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  敵の防御の一穴を突き、朱の矢となった百鬼衆の騎馬兵が海藍の陣営深くに  
切り込んでいっていた。しかし、彼らがいくら精鋭といえども到達するにはまだ  
間があった。大地を抉る騎馬の蹄の地響きは対抗策の無い海藍の陣にとっては  
浮き足立つだけで、間は単に……そう、魔の刻と化していた。  
 百鬼衆の面々は一昨日とは海藍の手ごたえが違うことを感じ取っていた。  
疾風の如くに駆ける百鬼衆をいとも簡単に通していた。だが、すべての兵が道を  
開けていたというわけではなかった。彼らは剣を振り下ろして阻む雑兵の躰を  
甲冑ごと叩き割って退ける。鈍い音とともに血と肉が飛び散り海藍の兵は崩れ  
肉塊となる。百鬼衆を阻む術は海藍にはすでに無い。  
 
「何故だ!何故に唄わぬ!兵士たちを鼓舞せぬかあッ!詩帆っ!」  
 
 決戦を覚悟して唄わなくなった詩帆を男は連れ込んでいた。本陣では刀を  
突きつけられた女が地に跪いて、光りを失ったその瞳を見開いて使えた  
恩人である男の貌を黙して仰いでいた。詩帆は男に仄かに恋心に近い感情を  
抱いていた頃もあった。  
詩帆の恋は庭木の金木犀のように小さな花を咲かせて芳しい匂いを  
漂わせていたが、いつしか人の血と腐臭に彩られていたことに  
気づかされたのだった。詩帆の咽喉に突きつけられた刀は微かに震えている。  
陣営を警護する三段構えの鉄砲隊の掃射の音が轟き渡って硝煙の臭いが立ち込めた。  
 
「覚悟……せよ」 「はい」 迷いの無い透き通った声で詩帆は毅然として答える。  
 出会いの頃が懐かしい。なにも知らなかった頃の自分が……しかし今は  
なにもかもを知ってしまった。詩帆は澄んだその瞳を閉じて男は咽喉から  
閉じられた瞳へと刀を移す。  
 
「命は貰わぬ。その澄んだ碧眼、貰い受ける。御免……!」  
 
「殺してください!どうか詩帆を殺してください!」   
 
「裏切ったぬしを連れてなどは逝かん!」  
 最後の男の言葉に詩帆は瞳を見開いていた。男のやさしさを刹那、見た  
気がしたからだ。詩帆を拾い男は取り立てられて、置き去りにされていった、  
いつかのやさしさらしきもの。移ろい始める前の男の心に触れたような気がした。  
詩帆は自らの罪を断ち切る鉄槌が振り下ろされる瞬間を静かに待ったが、  
訪れはしなかった。刀は瞳を抉ることなく地に突き立てられ、詩帆は男に頭を  
挟まれて瞼に柔らかい感触だけが残った。   
 
「隠れていよ。さらばだ、詩帆!」  
 
 男が蹲った姿勢で詩帆の儚げな唇に口吻をしてから、立ち上がって柄を  
握ろうとした瞬間に既に頭はガシャッと兜ごと砕け、その血飛沫が詩帆の貌に  
浴びせられていた。詩帆の白く美しき容貌が哀しみと恐怖とに歪む。詩帆の  
肺には男の血の匂いがいっぱいに流れ込んでくる。吐瀉し蹲る詩帆だったが、  
男の躰が前のめりに地に倒れた音は聞くことはなかった。百鬼衆の赫の鎧の  
音が詩帆の耳に迫ってきていたからだ。  
 
  だが詩帆は自分が殺されるかも知れぬという危険を差し置いて、既に  
死んでしまった男の身を案じ四つん這いとなって男を探し求める。探り当てた  
そこはヌメッとした液体に塗られていた。男の血糊だと気づくのに暫らく詩帆は  
時間を要した。  
 
「ぬしが妖女(あやかし)か!」 低い静かな無垢な響きが詩帆の耳へ届く。  
 
 男の亡骸に縋りつこうとした詩帆の躰は無理やりに引き剥がされた。傀儡として  
生きた詩帆は歌によって兵にかりそめの勇気を与えることに疲れて、唄うことを捨て、  
いつしか死を覚悟して死を欲して生きてきた。  
 
(その死、今こそ貰い受けましょう!) 「わたしが詩帆にございます!」  
 
 凛とした場違いな女の声が陣に響く。詩帆は自分を引き剥がした男を見えない  
碧眼でじっと見ていた。  
 
「なぜ、そのような瞳でわたしを見る!」  
 
 蘇芳は詩帆のひかりのない瞳に心の奥底を見透かされているように思って  
怯えていた。  
 
「なぜ、そのようなことを……うっ!」  
 
 言い終わらぬうちに詩帆は下腹部に烈しい痛みを覚え、刀での死ではなく拳を  
受けて気を失う。男は気絶した詩帆の顔を無造作に掴んで指で口をこじ開け  
丹念に吐瀉物を処置し、猿轡を嵌め後ろ手に縛り上げた。その間に別の男が顔  
を潰した女の亡骸を袋から出して男の亡骸の傍に横たえた。  
「引くぞ」 「御意」  
 蘇芳は詩帆の躰を馬に載せるとふたたび跨った。  
 
(なんと軽いおなごだ……)  
 
  これが守るべき重みかと詩帆の躰を担いだ際に蘇芳は気絶した歌姫の容貌を  
改めて直視した。  
 
(真直ぐな眼差しに心が揺らいでいたのやもしれぬ)  
 
 可憐という言葉が存在するならば、このおなごのことをいうのだろうと戦場で  
場違いな感慨に浸る。むしろその凄惨酸鼻な風景にあって狂い咲く白い花の気に  
あてられて欲情したに過ぎないだけなのだと、自分のなかに守るべきものの為に  
立ったはずの最初の存念を蘇芳はすばやく打ち消す。いまは、個など排除すべき  
理り。  
 百鬼衆の狙いは敵将の首などではなく歌姫という狂戦士を造る道具としての  
詩帆の存在だった。殺さずに連れ去ることが至上命令とされていた。飼われた  
将からの命などではなく、百鬼衆・頭領の独断での単独行動だった。だからこそ  
本隊が総攻撃を仕掛ける前に動く必要があった。無謀な策略だったといえよう。  
こんな少女みたいなおなごに命を賭けるだけの価値があるのかという想いが  
沸々と湧き出た。本陣に迫って肉迫した際に鉄砲隊の掃射をうけ傷を負った者も  
いたが百鬼衆は誰よりも道具に徹することができる集団だった。痛みすらも  
押さえ込んで闘いに徹することが出来た。  
しかし、鐙に足を掛けたとき、戦場での歌姫の甘き芳香は蘇芳の進んできた道をも  
歪めてしまうほどの力を有していた。蘇芳はまだその時、百鬼衆に組みした  
意義までも変えてしまうなどとは思ってもいなかった。  
 
