精霊の森に向かう途中の道すがら、一時の休息のためにアリーシャとルーファスは森の中に滾々と湧き出る小さな泉の畔に腰を降ろした。
アリーシャは木々が風に踊る音を聞きながら、木漏れ日がキラキラと反射する水面から隣に座るルーファスに視線を移す。
「どうした?」
視線に気付いたルーファスがアリーシャの緑がかった碧眼を覗き込んだ。
「あ・・・いえ」
アリーシャが慌てて視線を逸らし、口ごもる。
「何だよ、言いたいことがあるなら言えよ」
「なっ、なんでもないんです、なんでも・・・」
「そっかぁ?」
怪訝そうにルーファスは首を傾げると、視線を泳がせているアリーシャの手をそっと握るとまじまじとその華奢な手を見つめた。
「ル、ルーファス?」
「手、小せぇなぁ〜よくこんなで剣振るえるなぁ」
突然のルーファスの行動にアリーシャは戸惑いがちにルーファスの視線を追うと、ルーファスの大きな手が、長い指が彼女の手を包むように握っていた。
「・・・こんな小さい手で何もかも抱えようとしてたんだな」
「無理・・・だったんでしょうね、こんな手で抱えようなんて」
「ばっ!そういう意味じゃねぇよ!」
ルーファスが慌ててアリーシャを見つめると、その瞳に今にも泣きそうな儚げな少女の姿が映しこまれた。
二人の視線が絡んで、アリーシャは何かに気付いたかのように目線を外そうとした。
それを逃がさないと言わんばかりにルーファスの腕がアリーシャの震える背中に回り、きつく抱き寄せる。
森がざわめくような錯覚を覚えた後、そのざわめきが自分の胸の中にあると気付いたのはアリーシャのほうだった。
片手はルーファスに握られ、体ごと強く抱きしめられて自分が彼の腕の中にいると分かると、ざわめきの代わりに心臓が戦闘後よりも強いリズムで高鳴っていることに気付く。
「―――っ、ルー・・・ファス?」
名前をたどたどしく呼ぶと、それに答えるようにより強く抱きしめられた。
息苦しさも、窮屈さも感じず、そこにあるのは初めて包み込まれたルーファスの体温とアリーシャと同じように早いリズムで刻む鼓動。
それを感じ、不思議な安堵感に包まれていた。
同時に、顔が熱く火照っているのも感じる。
「アリーシャ・・・」
降って来るように呟かれた名前に、アリーシャの顔の火照りが増す。
境遇が似ていることから覚えた親近感とはまったく違う何かをルーファスに感じていた。
それが何かは分からないけれど、ただもう少しこうしていたいと思っているのは確かだった。
その思いをうまく伝えることができなくて、アリーシャは空いていた片手でルーファスの服をきゅっと掴んだ。
木々がサワサワと揺れ、木漏れ日を優しく注ぐつかの間の休息。
おずおずとアリーシャが顔をあげると、照れくさそうにはにかんだルーファスと再び視線が絡んで、アリーシャはまた顔の火照りと強い胸の高鳴りを感じた。