(優子・・・・、優子・・・・)  
 
・・・・誰?わたしを呼んでるのは?  
 
(聞こえますか、優子・・・・)  
 
誰なの・・・・あなたは・・・・?  
 
(今、夢幻界、人間界、2つの世界に危機が迫っています・・・・)  
 
夢幻界?2つの世界?危機って何の事・・・・。  
 
(あなたの力が必要なのです、優子・・・・!)  
 
・・・・力?わたしに、どんな力があるというの!?わたしは、ただの・・・・。  
 
 
ゴオオオオ――――ッ!!!!  
 
地響きを立てながらホームを通過する快速電車。  
吹き付けてくる突風が、少女の意識を現実へと引き戻す。  
 
『・・・・間もなく、2番線に各駅停車の・・・・』  
 
走り去っていく電車の音。駅員のアナウンス。人々のざわめき。  
・・・・いつもと変わらぬ、下校途中の風景。  
 
「・・・・また、あの夢・・・・」  
 
端正な目鼻立ちの顔に深い憂愁を浮かべながら佇む、一人の女子高生。  
すらりとした体躯の背中で、腰の上まで伸ばした豊かな蒼髪が静かに揺れている。  
身に着けているのは、近年では珍しくなった、伝統的スタイルのセーラー服と丈長の紺色スカート。  
見る者によっては少し古風な印象を受けるかもしれない、オーソドックスなデザインの制服は  
際立って美人という訳では無いものの、申し分なく均整のとれたプロポーションに良く似合っていた。  
 
――――麻生優子。17歳。  
3月3日生まれ。魚座のO型。私立聖心学園高等部2年。  
身長158cm、体重46kg、B82W61H85。  
得意な学科は国語と美術。趣味は音楽鑑賞・・・・。  
 
(・・・・どうして、いつも、同じ夢ばかり見るのかしら?)  
 
小さくため息をつきながら、物思いに沈む優子。  
最近、ほとんど毎晩のように見る、あの夢・・・・。  
暖かく、清浄な光に包まれて、まどろみに落ちている自分に向かって、  
何処か遠い場所から、見知らぬ女の人が呼びかけてくるというもの。  
最初は、名前を呼ばれるぐらいだったのだが、  
ここ2、3日は、『ムゲンカイ』とか『ゲンソウオウジョ』とか、意味不明な言葉が続くようになっていた。  
 
(疲れてるのかなぁ、わたし・・・・)  
 
決して嫌な感じのする夢ではないのだが、こうも続くのは何となく不気味だったし、  
その内容自体も、日を追う毎に、だんだんリアルさを増しているような気がする。  
健康状態には特に問題無いし、中間テストの成績もそんなに悪くは無かった。  
家族にも学校の友人たちにも、別段、ストレスに感じるような事は起きていない筈なのだが。  
 
あるいは、何か悪い事の起きる予兆なのだろうか?それとも・・・・。  
 
「――――雨宿りのついでに、居眠り?」  
 
すぐ近くで発せられた声に、ハッとして目線を上げる蒼髪の少女。  
目の前に立っていたのは、肩口で綺麗に切り揃えられた、赤みがかったブラウンの髪の毛が特徴的な、  
自分と同じ学校の制服を身に纏った女子生徒・・・・同じクラスの麗子だった。  
 
桐島麗子。17歳。  
8月1日生まれ。獅子座のAB型。  
身長160cm、体重48kg、B78W60H82。  
趣味はショッピング。得意学科は数学・・・・。  
 
挑発的な輝きを湛えたラベンダー色の瞳に見つめられて、優子はやや息苦しさを覚えた。  
クラスメートとはいえ、この界隈でも指折りの資産家の一人娘である麗子に対しては、  
住む世界が異なっているとは言わぬまでも、ある種の心理的な隔たりを拭い切れずにいる。  
学校ではいつも取り巻きたちに囲まれ、羨望と畏怖の眼差しを注がれている「お嬢様」と、  
ごくごく普通の中流家庭に生まれ育ち、成績も「中の上」程度でしかない平凡な少女・・・・。  
彼女達の間には、かなり微妙な距離感を伴った感情が横たわっていた。  
 
「・・・・どうしたの?こっちはあなたの家とは方向違いのはずよ」  
 
心中に生じたさざ波を気取られないよう、優子は、努めて冷静に応対しようとする。  
少し絡んでくるような麗子の話し方が、まったく気にならない、と言えば嘘になるのだが、  
いつもの事であるし、特に悪意を含んでいる訳ではないというのも分かっていた。  
それに、下校時刻を過ぎた頃から急に降り始めた、このひどい雨の中、  
ただ嫌味を言うためだけの目的で、わざわざ自宅とは反対方向にあるこの駅までやってきたとも思えない。  
 
「いいのよ」  
 
クラスメートの双眸をじっと見据えたまま、短く言葉を切る『お嬢様』。  
どこか肌寒さを覚えるようなその視線に、  
蒼髪の少女は、学校で、何か気に障るような事をしてしまったのだろうか、と、ひそかに気を揉んだ。  
滅多に無い事だが、何かのはずみで彼女を怒らせてしまったら、どんな事態が待ち受けているのか、  
学園の生徒たちの中に、否、教職員の間でさえ、知らぬ者はいないと言って良い。  
 
彼女の内心を見透かしたかのように、  
赤毛の少女は冷やかな笑みを浮かべ、それから、おもむろに話を切り出した。  
 
「挨拶に来たんだから・・・・お別れのね。  
ちょっと遠くへ行かなくちゃならなくなったの」  
 
(――――遠くへ?もしかして、転校とか?)  
 
