・ひくぅ・・・・良過ぎて・・・・指がぁ・・・・止まらないッ!!」  
 
背後では、欲情の虜と化した優子が、長い蒼髪を振り乱し、手淫に耽っている。  
薄手のショーツを脇にずらし、敏感さを増した陰唇粘膜を、細い指先で捲り返し、ほじくり回すたびに、  
まるで、麗子のクチビルから発せられるねばついた吸着音と競い合うかのように、  
粘り気を帯びた水音が、喧しく、だが、扇情的な旋律を奏で続けた。  
波長の異なる二つの官能の響きは、赤毛の少女の頭の中で鬩ぎ合い、複雑に絡み合いながら、  
やがて、次第に融合し、この上なく妖艶な和音へと昇華を遂げていく・・・・。  
 
――――ドクン、ドクン、ドクン!!  
 
心臓の鼓動が次第に大きく、力強くなる。  
カラダの中心にドロドロに熱せられた溶鉄が現れ、  
溢れ出した性の波動が自律神経を伝って、カラダの隅々にまで行き渡っていった。  
全身の毛穴という毛穴が、残らず、ゾワゾワとざわめき始め、  
特に感じ易い場所からは、むず痒さを伴った快美な感覚が湧き上がってくる。  
 
(ううッ・・・・な、何!?どうしてこんなに・・・・!?)  
 
性感の疼きが次第に全身を覆い始めるに至って、ようやく事態の重大さに気付く麗子。  
・・・・だが、時すでに遅く、暴走を開始した欲情は、  
彼女の強靭な意志を以ってしても制御不能な段階に達しつつあった。  
先程から、脊髄の真下、腰骨の付け根の辺りに、ゾクゾクと不穏な気配が現れ始め、  
急速に勢いを増しつつ、さらに下の方・・・・黒絹のショーツに包まれた禁断の谷間に、滑り降りていく。  
事態の急変に狼狽する<戦士>の耳朶の中では、自慰に没入する元クラスメイトのよがり声が激しく吹き荒れ、  
喉奥の粘膜の間では、怒張した魔道士の陰茎が更に大きさと硬さを増していった。  
 
「あふ・・・・うああ・・・・んむ・・・・むぐぅ・・・・んむううッッッ!!!!」  
 
ラベンダー色の瞳が大きく見開かれ、細い眉が跳ね上がる。  
体積を増した肉の槍先が、びゅくびゅくびゅくッ、と得体の知れない生き物の如く動き回り、  
先端部から透明な先走り液を分泌して、口内全体に生臭い牡の匂いを撒き散らしていた。  
射精欲求が忍耐力の限界に近付きつつある事を示す兆候は、  
本来ならば歓迎すべきものの筈だったが、今の麗子にはそんな余裕は全く無い。  
 
(あああ・・・・か、感じるッ・・・・カラダが・・・・あたしの体が・・・・ダメ・・・・止まらない・・・・止められないッ!!)  
 
ヌルヌルとした体液が舌先を絡め取り、口腔粘膜を妖しく撫で回す。  
顔中の水分全てが唾液腺へと流れ込んでいるのでは?と思いたくなるような勢いで、  
生温かい涎が湧き出し、溜まり、流れ落ち、また湧き出す、という無限連鎖を繰り返していた。  
身体の奥で燃え盛る淫蕩な業火はますます火勢を増して手が付けられなくなり、  
申し訳程度の丈しか無い黒いプリーツ・スカートに覆われた、柔かい内股の間に、  
ジュクジュクとした湿り気と絶え間ない疼きとをもたらし続けている。  
 
「うふふッ、もう我慢の限界みたい・・・・」  
 
傍に近付いてきた優子が、  
愛蜜にキラキラ光る指先を見事に反り返った背筋に這わせながら甘い言葉を囁きかけると、  
<ヴェカンタの戦士>は耳たぶをかすめた吐息に、ビクビクッ、と全身を痙攣させた。  
クスクスと笑いながら、じっとりと汗ばんだ首筋にそっと口付けした蒼髪の少女は、  
甘酸っぱい芳香を放つ無数の水滴を美味しそうに吸い立てる。  
 
(・・・・あ・・・・ああ・・・・だ、だめぇッ・・・・くぅ・・・・ゆ、優・・・・子・・・・はぁううッ・・・・!!)  
 
アイザードの陰茎を咥え込んだまま、麗子はぶんぶんと左右にかぶりを振り、悶え狂う。  
すでに極限まで鋭敏さを増していた彼女の性感にとって、  
少女の、甘く、とろけそうなクチビルの感触は致命的だった。  
押し流されまいとする最後の抵抗は、快楽の大波と欲求の業火の前に脆くも砕け散り、  
薄く桜色に色付いた生肌のそこかしこからは、  
性への欲求が理性の頚木から解き放たれた証である濃密なフェロモンが立ち上り始める。  
 
(うッ・・・・ふはぁ・・・・んあああッ・・・・!!!!)  
 
何千台ものカメラから、一斉にフラッシュを浴びたかような強烈な白い輝きが意識の中に溢れ返り、  
同時に、目に見えない無数の電撃が、幾度と無く、華奢な身体に襲い掛かる。  
これまで一度も味わった事の無い強烈な快感に貫かれた麗子は、  
殆ど抵抗する暇とて無く、肉欲の頂に向かって追い詰められていった・・・・。  
 
――――幻像の森。  
 
鬱蒼と生い茂る木々の間に忽然と姿を現した小さな泉。  
場違いなくらいに美しく澄み渡った水面に視線を落としながら、逡巡に耽る<ヴァリスの戦士>。  
 
(あの泉の中に、一体、何があるというの?  
<ファンタズム・ジュエリー>?それとも、敵の罠・・・・?)  
 
水面に映る己れの相貌を見つめ、独りごちる。  
細心の注意を払って周囲の様子を窺うものの、  
時折、<ヴァリスの鎧>の胸甲に嵌め込まれた聖玉が明滅し、水底に向かって紅い光条を迸らせる以外には、  
取り立てて変化らしい変化も見当たらない。  
 
(・・・・どちらにしても、前に進む以外に無い、か・・・・)  
 
ようやく決心を固めた後も、優子は、胸の奥に澱のように沈殿する漠然とした不安が気にかかって、  
水の中に入る事に躊躇を覚え、何度と無く引き返そうとする。  
いつの間にか、風も止んで、枝々のざわめきも小鳥達の囀りも途絶え果てた森の中は、しん、と静まり返り、  
あたかも、この場に繁茂する樹木の一本一本が、水辺に足に踏み入れる瞬間を待ち構えているかのように、  
少女の周囲は重苦しい沈黙のヴェールによって取り囲まれていた――――。  
 
 
――――――――to be continued.  
 

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