あれからどれだけの時がたったのだろう。  
実際にそれを体験したものはその時を永遠と呼ぶだろう。  
私、いや、私達を除いて。  
 
その星には十二の皇室があった。それぞれの血が交わることで、その力は均等に安定し、平和が守られていた。  
皇室に生まれたものには定められたものと契りを交わすことが義務となる。  
そのために何の為に必要かも分からぬまま、何のためにも使うことのない勉学を強制される。  
己が纏う物さえも、己が食べるものさえも、己があるべき場所さえも強制されるのだ。  
今ほど星の平和が安定していなかった時代。それを守らぬことは己の不幸ですまされない。  
美しき十二の月に囲まれたヴァルハラ星。  
 
今は一人であって四人である、四人であって一人である私。  
永い眠りについている。暗い闇の中で、何もない白い夢を見ながら。  
けれどもさびしくなんかない。そう思っていた。  
私自身である他の三人と自分自身が自分を慰めているから。そう思っていた。  
「さびしくない。さびしくない。・・・」そう唱え続けていた。  
 
まだ、一人の皇女であった時。私達はこっそり話をしたんだ。  
「いつかこの生活を抜け出そう。」  
侍女に隠れて読んだ物語。幻の恋人。  
「いつか幻の恋人と恋をしよう。」  
けれども、それは霧のごとき夢物語。  
抜け出す勇気もなければ、幻の恋人と出会うこともない。  
なぜって、私たちが何よりこの美しいヴァルハラ星を愛していたから。  
 
時はおとずれた。時のブリザードと呼ばれる、すべてを冷殺する悪魔。  
私は侍従たちの静止もふりきって城外へと飛び出した。  
皇族のみに宿る神秘の力。心の強さに比例する聖なる魔法。その力でこの星を、この星の人々守りたい。その一心で。  
そこにいたのはいつもの三人。私たちは互いに目配せをして共に力を発した。  
「ヴァルハラ星を守りたい」この思いの強さは時のブリザードをどうにか別の次元においやった。  
けれども時のブリザードの力は甘くなかった。私たちが共に別の次元に行くことでやっと閉められた鍵。  
そのことに後悔は何もない。ヴァルハラ星においてきた私たちの目、「時の鍵」の見せる映像は昔以上の美しさ。  
でも一つだけ心の中で納得のいく説明のできないもやもやになっていることがある。  
力を発する前に目配せした後、一瞬、まぶたを閉じたとき。  
頭の中で電流が駆け巡るような刹那の間に、その思いが駆け巡った。  
普段のように脳の中で文字を表し詠唱する間もない一瞬。  
「この生活から抜け出せるかも。」  
 
私でない誰かの手が私の胸を手で転がす。形の整った胸がこねくり回される。  
その胸の先端を誰かの暖かい舌が這い蹲う。  
「アアン」ジュルッ  
誰かの陰部が私の顔を前後する。誰に言われるわけでもないまま私の舌は二つの山に囲まれた小さな突起を嘗め回す。  
ふいにその山に隠された秘部の奥へと舌をうずめていく。  
「はぁ、はぁ」ピチャピチャピチャ  
誰かが私の秘部に指を三本入れる。奥に到達するとそのまま指の先をかき混ぜる。  
そして時に指を引き、また勢いよく奥へと突き刺す。  
「い、いや、いやん」クチャッ、クチャクチャ、クチャッ  
秘部にはいっていた手と逆の手が後ろの穴にも突き刺さる。  
両手の指をくっつけるよう力がかかる。満たされていく私の下半身の両穴。  
「ハァ、き、きも、きもちいい、ん・・・」  
私の全身が脳に信号を送る気持ちいい。  
手のひらの、舌の、指の動きが速くなる。  
「ああ、あん、も、もうだめ・・・い、イク・・・」  
ピシャー  
しまりあがる私の秘部。そこで感じる私であって彼女の指。  
永久の夢の中。一つの肉体に四つの心。  
満たされる私の体。  
けれどもまだ、うずく、乾く。もっと激しく、私のすべてを満たして。  
響き渡る淫猥な夜想曲(ノクターン)。それを美しさだと思っていた。  
寂しくないと思っていた。満たされていると思っていた。  
なのにうずき、乾く心と体。  
愛している人と子を宿す行いをしている。これが愛だと思っていた。  
 
