数日が経った。モテウチの家の居間に、僕はいる。  
横になり、その上で身体を半ば薄れさせた天野が、僕のものを腹部に映しながら  
ゆり動いている。鎖で束縛する必要はもうなかった。輝きのない目で僕に犯され、  
いや僕の上で彼女自ら腰を動かし、踊っている。臍の辺りで、白い液体が動くのが見える。  
僕が彼女の中で射精した精液だった。僕は彼女の膨らみに欠ける胸に手を伸ばしながら  
膣内に出した。白濁液が中に噴出するのが見え、天野が、あ、と艶やかな顔を見せる。  
力なく僕の胸にもたれた。膣口と肉棒の隙間から精液が零れる。あい、とまいが声をかけた。  
天野の脚を掴み、僕のペニスから引き上げる。精液が滴り落ちる。  
まいが、二つの液体に滑った僕のものを口に含む。絶妙な舌使いで僕は眩暈のような感覚を  
覚える。ついに溜まらず、まいの口の中に出してしまった。元気ね、と言ってまいの衣服が落ちた。  
非の打ち所のない女性の裸体、それが僕のものを受け入れて、僕の上で踊っていた。  
僕は手を伸ばして乳房に触れ、身体を持ち上げて乳首を吸った。  
君が一番だ、不慣れな世辞を言う。まいは笑顔を浮かべ、僕の上で激しく身体を動かした。  
コトが終わり、まいが僕の胸にもたれている。僕は艶やかなその唇にキスをしている。  
愛している、告げるとやはり嫌な顔をした。代わりに、床に転がる天野を見て笑った。  
「そろそろ、あの子を片付けていい?」  
 
まいは立ち上がると、天野の側にしゃがんだ。天野が艶な顔をして、そっと脚を広げた。  
調教の成果だった。まいは軽く天野の胸を弄ぶと、自分の手を天野に挿入した。  
天野の顔に浮かんだのは快楽だった。さらに挿入された手から電撃が発せられる。  
それでも天野は痛みに悶える中で、快楽に酔いしれた顔をした。電撃にさえ、感じている。  
「ね、いいでしょう?今ならこの子、楽に消えられるじゃない」  
確かにそうだ、僕は思いつつ、やはり躊躇った。するとまいが、意外なことを言った。  
「私の再生時間も、残り少ないのよ」  
「え」  
「後、残り一週間ぐらい。そうすれば私も消えるの。テープに終わりはあるでしょ?」  
僕は呆然と彼女を見つめていた。一週間で彼女が消える。  
「天野は?」  
「この子は、まだ再生期間があるのかしら?ま、不良品だから、途中で消去するんだけど」  
躊躇いも、ドス黒い心も消え、漠然とした不安が僕にはある。  
いい?とまいが尋ねる。黙っていると、まいがそっと天野の胸に口を近づけた。  
待って、僕は告げた。どうしてよ、と言うまいに僕は説明した。  
何故か、モテウチに天野を抱かせようと思った。そして僕は、まいに何かをしてあげたかった。  
 
 
風呂場で、数日間精液に塗れ続けた天野の身体を洗った。無論まいも一緒だ。  
身体の消失化のせいで、まるでガラス像を洗うような錯覚に陥る。まいが石鹸を手に  
卑猥な笑みを浮かべた。案の定、石鹸が天野の膣内に滑り込む。ひゃ、と今まで出した  
こともないような声を上げた。さらにそこに僕が手をいれ、溢れる泡の中で  
膣壁をこそぎ取るように動かす。が、気がつけば結局僕は天野の中に自分のものを突きいれ、  
さらにはシャワーの口をそこに突っ込んだりしていた。天野は相当壊れており、苦痛の中にさえ  
快楽を覚えている。結局僕はさらにまいを抱き、天野とまいを絡ませるなどして遊んでいた。  
まいが天野を弄ぶ。血が滲むほど乳首を噛み、小陰唇を抓る。乳首同士で擦りあい、  
陰部を擦り合せる。その度に天野が悶えた。そんな二人を僕は見つめている。  
もしかすればあの時に、天野を消していれば良かったのか、あの屋上で。  
まいの時間が残り少ないと知っていれば、僕は小さな後悔を覚えていた。  
 
