ロングコートの男は、奇妙な威圧感を持って僕に告げた。  
奇跡が起こる、と。  
渡されたのは「GOKURAKUビデオ・元気を出して」というビデオテープ。  
アイドルビデオか、アダルトビデオの類いか。  
が、たかがビデオだ。どうせタダで貰ったのだから、文句はない。  
学校の視聴覚室は、期末テストの初日で、人が来ることはまずない。  
ビデオをセットすると、画面に現れたのは長髪の綺麗な女の子だった。  
「初めまして、神尾まいです」  
少女が告げる。  
「なんか落ち込んでるみたいね。フラレちゃったの?」  
鋭いところを突いてくる。当たりだ。思わず苦笑した。  
ついさっきだ。好きな子に告白し、玉砕した。  
仁崎伸子という同じ一年の子だ。  
無理もない。優柔不断な彼氏がいる。  
彼女がいるにも係わらず他の女に声をかけるいい加減な男だ。  
別れた方がいい、という助言かつ告白は、見事に流された。  
まだ時期ではなかった、分かっているが、苛立ちはただ胸に残る。  
ビデオの中の少女が、僕を見つめて話している。  
奇妙だ、ふと思った。視線が、合っている。いや、彼女が僕に合わせている。  
彼女が告げる。何でもする、と。振った子のことなど忘れさせると。  
ずっとそばにいてくれると、ここから抜け出て自分の所に来れる、と。  
「名前を読んで」彼女が告げる。  
不可解、その思いが僕を動転させた。一人きりの暗室で僕は叫ぶ。  
これはビデオだ。馬鹿馬鹿しい。テレビから出てくる訳がない。  
すると、少女は寂しげな微笑を浮かべ、そう、とだけ呟いた。  
ビデオが、ぶつりと消えた。  
ただの悪戯か、その時はその程度しか考えていなかった。  
 
視聴覚室を出ると、待ち構えていたのはあの、ロングコートの男だった。  
先ほどよりもより強い威圧感で、僕に迫る。  
念じろ、と。一心に念じればまいは必ず現れる。  
その迫力に押されるままに、僕は再びビデオを入れた。  
「ありがとう、また再生してくれたのね」  
おかしい。先ほどとは台詞が違う。  
あの男の言うことは、まさか、本当?  
何だか、馬鹿馬鹿しくなってくる。  
もしもこれをみている人がいたら、さぞ滑稽なのだろう。  
僕は画面を見つめる。少女を見つめる。  
よし、もうやけっぱちだ。祈ってやろう。  
何でもいうことを聞くのなら、出てきてくれ。  
出てきて、僕を楽しませてくれ。  
すると、何かが光った。  
心地よい光、テレビ画面が光って、僕はそれが与える不思議な  
気持ちよさの中にあった。  
微かに見えた。画面から飛び出てくる、女の子の手。  
光が、消える。  
何が起こったのか分からず茫然自失とする僕の後ろに、誰かがいた。  
「こんにちわ」  
画面の中の少女が、そこに立っていた。  
 
神尾まい、と少女は名乗った。  
信じられないことだった。  
画面の中の少女が、今僕の前に立っている。  
少女は、僕に笑いかけると告げた。  
「あなたの好きなことなんでもしてあげる。何がいい?」  
恐る恐る僕は、手を出して、と言った。  
少女が躊躇いもなく手を出す。  
その手を、僕は握った。温かみのある手だった。  
笑ってみせて、そう言うと、少女は笑った。  
僕は、少女を見つめた。  
少女が僕を見つめ返す。  
困惑を覚えながら、僕は、一歩踏み込んだ要望を告げる。  
「パンツ、見せてくれる、とか、いい?」  
「はい」  
あまりに、あっさりとした返事に驚く  
「ホントに、いいの?」  
「いいわ、あなたが元気になるのなら」  
 
