――――夢幻界。ヴァニティ城。一室。  
 
「はぁうッ・・・・くッ・・・・あはぁ・・・・うふはぁんッ!!」  
 
金箔と七宝で飾られた天蓋付きの豪奢なベッドの上で、激しく絡み合う二つの肢体。  
マウント・ポジションを取り、巧みなベッド・テクニックを駆使しているのは、  
全身をぴっちりとしたメタリック・カラーの戦闘スーツに包んだ、ツインテールの少女  
・・・・変幻戦忍の異名を奉られる、本能寺忍軍の女忍・アスカ。  
 
「フフフ・・・・どう、お姫サマ?  
あたしの忍術、気に入って頂けたかしら?」  
 
まだあどけなさを残していると言って良いだろう、  
やや色白だが、申し分なく健康的な肌艶に恵まれた相貌に浮かんでいるのは、  
その雰囲気とは全く相容れない、邪まな喜悦にまみれた、嗜虐の笑い。  
スモークバイザーの奥では、橙々色の双眸が欲情の炎を上げて燃え盛っている。  
 
敏捷なネコ科の肉食動物――――ライオンやトラのような強大なパワーを誇る大型の獣ではなく、  
リュンクスやワイルドキャットのようなスピードと敏捷さを持ち味とする夜の狩人たち――――を連想させる、しなやかな体躯に纏っているのは、  
オレンジ色の縁取りのある、シャイン・シルバーとブラックのツートン・カラーのレオタード型戦闘スーツ。  
瞳と同じ色の頭髪の上には、昆虫の触角を模したアンテナ付きのティアラを頂き、  
額の真ん中では、それと一体化した宝玉状の超高感度センサーが妖しいピンク色に光り輝いている。  
 
「ひぃうッ・・・・んぁああッ!!  
あ、アソコが・・・・あああ・・・・熱いッ・・・・まるで、燃えているようですッ!!」  
 
一方、アスカに組み敷かれて、  
艶かしく喘ぎながら、上気したカラダを激しく打ち震わせているのは、  
丁度、彼女と同じくらいの背丈の赤紫色の髪の女騎士。  
――――芸術王国ララマザーの王位継承者たる身分を隠し、  
白翼の騎士・ナイトスワニィとして力なき民草のために剣を振るう、王女シルキス。  
 
大振りのメロン程もある豊かなバストに、キュッと引き締まったウェスト、  
そして、発育途上の初々しい曲線の中に豊かさの気配を秘めたヒップ周り・・・・。  
10代半ばという年齢相応の、小柄な体格とはいささかミスマッチだったが、  
彼女の肉体は、少女らしい愛らしさを残しつつも、すでに女性としての成熟への第一歩を踏み出している。  
それらを包んでいるのは、王宮で身に纏う、豪奢な薄絹のドレスではなく、  
黄金で縁取られた、純白に光り輝く魔法甲冑の筈だったが、  
今この瞬間は、アスカの淫術によってその多くが剥ぎ取られ、ベッドの下に無造作に投げ捨てられていた。  
 
(・・・・はぁ、はぁ・・・・だ、だめです・・・・こ、この感じは・・・・ひはぁああッ!!!!)  
 
黒色の特殊樹脂で出来たグローブに包まれた、アスカのしなやかな指先が、  
シルキスの無毛の恥丘を優しくなぞり上げ、サーモン・ピンクの陰唇を捲り上げる。  
突き上げてくる快美感に、胸甲を剥ぎ取られ、剥き出しになった白い乳房がブルブルと揺れ動き、  
弓なりにしなった背筋が、ギクン、ギクン、と、激しく痙攣を発した。  
 
(・・・・あああ・・・・と、止められないッ!!わたくしのカラダ・・・・また、あの時のように・・・・!!)  
 