  ほどなく海藍の陣営のざわめきが合図となって本隊の総攻撃により海藍の  
倭国統一の夢は半ばにして潰えた。本隊の動きは好機ではあったが、女を  
乗せての帰陣は困難を極める。馬に乗せられていた詩帆を見た海藍の  
兵士たちは死をも恐れずに百鬼衆が駆る騎馬兵へと槍や刀を振りかざして  
道を阻む。  
 蘇芳は改めて歌姫の重要性を知らされる。その手ごたえは、あやかしの唄の  
比ではなかったからだ。一瞬何度か流れ矢にあって死を覚悟せねばならない  
場面があったが伴走の兵がそれを退け、または盾となって守っていった。  
 帰陣した百鬼衆の面々は十一人。そのだれもが疵を負い、軽傷なのは蘇芳  
のみだった。そして頭領が座している場へ赴き詩帆を六畳分の朱の敷物へと  
横たえる。その敷物の四つの角には杭が打ち込まれていて、縄が結んで  
あった。詩帆の華奢な横たわる姿態は朱に栄える。   
蘇芳は鬼の貌を取ると、その瞳には仲間が流した血が、蒼白の月とかがりの炎に  
照らされている朱の敷物に浮ぶ。  
 
(やはり単なる意趣返しということか……。それだけの価値がこのおなごにあったのか……)   
 
 詩帆はまだ戦場の赫い血のなかにあって意識を取り戻してはいなかった。  
細い手首と足首に赫い布が巻かれていて、そこに縄を括られて詩帆は四肢を  
朱の敷物の上で拡げられてゆく。   
 
「ううん……」 詩帆の意識が戻り始めた。  
 
 そこへ小姓の格好をした十二、三の娘が現れて、詩帆の開かれた股に跪き  
淡い碧の衣の裾を跳ねて白い太腿を晒す。手にした小さな円形状の漆塗りの  
入れ物の蓋を開いて、人差し指と中指をそろえると練り状の物を掬い、開かれた  
詩帆の秘部に丹念に塗り込め、また掬っては同じ所作を行い指を突き入れる。  
 
「んんっ……」   
  顔を横にしている詩帆のぽってりとした唇が薄く開き重い呻きが洩れる。  
娘は背を丸めて覗き込むような姿勢で膣内を掻き回すように塗り込めた。何度か  
それを繰り返しているうちに詩帆の太腿が顫えて、液が湧き出して娘の指は  
潤びるほどになっていて、自分のしている行為に没頭していた。  
 かがり火に照らされ四肢を開かれた歌姫と小姓姿の娘の淫絵を帰陣した面々は  
じっと見ていた。かがり火のパチパチと立てる音に詩帆の濡れた吐息がまじりはじめる。  
行為に没頭した娘の貌を朱に照らし、微かに詩帆の腹の浮き沈みが大きく  
変っていたことに気がついて昂ぶりから指を雑に捏ねくり廻した。   
「んあっ!」  
「もう、それぐらいにせよ」 「わかりました」と答えて、恭しく頭を下げて指をスッと  
詩帆の膣内から抜いた。 「ひいっ!」 詩帆は意識が戻っていた。気絶したふりを  
していたのではなく、いつしか塗布された薬により秘所の痒みに反応して腰が  
どうしょうもなく蠢くのを堪えていたからだ。  
 それも腰だけではなかった。詩帆の普段なら清楚な佇まいのはずの菊蕾までも  
熱を帯びて卑しくひくついていた。死を覚悟していたとはいえ、あまりに惨めだった。  
「猿轡、掛け直さずともよろしいのですか?」 蘇芳の声が顫える。  
「よい。おなごは喚かねば面白くなかろう」  
 開いていた赫い扇子をパシッと閉じて濡れた声を洩らしている血糊のついた頬を  
軽く叩いた。 「ううっ……」  
「な、何ゆえこのようなことを」   
「過ぎるぞ、蘇芳。まずは怨みを晴らしてからだ」  
 
  戦場のなにものにも染まらぬ蒼白の月が蘇芳には恨めしい。男は愚直なまでに  
正義を信じていた頃とは赴きが異なり始めていた。その変化を頭領は見逃してはいない。   
 
「ぬしのいましめを解け」   
蘇芳の端整な貌に苦々しさが走る。  
 
(わたしに意趣返しをしろとでもいうのか……)  
 
「ひ、ひらに御容赦を……」 「くどい!」 百鬼衆の頭領は苛立ちを隠さず、詩帆の引き  
伸ばされた細い腕をギリギリと踏みつけた。  
 
「ああっ……ううっ、あ……ああ……」   
 
 官能に酔っている様な姿態に、赫い唇から白い前歯がこぼれる。そして詩帆の衣の裾を  
捲くられて、晒す白き太腿を跨いで、畳んだ扇子を詩帆のぱっくりと開かれた赫く爛れる  
おんなの華へと振り下ろした。  
 
「きゃあああああっ!」   
 
 絹を裂くような悲鳴が詩帆の花の蕾のような唇からあがった。四肢を縄に  
よって拘束されてはいたが、その打擲によって詩帆の躰は、ぐんっと跳ねた。  
詩帆の手首と足首には飾りの赤い布が巻かれていたが、縄目を  
食い込ませるほどに強く引っ張っていた。やがて緊張が解けて朱の敷物へと躰が沈む。  
 詩帆の股間の翳り……薬によって妖怪の口が如くに浅ましく開き切って、  
男の強張りを欲し、そこからはとろりとよだれを垂れ流して朱を濃くしていた。  
 
