誰かに似ているから。そんな理由でヒトを愛したというのなら愛されたほうは  
決して報われないのではないか。だって、それは本当に心が見つめている対象が  
自分ではないのだと宣告されたようなものだから。まして本人の、オリジナルに  
対する愛情が深ければ深いほど「かわり」となった者はどこまでも「かわり」に  
しかなりえない。そこに…果たして真の幸せが…本当の愛が芽生えるといえるのか。  
………………………私は愛の天使ではない。別に愛の真理などを説くつもりはない。  
これはあくまで私個人としての固定観念。私の考えに異を唱える者も多くいるだろうし  
それに対してあれこれ言うつもりはない。そう。彼には彼の観念があり私には私の観念がある。  
そう。それが噛みあわなかっただけ。だから、あなたの想いは、この恋は成就することはない。  
元より私は愛などとは無縁な血塗られたヴァルキリーで、あなたはまして―  
 
「――――でも、変わりはないんだ――――――  
好きだということに―――――」  
 
それが、その言葉が、どんなチカラを持っていたというのか。  
思考が止まったわけでは、ない。私は正気を保っている。当たり前だ。  
こんなことで、こんな身勝手な告白でどうにかなってしまうようなそんな、  
なさけない感受性など持ち合わせてなんて……いない…      ……筈だった。  
 
 
彼から求めてきたのか、私から求めたのか。正直よくわからない……。  
その瞬間にはもう彼の顔で視界がいっぱいになっていた。だけどそれも一瞬。  
すぐに視界は自分の瞼で暗転して後はもうそのままだった。微かな…しかし確かな  
唇の感触。静かな…ただ交わすだけの接吻。それは(…少なくとも私に残された記憶  
のうちでは…)初めてのことだったけれど自分でも驚くくらい冷静で鼓動も静かだった。  
 ………このときは、まだ。  
 
 
それから数瞬。背中に彼の腕の感触を覚えて抱擁されたのだと気づくまでに  
また数瞬。彼の肩に添えられた自分の手に力が入っていく――。    
…訂正しなければならない。そうだ。この時、私の手はすでに彼の体に触れて  
いたのだから、やはり、その…先に求めたのは私ということになる。  
「―――――――っ!」  
 
冷静な頭でその事実を受けとめられたのが躯の引き金となったのか。  
一気に頬に熱が篭り鼓動が迅速に刻まれていく。クリアーな意識は一気に沸点寸前  
まで加速していきこの接吻と呼ぶにはあまりに静かな行為にさえ羞恥心  
を感じずにはいられなくなる。情けなくも体は小刻みに震えだしていて……  
 
手を―――――!!  
 
……離せば、きっと彼もそれに応じて抱擁を解いてくれるだろう。  
彼は決して無理強いをする人ではないし、今だって自分からはここから先に  
進もうとはしない。それは彼が奥手なのだとか経験が浅いのだろうとかいった  
理由ではなくて、彼の優しさと自責の念からくるものであったのが…  
イヤというほどよく分かってしまう。   それが……また、  
どうしようもなく卑怯だ。  
 
 
――――俺には、その資格がないから。だから―――――  
 
 
魂の繋がりが音となり、彼の思いとなしていく。  
     いけない。目を開けては。今、もし彼の顔を直視して もし   
 目が    合ってしまったり したら        
 
 
――――だから、俺に 君が――――  
 
 
「      ぁ…      」  
 
視界には紅い夕日と鈴蘭の花吹雪、  
 
「   ル…    」  
 
そして  
 
「   ルシオ………   」  
 
柔らかな表情を携えた、赤い甲冑のエインフェリア。  
 
それから、暫く。日が沈みきったころ。私とルシオは申し合わせたように  
お互い甲冑をはずしていく。あれほど震えていた情けない体もどうにか冷静さを  
取り戻してくれたようで、滞りなく…ことの「準備」は進んでいく。日が沈んでも  
高原はだいぶ明るかった。周囲には鈴蘭の花。私は勿論、ルシオもエインフェリア  
なのだから花の毒に犯される心配はないのだけれど、風で舞い上がった鈴蘭の花びら  
ひとつひとつが月の光に照らされて淡い光を放っているかのような、そんな幻想的風景。  
でも、そんな景観は今の私にとってはこのさきの障壁としかならない。  
「ヴァルキリー?」  
ルシオから促されるような声がかかる。わかっている。別に、この期にいたって怖気づいてはいられないのだから。  
ただ……  
「やっぱり…俺じゃあ………?」  
「違うの、ルシオ。 そんなことはないわ。ただ……」  
 
