意識の奥底。悪夢の迷宮。  
 
――――ゴオォォオオオッッッッ!!!!  
 
逆巻く水流が体に絡み付き、暗渠の底へと引き摺り込もうとしている。  
耳を聾する激しい水音が、水底に沈んだ無数の水死者の呻きの如く、  
必至にもがく少女をあざ笑いながら、五体を縛り付けていた。  
 
容赦なく襲いかかる水圧に冷静さを失い、無我夢中で叫び声を上げる蒼髪の少女――――優子。  
当然、肺の中に残った僅かばかりの酸素は、ゴボゴボと濁った音を立てて体外に溢れ出し、  
入れ代わりに、凍え付きそうなくらいに冷たく澄み切った湖底の水が、  
口腔と鼻腔を押し破って、猛烈な勢いで気道の奥へと流れ込んでいく。  
 
(あああッ・・・・だ、だめ・・・・息がッ!!)  
 
酸欠状態に陥った心臓が悲鳴を上げ、窒息の恐怖が全身を押し包む。  
そのショックで、一時のパニックからは回復出来たものの、  
時すでに遅く、浮上のチャンスは指の間をすり抜け、遥か彼方へと流れ去ってしまっていた。  
水没しかけた肺腑が発する断末魔の痙攣の中、思考が混濁し、すううっ、と希薄化していく。  
もはや、溺死寸前にまで追い詰められた彼女に可能だったのは、  
消え失せようとする意志を懸命に手繰り寄せつつ、夢幻界の女神に助けを求める事だけだった。  
 
ドオォォン――――!!  
 
必死の祈りが通じたのだろうか、意識が途切れる直前、足元の地面が陥没し、  
<戦士>の身体は、再度、亀裂の下へと飲み込まれてしまう。  
今度こそもう駄目だ、と絶望にかられた優子だったが、  
予想に反して、湖底の岩盤の裏側に広がっていたのは、  
大量の空気と若干の地下水によって構成された、巨大な地中の湖水だった。  
 
「ぐッ・・・・あぐぅうッ!!」  
 
数十階建ての高層ビルに匹敵する高さから水面に叩きつけられる寸前、  
<ヴァリスの鎧>から不可視の障壁が展開され、全身を包み込んだ。  
そのまま、地下水脈へと落下し、派手な水柱を立ち昇らせた少女は、  
荒れ狂う波間からかろうじて浮かび上がると呼吸器内に溜まった水を吐き出そうとする。  
水深がそれ程でも無かった事が幸いして、試みはどうにか成功を収め、  
文字通りの意味で、息を吹き返した彼女は、  
盛大に咳き込み、ゼイゼイと喉を嗄らしつつではあったが、からくも岸辺へと辿り着いたのだった。  
 
 
暗黒界。アイザードの実験室。  
 
(むぅッ!?)  
 
我知らず、驚きの声を漏らした暗黒界の魔道士。  
瞠目、といって良いだろう、見開かれた碧色の双眸が見下ろすのは、  
目の前で、青緑色の肌の侍女たちに取り囲まれ、  
巧緻を極める舌技と指技で性感帯を玩弄され続けている、囚われの少女。  
 
「俄かには信じ難い事ですが・・・・しかし、これは明らかに意識が戻りつつある兆候に間違いありません。  
いやはや、<ヴァリスの戦士>が斯くも油断ならない存在だったとは、正直、驚きましたよ」  
 
半ば本気で感嘆を覚えた魔将軍は、蒼髪の少女の表情を注意深く窺いつつ、  
強力な催眠暗示によって支配下に置いていた筈の彼女の精神に、再度、走査の網を投げかけた。  
驚くべき事に、囚人の自我は、僅かではあったものの、回復の兆しを見せ、  
邪法によって生み出された悪夢の迷宮を抜け出さんとする苦闘を再開している。  
幸い、抵抗運動は緒についたばかりで、充分な成果は上がっていないようだったが、  
一度は完全に制圧し、抑え込んだはずの優子の心が、  
呪縛を振り解き、活動を再開していたという事実は、衝撃をもたらすのに充分なものだった。  
 
「・・・・とはいえ、この調子では完全に暗示から脱するのは当分先になりそうですが・・・・」  
 
精神走査の結果に、ひとまず胸を撫で下ろしはしたものの、  
アイザードは、尖った顎に手を当てて、どうしたものだろうか、と考え込んだ。  
・・・・無論、今一度術をかけ直すのは簡単だが、  
魔力で押さえ込むだけでは、また同じ繰り返しになる可能性が高い。  
封じる事は出来ても滅ぼす事は出来ない厄介な存在を完全に消滅させるには、一体――――?  
 
(・・・・あるいは、麗子の力、<アンチ・ヴァニティ>能力を試してみるべきなのでしょうか?)  
 
