ことの発端は彼女の最愛の人からの何気ない一言。どうして彼がそんなことを言った  
のかは分からない。どういう会話の流れでこんなことを言ったりしたのかはっきりとは  
思い出せない。ただその一言だけが頭に焼き付いてはなれない。  
彼女はため息をつく。   ………たいていのことならソツなくこなす自身がある。  
そういう生き方をしてきた。武芸は勿論、ルーンの知識も備えている。「勇者」たちの  
最愛のパートナーとして、戦乙女として為すべきことは十分に把握している。地上の  
財宝の在り処も知っているし、制約はあるがこの世の未練を断ち切ってやることすら可能だ。  
それが「ヴァルキリー」というものなのだから。まして彼女には創造の力がある。  
   
彼女は―――レナス・ヴァルキュリアはため息をつく。    彼が求めたものが  
そういったモノだったらどんなにレナスは救われただろうか。いや、彼がそういった類の  
モノに興味を示さないことぐらいレナスは分かっていたし、そういった性格がまた、  
レナスが彼を愛する一因であったのだけれども。  
 
ラグナロクがひとつの終末を迎えた今のヴァルハラでは創造の力を得たヴァルキリーが  
アース神族の中心となっていた。エインフェリア達は輪廻の輪に戻った者もいるが  
その大半はレナスを慕ってヴァルハラに留まっていた。彼もそんな後者の一人だった。  
 
 
そして先日、レナスの恋人でありエインフェリアの一人である赤い甲冑の剣士―――ルシオが  
最高の笑顔で、ふいに  
 
「ヴァルキリーの手料理、食べてみたいなぁ」  
 
そんなことを口にしたのだった。  
 
 
「いったいどうしたものか……」  
 
レナスは本日…何度目なのか分からないが大きなため息をつく。ルシオに何かしてやれる  
ことはないのか、最近彼女はそんなことばかり考えていた。  
「私は与えられてばかりいる………」  
彼女は悩んでいた。  
失われた記憶も、そう。想いも、そう。――――イヤリングも、そうだ。  
ただ返礼の必要に迫られているわけではない。当然だ。彼の行動原理は見返りなどでは  
ないのだから。  
ただ、必要なのだ、と。ルシオにとって私は必要な存在なのだ、と自信がほしかった。  
ルシオを幸せにしてやりたかった。よろこばせたかった。今までにもレナスは先に  
述べたようなものをほしくはないかとルシオにそれとなく伝えたことが何度もあった。  
勿論というか言うまでもなくというか、ルシオの返事は「ノー」だった。  
………それが結果としてあの「創造神」レナス追いつめていったのだった。  
奇妙な話………。全く的外れというか、情けない勘違い。ルシオは口にはしないが  
その返答の中にいつも  
「ヴァルキリーがいてくれればそれで十分だよ」  
という一言をしのばせていたのだから。……いや、しのばせていたというのは間違いか。  
言わなくても分かるものだと思っていたから言わなかったのだ。  
だが、その一言が口にされていたならレナスがため息をつく必要はなかったのだ。  
男にえてしてありがちな事だが気恥ずかしい言葉を…それは時に不可欠なものであるにも  
関わらず口にしてくれない。口にしようとさえしない。  
女性とは口にしてもらわなくては「絶対」が「絶対」にならない生き物なのだ。  
レナスが弱いのではなく、恋する乙女が臆病なものなのだ。そこのところを  
ルシオもまた世の多くの男性同様に把握していなかった。  
そうして、誰に気づかれることなく最近のレナスは沈みこんでいった。  
 
何か、何かしてやれることはないのか。私はこんなにも無力だったのか。  
 
―――その矢先のことであった。  
 
手料理。  
それは勿論「創造の力」によって創られたものではなく自身の手によってつくられた  
もののことを指す。創造の力をもってすれば料理自体を準備することぐらい朝飯前である。  
世界中の人々の記憶を、幾多の料理の記録を、レナスは有しているのだから。  
だが、それでは意味がない。否、それらは決して前提条件を満たしていない。  
ルシオが求めたのは「レナスの手料理」なのだ。  
 
「……………………っ   はぁ〜〜〜〜〜〜〜……」  
 
レナスのため息の原因はコレである。そう。レナスは料理など今までただの一度も  
手がけたことがなかった。皆無である。戦乙女が、料理。……あり得ない。  
もともとレナスは神だしルシオもエインフェリアなわけで、食事の必要はない。  
彼ら彼女らにとっての食事は娯楽のようなものであった。……だから、知らない。  
人間だったころの一番新しい記憶…つまりプラチナの記憶をたどろうとしても  
……そう、子供のうちに死んでしまったプラチナにも大した予備知識も経験も  
なかった。………だいたい未だに一部の記憶は霞がかかっている。  
つまり世界中のどこを探してもレナスの手料理は存在しない。  
これから「作られる」物なのだ。他ならぬレナス自身の手によって。  
故に、レナスには創造できない。レナス自身がこれより作る未来のものを  
今のレナスには復元できるわけがない。なら、創造できる料理を自らが  
作ったのだと称すればよい話。……だがレナスにはそれができない。  
それは、ルシオを騙すということに他ならないから。  
それだけはしたくない。そんなことをするぐらいならはじめから何もしない  
ほうがマシである。  
 
とはいえ、  
「………まんざら、あてがないわけでもないし。これぐらいの事、遂げないでどうする」  
 
レナスの意思は固まっていた。またとないチャンス。初めてかもしれない。ルシオが何か  
を求めたのは。―――叶えてあげたい。大丈夫、私には頼もしい仲間たちがいるんだから。  
必ず、やりとげてみせる。  
 
「待ってて、ルシオ………!」  
 
決心新たにレナスは人知れずこぶしに力をこめていた。  
さしあたって、いつもの彼女に相談してみよう。  
 
 
「料理ぃ〜〜〜!?」  
素っ頓狂な声と共に端正なメルティーナの顔がお構いなしに文字通り歪んでいく。  
……眉、中心に。  
このメルティーナという女性にレナスはたいへんな信頼を置いていた。魔術の腕は  
申し分なく知識も豊富で実戦的。豪胆とも言えるその気性と割舌の良さはうちとければ  
うちとけるほど話しやすく裏表がない。その上、機知に富むし賢さから言葉の裏も  
とってくれるので話も進みやすく要点を掴んでくれる。レナスが「ヴァルキリー」として  
ではなく、「レナス」として話せる数少ないエインフェリアの一人だ。だが、エインフェリアに  
なってからもプライドの高さから他のエインフェリアやアース神族達と衝突することも  
しばしばで悩みの種の一人と言えなくもない。…その辺の性格に問題有りのため勇者  
としてはアレかもしれないが…普段はともかく今回は関係のないこと。  
 
「知らないわよ、そんなの。 だいたい私が調理場に立つ姿を想像できるっての?」  
 
……まぁ、多分そうだろうと思っていたけど。それも確信に近いレベルで。  
一応聞いてみただけであって、私がメルティーナに期待しているのは料理自体ではなく  
人選について。  
 
「メルティーナ。誰か、詳しそうなエインフェリアを推挙してくれないか?」  
 
「そうねぇ。やっぱり女のエインフェリアじゃない?偏見かもしれないけれどぉ。  
うーん……    ジェイルやエイミ、ジェラードも論外よねー  
アース神族の連中はさらに駄目ね〜。フリッグはともかくフレイやフレイヤはとてもねぇ」  
 
………それはお前もだろうに、と思ったことは口にしない。顔に出すこともしない。  
彼女はそれにすぐに気付くしこの用がすむまでは臍を曲げられては困る。………と言うか  
私がきいているのは適任者であって不適任者(メルティーナ含む)ではないのに。  
いちいちその辺を陳述するあたりがメルティーナの性格をよく表しているというか。  
 
「 ………詩帆…は…別の理由で無理か。 他には…  那々美がいいんじゃないの?  
あの子だったら料理してるのイメージたつわ」  
 
那々美、か。なるほど。確かに彼女なら心得ているかもしれない。―――でも、  
 
「若すぎる、とはいいすぎだろうけど。人に教えるのだからある程度の年季も  
必要じゃないかしら?」  
 
「そう?私なら実際に力を持ってるやつに教わりたいけど? 年くってりゃいいって  
もんじゃないでしょ。大体そんなこと言ってたら該当者、学院長くらいになるじゃない!」  
 
