「わたしだけイかせないでって……いつも言ってるのに」  
 
目に光が戻ってきたヴァルキリーが半眼でにらんでくる。  
 
「ごめん。その、愛撫だけであんなに感じてくれるのがうれしくってさ。つい…」  
 
笑って、いつもの言い訳をする。もっと正直に言うとヴァルキリーのよがる姿が普段の彼女  
のソレとギャップがあって妙にそそられるとか見たくなるとか。可愛すぎていぢめたく  
なるとか、いろいろ。  
 
 
……しかしヴァルキリーはおもしろくないのか…、俯きながら浮かない顔をしている。  
 
 
「ルシオは―――…ルシオは、それで、いいの? 私はいつもルシオに……気もち…よく…  
してもらってばかりで、全然あなたを満足させてないじゃない…」  
 
………本気で言っているのだろうか? うん。彼女は本気だろう。全くもって不本意だ。  
何が不本意かって、そういうふうに思われていたこと自体がほんとうに不本意で。  
 
「ごめんね…ルシオ。 私みたいなのってマグロって言うんでしょ?  ここにある赤い  
やつと同じね」  
 
メルティーナも言ってたわね、なんて。 ―――まだ言うつもりなのか。本当に悔しくて  
ムカついてきて、だから  黙らせるために彼女の唇に自分の唇を重ねて栓をしてやった。  
絡み合う――― だけど、今のキスは黙らせるためのものだし、今の自分では優しくして  
やれるわけがない。  
 
ヴァルキリーが苦しそうな声を漏らす。当たり前だ。俺だって、苦しいんだから。  
 
「ぷっ…はぁ! はぁ… はぁ…!  ルシオ? 急に… はぁ… どうしたの……」  
 
「ヴァルキリーが、そんなヘンな事言うからだろ」  
 
キョトンとした顔で見つめてくる。あぁ、本当に要領を得ていないのか。  
 
「俺は一度だって、ヴァルキリーを不満に思ったことなんてないよ。愛撫だって俺が  
悦ばしてあげたくてしてるんだ。それに、ヴァルキリーのその姿が、俺にとっても――」  
 
―――最高の媚薬になるんだから。  
 
「ホラ、見てみなよ。ヴァルキリー」  
 
ズボンの中でとっくにギチギチに固くなったイチモツを取り出してヴァルキリーに突きつける。  
「あっ」っという短いヴァルキリーの声。始めに充血してからだいぶ時間が経っている  
のに興奮の波はちっとも引いていなかったせいもあってか、普段の勃起時よりも一回りは  
大きくなっていた自らのソレ。  
 
「これでも、俺のをこんなにしちまっておいても、まだそんなことを言うつもりかい?」  
 
ヴァルキリーは熱に当てられたままの表情で、その目だけはしっかりと俺のグロテスクな  
ペニスに集中している。驚いた際に添えられた口元の手はかすかに震えていて。  
 
「………ええ。それでも私は、あなたを まだ 満足させていないわ」  
 
意を決したように。  
 
「だから、続きは、私がしてみせるから…」  
 
彼女はその細い指を俺のペニスにあてがった。  
 
上下にゆっくりと、丁寧に扱き始めるレナス。何度か触れたことのあるルシオのソレだが  
この固いのに柔らかいという矛盾した触り心地を喩えられる物をレナスは知らない。コレ  
の感触…としか。そんな、喩え様のない感触、そして形状を彼女は本心から愛しく思う。  
 
「汗に蒸れてて…なんだか…不思議なにおいね……」  
 
「嫌かい?」  
 
「ううん、そんなことないわ。ただ、これがルシオのにおいなんだな、って」  
 
着実に、しかし恥ずかしそうに、レナスのシャフトは続いていく。  
 
 
「……口、つけても、いい?」  
 
いちいち確認しなくたっていいに決まっているのに。  
 
「―――はやく!」  
 
我慢したくないし、我慢しきれない。  
 
僅かな笑みをこぼして、ヴァルキリーは俺の先端に口づけをしてくれた。そのまま根元  
まで滑らしてまた先端まで。柔らかな唇の感触が唾液の湿りを伴ってさらに刺激を  
強めてくる。支配感と気持ちよさに頭がクラクラしてくる。  
何度目かの往復を繰り返してその時初めて舌を使った。  
 
