いかに最強の彼女といえども、嵐のように襲い来る連続攻撃をしのぎ切ることはできなかった。  
打ち込まれた重い衝撃に二歩、三歩と後ずさり、やっとのことで踏み留まってから、顔面を庇っていた腕をそろそろと下げる。  
その視界に、真正面から矢のように突っ込んでくる青い影が広がった。  
「しまっ───」  
気付いたときにはもう、身構える隙さえ残っていなかった。  
 
「その身に刻め!!」  
神の鋭剣グランス・リヴァイバーが、電光石火の閃きで女王の身体を撫で斬りにする。  
幾度かの斬撃の後、ひときわ強烈な逆袈裟を浴びて、彼女は成す術もなく空中へと吹き飛ばされた。  
「ぐは……っ!!」  
せりあがってきた三本の槍がその胸を刺し貫く。苦痛に見開いた目が、翼を広げ空を舞う戦乙女の姿を映した。  
「神技! ニーベルン・ヴァレスティ!!」  
宙に縫い止められた女王を巨大な投槍が直撃する。  
飛び散った光の粒がその周囲を包み込み───目も眩むばかりの大爆発を起こした。  
 
彼女は受け身も取れないまま、硬質の床に背中から叩きつけられた。  
「ぐっ……!! う、う……!」  
この異界の住人の誰もがそうであるように、彼女にとって肉体は絶対のものではない。  
それは彼女という超存在が持つ魔力を変換して作り出されるアイコンに過ぎず、故にいくら手酷い打撃を受けようとも、元の形を失うことはない。  
だが、たとえ見た目が無傷のままでも、肉体に加わったダメージはすなわち、それだけの魔力を削り取られたことを意味している。  
「こ、小賢しい……!」  
力の入らなくなった腕で、彼女は必死に体を起こした。  
魔力の消耗の影響はすでに肉体の弱化にまで及んでいた。それでもなお、最強女王としての矜持がイセリア・クイーンを突き動かす。  
戦乙女と三人の従者は、油断なく武器を構えてその様子を見下ろしている。  
「苦しむだけだというのに……」  
戦意を失わない女王の姿に、戦乙女ヴァルキリー───レナス・ヴァルキュリアは低く呟いた。  
 
「ねー、これいつまで続けるの〜?」  
一同の後ろから緊張感のない声を上げたのは、従者のひとりである人魚の娘、夢瑠だった。  
「こら、気を抜くな。相手はまだやる気だぞ」  
槍騎士ロウファが鋭くたしなめた。その視線は床に倒れたイセリアから一瞬たりとも離れない。  
「その通りだ。……だが」  
巨大な剣を肩に担いだ大男、傭兵アリューゼが口を挟む。  
「勝負はもう決まったも同然だろ」  
「確かに。これ以上やっても同じことの繰り返しになるだけ」  
レナスがそう応じ、イセリアは唇を噛みしめた。  
女王にとって目の前の敵たちは、木の葉のように脆い存在だった。彼女の腕の一振りでその体は力尽き、霊力の粒にまで還元される。  
しかしそれを何度繰り返してもその度に、宙を漂う光の欠片を生き残った誰かが再結合させ、彼らは蘇ってくるのだった。  
果てしなき消耗戦の末───今、地に伏しているのはイセリアの方である。  
「この戦いの目的は、我らの強さを試すことだったはず」  
レナスはイセリアに語りかけた。  
「すでに大勢が決した今、互いを滅するまで続ける意味は何もない」  
「私を……見逃すというの?」  
「違う違う」  
夢瑠が叫ぶ。  
「私たち、あなたが悪い人だからやっつけに来たとか、そーゆーんじゃないんだもの」  
「確かにな……。正直、止めを刺すところまでやりたくないよ」  
槍を女王に向けたまま、ロウファが言った。  
「どう? それとも、完全に決着をつけなければ納まらない?」  
「……いいえ」  
レナスの問いに、無機質なホールの天井を見上げながらイセリアは答えた。  
「私の負けよ。最強の名は、あなたたちにこそ相応しい」  
四人の間に安堵の空気が流れ、彼らはようやくめいめいの武器を下ろした。  
「そういえば、名前を聞いていなかったわね」  
「私はレナス。レナス・ヴァルキュリア」  
「レナス……。そう」  
その名を胸に染み込ませるように、イセリアは呟く。  
「ねえレナス。───あなたは最強の称号を手に入れた先に、何を望むの?」  
「特に望みはない」  
短い答えを返す。  
「あえて言うなら、お前……いえ、あなたと戦うことが、望みだった」  
ふふ、と女王は笑った。  
「光栄ね。でも、それは質問の答えになっていないわ」  
床にぺたりと座ったまま、レナスを見上げる。  
「あなたたちは望み通り私と戦い、見事に打ち倒してみせた。では、その後は?」  
「………」  
「在るものといえば戦いだけのこの世界で、誰より強き者となったあなたたちは、これから何を目的に生きてゆくつもり?」  
歌うように言葉を紡ぐ女王の隣に、いつのまにか夢瑠がしゃがみこんでいた。  
「戦いだけなんてこと、ないでしょ」  
「え……?」  
「倒した女王様が、まだここにいるんだし。私たち勝ったわけだし」  
肩にぽんと手を置かれ、イセリアは身を強張らせた。  
「ま、まさか、私を……」  
「うんうん♪」  
「使役する気なの?」  
「ありゃ」  
ずるりと前に滑る。  
「んー、使役っていうか、なんていうか」  
「大体、今の私はこんな有様よ。もはや使い魔としての値打ちも……」  
自嘲的にそこまで言って、イセリアははっと夢瑠を振り返った。他の三名も同時に気付いて息を呑んだ。  
小さな声で流れる、呪文の詠唱に。  
「よせ、夢瑠……!」  
「キュア・プラムス!!」  
決めの霊言により術式は完成し、治癒の光があまねく周囲を満たした。  
 