時の鍵は代々長となるべき皇女が持っていた。今の持ち主の名はワルキューレ。  
その愛らしい顔、すらっとした足、金色の髪は見ているものを老若男女問わず魅了する。  
時の鍵を通してみたその皇女を同じ女ながら美しいと思った。  
そのワルキューレは地球に行き和人という少年の会う。  
笑顔の似合うとても優しい少年。  
二人とその仲間たちの日常はいままで時の鍵で見たどの皇女よりも楽しそうで幸せそうだった。  
みているだけでなぜかこころが暖かくなった。胸が高鳴った。  
・・・クスッ『笑う』?これが『笑う』・・・  
何もない闇の中。蜘蛛の巣が張るほど気にすることのなかった私自身の心に何か暖かさが宿った。  
ある日純白の美しい衣をまとった二人の唇が優しく触れ合った。  
二人の接吻は何度も見ていた。けれどもそのときの私はいつもと何かが違った。  
ワルキューレを見るまで動くことのなかった心が自発的に動いた。  
−−−ワルキューレになりたい−−−  
 
あの美しい容姿を持って、この強大な力を持てば・・・  
そんなことを考え出した。  
私はワルキューレの影となる。そしてワルキューレを、真実を無とすることで影自身が真となる。  
私たちが闇に潜む中、他の者が幸せに暮らすなどどうにも納得できない。  
今なら真に自由な日常も、幻の恋人も手に入れることができる。  
その時の私は忘れてしまっていたんだ。何で私たちがあえて闇と共にゆく運命を背負ったかを・・・  
 
ワルキューレ・ゴーストというわれわれの分身を地球に送り込んだ。  
そこにいた少年和人は時の鍵で見たときと同じように優しい少年だった。  
あの完璧といっていいすぎでないワルキューレに満面の笑みをもたらすこの少年。幻の恋人に間違いない。  
幻の恋人さえ手に入れば・・・  
少年のことを思い描くと不思議と右手が下腹部に伸びる。  
すでに湿っていたそこに思いっきり指を突き刺す。  
「んっ、あの、あん、あの少年さえてにいれれ、ばっ、はぁはぁ、ん、ま、幻の・・・」  
ストロークがはやくなる。クチャクチャ。意識せずともおとが耳に入る。  
すらっとしたワルキューレと同じ白い足に汁がたれて行く。  
「いや、だめー」  
・・・こんなことは一度ではなかった。  
 
幻の恋人を手に入れようと地球に赴くたびに邪魔をされる。  
ゴーストを実体化して日も浅く力が安定しないのでそこで負けるのはしょうがない。  
だが、幻の恋人の私を見る目がおかしいのだ。  
ワルキューレと同じ姿に見とれるのでない、自分のみが狙われるのに怯えるのではない。  
あわれみの表情で私を見るのだ。その瞳にはなぜか潤む真紅の瞳がうつる。  
 
ついにその時を迎えた。幻の恋人を手に入れ、ヴァルハラ星にもう一度時のブリザードを呼んだ。  
幻の恋人が目を覚ます。  
「僕は君に無理やり連れられてきたんじゃない。僕は僕の意思でここにきたんだ。  
君のその寂しそうな目を僕は昔見たことがある。ワルキューレがかくれんぼだと言って飛行場に一人で一日いたときだ。  
口では何もいわなくても僕にはわかるんだ。その寂しさによる悲しみをたたえるその瞳を見るだけで。」  
聞いていて心がもやもやした。  
「僕はワルキューレに笑顔を与える方法は知っている。でもゴーストである君に何をしてあげればよいかはわからない。  
でも、いまどういう気持ちなのか僕に話してくれないか?」  
「私の望みは幻の恋人であるあなたを手に入れること。あなたを私の自由にすること。」  
和人は一度瞳を閉じ、次に満面の笑みでこういった。  
「好きにしていいよ。それで君が満足するならば。」  
 
がむしゃらに和人の上着を脱がせた。自分のスカートの中から手っ取り早く下着だけを剥ぎ取った。  
和人は何の抵抗するわけでもなくただじっとしていた。  
けれど体が触れようとしたその瞬間口を開いた。  
「一度だけ、ワルキューレと話をさせてくれないか?」  
体はうずいていた。しかし和人の瞳を見ると認めずにいられなかった。  
魔法で和人の意識だけワルキューレの元にとばしている間も胸が高鳴り続けた。  
「さあ、おわったよ。あとは自由にして。」  
「ウ、ウワァー」  
その時の私は獣だった。  
 