「っく……ぁ」  
 
呻いてしまう。その声に嬉々として反応した彼女は舌による攻めを先端…亀頭周辺にだけ  
集中し、始め空いた手を睾丸にあて、優しくもみ始める。即、陥落してしまいそうになる  
鋭利な舌と、じわじわと、しかし着実に熱い滾りを押し上げていく手の動きが更なる高み  
えと俺の意識を押し上げる。  
 
不意に性器全体にぬめり気が与えられて、一気に放出しそうになるのをグッと尻に力を  
いれて堪える。いきなりのことだった。亀頭までしか与えられていなかった刺激が本来  
亀頭よりは快感に鈍いはずの竿に与えられた、ただそれだけのことの筈が。これほどの  
快楽。あまりの唐突さに瞬間的に達しそうになる。   
 
ちゅ…… ぶ……… ぬぷ…  
 
さきほどのお返しだと言わんばかりに卑猥な音を立てながら頭全体を上下させ始める。  
視覚、聴覚、触覚。ヴァルキリーの責めは容赦ない。マグロだなんてとんでもない話だ。  
気を抜くとそのまま瓦解しそうになる。気持ちよさに声が逆に出なくなる。  
 
咥えこんだまま鼻で大きく息をついた。それからいままでで一番深くかぷりついたかと思う  
とそのまま舌を竿の裏…筋のラインをゆっくりと舌で舐め上げていった。唇が先端から  
離れるとき、普段のキスのそれと同じように先端から「ちゅっ」という音が発せられるほど  
鈴口をきゅきゅっと吸い付かれた。  
 
「が――――ぁ……!?」  
 
それが、痛すぎるほどの快感で。決壊の契機となって。  
 
「きゃっ…!」  
 
不覚にも、ヴァルキリーの顔が最も近くにある、最も彼女を汚してしまうポイントで、  
弾けてしまった。突き放すことはできたはずなのに。彼女の頭を掴んだ両腕がいい証拠と  
なって自責の念に駆られる。俺が望んで、鼻先で射精してしまったんだ。しかし悔恨の念  
も長くは続かない。ごめん―――と言いかけて声が途切れる。  
 
「よかった……  私、上手にやれたのかしら、痛くなかった、ルシオ?」  
 
ヴァルキリーは満足そうに自らの顔や胸やその美しい銀髪を汚した俺のスペルマを丹念に  
指で掬っては飲み干していた。舌に乗せては目を瞑り、ゆっくり咀嚼して飲み込んでいく。  
その様から風情を感じるのは俺の身勝手な妄想だろうか。  
 
「ああ。すごく、気持ちよかった。 それに上手だったよ、ヴァルキリー」  
 
「ふふふ……」  
 
その笑顔は本当に幸せそうで、どうしようもなく愛しい。  
 
「でもさ、『器』のヴァルキリーが食事するはずの俺を食べたんじゃあノーマナーだよね」  
 
「何言ってるのよ。こんな食事に今更マナーなんてあるわけないじゃない」  
 
拗ねたような顔。きっと、俺以外には誰にも見せたことのないような、そんな。  
 
「ヴァルキリー」  
 
声と、視線だけで挿入をヴァルキリーに促す。  
 
「ルシオ? うん。いいわ。 体のほうはもう大丈夫だから。 続き……して…くれる?」  
 
「ああ。じゃあ、今日は四ん這えになってくれるかな。 ヴァルキリーを後ろから愛したい」  
 
唇を閉じて若干の緊張した仕草を見せてくる。それでも、最後には、こちらの言い付け通り  
肘と膝で体を支える体勢にとってくれた。必要なだけ腰を高く上げて足を開いてくれて  
いるので挿入し易い。  
 
