「…私が、あなたにもらったものは…… 『傷み』だけなんかじゃない……」  
「…だといいのだがな」  
互いの面差しが吐息の届く距離にまで近づいた時に対手の唇を先に吸ったのはアリーシャの方だった。  
乾いた下唇を軽く吸うと、それに応じるかのように自分の上唇をそっと吸われる。  
静かに伸びてきたブラムスの片腕分のベクトルだけで軽々と抱き上げられたアリーシャと共に  
今度はふたり同時にベッドに乗り直すと、ギチ、とベッドが苦しげな悲鳴をあげた。  
 
古いスプリングに重力の負荷が加わる音と共に、それとは別の音が混じったのをブラムスの耳は聞き逃さない。  
 
その発信源を一瞥すると、どうやらアリーシャが腰から下げたままの護身用の短剣のようだ。  
何かを思いついたブラムスは徐ろに短剣を鞘からまるごと取り外す。  
急に腰に触れた掌のかたちのあたたかな感触に、アリーシャが声をあげてしまいそうなほど驚いたのは一瞬だけ。  
 
直後に耳に入ってくるのは、どちらかというと不快な部類に分けられる音。  
鞘から抜かれた刃はそのままブラムスの指先に添われ、彼は鋭利に尖った自らの爪の先を削ぎ落とし始めたのだ。  
 
指先の曲線に添って、惑う事無く一気に刃を走らせる。  
惑ってしまえば、その箇所がアリーシャに外傷を与えてしまう事は明確。  
ベッドヘッドに凭れながら無言で爪を削ぐブラムスの右腕一本に囲われたまま、  
その様子をブラムスとほぼ変わらない目の高さからアリーシャはじっと見つめていた。  
 
 胸の内側、いつも甘く痛むところよりも更に深い場所を苛む焼けつくような痛み。  
 
それに耐えるかのようにしがみつくアリーシャの細腕に込められる力が増している。  
訝しんだブラムスの方から「大人しくしていろ」と云われるまでそれに気が付かなかった。  
左手五指の爪を削ぎ終えると、短剣を持ち替え右手五指の爪も削ぎ始める。  
 
 その痛みこそが、『彼』の与えてくれた情の片鱗であることをより身近に感じながら。  
 
刃が鞘に仕舞われる音に続き、ざらざらと屑篭に何かが入り込む音。  
音につられて屑篭へ視線を移そうとすると、先ほどまで短剣を握っていた大きな掌がそっと頬に触れ、  
僅かに空気を伝うそのぬくみを連れたまま、アリーシャの柔らかなプラチナブロンドを一度だけゆっくりと梳いた。  
 
視線を繋いで、改めて思う。  
震えるほどに強く、その奥には底の知れない狂気さえ秘めていそうな赫い双眸。  
それなのにどこか憂いを帯びて、この胸の奥を鷲づかみにするどころか味わった事のない甘い痛みを植えつけるばかり。  
 
 『痛み』しか与えられないと云っていたのは、この事なのだろうか?  
 
どうしようもなく切なくて、薄く潤った輝きがアリーシャの蒼い瞳を徐々に侵食していくのを感じる。  
耳から飛び出しそうなほど煩く響く自らの鼓動に負けないように、眼前の乾いた唇を奪い去ろうとした。  
 
けれど、きつく瞼を塞いで視界を封じていたから、アリーシャは気付けなかった。  
内側に宿すだけにするつもりだった覚悟を、すっかりブラムスに見透かされていた事に。  
 
 
確実に近づく気配と吐息。  
そろそろ確かな感触と接触する筈だと一瞬だけ怯んだ隙に、軽く唇を吸われた。  
不意にもたらされた思いのほか柔らかい感触にアリーシャが瞼を開くと心地よい熱気により深くくるまれる。  
 
とうに凭れていた身体を起こしていたブラムスに仕舞われるようにして両の腕で囲われ、軽く啄ばまれ。  
けれど何よりも、ことばとは裏腹に慈しみ、愛で愛するように何度も。  
「んっ…、ぅ……ッ」  
思わず洩れた熱い吐息と歳不相応な艶を纏った声。  
互いのぬくもりを交換し合い、ことばにならないことばで対話するかのような口づけ。  
それが徐々に湿った熱を帯び始めた頃、喉の奥と胸の奥、同時に待ち構えたようにして甘く疼き始めた。  
 