黄金色の光が薄れて消えたとき、女王の喉元にはレナスの剣の切っ先が突きつけられていた。  
ロウファも再び戦士の眼を取り戻し、槍の穂で正確にイセリアを狙っていた。アリューゼは剛剣を頭上に振りかぶっている。  
「夢瑠、てめえ……」  
「大丈夫だってばぁ。今さら戦う気なんてあるわけないじゃない」  
唖然としているイセリアに向かって、ねー、と呼びかける。  
「そんなの女王様のプライドが許さないわよ」  
「甘いことを……」  
「いいえ。この子が正しいわ」  
神にも等しい魔力のほとんどを取り戻し、先程までとは打って変わった力強い声で、イセリアが言った。  
「私は敗北を受け入れた。無駄なあがきはしない───女王の名にかけて」  
「ほらね」  
夢瑠は得意げに小鼻を膨らませた。  
「ごめんねー。みんな喧嘩っ早くてさぁ」  
「あなたは呑気なのね」  
苦笑しながらイセリアが答える。  
「あの三人は戦うのがお仕事だけど、私は平和の申し子なの」  
夢瑠の生い立ちを知る三名には、その言葉の意味が理解できた。なんとなく士気を挫かれ、彼らは剣を引く。  
「せっかく元気になったんだもん。戦うより楽しいこと、しましょ」  
「戦うより、楽しいこと……?」  
「そうそう」  
床に座り込んだままの女王の後ろに回り、ベルベットのように黒く光る衣の、両方の肩紐に指をかける。  
「こんなこと♪」  
そう言って夢瑠は素早く肩紐を左右へ開き、そして垂直に引き下ろした。  
衣の下から女王の豊かな胸が、弾むように飛び出してきた。  
 