  女陰に痛烈な一打を見舞わせられた痛みからか、それとも痒みから解放された  
安堵感からなのか……詩帆の躰は朱の布に深く沈んでいた。  
 
「はあ、はあ、はあ……」 という詩帆の淫らな吐息が陣に妖しく漂っている。  
 
 頭領は扇子をあてたまま詩帆のひくついている秘孔に先を捻じ込むと、  
浮遊状態の詩帆の唇から重い呻きが洩れた。   
 
「うううっ、うむっ……あ、あつい……熱い、はうっ!」  
 
 詩帆は痛みを熱さと知覚していた。  
「ぬしの滾り。正義の鉄槌とやらで、妖女の不浄の穴を清めて見せよ!」  
 
「うあぁあああっ!」 更に深く捻じ込まれて喚き、狂ったように顔を詩帆は振る。  
 
「た、承りました……。さすれば、このおなご蘇芳めに拝領くださりませ!」  
「なら犯してみせよ!」  
 
 帰陣した十一人の目の中に暗い翳りが宿っていた。蘇芳は背中にその微妙な  
気の流れの変化を感じ取っていた。  
 
「今一度お聞きします。このおなごを抱けば拝領させていただけるのですか」  
 詩帆の腕は踏まれていて、みるみるうちに手が紫色になっていた。  
 
「ううっ、うああ……はあっ、はっ……ああ……」  
 
「確約はできん。妖女(あやかし)として使えるのなら百鬼衆に組してもらう。  
使えねば輪姦して、ぬしにさげてやる」  
「何ゆえ、そこまで……にするのです」  
 
「わからぬか!同胞が幾人死んだと思うておるか!小姓!」  
 朱の扇子の先を詩帆の開いた華へと捻じ込む。  
「ひあッ!」  
「はようせぬか。おそそが裂けてしまうぞ、蘇芳!」   
 
 蘇芳は赫い鎧に手を掛けて脱ぎ始めた。詩帆に薬を塗っていた小姓の  
格好をした娘は戻って来て、頭領の傍に恭しく傅いた。頭領はその小姓の  
後ろにしゃがんで顎を掴んでぐいっと晒し上げる。詩帆に劣らずの美貌の  
持ち主だった。ただ、その格好から女といえばおんな、男といえばおとこと  
いった凛とした風情。  
 
 頬の柔肉を押し上げられ眉間に皺を寄せている。脇差を抜いて髪を  
結っていた紐を切ると娘の黒髪はハラリと細い肩に流れ、紛れもなく女だった。  
蘇芳は鎖帷子を落とし胴着を脱いで、腰布も取った。娘は黒髪を掴まれると  
蘇芳の腰のモノに美貌を捻じりつけられた。  
 
 娘の乱れた息が叢に吹く。娘は先の戦にて海藍の村から摘まれとられた花。  
傀儡として飼うも好し、間者として仕込むも良しの後腐れないおもちゃだった。  
なかには犯されながら、首を掻き切られ贄にされた娘もいた。戦の習いとはいえ、  
百鬼の快楽の獣となる様に疑念を蘇芳が持ち始めたのはその頃からだった。  
 
 蘇芳の肉茎は勃起していた。娘は腹を突かんばかりの屹立に蔦のように指を  
絡めながら根元に降りて指を環にする。顫えていた容貌は色にけぶり、火照る  
頬を何度か擦り付けてから、蘇芳の赫黒く艶やかな亀頭に目を据える。  
 
「ああ……逞しい。おしゃぶりさせていただきます」  
 
 蘇芳は戦闘の昂揚から単に性器を勃起させていただけだった。さりとて男。  
性欲が皆無なわけではない。  
 
  娘は蘇芳の亀頭に美貌を寄せ、瞼をとじ睫毛を可憐に揺らす。唇を蘇芳のものに  
擦り付けてからひらいて、赫い舌をそっとだして亀頭を舐め廻し蘇芳の肉茎に唾液を  
塗す役を授かる。娘には蘇芳の屹立が角度と硬度を少しずつ後退させていたことが  
気になっていた。  
 
蘇芳に助けられて連れてこられた娘。兵に犯されおもちゃになっていた娘は  
生きることを諭されて、やさしく抱かれ女を極めさせられた。そう、やさしい言葉を  
掛けられて娘は自分から蘇芳へ躰をひらいたのだ。  
 
 娘はその時の感謝の気持ちを忘れてはいなかった。ただ男に蹂躙されただけの  
躰から悦びを教えてくれた人、闇のなかの清い思い出だった。  
 娘は蘇芳のふぐりにも手を下から抱えるようにして中の玉をやさしく転がす。  
この御人をあの女には渡したくはない、そんな想いがあったやもしれぬ。しかし  
あの横たわって四肢を縛られているおんなもこの御人を愛するのだろうと詩帆の  
呻く声を調べとして容貌を朱に染めあげて妖しい行為を加速させていった。  
 
 すると蘇芳の大きな温かい手が娘の顎にふれる。  
「もうよい。ごくろう」  
 
 娘は瞼を開いて潤んだ瞳で蘇芳を見上げた。黒髪が乱れ頬に掛かっているのを  
蘇芳が直してやる。少しだけ口腔のなかの蘇芳のものが顫える。小姓姿の娘  
は怒張を吐き出して唇から滴る唾液をあごに手をやり拭うと頭を下げた。  
 
「お、おそまつにございます。蘇芳さま」  
 
  とぎれとぎれの娘の発する言葉に肉茎へと暗い血がドクンと流れる。蘇芳は  
小姓姿の娘に強張りをしゃぶられていた際、肚を括っていた。頭領は娘の  
咥えたままの白い咽喉を掻き切り、強張りを根元から噛み切らせ血の海で  
のたうちながら死んで行く様を腑抜けと嗤うものと思っていた。  
 
 しかし、その瞬間はとうとう訪れはしなかった。蘇芳は己ではなく娘の  
首が繋がっていることに安堵して腰を落とし、頬にふれ親指で唾液に  
濡れた唇をそっと拭ってやる。  
 
「かたじけのうございます」  
 
 娘は羞じらいから瞳を下に逸らしたが、蘇芳の屹立が飛び込んできた。  
唾液に濡れて煌く艶やかに赫黒くある尖り。捉えられた妖女(あやかし)、  
かつての同胞ではあっても村娘には戦は忌み嫌うものでしかないく  
同情などはなかったが、ただその一番槍として女を抱くのだと思うと  
胸がちりちりとし嫉妬に悶えるのがわかった。蘇芳は娘の女髪を撫でると、  
すっと立ち上がった。  
 
「愉しませてもらおうかの、蘇芳」  
「御意」  
 
 頭を下げ一礼すると朱の敷物のうえに、その角に打ちつけられている  
杭からの縄に四肢を結ばれて拡げている可憐な歌姫を見下ろした。  
蘇芳はこの期に及んでためらいがあった。朱の敷物に踏み込めば、  
もう後戻りは出来ない。娘はそんな蘇芳の躰を横から見ていた。  
 
(強張りが顫えていらっしゃる。やはり、綺麗でいらっしゃるから、お嬉しいのですね……あっ!)  
 
  怒張は昂ぶりに痙攣してはいたが、蘇芳の筋肉質な下腹が烈しく波打ち肩も微かに  
揺れている。  
(早くに御決断を……!このままではお頭さまの怒りにふれまする、蘇芳さま……!)  
 