大粒の涙を浮べながら、必死にかぶりを振る白き姫騎士。  
その脳裏に去来するのは、数ヶ月前に起きた、忌まわしくも甘美な事件の記憶――――。  
 
偶然に出会った魔法の白鳥の力を借り、白翼の騎士・ナイトスワニィとなったシルキスは、  
王国を騒がす謎の魔物・ジュエル魔獣と戦ううちに、  
背後で彼らを操る黒幕が、隣国であるウィンザー魔法大国の姫であり、彼女自身の幼馴染みでもあるローズ王女と知る事になる。  
真意を問い質すべく、単身、彼女の許へと乗り込んでいく、汚れなき姫騎士。  
だが、そこでシルキスを待っていたのは、  
邪悪な魔道の術により誕生した黒鳥の力を得て、暗黒の騎士・ダークスワニィと化したローズの姿だった。  
完膚なきまでの敗北を喫したシルキスは、自らの家臣たち、そして、領民の目の前で、  
ジュエル魔獣、復讐心を滾らせた犯罪者たち、そして、ローズ自身によって、  
辱められ、純潔を奪われ、更には、純真な心の奥深くに宿った、もう一人の自分  
・・・・被虐の快感に溺れ、自ら肉棒と精液を求めて悶え狂う痴女の素質を暴き立てられてしまう。  
 
「あああッ!!ダメですッ・・・・もう・・・・もう、わたくし・・・・あはぁあああッ!!」  
 
白鳥の最後の力を得て、奇跡的にローズを退けた後も、  
あの時の記憶は、夜と無く昼と無く、淫夢となってシルキスを苦しめ続けていた。   
普段は忘れていても、ちょっとしたきっかけ――――多くは性的な興奮にまつわるものだった――――で、  
突然、脳裏にフラッシュバックすると共に、  
何度も何度も白濁した熱い体液を注ぎ込まれた未成熟な肉の花弁から溢れ出る淫らな滴りとなって、  
下穿きの内側をびしょびしょに濡れそぼらせてしまうのである。  
 
「フフン、お姫サマのクセして、色々と経験済みみたいねぇ?  
この可愛らしい、ツルツルのオマ○コで、一体、何本のチ○ポを咥え込んだんだ?」  
 
「はぁうッ・・・・お、お願いです・・・・これ以上は、もう・・・・」  
 
眼尻一杯に大粒の涙を溜めながら、弱々しくかぶりを振るシルキス。  
だが、アスカの冷たい指先がピンク色に充血した陰唇粘膜をなぞり上げるたび、  
淫術にとらわれた姫騎士のカラダは妖しい波動に打ち震え、  
口元からは、熱い吐息と一緒に、肉悦に蕩け切った喘ぎ声が引っ切り無しに飛び出してくる。  
 
そして、ついに――――。  
 
「ひぁあッ!?ぁああッ・・・・はぁひあぁあああッッッ!!!!」  
 
少女の全身が、ビュクビュクビュクッ!!と、ひときわ大きくうねりを発した直後、  
手足の感覚が急速に消え失せていき、  
まるで、そこだけが重力の法則から解き放たれてしまったかの如く、浮遊感に包まれた。  
次の瞬間、桜色に染まり上がった白絹の皮膚の上の、毛穴という毛穴から、  
銀色をした小さな汗の粒が、パアァァッ、と飛び散ったかと思うと、  
目の前が白一色に発光し、鉄砲水のように溢れ出した快感が、凄まじい勢いで意識の全てを飲み込んでしまう・・・・。  
 
「本能寺忍法・秘奥義『淫蟲壷操りの術』。  
これでもう、アナタはあたしには逆らえないわよ、可愛いお姫サマ」  
 
唇の端を歪めながら、女忍者はにんまりと笑みを浮かべた。  
対する姫騎士は、肺の中の空気を残らず吐き出してしまったかの如く、  
顔面を真っ赤に染めながら、荒々しい呼吸を繰り返すだけ。  
熱い涙滴を一杯に湛えたアメジスト色の双眸は、  
先刻までの、気高く、力強い意志の顕れである美しい輝きを喪失して、  
今では、まるで魂を抜き取られてしまったかのように、どんよりと曇ってしまっていた――――。  
 
 
――――ヴァニティ城内。一室。  
 
各世界から<戦士>たちが召喚されて以来、  
ヴァニティ城では、夢幻界の住人だけが暮らしていた頃には存在しなかった行事が幾つか誕生していた。  
 
毎日の食事もその一つである。  
 
・・・・と言っても、本来ならば、夢幻界にいる間は、  
リアリティの住人である<戦士>たちといえども、飲食によって栄養を補給する必要は無かったし、  
そもそも、空腹や喉の渇きを覚えるという事自体がありえない筈だった。  
 