実験動物に対するかのような酷薄な眼差しが、  
優子の傍らで、同じように虚ろな表情を浮かべている、もう一人の<戦士>へと向けられる。  
視線の先では、甘美な感覚に酔い痴れた赤毛の少女が、  
生肌をねっとりとした汗で濡らしながら、押し寄せる歓喜の大波に全身を震わせていた。  
フン、と鼻を鳴らしたプラチナ・ブロンドの青年は、  
汚物でも眺めるのような目で淫獄に堕ちた少女を見つめ、冷やかに吐き捨てる。  
 
「まぁ、考えてみれば、君はそのために召喚されたんですからねぇ・・・・」  
 
出口の見えない迷宮――――悪夢の中。  
 
(地底にこんな場所があるなんて・・・・。  
いったい、この世界はどうなっているの?)  
 
やっとの思いで辿り着いた岸辺は自然の物ではなく、  
歴史の教科書で目にした事のある古代西欧の遺跡を髣髴とさせる、人工の建造物だった。  
赤茶けた石材で築かれた河岸の上へと這い上がった優子は、  
荒々しく息を注ぎながら、周囲を見渡し、首を傾げる。  
 
森の中に泉が湧き出し、地下には巨大な空洞があって水脈が走っている、  
・・・・これだけならば、まだ理解できなくもなかったが、  
そこに明らかに人の手が加わった遺構があり、奥に向かって伸びている、など想像の範疇を超えている。  
勿論、ここが現実界とは異なる自然法則に支配されているのは分かっているつもりだが、  
一方で、水中で溺れれば窒息し、高所から落下すれば五体が粉々に砕け散る、という現実はどうなのか?  
これでは、まるで周囲の何もかもが悪意を抱く何者かが作り上げた虚構であり、  
自分を奈落の底へと突き落とさんとする悪辣な画策のための道具立てのようではないか――――。  
 
「まさか、いくら何でも・・・・そんな筈、ある訳ないわ・・・・」  
 
小さくかぶりを振ると、  
優子は、不吉な――――しかし、これ以上無いくらい、正鵠を射ていた――――考えを振り払った。  
今は悩んでいても仕方ない、兎に角、脱出する方法を見付けるのが先決だ。  
(いささか強引に、ではあったが)自分を納得させた彼女は、  
ズブ濡れ状態の身体の中から最も気になる部分・・・・水分を含んでベタベタと肌に纏わり付く蒼髪を手に取り、  
軽く絞って水気を切った後、手櫛で梳いて元通りに直す。  
そして、少し気分が落ち着いた所で、呼吸を整え、精神を集中させる。  
だが・・・・。  
 
(え?どうしたんだろう、いつもと感じが・・・・)  
 
実体化した<ヴァリスの剣>に触れた瞬間、  
今までに経験した事の無い違和感が五感をざわつかせる。  
具体的に、何処がどう違っているのか?は、自身にも判然としなかったが、  
手の平に感じた感覚はいつものそれとは明らかに異なるものだった。  
一瞬、先程の疑問が脳裏に蘇り、ビクッ、と肩を震わせる蒼髪の少女。  
――――もっとも、しばらくすると、微かな違和感は(やや不自然なくらい)跡形もなく掻き消え、  
白銀の聖剣は何事もなかったかのようにいつもの肌触りを取り戻したのだが・・・・。  
 
(な、何だったんだろう、今の・・・・?)  
 
漠然とした不安を覚えながら、優子は<剣>の様子を注視し、  
次いで、ゆっくりと視線を巡らせて周囲の状況を確かめる。  
立ち並ぶ石柱の列も敷き詰められた石畳も、  
長い月日にわたって地下水脈の湿気に曝され続けたためだろう、  
侵食されて亀裂が入っていたり、崩れかけているものも少なくない。  
 
――――と、その時。  
 
「ッ!?<ファンタズム・ジュエリー>がッ・・・・!?」  
 
唐突に、胸元に嵌め込まれた聖玉がチカチカと明滅し、  
真紅の輝きが石畳の先の暗がりをさかんに指し示した。  
森の中を彷徨い歩いていた時とは明らかに異なる強い反応に驚いた少女は、  
一時的に不安を忘れると、赤色の光が示す方角に目を凝らす。  
案の定、その先には、両側を高い石壁に挟まれた狭い通路が口を開けていた。  
 
「こ、こんな所を進め、っていうの!?」  
 
<ジュエリー>から迸る光条に照らし出された場所を覗き込むなり、  
唖然として言葉を失う<ヴァリスの戦士>。  
左右を優に数十メートルはありそうな石壁に挟まれた通路は、  
道幅が大人同士が何とかすれ違う事の出来る程度しかない。  
万が一、襲撃を受けたなら、極めて不利な状況に陥るのは明らかだった。  
 
(他に道があるなら、そっちを使いたいところだけど・・・・)  
 