 蘇芳の躰はゆっくりと歩み強張りを誇示しながら朱に足を踏み入れる。  
蒼白の月に雲がかかりはじめ、かがり火にのみに赤々と照らし出される  
蘇芳の肉体の美しさに娘は生唾をコクリと咽喉を鳴らして呑み込んだ。  
月の翳りと炎が娘の中におんなの悋気を呼び醒ます。  
  二十歳の歌姫に意趣返しの役を授かり蘇芳は朱のうえで拡げられている  
白磁の太腿のあわいに腰を落として、薬によって開かれた女の華へと肉を突き入れた。  
 
「あああっ……」  
 
 詩帆の躰に待ち望んでいたものがゆるりと挿入され、躰は跳ね拘束の縄目を  
飾りの朱の絹布を飛び越え柔肌へと喰い込ませる。紅を刷かない淡い桜の彩り  
の蕾が咲き白い雫がこぼれた。童女といっても過言ではない詩帆の容貌におんな  
が開き始めたことを認め、蘇芳の強張りは膣内(なか)で悦びに揺れ心が揺らいだ。  
蒼白の月が雲に隠れるように蘇芳の無垢なものへの獣性がかがりの焔に覚醒される。  
 
 娘も詩帆と同じように閨声をあげていた。  
 
「どうだ。淡い碧の羽織から生える白磁の腿肉のあわいで蠢く蘇芳の尻の眺めは?」  
 
 娘は衣の裾を頭領に割られて秘所を弄られていた。羞恥に顔を逸らそうものなら  
手であごを掴まれて蘇芳が同胞の歌姫を組み敷き交ぐ合う様を見せられる。  
詩帆を同胞と思はなくとも、娘はおんなの悋気の雫で頬を濡らしていた。  
 
蘇芳は躰を揺さぶられて喘ぐ詩帆の姿ではなく、滾りを楚々とした秘孔を  
いっぱいに押し拡げられ、咥え込まされ波打つ蒼白の下腹に視線を落して  
いた。薬によって狂わされていたとはいえ、詩帆のもつ美貌は蘇芳の  
闘争本能を根こそぎもっていきかねなかった。ひたすらに男と女子の肉の  
営みを見ていればなんとか果てることはできるだろうと策を講じて腰を振り続ける。  
 
「……さま。ああっ……く、くるしい」  
 
 蘇芳に衝きあげられて詩帆があげたのは、かつての男の名。小姓姿の娘には  
蘇芳の名を呼んだに等しかった。頭領に嬲られていた娘は、同じ声音を噴き  
上げカアッと貌を赧に染める。何度も羞恥に喘ぎ身の置き所がないほどに。  
 
「も、も、もう……お赦しを……」 「赦して欲しくば、躰をひらけ」  
 
 ふたりのおんなは獣に嬲られ赦しを請うていた。何に対しての赦しか。弱き者  
が欺かれ、強き者に搾取される理への情けを欲してか。蘇芳は詩帆の貌と娘の  
貌を交互に見てしまう。何の為に立ったのか。弱き者を守る為に闘ってきたのではないのか。  
その考えも詩帆の温かいひくつきの波に呑まれ煙っていく。  
 
「み、見ないでくださいまし、蘇芳さま……」  
 
 地に腰を落とし裾を捲くられ、あられもなく脚を拡げられて、頭領の指でおそそを  
嬲られている娘の悲鳴が、蘇芳の大義を暗い欲望へと変えていった。  
 欲に狂わされている詩帆は、脚を掲げることも抱きつくことも赦されず快楽に  
烈しく揺さぶられていた。ひらかれていた白魚のような指は握られ、可憐で無垢  
そのもののような足の指も折り曲げられ狂おしい声音を噴き上げる。  
 
「あっ、はううっ……す、蘇芳さまは鬼にございますか……?」  
 娘は頭領の指で秘園を嬲られながら蘇芳のやさしき指の女体の奏でを想う。  
あるかなしの微妙な手触りで、男たちに蹂躙され尽くされた襤褸切れのような  
童女を女として扱い、女を極めてくれようとした地下牢の冷たい石畳の感触が  
火照る柔肌に心地よかったいつかの夜。  
 
「何故にそのように、やさしくされるのです?」  
「そちは名をなんと申す?」  
 
「わ、わたしは……わたしに名などございません。わたしは蘇芳さまの敵の国の  
村娘にございます」  
「ならば、娘。わたしは鬼だ。百鬼衆の赫鬼なのだ」  
「う、嘘に御座います。蘇芳さまは鬼などにございません。断じて鬼などでは……」  
 
「弱い、孤独な赫鬼なのだ。わたしは娘子のようなものたちこそ、守ってやりたかった……」  
 
 娘は親や村人を殺戮した百鬼の蘇芳の首筋に腕を絡め、頬を寄せ官能に桃色の唇を  
顫わせて涙を流す。  
 
「わたしは蘇芳さまに従いまする。国も裏切ります。ですから、ですから……  
どうかお傍に置いてくださいまし……命を捨てろと言えば死にまする」  
「娘、酷であっても、そのようなことは軽々しく口にするな」  
 
「蘇芳さまは鬼、やさしい鬼です。わたしは……その鬼を……ああっ、はあああっ」  
 娘の痛んでいたはずのおそそから、何度目かの快楽が波ひとつ無き湖の水面に  
拡がる波紋のように駆け抜けていった。その想い、穢されようとも娘の傍にいる。  
 
 
  蘇芳の衝きあげに詩帆の躰が浮き上がって下腹を擦り付けるかのような  
跳ね方をして揺すり始める。  
 
「……さま。おゆるしを。詩帆をおゆるしくださりませ!」  
 
 熱く滾り坩堝と化す子壺を逞しい強張りで小突かれることへのやるせない  
苦しみの悶えなのか、己が運命を呪詛し国を裏切ってまでも貫いた意志を認め  
て逃がそうとした男への恋情なのか、詩帆は薬によって狂おしく朦朧とされて  
玩具になりながらも、凄絶なまでに女を極めようとしていた。  
 
 だが、頭領の指示により朱の敷物の四隅に打たれた杭の縄に四肢を縛られ  
しがみ付くことも赦されず重き呻きと叫びをあげ、そしてまた歔きを洩らして  
女が嵐に翻弄されるさまを、その凌辱の番に控えし帰陣し座した兵たちに見せ付ける。  
 
 女園に塗り込められた薬効もあったかもしれないが、蘇芳の強靭な肉体と  
腰さばきにより、歯軋りをして堪えることもままならずに、そのぽってりとした  
愛らしい朱唇を幾度も幾度も強い打ちつけとともに、いっぱいに開き白い歯を  
こぼれさせ、愉悦に彷徨う美貌を振りたてて、凌辱の敷物の舞台に長く艶やかな  
髪を囚われし可憐な花、歌姫・詩帆は淫らにおどろしくも散らせている。  
 