モテウチの部屋を空けると、そこには力のない彼がいた。  
ベッドに拘束され、弱りきった顔が僕に侮蔑の眼差しを向ける。  
「プレゼントだよ、モテウチ」  
僕はそう言って、すっかり弱りきった半裸・半透明の少女を投げ出した。  
あい、とモテウチが叫ぶ。天野はベッドにもたれ、小さく震えている。  
「明日には消すから、せいぜい楽しんでおけよ」  
困惑の表情のモテウチが顔色を変えた。天野が起き上がり、弱りながら  
モテウチのズボンのジッパーを開けていた。  
やめろ、と叫ぶモテウチを尻目に僕は部屋の外に出る。そのうち、天野がモテウチを  
抱くだろう。そうすれば、少しばかりは悔いも晴れる。僕の抱く奇妙な躊躇も。  
僕は家の外に出た。まいが、家に何故かあった女物の服をラフに着こなしている。  
「どうするの?こんな格好させて」  
決まってるだろ、僕は言った。デートに行くんだよ、と。  
 
 
僕らは二人並び、腕を組み、時には繋いで都会を歩いた。  
行き交う人誰もが僕の方を向いた。確かに僕には不釣合いなほど、まいは美人だった。  
町へ出て、服や装飾品を買い、喫茶店へ行ったり、映画を見たり。  
「こんなことをして楽しいの、もっといいことしてあげるのに」  
僕は小さく首を振った。楽しいよ、だってもうすぐ消えるんだろ?だったら色々なことをして  
あげなきゃかわいそうだろ?そう言うと、まいが珍しく複雑な表情をした。  
僕は矛盾していた。天野やモテウチには手ひどいことをし、まいには優しかった。  
夜に家に戻る。二つの異変が待っていた。  
帽子の女、夏美が苦しそうに胸を抑えていた。そして天野とモテウチは、抱き合うことなく  
ただモテウチが天野をじっと抱き締めていた。  
 
何をやっている、僕は言った。  
違う、と。僕の見たいのはそんなものではなかった。僕は二人の側に近づくと、二人を  
引き離した。まいに命じると、まいがモテウチのものを銜えた。十分に反り上がったところで  
僕は天野の身体を持ち上げ、モテウチの下に下ろす。やめろ、モテウチの叫びとは逆に  
肉棒がズブズブと天野の中に突き刺さった。あぁ、と天野が声を上げた。  
「ヨータの・・・やっと・・・オレ・・・・・・の中に・・・」  
良かったわね、まいがそう言って、天野の乳首を引っ張り上げる。  
「さあ、あい。最後の仕事よ。彼を、ちゃんとなぐさめてあげなさい」  
天野が自ら動く。やめろ、と何度も連呼するモテウチ、だが身体は正直だった。  
透けた腹部に突き刺さる肉棒は、入れる前に比べ明らかに膨張していた。  
僕もズボンを下ろす。空いた天野のバックに僕のものを突き入れる。二つのものに  
貫かれて、なお天野は絶頂を感じているようだった。  
 