・・・・だが、切なる願いも空しく、辺りには別の通路らしきものは見付からなかった。  
小さくため息をついて捜索を断念した少女は、唯一無二の入り口の前へと足を運ぶと、  
全身の神経を集中させて、漆黒の闇の中を覗き込み、聞き耳を立てる。  
だが、真っ直ぐ直線状に伸びていると思った通路は実際には緩やかに蛇行しているらしく、  
ヴァリアから与えられた加護によって、常人の何倍にも強化されている筈の視覚や聴覚を以ってしても、  
様子が分かったのは精々数十メートル程度、そこから先はまるで見当も付かなかった。  
 
「何だか、すごく嫌な感じがする。・・・・出来れば、引き返したいけど」  
 
気弱なセリフを口にする優子だったが、無論、引き返す道など何処にもありはしなかった。  
やむなく、少女は、もう一度深いため息を漏らすと、  
諦めたように<ヴァリスの剣>を構え直し、通路へと分け入っていく。  
覚悟はしていたものの、実際に足を踏み入れてみると、  
左右に聳え立つ無機質な石壁から発せられる圧迫感は想像以上で、息苦しささえ覚えるほどだった。  
 
(それにこの気配、やっぱり何かいるみたいね)  
 
天井から降り注ぐ無数の敵意に歩みを止める、蒼髪の<戦士>。  
うなじの周囲をざわざわと騒がせる不快な気配を追って遥か頭上に目を凝らすと、  
案の定、そこには、何十匹、否、何百匹もの奇怪な生き物が数珠繋がりに連なり、  
古くなって壊れかけた蝶番が軋むような奇怪な唸り声を発している。  
暗くて正確な姿形は分からないが、どうやら平均的な個体は直径一、二メートル程の球体のようで、  
手足は勿論、目も耳も鼻も無いカラダの真ん中に、真っ赤に裂けた口だけが存在し、  
不健康な色合いの歯茎の間では鋭く尖った牙の列が不気味に輝いている。  
 
「・・・・来るッ!!」  
 
鍔元に嵌め込まれた紅い宝玉が、警告の波動を発して害意ある者の接近を知らせる。  
ほぼ同時に、優子は<ヴァリスの剣>の先端を上空に向け、切っ先を頭上高く突き上げていた。  
細身の刀身が、カッ、と眩い閃光を発したかと思うと、  
白銀の聖剣から飛び出した幾つもの光の弾丸が空中へと飛散し、  
降下態勢に入ったばかりで回避もままならない敵の体を正確に撃ち抜いていく。  
 
「ハアアアッ!!」  
 
運良く剣光の弾幕を免れた者たちもいるにはいたが、  
彼らとて、不幸な同胞達より、ほんの数秒間長生き出来ただけに過ぎなかった。  
地上に着地するタイミングを見計らって迸った聖なる斬撃が、  
光り輝く暴風と化して犠牲者達の間を吹き抜けたかと思うと、  
次の瞬間、不恰好な怪物たちの肉体は潰れたトマトのようなブザマな肉塊へと変えられてしまう。  
 
ドドドドド――――!!  
 
第一波攻撃の失敗を悟ったのだろう、前方から、重々しい地響きを轟かせつつ、別の一団が迫ってくる。  
今度の敵は、中世の騎士が身に纏っていた全身を覆う板金鎧の両手と両肩の部分に、  
どんな用途に用いるのか理解し難い、飛行機のプロペラに似た形の金属片を装着した怪物たち。  
かなりの重量があるらしく、一歩毎に足元の石畳が割れ砕けて陥没していくのが遠目にもよく分かる。  
 
(接近戦になると不味いわ・・・・アースクエイクで一気に畳み掛けるしかない)  
 
普段なら、パワーはあっても動きの鈍そうな、この種の敵を相手にする際には、  
むしろ、相手の懐に飛び込み、急所を狙って的確な斬撃を叩き込んでいくのが常石なのだが。  
 
(でも、これだけ狭い場所で戦うとなると、  
わたしの動きも制限される分、思わぬ不覚をとる可能性も捨てきれないし・・・・)  
 
そう、状況を見て取った優子は、先程とは逆に、<ヴァリスの剣>を地面へと向けて切っ先を突き下ろし、  
己の体内に眠る聖玉のエネルギーを開放すべく、精神を集中した。  
 
その決断自体は、決して間違ったものではなかったのだが――――。  
 
(な・・・・何・・・・・・・・?)  
 
――――突如として、視界がグニャリと歪み、三半規管にダメージを負った時のように、全身の感覚が消失した。  
目に見えない力によって押し潰されようとしているかの如く、体が沈み込み、  
いつもは羽根のように軽く、着用感さえ殆ど意識させない黄金の防具が、  
まるで鉛と化したように柔肌に食い込んで、重苦しく感じられる。  
 
(い、一体、これはッ!?)  
 
重心がグラグラと不安定に傾いで、ついには立っている事さえ出来なくなる優子。  
石畳に突き立てた武器にしがみついて、かろうじて転倒だけは免れたものの、  
腰から下の筋肉からスルスルと力が抜け落ち、もはや一歩も動けなくなってしまう。  
 
ブオオオオッッッ!!  
 