 その詩帆の蠱惑な姿態と閨声は蘇芳のなかに女を支配しようとする闇の心を  
蘇らせつつもあったが、傍らで歔きながら詩帆と同じように愛する者の名を叫ぶ、  
情けを掛けた娘の姿が蘇芳の拠り所の精神性を微かに闇に染まるのを引き止めていた。  
だが、例え綺麗事をいっても男女の習いは迫ってくるもの。蘇芳の強張りは一気に膨らみ、  
詩帆の内腿にも変化が訪れようとしてた。  
 
「鬼だ。わたしは鬼になる!」  
 
「蘇芳、そのまま爆ぜよ!」  
 頭領の指が小姓姿の娘の淫らに濡れたあわいを嬲りたてる。蘇芳と較べるもない  
疼痛だけの弄りに、彼を想う心と詩帆の噴き上げる閨声が娘を錯乱させ飛沫を  
秘園から噴き上げさせた。  
 
「いやあああッ、あうっ、んうっ、うあぁああああッ!」  
 
 歓喜に顫えた娘と詩帆の喚きが重なり脚の先にあるしなやかな指先はおなごの  
快美のあかしとして内側へと反り返って躰がぐんっと跳ねる。  
「もとの……お心のままに……さま」  
 詩帆は蘇芳に抱かれ快美に堕ちる刹那、そう小さく言葉を洩らす。蘇芳が  
鬼となって泣いたことが、かつて愛した男の嘆きと聞き入っての諌めだったやもしれぬ。  
 
『もとのお心のままに生きてください……さま』  
『詩帆はこれまで築いてきたものを捨てよというのか』  
『愚か者と罵っていただいてもかまいませぬ。しかし、いまならまだ……』  
男は詩帆の胸倉を掴んでいた。  
『詩帆はなにを祈って多くの命を戦場に送りこんだのだ。もう、突き進むしかないではないか。  
詩帆の祈りとはなんだ!唄に込められしもの、答えよ!』  
 詩帆は盲。男の貌を潤んで澄んだ瞳が見据えている。しかし、詩帆には耐え切れなかった。  
『もう、お赦しくださりませ』 『誰にだ!ぬしは誰に赦しを請うておる!誰に言うておる!』  
 
 まだ続く蘇芳の揺さぶりが詩帆を現実へと連れ戻す。ぬちゃ、ぬっ、というあけすけな  
秘園の淫の奏でと女体の奥から噴き上がる声音。躰は弾き飛ばされ弛緩したというのに、  
何かへとしがみ付き縋りたかった。痒みは鎮まっても躰の火照りは逞しい肉に引き摺られて  
昂ぶるばかり。更に傍の娘の声音に詩帆は淫に惑う。  
「はあ、あっ、はあ、はあ……はあっ」  
   
 詩帆の貌からは汗が噴き上がり、その芳香が宴に集う男たちの情欲を誘う。前髪は  
乱れて隠していた額をあらわにし、童女だった貌もより女を感じさせるものへと  
変貌を遂げていた。そして淡い緑の羽織から覗く、朱の襦袢に守られた白い  
内腿が蘇芳の理性を狂おしくさせ、苦悶して躰を波打たせる詩帆の女への変容に  
蘇芳の良心を粉々に弾け飛す。  
 
「あぁああッ!」  
 蘇芳の手が胸元に掛かって衣を肌蹴させ、詩帆の貌をぐらつかせて蘇芳へと  
ぐんっと引き付けるが、詩帆はすぐに朱へと躰を沈めて白い蛇となっていた。  
そして、喘ぐ白き顫える乳房が月下にすべてを照らし出される。長い詩帆の亜麻色  
の髪も朱の敷物に波打ってざわめいている。  
「ああっ、はあ、はあ、あっ、うっ、うぅううっ……」  
 
 柔らかな乳房を押しひしゃげさせ、詩帆の貌に向って揉みしだいて、紅潮した素肌に  
白い指の痕跡をかりそめに留めては、また新たな刻印を詩帆に与える。その肉杭の  
打ちつけは、詩帆の女を目覚めさせた。律動は烈しさを増して、既に蘇芳は自分だけの  
快美を追求するだけの男子となる。そして詩帆は嵐の波に揺られる笹舟になった。  
「ひいっ、あうっ、あ、あっ、はあ、ああッ……んあぁああ……」  
 
 それでも女の肉だけは、男の証を授かろうと貌を左右に振りつつも、女の営みの  
時を止め総身を強張らせ蘇芳の男を絞るのだった。迸った蘇芳の子種は詩帆の  
子壺を灼熱の体液で塗り尽くす。気が狂わんばかりの快美に冥府へと突き堕ちる  
ような気持ちに詩帆は囚われると、腰を微かにうねらせながら生々しい呻きを発して  
気を遣るのだった。  
「うあっ、ううっ、うむっ!」  
 覚悟していたこととはいえ解き放った情欲の解放感は闇色に塗られて、美しい華を  
手折ったような後ろめたさだけが蘇芳のなかへと残るだけ。  
 
 一方、詩帆は荒い吐息を洩らしつつも、その貌は天女の如くに柔らかく、蘇芳の  
滾りを膣内へと受容して陶酔しきっていた。  
「こやつ、満腹し切った貌を晒しておるわ。蘇芳、妖女(あやかし)の衣を毟り取れ!」  
 詩帆は息も絶え絶えに苦しそうに喘いでいるというのに、女の秘園の柔肉を  
収斂させ、残る力で肉刀を今だ離すまいと、貪婪に精を搾り取ろうと励んでいる。  
肉襞の蠢き、時折思い出したかのように唸っては肩と腰を蠢かせて、蘇芳は  
女のしたたかさに舌を巻いていた。  
 
「なにをしておる!これからがじゃ!宴はこれからじゃあ!」  
 嬲られて呻きを上げていた女子たちの閨声に、武者たちの鎧のざわめきが  
がしゃがしゃと混じる。女子を食らう鬼たちは皮を脱ぎ捨てて浅黒い人の肌を晒して、  
蘇芳に貫かれている詩帆へと集った。  
 
 ひとりの男が詩帆の右手の縄の上に刀を突き立てると、残りの三本が次々と  
朱の波に突き立てられていった。その刃は着崩れた裸身を晒している詩帆の  
妖しく変化した肢体をじっと見ている。  
 