天野の声にいよいよ熱がかかり、モテウチもまた限界に来ていた。  
二人の精液が前と後ろの穴に注がれた。天野の子宮と腸に精液が射精された。  
内に広がる熱さに、天野は悶え、感じているようだった。  
身体ががくりと傾いて、まいが支えた。  
「良かったわね、あい。こんなに出してもらって」  
天野に告げる。天野は、朦朧としながら頷いた。  
「もう、思い残すこともないわね」  
モテウチの顔がはっとする。僕とまいの顔を見た。僕はもう、まいを止める気力を持ちえていなかった。  
ただ、まいが消える、という事実が僕の顔を曇らせ、モテウチに挑発的な顔をすることはなかった。  
まいが天野の胸に口づけする。ビデオガールを消滅させる凄まじい電撃が天野の身体を貫いた。  
天野の意識は立ちどころになくなり、瞬く間に消滅まで少し、というところに至った。  
やめろ、と連呼するモテウチ。だが、僕には彼女を止める理由がない。ただ、哀れんだ目でモテウチを  
見つめていた。あと一週間で、僕はあんな悲壮な顔をするのかもしれない、と。  
天野あいの消滅は、それでも再び阻止された。止めたのは、僕でもまいでもなかった。  
部屋の入り口に、長身の男が立っていた。それは、僕にビデオを手渡したロングコートの男だった  
 
ロングコートの男は、僕とまい、そして天野を見て、言った。  
「随分と遊んだようだな」  
天野の身体を見て、腹部にありありと映る精液を見て僕に告げる。  
何しに来たんだよ、そういう前にまいが男に報告調に告げた。  
「申し訳ありません。あいの消去は今すぐに」  
いや、いい、と意外な言葉が帰って来た。  
「お前達のおかげで、あいにも完全ビデオガールの素質があることが分かった。  
あいの消去は取り止めだ。本部に持ち帰り、幾らか調整を加えようと思う」  
男の目が、僕の方に向く。驚いたな、と告げた。まさかあの薬から記憶を  
呼び覚ますものがいたとは、それほどまでにまいが欲しかったか?  
ああ、僕は答えた。現にそうだった。僕はただまいを欲していた。  
男が天野に近づく。やめろ、モテウチが言った。  
「安心しろ。消しはしない。ただ、不備のある点を直してやるだけさ」  
ふざけるな、モテウチが言う。俺には今のあいが必要なんだ、と。  
その言葉に僕は揺らいだ。僕も同じだ。僕にはまいが必要だった。  
男は天野に触れると、その陰部に軽く手を触れた。顔色が変わる。  
「やはり、資格のない者に貸すとこんなものか」  
 
どういうことだ、僕は尋ねる。男の説明は簡単に言うと、  
ビデオガールを呼ぶには純粋な心の持ち主が必要で、モテウチは天野を呼び出したが  
ビデオデッキが不良で、人間さながらの状態になった。不完全な天野を消す為に、もう  
一人ビデオガールを呼び出し、それに消させることとなった。その為に誰かを使い、  
まいを呼び出させる必要があった。偶然男が選んだのが、僕だった。  
つまり僕は、男に利用されたことになる。  
男は、天野の膣の広がり具合を見ている。やがて、天野の身体を腕で抱き上げ立ち上がった。  
おい、僕が止めた。男が振り返る。  
黙って持っていく気かよ、その台詞に男の眉が上がった。  
「俺はあんたらに散々利用されたんだぜ、それを何もせず、黙って持っていくのか」  
「奢るなよ人間。そのおかげで今まで甘い蜜を吸ってきたのは誰かな?」  
僕は黙る。確かにその通りだった。  
男がまいに告げた。さあ、お前の任務は終わりだ、行くぞ。  
意外な答えがあった。  
「申し訳ありません。私の任務は、彼を元気にすることです」  
僕はまいを見上げた。男もそうだった。意外な表情をする。  
「そうか、お前までそう言うか」  
男は奇妙な目でまいを見つめた。僕に振り向き、何が欲しい、と聞いた。  
記憶を消す薬を、と僕は答えた。モテウチと帽子の女、病院で飛び掛ってしまった  
伸子、そして予備を含め、四錠。男は意外と素直に僕に薬を渡した。  
まい、去り際に男が呼びかけた。深入りをするな、そんな言葉を残した。  
男がいなくなる。僕は手に残る薬を握り締めた。  
帝国を、自分の手で終えようとしていた。  
 