追い討ちをかけるように、禍々しい甲冑の化け物が襲いかかってくる。  
騒々しい轟音と共に、都合4機のプロペラが高速回転を始めると、  
前方に小規模な竜巻が発生し、<ヴァリスの戦士>に向かって吹き寄せてきた。  
たとえ五体が正常に動く状態であったとしても、  
狭い通路内ではその攻撃をかわしきる事は至難だっただろう。  
まして、自由を失い、五感すら正常に働かない現状では、満足な受け身さえ不可能だった。  
 
「あッ・・・・ぐうぅうッッッ!!!!」  
 
吹き寄せてきた凄まじい突風が、少女の身体を木の葉のように舞い躍らせる。  
為す術も無く、空中へと投げ出された蒼髪の<戦士>は、  
直後、背後の石壁に背中から叩き付けられ、悲痛な叫び声を発した。  
<ヴァリスの鎧>の加護の力が、かろうじて打撃の大部分を防ぎきったらしく、  
強打された背骨が砕け散るという致命的な事態だけは免れ得たものの、  
防ぎきれなかった衝撃は、すらりと伸びた健康的な背筋を無残に腫れ上がらせていく。  
 
(ち、力が出ない・・・・なぜ・・・・?)  
 
激痛に全身を捩りながら、必死に起き上がろうとする優子。  
その努力を嘲笑うかのように、アイザードの配下達は、次々と悪意の風を放って彼女を痛めつけていった。  
竜巻に巻き上げられ、石壁に叩き付けられ、地面へと落下し、そしてまた巻き上げられる――――、  
一連の流れを繰り返す度、体中がギシギシと不気味な悲鳴を上げ、  
乙女の柔肌には、一つ、また一つ、と赤色や青色の痣の数が浮かんでいく。  
しかも、反撃など全く不可能な状況下で、唯一の頼みの綱と言える<鎧>の守りまでもが、  
執拗な攻撃の前に徐々に弱まっていくのだった・・・・。  
 
「フフフ、どうです、優子?  
<アンチ・ヴァニティ>の力、お気に召して頂けたでしょうか?」  
 
黴臭い空気の漂う実験室。  
ねっとりとした笑みを満面に張り付かせた魔道士の見下ろす先で、侍女たちが遠巻きに見守る中、  
意志の輝きを失った双眸に薄ぼんやりとした曖昧な視線を浮べた二人の少女が乳繰り合っている。  
 
「ふあ・・・・ああ・・・・んぅう・・・・あはぁ・・・・うううん・・・・」  
 
弱々しく手足を震わせながら、途切れ途切れに甘い喘ぎを漏らしているのは、黄金の鎧を身に纏う蒼髪の少女。  
適度な質感を帯びつつ、しなやかに伸びる太腿は、  
大きくV字型に割り開かれ、時折、ビクン、ビクン、と不規則な戦慄きを発していた。  
その付け根の部分――――本来なら、純白のスカートの奥に隠されている筈の秘密の谷間――――には、  
もう一人の娘・・・・漆黒の鎧を身に帯びた赤毛の少女が顔を埋めており、  
指と舌を激しく駆使して、初々しいピンク色の花弁を弄んでいる。  
 
痺れに似た感覚が背筋を這い登ってくる都度、半催眠状態の優子は切なげな吐息を漏らし、  
じっとりと汗ばんで桜色に上気した肌を小刻みに震わせている。  
無論、意識が完全では無い以上、彼女が、己の心身を蝕んでいる忌まわしい刺激を、  
心の底から"快楽"としてとらえているのかどうかについては、疑問の余地を残していたが、  
少なくとも、肉体の方は、周囲に漂う濃密な淫気に屈服し、完全に虜となってしまっていた。  
 
ぬるっ・・・・ぐちっ・・・・にゅるるっ・・・・ちゃぱっ・・・・ちゅるるるっ・・・・!!  
 
薄手のショーツは、舌技の邪魔にならぬよう脇へと退かされ、  
まだ十分に生え揃っていない下草の間から、充血した陰唇粘膜が恥ずかしげに顔をのぞかせていた。  
サーモンピンクの割れ目に沿って、<ヴェカンタの戦士>の艶かしいクチビルがゆっくりと上下すると、  
秘裂の内側から、半透明な愛蜜が、じわわわぁッ、と溢れるように滲み出し、  
えもいわれぬ芳醇な香りを帯びたフェロモンが、かつてのクラスメイトの顔面に向かって飛沫を上げる。  
陰唇の上端部では、可愛らしい真珠玉が精一杯背伸びをして、  
表面を保護している包皮の間から懸命に身を起こし、まろび出そうとしていた。  
 