 我に返った蘇芳は貌を上げると、群がった同胞に躰を引き剥がされ、  
朱の敷物から転げ落ちる。  
「蘇芳さま!詩帆さま!」  
「往け、おまえは蘇芳に抱いてもらえ!」  
 娘は躰を突き飛ばされて、尻餅を付いている蘇芳に転がされる。  
娘は投げ出されている蘇芳の脚の付け根の物に貌を近づける格好になった。  
娘の白い手が蘇芳の太腿を撫でるように這っていった。瞳は吐き出したばかりの、  
女の蜜でぬらっと煌く肉茎を捉え、身も心も逸物に囚われてゆく。たとえ、それが  
女の膣内にあったものでも。  
「よ、よせ……」 「い、嫌にございます」  
 白く細い皺ひとつ無い女子の指が蘇芳の太腿に立って指頭がツぅーッと  
滑って股間の愛しいものに絡まる。   
 
「やめろ、止すのだ」  
「嫌です。わたしは妖女(あやかし)になり蘇芳さまをいただきます」  
 蘇芳に抱かれた詩帆に嫉妬しているという言葉を呑んで、娘は濡らついて光る  
先端に唇をつけ被せてゆく。娘の舌が妖しく絡んで、詩帆の体液で塗られた  
肉茎を清めて、口腔から咽奥へと沈める。小姓姿の娘は結わえられた髪留めを  
切られて女となっていて、貌をくなくなと揺するたびに蘇芳の股間をざわっと愛撫して掃く。  
 
 天上の月に狂わされ、篝火のパチパチという音と紅い色に高揚していくのが  
止められない。蘇芳は後ろ手に付いていた手を、瞼を閉じて咥える娘の貌へと触れていた。  
 ひとりの男が詩帆の仰向けになった躰に覆い被さって、突きを入れる。  
「んあぁあっ、ああっ、うぅううっ……」  
 朱の敷物のつくった波に詩帆の躰は悶え、転がされて男の上に載り蛇のようにのたうち、  
下の男は詩帆の脾腹を両手で掴んで引き上げようとしていた。躰が完全に起き上がる前に  
上にいる男に長い髪をむずんと引っ掴まれて、女に変容し色に耽溺する美貌を晒され  
下卑た笑いを詩帆は向けられる。  
 
 詩帆は眉間に縦皺をくっきりと刻んで、唇を薄く開いたところにその男の逸物、赤銅色の  
肉刀をぐいっと押し込んで呑まされていた。  
「んんっ、ぐふっ……!」  
 躰の膣内(なか)に塗り込められた薬がはじまり……だった。蘇芳との圧倒的な力と  
やさしさに女が呼び起こされたとはいえ、快楽がなにもかもを忘れさせてくれていた。  
自分が歌姫であって多くの武者を闘いへ駆り立てたことを、色に染まって情欲に  
堕ちることで。罪が消えるわけがなくとも、交わっている間は一時忘れることができた。  
 
 後ろに立った男は竹筒の琥珀の液体を垂らして、指で詩帆の蠢く菊門へと  
塗り込めようとしている。既に詩帆の肉体は箍が外れ、何をされようとしているのかさえも  
判らないでいた。その寸でまでは……。  
 
下から突きあげる男は、詩帆の双臀の肉を両手で割り開き、これからしょうと  
することへの余興を愉しんでいた。尻肉を鷲掴みにすると双丘を裂くようにして  
揉みしだき、昂ぶりとともに拡げては下から衝きあげる。  
「んんっ……」  
詩帆は男の躰に跨ったままで肩と乳房を喘がせ、背中と臀部を波打たせていた。  
呻く唇には強張りを含まされて、いつしか鼻孔から啜り泣きを洩らすまでになっていた。  
そして、女を喰らおうとして、後ろに構えていた男が詩帆の蠢く割り開かれた菊花を  
捉えて、紅く張った先端をぐくっと沈めて散らす。  
 
「んぐっ」  
男たちによって翻弄されて蠢く躰に、新たな炎がともるのが詩帆にはわかる。  
躰を槍で貫かれるか、非力な肉体が万力で圧し潰されるような感覚に詩帆は声を  
あげていたが、獣のようなくぐもった呻きにしかならなかった。それも男に剛直で  
咽を抉られながら、小鼻を膨らませて眉間に皺を寄せ、柳眉を吊り上げ愉悦を  
極めんとする憎き歌姫の貌に男たちは歓喜する。   
 
嬲られることで、白い柔肌……すでに紅くなって汗に塗られた躰を詩帆は  
絶え間なく波打たせて、その艶やかな貌に刻んだ苦悶の表情を、時には  
夢見るかのような貌へと変化させ、濡れた唇から白い雫をこぼして喚いた。  
貌を捉えていた男は詩帆が唇から洩らした滴りを指で掬うと、詩帆の  
息をつく小鼻へと擦り付ける。  
 
 酔わされている詩帆は、男たちの吐き出した性臭を直に知覚しながら、  
すかさず後方の玉門に鬼の剛直を烈しく打ち込まれ、苦悶と快美の鬩ぎ合う  
大渦へと呑まれた。詩帆の苦悶する貌は更なる波へ呑まれまいとする  
微かな抗いの証でもあったやもしれぬ。再三にわたり、眉根を寄せ柳眉が  
吊りあがって耐えよと己が躰を戒めようとするものの、箍の外れた男に  
抗うことのできない女の性の崩壊が近場まで迫っていた。  
 
 男は詩帆の口から屹立を抜去すると、支えを失ったかのように詩帆は躰を  
つんのめらせて下から突きあげる男の胸に崩れる。下と後ろからの責めに  
細い両腕を伸ばして、男の頭の傍に手をついて朱の敷物の波を掻き集め  
拳にしっかりと握るも、すぐに砕けて男たちの躰に揉みくちゃにされた。  
 
折り重なるように男にしなだれ、更なる後方からの突きあげに躰を滑らせて、  
朱の布の上に額で貌を支えるようにして頸を何度も折られ、か細い悲鳴を  
洩らしている。またある男は詩帆ののたうつ汗の芳香を漂わす背に馬乗りになり、  
強張りとふぐりを扱かせて、ざわめく詩帆のおどろな長い髪に栗の華を  
しぶかせてもいる。詩帆はケダモノたちの白い華で塗されていった。  
 
また、あるものは朱のさざ波を握り締める手を無理やりに指をこじ開けて、  
己が肉茎に絡ませる。また、あるものは髪に……閉じた瞼の睫毛に先端を  
擦りつけ……苦悶の美貌にしぶかせていた。ある時を過ぎてから、  
詩帆には苦痛でしかなくなってしまっていた。それも罪と悟って死ぬる覚悟で  
男たちに嬲られているしかなかった。  
 