「そうか、ロレンタがいたわね」  
 
学院長とはロレンタのこと。そうだ。彼女こそ適任ではないだろうか。人にモノを教える  
のにも秀でている筈だし生前彼女には長年連れ添った夫がいる。その妻としての献身ぶりは  
人間たちのなかでも有名だ。無論、料理もこなしていたに違いない。  
 
だが、メルティーナの顔は「冗〜談っ!」といった風。……たしかこの二人は師弟関係の  
はずだが………  仲が悪い……。  
 
「アイツに頭下げてモノ教わろうなんて。よっぽど追いつめられてるのね、ヴァルキリー」  
 
……それは言いすぎではないだろうか。仮にも師に対してそれはないだろうに。  
 
「ところで、何でまた急に料理なんて始める気になったのよヴァルキリー。あなただって  
苦手分野でしょう、こういうのって」  
 
言われて途端、顔が紅潮したのがわかる。マズイ、なんとか誤魔化さなくては。別に知られて  
困るわけではないがなんとなく知られたくない。ルシオのことは周知の事実だしメルティーナ  
にはかなり込み入ったコトまで話しているし相談にものってもらっているから今更だけど。  
 
でも……やはり…こう…ルシオのことで妙に張りきっている姿というのは見られたくない。  
と言うか。なんと言うか。      
さて、なんと言ったものかと思案してるうちに、  
あぁ、そういうことぉ…納得納得、と言って目を少し細めるメルティーナ。  
勘が良すぎるのか。それとも認めたくないが私が分かりやすぎるのか。  うう。  
 
「あなたもずいぶんと変わったものね。初めて会ったころとはまるで別人みたい。  
すっかり女の子しちゃってさあ…。まっ、私としては今のほうがいじりやすくて  
見てて面白いから好きだけどねー」  
 
火がついたような顔のまま、口をパクパクさせるレナス。割と、滑稽。見るものが見たら  
これがあの『レナス・ヴァルキュリア』なのかと我が目を疑ってしまうだろう。それほどに  
今のレナスは動転していたし、まるっきり恋する乙女状態だった。普段の凛とした冷厳さは  
消え失せ、赤くなった顔を急いで下に向けるが唇の震えはとまらない。メルティーナは  
恥ずかしさから萎縮してしまった戦乙女をその姿はまるで怯えた捨て猫のようだ、  
と感じた。  
 
「まぁ、レザードみたいになってもいいっていうなら教わればぁ〜〜?一応忠告して  
おいたからね。あいつ(ロレンタ)、ヴァルキリーが思っているほどたいしたもんでも  
人格者でも何でもないわよ。ただのオバサンよ。バーさん一歩入ってるし」  
 
そう吐き捨てるように言って手をヒラヒラさせながらメルティーナは文字通り姿を消した。  
 
 
…とにかく。あまり贅沢は言ってられないし、迷っていても仕方がない。メルティーナを  
敵に回すようであまりいい感じはしないが…この際そんなことを気にしてはいられない。  
私は一刻もはやく、このスキル(現在Lv1)を身につけなければならないのだから………!  
 
 
そうして元の顔色にもどったのを鏡で見計らってからロレンタの部屋へとレナスは  
向かっていった。目に映るは未だ見ぬルシオの満ち足りた(満腹な)笑顔。  
レナスは『想像』する。自分の輝かしい未来・二人の「らんでぶー」を。  
 
―――いやぁ、ヴァルキリーがこんなに料理が上手だったなんて、今まで損してたなぁ。  
 
―――ふふふ。ルシオ、おいしい?  まだまだあるからゆっくり味わってね。   
あっ  御代わり持ってくるわね。  
 
―――ああ。  …っと、ちょっと待って。このサラダの中に入ってる黒いの、何?  
 
―――え? そんなもの入ってた?入れたおぼえないけど……  
 
―――ほら。よく見て。ここに  
 
―――?  どこ?ルシオ。   何もないじゃない…?  
 
―――う、そ。(がばぁ!)  
 
―――きゃあん! ルシオったら! 駄目よ…まだ…ご飯の最中なのに。  
 
―――ご飯もいいけど、今度はレナスを食べたいな……  
 
―――も…ぉ……  あ   ……だ……め…     ぁ        
 
 
「う……うふふふふふふふふふ!」  
れなす、ただ今『妄想神』として開眼中。体を捩じらせながらも足取りは的確に目的地へ  
とむかっている。両の手を頬にあててイヤンイヤンして美しい銀色の髪を振り回している。  
先程とはまた別の意味で見る者の目を疑わせる戦乙女のその姿。  
冷厳さの喪失が先程と同じでも例えるべき生き物の種類が全く異なる。  
子猫などもっての他。第一、目が座っている。  蛇か何かか?  けっこうヤバめだ。  
 
待っていて!!私は必ずやり遂げてみせるから…………!  
 
そうして、ロレンタの部屋の前まで来てようやく落ち着いてきたその頭の隅で…  
 
「レザードみたいに……か。………それってメルティーナみたいに…ってこととも  
同義なんじゃあ……」  
 
とか考えていた。  
 
 
ちなみに。  
 
偶然、周りが見えなくなるほど妄想中のレナスの姿を見かけ…てしまったロウファと  
アリューゼは           ……割と真剣に転生を考えてしまったとか。  
 
 
 
「料理、ですか…」  
 
己の主であるヴァルキリーの意外な一言に表情を全く変えずに…手にしたティーカップを  
やや傾かせたまま、この部屋の主は静かに声を漏らした。  
 
エインフェリアの一人、かつてのフレンスブルグの学院長ロレンタである。  
 
「そうだ。ロレンタ、お前なら……心得があると思ったのだが」  
 
「ええ………  それは勿論。  何も魔術だけに生きてきたわけではありませんから」  
 
―――よし、思った通り。レナスは密かにガッツポーズを繰り返す。  
この淑女という言葉の似合うエインフェリアは魔術の腕は勿論なのだが他のエインフェリア達  
とは違った方面で……つまり戦場以外でその才を発揮することが幾度とあった。  
外交術、弁論、ユグドラシル研究……その才能は戦術のみに留まらない。万事に対応でき  
期待以上の成果をいつも残し、他の神々からも高い評価を受け続けている。その上、人望も厚い。  
 
……ただ教え子には恵まれていなかったようなのだが。  
 
無念の死を遂げてからも己の生き方を曲げようとはせず当時のスタイルをそのまま維持  
しているエインフェリア、それがロレンタだった。  
言ってしまうなら彼女はエインフェリアの中で最もエインフェリアらしくないのかも  
しれない。戦闘に才がないわけではない。だがその才能は数あるうちの一つでありその点  
が他のエインフェリアと大きく異なっていた。その性格は元々非戦闘的なものである。  
ラグナロクの後、おそらくは輪廻に戻ることを望むであろうと思われていたのだが  
…何故か本人はそれを拒否し今に至る。  
 
ちなみに、年のこととカナヅチのことに触れると、キレる。  
 
「しかしヴァルキリー様は創造の力をもっていらっしゃるというのに……何故  
そういった技術を求められるのでしょう?」  
 
当然の疑問である。レナスはここにきてまた先程の失態を繰り返すこととなった。  
結局…彼女は冷静さを取り戻しているようでその実全然冷静ではなかったのだろう。  
平時の彼女ならこんなミスを繰り返しはしない。事前に筋の通った言い訳を準備していた  
だろうが、舞い上がっている今のレナスは赤面していく自分の表情にすら気付かない。  
 
「いや…………それは……なんだ………ほら、あるだろう?………そういうの………」  
 
「…………………………………」  
 
「つまり……だな…………その」  
 
「………………………はい?」  
 
しどろもどろのレナスに対しロレンタはいたって冷静。その表情には未だに動きがほとんど  
見られず何を考えているのか検討もつかない。   が、しばらくすると全てを察したのか  
 
「どうやら料理自体は目的ではなく手段であられるようですね。   
それはそれでいいでしょう。  
精進なさろうという心構えだけでも立派です。私でよければ  
ご教授いたしますわ、  
ヴァルキリー様。」  
 