驚いた表情で問いを発しようとする級友を拒絶するかのように、  
くるり、と踵を返し、背中を向ける麗子。  
その態度に軽い狼狽を覚えながらも、優子は、慌てて追いすがろうと試みた。  
 
「なんで、そんな急に・・・・もっと早く知らせてくれてたなら・・・・」  
 
「あら、友達みたいな事言うのね?」  
 
振り返った麗子の唇に浮かぶ皮肉めいた笑いに、蒼髪の少女は思わず傷付いた顔になった。  
たしかに、同じクラスとはいえ、彼女とは特に仲が良い訳ではなかったし、  
彼女自身は無関心な様子だったが、取り巻きたちの中には、  
『お嬢様』に対して距離を置こうとする自分を陰で白眼視している者もいるらしい。  
・・・・が、たとえそうだとしても、この態度は、あまりと言えばあまりではないだろうか?  
 
――――そう思った瞬間、優子は、(彼女にしては珍しく)強い口調で反論の言葉を言い放っていた。  
 
「友達でしょ?何言ってるの!」  
 
・・・・・・・・一瞬、麗子の口元から笑いが消え、  
ラベンダー色の瞳の奥に、明状し難い光を宿した暗い炎が燃え上がる。  
大粒の水滴に覆われた雨傘の柄を、グッ、と握り締めた手の甲に、白い骨筋が浮かび上がった。  
 
ヒュンッ!!  
 
まるで居合いの達人が白刃を一閃させるかのような動作で、  
鈍い銀色の光沢を帯びた傘の先が弧を描き、級友の喉元に突きつけられる。  
 
・・・・そして、また、歪んだ微笑み。  
 
「あなたのそーゆーとこ、嫌いじゃないわよ。皮肉とかじゃなくて」  
 
(な、なによ、一体!?どうして、ここまで突っかかってくるの!?)  
 
皮肉ではない、と言いつつ、赤毛の少女の言葉には辛辣なスパイスがたっぷりと滲んでいる。  
困惑し、表情を曇らせる優子。  
いつも学校で目にする彼女ならば、たとえ本気で気に入らない事があったとしても、  
他人に対して、ここまであからさまに怒気を発する事は無かった筈だった。  
その辺り、自分にはちょっと真似できないなぁ、と感じる一方で、  
その強い克己心に対しては、一種、尊敬に近い感情すら抱いていたのだが・・・・。  
 
「・・・・もっとも・・・・」  
 
ゆっくりと傘を下ろす麗子。  
ホッとしたのも束の間、今度は、ガリッ、ガリッ、と耳障りな音を立てながら、  
ホームのコンクリート床を、何か先の尖ったもので神経質そうに引っ掻き始める。  
半ばうんざりしつつ、視線を落とす優子・・・・直後、その双眸は思いもかけなかった光景に大きく見開かれた。  
 
(・・・・な、何なのッ・・・・これッ!?)  
 
クラスメートの手に握られていた物体・・・・それは雨傘でも何でもなかった。  
 
鈍い鉄色の光沢を放つ、長い刃物――――剣。  
両刃で、刃渡りは五、六十センチほど、  
刀身はテレビの時代劇に出てくる日本刀のような反りを帯びた造りではなく、  
西洋史の教科書に載っている、中世の武具のような直線形をしている。  
特徴的なのはその細さで、横幅は一番太い所でも三、四センチ程度しかない。  
鍔元から握りにかけては、流麗だが、何処か不吉な雰囲気を帯びた装飾があしらわれ、  
嵌め込まれた幾つかの宝石が妖しい輝きを発していた。  
 
「・・・・あなたとは、どこかでバッタリ出会うことになるでしょうけど・・・・」  
 
驚愕のあまり声も出ない優子。  
冷やかな一瞥と共に発せられた赤毛の少女の呟きには、  
まるで呪詛の祭文のような謎めいた響きが纏わり付いている。  
 
・・・・ほぼ同時に、コンクリートの上では、剣先で描かれたサークルが完成していた。  
 
――――――――ゴオオォォォッッッ!!!!  
 
灰色の地面に刻み付けられた傷口の内側から、  
途轍もなく邪悪な『何か』が、禍々しい瘴気となって噴き上がる。  
 
「れ・・・・麗子ッ!」  
 
ここにある筈の無い、否、あってはならない筈の存在が、  
麗子によって作られた破れ目を目指して押し寄せてくる。  
――――そう、直感した優子は、次の瞬間、半ば本能的に、鋭い悲鳴をほとばしらせた。  
 
「何だ」「どうしたんだ」「事故か」  
 
突然の大声に驚いた人々が一斉に集まってきて、周囲は騒然となる。  
パニック状態に陥った級友を尻目に、人垣の間をすり抜けた麗子は、最後にもう一度、背後を振り返った。  
 
「じゃあね、優子。さようなら。  
・・・・あなたの無事を祈ってるわ。フフフ」  
 
口元を歪めたまま、ホームの柱の陰へと近付いていく麗子。  
次の瞬間、その姿は、一切の気配を残す事無く、  
・・・・まるで、闇そのものと同化したかのように、暗がりの中へと吸い込まれていった。  
 
その途端、足元から噴き上がる、得体の知れない『何か』は、ますますその勢いを増し、  
ただならぬ気配に、群衆の中にも(本能的に)異変を悟る者が現れ始めた。  
濃密さを増していく闇の感触に、あちこちで叫び声が上がり、  
卒倒する者や嘔吐する者、闇雲にその場から逃げ出そうとする者が続出する。  
たちまち、地下の空間は、悲鳴と怒号が飛び交う混乱の坩堝と化してしまった。  
 