 
夏美の部屋へ行く。呼吸を乱し、苦しそうにしている。  
くすり、くすりという呻き声。夏美の上着、そこのポケットを探ると、  
カプセル型の薬があった。夏美の目が僕を見る。どうやらそれらしい。  
僕が彼女を見ていると後ろからまいが薬を取った。  
「薬が欲しいのね?じゃあ、飲ませてあげる」  
銀紙を剥がし、カプセルを取り出す。だが、やったのはスパッツをズリ下ろし、  
現れた膣口に薬を押し込むことだった。いや、と夏美が首を振るう。  
さらに指で薬を奥まで押し込む。と、僕はまいから薬を奪うと、素直に薬を  
彼女の口に飲み込ませた。薬が効いたのか、彼女の動悸が消える。  
どうして?まいが言った。彼女を使って遊ばないの?そう言うまいを僕は  
抱き締める。もう他の娘じゃダメなんだ、僕にはもうまいしかいない、と。  
そろそろ家族が海外旅行から帰ってくる、そういう点でも潮時だった。  
夏美を担ぎ、モテウチの部屋へと連れた。夏美の衣服を剥ぎ、スパッツを半脱ぎさせると、  
モテウチに抱かせた。モテウチの上で、運動系特有の引き締まった身体が揺り動いた。  
どうしてこんなことに、そんなことを呟きながら、夏美はほとんど自分から身体を動かしていた。  
僕とまいは二人の性交風景を見つめている。天野が去ってから茫然自失としたモテウチも  
彼女の胸を揉み、唇を合わせ、やることはやっていた。  
やがて二人が力尽き、ベッドの上にもたれた。  
僕は二人の口に、例の記憶消失の薬を飲み込ませた。あとは、まいと共に不自然のないように  
部屋を清掃した。その間に、悲鳴のような声が上がった。薬が凄まじい痛みを伴うのを僕は  
知っている。二人を残し、僕とまいはモテウチの家を離れた。  
まいの時間はあと六日ほどしかなかった。  
 
 
モテウチが入院、という話が僕にも伝わってきた。  
幼馴染の彼女と一緒に無理心中を図った、そんな話だ。  
僕は、家族のいない家で友人からそれを聞いた。  
まいは、僕の部屋のベッドに座っている。あれから、僕は自宅へ戻った。  
家族が帰るのはまいの消滅日の二日前、色々と時間がない。  
僕は記憶喪失の薬を手に病院に出かけた。もう一人薬を飲ませなければならない  
女がいる。仁崎伸子だった。  
偶然にも僕が入院した病院、それも彼は僕と同じ部屋だった。担当医まで同じで、  
廊下ですれ違うとまたか、という顔をした。モテウチの入院、伸子が来ないわけがない。  
僕は入り口近くの待合室で彼女の登場を待った。暫くすると、やはり伸子が姿を見せた。  
手には花がある。僕を見て、松井くん、と意外な顔をした。そして戸惑いの表情、確かに  
僕は彼女を襲いかけた過去があった。  
「モテウチの見舞い?」  
そう言うと、えっと頷く。一緒に行こうか、僕は言った。部屋までは長い廊下、  
その途中で僕は立ち止まった。ちょっと話があるんだけど、と言う。  
何、と振り返った顔を押さえ、僕は無理矢理キスをした。口には薬があり、  
それを口伝いに流し込んだ。伸子の抵抗は、薬が身体に届いたのか止まり、  
電撃が走ったように止まって、身体が崩れ落ちた。  
立ち眩みしやすいんです、通りがかった看護婦に言い訳し、彼女をベンチに寝せると、  
僕はモテウチの部屋へ向かった。彼の変わり映えを確認したかった。  
 
モテウチは、何やらぼっとしていた。  
「全然記憶がない」という。何故自分が夏美と一緒に無理心中をするなどと。  
天野あいのあの字もモテウチの口からはなかった。無論ぼくも、まいのことも。  
ただ、大事な人を失くした気がする、そんなことを言った。僕はドキリとした。  
「大事な人って?」  
「思い出せない。だけど、俺には大切な人がいた。それを俺は守れなかった」  
「また、会いたいか?」  
「そうだね、会いたいな」  
 