ロレンタは目を閉じたまま残りの……あれは紅茶だろう、…を飲み干しながらレナスの  
申し入れを承諾した。  
 
「な、なな何を勝手に」  
 
悟ったようなことを――!……いや、これ以上もはや何も言うまい。藪蛇でしかない。  
…やはり私が分かりやすいようだ。が、反論する気力もなければうまい言い訳も  
浮かんでこないことだし。    それに、まぁ、ロレンタにだったら知られても問題は  
ないだろう。  
 
こうしてレナスとロレンタは滅多に使われることのないヴァルハラの料理場へと  
歩を進めていった。路の途中、レナスは再度野望に一直線モードだった。  
 
――――とにもかくにも、これで「らんでぶー」は達成されそうだ―――  
 
 
 
 
そう。  
 
 
 
レナスはこの時気付かなかった。トリップしているレナスを尻目に、  
ロレンタの目が怪しく光っていたことに……。  
 
 
 
こうして――――、  
 
調理台の前に立つことはや一時間と数十分。レナスは包丁片手に先の見えない戦を  
強いられていた。紛うことなき苦戦。かつて彼女をこれほどまでに追いつめた不死者が  
いったい何人いるだろうか?与えられた食材は―――魚。と言ってもレナスに与えられた  
魚とは直方体の切り身となったものか、あるいは三枚に下されたものであった。しかも  
指示されたことと言えば切ることだけ。言われたままに切り身を薄く、一様にさばいていく  
レナス。ロレンタにどんな考えがあるかは知らないがレナスはそれを考えない。  
彼女を師事した以上は彼女の命に従う。たとえそれがどんなに単調な作業の繰り返しで  
あったとしても。私には料理における全ての「技」が不足しているのだ。元より一朝一夕  
で成果をあげようなどとは考えていない。楽を求めてしまえば質はおちる。きらびやかさ  
はなくともこの作業には意味がある。―――それにこうしているうちに、彼の笑顔が、  
夢が、現実に近づいてきている気がするから―――  
   だから、今は、ただ目の前の包丁にだけ神経を使う。  
 
 
……………しかし、  
 
―――ふいに手が止まる。  
 
この食材。まさかロレンタはこの魚全てを切れと言っているのか。  
 
とても一人が食べられる量ではない。素人目にみても既に十人から十五人分はあるのでは  
ないか。第一、これは確か「刺身」と呼ばれる海藍(ファイラン)に住む人々固有の  
民族料理ではなかったか?私のエインフェリアの中にはこの海藍出身の者が多くいるので  
自然とこの当人達に高い人気を誇っている刺身というものを知識として知っていた。  
だが、特異な料理である。海藍人にはともかく大陸のエインフェリア達がこの刺身を  
食している姿は見たことがない。エインフェリア達が集まって食事をしている様は何度か  
見てきたがその度この刺身は海藍人だけが手をつけていた。ジェラードに至っては  
「余に生魚を食せよと申しているのか、この無礼者!!」と罵倒の限りであった。  
誰も無理に食べろとは言ってないのに。……それはさておき。まぁ、その辺はロレンタも  
心得ているだろう。これから先この切り身をどう調理するつもりなのか分からないが…。  
それと量。これだけの量を使い切ることなどはできはしないだろう。いや、単にこの作業は  
私に包丁を慣れさせるがためにロレンタが課したのかもしれない。 だがロレンタ自身は  
始めの十数分は一緒に包丁の向きから引き方やら何やら指導をしてくれたものの、しばらく  
すると下準備があるから、と部屋の外に出て行ってしまったきりである。  
根をあげるつもりはないが待たされる側は辛い。まさか忘れさられているのではないか  
とさえ思えてくる。  
 
そうしてさらに十分。そろそろ一息つけてロレンタの次の指示を待った方がよいだろうと  
判断し、レナスは休憩をとることにした。彼女はこの時はじめてその手から包丁を離した。  
別に持ち続ける必要はなかったのだが彼女の性格と真剣さが相成って無意識のうちに包丁を  
離すことを拒否していたのだった。それだけに成長も早い…否、速い。元々才能があった  
のだろう。始めこそ一枚一枚うなずきながら歪に切っていったものの、今では一般家庭の  
熟練者級にまで進歩している。キッツケの正確さも見事と言える領域。レナスはこの一回  
のうちに大きな成果を得ていた。   そうして、静かに息をつく。つかの間の休息。  
 
そこに、  
 
 
「ヴァルキリー、いるかい?」  
 
聞き慣れた、暖かさを感じる声。   ルシオが調理場の入り口に姿を現した。  
 
 
「…………ルシオ?! ど、どうしたの、こんなトコロに!」  
 
どうでもいいが最近のレナスはやけに落ち着きがない。本日三度目のパニック。  
 
……レナスの慌てぶりはすさまじい。ルシオの声を聞くや、体が縦にビクッと震えて  
振り向きざまに思わず包丁を取って身構えてしまう。本当は混乱しているだけなのだが  
その狼狽した表情の中にも迫力と呼べるものがある。 目がコワイ。  
しかしさきほどの二人の前でみせた醜態に対して今何故ここでは迫力が生まれたのか?   
  ……やはり得物を手にしているからではないだろうか?  
戦乙女の天分。  すっげー危ない天分である。  
ブラムスと対峙したがごとき剣幕で突きつけられた刃物の先からは殺気にも近い  
オーラ(いや、むしろ殺気なのだ)が感じ取れる始末。さながら   
「ルシオ、あなた見ているなっ!?」 といったところか。  
 
 
そんな時を止めてしまうようなレナスのオーラを、ルシオは  
 
かわいいなぁ、相変わらず。  とか思っていたりするのであった。  
 
そう。ルシオにとってはどこ吹く風。良く言えばレナスを誰よりも理解しているルシオに  
しか為しえない反応。悪く言えば恋は盲目なのか、馬鹿ップルぶりが全開なだけなのか。  
 
―――息を呑むレナス。  
 
なんで?なんで、なんでなんでなんで?ルシオがここに!?見られた。見られてしまった。  
まだ早すぎる。まだ私は何もできない――  そうは思われたくない。事実だけど!  
誤魔化さなくては、ごまかさなくては、ゴマ貸さなくては。そう。もし今の状況で  
ルシオが…………(以下延々)…………  
そ、そんなことになったら  る、るるルルルシオを殺して私も死ぬぅ〜〜〜〜!!?  
 
思考回路パンク。実に戦乙女らしい発想、心中である。レナスが密かにニーベルンゲンの  
悲劇に憧れを抱いているのはまた別の話である。  
 
「…本当に、してくれてるんだね」  
 
「な……なな何のことかしら、ルシオ?」  
 
「うん、さっきロレンタが俺のところにきてね。……その……ヴァルキリーが  
俺の…ために……………」  
 
え?  
 
「…………………頑張ってくれてる、って」  
 
「は…ぅ………………」  
 
ろれんた!お……お前はどこで何をぉぉぉ!!?  
 
「実は、ソレを聞いて…いてもたってもいられなくなっちゃってさ。調理場がどこなのか  
ロレンタに聞いて、そのまま来てしまったんだ」  
 
「そ、そう…なの。   ロレンタが…」  
 
「ん。うん」  
 
「……………………」  
「……………………」  
 
沈黙。しかし気まずいものではない。はにかんだ表情で結ぶべき言葉を捜す二人。  
ゆるやかな、確かな幸せなひと時。これこそがレナスが求めて、そしてルシオが  
求めているものではなかったのか。  
 
「「ヴァルキリー(ルシオ)」」  
 
同時に口を開く。    どうぞ、とレナスが先に促す。  
 
それを受けるルシオ。最高の笑顔で、  
 
「楽しみにしてるから」  
 
一言、そう告げた。  
 
「は…はい!」  
 
これだけで……本当はこれだけで、もう、当初の目的は果たされたのかもしれない。  
 
レナスの目にはうっすら涙さえ浮かんでいた。    
ルシオが。楽しみにしている、と。幸せそうにそう言った。  
そしてその幸せを私も共感できている。 そして今、私は求められている。  
これが… このことが… 最高の  
 
幸せ。  
 
「…えっと、それでいつごろ来ればいいだろう?見たところ、まだ始めたばかりのようだけど」  
 
?  
 