ただ―――  
 
「私は、戦乙女だから…あなたが描いている少女、プラチナとは…顔が似ていても……  
から……だ…は……似ても…似つかない武芸者のものだから…………あ…ま………」  
 
あまり、見られたくは、ない。と言い切れたのか、私は。分かっている。  
私の身体はメルティーナや那々美が持つ女らしい曲線美というものに乏しいと  
いうことを。今まであまり考えないように、意識のそとに追いやるようにしてきた  
ことだった。だってそれはそうだろう。私はレナス・ヴァルキュリアとして  
どうしても武に秀でなければならなかったのだからむしろ鍛錬されたこの身体  
は誉れともいえる。メルティーナたちは「魔」の使いなのだから身体の鍛錬は  
私に比べれば微々たるものでよかったのだ。そしてその分、彼女達は精神修行のほうに  
心血を注いできたのだろうから。これはそのことからくるしかたのないことなのだと。  
だから気にすることなどないのだ、と。………でも、あるときから…そう、彼女達と  
行動を共にすることが多くなってからか、私は「力」より「技」に重点をおいてきた  
のもまた事実。どうしてそうなっていったのか?その理由に自分自身気づいていなかった  
…否、気づいていないふりをしてきた。それが、私の「女」としての本能からくる  
ものであったのだと気づいたのが……まさに今。        あぁ、なんて情けない。  
治まったと思っていた震えがあっという間にこの身を再び支配し始めている。  
ルシオが私の身体を見たときに一瞬でも顔を曇らせるようなことがあれば………私は…………  
 
 
ふいに、私の身体を覆っていたガーブが  すっ、とたくし上げられた。  
 
 
「えっ………?」  
 
カラダが、動かない。あまりに突然のことで。外気に当てられた肌が粟だっていく。  
 
―――――――ルシオに、見られて いる     見られて、る。  ル シオ に  
 
 
「ヴァルキリー、全部脱がすよ」  
その声でやっと意識が戻ってきた。  
「な………!!  な…!?     ひっ!」  
ルシオはそんな私にかまうことなくガーブを完全に脱がしに手をやる。  
まだ、カラダが動かない。なすがままにルシオによってあらわにされていく自分の肌。  
   気がつけば…あとに残されたのはブーツとショーツだけという我ながら  
間の抜けた姿。  
 
「や………! 見ないで…見ないで……ルシオ………!」  
ルシオの視線の先―――胸を、必死になって手で隠そうとしていた。  
 
「ぁぁ……これがヴァルキリーの……     すごく……  
                  なんて きれいなんだ」  
「〜〜〜〜〜〜〜っっっっっ!!」  
とんでもないことを、さらっと口にされて、私の混乱は頂点に達した。裸を見られた  
というコトと「キレイ」と言われたコトが私の頭の中をどうにかしてしまいそうになって、  
不覚にも自分でも意味の分からない涙がにじんでくる始末。怪訝そうな顔で私の泣き顔を  
覗き込んでくるルシオ。お願い……これ以上は………  
 
「ヴァルキリー?   あのさ…、ひょっとして… …初めて?」   
「―――っ」  
 その一言で頭に上っていた血液が静かになっていくのを実感した。そうだった……。  
今、私はなぜか昔の自分のことがよく思い出せない。……だから、過去にそういった  
経験があったかもしれないけれど。だけど、今の…少なくとも今の「私」は、  
「レナス」は…きっと…。…………………なさけない。我ながら、本当になさけない。  
カラダを見られるということにあれだけ子供のように狼狽し、あまつさえ冷静さを取り戻した  
きっかけが破瓜の恐怖というのか。こんな…醜態…私は戦乙女失格ではないか。  
こんな…なさけない姿を…ルシオに…………。  
神格も地に失墜せんとばかりに自己嫌悪の渦に飲み込まれていく中、  
「ヴァルキリー。できるだけ優しくするから。俺に少しでいい、わけてくれないか?」  
ルシオの声がはっきりと……私の中で意味を繋いでいった。  
 