「……っきゃああっ!!!」  
「うわ、服が羽根をすり抜けちゃった!」  
両腕で胸を隠し悲鳴を上げるイセリアと、全く関係ないところに驚く夢瑠。  
「どうやって着てるのかずっと不思議だったんだよね……あっ私の手もすり抜ける! どうなってんのこの羽根?」  
「エーテル体ね」  
事態を呆れたように眺めていたレナスが、口を開いた。  
「エーテル体?」  
隣にいたロウファが聞き返す。  
「飛ぶための実体ある羽根ではなく、飛行能力が羽根という形で顕現している。私の翼と同じよ」  
「そうなんですか……。エーテルってもっと硬くて、目に見えない物だと思ってました」  
「エーテル・コーティングからの連想ね」  
床に倒したロウファの槍をちらりと見て、レナスは言った。  
「道具の『機能』をエーテルに写し取り、『形』の周りにメッキする。  
 メッキのお陰で『形』が保たれ、それによって『機能』もまた保たれるから、メッキも劣化しなくなる。  
 その堂々巡りを生み出して絶対に壊れない武具を作るのが、エーテル・コーティングの技術」  
「へえ……」  
「もー、難しい話はあとでいいじゃない」  
嫌がる女王の服をぐいぐいとずり下げながら、夢瑠が会話に割り込んだ。  
「君が言い出したんだろ」  
「それよりさ、ほらほらっ」  
イセリアの膨らみを後ろから両手ですくい上げ、たぷたぷと揺らして見せつける。  
「ああ……い、嫌ぁ……」  
「ちょいとお兄さん、女王様けっこういい物持ってますよ〜」  
「ポン引きかお前は」  
肩や腰の甲冑を外しては背後に放り投げつつ、アリューゼはすっかり肌も露わな女王に歩み寄っていく。  
思わず後ろに退がろうとするイセリアだったが、背中から抱きついている夢瑠が邪魔でそれも叶わない。  
涙の浮かんだ目を見開き、女王は精一杯の虚勢を張った。  
「あ、あなたたち、この私にこんな事をして、只で済むと……」  
「あれ? 勝負あったんじゃないの?」  
淡いピンク色をした二つの頂点を指で挟まれ、耳たぶをそっと甘噛みされる。  
「ふぁっ! ああんっ!!」  
「もう戦いはおしまい。勝ち負けなしで、楽しみましょ」  
そう言って夢瑠は顔を上げ、仁王立ちしているアリューゼに目配せした。  
「ね?」  
「ああ」  
彼は手早くベルトを緩め、ズボンを脱ぎ捨てた。  
 
全員の目が、そびえ立ったアリューゼの剛直に集中していた。  
「うわわわ……迫力ぅ〜……」  
両手で顔を覆ったまま夢瑠が呟く。大きく開いた指の間から、キラキラ輝く瞳が覗いていた。  
「くっ……。こ、これが、人間の……」  
「あれを標準と思われちゃ困るんだけどね」  
イセリアの呻きに、ロウファがげんなりした声で応じる。  
「うー、ほんと立派……。マテリアライズに趣味入ってる?」  
「馬鹿なことを言わないで!」  
レナスが顔を紅くして叫んだ。  
「エインフェリアの姿は本人の精神を元に再現されるもの。私は手を加えてなどいない!」  
騒々しい一同と対照的に、アリューゼは押し黙ったまま足下のイセリアに目を据えていた。  
見上げるイセリアの視線が、その顔と高く屹立するものとの間を頼りなげに往復する。  
それに気付いた夢瑠が彼女の後ろから言った。  
「ほら。女王様怯えてるよ」  
「お、怯えてなんか……!」  
慌てて取り繕うイセリアに構わず、  
「優しい言葉でもかけてあげたら?」  
それまで無表情だったアリューゼが、目を剥いて夢瑠を睨む。顔全体が『俺がか?』と問いかけていた。  
勢いよくレナスの方を振り向くと、彼女は腕組みして頷いていた。隣のロウファがグッと親指を立てる。  
アリューゼは観念したようにうなだれ、それからゆっくりしゃがんで視線を下げた。  
「あー……その、何だ」  
バリバリと頭を掻く。  
「戦ってる時は……『見飽きた』とか言っちまって、悪かったな」  
ほど近い距離で目と目が合った。イセリアの瞳を覗きこみ、彼にできる限りの優しい声でアリューゼは囁いた。  
「別嬪さんだぜ」  
レナスと夢瑠が同時に吹き出した。  
「気にしていたのか」  
「うーん……ギリギリ合格ってとこかな!」  
「点が辛ぇなあ」  
肩を落としてアリューゼがぼやく。女王の表情が、初めて緩んだ。  
脱ぎかけの衣を引きずって、イセリアはアリューゼの足の間に這い寄り、熱い柱に手をかけた。  
「……ッ」  
無敵の傭兵は不意を突かれ、ぴくりと体を震わせた。  
 