だが、(出身世界によって回数には違いがあるものの)一日に何度か食事を摂る、という習慣に慣れた<戦士>たちにとって、  
いかにその必要が無いからと言っても、全く飲食をする事の無い毎日、というのは、  
何とも奇妙で、落ち着きの無い、何より、潤いに欠けるものに感じられるものだった。  
彼女たちにとって、飲食を取る、という事は、単なる栄養とエネルギーを補充するための行為ではなく、  
ある意味では、自分達が各々の出身世界に属する者だ、というアイデンティティーを再確認する行為でさえあったのである。  
<戦士>たちの強い要望の前では、王女ヴァルナとてその願いを無下には出来ず、  
彼女達が(現実界に居た頃と同じく)時間の経過と共に空腹や渇きを覚えるよう、取り計らうしかなかったのだった。  
 
「凄いわね。本当に、欲しい物なら何だって出てくるなんて・・・・」  
 
目の前で白い湯気を立てている料理  
――――異世界アシャンティのレダ教徒に伝わる、伝統的な保存糧食だという、  
プラスチックに似た材質の容器に入った、茶褐色のスープに浸かった細打ちの縮れ麺――――を前に、  
目を丸くしているのは、<レダの戦士>朝霧陽子。  
 
彼女が驚くのも無理は無い。  
『どんな物でも用意出来るから、遠慮なく申し付けて欲しい』という給仕係の侍女の言葉に対して、  
ならば、とばかりに求めたのだが、テーブルの上に並べられるまでに要した時間は、せいぜい数分といったところだったのだから。  
 
「うん、あたしもびっくりしちゃったッ!  
このリンゴ、おじいちゃんの育ててた木に成ってたのと、形も大きさも全部一緒なんだもん。  
もしかして、おじいちゃんの畑から取ってきたのかな?」  
 
そう言いながら、皿に盛られた果物に元気良くかぶりつく、<リバースの剣士>キャロン。  
オレンジ色の髪の毛をポニーテールに結わえたこの少女も、ヴァルナやシルキスと同じく、  
出身世界である惑星ラルの『昼の地』(ミュウ)に栄えたラル王国の王家の血を受け継ぐ『姫君』である。  
だが、生後間もなく、魔王ラモ・ルーの侵略により、自分以外の王家の全員を失い、  
これまでの人生の3分の2以上を辺境の老農夫の家族として過ごしてきた彼女の立ち居振る舞いは、  
王族の優雅さでは無く、庶民の娘の溢れんばかりの快活さよって占められていた。  
 
「ホントよね〜。  
こっちのケーキなんて、去年閉店した駅前の喫茶店の、オリジナル・ケーキと全く同じ味よ。  
一体、どうやって作ってるのかしら?」  
 
生クリームの付いたイチゴを突き刺したままのフォークを揺らしつつ、感心しているのは、  
真紅のチャイナドレスに身を包んだ、<第108代魔物ハンター>こと真野妖子。  
『どんな物でも用意出来るから・・・・』という、夢幻界人のセリフに対して、  
廃業して既に一年以上経つ店の看板メニューを注文する彼女も彼女だが、  
(何らかの魔術的手段を用いているにせよ)オーダー通りの物を律儀に揃える給仕たちも只者ではない。  
 
「・・・・」  
 
和気藹々と賑やかに料理を囲んでいる3人とは対照的に、  
別テーブルで、一人、沈んだ顔をしているのは、<銀の勇者>レムネア。  
目の前の皿に盛られている、故郷カナンの料理  
――――フレッカスという小ぶりのパンと果汁で風味付けした低アルコール飲料のメルン――――  
をじっと見つめながらも、殆ど手を付ける事無く、物思いに耽っている。  
 
(・・・・メッシュやリアンたちも、今頃はご飯食べてる頃かなぁ・・・・)  
 
「どうしたの?食事、進んでないようだけど?」  
 
背後からの声に、ハッとなる<銀の勇者>。  
振り返った視線の先では、黄金の甲冑に身を包んだ蒼髪の少女が心配そうな表情を浮べている。  
 
「え、えっと・・・・その、何でもないの。ちょっと考え事をしてただけ・・・・」  
 
曖昧な返事を返したレムネアを、  
しばらくの間、無言で見つめていた優子は、やがて、にっこりと微笑みかけた。  
 
「心配しなくても大丈夫。  
ヴァルナ様や麗子に任せておけば、すぐにみんなの所に戻れるようになるわ」  
 
「・・・・!」  
 
心の内を見透かされ、両目を見開く銀髪の<戦士>。  
眺めているだけで心が和んでくるような、ふんわりとした温かい笑みを浮かべたまま、  
<ヴァリスの戦士>は、テーブルの上からフレッカスの一片をつまみ、口元に放り込む。  
 