部屋を出ると、伸子が目覚めたのか、そこに立っていた。  
僕に向ける顔に疑いの雰囲気はない。それがかえって良心を痛めさせた。  
松井くんも来てたんだ、そんな以前と同じ会話をする。  
僕は病院を出た。すると意外な男がいた。また、あのロングコートの男だった。  
「中途半端だね、君は」  
どういうことだよ、尋ねる  
「全て上手く行くと思わないことだ。罪にはそれ相応の罰があるものだ」  
不吉なことを言う。男をにらみつけると、笑いながら男は去っていった。  
 
 
家に戻ると、まいが出迎えた。食事を取り、結局その後彼女を抱いた。  
部屋のベッドの上で、ぎこちない音を立てながら、彼女の身体を愛撫し、  
彼女の中に突き入れる。喘ぎ声と熱い息を吐き、彼女が悶え、僕が自分のものを  
突き入れる。  
だが、Hばかりではなかった。昼間には、よく街に出かけた。  
買い物をしたり、食事をしたり、公園を歩いたり、まるで恋人のように僕らは過ごした。  
そして夜は、彼女を抱く。瞬く間に数日が過ぎた。  
親が帰ってくる日、つまりまいの消滅まであと二日、とまできてしまった。  
 
家のガレージに僕はいた。一台、親父の乗るバイクがあった。  
免許はないし、ばれれば停学もありうる。それでも構わなかった。  
海へ行こう、怪訝な表情のまいに言った。  
「見たことないでしょ?」  
「いいの、そんなので時間を潰しても」  
「いいよ。一度見てみなよ。気持ちいいよ」  
僕は彼女を後ろに乗せ、バイクを走らせた。風を切り、海までひた走る。  
夏休みも終わりに来ていて、海へ向かう車はピーク時より少なかった。  
人気のない海岸へつくと、僕らは海辺ではしゃいだ。砂だらけになり、身体を  
潮くさくさせながら。まいと共に海へ潜る。出来心で、僕はつい海中でパンツを  
下ろし、まいの水着をずらし、中に入れた。衆人の中にも係わらず、僕らは交わった。  
波のせいで誰も気づかない。僕はその中でまいに「愛している」と言った。  
すると、意外な言葉が帰って来た。  
「そうね、私もその言葉、嫌いじゃなくなってきたわ」  
 
人気の全くない岩場へ辿り着く。そこで僕らは海を見ながら、頃合を見てHした。  
水着を脱ぎ、全裸となって、岩場で、または海中で僕らは抱き合った。  
海水で髪を濡らすまいの裸体は、艶美なものがあった。  
「海は綺麗?」「綺麗ね」  
合間に、会話を交わす。消える、と言っても天野を消そうと言うような処分ではなく、  
期限切れだ、と説明した。つまり、再びレンタル棚に戻り、ビデオガールの有資格者に  
借り出されるのだと。人間の言う、死ぬとは違う、そんな説明だった。  
最後の日、僕らは夜通し交わり続け、朝を迎えた。消滅は、夕方だと言う。  
僕はまいの肩を抱き、しみじみと水平線を見つめている。と、物音がして振り返った。  
そこには、見覚えのある少女がいた。  
何やら電子的な風の衣装を着込む、渦巻きのあるショートカットの少女だった。  
天野あいだった。  
「ずっと探したのよ、まい。貴方を消さなきゃならないの」  
 
天野あい、僕らが二人で壊しつくした女が、あまりにも普通な顔で立っている。  
僕らは驚きながら彼女を見つめていた。何故だかは分からないが、以前あれほど  
膨らみにかけた胸が、随分とよく隆起している。  
「貴方を消しに来たの」  
天野が繰り返す。言葉は優しく、学校でたまに聞く粗野な印象はない。だがそれは  
逆に、どこか機械じみた台詞を髣髴とさせた。  
お笑いね、まいが言う。  
「不完全な貴方が私を消しに来たというの?随分と無理を言うわね」  
「無理じゃないわ。だって私はあのお方に完全体にしてもらったのだもの。  
むしろ自分の心配をした方がいいんじゃない?まい」  
あのお方、それはあのロングコートの男のことだろうか。  
まいが天野に近づく。手を振り上げると、それを天野目掛けて振り下ろした。  
異変があった。以前あれほど放たれた電撃が、彼女の手からは発せられなかったのだ。  
 