そこで、あることに気付いた。  
 
すぐにでもいれたくなる衝動を抑えて彼女の震える肉付きのよい臀部に―――歯を立てた。  
 
「   っん!?  」  
 
挿入されるものだと構えていたヴァルキリーにとっては思わぬ刺激となったのだろう。  
何が何だか分からないといった顔が低い位置からこちらに向けられた。  
 
「ヴァルキリーの綺麗なお尻にね、刺身が何枚か潰されてへばり付いてたんだ。ずっと  
気付かなかったけど。見つけちゃうと気になってね」  
 
―――今、とってあげるから。少し待ってて。  
 
胸とはまた違った弾力を持つ膨らみに思わず声があがる。  
指で押せばその形のまま沈み込んでいくがもとの形に戻って  
いく肉の揺れは胸以上の張りを伝えてくる。それ自体に匂いは  
わずかにあるようだけど調味液とすぐ下から漂うメスの匂いで  
ほとんどかきけされてしまっているのが残念だ。歯型が残る  
くらいにこの肉に噛み付いてやりたくて。  
 
同時に彼女のうなじのラインが目にとまる。迂闊なことに今日はあれだけヴァルキリーを  
消耗させておいて、まだ、彼女の敏感な背中を愛撫していなかったことに思い至った。  
今からでも――――。指一本で肩甲骨の間から尾?骨に繋がる道程を繋ぎ始めたところで  
 
「お…お願い、ルシオ! もうこれ以上焦らさないで!!  私もう…ダメなの……!」  
 
ヴァルキリーから悲壮的な叫びがあがった。  
………ああ。そうだった。ヴァルキリーだけじゃない。俺だってもう一分一秒待ちきれ  
ないんだ。どんな愛撫だって、俺にとって、彼女の腔ほど魅力的なものにはなりえない。  
お互い限界は近いし、これだけ濡れていれば遠慮はいらない。  
はやく。はやくヴァルキリーを俺で満たしてやらなければ。  
はやく。はやくヴァルキリーを融かして 俺も融けてしまわなくては。  
はやく。はやく!ヴァルキリーと狂ってしまいたい―――!  
 
「挿れるぞ、ヴァルキリー」  
 
返事は待たなかった。その余裕すらなかったためか。狙いを定めて一気に最奥まで突き入れた。  
衝撃に耐え切れずヴァルキリーの体全体が落ち込みそうになるのを腕だけで支える。  
それと同時に『ヴァルキリー』という無数の濡れた柔らかな壁が俺のモノを一気に締め  
上げてくる。それは暴力的ともいえる。あれだけ待ち焦がれていた筈のペニスの進入に  
一番焦がれていた肉壷がその進入を拒みだしたというのか。いや、これが彼女流の歓迎の  
仕方。この痺れるような快楽の選定を乗り越えた先に本当の彼女の恵みが獲られるのだ。  
しかし…あんなに綺麗にヒクつかせていた肉の花弁がこんなにも凶悪な破壊力を持って  
いるなんて―――!  
 
「く…… あ あぁ………」  
 
「ふ…………… か ふぅ…  」  
 
今のは…どちらの声だったのか。それともどちらも声を上げていたのか。もう、それすらも  
さだかではないほどに狂い始めている。夢中になって奥までぶつける。決して、彼女の  
リズムに合わせられない。腔はますます抵抗を強めて腔の外にある睾丸にまで刺激を  
伝えてくる。  
 
「…………っ!! …………っ?!」  
 
凶悪な壁に変化が生まれた。蜜が大量に溢れ出すと時を同じくして優しく包み込むような  
多層の壁にその在り方を変えていく。繊細に。壁は柔らかく。ペニスの形に添って蠢き  
張り付いてくる。ペニスの竿から先、挿入した箇所がどんどん肉の壁と一体となって  
同化していく。拒むようだった態度から一変して二度と離さないかのような溺愛ぶり。  
『抜く』動きより『挿れる』動きを歓迎し、最奥ではぴったりペニスに纏わりついてくるが、  
二人を繋いでいる入り口は先程以上のキツイ締めで逃げ出すことを禁じてくる。  
もはや引き抜くことはあたわない。始めからそのつもりだが腔で果てることを彼女も望んでいる。  
 
「ルシオ……ルシオォ……  はあぁ、 気持ちいい…!」  
 
彼女の声にお互いあと数巡持つかどうかということに気付く。それでも、ピッチは落と  
さないし、むしろ上げていく。蕩け出すような二人の性器。事実、今カタチは意味を  
持たない。ペニスは更なる肥大化をした気もするし逆に肉壷に削ぎ落とさされて尖った  
カタチになってしまったような気もする。壁は細かな柔毛を生み更に貪欲にペニスに  
まとわりつくようで、どろどろの海になってカタチは失われてしまったようでもある。  
 