「え……ぁ……こ、これは…」  
 
―――いつ? それはもうしばらく待っていてほしい。まだ今日始めたばかりで心得が  
ない。具体的には、一週間は。多分。だってそれはそうだろう。せっかくルシオに  
食べてもらうのだから妥協は許されない。でもせっかくいいムードなのだからできるだけ  
早く食してもらいたい気持ちもある。   あぁ、それでもやはり待ってもらったほうが。  
 
「そのことでしたら私がお伝えいたします。お任せ下さい、ルシオ。 私が今回の給仕役  
を務めさせていただきますから」  
 
あれこれ思案しているうちに、いつからそこにいやがったのか、ルシオの背後からロレンタ  
が助け舟(?)を出してきた。  ……いい雰囲気に水を差したとも言えなくもない。  
よもや、狙ってはいないだろうが……多分。   
!? いや、待て。と言うか勝手なこと言い出してきた。 あれでは今日中にでも出す  
ということになるのではないだろうか?大体、給仕役って何。その場にいるつもり!?  
 
「ロ、ロレンタ! ちょっと待って」  
 
「そう?じゃあ、よろしく頼むよ」  
 
「―――――ル…!」  
 
言って、さっさと部屋を後にするルシオ。どうやら私たちのやり取りを他人に見られて  
いたのに照れてしまったようだ。私の制止の声が届く間もなく部屋の扉は(ロレンタに  
よって)堅く閉ざされてしまった。   ロレンタ。……コイツは…  
 
「ロレンタ……お前、そういえば下準備とか言っていなかったか?」  
 
「はい。ですから。このとおり」  
 
見れば、手には何かが入った包みが。…って、そうではなくて。  
 私が言っているのはルシオのことだっ と目で訴える。  
 
「はい。加えて気を利かせたつもりでしたが…いけませんでしたか?」  
 
「……………いや、もういい」  
 
そう。確かに結果としていい雰囲気に浸れたのだから(その雰囲気壊したのもコイツだが)  
文句が言えない。それにこれから先の指導もあるのだから余計なことを言うとかえって私の  
立場がまずくなる。   しかし……  
 
……メルティーナの言ったことを反芻する。   実はこの『淑女』、たいへんな  
食わせ者ではないだろうか?  
 
「どうやら、だいぶ進んだようですね。 ええ。これだけあれば十分でしょう」  
 
「……………当然だ。と、それよりいったい何を作るつもりなんだ?まだ、それ自体私は  
何も聞いていない。ルシオにリクエストを聞いてみても良かったが……止めておいた。  
墓穴を掘ることにもなりかねないからな」  
 
わざと不機嫌そうに口にする。言いたいことが言えないのだからこれくらいの愛想のなさ  
は許容してもらおうではないか。こうなった以上腹は括るが、私でも即席で作れるもので  
ルシオに喜ばれるもの。     そして刺身、というやつか。今のところそれだけ。  
 
…………不安だ。あんなやり取りの後とあっては余計に半端なものは出せそうもない。  
 
「ヴァルキリー様がおだしになるものは初めから決めています。これなら難しい技術も  
いりませんし…何より、心が嫌でもこもるものです。ルシオも確実に喜んでくれることでしょう」  
 
ほう?  それは、素晴らしい。そんな都合のいいモノを始めから見据えてくれていたのか。  
 
「これで、」  
 
どさ。 どさどさ。  
 
「ほぼ全てが揃いました」  
 
ロレンタの手にあった包みから中身が調理台の上に出される。そこには…意外なモノが。  
 
「…………フルーツ?」  
 
マンゴー、キウイ、パパイヤにバナナ?他にも、何かいろいろと。  魚とフルーツ??  
 
「あとは」  
 
これで…いったい何を?料理に無知な私が悪いのか。まるで全体像というものが浮かんでこない。  
だって、調味料の類が見あたらないし。  ロレンタはどういうつもりなのだろう?  
 
 
突然、調理台の上に意識を完全にとられていたレナスにの肩にポン、とロレンタの手が  
置かれる。   と、同時に   軽い…否、確かな、眩暈。  
 
 
「器だけです」  
 
 
レナスの意識が暗転していく。   もぅ、何が  何 や  ら…………  
 
「やれやれ。油断大敵ですよ?ヴァルキリー様。元よりここはエロスの世界。  
ひょっとして今回は何事もなく終わるとか思っていませんでした?  
そんなの、せっかく読んで下さる皆様に失礼でしょう?」  
 
……何も、聞こえない。  
 
 
 
自然、顔の筋肉が緩んでしまう。傍から見ればさぞ締まりのない表情だろう。  
ルシオは自室に戻っていた。実はあれから二人の様子が気になって何度か調理室の前を  
通っては戻って、を繰り返しては繰り返し、ウロウロしていたのだが。  
 
その姿を他人に見られて冷やかされてはレナスに申し訳ないし。  
 
…………。大人しく待ってはいるが…どうにも舞い上がったままでいる。レナスが自分の  
ために調理場をあれこれ奔走している姿を想像するだけで頬が緩む。本当に楽しみだった。  
 
……遠い記憶が蘇る。生前、まだ『二人』が生きていたころの記憶。幼いプラチナと自分  
の姿。いつも一緒だった二人。暗くなるまで一日中遊びまわった日々。………そんな儚い  
幸せの日常の中に一つの約束があった。  
 
 
二度と叶わないと、……諦めざるをえなかった約束。  
 
 
(いつか、ルシオに本当のご馳走をつくってあげるから)  
 
子供のころのとっくに時効となった約束だけど。プラチナは―――ヴァルキリーは覚えて  
いないだろうけど。俺だってずっと忘れていたんだ。それは、あまりに当たり前すぎる  
日常の一コマだった。子供の遊戯の中で言われた些細な一節でしかない。  
 
―――けれど。  お前が死んでしまってから、残された俺はあのころを…お前のことを  
できるだけ鮮明に残していたくて… いつも思いを馳せていたんだ。俺にとってその記憶  
の断片こそが何よりの宝物だったんだ。  
 
それが  永遠に叶わないはずであった夢が今、  
 
「ルシオ」  
 
 
不意に思考が中断される。三度のノックと上品な響きをもった声が扉の向こうから聞こえてくる。  
ロレンタである。   きた。 ルシオは嬉々として訪問者を迎え入れた。  
 
「先程言い忘れていたのですがあなたにも協力していただきたいことがあります」  
 
「?   俺が?」  
 
料理のほうは今しばらくお待ち下さい、と付け足してロレンタが話しを進めていく。  
まぁ、はやすぎるなとは思ったけれども。しかし、なんでまた。俺は料理なんてろくに  
やったことすらないってのに。  
 
「ええ。  まぁ、そう身構えないでください。調理の手伝いをしろというわけでは  
ありませんから。ええ。ただ準備していただきたいものがあるんです。これから先、私と  
ヴァルキリー様は料理の仕上げに入ります。そのためしばらく手がはなせそうにないの。  
あと三十分ほどで料理は完成しますから…その際にあなたに持ってきて頂きたいものが  
あるのです。よろしいかしら?」  
 
「そういうことなら、よろこんで協力するよ。  それで、何を持っていけばいいんだい?」  
 
「はい。『ワサビ醤油』です」  
 
…………What?  
 
「…………え。   何て?」  
 
「分からなければ那々美か瑠璃にでも聞いて分けてもらってください。  
 それではくれぐれもよろしくお願いします」  
 
「ちょ、ちょっと」  
 
「何か?」  
 
「ヴァルキリーはいったい何を作ってるんだい?」  
 
「楽しみは後にとっておいたほうがよろしいのでは?」  
 
「それは……そうだけど」  
 
「では、そろそろ効き目がきれる時間ですので失礼しますよ」  
 
それだけ言うとロレンタは踵を返しさっさと戻っていった。  
 
「……………………………効き目?なんの?」  
 
何か……………  いや、あまり深く考えるのはよそう。とりあえず言われたとおり  
ワサビショーユなるもの調達してくることにするか。  あと三十分……。  
 
 
 
「ん……んん………………」  
 
…………体が…だるい。  何が…起きたのか?   確か…私は………  
 
「お目覚めになられたようですね?」  
 
……知った声がする。    ……私は料理を……ルシオに…     それで……  
 
頭は働かないが体が反射的に反応して声の主の名を口にする。  
 
「……ロレンタ…………」  
 
それで………   急に視界が暗く…なって…  あれは魔術…か    ?   何か、おかしい。  
何かが変だ。  それはなぜ私が急に倒れてしまったのかとかいうこともそうだが。  
そう。現在進行形の違和感…いや、異物感。 具体的に言うと、さっきから胸や、お腹や、  
首周りや、臍の辺りや、その下の方とかに集中して―――――!?  
 