「たった一度、まぐわっただけでこうも影響が出てしまうとは。  
いやはや、大したチカラですねぇ・・・・実に興味深い」  
 
涙で蕩けた優子の瞳を覗き込み、しきりに頷きながら目を細めるアイザード。  
一瞥しただけでも、これまで、ヴァリアによって与えられた加護に守られて、  
どんな高度な魔道の技を以ってしても、完全な屈服には至らしめる事が叶わなかった強靭な精神が、  
今や決壊寸前のダムの如く、崩壊の危機に直面している様子が手に取るように分かる。  
 
「君は、もう以前のようには戦えないよ。  
麗子と肌を合わせてしまったのが運の尽き、だったね」  
 
かつての級友に責め立てられ、弱々しくカラダを揺らしながら啜り泣く蒼髪の少女に向かって、  
暗黒界の魔道士は、ニヤニヤと底意地の悪い笑みを浮かべてみせた。  
<アンチ・ヴァニティ>能力は、彼女を<ヴァリスの戦士>たらしめている心の働き、  
すなわち、魂の内面にあって、<明>と<暗>の二つの要素を高い水準で均衡させ続けるサイクルを、  
掻き乱し、不安定化させ、修復不可能なまでに破壊してしまうもの。  
――――そう、知識としては会得していたものの、  
今まで実例を目の当たりにした事は無く、正直、いささか眉唾ではないか?とさえ感じていた彼にとって、  
麗子の力の一端に触れる機会を得たのは、非常に心踊る経験と言えた。  
無論、それにより、今まで散々手こずらされてきた難問が解決するとあっては尚更である。  
 
「<アンチ・ヴァニティ>の力を注がれてしまった今、君はただの少女でしかない。  
・・・・クックックッ、その証拠に、ほぅらッ――――!!」  
 
ニヤニヤと笑いながら、アイザードは黄金の胸甲に守られた乙女の胸元に向かって片手を伸ばす。  
骨ばった指先が美しい曲線を描く胸甲に触れるか触れないかの所で奇妙な印を結んだ直後  
黄金の胸当ての下からキラキラと不可思議な輝きが溢れ出し、  
震え慄く口元からは、苦悶の呻きとも快楽の喘ぎともつかない、かぼそい泣き声が漏れ始めた。  
 
「・・・・あ・・・・ああ・・・・うぅ・・・・あ・・・・ふぅあ・・・・あああ・・・・」  
 
胸元から溢れ出した光は次第に集束し、凝縮されて、  
やがて、馴染み深い物体の姿へと実体化していく。  
 
――――ファンタズム・ジュエリー。  
 
死線を彷徨った末に、ガイーダとキーヴァからの奪還に成功した聖玉のカケラであり、  
<ヴァリスの剣>を媒介として、<戦士>としての自己の存在と結合した<明>のエネルギーの結晶。  
それが、自分の体から強引に引き剥がされ、奪い去られようとしている事態を本能的に察知したのだろう、  
蒼髪の少女は、苦しげに喘ぎつつも、大切な聖石を奪われまいと必死に腕を突き出した。  
 
「・・・・あ・・・・あああ・・・・だ・・・・ダメぇ・・・・!!」  
 
――――だが、現実は、優子にとってあまりにも残酷だった。  
二つの宝玉は、無情にも、差し伸べられた指の間をすり抜けると、  
冷笑を浮かべた魔道士の青白い手の中に引き込まれるように吸い寄せられていく・・・・。  
 
「フフフ・・・・ハーッハッハッハッ!!!!」  
 
二つの<ファンタズム・ジュエリー>を高々と掲げ、勝利の哄笑を放つアイザード。  
見下ろす先では、ああ、という力無い呻きと共に、突き上げられていた腕が、パタリ、と落ち、  
(ほんの一瞬だけ)瞳の奥に蘇りかけていた輝きが再び絶望の底へと沈んでいった。  
 
「ククク、大事な石を守る事さえ出来なくなってしまうとはねぇ・・・・どうです、今のご気分は?」  
 
半ば憐れむような眼差しを投げかける魔道士。  
もっとも、蒼髪の少女は、最後の意志の糸も断ち切れてしまったのか、黙りこくったままだった。  
フン、と鼻を鳴らした暗黒五邪神は、急に興味を失ったらしく、  
麗子に向かって、後は好きにしろ、とばかりに顎をしゃくってみせると、自らは籐椅子へと身体を戻した。  
赤毛の少女の両手がぐったりと脱力しきった白い肌をまさぐり始め、  
弱々しく擦れた喘ぎ声が、再度、陰気な実験室を満たしていく・・・・。  
 
(いちいち精神を走査するまでもないでしょう・・・・勝負はすでについたも同然なのですから)  
 
物憂げに目を閉じた暗黒界の貴公子は、  
少女達の奏でる卑猥な吐息のリズムに耳を傾けながら、今後に思いを馳せた。  
聖石の加護を失った今、優子の精神を守るものは、ヴァリアによって与えられた僅かばかりの力のみ。  
――――否、これとて、尽き果てるのはもはや時間の問題だろう。  
そうなれば、意識の底に残る最後の光も、悪夢によって食い尽くされるのを待つばかり。  
あと少しの辛抱で、夢幻界最後の希望は潰え、二人の<戦士>は、身も心も自分の手に帰す事になる。  
 
(そして、その後は、いよいよ・・・・)。  
 
 
――――再び悪夢の中。  
 
「ううっ・・・・う・・・・動け・・・・な・・・・い・・・・」  
 
息つく暇も無い連続攻撃にさらされ続けた少女は、  
今や瓦礫の山と化した石畳の上に横たわったまま、立ち上がる事さえ出来なくなっていた。  
 
ガシャン!!ガシャン!!ガシャン!!  
 