――――彼らには知る由もなかったが、  
それは、こちら側の世界へと滲み出してきた『何か』に力を与え、  
仮初めのものとはいえ、この世界における実体を獲得させるに充分な『養分』に他ならなかったのである。  
 
『ゴアアアアア――――ッッッ!!!!』  
 
ホーム中に轟き渡るかのような、ひび割れた咆哮。  
明らかに人間の声帯から発せられたものではないと分かる、その禍々しい響きに、  
優子の――――そして、その場に居合わせた全員の――――顔が恐怖に引き攣り、  
ぞっとするような声の持ち主にふさわしい、グロテスクな怪物の姿に息を呑んだ。  
 
その巨体を、敢えて地球上の生物に擬すならば、  
体毛が全て抜け落ちたマウンテン・ゴリラといったところが適当だろうか?  
異様に逞しく発達した筋肉、どす黒く濁った色の皮膚。  
長く伸びたかぎ爪。真っ赤に裂けた口元に並ぶ鋭い牙。頭には赤銅色をした二本のツノ。  
下腹部には人間のサイズを遥かに超える巨大なイチモツが高々と隆起し、  
まるで、その場所だけ、別の生き物であるかの如く、ビクビクと小刻みに脈打っている。  
 
さらにもう一種類、巨人達の足元には、赤黒い体殻を纏った六本足の生物が蠢いていた。  
大小それぞれ一対のガラス玉のような複眼、鋭く尖った下顎。  
外見的な特徴だけを捉えれば、それは昆虫の一種にも見えなくはなかったが、  
体長数十センチにも及ぼうかというそのサイズは、地球上に生息する虫達のものでは絶対にありえない。  
 
『ヴオオオオッッッ!!』  
 
雄叫びを上げる異形の巨人。  
丸太のような野太い腕がうなりを上げて襲い掛かってくる。  
反射的に跳ね飛び、かろうじて難を逃れる優子。  
背後にあったコンクリート製の円柱に拳がめり込み、砕け散った無数の破片が周囲に飛び散る。  
転んだ拍子に、何処かを強く打ちつけてしまったようだが、  
ショックのあまり、感覚が遠退いたのだろうか、痛みは殆ど感じなかった。  
 
「ぐわぁあああッ!!」「ひぃいいいッ!!」  
 
その場に居た人々の多くは、彼女ほど幸運に恵まれてはいなかった。  
巨人の拳によって、頭を叩き潰され、背骨をへし折られ、  
あるいは、巨大昆虫の下顎に喉笛を喰いちぎられ、はらわたを抉られて、  
脳漿と血煙と内臓を撒き散らしながら、次々に倒れていく乗客たち・・・・。  
僅か一、ニ分の間に、地下鉄駅の構内は、一面、血の海と化し、  
断末魔の呻きと咽せ返るような血臭が充満する地底の地獄へと変貌を遂げていく。  
 
「ぐッ・・・・ううッ」  
 
こみ上げてくる嘔吐感を必死に堪えながら、起き上がろうと足掻く蒼髪の少女。  
――――と、破砕されたコンクリートの粉塵で真っ白になったその背中に、黒い影が落ちる。  
 
『ゴァアアアア――――ッッッ!!』  
 
今度こそ逃がしはしないぞ、とでも言ったのだろうか、  
怪物は、ギラギラと輝く両目に、明確な殺意を滾らせながら、ゆっくりと間合いを詰めてくる。  
冷たい恐怖に心臓を鷲掴みにされた優子は、ヘビに睨まれたカエルのように、その場にへたり込んだまま、  
ガクガクと震え慄くばかりで、もはや、逃げ出す事すらおぼつかなかった。  
 
「だ・・・・誰か・・・・たす・・・・け・・・・」  
 
迫り来る死の気配を前にした少女に出来る事と言えば、  
幼児のようにイヤイヤをしながら、かすれかかった声で、来る筈の無い助けを呼び続ける事だけ。  
塵埃と血泥にまみれ、見る影も無く汚れきった紺青色のスカートの下、  
しなやかさと適度な充実感とが同居する白い太腿の間で、プジュジュゥゥゥッ、と情け無い音がしたかと思うと、  
微かなアンモニア臭を漂わせる生温かい液体が滲み出し、プラットホームの上に黄金色の水溜りが出来ていく。  
 
『グォオオオッッッ!!!!』  
 
すでにたっぷりと血糊がこびり付いている拳を固め、猛然と振りかぶる黒い巨人。  
蒼髪の少女はと言えば、今まさに、脳天へと振り下ろされようとしている死の一撃をよける事すら叶わず、  
その様子を、涙でぼやけた瞳でただ茫然と見上げている事しか出来ないでいた。  
 
――――どうして・・・・なぜ、わたしがこんな目に・・・・!?  
こんなの・・・・理不尽すぎるわ・・・・一体、わたしが何をしたっていうのッ!?  
 
・・・・無論、その問いに答えてくれる者など誰も居なかった。  
代わりに、鼓膜に飛び込んできたのは、放物弾道を描きながら急降下してくる拳の風切り音。  
瞬間的に発生した凄まじい拳圧で吹き煽られた長い蒼髪が、バサァッ、と勢い良く四散し、  
鼻腔から侵入した強烈な血の臭いが充満してしる頭の中が、脳震盪を起こしたかのようにグラグラと揺れ動く。  
 
・・・・ああ、わたし、死んじゃうんだ・・・・。  
 
――――――――そう思った、刹那。  
 
(・・・・ケトリナサイ・・・・ユウコ・・・・)  
 
耳元で、誰かの『声』が聞こえ、ほぼ同時に、目の前で白い光が弾ける。  
物凄い勢いで膨らんでいく、輝きと熱・・・・  
瞳を射られて、思わず、瞼を瞑ろうとしたその瞬間、  
反射的に突き出していた右手の先が、途轍もなく熱い、『何か』へと触れた。  
 
『ゴガァアアア――――ッッッ!!』  
 
「・・・・ッ・・・・やめてえェェェ!!!!」  
 
凄まじい大音響・・・・瞼の裏まで灼き尽くす閃光・・・・そして、あらゆる物を薙ぎ倒す、強烈な衝撃波・・・・!!!!  
 