先にブラムスの舌が一度唇の輪郭を辿った時には背筋に悪寒のような電流がひとつ、縦軸を貫いていったが、  
それが己が身に受けた明らかな快感だと、アリーシャはいつの間にか理解している。  
応えて僅かに口を開くと、熱い舌が異触を伴ってあっさりと侵入を果たした。  
 
最初は舌先だけで感触を確かめ合っていたが、気付けばそれは口腔に及んでいる。  
互いの唾液が交じり合う跳ねる音が近い距離だけで響きあい、アリーシャの口内の場所という場所に異触を植えつけ。  
懸命にブラムスの感触を追いかけていた筈が、いつの間にか捕らえられてきつく吸い上げられた時に  
「ぅんっ……、ッッ!!!」  
確かな恍惚に彩られた甘い声が溢れたと同時に、アリーシャがしきりにブラムスの胸板をかりかりと引っ掻いてくる。  
息苦しいという意思表示と悟ったブラムスが唇を離すと、アリーシャは交じり合った互いの唾液をこくりと飲み込み  
白い頬を彩やかな朱色に染め抜きながら僅かに肩を上下して息を整えた。  
口の端から溢れて落ちるしずくも舐め取られて、近い距離にある赫い瞳の強い輝きに胸の奥がズクンと痛む。  
 
悲しいわけでも、恐ろしいわけでもないのに。  
不意に目尻からしずくが溢れてころころと頬をまろび落ちていく。  
胸の中に存分に蟠った痛みを吐き出すかのようにして零れ落ちたのは  
 
「…も…、離さ…ないで…」  
小さくか細い声だった。なのにそれは奥底からの哀切な叫びのようにも聞こえる。  
 
 攪拌するかのように疼く、胸のごく浅い場所。  
 こんな感覚を未だ持ち合わせていたのかと、ブラムスは自分自身に驚いている。  
 
声と同じく小さいアリーシャの身体をブラムスは再び自らの腕の中へと囲い、  
しずくを何度も唇と指で拭い取ってやってから柔らかなベッドにそっと横たえて。  
アリーシャの手を取り、白く柔らかい、けれど肉刺の痕としこりがいくつも残る小さな掌の中心にそっと唇を寄せた。  
 
「私はここに居る。もっと貪欲に感じればいい…」  
 
低く響く、重厚だけれど優しい声と一緒に身体の深部にまで染み渡るような熱気が被さってくる。  
 
 丁度そこは『彼』が唇の感触を与えてくれた場所の真裏  
 あの時と違うことと云えば 唇が示す意味を理解出来るようになったこと  
 
直後、大きな手がアリーシャの夜着のボタンをぷつぷつと上からひとつずつ外し、  
全部外し終わるともうひとつ、熱い掌のかたち感触が宛がわれ。  
肩から腕、そして背へ、身体の線に沿い掌を滑らせると、アリーシャの肌から衣(きぬ)の感触が消えていく。  
すると熱気が僅かに遠のき、小さく金属音が響いて後。  
ベッドサイドの辺りにごとり、と充分な重さが落ち着く音がして、  
続いて最初ほどの音はしなかったものの、ごとごとといくつかの物体が落ちるような音がした。  
 
ブラムスもまた、自らに纏わる衣を脱ぎ放ったのだが、  
部屋の壁に吸収されていった音は、明らかに布の落ちる音などではない。  
アリーシャは視界に再び入ってきたブラムスの極限まで鍛えられた肉体に  
凍てつくような恐怖と芯から燃え上がるような疼きを同時に感じていた。  
 
前者は恐らく本能的なものだろう。しかし後者は…。  
 
アリーシャがそんなことを思案していたとは知らず、  
被さってきたブラムスは軽くアリーシャの唇を吸い、そのまま舌を首筋へと滑らせていく。  
 
「ぁう……、ッ、っはぁ……!」  
同時にひゅっと喉の奥から押し出される、美しい笛の音色のような音。  
普段他人に触れられる場所ではないそこは、少しの刺激にも敏感に反応する。  
唇らしき感触に続いて、ぬめる異触が同じ場所を執拗に行き来していき、最後にきつく吸い上げられる。  
再び外気に触れる事を赦された時、その場所には小さな花弁のような跡が残っていた。  
 