耳障りな足音を立てて近付いてくる甲冑の悪魔。  
蒼髪の<戦士>は全身を襲う激痛に苦悶の声を発しながらもなお、  
残った気力を総動員し、<ヴァリスの剣>へと腕を伸ばす。  
震える指先と黄金の剣柄の間の、僅か数センチにも満たない空間が、  
今の優子には無限の隔たりのように感じられた。  
 
(くぅ・・・・あ、あと少し・・・・お願い・・・・間に合ってッ!!)  
 
残った力の全てを出し切り、かろうじて目的地へと辿り着く細い指。  
――――だが、次の瞬間、彼女の表情は凍りついた。  
 
・・・・グニャリ・・・・。  
 
掴み取った細身の武器を渾身の力を込めて手繰り寄せようとした途端、  
白銀の聖剣は、何の前触れも無く、刀身の真ん中付近から折れ曲がり、  
出来損ないのアイスキャンデーのように、ドロドロと溶け崩れてしまった。  
 
「う、嘘ッ!?剣が・・・・<ヴァリスの剣>がッ!!」  
 
あまりの出来事に言葉を失う優子。  
見開かれた双眸の前で、鈍い輝きを発する得体の知れ無い流体へと姿を変えた聖なる武器は、  
凍り付いた指の間から零れ落ち、瓦礫の上へと流れ落ちていく。  
 
(・・・・あ・・・・あああ・・・・そ、そんな・・・・どうして・・・・)  
 
信じ難い事態に、驚愕を通り越し、茫然自失の態となる。  
あまりにもショックが大きすぎて、眼前に広がる光景を現実のものと認識出来ないのか、  
空っぽになってしまった両手と、足元を流れる銀色の小川をぼんやりと眺めつつ、  
さかんにかぶりを振り、意味不明な呟きを漏らし続けている。  
 
――――ギュルルルッ!!!!  
 
憎悪に満ちた唸り声が、放心しかけていた優子を現実へと引き戻す。  
背後を振り返った少女の瞳に映り込んだのは、視界を埋め尽くさんばかりのヴェカンティの軍勢・・・・  
目も耳も鼻も無いグロテスクな顔の中で、真っ赤に裂けた口元だけが、一様に歪んだ笑みを湛えた姿は、  
醜怪さの点で、これまでに出会ったどの怪物の群れよりも抜きん出ていた。  
 
(そ、そんな・・・・まだこんなに生き残りがいたなんてッ!?)  
 
恐怖に慄きつつ、逃げ道を探す蒼髪の少女。  
だが、すでに周囲は、見渡す限り、巨大なミンチボールを連想させるアイザードの軍団に覆い尽くされ、  
文字通り、蟻の這い出る隙間さえ見出せない。  
対する怪物達は、あたかも、つい先程、無残な肉塊と化した同胞たちの無念が乗り移ったかのように、  
ジワリジワリと包囲の環を狭め、武器を失くした哀れな<戦士>を壁際へと追い詰めていく。  
 
「い、いやッ!!来ないでッ!!」  
 
凍てつくような絶望によって心臓を鷲掴みにされ、ギュウギュウと締め上げられた優子は、  
引き攣った表情をさらに歪めつつ、両手両足をガクガクと痙攣させた。  
どう考えても、<ヴァリスの剣>の無い今、これだけの数を相手にするのは自殺行為だったし、  
動く甲冑――――今の姿は、まるで肉団子の海から突き出した海上標識のようだったが――――の攻撃によって、傷付き、消耗しきっている黄金の防具は、もういくらも保ちはしないだろう。  
 
(あああ・・・・た、助けて、ヴァリア様ッ!!)  
 
夢幻界の女神に救いを求める言葉でさえも、弱々しすぎて、もはや、擦れかけた呟きでしかなかった。  
そこにいるのは、迫り来るヴェカンティの魔物たちを怯えきった視線で眺めやるだけの、無力な少女・・・・  
勇気も矜持も萎えしぼんだ目元には、かつての凛とした輝きは微塵も感じられない。  
絶体絶命のピンチを前に、思考のほぼ全てが停止してしまった彼女は、  
もはや、幼女のようにイヤイヤをしながら、うわ言のようにヴァリアの名を呼び続ける事しか出来なかった。  
 
――――だが、呼べと叫べど、夢幻界の支配者からは何の返事も返っては来ない。  
気が付けば、怪物の群れは、すぐ間近にまで迫っており、  
紫色の歯茎の間から汚らわしい色の唾液をジュルジュルと垂れ流しつつ、  
壁際に追い詰められた哀れな獲物の窮状をせせら笑っていた。  
 
(ひぃぃッ!!も、もう・・・・だめぇッ!!)  
 