「・・・・はぁッ、はぁッ、はぁッ」  
 
吹き付ける熱風。  
喉の奥がヒリヒリする。  
息が苦しい。心臓が張り裂けそう・・・・。  
 
(・・・・まさか・・・・わたし・・・・まだ生きてる・・・・の・・・・?)  
 
きつく閉じていた両の眼をおそるおそる見開く優子。  
まず視界に飛び込んできたのは、濛々と立ち込めた灰色の爆煙と、  
切れ目から垣間見える、無残に破壊され、内部の鉄筋が剥き出しになったコンクリートの柱。  
その根元にうずくまる、何か小山のような物体の影・・・・あの怪物だ。  
 
「・・・・えッ・・・・こ、これってッ!?」  
 
漆黒の巨体は生気を失い、コンクリートの瓦礫の中に半ば埋もれていた。  
分厚い胸板には、背中まで達する空洞が深々と穿ち抜かれ、  
焼け焦げた肉の間からは、シュウシュウと白い煙が立ち昇っている。  
 
・・・・そして、それよりも手前、爆圧で裂けちぎれた片袖の中から突き出す、しなやかな右腕の先には・・・・。  
 
(・・・・・・・・け、剣ッ!?)  
 
突き出したままの手指の向こう、空気以外は何も存在しない筈の空中に静止している、光り輝く一振りの剣。  
長さも形状も、先刻目にした麗子の剣に酷似していたが、  
鍔元と握りの部分は、鈍く輝く黒金の光沢ではなく、燦然たる黄金色の輝きを帯びており、  
そのせいだろうか、彼女の持っていたものとは随分異なる、清冽な雰囲気に包まれている。  
 
『・・・・優子』  
 
唐突に、響き渡る女性の言葉。  
驚いて周囲をキョロキョロと見回した少女は、  
しかし、すぐに、ハッ、として動作を停止する。  
 
(これって、声じゃない・・・・頭の中に、直接、聞こえてくる・・・・それに、この感じは・・・・!!)  
 
『そうです・・・・優子。これを受け取りなさい』  
 
どこまでも澄み渡った青空の如く、清らかで、力強い、  
それでいて、決して高圧的には聞こえない、慈愛に満ちた優しい調べ・・・・。  
その響きは、紛れも無く、毎夜、夢の中に現れて自分を呼んでいた、あの不思議な女性のものだった。  
 
『ヴェカンタの昂りを、これ以上野ばなしにするわけにはいかないのです。  
・・・・あなたにはそれを正す資格がある』  
 
「ヴェカンタ?資格?・・・・何のことなの?」  
 
相変わらず、話の内容は分からない事だらけだったが、  
少なくとも、その口調からは、邪まな欲望や底暗い企みの存在は感じ取れなかった。  
むしろ、(理由までは分からないが)自分を励まし、勇気付けてくれる、強い思いやりが見て取れる。  
 
『さあ・・・・剣を取りなさい』  
 
『声』に後押しされ、優子は、改めて、目の前に浮かぶ剣へと視線を走らせた。  
本当にこれで何かを斬る事が出来るのだろうか?と思えるぐらいの華奢な刀身。  
澄み切った白銀色のそれは精妙な霊気を湛えており、  
武器というよりも、むしろ、何かの儀式に用いられる祭具のような風格が備わっている。  
 
・・・・そう、ただ人や物を傷付け、死と破壊をもたらすためではなく、  
何かもっと大事な目的に用いるために生み出された、神聖な存在・・・・。  
 
(・・・・ゴクリ)  
 
なお躊躇いを残しつつも、少女の手はゆっくりと剣の握りへと近付いていく。  
小刻みに震える指先が繊細な装飾の施された柄に触れたその瞬間、  
刀身を包む白銀の光芒が、より一層、輝きを増し、  
髪の毛がチリチリするような感覚が、全身を包み込んだ。  
 
一瞬、ビクッ、と全身を痙攣させた蒼髪の少女だったが、不可思議な波動はすぐに消え去り、  
後には、何とも言えぬ爽快感と充実感が漲っていた。  
打撲の痛みも筋肉の疲労も嘘のように掻き消えて、身体全体が弾むようにリフレッシュしている。  
 
――――ヒュンッ!!  
 