動転するまいを他所に、天野がまいの腕を握った。  
「不完全になったのは、むしろ貴方の方ね」  
電撃が発せられる。まいの腕が光り、まいが悲鳴を上げて倒れた。  
腕が色を失い薄れている。足元の砂浜を露に映している。  
全ての立場が逆転していた。犯した罪が、ついに罰へと変わるように。  
「さあ、ショーの始まりよ、まい」  
天野の腕から電撃が降り注ぐ。まいの水着が跡形もなく吹き飛び、まいの裸体が電撃の雨にさらされた。  
まいはその中で悲鳴をあげ、身をよじり苦しんだ。  
やめろ、叫ぶ僕を天野の電撃が襲った。身体全身が痙攣し、凄まじい痛みを僕は受けて倒れる。  
成す術がなかった。天野の電撃がまいの身体をじわじわと消失させていった。  
電撃の雨が止む。天野が微笑んだ。そこには、身体全体を透明にさせたまいが力なく横たわっていた。  
天野が弄ぶようにまいの身体を愛撫する。指で優しく身体をなぞり、股間で手を止めると、その手が拳へと  
固まった。ぐぞ、と強引に拳をねじ込む。まいが甲高い悲鳴を上げた。天野がその拳を力ずくで奥まで押し込んでいる。  
手は、肘の辺りまで入り、そこに至るまでまいが幾度も悲鳴を上げる。  
「気持ちいいでしょう?まい、もっと喜びなさい」  
ちらちらと天野は僕を見た。意識するように。  
「そこでよおく見てなさい。貴方のビデオガールが消滅する様を」  
やめろ、僕は繰り返す。気づいてはっとした。僕の立場はモテウチそのものだった。  
僕とまいに天野を奪われ、目の前で犯された彼そのものだった。  
何てことだ、僕は嘆いた。僕にとってのまいは、モテウチにとっての天野だったのか?  
では、僕のしたことは・・・  
 
「さあ、死のくちづけの時間よ」  
そう行って、天野がまいの弱りきった身体を抱えた。懐から何やら、電子的に光るペニス型の  
バイブを取り出すと、自分のものと、まいのものに挿入し、繋げる。  
「これが何だか分かる?まい」  
バイブを揺すると、まいが顔を歪めた。  
「これはね、ここからも口からのと同じ威力の磁力放電を送り込めるものなの。  
つまり、貴方は二倍の磁力放電に晒されるのよ。良かったわね。痛みを感じる暇さえ、  
貴方には与えないわ」  
まいの腹に深々とバイブが突き刺さるのが透ける腹部から見えた。  
やめろ、と叫ぶ暇は僕にはなかった。ただ、天野に胸にキスをされ、僕に何ともいえない  
表情を向けるまいを見つめていた。力尽きて声が出ないのか、ただ口をパクパクとさせる。  
読唇術など知る訳がない僕も、何故か彼女が何を言ったのかは理解できた。  
ありがとう、楽しかった、さようなら  
 