ざっと数えただけでも百匹は下らない数の醜悪な化け物たちが、  
一斉に口を開き、鋭い牙の列を露わにする。  
一昔前に一世を風靡したスプラッタ映画に登場した巨大人食い鮫を連想させる、強靭な顎と居並ぶ牙・・・・  
それらが、加護の力を失った<鎧>へと殺到し、  
まるで煎餅か何かのように、バリバリと噛み砕いていく光景を思い浮かべた蒼髪の少女は、  
小さく悲鳴を上げてその場にへたり込み、歯の根も合わない程、震え慄いた。  
 
「ひああッ!!」  
 
先頭集団に属する一匹が、半透明なヨダレをたっぷりと含んだ赤紫色の長い舌を伸ばしてきた。  
ヌルッとした不快な感触がしなやかに伸びる太腿へと絡み付き、  
まるで味見でもするかのように、健康的な生肌を舐めしゃぶる。  
嫌悪感に表情を歪めながら身を捩る蒼髪の少女だったが、もはや逃げ場は何処にも無かった。  
 
ベチョッ!!ビチョビチョッ!!ブチュッ・・・・ブチュルルッ!!  
 
己れの無力さに打ちのめされる哀れな女囚を、容赦なく責め嬲るミンチボール。  
執拗かつ陰湿な責めに堪りかねた少女から弱々しい嗚咽が漏れると、  
それを合図にしようと申し合わせていたかの如く、周囲の仲間たちも一斉に舌を繰り出してきて、  
怯え竦む瑞々しい肢体を絡め取り、所構わず、ベトベトの汚液を塗り重ねていく。  
無我夢中で両腕を振り回し、おぞましい愛撫から逃れようとする優子だったが、  
多勢に無勢、二本しかない細腕で、軽く二十本を超えようかという数を相手取る事など出来る筈も無かった。  
 
「や、やめて・・・・ぅあうッ!!あああ・・・・気持ち悪いッ!!」  
 
ドロドロの唾液を塗り重ねられ、不快さのあまり吐きそうになる優子。  
だが、その一方で、生温かく湿った舌に柔肌を舐め回されるたび、  
下半身の何処か・・・・おそらくは腰椎の付け根の辺りから、ねっとりとした熱い波動が込み上がり、  
気だるさを伴った甘ったるい感覚となってジワジワと周囲を冒していく。  
常識的に考えるならば、怪物たちによって体中をむしゃぶり尽くされるなどという行為に対して、  
およそ屈辱感とおぞましさ以外の感情が湧き出してくる余地など全く無い――――筈なのだが。  
 
「ひくぅ・・・・い、いやぁ・・・・ああ・・・・そんな・・・・一度に舐めたら・・・・はふぁああッッッ!!」  
 
現実には、彼女の五体は、投げ与えられる刺激に対して敏感な反応を打ち返し、  
下半身の奥で燃え盛る熱情は、耐え難い疼きとなって性感を煽り立てている。  
どうやら、彼らの分泌物に含まれる成分の幾つかが、  
少女の体組織・・・・特に交感神経に対して特異な発揮しているらしい、と気付いたものの、  
それが分かったからと言って、対処法がある訳でもなく、懊悩は一層激しくなる一方だった。  
 
獲物の反応に気を良くしたのだろう、魔物たちの責めも次第にエスカレートしていく。  
今まで責めに加わってきた連中よりも二回りほど小型の者達が、  
色とりどりの体液に覆われて不気味な光沢を発している生肌に吸い付いたかと思うと、  
体格に比例して随分とひょろ長い、まるでミミズのような舌先を、身体の奥まった部分にまで伸ばしてくる。  
微細なタッチで性感帯を突いてくるピンポイント攻撃はたちまち弱点をとらえ、  
媚毒によって昂ぶった欲情をさらに増幅させて、快楽の頂きに向かって引き摺り上げにかかった。  
 
「ふああッ・・・・ダメ・・・・ダメぇ!!  
こんな・・・・こんなの・・・・イヤ・・・・絶対に、嫌ァアアッッッ!!」  
 
粘汁でベトベトになった蒼髪を振り乱しつつ絶叫する、囚われの<戦士>。  
だが、言葉とは裏腹に、放ち上げられる声の調子は、  
怒号のそれとも悲鳴のそれとも異なる、嬌声と表現する他無い淫猥な響きに包まれていた。  
ある程度は本人にも自覚があるのだろうか、  
赤面しつつ目を瞑った優子は、弱々しく啜り泣き、さかんにかぶりを振り続けている。  
 
ちゅばッ・・・・ちゅびちゅ・・・・びちゅッ・・・・びじゅじゅるるるッ・・・・!!  
 