気が付けば、優子は、黄金の剣柄を握り締め、軽く試し振りをしていた。  
外見は頼りないとはいえ、鍛え上げられた鋼の塊には違いないのだから、と、相当な重さを覚悟していたものの、  
予想に反し、両手に感じる重量は殆ど無く、まるで紙で作られているかのように軽々と扱う事が出来る。  
しかも、これまでの人生の中で、刀剣など手を触れた事すら無いというのに、  
剣を手にする事への抵抗感は全く起こらず、  
むしろ、不思議と気分が落ち着いて、感性が研ぎ澄まされていくようだった。  
 
『ゴァアァアァアァッ!!』  
 
再び響き渡る、割れ鐘のような雄叫び。  
ハッ、となって、声のした方を振り返ると、  
先程の巨人と同じ背格好の、黒い肌の怪物たちが数匹、  
仲間を殺された怒りに全身を戦慄かせながら、一斉に突進してくるのが目に映った。  
 
直後。  
思考が追い付くよりも遥かに早く、優子の手足は新たな事態への対応を果たしていた。  
両手でしっかりと握り締めた剣を上段に構え、手の平に意識を集中する。  
鍔元に嵌め込まれた深紅の宝石が、一瞬、燃え上がるような輝きを放ったかと思うと、  
細身の刀身全体が、限りなく清浄な、そして、力強い光によって包み込まれた。  
 
「ハアッ!!」  
 
裂帛の気合と共に振り下ろされる、聖なる刃。  
切っ先から撃ち出された白い光条が、幾つもの光の弾丸となって、迫り来る怪物たちの横隊へと襲い掛かる。  
各々の標的にあやまたず命中した光の飛礫は、彼らのどす黒く濁った皮膚を呆気ないほど容易く切り裂くと、  
肉を抉り、骨を断ち、本来この世界にあってはならない、邪悪な生命に終止符を打ち下ろした。  
 
「体が軽い・・・・!まるで自分の体じゃないみたい・・・・」  
 
自らにもたらされた未知の力に驚き、そして、興奮を覚える優子。  
高揚感に包まれた身体の中を、エネルギーに満ち溢れた波動が熱い血潮となって駆け巡り、  
躍動が細胞の隅々にまで行き渡っていくのが分かる。  
スピードもジャンプ力も、まるで陸上五輪の選手にでもなったかのように格段に向上しているし、  
視覚や聴覚をはじめとする五感も、判断力や思考力さえも、ほとんど人間離れした水準にまで冴え渡っていた。  
 
「てやぁああッッッ!!!!」  
 
迸る感情に身を任せた少女は、広大な地下鉄の構内を縦横無尽に駆け抜ける。  
狩る側の立場から一転、狩られる側の立場となった巨人や巨大昆虫は、  
彼女の右腕が振り下ろされるたび、銀色の光に撃ち抜かれて次々に倒れ、物言わぬ骸と化していく。  
純粋な体力勝負であれば、怪物たちも決して一方的に不利という訳ではなかったかもしれないが、  
素早さや正確さを含んだ総合的な戦闘能力において、彼らは到底優子の敵ではなかった。  
一箇所に留まらず、常に走り続け、攻撃の狙いを定めさせない青髪の少女を、異形の者共は追尾しきれず、  
したたかな逆撃を喰らって、一匹、また一匹と打ち倒されていく。  
 
・・・・だが、勝負は容易には決しなかった。  
 
いくら圧倒的な実力差があるとはいえ、優子が、たった一人なのに対し、  
異形の生物達は、倒しても倒しても、何処からとも無く湧き出してきては、  
恐れも躊躇いも一切無しに、延々と闘いを挑んでくる。  
脱出方法はと言えば、階段もエレベーターも一つ残らず破壊し尽くされ、  
地上に続く通路自体、崩落した瓦礫に埋まってしまっていて、これも不可能と言う他無い。  
・・・・少女に残された道は、戦場を離脱し、線路伝いに数キロ離れた隣接駅を目指す事だけだった。  
 
――――はぁッ・・・・はぁッ・・・・はぁッ・・・・。  
 
点々と連なる非常電灯を頼りに、薄暗い地下の通路をひた走るセーラー服の少女。  
その後ろには、執拗に追撃を試みた怪物たちの死体が累々と連なっている。  
普段、地下鉄に揺られて通学している際には考えた事も無かったが、  
トンネルという場所は決して歩き易い所ではなく、  
足元と背中の両方に絶えず注意を払いながら進むのは想像以上の難行軍だった。  
どうにか追っ手を振り切る事が出来た、と実感できるようになった頃には、  
剣によってもたらされた高揚感も過去のものとなり、  
肉体的にはともかく、精神的には相当な重圧を感じるまでに至っていた。  
 
「どうしよう・・・・何でこんなことに・・・・」  
 
靴底が抜けかけて酷く歩きにくくなっていた足を止めて、荒々しく肩で息をする優子。  
青白い線路灯の光に照らし出された横顔は沈鬱に翳り、  
先刻までの溌剌とした充実感は何処かに掻き消えてしまっていた。  
流れ出る汗でベトベトになったセーラー服が肌に纏わり付いて不快な事この上なく、  
下半身からは、息を吹き返した失禁の感触が、虫唾の走るような悪寒を伴い、這い登ってくる。  
 
「・・・・・・・・」  
 
無言のまま、手に持った剣へと視線を落とす蒼髪の少女。  
・・・・薄青色の瞳をよぎる、怯えと疑惑の深い影。  
 
これまで、自分を守り、庇護してくれる存在とばかり思っていたのだが、  
はたして、それは本当なのだろうか・・・・?  
もしかしたら、事実は全く逆で、この剣こそが全ての怪異の元凶だったのでは・・・・?  
 
ガシャン!!!!  
 
ブルブルと震える細い肩を、ひしっ、と掻き抱きながら、  
蒼髪の少女は、線路の上に投げ捨てた冷たい鉄の塊から顔を背けた。  
目元には大粒の涙が浮かび、頬筋は凍えついたかのように引き攣っている。  
 
「家に・・・・帰らなきゃ。  
熱いお風呂に入って、一晩ゆっくり寝て、それから・・・・それから・・・・」  
 
しどろもどろになりながらも、優子は、  
これは、夢か、あるいは、性質の悪い幻覚に違いない、と、必死に言い聞かせようとする。  
 
・・・・あの怪物も、不思議な声も、何もかも幻想の産物に他ならないわ、  
・・・・だって、ほら、そんな事が、現実に起きる訳が無いじゃない。  
・・・・鉄筋コンクリートの壁や柱を素手で破壊する、ゴリラみたいな生き物?  
・・・・頭の中に直接響いてくる女の人の言葉?  
・・・・宙に浮かんだ剣を掴んだ途端、漫画の主人公みたいなパワーを授かるわたし?  
   