次に感触が与えられたのは鎖骨。場所を確認するかのようにじっくりと舌がなぞっていく。  
「くぅ…、ふっ……ぅ」  
放っておくと止め処なく溢れ出してしまいそうな声を閉じ込めようと、アリーシャは自らの口を両手で塞いでしまった。  
すると、急に声が奥へと篭ったのに気付いたブラムスはアリーシャの肌を這っていた舌をあっさりと離し  
口を塞ぐ小さな両の手を簡単に剥して、その奥にある桃色の唇を自らの口で覆い隠した。  
触れ合ったと同時に熱い舌に口内を何度もまさぐられ、  
右腕はアリーシャの背へと回されて、アリーシャの体重をやすやすと抱えて密着する。  
空いた左手はアリーシャの形のよい乳房を丸ごと包み込み、執拗な愛撫を享けて桜花の薄紅をしっとりと帯び始めていた。  
「んむっ…!!んんっ、………う」  
いくつもの場所に同時に愉悦を与えられ、アリーシャは眼前の熱気の塊にしがみつく事しか出来ない。  
肌と肌の触れ合った場所に蟠る柔らかな共有が余りにも快くて、無意識にそれを求めて縋りつく。  
声は総て洩らさずブラムスに飲み込まれ、刺激を与えられる度に口内をまさぐり続ける舌を何度も噛みかける。  
3度目に舌を噛みかけて必死に抑えた時にようやく唇を解放されると、  
離れた距離を繋ぐ銀糸が露に濡れる蜘蛛の糸のように淫らに光っていた。  
 
ごく僅かな距離が生まれたことを、間に入り込む空気の流れで知ることができる。  
再び背を支えてくれる布の感触。  
ベッドに身体を預けさせて、背から抜き出した右腕はアリーシャのもう片方の乳房へと伸びる。  
まだ触れられた跡のない白い乳房の感触を確かめながら、ブラムスは乳房の先端を軽く舐め、  
舌先で転がすように愛撫してから口内へと導き、不意にきつく吸い上げた。  
「あっ!んあぁあああっっ!!!!」  
悲鳴のような嬌声が一際大きく部屋を満たす。  
強烈な波が背筋に違和感を残して這い上がっていく感触に云い様のない快感を覚えたが、  
淫らな叫びを上げてしまったことを恥じて頬に更に彩やかな朱を差しながら  
今度こそブラムスに悟られてしまわないように顔を背けて右手の親指の付け根を必死に噛んだ。  
しかし。  
 
「止せ」  
間近から低い声が聞こえてきたのは、その直後。  
ブラムスはアリーシャの右手を強引に剥がし、歯型がくっきりと残った指の付け根を何度も指でさする。  
「最初からこうするべきだったな…」  
大きく息を吐いて、ブラムスの指先が六芒星を描くと、遠くで小さくパキンとガラスの砕けるような音が聞こえた。  
「……なに?」  
「初歩的な結界だ。音の流出を妨げる。」  
肩で呼吸を整えるアリーシャの朱い頬に先ほど六芒星を描いた方の手が沿われ、  
その手が離れると、ブラムスはアリーシャに纏わる残った衣もいっぺんに剥ぎ取ってしまった。  
収束しかけた熱が再び煌々と灯るのと、隠してくれるものがなくなってしまった感覚に小さく「きゃっ」と声があがる。  
 
「これで押し殺す必要もない…」  
 
ごく近い距離だけで交わされる、熱っぽいことだまを封じ込めたかのような低い声。  
ありのまますべてを曝け出してしまった今、その声だけで憤死してしまいそうなほど頭の中が彩やかに燃え  
頬の熱が芯まで届いて思考さえも焼き切ろうとしているかのよう。  
そしてぼんやりと意識に横たわる靄を一気に振り払ったのは、曝け出された秘所に覆いかぶさる心地よい熱気。  
 