えっ。わけるって何を―――?  訊くより早く、ルシオが私の唇をふさいでしまった。  
「ん――っ  ん、ふ……ぁ―――――」  
先刻のそれとは違った種の接吻。  
 
じゅぷ……  じ…  ぷちゅ……じじゅ…っ …っ  
 
―――――ルシオ?  な……に…… コレ?  あふ…ぁ ルシオの…舌が………私の……口……は…ぁ… …中……に……?  入って……!   なんだか …変な…… ぁ…  
 
それは、異様な快感。意識はどんどんまどろみに沈んでいくのに快感を貪る舌の感覚だけが  
鋭敏に研ぎ澄まされていく。  
「……ん…ぁあ……」    
これ…は、ルシオの唾液…  私の…… あ…  口内に…どんどん 流れて…  
   ………飲めって… こと なの? ル シ  オ…   はぁ… ぁ  
飽きることなく続く口内愛撫に理性が削られ、溶かされ、粉々にされていく――  
キモチいい。なんだか…すごく……苦しいけど…気持ちいい。ルシオ。  
 
ふいに、まどろんだ意識にバチッと電源が入りなおる。  
「んっっっっ!! あぁ!!」  
な……なに…!? ひ…ぁぁぁ……ルシオ…! そ んな…  
 
いきなりのことだった。ルシオに乳首を摘まれたらしかった。口内愛撫で弛緩しきった腕をさっと払い再び露わになった薄桃色のそれがルシオの次の標的。  
「あ………やぁぁ……ん…」  
 
お願い、ルシオ。もっと優しく…  
 
ルシオはいっこうに攻めをゆるめようとしない。寧ろその勢いは時間とともにさらに露骨な  
ものになっていく。抵抗は無意味。体を捩って身を引こうとすればルシオは胸を鷲掴みに  
して無理やり前に体を向けようとする。舌はそのまま頬、耳、首筋、を通り今は鎖骨のやや下だろうか?  
  ……この先は誰にでも想像できる。今の私にできる精一杯の抵抗は…次にくる  
衝撃に耐える覚悟を決めるだけ。  
 
だが、そんなものは  
 
「ひ」  
 
カリッという歯を立てた衝撃。  
「あああああああぁぁ!!!」  
一瞬で決壊してしまった。胸に対する愛撫というのは経過はどうあれ、快楽は最終的には先端から解放される。誰がなんと言おうともソコが急所・契機である。ルシオは最短でそこを刺激してきた。これだけで決壊されてしまうということは……私はすでに相当  
まいっているようだった。  
 
ル…シオ  
 
ここからは先のキスと同じ。理性がドロドロになるまで続く執拗な愛撫。既に私の体は何度かの細かい臨界点と突破していてショーツもグショグショに濡らしてしまっている。  
 
?…………ショーツ、な…んで。    さっきまではいていた筈のショーツが…隣に…  
    ああ、そうか。   ルシオが…脱がして…くれたのね……    
 
 
ルシオ。  
 
 
見られる。  誰にも… 自分でさえあまりみたことのないトコロを。 今、ルシオに。  
「ああぁぁあ………ぁ…ル…シ………ォ…」  
 
「ヴァル、キリー」  
 
ルシオ。  
 
視線をおろす。そこには隆々と勃起したルシオのペニスが…今か今かと鎌首をもたげていた。あれが……ルシオの……なんだ…。 何だか   不思議な…  
 
ルシオ。ルシオ。  
 
ルシオは苦しそうだった。私に対する愛撫は同時にルシオの体にも確実に火をつけていたらしく  
ルシオは己のペニスを右手で構えながら位置を定めるふりをして、私という的に弓を引く  
ように細かく……前後に扱き始めていた。ルシオの声が荒い。  
 