――――だが、(彼女にとっては不運な事に)その努力が実を結ぶ事は決してなかったのだった。  
 
・・・・ズンッ!!  
 
すすり泣く少女の耳に飛び込んできたのは(またしても)重々しい地響きの音。  
一瞬、あのゴリラのような怪物がしつこく追いかけてきたのか、と背後を振り返った優子だったが、  
足音は、後方からではなく、前方から近付いてきており。  
何より、先刻の黒い巨人とは比べ物にならない、凶悪なまでの存在感を放っていた。  
 
「・・・・な、何・・・・?」  
 
擦り切れ、薄汚れた袖口で、目元をゴシゴシ擦りながら、トンネルの奥を凝視する蒼髪の少女。  
しばらくして、漆黒の闇の中に浮かび上がったのは、  
ほとんど天井に頭が届きそうなくらいの身の丈に、  
それと同じ、否、更に発達しているかもしれない肩幅を有する、巨大な筋肉の塊。  
これまで倒してきた怪物たちが子供にしか見えない、恐るべき巨体の持ち主を前にして、  
思わず息を呑んだ彼女は、次の瞬間、放り捨てたばかりの剣に、無我夢中で飛びついていた。  
 
『あのお方もお人が悪い・・・・』  
 
小山のようなその身体を覆っているのは、筋肉の鎧と重厚な外骨格。  
加えて、要所要所に分厚い装甲板まで張り付けたその外観は、  
まるで、昔の戦争映画に登場する重戦車のような威圧的な重々しさに満ちている。  
 
『こんな小娘相手に、わざわざこのガイーダを呼び出されるとは』  
 
ずんぐりとした胴体の上には、平べったい頭部と仮面のような奇怪な顔面。  
目や口をはじめとするその造作は、逞しすぎる肉体に似ず、面相筆で描かれたかのように細かった。  
太くがっしりとした四肢は、脚部よりも腕の方が若干長く、  
そのせいか、姿勢は、常に少し前に屈み気味で、まるで獲物に飛びかかる直前の肉食動物のようである。  
 
(・・・・ま・・・・まさか、喋れるの!?)  
 
そして、何より優子の心を寒くしたのは、  
歪んだ笑いを湛えた唇から漏れる、ぞっとするような囁きだった。  
勿論、『ガイーダ』と名乗った異形の怪物は人語を操れる訳ではなく、  
発しているのは、唸るような不気味な囀りに過ぎない。  
だが、耳に入ってきた時点では、間違いなく、判別不明だった筈のその奇声は、  
如何なる仕組みによるものか、頭の中に達した時点では、紛れも無い『言葉』として把握されているのだった。  
 
「いや・・・・あ・・・・こ、来ないでェ・・・・!!」  
 
だが、相手が人語を解する存在であると気付いた事は、  
優子を安心させるどころか、その怯えをますます深刻化させただけだった。  
この恐ろしげな筋肉の化け物が友好的な接触を望んでいるとは思えない以上、  
腕力や体力だけに留まらず、一定以上の知能をも有するのだという事実は、  
彼がその分だけ余計に危険な存在である、という意味に他ならない。  
 
・・・・事実、ガイーダは、(少なくとも、この時点においては)眼前で怯えすくむ少女に対して、  
殺意以外の感情は全く持ち合わせてはいなかったのだった。  
 
『・・・・あのお方の命令は絶対だ。お前にはここで死んでもらおう』  
 
くぐもった声で呟きを漏らすと、巨獣は長い両腕を胴の前で交差させ、次いで、上半身全体を前屈させた。  
筋肉と装甲版が、ギシギシ、ミシミシ、と不気味に軋み合い、  
怪物の巨体が、動物園のアルマジロのように丸まっていく。  
目の前で繰り広げられる奇怪な変容に、恐怖も露わに見入っていた少女は、  
巨大な車輪と化したその体が、ゴォォォッ、と凄まじい音を上げながら回転を始めると、  
本能的に危機を察知して、手にした剣の切っ先へと意識を集中した。  
 
――――だが・・・・。  
 
「・・・・き、効かないッ!?」  
 
放たれた光の弾丸は、高速で回転する黒い車輪を捉えたまでは良かったものの、  
その表面で弾かれ、本体には何のダメージも与えられないまま、空しく四散していく。  
信じ難い光景に色を失い、逃げ出す事も忘れてその場に立ち尽くす蒼髪の少女。  
・・・・我に返った時には、巨大な殺人ヨーヨーと化したガイーダの体が目の前に迫っており、  
すでに、回避はおろか、直撃を免れる余裕すら存在しなかった。  
 
「あぐぅううッッッ!!!!」  
 
為す術も無く跳ね飛ばされた全身を凄まじい衝撃波が貫き、  
荒々しく唸る風圧が、カマイタチのように着衣を切り裂いた。  
捲れ上がりズタズタに引き千切れた、紺色のスカートの中から、  
生白い太腿が剥き出しとなり、失禁の痕も生々しいコットン地の下穿きが露わとなる。  
地球の引力に引かれたその身体が線路の上に叩き付けられた直後、  
ギギギィィィィ、という恐ろしい金切り声を上げながら、真っ黒な車輪がUターンしてくると、  
哀れな少女の五体は再び宙を舞い、今度は数メートル離れた壁面に背中から叩き付けられてしまった。  
 