―――って。  
 
「?!!」  
 
体がいうことをきかない。わけのわからぬ痺れがある。それでも首だけは動いてくれた  
らしく、この……覆ってしまいたくなるような現実…今の自分に何が起こっているのかは  
確認できた。    
 
が、  
 
理解は できない。    ……信じられない。目に映った自分の姿が。その痴態が。  
 
 
「な……!? な…………!?」  
 
すっぽんぽん。  …なだけならどんなによかったことか。ロレンタの魔術によって  
自由の利かない己の体の上に無数に散らばる魚の切り身、切り身、切り身……。  
しかもそれらは先程までレナス自身が切っていたものに他ならない。  
彼女は自らの手でこの己の醜態に一役かっていたことになる。  
ご説明しよう、その有様を。  
 
本来の守りが剥ぎ取られたはずのその美しい両の実り・乳房には今、隙間なく切り身が  
埋め尽くされることで新たな守りを得ている。使われている刺身は白。  
それもロレンタの指示のままに切られた極薄の逸品。その数ミリ下の粉雪のような  
繊細な白い肌が敢えて強調されるように便宜された食用のニプレス。  
あるいはシースルーのランジェリーか。  
そしてその先端、薄桃色の両突起にはご丁寧にもチェリーがのせられて蓋の役目をなしている。  
隠しているのかいないのか。その演出がロレンタの狙い。  
 
 
彼女の程よく鍛えられ引き締められた腹部、美しいくびれや形のよい臍は如何に  
彩られただろう?   そこには――――花が、咲いていた。  
選ばれたのは赤身。イメージは薔薇の花。しかし小さい。蕾のままともとれるその造りは  
事実、ロレンタはそれを蕾に見立てている。蕾を崩し、花弁を広げ、花を咲かせるのは  
食す者の役目なのだ、と。していることは低俗だが技術は賞賛に値する。数箇所に点在する  
立体的に作られた赤い食用の薔薇は紛れもなくプロの技である。  
 
では、見る者(約一名)を魅了してやまない彼女の秘密の花園はどうであろうか?  
使われた食材は唯一つ。女神レナス・ヴァルキュリアの恥丘はそれだけで完全なる美。  
薄く、しかし確かに積もった彼女の銀の恥毛はそれだけでよい。手を加える必要など皆無。  
これに覆いをもってオトコの探究心を擽らせるなど無粋である。そうロレンタは判断した。  
では? 彼女が至った道とは? ………この美の宮殿に花を咲かせる方法があるとすれば  
……使うべきものは唯一つであった。  
ロレンタは思う。この美の宮殿はあまりに完璧すぎる、と。  
 
 そ れ が よ く な い の だ!  
 
     ぶち壊そう。  この『美』に対し、あまりに不釣合いで卑猥なモノをもって。  
これだ。この破滅的な果物こそが逆にオトコを刺激させるのだ――!  
 
 
 
[ばなぁな。(banana)]  
〜バショウ科。熱帯特産の大形の多年草。実は細長く、甘く、においがいい。皮は黄色〜  
〜その形状故、様々なR指定の世界で模擬ペ○スとしてお目にかかる便利な果物〜  
 
 
そっと。立てかけるだけでよし。  いや、皮は剥いておこうか。半分だけ。  
 
………………この他、彼女の体の周りには様々な果物が散りばめられていた。  
とくにパパイヤとマンゴーの切り分けられ方が絶妙である。無論、  
刺身の追加準備もロレンタに抜かりはない。因みにレナスが目を覚ました際に落ちて  
しまったのだが、先程までレナスの手にはイチゴとバナナが握られていた。  
 
「無理に体を動かさないでください。せっかく綺麗に盛った刺身が落ちてしまいますよ?」  
 
どうせ動けないでしょうけど――と、いつも通りの表情で、いつも通りの口調で声を  
かけてくる元淑女・現腐れ女のロレンタ。  
 
「何をしているんだ!!」  
 
精一杯の気力で声を張り上げる。怒り心頭、などという言葉ではその程度が到底及ばない  
ほど高ぶっている。体は動かない。それでも、こんな冒涜は許せない。  
許せる筈が、ない。あまりにあまりではないか。何を考えている?こんな辱めを。  
何をどうすればこんな――――!!   あぁ、泣きたくなってきた。  
 
誰もが畏れ敬う女神・ヴァルキリーの突き刺すような鋭い眼光がロレンタを――  
 
「見ての通りです。さすがはヴァルキリー様ですね。見事な『器』になりました」  
 
貫けなかった。 あっけなく。 …平時ならともかく、今の彼女は女神でも戦乙女でもなく、  
 
「sgでゅいkq9いぷ0@^あいjr¥〜〜〜〜〜〜!!」  
 
ただの『まな板の鯉』であった。しかも半泣き。無理もないが……。  
レナスの声にならない声が虚しく部屋に響いていった………  
 
「もともとルシオをよろこばせたかったのでしょう? でしたら、コレが最良です。  
料理を始めたばかりのあなた様にも作れて、殿方もよろこび、尚且つ心がこもっています」  
 
―――盛り付けは私ですが味付けはあなた様自身ですし、と自身満々に語る腐れ淑女。  
 
「これでは『悦ば』せても『喜び』はしないだろうが!  大体こんなもの…料理  
ではなく遊戯だろう!  私は男を堕落させる方法を教わろうとしたおぼえはない!!  
それ以前に魔術をかけて神の自由を奪ったというだけで許しがたいぞ!ロレンタ!!」  
 
………私は完全に人選ミスをした。何故あの時メルティーナの忠告を聞かなかったのか。  
くっ。 さっきから体が全く動かない。体の各所にまとわりつく刺身の感触が気持ち悪い。  
だいたい発想が古すぎる。さすがロレンタだ。私だって『コレ』の呼称は知っている。  
ああ、知っているとも。だが今時『コレ』はないだろう。せめてノーパンで肉を振舞う方にしろ!  
だいたい海藍の特異極まりないこんな食事とも呼べない遊郭のアソビをなぜ  
元フレンスブルグの学院長ともあろう者が知っているのか!? しかも慣れている?  
 
 
「ですが、床上手は料理上手と言いますし」  
 
「逆だ!!」  
 
「とにかくご安心を、ヴァルキュリア様。わたくしには実績がありますのよ?」  
 
「は……?」  
 
「私、これで夫を落としましたの(ぽっ) それからもずっと夫の好物でしたわ(ぽぽっ)」  
 
ビシッ  
 
「………………………………」「………………………………」  
 
         世界樹ユグドラシルの決定的な何かがコワレタ  
 
レナスの思考が分断される。考えてはイケナイと。    ロレンタ、けっこうショック。  
 
 
「…ロレンタ、とにかく今すぐこの悪ふざけをやめろ。今ならギリギリでカモノハシに転生  
させてやるが……   ハチュウ類にはなりたくないだろう?」  
 
明らかな死刑宣告。既に人間になるのは無理らしい。  
 
「ですが……もう、一分でルシオが来ます」  
 
聞いて、レナスは自分の顔から血の気がすぅ―――っと引いていくのを実感した。  
いけない、だめだ、だめだだめだだめだ!ルシオはどっかのゲテモン夫と違って  
紳士だし遥かに淡白な人だ。うまくいくわけがない。  
こんな姿を見たら、見られたら……多分―――   
 
「    ( ヴァルキリー、入るよ? )   」  
 
「!!!!!!  とと、止めろ!ロレンタ!!!」  
 
「覚悟を決めてください、ヴァルキリー様。   恥ずかしいのは初めだけですから」  
 
         ガチャリ  
 
「あああああああああぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!?」  
 
――――多分、 素で ひかれる   
 
 
無常にも開かれる扉。そしてその向こうには  
ワサビ醤油と小鉢と箸の三点セットを大事そうに抱えたルシオの姿があった……。  
 
 
レナスはつかの間の現実逃避に走る――――  
 
さっきのロレンタの言葉、『それからもずっと夫の好物でしたわ』  
…………ずっと、とは いつまで続いたのだろうか?    
よもや………  
 
 
                                     ぅぇ  
 
 
(やっぱり次回に続く)  
 
 
 