見ると、ヴァルキリーは左手一本で自らの姿勢を支えていた。彼女の右腕はここからでは  
体を捻らないと見えない肉芽の位置に添えられていた。この『食事』の最後を二人同時に  
飾るために、しっかりとクリトリスを指で挟んでいる。  
 
「ルっ…シオ 私のっ 名前を… 呼んっ で……!  お願い!」  
 
更に快感がスピードをあげて増してくる。  
 
「レ…ナス!   レナス!! …レナスゥ!!」  
 
名前を呪文のように呼び合う。繰り返し、何度も。 それももうあと僅かのこと。  
彼女の胸が下を向いて規則正しく震えているのを無意識のうちに両手で鷲掴む。  
「あっ」という声。力が篭っていく。もう、もたない。   
 
今のが引き金となった。  
 
どろどろに融け合った性器に芯が入っているかのような存在感が戻ってくる。迸るような  
射精。睾丸の中身を全てぶちまけるような。信じ難い快楽と…やはり支配感なのか。同時に  
ヴァルキリーの壁はペニス全体を締め、搾り出そうと二回三回大きく蠢いた。痙攣する肢体。  
声にならないヴァルキリーの甘い声が聞こえる。  
 
 
固さを失ったペニスをゆっくり彼女の中から引き出してそのまましばらく抱きしめあう。  
自然、視線が交差する。  
 
「気もち良かった?」  
 
それでも、まだ不安があるのか……潤んだ目でヴァルキリーはまた判りきったことを  
聞いてくる。きっと、くちに出してもらいたいのだろう。  
 
では、ここは素直にそれに答えようではないか。  
 
「うん。すごくおいしかったよ、ヴァルキリーは。  また、作ってもらえるよね」  
 
最高の笑顔で。そして、  
 
「だから……………もぅ、知らないからっ!!」  
 
やっぱり、彼女も同じ笑顔で―――  
 
 
 
 
(Epilogue)  
 
ここは誰も知らないトコロ。アース神族も、エインフェリアも、冥界の女王ヘルも。  
あの不死者の王ブラムスさえ知らないトコロ。   そんなありえない場所。そこに、  
 
そこに、二人の姿があった………。  
 
 
―――残念だわロレンタ。 あなたの中で何かがおかしくなってしまった。  
 
―――そ……そのセリフは!!?    ららららしくありませんわ、ヴァルキリー様。  
 
―――狂ってしまった歯車を修復している時間はないの。  
 
 
死刑執行人の冷徹な声が響く  
 
 
―――いえいえいえいえいえいえ! ラグナロクは終わってしまったのですから時間なら  
いくらでもあると思いますが!  この話はAエンド後のことですよ!それに、結果として  
アレは成功したんじゃないんですか!?なら、今回だけは……!!  
 
 
―――せめて、私の手であなたを眠りにつかせてあげる。  
 
 
             一切の釈明は無意味だと言わんばかりに、  
 
 
―――質問よ、ロレンタ。 剣で切られるか、弓で射られるか、当ててみなさい。  
 
―――はぁはぁはぁ……  ひ、ひとおもいに剣でやってください  
 
―――No! No! No!  
 
―――ゆ、弓ぃ?  
 
―――No! No! No!  
 
―――両方ォ〜〜〜〜?  
 
―――YES! YES! YES!     YES!  
 
―――ひょっとしてニーベルン・ヴァレスティですかぁ〜〜〜!!?  
 