「・・・・ッ・・・・うぐ・・・・ぁ・・・・」  
 
全身の骨が粉々に砕けるかのような凄まじいショック、  
一瞬遅れて、『激痛』などというありきたりの言葉では到底言い表せない痛覚の大波が、優子を襲う。  
気管が詰まり、呼吸が停止し、悲鳴を上げる事すら叶わなくなった蒼髪の少女は、  
灰色の靄に包まれた意識の中、力を失った自分の体が、ズルリ、と壁面から剥がれ落ち、  
冷たいコンクリートの地面の上へ崩れていくのを、ただ茫然と眺めているしかなかった。  
 
『ククク・・・・』  
 
攻撃形態への変形を解除し、本来の姿へと戻ったガイーダの視線が、  
地面にうつ伏せに倒れた傷だらけの獲物の上に、冷たく注がれる。  
真っ白な埃をかぶり、見る影も無くクシャクシャに乱れた蒼髪、  
両袖とも千切れて、ノースリーブ状態になったセーラー服、  
すでに衣服としての態を為しておらず、ボロきれ同然の惨状を晒しているスカート。  
 
・・・・だがしかし、その右手は、(無意識のうちに、ではあったが)未だ黄金の剣柄を握り締めたままだった。  
 
『どうした、お前の力はその程度か?  
そんな事で、このわしのアースクエイクに耐えられるかな?』  
 
湾曲した鋭い鉤爪をギラギラと輝かせながら、倒れ伏した少女をねめつける魔生物。  
ホッケーマスクのような無機質な顔面には、嗜虐欲に満ちた笑みが満ち溢れていた。  
・・・・夢幻界の女王から与えられた加護があるとは言え、  
満身創痍、動く事さえままならない有様のこの小娘が、  
暗黒の支配者からも賞賛される、自らの最強奥義を受けて五体満足でいられるとはとても思えない。  
 
(フフフ、ヴァリアに選ばれた<戦士>・・・・首を捻じ切る前に、その肉体を味わってみるのも悪くない)  
 
戦場で捕えた夢幻界の女共と同じく、自慢のイチモツを捻じ込んだならば、  
文字通りの意味で『昇天』しまいそうな様子の細いカラダだが、  
よくよく観察すれば、そこには、彼女達には無い肉感的な豊かさの気配が見て取れる。  
抹殺命令が下されている以上、最終的に生かしておくつもりは毛頭無かったが、  
その事に気付いたガイーダにとって、目の前の人間界の娘はもはや単なる標的ではありえなかった。  
恐るべき怪物は、優子を睨み据えたまま、両腕を地面へと突き立てると、  
手指の先に精神を集中して、全身を流れる暗黒の瘴気を大地の底へと送り込む。  
 
――――轟音。  
 
怪物の手元から発せられた邪悪なエネルギーが、地面の下で指向性を持った波動となり、  
線路の敷石が捲れ上げ、活断層のような亀裂を発生させながら直進する。  
特殊鋼で出来たレールが、地中に埋設された鋼鉄製の計器類が、まるで飴細工のように寸断され、  
大量の土砂と共に噴き上がって、身動き出来ない優子へと襲い掛かった。  
 
「きゃああああッ!!!!」  
 
絶叫とともに、みたび、空中へと放り上げられた彼女の右手から、  
白銀の輝きを帯びた細身の剣が零れ落ち、瓦礫の中へと吸い込まれていく。  
空中で2,3回、クルクルと回転した後、人工的な地震によって形成された陥没孔の中へと落下した少女は、  
地面へと叩きつけられた時のショックで白目を剥き、動かなくなってしまった。  
 
『フハハハハ、他愛もない・・・・。  
まぁ、ただの人間にしてはよくがんばった方だが』  
 
濛々と立ち込める土煙。  
地中に半ば埋もれた形で失神している優子へと近付いたガイーダは、  
敗北者のブザマな格好に容赦ない嘲笑を浴びせながら、  
華奢な足首を無造作に掴み、土砂の山の中からその身体を引き摺り上げる。  
 
『クククク』  
 
異形の怪物の好色な眼差しが、逆吊りにした少女の肢体を舐め回す。  
無残に破れて捲れ上がった、セーラー服の胸元からは、Cカップの乳房を包んだブラがまろび出ていたが、  
持ち主の性格を反映してだろう、決して派手なものではない。  
一方、ショーツの方は、万事控え目なファッション感覚の持ち主の彼女にしては幾分背伸びをした感のある、  
レース飾りを大胆にあしらった大人びたデザインのものだったが、  
今や、大きく広がった排泄液のシミとアンモニア臭によって悲惨な状況に陥ってしまっていた。  
 
『それにしても、本当にコイツがヴァリアに選ばれた戦士なのか?  
・・・・だとしたら、夢幻界の連中も、相当ヤキが回っているとしか思えんな』  
 
独りごちながら、ガイーダは、鋭く尖った爪の先をぎこちなく操り、  
気を失った獲物に残った衣服の残骸を切り刻んでいく。  
歴戦の士である彼にとっても、人間界の女をモノにするのは初めての経験だったが、  
これまで観察した限りでは、衣服や所持品はともかく、身体の基本的な構造は、  
今までに戦場で捕らえ、獣欲の贄に供してきた異世界の女達とさほど変わらないように見えた。  
 