 
ルシオが夢見ていたのは一人の清楚な少女だった。  
 
 
不遇の短い生涯と死の淵に見せた涙に濡れた顔。両親に愛されたい、そんな当たり前  
の夢が叶わないまま、俺のせいで死んでしまった初恋の少女、プラチナ。  
 
今のヴァルキリーはどうだろう?厳かで、時に非情とも言える冷厳さを持つヴァルキリー。  
不死者を前にしたときのその鬼神のごとき強さと迫力には味方であるはずのエインフェリア達  
をも震えあがらせることもしばしばだ。世界中の人々から愛され、敬われ、畏れられる  
戦乙女、レナス・ヴァルキュリア。  
 
ちっとも変わらない、と思った。  
 
凛とした表情の中には優しさをたたえている。あの冷厳なコトバの裏には温もりがある。  
気丈に見えてふいに見せる、驚くくらい儚い横顔。強さの所以は不浄を嫌う潔癖さ。  
一見全く相反するような二人の姿はその実、芯のトコロで誰より似通っている。  
…………そして あの美しい銀髪。  
プラチナが生きていたらどんな女性になっていただろうかなんて、何度も夢想したことだった。  
今だからそう思うわけではないけど。やはり、それはあの戦乙女の姿そのものなわけで。  
プラチナは何も変わらないでいてくれた。あの時のままで。生まれ変わっても、戦乙女に  
なっても、記憶が封印されても、記憶が蘇ってからも。―――それが何より嬉しかった。  
 
 
 
そうなんだ。  
 
 
そう、なんだよ。  俺は   彼女の  変わらない、清らかさが  好きだったんだよ。   
 
 
 
597 名前:ヴァルキリー・プロクッキング 投稿日:2005/09/09(金) 07:57:16 ID:mOHGpkAj 
「(いつか、ルシオに本当のご馳走をつくってあげるから)」  
 
そう言った在りし日の少女、プラチナは―――――  
 
 
「あ………あ………   ル…  シ…  オ……」  
 
 
今、あられもない姿となって――――  
 
 
「いや……いやぁ…………」  
 
 
俺の前にいた。 なんか、バナナや魚と一緒に。  
プラチナ。君はどこへいってしまったのだろう?  
 
ああ、そうだった。  君はあの日あの高原で 命を落としたんだよなぁ。  
 
 
 
 
 
「ワタクシ、急用を思い出しましたワ」  
 
そんな、あまりにありふれた撤退文句につっこみを入れる気力すら奪われてしまったのか。  
失敗を悟りいそいそと部屋を出て行くロレンタに聞くべき緒事情を聞けないでいるルシオ。  
「給仕は?」とか「何コレ?」とか「ロレンタが盛ったの?」とか「バナナの皮が何故  
半分?」とか「ワサビ醤油はどう使うの」とか。まぁ、いろいろ。  
 
 
「…………………………」  
 
重い、沈黙………。  
 
 
 
 
 
598 名前:ヴァルキリー・プロクッキング 投稿日:2005/09/09(金) 07:59:04 ID:mOHGpkAj 
勃たないわけじゃない。食欲がないわけでもない。満更、嬉しくないわけでも。でも。  
 
――――俺が期待してたのは、こういうのじゃないんだよなぁ。  
 
 
「………っ!!」  
 
 
ルシオの思考が流れてくる。エインフェリアと戦乙女の魂の繋がり故なのか。それとも、  
 
――――歳月は人を変える…か。俺が、ヴァルキリーにプラチナを求めたのが、やはり  
間違いなんだろうか。  …………なんか、さっきまでの考えと180度違うけど。  
それとも一人で勝手に都合のいいこと期待してた俺が馬鹿だったのか。  
あ。ちょっと、ムカついた、な……  
 
 
「待って…… 待って、ルシオ。違う…の」  
 
 
私が創造主で、『彼』が私の創造物であるからなのか。 …そんな理由は今、どうだっていい!  
 
 
 
――――ヴァルキリー。  俺は、こういうのは    俺が、望んだのは――――  
 
(いつか、ルシオに本当のご馳走を――――)  
 
 
 
「ごめんなさいっ!!!」  
 
 
無言のまま部屋を出て行こうとするルシオにむかって悲鳴のようなレナスの叫びがあがった。  
ルシオは  暫く躊躇った後、「ごめん」と一言だけ告げて、扉の取っ手に手をかけ――  
 
 
 
 
 
599 名前:ヴァルキリー・プロクッキング 投稿日:2005/09/09(金) 07:59:43 ID:mOHGpkAj 
 
「ごめんなさいルシオ。 ……私は、プラチナを、あなたの大切の思い出を、汚してしまった」  
 
―――そのまま、動きを止めた。  
 
 
「……ごめん、なさい」  
 
力のない声。  
 
「ごめんなさい。 …ヒクッ! ごめんなさい、ごめんなさい。  っ…、   ルシオ。  
お願い。お願いだから  ぅっく…!  私のこと、嫌いにならないで。 あぁ…  
お願いよルシオォ…!   えっく!  ヒ……ッ ク…    ぁ…ぁ…」  
 
それは、咽び声に変わって。  
 
「怒った?…怒ったよね、 えぐ!  ルシオ。 うん。怒って…… ぅく! ……いい  
…から。私を 叩いたって……いい。  …っ…く!   だけど、」  
 
「あ………」  
 
「お願い。嫌いにならないで。許して、ルシオ……………!」  
 
我を忘れたかのようなヴァルキリーの嘆願。それが、  
 
 
「あ……………」  
 
 
ルシオの記憶をプッシュする。   その顔は………その顔だけは…………  
 
「あ……ああ………!?」  
 
もう、すべて忘れてしまいたい。そう言ってこと切れていった。 君の、その顔は…  
 
プラチナのその顔だけは 二度と見たくない―――!!  
 
 
 
 
600 名前:ヴァルキリー・プロクッキング 投稿日:2005/09/09(金) 08:00:23 ID:mOHGpkAj 
 
「ヴァルキリー!!!」  
 
気付くと、身を翻してヴァルキリーを抱き寄せていた。  
 
 
 
もう、駄目だと。大切なものに傷を付けてしまったと。絶望がわが身を焦がすようで。  
この悲しみは世界がロキに破壊された時に感じた全世界の人々それにも勝るほどで。  
 
    ロレンタ。ロレンタ、ロレンタ。   アイツ  夫婦つがいで カマキリ  
にでも  転生 シ テ ヤ ル カ !!    ククククククッ!!  
 
 
 
―――突然、動かないはずの私の上体が跳ね上がった。……と同時によくしった温もりが  
私の体を優しく包んでくれた。首だけは動いてくれるのが救いだった。いったい何が起きたのか…  
確認するのに首さえ動いてくれたらそれで十分だったのだから。  
世界中の嘆き、それを上回るかのような自身の嘆き。それを打ち消してくれるあの人の温もり。  
 
ルシオが。  
 
「あっ………?  あ…………」  
 
ルシオが。  
 
 
「うん。 ヴァルキリーは やっぱりプラチナだよ。  君の、その泣き顔だけは 見たくない」  
 
ルシオが、許してくれたんだ。  
 
「…………ぁ…わぁぁぁああああああああ〜〜〜〜!!!」  
 
 
……ためらわなかった。彼の前で、遠慮なんてするものか。彼は「もう、泣かないで」と  
言っていたけど。かまうものか。目一杯甘えてやるのだ。だって、私をこんなにも弱く  
したのは他ならぬルシオなのだからその責任は取ってもらおうではないか。  
 
 
後でロレンタにも自分のしたことの責任は取ってもらうとしよう。このレナス容赦せん!  
 
 
 
 
 
601 名前:ヴァルキリー・プロクッキング 投稿日:2005/09/09(金) 08:00:53 ID:mOHGpkAj 
 
 
そうしてまた暫く。とりあえず部屋を片付けようとしてヴァルキリーに「後で」と制止  
される。「すぐには動けないから」と、ヴァルキリーからこうなった経緯を全てその場で  
全て話してもらった。それでまぁ、コレが誤解と言うか、少なくともヴァルキリー  
自身の意思によるものじゃなかったことを知って少なからず安堵の息を漏らした。  
……………しかし何考えてんだあいつ(ロレンタ)は?  
 