少女は、ゆっくりとスカートの裾を、たくし上げた。  
透き通るような肌の腿と、縞柄のパンツが露になる。  
顔を見る。まいの顔は、恥じらいで赤らんでいる。  
「恥ずかしい?」  
聞きつつ、裏では、男のツボを知っていると考えた。  
無表情より、こちらの方が僕には何かクる。  
恥ずかしいけど、大丈夫、まいが言った。  
その従順さが、僕の中にある欲望をゆっくり解き放っていく。  
「……さわるよ」  
「いいよ」  
手で、そこに触れた。  
あっ、とまいが声を上げる。今までと違う半トーン高い声  
柔らかくて、温かい、初めて触れる女の肌は、そんな感触だった。  
僕は奇妙な興奮の中でただその肌に触れた。  
腰に手をやり、ただ顔をそこに押しつけ彼女の名を叫ぶ  
「まいちゃん」  
 
まいのスカートがスッと落ちた。  
そのまま服を脱ごうとするのを制止する。  
「僕に任せて」  
映写機の置かれたテーブル、上にある余計な機材を薙ぎ倒す。  
ここに乗って、と言うと、素直に従った。  
ただただ、従順なまい。  
僕の中の不安や疑念・抵抗感が跡形もなく崩れ落ちていく。  
机の上に四つんばいになるまい、  
ブラをつけておらず、タンクトップの隙間から乳房が見えている。  
僕は興奮のままに、彼女の服を剥いでいった。  
その一枚一枚ごとに、僕の理性も剥がれていく。  
現れた形のよい乳房に触れ、薄い陰毛のある秘部を弄ぶ。  
まいが、その度に甲高い声を上げる。  
その声に後押しされ、僕はまいを攻めた。  
それまで身につけていたなけなしの知識で、あとは本能と、興奮のままに。  
ジッパーを下ろし、硬くなったものを取り出す。  
もう、限界だった。亀頭を、性器に押し付ける。  
だが、愛液のせいか、ぬめり、ズルりと方向が逸れる。  
慌てて押し入れようとするが、入らない。  
「落ち着いて」まいが告げると、そっと指で広げてみせた。  
ピンク色の、誰のものも通したことのない膣口  
導かれるままに僕は、肉棒を中に押し入れる。  
膜の裂ける感触、僕のものがきつく締め付けられる。血が滴り落ちる。  
まいの顔が痛みに、そして快楽に喘いだ。  
 
大丈夫?確認の為に告げた言葉に、まいは笑顔で返した  
「いいわ。・・・好きなように・・・」  
言われるままに、動く。  
自分のものを幾度も突き入れた。  
まいの腰を押さえ、抱き寄せ、奥まで押し入れる  
目の前がくらくらした。  
互いに汗だらけで、まいは熱い息を吐いていた。  
何かを忘れている。そうだ、キスだ。  
キスしようとしたが、下で激しく動いてる為か、唇を合わすと言うより  
顔を押し付けあうようなものだった。  
今度、声を上げたのは僕の方だった。  
別の限界だった。  
外に、と抜こうとする僕を、まいが制止する。  
「いいのよ」  
「え」  
「わたしはビデオガール、あなたの思い通りに・・・」  
ほんの少しの躊躇いの後に、僕の口元が笑みでひきつった。  
抜きかけた男根を、再び突き入れる。  
振動と共にまいが激しく声を上げた。  
限界、まいの中に勢いよく出した。  
まいの身体が弓状に反り上がり、そのまま僕の身体にもたれた。  
軽い眩暈の中で、僕のものを抜く。  
うっすら血の流れる膣口から、白濁した液が流れ落ちる。  
立ち上る罪悪感、それも束の間だった。  
もういいの、と意外な事を言った。  
いつの間にか、僕のものが咥えられている。  
口の中で、舌に嘗め回されて、再びそれはそそり立った。  
まいが、笑う。妖しく、誘うように。  
何かが壊れる音がした。今思えば、理性だったのかもしれない。  
僕は再び、まいを抱いた  
 