――――プツリ。  
 
大きくはだけられたセーラー服の下、純白のブラが真っ二つに切り裂かれて、  
中から白桃色をした一対のふくらみが姿を現わす。  
白く輝く汗の粒に覆われた乳房は、  
この年代の少女のものとしては、平均よりもやや豊かなサイズで、形状も色艶も申し分なかった。  
それぞれの小山は、一番上に淡いピンク色をした小ぶりの乳輪を頂き、  
その中心には、小指の先程度に身を尖らせた可愛らしい乳首が屹立している。  
 
『フン、大きさはまあまあ、だな』  
 
ニィィ、と唇の端を吊り上げる異世界の怪物。  
彼の生まれた世界――――暗黒界という名の、夢幻界とは対を成す時空――――の女たちに比べて、  
ボリュームや(多少乱暴に扱っても大丈夫か否かという意味での)バイタリティの点では劣るものの、  
夢幻界の女達の平均よりは上であり、皮膚の肌理の細やかさや瑞々しさは彼女達に引けを取らない。  
むしろ、彼女達の肌が、白い、というより、薄い、と形容する方が適切な、繊弱な代物であるのに対し、  
目の前の少女のそれは、非常に健康的で、光り輝くような躍動感に満ちていた。  
 
『・・・・こっちの方はどうだ?』  
 
口腔内に滲み出す唾液の分泌量が急速に増大していくのを感じつつ、  
ガイーダは、適度にくびれた脇腹の下、しなやかな二本の太腿に挟まれた場所を覆う薄布へと指を伸ばす。  
摘み上げられ、引き伸ばされたお気に入りのショーツは、  
すぐに耐久力の限界に達して、弱々しい悲鳴を上げながら千切れ落ちてしまった。  
 
露わになったのは、まだ恥毛も十分生え揃っていない、未成熟な果実。  
失禁の名残りなのだろうか、それとも、別の要因によるものなのだろうか、  
外気にさらされた優子の最も恥かしい場所は薄桃色に蒸れ上がり、じっとりと濡れそぼっている。  
二枚の肉花弁は、一ミリの隙間もなく、ぴったり閉じ合わさっているものの、  
それ自体の体積は、明らかに通常の状態よりも増大してしまっており、  
あまつさえ、先端にある小さな肉莢が半ば捲れ上がって、ぷっくりと脹らんだ真珠玉が見え隠れしていた。  
 
『フフフ・・・・どれ、味見といこうか』  
 
暴き立てられた秘密の花園に、能面のような顔を、ぐぐッ、と近付けるガイーダ。  
アンモニア臭と甘酸っぱい汗の匂いが入り混じった複雑な芳香が鼻腔をくすぐると、  
戦闘によって昂ぶっていた嗜虐心が更に掻き立てられ、強烈な牡の欲望がこみ上げてくる。  
唇の無い口元から、赤茶けた色の異様に細長い舌先を突き出した彼は、  
ザラついた表面を柔かい恥毛の草叢へと押し当て、ゆっくりと動かし始めた。  
 
・・・・ぴちゃッ・・・・ぴちゅッ・・・・ぴじゅるッ・・・・!!  
 
ヌルヌルとした唾液をたっぷりと含ませた舌先が、  
ぷっくりと隆起した恥丘の稜線を丹念に舐め上げる。  
気を失っているためだろう、女体の反応はあまり顕著なものとは言えなかったが、  
それでも、時間の経過に伴い、優子の、未だ男の味を知らない陰唇粘膜は鮮やかさを増し、  
次第に、ピクッ、ピクッ、という微細なわななきが表面に現れるようになっていく。  
それに気を良くした暗黒界の魔将は舌先の動きを加速させ、  
同時に、より大胆なストロークを用いて、少女の肉花弁を本格的に責め立て始めた。  
 
「・・・・ッ・・・・ん・・・・う・・・・うんぅ・・・・」  
 
美しい獲物から漏れる、断続的な呻き声。  
性感の回復は、(おそらくそれが無意識の領域に属するためだろうが)意識の回復よりもずっと早く、  
すでに、平常時とさほど変わらない水準にまで復帰していた。  
 
『クククッ、ビラビラが開き始めたな・・・・蜜もジュクジュクと滲み出てくる。  
・・・・おっと、気付かないうちに、こっちの方も皮が剥けかかっているではないか!?』  
 
欲情の高まりを反映して、ガイーダの息遣いも次第に荒々しい調子へと変化していく。  
ギラギラと輝く眼差しの先では、ザラザラとした舌先の感触に根負けした肉扉がおずおずと口を開き、  
異性のイチモツを咥え込んだ事のない、真っ新な膣口が曝け出されていた。  
思わず、ゴクリ、とツバを呑み込んだ怪物の股間でも、  
人間界の平均的な成人男性の数倍に達するサイズの生殖器官が逞しく聳え立ち、  
熱く煮え滾りながら、突入のタイミングを今や遅しと待ちわびている。  
 
「・・・・はッ・・・・くッ・・・・うう・・・・んむッ・・・・ぁうう・・・・むあぅんッ・・・・!!」  
 
執拗な、そして、巧妙なクンニリングスによって送り込まれる快感のパルスは、  
悪夢の中に閉じ込められた優子の心を絶えず揺すぶり動かし、  
悪夢よりも更におぞましく、更に悲惨な現実への覚醒を促し続ける。  
目覚めた先に待ち構えている非情な運命を想っての事だろう、  
蒼髪の少女の目元からは大粒の涙がとめどなく溢れ、  
鈍く輝く鉛色の小川となって、青褪めた頬を流れ落ちていくのだった・・・・。  
 
――――――――to be continued.  
 
 

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