無論、責め手の方はそんな事情など一切お構いなしに舌技を駆使し、少女の心身を着実に追い詰めていく。  
媚毒成分を塗りたくられてピンク色に上気した肌が不規則な痙攣に波打つ度に、  
体内で燃え上がる業火に熱せられた毛穴という毛穴から淫気が迸った。  
今や、かぶりを振る力さえ殆ど消え失せてしまった女囚の中では、  
肉体が抗戦を諦めてしまった後もなお、抵抗を継続しようとしていた精神もまた、  
絶え間なく押し寄せてくるゾクゾク感に曝されて無力化し、煮え滾る欲情に飲み込まれていった。  
 
(はぁ、はぁ、はぁ・・・・ううう・・・・カ、カラダが疼く・・・・すごく熱い・・・・。  
あああ・・・・嫌なのに・・・・こんな気持ちいけないのに・・・・でも・・・・でも、もう・・・・)  
 
すでに身も心も疲れ果て、消耗しきってしまった優子には、  
肉欲の虜へと堕ちていく情け無い自分に涙ぐみながらも、  
最後まで心の奥に灯っていた意志の光が翳っていくのを為す術も無く見つめている事しか出来ない。  
敗北を認め、屈服を選んだ乙女のココロ・・・・。  
それは、不浄な接吻にさらされ、おぞましい汚液で覆い尽くされつつもなお、  
かろうじて姿形だけは保っていた<ヴァリスの鎧>にトドメを刺すには充分な衝撃だった。  
 
――――ドロリ。  
 
最初に限界に達したのは、右の肩当てだった。  
肩先に張り出した先端部分が、先程の<ヴァリスの剣>のように折れ曲がったかと思うと、  
たちまちのうちに、椰子の実を二つに割ったような半球形の防具全体が形を失い、  
炎天下のアスファルトの上に置かれたチョコレート菓子の如く、溶け流れていく。  
堅牢不壊を誇った聖なる甲冑は、燦然たる黄金の輝きと共に力の大半を喪失していたのだが、  
主の精神が折れたため、とうとう物質としての実体の維持さえ不可能となってしまったのだった。  
 
「ふくぅッ・・・・よ、<鎧>・・・・<ヴァリスの鎧>が・・・・あああッ・・・・!!」。  
 
異変に気付いたものの、快楽に麻痺したカラダは満足に動かす事もできない。  
クチビルから漏れる、悲鳴ともよがり声ともつかない激しい喘ぎの中、  
肩当てに続き、左右の肘当てが、膝当ての付いたブーツが、繊細な意匠の象嵌細工を施されたベルトが、  
次々に溶解し、薄桃色に上気した少女の柔肌を滑り落ちていく。  
 
「・・・・あ・・・・あぁ・・・・ら・・・・らめ・・・・らめぇ・・・・!!」  
 
(どういう訳か)丈の短い純白のスカートと襟元を飾る深紅のスカーフは難を逃れていたが、  
罪深い彼女の体に最後に残った砦・・・・流麗な曲線を描く胸甲はそうはいかなかった。  
迫り来る破局を前に、媚薬漬けにされた意識の隅に僅かに残っていた羞恥心のカケラを総動員して、  
自らの肩を掻き抱き、双丘を包む胸当てを守ろうと最後の抵抗を試みる少女だったが、  
・・・・もはや、如何なる努力を以ってしても、<ヴァリスの鎧>を救うには手遅れだった。  
必死に胸元を庇う細腕の間で、最後の防具はグジュグジュと形を失い、黄土色の溶解液と化していく。  
声にならない絶叫を迸らせる優子の前で黄色い小川と化した<鎧>の残滓は、  
そのまま、遮るものとて無い裸体を流れ下り、足元の地面へと吸い込まれてしまった。  
 
「ひいいッ・・・・い、いや・・・・いやぁああああッッッ!!!!」  
 
みるみるうちに大地に飲み込まれ、姿を消してしまう金色の液体  
――――つい先刻まで、<ヴァリスの鎧>として己れの身体を覆っていたモノの残滓を、  
青白く引き攣った表情で見つめていた優子が絶望に身を震わせる。  
これまで幾多の危難から自分を護り抜いてくれた<剣>、そして、<鎧>が失われた今、  
<ヴァリスの戦士>として戦うための手段は何一つ無くなってしまった。  
もはや、自分に残されているのは、腰と襟元の一部を覆う、僅かばかりの布切れだけ、  
元より、それらには、甲冑としての能力は勿論、衣服としての最低限の機能さえ期待できない。  
 
目の前で口を開けて待ち受けている、おぞまし過ぎる運命に対して、  
抗う術の全てを喪失した少女は、ただひたすら恐怖し、怯え竦むだけだった・・・・。  
 
 
――――――――TO BE CONTINUED.  
 

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