「ほんとうに…ごめんなさい」  
 
ヴァルキリーが何度目か分からない謝罪の言葉を紡ぐ。  
 
「それはもういいって。 ヴァルキリーが悪いわけじゃないんだろう?」  
 
「……そうじゃないの。  私は結局、ルシオに何もしてあげられなかった」  
 
「? 何だよ。コレに懲りて、もう作ってくれないのかい?」  
 
「え…  そ、それは」  
 
「さっきと一緒だよ。  …楽しみにしてるから」  
 
「………!!    …はい。  私、がんばるから」  
 
 
ヴァルキリーの顔がようやくほころんだ。よし。これで一件落着だな。ロレンタに  
ついてはヴァルキリーに任せよう。………と言うか口を挟まないほうがよさそうだ。  
さっきから何かぶつぶつ言っている単語の中に明らかに不穏なものが含まれているし。  
フンコロガシがどーだとか。サナダムシがあーだとか。  
 
―――しかし。  
 
彼女のカラダに目をやる。いや、目がいってしまう。どうしても。さっきは状況が状況な  
だけにひいてしまったが……今の彼女の姿もやはりオトコにとってどうにも蟲惑的で  
ならない。先程体を抱き上げたこともあって、彼女の体の上に正確に盛られた刺身の山も  
そのほとんどが今や無残に散らばってしまい彼女の雪の肌を露にしている。  
器となり、刺身にまみれ汚された彼女。 魚の脂か彼女の汗なのか、肌はうっすらと  
蒸気し湿っぽく見える。  
 
う。  まずい かも。  
 
 
 
 
602 名前:ヴァルキリー・プロクッキング 投稿日:2005/09/09(金) 08:01:42 ID:mOHGpkAj 
俺の視線に気付きハッとするヴァルキリー。さっきまで泣いていたその顔には涙の痕が  
残っている。先程までは見るのも耐えられなかったはずのそれが、彼女が平時に戻った今では、  
俺の加虐心を刺激して…  
 
「ル…ルシオ!そんなにじろじろ見ないで。」  
 
みるみるうちに顔がかぁっと朱に染まっていくヴァルキリー。  
 
「ルシオ……? ねぇ?」  
 
……体に熱が篭っていく。  
 
「 ! ほ……ほら! 腕くらいならだいぶ動かせるようになってきたみたいだから。  
そこの服を取って。 き…着替えてみる…か…ら」  
 
「ヴァルキリー」  
 
弱弱しく動き、自分の身を汚す魚の身を払おうとしたヴァルキリーの腕を掴む。  
 
「どうしたの…ルシオ。 目がすわってて………怖い…わ……」  
 
彼女の体に手を伸ばしたところで思い出した。例の、海藍の調味料を手に取っておもむろに  
ヴァルキリーの体にふりかけた。ビチャビシャという液体の音とともにスンとした  
慣れない匂いが鼻をかすめる。  
 
「ひあっ!」  
 
黒いソースが彼女の白い肌を無残に汚していくのを見て更にオトコの本能が加速していく。  
白と黒の対比のためか、見えるはずのない彼女の産毛の流れまでが見えてくるような錯角  
にさらされる。事実見えているのではないか?   もう、止まらない。  
 
「ちょ…ルシオ! なな何をやって……!?」  
 
ソース(ワサビ醤油)の感触と冷たさに刺激されたヴァルキリーが分かりきった質問をする。  
   ……自分でも黒い笑みを顔に浮かべたのが分かった。  
 
「食べ物を粗末にしちゃ駄目だろ?それにせっかく ヴァルキリーが俺のために  
作ってくれたんだから」  
 
チョップスティックを持って、ヴァルキリーの体の上を左右に泳がせ狙いをつける。これも  
使い慣れない食器だが、だからといってフォークを使って万一ヴァルキリーを怪我させ  
てはいけないし卿に入っては(←入ってない)卿に従えと言うし。それに那々美が気を  
利かせて渡してくれたのだから使わなくては失礼ではないか。おぉ…いいぞ。これなら  
多少つっついても挟んでも怪我はしなさそうだ。那々美、GJ!…………ところでこの  
小鉢とかいう小さな皿はどう使えばいいのだろう?  
 
 
 
 
603 名前:ヴァルキリー・プロクッキング 投稿日:2005/09/09(金) 08:02:26 ID:mOHGpkAj 
 
「    食べるよ   」  
 
――言って、左胸の上…乳頭に近い位置にある一枚の白身に箸をつけた。と同時に、器と  
なった彼女の柔肌が不慣れな箸の動きに合わせ、沈んで、その確かな張りと弾力を箸を  
通して伝えてくる。  
 
「〜〜〜〜〜〜!!  ……んああっ?!」  
 
かわいい嬌声があがる。いきなりだったせいで、こっちも焦ってしまったからなのか。  
箸は思っていたよりも『器』を深く押し込んで刺激させたらしい。予備動作は見せた  
つもりだったのだが、彼女にとっても不意打ちだったようだし。  
 
「待って! こ…こんなの、へんよ!」  
 
「なんで?ヴァルキリーだって、俺に 食べられたい だろう?」  
 
逆上せた頭でヴァルキリーの反応をよく観察する。本当に彼女が嫌がっているようなら  
悪ふざけはここまでにするつもりだから。せっかく仲直りしたばかりなのにこんなことで  
怒らせるわけにはいかない。でも、この時点で既に確信に近いものが俺にはあった。  
 
「そそそそそそれはそうだけどそうじゃなくて!」  
 
―――確信。さっきの醤油と箸の一撃は予想以上の効果をヴァルキリーにもたらしている。  
 
箸でつまんだ一枚の白身をそのまま口に運ぶ………正直、生魚は食べなれていないけど。  
嫌な気は微塵もしなかったし意外と味もいける。この清涼な風味と身のほのかな暖かさは  
はたして魚自身によるものなのか、『器』による相乗効果なのか。―――美味い。  
 
ヴァルキリーは ぽぅ…っとした目で俺が口を開け咀嚼し喉を大きく動かして飲み込み、  
その味の余韻に浸るまでの一挙一動をじっと眺めていた。その間、終始無言。――目が、合う。  
 
「これなんて、もっとおいしそうだ」  
 
さっきより素早い動作で、はじめから目をつけていたモノを一気に頬張った。今度は  
箸を使わずに直接顔をソコに近づけて―――口に含んで舌で転がした。  
 
「あぁ!!ふああぁぁん!?」  
 
再度オクターブ高く声を上げ、動かない体で悶えるヴァルキリー。これがトドメとなった  
はずだ。右胸に残された、ピンクの突起。そこにさっきまであったチェリーは抱き上げた  
際に落ちてしまっていたけれど。柔らかさと大きさは丁度同じくらいで、違うところは色  
が実物よりやや薄めなことと口の中でその強度が少しずつ増していくこと。うっすらと  
チェリーの香りが残っていて、いつもより甘さがましている気がする。  
 
 
 
 
604 名前:ヴァルキリー・プロクッキング 投稿日:2005/09/09(金) 08:03:34 ID:mOHGpkAj 
「おいしいよ、ヴァルキリー。  すっごくおいしい」  
 
「はぁ   はぁ   ぅぅ……   …ルシオの…エッチ……  は ぁ  」  
 
「何言ってるんだよ。こんなみっともないカッコでさ。ヴァルキリーのほうがよっぽど  
エッチじゃないか、全く。」  
 
「だから!  それは全部ロレンタのせいだと言って……」  
 
「ヴァルキリーは嫌なのかい?」  
言い切るより先に口にする。  
 
「なっ……!  そ、そんなの当たり前に……」  
 
「俺は、ヴァルキリーが食べたいよ?  
もう、このままでいいだろう?  俺、すぐに欲しいんだ」  
 
―――臆面もなく言い切った。答えはわかりきっている。  
なぜなら、彼女の『スイッチ』はもう俺が押したあとなのだから。  
 
「……しらない…………から」  
 
すっかり『入って』しまっている顔で、それでもはっきり言い切らないのが彼女流のイエス。  
 
「それはOKってことでいいよね」  
 
しらない……しらない……と、目を伏せがちに何度か小さく呟くヴァルキリー。  
その様が、どうにも愛しくて、たまらない―――っ!  
 