端正な紅い唇に、収まりきらないほどの直径を含み、たどたどしい手つきで側面を摩擦する。  
懸命にアリューゼを慰める女王をまた慰めるように、夢瑠とロウファがその左右に侍り、柔らかな膨らみを一つずつ揉みしだく。  
夢瑠の片手は床に座ったイセリアの下半身にも伸びていた。  
「は……あうっ」  
埋められた指が内側で躍ると、彼女は腰を揺らして悩ましい声をあげる。  
「ほらほら、手と口お留守にしちゃダメだよ。頑張ってー」  
「はぁっ……、はぁっ……。んっ……むぐ……」  
「でも、ちゃんと人と同じものがあってよかった」  
女王の中に緩やかに指を出し入れしながら夢瑠が言った。  
「仕組みが違ってたらどうしようかと思っちゃった」  
お前が言うか、とアリューゼとロウファは思うが、口には出さない。  
「違う所って、この羽根と輪っかくらい?」  
「適当だなあ。さっきの戦いをもう忘れたのかい」  
ロウファが苦笑いする。肉体が粉々になるような裁きの連撃を、最も頻繁に喰らっていたのは彼だった。  
「そうね。人と違う所も多いけれど───」  
イセリアの背後に、いつの間にかレナスが立っていた。  
彼女は羽根の一枚に手を伸ばすと、その根元を軽くつまんだ。  
「はぁんっ!」  
「それはそれで、楽しみ様はあるものよ」  
半透明に輝く羽根の先端に向かって、指をゆっくり滑らせていく。  
「やあぁ……そこはっ……あ、あ、あああぁん!!」  
イセリアは喉を反らせて叫んだ。  
「エーテル体を……触っているのか!?」  
「さっすが神様!」  
「つーか気持ちいいのかよ、その羽根は」  
よぉし、と夢瑠が張り切り、イセリアの体内深く指を挿し入れた。アリューゼは女王の頭を両手で捕まえ、自分自身を再び口一杯に含ませる。  
前後左右からの間断ない攻めが続く。汗ばんだ額と涙に濡れた頬に美しい金髪を張りつかせ、彼女は裸身を痙攣させた。  
「ふぅっ……! ふぐっ……! んっ……! んんーっ……!!」  
「くっ! 行くぜ……!」  
アリューゼは歯を食い縛り、イセリアの口内に思い切り精を放った。  
「むぐ……ごほっ! げほっ!」  
咳き込んで唇を放した彼女の顔面に、第二波、第三波の奔流が直撃する。  
白濁にまみれ、女王はその場に崩れ折れた。  
 
「ねぇ……さっきのアレ、綺麗に消えちゃったけど」  
息が整わないイセリアを助け起こしながら、夢瑠が言った。  
女王の顔と髪と床に大量に飛び散っていた白い液体は、すぐに光の粒となって空中に消えてしまい、今は痕跡すらも残っていなかった。  
「どこ行ったのかなぁ?」  
「今の僕らの体は、ヴァルキリー様のDMEで出来ているからね」  
ロウファが答えた。  
「本体を離れた分は回収されるんじゃないかな」  
「ええー。ごっくんしちゃったってこと?」  
「そうなのか? ヴァルキリー」  
「………」  
レナスはそっぽを向いた。  
「それにしても、まだまだ元気ねぇ」  
発射後いくらもしないうちに角度を取り戻しつつあるアリューゼの腰の物に、夢瑠はちらちらと目を遣っている。  
「女王様はグロッギーのようだがな」  
「いいえ……まだ、よ……」  
イセリアが起き上がる。  
「こんなものじゃ……終わらないわ」  
「ほう。さすがはクイーンだぜ」  
頬を紅潮させ取り憑かれたように一物に手を伸ばしてくるイセリアを、ひょいと捕まえて引き寄せる。  
「だが、奉仕させてばっかりじゃ悪いからな」  
「あ……」  
「今度はこっちの番だ」  
膝の間に腰を割り込ませ、硬い巨柱を体の真芯にあてがう。  
完全に狙いを定められたことを悟り、女王はぶるっと身を震わせた。  
「……怖いか?」  
「だ……誰に向かって、口を利いているの」  
アリューゼはにっと笑って、一息に貫いた。  
「くああっ……!! あーっ!!」  
特大のそれに深々と打ち抜かれ、イセリアは絶叫した。目の前の鍛え上げられた身体に無我夢中でしがみつき、背中に爪を食い込ませる。  
座位で向き合い、互いに抱き合ったまま、最初の嵐が過ぎ去るのを二人は待った。  
「くう、ううっ……。ふーっ……。ふーっ……」  
絞るような悲鳴が次第に小さくなり、胴を締め付けていた腕がいくらか緩むのを感じると、アリューゼはゆっくりと動き始めた。  
「うぁっ!? ……う、んっ、んっ、あっ、んっ……」  
白い裸身がリズミカルに上下し、豊満な胸が毬のように弾む。  
苦しげな声の中に少しずつ甘い吐息が混じり始めると、女王の肩越しにアリューゼは呼んだ。  
「ロウファ!」  
「はいっ」  
服を脱ぎ捨てながら、若き騎士が答えた。  
 