蘇芳は詩帆を守ることは棄て、娘だけはと繋がったままでひとり抱いている。  
娘は躰を蘇芳から守られていることを感じていたが、快楽に対しても貪欲になって、  
胡坐を掻いた蘇芳のなかで対面に座して尻と背をそろりと動かす。そして  
揺さぶり自分で極めて仰け反った時、朱の敷物で嬲られている詩帆の姿を娘は  
見てしまう。複数の男たちに群がられ異形の物と化し、かろうじて貌と長い髪だけが  
覗いて判るだけ。まさに、妖怪変化の類でしかなく、咽に吐瀉物が込み上げ反動で、  
蘇芳の背にしがみ付き吐き出しまう。  
「も、もうしわけございません……」  
 娘は蘇芳の肩に両手を添え、立ち上がろうとするのだが、蘇芳は娘をがしっと  
掴んだまま離そうとはしなかった。  
 
「動くでない。ああなりたくなければ」  
 いくらやさしく声を掛けられていても、自分の吐瀉物が蘇芳の背を穢している。それは  
娘にとっては著しく礼を欠く行為でしかない。直ぐに立ち上がっていって、濡れた布で  
拭いてやりたいと思うのだった。  
「蘇芳さま。し、しかし……そのようなお躰では」  
 蘇芳は娘の背をその大きなざらついた手で心配するなとやさしく撫でてやっていた。  
「かまわん……。もう、大丈夫か?」  
 
「少し背中が痛いです……」  
「すまない。わたしの手はそなたの同胞を殺めた剣を握った手だからな……。人を殺した手だ」  
「痛いけれど……わたくしの躰を撫でる蘇芳さまの手が好き……。詩帆さまもきっと、  
この痛さが好きになるのですね」  
「なにを言っている……?」  
 
「いいのです。わたしを、もっと抱いて撫でてくださいまし。おねがいいたします、蘇芳さま」  
 蘇芳は娘の小さな裸身を胡坐の掻いた上に載せ、その白い首筋に貌を埋て  
荒ぶる鬼神の如く唇を這わせていた。そして閉じていた瞼は開かれて、肉の塊と  
なって蠢いている詩帆を眼光鋭く睨んで、血の涙を流している。  
「あっ、んあっ……。かたじけのうございます……蘇芳さま、蘇芳さま……  
すほうさま……ああっ!」  
 
 娘もまた蘇芳の頸に貌を埋めて濡れた吐息を洩らすのだった。背をしならせ  
剛直に落とした白く小さな尻を健気に揺すっている。蘇芳の肉茎は娘のやさしさと  
詩帆を嬲りつくそうとしている仲間たちへの怒りとで、みるみる力を取り戻して  
硬度を増していた。それは、半端な硬さや大きさなどではなく、娘にとっては  
脅威そのものであり、まさに荒ぶる神そのもの。  
 娘は蘇芳の滾りを受容しようと健気に白い尻を動かすのは蘇芳の真直ぐな  
心根を知っていたからだった。だから、自分のものでは太刀打ちできないと  
分かっていても縋っていって、蘇芳の男子の証を子壺に受けたいと願う。  
 
娘は膝を迫り出して、蘇芳の頸に手が蔦のようにしっかりと絡みついて尻を  
振っている。蘇芳の娘の丸くなった背に廻されていた手は指先だけの愛撫へと  
変化していた。娘にははっきりとわかるように強く抱きとめられたいという願いと、  
指頭による圧力によって翻弄され歔かされているという歓びにとまどいつつも  
速めてゆくのだった。  
 蠢く尻に指が触れ、次第に力強く食い込んで双丘を揉みしだいて、強引に  
割り開いた。  
 
「んんっ!いやあっ!な、なさらないでくださいまし……!あぁああッ!」  
 娘がそう叫ぶと、突きあげて娘を押し上げ、背中がかるく反り返って咽が伸びて  
歔き貌が曝け出される。鼻孔は膨らんで、こめかみには汗の粒が噴き上がっている。  
それでも、娘は核(さね)を蘇芳の恥骨へと押し付けて、菊蕾を窄めて咥え込んだ  
蘇芳の肉茎を締め付けてくるのだった。  
 
 少女の躰には蘇芳の肉棒がドスッ!ドスッ!という衝撃として響いている。  
「ああっ、も、もうゆるしてくださいまし……」  
 蘇芳の手が娘の臀部から脇腹、そして脇へと昇ってゆく。娘の躰は  
ぐらぐらとしながら仰け反って、絡まっていた腕が緩んで伸び始めていた。  
蘇芳の指は脇から、躰がしなるたびに肋骨を浮き出させる脾腹、そして  
臀部へとまた巧みに指を……微妙な知覚を娘へと植え付けて這っていく。  
 
 娘の両手だけが快美に殺されまいとして、頸に絡まってぶら下がっていた。  
蘇芳の両手は娘の腰を捉えている。ふたりはそれとはなしに、自分たちの  
行為の繋がりを見下ろして、静かな動きから、やがて娘の躰を仰向けに組み敷くと  
本格的な律動を蘇芳は開始する。  
 咽から手が出るほどに待ち望んでいたもので的確に小突かれ、おんなが  
追いつめられていった。脱ぎ捨てた衣の上に仰向けに寝て組み敷かれ、娘は躰を  
くねらせる。脇の傍に付いた蘇芳の腕を這って逞しい肩へと娘の手は駆け上がった。  
律動の烈しさが増して、二の腕へと滑って手の上へと落ちる。  
 
娘の手は蘇芳の手に乗って指を絡めようとするが、蘇芳の目線がひとつの  
肉塊となって嬲られている詩帆にあったことを娘は知らないまま、手首を  
握り締めて逝ってしまう。  
「あ、あっ、うっ、うっ、あっ、ああ、あ、ああ……。蘇芳さまあぁああ……!逝くうぅうううッ!」  
 娘は気を遣ってぐったりとしていたが、蘇芳はまだ気を放っていなかった。  
詩帆の肉体がふたたび男たちの手によって歪曲したのを目にしたからだった。  
 
 詩帆は横にされて、片脚を男の衝きあげる腰に掛けられている。後方の玉門は  
抉られたままで捻られるように躰を起こして突かれている。そして何本もの  
手が蠢いて詩帆の躰を嬲り、ぐにゃりとなってぐらぐら揺れ動くだけの躰を  
抱き起こされ、貌に男の股間の屹立で処構わずに突かれていた。  
 
 むろん、口腔にも男の肉茎は収められて、何度目かの放出を迎え、  
その綺麗だった口元からは唾液混じりの白い粘液質の泡を吹いていた。  
しかし、それもぬらっと塗りたくられた体液に何の区別も付かない呈だった。  
恍惚の貌から歔く貌への変貌、眉根を寄せて、眉間にくっきりと縦皺を  
刻んで美醜を極める歌姫に、男たちは嗜虐趣味を烈しく煽られる。  
 