 
「YES YES YES   ……………Oh My God……」  
 
「いきなり一人で何言ってんだ?じいさん……?」  
 
アリューゼが怪訝な声を老獪のエインフェリアに投げかける。老人の名をガノッサといった。  
 
「むぅ?  …ワシにも良く分からん。 ただ、な。 なんとなくここはワシが言わねば  
なるまいという妙な使命感が生まれてな」  
 
「………はぁ? ついにボケが始まったんじゃねーか……?  それよりよ、  
ヴァルキリー見なかったか。 用事があるんだが、何処にいるんだかサッパリなんだよ」  
 
 
             ズズズズズズズ………  
 
 
「なんと…! 地震じゃな」  
 
「天界でも地震なんて起きるんだな………」  
 
 
こうして事実は闇に葬られるとかなんとか。ロレンタをこの先見た者はいないとかなんとか。  
 
 
 
〜〜数週間後〜〜  
 
 
「すまないな、那々美。私用だというのに、わざわざ地上にまでついて来てもらって」  
 
「いえ。他でもないヴァルキリー様の命ですから。 それに、久しぶりの倭国ですし」  
 
この日、私こと那々美は我が主であるヴァルキリー様のお供に地上…海藍に降りていた。  
なんでもここ最近、ヴァルキリー様は料理に目覚められたらしく暇を見つけては調理室  
に入られ、また暇を見つけては地上の文献を読んで料理の研究に励んでいられた。  
今日もその延長で。創造の力をかりたものではない、実際の食材をこの目で見てみたい  
との御要望で地上に降りられている。私は今回、その付き人というわけで。私も多少  
の心得はあるのですがヴァルキリー様の期待に答えられるかどうか……。ヴァルキリー様の  
上達の程はすばらしいもだった。数週間前にルシオさんが「ヴァルキリーがご馳走して  
くれるらしくて、君から借りたいものがある」と言われてなぜかワサビ醤油を渡したときは  
なぜこんなモノを?だとか、返して頂いた際に中身が異様なまでに減っているのを見て  
いったい何をどれだけどんなふうに作ったのか、と訝しんでしまったものだったけれど。  
今ではリセリア様指南のかいもあってか、かなりの腕にまで上達している。私も何度か  
声をかけられてそのほどを拝見させてもらったが十年はかけたのではないかという手際の  
良さだった。…でも私が知っているのはもちろん、倭食ばかりなのに。ヴァルキリー様  
に聞いてみたところ、「だから、だ」と頬を赤らめて目をそらしながらポツリと仰られた。  
あれから自前のワサビ醤油までもっていらっしゃるようだし。もしかしてルシオさんが  
御贔屓にしている料理に倭食の刺身があるのだろうか?  
 
そんな最近のヴァルキリー様の姿を、エインフェリアの方々の中にはあのヴァルキリー様  
が……と驚嘆とも嘆息ともつかない声をもらす人もいらっしゃるようだけれど、  
私としては大いに喜ばしいことだと思う。  
だって、この方は今まであまりに血塗られた生涯を歩んでいられたのだ。来る日も来る日も  
その身を争いの渦中に置き、世界中を飛び回っては勇者の魂を集め、また争いの中へ。  
ラグナロクで一つの決着がついた今でもブラムスやヘルとの均衡状態に神経を削られる  
毎日で……。  
ヴァルキリー様の存在、その定義、彼女に課された使命うんぬんについて私だって十分  
理解しているつもりだ。  でも。  ルシオ様との二度三度の邂逅を経て少しずつ  
女らしさに目覚めていくヴァルキリー様をどうして責められるでだろうか。  
私には できない。  
女であることを捨てて、甲冑に身を包み、剣と供に勇者達と供に戦場を駆け回ってきた  
あの方の、あの幸せそうに包丁を握られる横顔を見ながら、どうして………。  
 
私達エインフェリアに勝るとも劣らない不遇の人生と輪廻を繰り返す女神、  
レナス・ヴァルキュリア様。那々美は、あなたのためにできることなら何でも―――  
 
「―――っと。そう言えば、ヴァルキリー様。」  
 
思い出した。前々から気になっていたことを今、聞いてしまおう。  
 
「最近、ロレンタさんの姿を見かけないのですがご存知ありませんか?」  
 
そう。ロレンタさん。ちょうどヴァルキー様が料理を始められたと思われるころを境に  
不意に見かけなくなってしまった。誰に聞いても所在が掴めなくて心配になって占って  
みたりもした。…………しかし、何の冗談なのか、何度やっても結果は大凶。  
日に日に強まっていく嫌な予感に我慢ができなかった。  
 