「ねぇ、レムネア。あなたの故郷・・・・カナンって言ったかしら・・・・どんな所なの?  
良かったら、聞かせてくれないかしら?」  
 
「え、ええ・・・・喜んでッ!!」  
 
沈みがちだった少女の表情に、パッ、と光が灯った。  
優子が席に着くや否や、堰を切ったように話し始めるレムネア。  
故郷であるカナンのこと、幼馴染で許婚でもあるメッシュのこと、親友のリアンや両親のこと・・・・、  
無論、話が一段落するまでの間に、殆ど手付かずの状態だった皿は綺麗さっぱり片付けられていた。  
 
「あれ?レムネアったら、優子が来た途端に、すっごくテンション上がっちゃったわね〜」  
 
「うん。ちょっと落ち込んでたみたいだけど、あの様子だと、もう心配無さそう」  
 
特製イチゴ・ショートを食べ終え、食後のダージリンティーを優雅に啜る妖子に、  
レダ教徒の保存糧食をスープの一滴まで飲み干して、幸せそうに息をついた陽子が相槌を打つ。  
どうやら、二人共、銀髪の少女の事を気がかりには感じていたものの、  
どう声を掛けたものか?と迷っている間に、優子に先を越されてしまったらしい。  
 
「ところで、シルキスはどうしたの?お腹、空かないのかな?」  
 
自分で注文したリンゴを平らげただけでは満足できなかったのだろう、  
さらに、陽子と妖子の頼んだ物と同じ料理を追加注文して、旺盛な食欲を満たしていたキャロンが、  
生クリームと醤油味のスープのたっぷりと付着した顔を上げて、質問する。  
レダ教徒の保存糧食もこの世には存在しない筈のイチゴ・ショートも、  
惑星ラルの少女にとっては初めて口にする食べ物だったが、幸い、口に合ったらしい。  
あっという間に胃の中へと消えていった。  
 
「シルキス?さあ、知らないわ」  
 
「そう言えば、今朝から見かけないわね。ずっと部屋に居るのかしら」  
 
顔を見合わせる、二人の<戦士>たち。  
ヴァニティ城は途轍もなく広い上に複雑な造りの城郭であるが、  
彼女達が起居している区画はその中の一部に限られており、  
半日近くも姿を見る事が無いという状況は、たしかに普通ではなかった。  
 
「シルキスだったら、ちょっと前に沐浴場の方に向かっていたわよ」  
 
そう言葉をかけたのは、優子と話し込んでいたレムネアである。  
<ヴァリスの戦士>と打ち解けて話をしたせいだろう、  
その表情はすっかり晴れ渡り、不安の影は微塵も無くなっていた。  
傍らでは、満足そうな微笑みを浮べた蒼髪の少女がレモン・ティーを啜っている。  
 
「モクヨクジョウ?」  
 
「お風呂場の事よ・・・・ほら、この前話したじゃない。麗子に頼んで新しく作って貰う事にした、って」  
 
首を傾げる<リバースの剣士>に、苦笑を浮べる妖子。  
自分や陽子と異なり、キャロンが生まれた世界<惑星ラル>は文明化があまり進んでいないらしく、  
会話の際、ある単語がどんな意味を持っているのかが分からない、といった事がしばしば起きる。  
幸い、『風呂』はラルにも一応存在していたので、  
それがどういったものであるか?を、一から説明する必要は無かったが。  
 
「なんだ、お風呂に行ってたのか。それじゃあ、姿を見かけなかったのも当然だよね」  
 
納得顔のキャロン。  
だが、私たちも行ってみない?と陽子が言い出すと、たちまち渋面を作った。  
 
「どうして?キャロンも一緒に入ろうよ」  
「檜風呂にジャグジー、北欧風のスチームサウナも作った、って聞いてるよ」  
 
<レダの戦士>と<魔物ハンター>が口を揃えて、<リバースの剣士>を風呂場に誘う。  
だが、惑星ラルの少女はなかなか首を縦に振ろうとはしなかった。  
どうやら、風呂の存在は知っていても、入浴が好きという訳ではないらしい。  
 
・・・・だが、その頃、沐浴場では、彼女達の誰一人として予想だにしていない、深刻な事態が発生していたのだった。  
 
 
――――――――TO BE CONTINUED.  
 
 

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