何時間経ったのか、何日経ったのか、  
僕は意識を混濁させながら、裸で眠る少女を眺めている。  
あれから、幾度も彼女を、まいを抱いた。  
その結果で、少女のあそこは白濁した液で溢れていた。  
視聴覚室は、僕と彼女の帝国だった。  
「……気がついた?」  
呼ぶと、彼女は一つの抵抗も見せず僕の前に立つ。  
まいが、髪をかきあげた。暗闇に黒髪がふわりと舞う。  
僕はその全身を見つめる。形のいい胸に、すらりと整ったスタイル、  
欠点が浮かばない。テレビや雑誌で見る、美少女と名のついたアイドル  
彼女はそれらに引けを取らない。いや、それ以上に、良かった  
「ずっと起きてたの」  
ああ、答えた。夢、そんな気がした。寝てしまっては、覚めてしまう気がした。  
まいを引き寄せ、唇を合わせる。  
「愛してるぜ」  
つい、言った。すると、彼女の顔が突然固まり、冷淡なものになった。  
「愛ってよく分からない」  
嫌いなの、続く言葉に焦った。何か変なことを言ってしまったか、不安に陥る。  
「あなたは嫌いじゃないわ。元気出して」  
安堵する。が、同時に、今までの酔いが覚めた。  
人間の生理的活動が吹き返す。空腹・睡眠・咽喉の渇き、疲れ。  
と、まいが服を着出した。トイレ、という。  
ダメだ、と扉の前に立ちはだかる。人に見せてはいけなかった。  
それだけで、この硝子のような帝国は崩れるのだ。  
けど、垂れ流させるわけにもいかない。  
傍らに、バケツがあった。止むを得ない  
「ここに」  
床に置かれたバケツに、まいが腰を下ろす。  
正気ではない。僕はずっと、排泄する様を見ていた。  
そこまでして、僕はこの淡い帝国を守りたかった  
 
あれから、何日経ったのか  
僕は顔を上げた。疲労と衰弱で、身体がまるで  
油の切れた機械のように動かない。  
一体いつ眠ったのか、それが記憶にないほど  
僕の身体は衰弱の限界を超えていた。  
傍らを見る。全裸のまいが眠っている。  
肩を揺すり、顔をはたくが、起きない。  
まるで死んだように眠っている。  
ひたすら僕らは、セックスをし続けた。  
僕は出し続け、彼女はひたすら僕のものを受け入れ続けた。  
まい、と呼ぶ。反応はない。  
アンモニア臭の微かに漂う部屋。が、それを嗅ぎ取る神経も麻痺していた。  
ただ、その臭いの影響か、疲労困憊からなのか、僕にあるのは  
純粋な、動物的な本能しかなかった。  
断りもせず、まいの脚を広げた。  
股間は、僕の精液で汚れていた。幾度も貫かれたそこは、  
蓋をするように僕のものが詰められている。  
愛撫もせず、いきなり突き入れる。  
眠るまいの身体が揺り動く。意識があろうとなかろうと関係なかった。  
現にまいのそれは、よく僕のものを締めつけた。  
僕は一人汗を掻き、動かぬ彼女の中に最後の射精をする。  
「・・・・・・っ」  
ふらふらと倒れこんだ。まさに全ての精力が、なくなった。  
全身から力が抜けていく。男根が抜けると、僕は横に転がった。  
彼女の横顔を見る。弱りきった顔。けど、僕には焦燥感は沸かなかった。  
感情らしい感情が、何も沸かなかった。それほど、僕は衰弱していた。  
僕は眠った。本当は気絶なのかもしれない。  
帝国の終わりだった。  
うっすら目を開けると、そこに映ったのはロングコートの男だった  
 
僕は、身体を動かせないまま、ただ目だけで男を追う。  
まいの現れたビデオを渡した、ロングコートの男  
蔑みの表情で呟く。資格を持たない男に渡せば破滅するだけだ、と。  
憤慨する気力もほとんどない。ただ、水、と僕は呟く。  
と、男がビデオを操作している。  
その途端、機械音とともにまいの周囲を電流らしき光が包んだ。  
男がぶつぶつと言っている。無駄な時間を過ごした、巻き戻す、と。  
やがて、電流が消えた。ぼやけた視界の中に、先ほどまで意識も絶え絶え  
だったはずのまいが、服を来て立っていた。  
僕を見下ろす心配そうな目、その横で男がまいに話しかける  
お前には別の仕事がある、出来損ないのビデオガールを消してもらいたい、と。  
何を言っているのか分からない。が、男が僕の前にしゃがむと、懐からカプセル状の薬を取り出した。  
お前はこの一週間夢を見ていたのだ、そう言うと、僕の口に薬を捻じ込もうとする。  
何の薬かは分からないが、何やら妖しげなものだった。男の口走る言葉、端々に聞こえる、  
忘れる、記憶、失う、という言葉。記憶を失わせる薬か、ぎりぎりの想像力がそれに気づかせた。  
と、まいが男の腕をとった。僕の側にしゃがみ、顔を近づける。  
優しい口づけだった。  
そのまま口中で舌が絡み合う。  
何かが通り抜ける。口伝いに飲まされた薬だった。  
頭が割れるような頭痛、まいが最後に僕に告げる「さようなら」と。  
二人が部屋を出て行く。僕は激しい頭痛に絶叫し、床をのた打ち回る。  
忘れるものか、歯を食い縛る。あの少女のことを忘れるものか、  
必死の抵抗のように僕は腕を掻き毟る。痛みで意識を呼び戻そうと、もがく。  
だが、薬の効力と、疲労しきった身体、僕の抵抗は、あっさりと鎮圧された。  
僕の記憶は呆気なく失われた  
 