力強い電撃がまいの身体に注入される。まいが天野の腕の中で踊った。  
身体が勢いよく薄れ、たちまちまいの意識はなくなった。反応がなくなり、腕ががくりと落ちる。  
光の粒のようなものが彼女の周囲に現れ、身体がガラスのように透明になっていく。  
段階がさらに進む。天野の、まいの抱き方が不自然になった。それは、腕や脚の先端から、  
部分的な完全消滅が起こっていたのだった。消滅のラインがじわじわと上がっていく。  
僕は何も叫ぶことが出来ず、ただ消されていくまいを見つめている。どうすればいい、それは  
分かっている。分かっているが、やめろ、と連呼しただけで止めないのは分かっている。  
力づくで行っても、先ほどのように電撃を喰らうだけだ。  
では、どうすればいい?僕は途方にくれた。  
と、一つだけ答えがあった。あの時のモテウチには出来ないが、僕には出来る。  
何故なら、目の前にいる完全ビデオガールは、元・不完全ビデオガールだったからだ。  
 
天野、僕が呼んだ。無視するようで、しかし目はしっかりこちらに向いた。  
何、と呟き、目の色を変える。僕の様子が違ったからだろう。  
僕は息を吸った。深呼吸して、半ば賭けのような気持ちで彼女に叫ぶ。  
「モテウチが待っている」  
その言葉に天野の動きが止まった。ずる、とまいの身体が落ちた。  
さらに畳み掛ける。  
「病院でモテウチが待っている。お前を、自分の大切な人だと言って」  
天野がぶるぶると全身を震わせた。両肩を掴み、凄まじい絶叫を上げた。  
まいの身体が転がり、僕はそれを掴み、絶叫する天野を見つめた。  
天野が岩場に身体をもたれさせる。膨らみのある胸が元通りというか、  
元の盛り上がりに欠けるものに戻り、しぼんだ。天野の目に、涙が零れていた。  
その目は感情に輝いている。ヨータ、と小さく呟くと、気を失った。  
大丈夫か、まいに言った。まいは、うっすらと目を開いた。部分消滅したはずの手足は、  
姿は見えぬものの元に戻っている。だがそんなことはもうどうでもよかった。  
どちらにしろ、彼女は消えるのだ。僕が守ったのは、最後の六時間を守っただけだった。  
だがそれでも、僕には良かった。弱りきった彼女の唇にキスをした。  
愛している、散々嫌われた言葉を僕は告げた。  
愛している、同じ言葉が帰って来た。  
「不完全だ」「不完全ね」  
時間は、静かに流れていった。潮騒の中でゆっくりと、しかし確実に。  
オレンジ色の太陽が水平線に迫る。時間だった。  
まいの周囲を光の粒が取り巻いた。僕はそんなまいをぐっと抱き締めていた。  
「お別れね」「また会えるさ」「会えないわよ」「借りるさ」「あるかしら?」「探すんだよ」  
他愛のない会話とキスが、彼女との別れだった。光の粒が空に上り、彼女の姿は跡形もなく消えた。  
ビデオガールまいは、消えた。歪んだ形ではあったが、嫌いであったはずの愛と共に。  
 
 
その夜、僕は病院へ向かっていた。窓から侵入すると、モテウチの病室へ向かう。  
そこへ、連れて来た天野を寝かせる。せめてもの罪滅ぼしだった。  
僕は病院を出る。すると、あのロングコートの男が立っていた。  
「どうだったかね、ビデオガールは」  
僕は男を見つめている。沸々と腹の中が煮えたぎった。  
僕は力任せに男の顔面を殴りつけた。それは、男から受けた恩恵という以上に、  
結局は弄ばれたという怒りがあったからだった。  
男は、口元を拭い笑っていた。僕は、残った一粒の記憶喪失の薬を投げつける。  
最早不要だった。彼女のことを忘れるなど、僕には出来なかった。  
 
二学期が始まる。僕は高校へと向かう。  
モテウチと天野は、相変わらず仲がいいのか悪いのか分からない。  
帽子の女夏美は町で偶然通りすがった。元気そうだった。  
伸子とは、普通に会話が出来た。僕の黒い心は、いつの間にか払拭されていた。  
放課後、僕は自転車を走らせる。幻のビデオ屋があるというのだ。  
そこにあるビデオを借りようと思う。ビデオガールまいを。僕は自転車のペダルを踏みしめた。  
「よーし、いくぞーっ!」  
 
おしまい  

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