 ぬらつく透明の体液と白い粘り気のある子種が詩帆を穢していた。  
綺麗だった長い亜麻色の髪にも男たちの強張りが凌辱を加え、  
肉茎に絡まって扱かれて深く性臭を滲みこませて。いつしか諦めの  
色が詩帆に浮んで沈んで行く。長い髪は精液に塗られて、何本もの  
房となって詩帆の額、頬や肩、そして背にへばり付いてくる。  
 嬲る男たちの肉体にも意志を失くした詩帆に変って、情欲の黒蛇となり  
誘うように絡んでいる。  
 
  意趣返しと酸鼻としか言いようの無い淫絵図。美しかった詩帆は歌姫だったことへの  
贖罪の気持ちすら放棄して、揺さぶられるままに堕ちた。揺さぶられながら、精液の滲む  
朱の波に両手を付いて躰を支えていたのに何の意味があったのかと詩帆は微かな  
理性を掻き集めて思う。  
 
 自棄になって、ぼたぼたと白濁の滴る朱の波につっぱった腕は呑まれて砕け散った。  
すぐにまた、その手を拾われて男の強張りを握らされる詩帆。びくびくと蠢く肉に最初に  
抱いてくれた男を想って泣いていた。それは、自分を歌姫にした男なのか、それとも  
敵陣へと自分を連れてきた男なのかさえもあやふやに……その放棄の色さえも男たちは  
食らおうとしている。全く反応がなくなる……その時まで。  
 
 蘇芳の肉体も獣性が目覚めようとしていたが、娘の右脚を折り曲げて喘ぐ  
乳房に付けると、蘇芳の躰を跨がせて束ね横たわらせる。そして、いまだ息を  
整えようとして喘いでいる娘の躰にくの字に覆い被さって抱き締めていった。  
娘の薄い乳房に蘇芳の逞しい腕が廻される。そして、長い間をただ抱き締められていた。  
 
「んあっ、はあ、んんっ……。蘇芳さま……」  
 蘇芳の肉体が萎え始めると、かるく揺さぶられて膨らむ。ただ、それの単純な  
肉体の運動の繰り返しだった。娘の躰は打ち寄せる原始よりの営みのさざ波に  
高揚感は持続していたが、背の後ろの蘇芳の肉体が泣いていることを娘は悟った。  
娘は巻き付いている逞しい腕をやさしく撫でて慰めるしかなかった。そして時折、  
尻を窄めてやさしく蘇芳のものを握り締めてやるだけしかない……。  
やがて娘もまた意識が薄らいで……逝った。  
 
 
 どれだけの時が過ぎ、詩帆は男たちに嬲られつくされたのだろうか。一番鳥の  
鳴き声が聞えた頃に、眠りについた娘を抱きながら胡坐を掻い座っていた蘇芳は  
立ち上がると、朱の敷物の上に裸身を横たえて眠っている詩帆へと近いていく。  
 
  詩帆は全裸で朱の上に、その小さい尻のあわいから散々に嬲られ尽くされた  
爛れた小舟のかたちをした柔肉を見せていた。なぜ小舟のかたちに見えたのか、  
蘇芳は切なくなって、堪らなくなっていった。何故そう思ったのか、深く考えない  
まま、小脇に詩帆を抱えて宴の場所を去って風呂場へと向う。戦乱の世の倣い  
なのだと思ってはいても……あわれだ。  
 
 蘇芳はふたりの女を連れて、木の床板の上に裸身を横たえさせると、宴の  
穢れを湯で洗い流す。爛れた小舟のかたちをした女の佇まいがあわれを誘う。  
 ふたりの女は背を丸くして、貌を合わせて横たわっていた。先に気が付いたのは、  
娘の方だった。  
「も、もうしわけございません。わたしがいたします」  
「そうしてくれると助かる」  
 蘇芳は娘に手ぬぐいと桶を渡した。娘は蘇芳の躰を洗うつもりで申し出たのだが、  
蘇芳は詩帆の躰を洗って欲しいと言ったのだった。  
 
 やがて、詩帆も気が付いて、男の気配に驚いて両手を付いて上体を起こすと  
後じさり、両脚をきちんと揃えると折りたたんで躰を小さくしていた。  
「あ、あ……あ……あ……」  
 詩帆は見えない瞳で蘇芳を真直ぐに見ている。娘も詩帆の異変に気が付いていた。  
 
「す、蘇芳さま……」  
 娘に呼び止められるまでもなく、蘇芳は風呂場から立ち去るのをやめて、  
もういちど近づくとしゃがみこんで詩帆の躰を抱き締めた。詩帆は躰を捻るようにして  
蘇芳のなかで暴れ、言葉にならぬ声で喚いていたが、やがて泣き声に  
変って眠ったように静かになる。しかし、眠っていたわけではなかった。懐かしい匂いに  
乳房を詩帆は喘がせはじめていた。  
 
「安心しろ。もう、終わったことだ」  
 拝領まで、この歌姫の躰はもつのだろうかと思ってはいても、今はそれしか  
掛けてやる言葉がない。そう言うこしかできなかった。詩帆は蘇芳の躰から  
やさしい匂いを感じ取ってまた泣く。  
 
「あう……。あ……あ……」  
 蘇芳の肩に詩帆は顎を乗せて瞼を開いていた。娘が抱き合っている蘇芳と  
詩帆の躰に湯をさあっと掛け穢れを落として、詩帆の冷えた躰を温めてやっていた。  
詩帆の躰は蘇芳に抱き締められ、湯の温かさと蘇芳のやさしさが滲み込んでいって  
言葉をようやく紡いだ。  
 
「あ、あ……なたさま……は……?」  
 しかし、詩帆を抱き締めていた蘇芳は己が名を告げようとはしない。  
したくはなかったのだ。  
「御名乗りになってさしあげないのですか?」  
「わたしに名乗るような名はもう既に無い」  
 その言葉は娘には辛かった。今は敵に堕ちて、その身の回りの世話を  
しているだけの女。蘇芳はすぐさま娘へ謝罪の言葉を掛ける。しかし、娘は  
一向に気にした様子もなく貌をゆっくりと振ると、その代わりにと詩帆へと  
愛しい男の名を告げた。  
 
「蘇芳さまですよ……」  
「す……ほう……さま……」  
 娘は桶を置くと、肩を抱かれて力なく下へと垂れていた詩帆の手をとって、  
そこへ彼が教えたように詩帆の手に指で字を書いて握らせた。  
「蘇芳さま」  
「ええ。そうですよ。蘇芳さま」  
「蘇芳さま」 「はい……」  
 ふたりの女は想いこそ違っていたが、蘇芳を中心にして環となって泣いていた。  
 
 
 
 

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