「知らなかったのか? ロレンタならこの前、転生したが」  
 
「えっ?!」  
 
知らなかった。  
 
「そんな…! 何で、こんな、急に。私、何も言われてませんでした」  
 
―――意外だった。確かに、私とロレンタさんの間にはメルティーナさんとのような  
親しい付き合い(←かなりの誤解)はなかったかもしれない。だけど。あの礼儀正しい人  
ならもし転生することがあるなら私達にも必ず声をかけてくれるだろうと思っていたから。  
 
そんな私の動揺を察してか、ヴァルキリー様が静かに、優しい声で続けて言われる。  
 
「きっと、別れが辛かったのだろう。絆が深ければ深いほど…人の別れは耐え難いものになる」  
 
ロレンタの心中も察してやれ―――と。そう口にされた。それは、そうだろうけど。でも。  
……やはり寂しかった。それに、  
 
「ヴァルキリー様。 ロレンタさんは今、幸せでしょうか?」  
 
あの、大凶はどういうことなのか。  
 
「それなら心配するに及ばない。 何せ、ロレンタの魂を導いたのは私だからな」  
 
「あ―――――」  
 
この人は。  
 
その一言で、今まで自分の胸中で消えることのなかった不安が飛散していく。  
 
この人は、なんて優しい方なのだろう。私が馬鹿だった。いらぬ心配だった。そうだ。私達  
の逝き先はあの方が導いてくださるのだ。なら。何も心配することなどないではないか。  
私は知っている。ヴァルキリー様の、あの戦乙女としての冷徹な仮面の下にある、  
慈愛に満ちた女神の素顔を。  
 
「それなら、何の心配も無用ですね」  
 
うん。 晴れ晴れだ。天界に戻ったらもう一度だけロレンタさんを占ってみよう。きっと  
今までとは違ったいい結果になるはずだから。なんせ、私達エインフェリアには女神様  
の加護と祝福があるのだから。  
 
        ロレンタさん、どうか、幸せな生を――――。  
 
 
「ときに、那々美。雌雄同体というのを知っているか?」  
 
――――お過ごしくだ……………      え?  何ですって?   
 
「カタツムリやミミズが身近な生物として、その代表なのだが」  
 
? ヴァルキリー様の意図が掴めない。  
 
「その名が示す通りオス・メスの区別がない生物だ。一生物でオス・メス両方の器官を  
備えているわけだな。あるいはオスに生まれてメスになるものやその逆のケースもある。  
魚貝類にそういうのが多いが……」  
 
「はぁ…」  
 
生返事をしてしまう。急にいったい何を仰っているのだろう?  
 
「まぁ、どちらにしても   『おぞましい』 と思わないか?」  
 
「…………………」  
 
「彼らはどういった性の観念をもっているのだろうな。いや、観念などといった知性すら  
持ち合わせていないのだろうが。だが、ある意味では性という柵から解き放たれた理想の  
生物の姿なのかもしれない、わけ、ないか。   ……ククク」  
 
 
底冷えしそうな笑顔で。戦乙女の横顔は、それでも神々しさを失わない。  
それが、今の会話の流れとどう関係してくるのだろうか。私にはちっとも分からないし  
分かりたくない気がする。ええ、分かりませんとも。神々の思慮深い御言葉を、我々  
浅はかな人間風情がアレコレ計ること自体間違っている。きっとそうだ。  
 
しかし、今の会話で、浅はかな私にも得られた教訓が一つある。  
 
そう。私は十分に理解していなかった。  
 
私達の逝き先は、この方次第なのだ、ということの意味を。  
 
 
今後一切、  
 
この方の機嫌を損ねるような真似は……冗談でもできない、ということを。  
 
それが、先人の足跡を辿ることで得られた本日の教訓だった。帰ってからするつもりだった  
占いは、もう、二度とされることはないだろうけど。  私は心より願っています。  
 
 
 
 
ロレンタさん。どうか、幸せな『性』を――――  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「あら、カタツムリ。(グシャ グリグリ バンバン!)いけない。踏んでしまったか」  
 
「見つけた後で念入りに踏んだような気がしますが………  はい、気のせいですね」  
 
 
 
 
(Fin)  
 
 

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