あぁ…ルシオ……素敵…  
 
「あ………は…ぁ    ごめ…ん。俺、どうしても…我慢できな…くて」  
 
ルシオ。苦しいの?  ルシオ。お願い、もう、我慢しなくて、いいから。  
 
ルシオ、ルシオ、ルシオルシオルシオ。  
 
愛しい。こんなにも。ルシオが。私に欲情しているルシオのオスが。私を欲情させたルシオの全てが。  
はやく、はやく、ルシオと、一つになりたいっ!大丈夫、不安や羞恥はルシオがみな  
取り除いてくれたから。だから、だから―――!  
 
私にもできることがあるはずだ。  
そうして、足を左右にできるだけ大きく開く。辛くはない。柔軟さには自身がある。  
これでもっとルシオが私の近くに体を寄せられるから。  
左腕でルシオの体を寄せ、右手で秘所に手を添えて、人差し指と中指をつかって  
その入り口を開く。ルシオのおかげで潤滑液はもう十分だろう。これで、あとは―  
 
「ルシオ、はやくきて。あなたになら、かまわないから」  
 
「ヴァルキリー………」  
 
きづかなかった。私だけじゃない。ルシオの声も震えている……。 ルシオ。  
ルシオのペニスがあてがわれる。正常位。ルシオの亀頭が、私の中に埋没していく――。  
一瞬、恐怖がよみがえってきた。   破瓜の……痛み。  
それに気づいたのか、ルシオが今一度私にキスを交わしてくれる。……大丈夫だから、と。  
 
ええ。………最後まで怖さはある。不安も。…でもあなとなら乗り越えられると思うわ。  
 
(なぜだろう?ルシオのことを考え、ルシオに触れて、ルシオに触れられていると……喩えではなく本当…に胸が…苦しく、なる)  
 
       ズグ… ずぶ ずぶぶ………  
 
さらに埋没していく男根。   ああああああ。中に なか…に  
 
(「ルシオ」という響きが私の中で意味をなすと  まるでそれが  
咎であるかのように私の中の何かを責めたて…また一方では何かを  
呼び覚まそうとする。それが…いったい何を意味するのか………?)  
 
抵抗。やはり…あった……。       ルシオ……さぁ。  
 
(亡き少女の面影を重ね、それが…侮辱でしかないと自覚した上で尚、  
私に気持ちを――そしてその理由さえも伝えた誇り高き一人の剣士、ルシオ)  
 
私の体を支えるルシオの腕に瞬間、万力のような力が篭る――――!!  
 
(それは、なんと罪深く  なんて 美しい ことだろうか)  
 
「……………ひぁぁああぁああああああああああ!!!」  
 
メリメリメリッ! ブツ!  
 
「ヴァル、キリーィィィ!!」  「動くぞ!いいな!」  
 
「はっ! はぁっ! はっ! はっ! はっ――――! ルシ、オ!!  は、い!」  
 
ピストンが……一番…奥まで………あ…あ…あ………はぁ…ん…ぁ……!  
これが……! この感じが……あ    あ   あ  あ あ、ああぁぁああ!?  
(………少しだけ……その、プラチナという少女が……うらやま…しい……な)  
 
「 「 ああああああああああ!! 」 」  
 
 
こうして一夜限りの夢は覚めていった。白く…弾けたまま、私たちは互いを  
抱きしめあいながら朝まで深い眠りについた。           
…ルシオ  あなたは………。  
 
 
―――――ルシオは神界へと旅立っていった。………最後まで…心の傷を癒せないまま。  
やはり私では彼の「プラチナ」という少女に対する想いを完全に絶たせることはできな  
かったのだ……。「かわり」とはあくまで「かわり」にしかなれない。彼を救えるのは  
プラチナだけ…か。神界での戦いは地上でのそれよりもはるかに過酷なものとなって  
いくだろう。そのときルシオ、あなたは……克服しきれなかったその  
「心の弱さ」がもとで命を落とすことになるかもしれない…………  
 
だけど――――――――  
「ルシオ、か………。また会えるといいわね……」  
 
FIN  
 
 

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