「はぁ、はぁ、はぁ」ヴァルハラ星の外ではもう一人の私の分身がやられていた。  
「ちがう。これはちがう。ワルキューレとふたりでいるときの笑みも幸せもない。私にも幻の恋人にも!!!」  
服を着た和人がいう。  
「確かに僕にとってワルキューレは、ワルキューレにとって僕は幻の恋人かもしれない。  
けれどあなたはあなただ。恋人にはなれない。」  
すっと手を差し出す和人。  
「だけど、友達にはなれる。友達になろう。」  
そういわれた瞬間体に電撃が走る。  
「ウワァー、はぁ、はぁ・・・それができないから・・・肉体が異次元に閉じ込められたままだから・・・  
だから幻の恋人の力が・・・ウワァー!!!」  
そういいながら一時ゴーストの姿を消した。そこにいては頭がおかしくなりそうだったから。  
アキドラに敗れたゴーストももどってきた。  
「なぜだ?なぜ私が敗れる・・・?もっと力を・・・もっと強くならねば・・・私は、私は・・・  
何のために・・・力が欲しかったのだ・・・?・・・・・・わか・・・・・・らない・・・」  
 
「たのんだぞ!ワルキューレ!」  
シロがさけぶ。  
和人の元へ一直線にとぶワルキューレ。  
「和人様・・・」  
「ワルキューレ」  
互いの心がシンクロする。  
「僕はこのままゴーストを倒したくない・・・でも・・・このままにはしておけない!  
だから・・・」  
「わかっています。わかっています。ゴーストに『あわれ』を感じて助けようとした  
和人様の思い。ヴァルハラ星の平和を守ろうとして不幸を背負った四皇女の思い。  
この時の鍵とともに受けついだのだから!」  
そして二人は再びであった。ヴァルハラ星の中心で。  
 
わたしもう・・イヤ。だってずっと長い間一人でねむってたんだよ。  
何度もこわいゆめを見たわ。いやー・・やめてー・・ってさけんで目がさめる。  
でもまっくらな部屋で一人ぼっちで・・・気がおかしくなるくらいこわかった・・・おそろしかった・・・。  
わたし何度も泣いたの。そのたびに私自身である三人がわたしをなぐさめてくれた。  
そしてある日、私はゴーストとしてあの時いらい始めてはじめて外の世界に触れようとした。  
わずかな間だったけどほんとうに幸せだった。  
わたしもうねむるのイヤ・・今度目をとじたらもう二度とめざめないような気がする  
そんなのイヤだよ。わたしみんなと一緒にくらしたい。  
昔読んだ幻の恋人を自分の手で見つけたい。  
「ワルキューレ、いいかい。」  
「ハイ、和人様。」  
ワルキューレの手は震えていた。その剣の形をした鍵でゴーストを刺そうというから当然だ。  
もしかしたら四皇女を殺してしまうかもしれない。永遠にブリザードを止められなくなる。  
もしかしたらゴーストには効かないかもしれない。そうすれば自分たちの身も危ない。  
「ワルキューレ。大丈夫。ぼくがいる。信じて。すべてのものを助けられるから。」  
ギュッ  
ワルキューレはもうしっかり時の鍵を握っていた。そこのはいっぺんの迷いもない。  
ワルキューレならできる・・・かつての四皇女にできなかったこともワルキューレならできる!  
だって、ワルキューレには、幻の恋人がついているから!!!  
 
 
 
ALL IN ALL ALL IN ALL  
まわりにどんなに 人がいようとも 心の中が分かるのは 私自身だけ  
君を思い描くと 心があつくなる    
ひとりだけど 孤独ではないの   
生きよう それが答えなのだから  
あてもなく 果てしなく たとえ迷う夜も  
愛してる 感じてる 呼びあう二人だって  
ひとりじゃない  
 
まわりの人々を みわたしてみる  
笑顔にあふれ 生き抜いている  
寂しい気持ちに とらわれても  
ひとりだけど 孤独じゃない  
 
走れ! そこは近いよ  
 
生きること それはすごく つらいことだけど  
意識せず 求めてる 一つの幻を  
{You're my…}  
つかむため 守るため 何かひとつを  
そのことで 満たされる 私自身のこころが  
{You're my…}  
生きること それはきっと 愛するということだろう  
愛してる 感じてる 呼びあう二人  
You're my all in all  
 
ありがとう。ワルキューレ。  
円盤皇女ワルキューレ 十二月の夜想曲 FIN  
 

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