 
目が覚めると、そこは病院の一室だった。  
見舞いに来る両親に、クラスメイト  
意外な言葉に驚く。僕が視聴覚室に篭り自殺を計ったと。  
そんなことはしない、否定はするが本当かどうかは分からない。  
何故か、何も覚えてなかった。期末テストの最中、僕は  
一体何をしていたのか。誰かといたような気がする。けど、一体誰と……。  
身体の衰弱がひどい為、一週間ほど入院することになった。  
嬉しいことがあった。よく、仁崎伸子が見舞いに来てくれる。  
けど、伸子の目はどこか上の空だった。僕に向く訳がない。  
あの留年した男、モテウチとかいう男に向けられている。  
軽い嫉妬を覚えながら尋ねる。記憶がない、一緒にいたこととかある、と。  
ないよ、と言われた。記憶の琴線に触れることもない。ただの夢だったのか、  
ただ、直感的に思う。それが夢だとすれば、決して悪い夢じゃない、  
あれは、いい夢だったのではないかと。  
既に夏休みだった。それにも係わらず病院のベッドで退屈な日々を過ごす。  
動けない自分がもどかしい。今頃友達らは、海へ遊びに行ったりしているのか。  
腕に巻かれた包帯が暑くて、汗の感触がもどかしかった。医者が言うには、怪我をしていたという。  
僕は気になって、包帯をいじった。テープを剥がすと、一枚のガーゼが貼られている。  
恐る恐る剥がそうとする。が、痛みで指を引いた。何しろ、怪我だ。仮にも治療した後に  
剥がす意味はない。けど、気になる。そこに何かがある、そんな気がした。  
僕は、ガーゼを剥がした。痛みを、歯を噛み締めて堪え、一気に剥がした。  
生々しい血の残るガーゼ、だが、僕はそこにあるものに目を見開いた。  
爪で幾度も引っ掻かれた痕、そこに、確かに刻まれている一つの名前  
マイ、という傷。  
「・・・」  
僕の失われた記憶が、その言葉が鍵となって蘇っていく。あれは夢ではない。  
自殺未遂などではもない。僕は、一人の少女と一緒にいたのだ。  
まいという少女と。ビデオガールまい、と。  
 