「………?」  
アリューゼの腰使いに揺られる女王は、背後についた別の男を訝しげに振り返った。  
規則正しく上下する彼女の双丘にロウファは両手を掛け、強く押し開く。  
すでに巨大なものを挿入され一杯に張りつめている場所のすぐ近くで、もう一つの密やかな蕾が露わになった。  
「ひ……!?」  
新たな先端をぴたりとそこに添えられて、イセリアは声を上げた。  
「だ、駄目! そっちは……!」  
「大丈夫。僕は自分で道を切り開いてみせる」  
熱い口調でそう言うと、ロウファは腰を突き上げた。  
 
少し離れた場所から、レナスは三者の絡み合いを静かに眺めていた。  
「参加しないんですか?」  
その背中に夢瑠が寄り添う。魚に変化した下半身がグリーブを這い上がり、素肌の膝裏に押しつけられた。  
「ひゃあっ!」  
レナスは叫んで夢瑠を突きのけた。  
「ウロコで触るな!」  
「だってー、どーもノリ悪いんだもの」  
その場でくるりと回り、夢瑠は二本足の姿に戻る。  
「もっと楽しみましょうよぅ。それに、あっちが終わったら次は私たちですよ?」  
「う……」  
「せめてその鎧は何とかした方がいいと思うけどなぁ」  
「………」  
レナスはしぶしぶ目を閉じて精神を集中させた。その体が白い光に包まれ、まばゆく輝く。  
青空の色をした鎧と羽根兜は光に溶け込むように消えてゆき───  
次にその姿を現したとき、レナスはミッドガルドの街を彷徨うときのような、人間の娘の装いに変わっていた。  
「脱がしっこしません?」  
「……自分でやる」  
「ちぇー。つまんないの」  
膨れてみせながら夢瑠は、倭国模様の帯に手をかけた。  
 
「お疲れさま♪」  
下着姿になった夢瑠が、後ろに同じく半裸のレナスを伴って、事を終えたばかりの三人に声をかけた。  
「あはは、みんなぐったり」  
床にのびている面々を見渡して愉快そうに笑う。  
「ちょっと休憩しないと無理かな?」  
「そうでもないさ」  
「わっ」  
いきなり手を掴まれて夢瑠は叫んだ。  
半分寝転がった状態のまま、不敵な表情のロウファが夢瑠の素肌を舐めるように見回していた。  
「お待たせしないよ。さあ」  
ぐいっと腕を引く。  
「きゃーあ! スイッチ入っちゃってるー!」  
夢瑠はバランスを失ってロウファの体の上に倒れ込んだ。  
「……楽しそうね」  
「ええ、そうね」  
レナスの独り言に返事が返った。先程の夢瑠と同じように、彼女の手首を何者かがしっかりと握った。  
「私たちも……楽しいこと、しましょ」  
イセリアの熱っぽい視線と、甘く蕩けるような囁きがレナスに絡みつく。  
光の羽根を広げ宙に浮かんだ状態から、女王はレナスの首に抱きつき、そのまま体重を預けた。唇を奪いつつ床に押し倒す。  
「ぷはっ! ちょ、待っ……んんっ」  
「あの男たちも良かったけれど、やっぱり私……あなたと、してみたいのよ」  
組み敷いた身体を強く弱くまさぐりながら、情熱的にそう告げた。  
「で、でも……女同士でそういうことは……」  
「あら」  
にやりと笑ってイセリアは自分の足の間に片手を当てた。  
「私たちに、性別なんてどれほどの意味があるのかしら」  
輝きを放ちながら股間から伸びてくるものに、レナスは目を見張った。  
「それは……!」  
「エーテル体……。神族には、触れるんでしょう?」  
透明なそれは赤い光に縁取られ、くっきりと男性のシンボルの形を示していた。  
レナスの下腹部や太腿に何度か擦りつけ、その感触を確かめる。  
「うふふ……気持ちいい」  
艶然と女王は笑った。  
「これなら満足できそう。私も、あなたも」  
「嫌……ま、待って、そんな……」  
僅かに潤み始めていたレナスの入口をその光るものが押し広げ、くちゅりと湿った音を立てる。  
「あああ……!!」  
「うっ……き、きつい……!」  
じわじわと、しかし確実に、イセリアはレナスの中へと進んでいった。  
根元まで完全に挿入すると同時に、先端が柔らかい天井に触れる。  
「長さぴったりだったわね」  
体の下で震えている戦乙女の乱れた髪を優しく梳き、その目尻に溜まった涙を唇で吸い取る。  
「辛そうな顔も……素敵よ」  
「は、放し、なさい」  
「駄・目」  
ゆっくりとした前後運動が始まり、レナスは新たな悲鳴をあげた。  
 