顔をスライドさせて舌を滑らしながら次の(彼女の)ポイントにうつっていく。その途中  
であることに気付く。腹部の小さな凹みが黒く染まっている。ソースが低いほうへ  
低いほうへと流れていった結果、彼女の綺麗な形の臍の穴に溜まってしまったのである。  
普段からあまり刺激しないソコだが今はやけに目についた。そうして唇と舌をつかって  
丹念に吸い上げ、舐め取る。ヴァルキリーはこの、初めてに近い部分の刺激に「んっ」と  
だけ声を漏らして体がピクッと震える。      それは、いいのだけど、  
 
「辛いな」  
 
 
 
605 名前:ヴァルキリー・プロクッキング 投稿日:2005/09/09(金) 08:04:35 ID:mOHGpkAj 
 
これは、魚につけるソースとしては俺が知っているものの中でもかなり辛いのでは  
ないだろうか?生魚につけて直接食べるためにこういう味がするのだろうが…正直  
辛すぎる。それに、喉も渇いてくる。こんなに辛いのだからそうだろう。  
水が、水分が欲しい。  
 
 
「ルシオ……?」  
 
攻めが止まってしまったのに不思議そうに……いやいや、不満げにヴァルキリーがこちら  
を見つめてくる。    ……………それで、閃いた。  
 
「喉が乾いたんだよ。 だから、水分を補給しないとね」  
 
ヴァルキリー自身から、とまでは口にせずそのまま顔を下に移動させ、彼女の足を掴んで  
一気に左右に開いた。  
 
「きゃっ………!!  ルシ―――」  
 
俺の水分供給源は―――ココ。もう何度となく肌を重ねてきた。それでも尚彼女の秘所は  
処女のような輝きを失さない。女神が皆そうなのか。ヴァルキリーが特別なのか。卑猥な  
メスの本能の詰まった肉の集合………こんな…こんなところまで彼女の神々しさが  
行き届いているというのか。わけも分からず悔しくなる。  俺は、俺のオスはもう  
ギチギチに狂っちまってるっていうのに!  
 
―――なら、  
 
 
「 あぁん!!  は――ぁあ……  〜〜〜!!   
ん〜〜!   …っぁぁぁああああぁあああ!!!」  
 
いつもよりもっと、だらしなく、狂わせてやろうじゃないか―――  
 
 
 
 
606 名前:ヴァルキリー・プロクッキング 投稿日:2005/09/09(金) 08:05:39 ID:mOHGpkAj 
 
まずは入り口。少しだけ指で小さめな大陰唇を開いてあとは舌で開口していく。  
螺旋状に回転しながら小陰唇を左右対称にこね回す。そうすることで自然と めくられていく  
ヴァルキリーの園。時折アクセントに腔のやや上に位置する尿道の入り口に舌を挿す。  
 
「  くぁあああああん!!  」  
 
まだ足りないというのなら。さらにその上の肉芽…女性の快楽の中枢、クリトリスに甘噛みをする。  
 
「  くひいいいぃぃぃっ!!?  」  
 
軽く、イッたか?  腔から染み出す愛蜜の量が急速に勢いを増すした。鼻まで埋め込む  
ように彼女の秘所に顔を近づけて彼女の体の状態を確認する。……………小刻みな振動。  
案の定、か。しかし、まだ足りない。わざと音を立ててのどを潤すべく吸引を開始する。  
 
ジュル、ビジュルルルル  チュパ   ジ ジルッルル……   チュ  
 
「だめぇ〜〜〜〜ぇ! あっ  いやっ!  音ぉたて あっ ないでよぉ……! あっ」  
 
…全く。ヴァルキリーの反応は変わらない。もう、何度もしていることなのに。いつまで  
たってもその初々しさが消えない。どんなに哀願したところで、止めないってことも  
わかっているはずなのに。―――それがまた、どうしようもなく、嬉しい。  
 
「ん〜〜〜〜〜〜んん!!   ふぅっ!  は――〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」  
 
少し顔を上げて銀の恥毛を通してヴァルキリーの顔を見やる。目には涙。これは全く  
別の種の。見れば見るだけ火が点いていくモノ。眉も内側に大きく歪んで性感に耐えて  
いる。口は… 痺れはなくなったのか。彼女の口には手が添えられていた。己の甘声を  
しのばせるためだろうが…俺としてはもっと聞いてみたい気がするし、いつもの経験  
からして―――    このころからヴァルキリーの顔は「快楽」の二文字が刻まれた  
ものに豹変している筈だ。     それが、見たい。その上でこの喉を美酒で潤そう。  
 
 
 
 
607 名前:ヴァルキリー・プロクッキング 投稿日:2005/09/09(金) 08:06:17 ID:mOHGpkAj 
あの、淫らによがったオンナの表情。    普段の凛とした強さも、  
 
「はぁ――!   はぁ――!  はぁ―!  はぁ! はぁ、はぁ!はぁ!」  
 
女神にだけゆるされた神々しさも。  戦乙女の畏怖も冷厳さも。皆失墜した、  
 
「あ〜〜〜〜〜!!あ〜〜〜!!あ〜〜!!あぁ〜!!あぁ!!あ!!ぁ!!  
ぁ!!ぁ!!ぁ!       ぅ!  …ル  シ… オ」  
 
嬌声が短くなっていくのに満足感を覚えながらルシオはさらに刺激を強める。  
タイミングは……。  
 
―――あの、顔が――見たい―――!!!  
 
 
再度、ルシオは真っ赤に充血しきった女性の肉芽を音がでるほどに―――  
 
――――歯を立てた。  
 
カリリッ…  
 
「  っ!! ふあああ!!ふあ!!ああああ!!ルシオ!ルシオ〜〜〜!!!  」  
 
 
最愛の恋人の名前を大きく二度叫ぶと共にぶるっと大きく一度震えて、約1秒の静止。  
直後のバウンド――!顎が大きく仰け反り真っ白な喉が姿を見せる。弓反りした体が  
彼女の豊かな胸を強調させる。  
 
戦乙女レナス・ヴァルキュリアの絶頂である。     だが、ルシオはこの先を求める。  
 
 
舌の勢いは更に増していく。立てたその歯はいまだにレナスのクリトリスをくわえたまま  
さらに音をたてて、ルシオは執拗に快楽を与え続ける!  
 
キュッ  カッ  カリ  
 
レナスにとって終わるはずだった快楽が、まだ。  
 
 
 
608 名前:ヴァルキリー・プロクッキング 投稿日:2005/09/09(金) 08:07:34 ID:mOHGpkAj 
 
「!? ぃぃひぃ!!ぃひい!!だ…だめ!!だめだめだめだめだめぇぇぇ!!」  
 
 
しかもさらなる渦中へと引きずり込まれる。思わず、恐怖でレナスは口にあてていた  
両手を離してルシオの頭を抑える。いや、突き放そうとしたのかもしれない…。だが、力が  
入らない。レナスは、まだこの先を知らなかった。  
まだ、ここから先の快楽を経験したことがなかった。今、臨界点を突破したばかりのレナス  
は本来なら余韻にひたって体の感度を鎮めていくはず。その過程で、こんな…快楽、恐怖。  
 
この先にあるもの。それは―――  
 
 
「ヒッッッッ――――ィ?!!ヒィアアァアア――――――!!」  
 
 
ぷしっ   ぴ ぴゅ ぴゅぴゅ…  ぴ ぷししししし……  
 
「ダメ、ダメダメダメダメダメダメェェダメェ!!!」  
 
 
潮を吹く、と呼ばれる。あまりの刺激に筋肉が弛緩しきる。抑えられない生理現象。  
レナスは知らなかった……故にソレが自らの小水であると混乱した。彼女は噴出される  
ことを、そしてそれを我慢できないことを理解した。だからレナスがルシオを突き放そう  
としたのだ。自分の小水が彼の顔にかかることを恐れてのことだったのに。なのに。  
それが、あろうことか  
 
ルシオが  喉を鳴らして、ソレを飲んでいたりするから――――  
 
「               」  
 
言葉が、 出ない。   意識が、  頭の中が白 く なる………。  ル シオ が…  
 
体中を痙攣させ、目からは涙を唇から涎をただらしなくらし、焦点のあっていない目で  
己の顔をぼぅっ…と震えながら見つめてくる恋人、レナスの姿を見てルシオは  
 
―――それでもやはり、 彼女は女神たる気品・美しさをたたえている―――  
 
素直にそう感じると、よがり乱れた髪を静かに掬ってその感触をあそんだ。  
 
 
 
 
(まだ次回に続くのです! 長っ)  
 
 

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