「あ、そこ、は……っ!!」  
自らの身体の中心に他人の熱を享けた事は一度もなく、初めてもたらされる異様な感覚に背が撓む。  
掌で密度の薄い叢を混ぜながら、中指が割れ目の奥に隠された花弁を一度撫でると、  
そこは晒されているどの部分よりも熱く、指先を薄く蜜が彩っている。  
「あっ……、やぁっ、」  
涙声のような嬌声が溢れ出てくる。  
懸命にブラムスの手を止めようと手を伸ばしてくるが、それを振り切り花弁を掠めただけで指先は別の場所へ。  
指先はすぐそばのぷっくりと赤く熟れた肉芽をそろりと愛撫すると。  
「ひあっ…?!ふあぁあんっ!!」  
身体の中心から脊椎を伝い、瞬く間に脳天まで登って拡散していった強烈な電流。  
膝と細い肩が一緒にぶるりと震え、一瞬だったが意識だけが置いて行かれたような感覚がした。  
 
「ここが善いのか?」と、耳に直接ブラムスの熱い息と低い声が吹き込まれ。  
喉の奥がじくじくと痛い。胸の奥も。  
そして、身体の中心と下腹部までもが甘く痺れるような感覚を帯びてきた。  
 
零れ落ちそうなほどの蒼い瞳は、自らの身体に起こった異変に怯えて揺らいでいる様子で。  
濡れた目尻に口づけて宥めてはくれるが、愛撫を止めようとはしない。  
続けて肉芽の先端を押しつぶすように円を描いて弄び、二指でつまんでこねるように愛撫すると  
「んあぁっ!!!あっ!!あ、ああぁあっ!!!」  
何度も首を横に振りながら、アリーシャの嬌声が部屋中に振りまかれ。  
突如内側で乱反射するかのように暴れ始めた快感を、戸惑いながら享け止める。  
 
近いような、遠いような。  
そんな場所で幽かに「潤ってきたようだな…」と、低い声が独りごちたような、そんな気がする。  
声に次いだ刹那、別の指がしっとりと蜜を纏った花弁のかたちを確かめるように辿ってから、  
その秘められた中心へと向かってゆっくりと指を挿入し始めた。  
 
「ひぅっっっ!!!!」  
甲高い声が洩れ、アリーシャの身体が一気に強張る。  
ゆっくりと節くれだった中指の第一関節までが挿入され、肩で数度呼吸するアリーシャを見、  
再び根元まで一気に挿入しきると、アリーシャの眉目が一際苦痛に歪むと同時に小さく弾ける水音が聞こえてきた。  
指1本挿入するだけでも力の加減には最大限配慮したにも関わらず、未通独特の狭さは思っていた以上で  
縋る場所を求めて涙目で両の手を伸ばしてきたアリーシャに応えて頬を寄せる。  
 
「痛むのか?」  
「…っ、も、へいき……」  
「嘘は吐くな。正直に云わねば加減の仕様がない。」  
「………すこし…いた…、い…」  
「判った」  
「…ごめん、なさい……」  
「謝ることもあるまい」  
 
自分の倍以上はゆうにあるブラムスの右腕は背を渡り、大きな掌が肩をきつくかき抱く。  
この密着する肌が分け合う互いの熱さと冷たさの境界が蕩けて一緒くたになってしまう感覚に言語に尽くせぬ快感を覚える。  
そう、安堵感と似ている。  
気付いた時に、ナカに穿たれた中指がゆっくりと動き始めた。  
 
「んっ!!!うぅ、……あぁ…っ!!!」  
幽かに痛みはあったものの、それはナカで指が動いた分だけ失せてゆき  
確かな艶を孕んだアリーシャの吐息と、悦び跳ねる水音が限られた空間を自由自在に行き来して濃密な空気を醸し始めた。  
最初は甘い媚肉を指の腹で宥めるように愛撫すると、内側は徐々に濃厚な蜜で指をくるみながら締め付けてくる。  
一度、第一関節が見えそうになるまで中指を引き抜いてから、再び根元までぐっと押し込むと、  
アリーシャの身体は小さくこもった声と一緒にビクンと跳ねて、その後にゆったりと弛緩して体重を腕に預けてくる。  
 