二度の発射を終えたアリューゼは冷えた床に座り、けだるい体を休めていた。  
しかしその彼の相手をしたイセリアといえば、  
「どう? 私のは、気持ちいい……?」  
「や、やめ……あっ、あっ、あん……!!」  
疲れるどころかますます勢い付いたように、今はレナスを攻め立てている。  
「元気だな」  
絡み合う二柱の女神を眺めながら、アリューゼは呟いた。  
しばらくぼんやりとその様子を見ていた彼は、ふと自分の持ち物に目を落とした。  
「……俺もか」  
おもむろに立ち上がり、レナスに覆い被さった女王のもとへつかつかと歩いていく。  
「邪魔するぜ」  
「え……」  
四つん這いになった腰を後ろから掴み、相手のいないままに濡れそぼった女の箇所に、再び分身を突き入れた。  
「ひぁ、うああーっ!!」  
「ぐっ……また、大きく……っ!」  
不意打ちの挿入に、イセリアのエーテル体が脈打つように大きさを増し、レナスにも声を上げさせる。  
柔らかな内襞の強烈に締め付けに、自らの部分が十分な硬度を取り戻したと判断すると、アリューゼは女王の身体越しにレナスを捕まえた。  
「よっと」  
身長ほどの長さの大剣を軽々と扱うその剛力で、二人をまとめて持ち上げ、そのまま完全に直立する。  
「何を───」  
そう言いかけたレナスの足は宙に浮き、その体重はただ一点に集中した。  
イセリアに貫かれた、その部分に。  
「あ……ああぁーーーっ!!」  
同じことはイセリアにも起こっていた。同じどころか、彼女はレナスと自分とを合わせた重さを、かの巨柱に支えられる形になっていた。  
「かは……あ、あ、あーーー!!」  
戦乙女の青い翼と女王の赤い羽根が同時に広がった。エーテル体の羽根はアリューゼの胸を突き抜けて背中側に飛び出す。  
ほとんど反射的な、飛行能力の発露だった。  
彼はすかさず腕を翻し、レナスの両肩を上から抑え込んだ。  
レナスは空中へ逃れられない。その体を下から抉っているイセリアもまた空中へは逃れられない。  
「は、放しなさい……!」  
「駄目だ」  
イセリアの命令を一言で退け、アリューゼは体を揺する……。  
 
ロウファの下で息を弾ませていた夢瑠は、縦に繋がった三名を目を丸くして眺めていた。  
「うわぁ……凄いね、あれ!」  
「そうだね……って」  
思わず相槌を打ってしまってから、ロウファは眉を吊り上げながら笑った。  
「余所見、す・る・な・よっ……!」  
夢瑠の片足をがっちり抱え込み、続け様に腰を打ち付ける。  
「ふぁっ! ご、ごめ……あっ! あんっ! あぁんっ!!」  
 
どこでもない世界の一番奥で。  
戦いを終えた者たちの嬌声は、互いに絡み合いながら、いつまでも響き渡っていた。  
 

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