くちゅくちゅと弾ける淫らな旋律は時期に一定のリズムを形成し、徐々にその音を大きく。  
「あ、あぁ、は、んぁあ…っ」  
プラチナブロンドを豪奢に散らしながら縋りつくアリーシャの声は甘い愉悦を滴らせながらブラムスの耳元へ。  
縛るような痛みから徐々に解放され、快感を追う術を身につけ始めたアリーシャの耳朶を軽く甘噛みすると  
「ぁうっ…!」と声をあげ、ぴくんと細い肩が震える。  
甘い刺激に気を取られているうちに、アリーシャのナカにもう1本指が侵入してきた。  
 
「くぅ……んっ!!!」  
最初ほどの苦痛はないものの、圧迫感が増して息を呑む。  
飲み込んだ分だけ押し出される吐息は充分な甘さと熱を含んでいて、問いかける必要も無さそうだと  
2本の指を根元まで埋めてまとめて同じ方向へ、内側をぐるぐると綯い交ぜにするような動きで  
熱く絡み付いてくる媚肉の壷を容赦なく掻き混ぜ始めた。  
上塗りするかのように大きさを増す蜜の奏でる淫らな旋律は快感を与えるだけでなく、  
アリーシャの思考を熱っぽく甘やかに書き換えていく…。  
 
「ふっ、あぁあっ!!ひあぁんっ!!!やぁ、あっ!!!」  
何度も首を振りながら助けを求める泣き声のような嬌声が部屋中を乱れ飛ぶ。  
部屋の壁に当たって自分の耳に戻ってくるあられもない声に耐えかねて、アリーシャはしがみつくブラムスの厚い肩に歯を立てた。  
歯を立てられたからと云って痛みらしい痛みは特にない。  
アリーシャの目尻に溜まって今にも溢れ落ちそうなしずくをそっと唇で拭ってやると  
肩の肉を噛みながら耐えていた声が急に喉の奥へと引っ込んで、荒い呼吸が耳元を通り過ぎていく。  
 
「くる、の……!おくか、ら……く、るぅ…っ!!!」  
ひどく虚無なのに、自分の手では届かない奥底から熱いなにかが溢れ出しそうな感覚が恐ろしいのか。  
必死に目の前のブラムスの熱を求めてしがみつくアリーシャ。  
嬌声が殺される事によってより大きく、そして淫らに響き渡る水音と共に溢れる蜜はブラムスの掌を濡らすほど。  
 
細く白い喉が美しい曲線を描き、喉の奥で蟠っていた声がとうとう我慢できずに溢れてきたと同時に  
大きな波がアリーシャの身体を中心から外へとゆっくりと拡散していく。  
内側から押し出される波に身を委ねたアリーシャの腕は若干の力を失い、くたりとベッドへ体重を預けた。  
甘く締め付けるナカから抜き出されたブラムスの二指には、濁った濃厚な蜜がべっとりと指に纏わりついている。  
 
「んはっ…、ぁあ………、は、ぁ……」  
軽い放心状態で部屋の天井を見つめる蒼い双眸。快いけだるさに押し流されながら呼吸を徐々に整えていく。  
囲ってくれていた熱が離れた後暫くして、衣擦れが聞こえてきた。  
部屋はランプの暖色の灯りだけで決して明るいとは云えないが、窓の外から銀色の月明かりが差し込んでくる。  
再び熱気にくるまれた時には、ブラムスは自らと同じく一糸も纏わぬ姿で、優しい闇を伴う深く昏い影が覆ってくる。  
覚悟は、出来ていると云えば嘘になるかも知れない。  
 
「…アリーシャ」  
 
低い声に、名を呼ばれる。  
覗き込めば、きっと自分しか映っていないであろう深い憂いを帯びた赫い双眸。  
次いで何かを紡ごうとした彼の唇をアリーシャが先に塞ぐ。  
 
 今はもう、ことばは要らない。  
 
意思を悟ったのか、何も云わずにブラムスは離れるアリーシャの唇を軽く吸い、  
繋がるための箇所に熱い楔を宛がってゆっくりと奥へと向かって侵入してきた。  
 

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