 
仁崎伸子がまた見舞いに来た。花屋で買ってきた見舞いの花を  
花瓶に挿している。その仕種を僕はベッド上から見つめている。  
数日前とは違う視線、僕の目は彼女の顔から、つい胸や腰に注がれている。  
視聴覚室での記憶、蘇ったそれが僕の心にドス黒いものを与えている。  
何故何度も見舞いに来てくれるのか、そんなことはどうでも良かった。  
と、髪が伸びていると言われた。切る?という。  
僕は、素直に応じた。ベッドの上に新聞紙が敷かれ、そこに僕の髪が落ちていく。  
鏡で見る僕の顔、久々に見る自分の顔、何か少し違うと感じられた。  
伸子の身体が、近い。顔を見上げると、目が合った。  
近距離に、伸子の顔に微かな躊躇いと恥じらいが現れる。だが、僕は違う。  
僕の顔は一つも動じない。数日前まで僕が持っていた繊細な神経は、すっかり磨耗している。  
あるのは、ドス黒い欲だった。あまりにも明確な欲だった。  
僕は、虚を突いて伸子を抱きしめる。伸子は戸惑いながらも、拒まなかった  
モテウチのこと忘れられないんだ、そう聞くと、うん、と頷く。  
すると、唾棄するような口調で、顔を引きつらせて、僕は彼女に言った。  
「だったら、僕が忘れさせてあげるよ」  
僕は彼女に襲いかかった。驚いた彼女は数刻成すがままだった。  
髪の毛が舞い散る中、僕は彼女をベッドに押し倒した。僕を呼ぶ声を物ともせず  
唇を奪い、上着のボタンを外し、ロングスカートを舞い上げさせる。  
松井くん、と僕を呼ぶ声。それを聞き流し、僕はブラのホックを外し、スカート下の  
パンツを下ろそうとする。  
悲鳴のような叫びとともに、僕は胸を蹴り飛ばされ、床に落ちた。  
呆然と顔を上げると、そこには胸元を手で隠す涙目の伸子がいた。  
伸子は、走り出ていった。僕は一人残され、自己嫌悪と、もう一つの感情に駆られる。  
彼女でなければダメなのだ、ビデオガール、神尾まいでなければ  
 
 
僕は、退院した。退院するや、両親が心配するほどに町を探し回った。  
あの少女はいないか、長髪の少女は、いないのかと、日々歩き回る。  
思い出したが為に、欠けてしまったもの、それを埋めるのは彼女しかいなかった。  
だが、手掛かりはないに等しい。ロングコートの男が言った、別の仕事がある、という  
言葉。想像しても分からない。案外、僕のように別の男を抱いているのかもしれない。  
それでも構わなかった。ただ彼女に会いたかった。  
そんな時に、両親が告げる。家族で海外旅行に行くと。僕も行く予定だったが、何しろ病後であり、  
やんわりと断った。今、行くわけにはいかない。  
僕はひたすら探した。だが、虚しく時が過ぎていく。  
中央線の上り線内で僕は揺られている。都会の人ごみの多い町ならすれ違うかもしれない、  
淡い魂胆だった。だが彼女は、意外な場所にいた。  
三鷹駅に電車が止まる。昼下がり、ホームには大勢の待合客がいた。  
と、その中に一人、電車が来るや、ホームへ上がっていく少女がいた。  
奇妙な光景に目を向けて、思わず目を見張った。  
少女を追う、ロングコートにミニスカートの、スラリとした女性。  
背まである長髪が風で靡いた。大人びた印象があったが、紛れもなく、神尾まいだった。  
慌てて追おうとする僕、それを待ち構えていたのは乗車する客だった。  
僕はそれを掻き分けるが、無常にも直前で扉が閉まる。電車が、動き出す。  
耐えられなかった。彼女を見過ごすことなどは。  
僕は、窓を開けた。客の目も気にせず、そこからホームに飛び降りる。  
僕は走った。ついに彼女を見つけたのだ  
 
 
三鷹駅の南口を出る。駅前のロータリー  
駅へ向かう人、バスを待つ人、夏休みの一日、俄かに人の多くなる町  
まいの姿が、見当たらない。南口へと出るまでは分かったのに。  
確か、少女を追っていた。見覚えがあるような、分からない。  
僕は走った。南へ伸びる大通りを、そしてわき道から広がる住宅街の中を。  
閑静な住宅街だった。ここじゃない、感覚的に分かる。ふと見ると、大通り  
沿いに隣接するビルが見えた。あの辺りか?勘だった。  
と、角を曲がりかけて慌てて止まった。見知っている顔があった。  
モテウチだった。それも、隣に見たことのない帽子を被った女を連れて。  
和気藹々に話をしながら歩いている。何故奴が、と思ったが、奴はこの辺りに  
住んでいると聞いたことがあった。  
今は時間がない。僕は大通りへと戻る。その、裏通りへと入る。  
通りを一本変えただけで、辺りは閑散とした雰囲気があった。すぐ側には工事現場がある。  
物音がしてはっとした。工事現場の中から、小さいが、爆発のような音。  
僕はシャッターの隙間から中を覗いた。走る二つの影が見えた。  
うち一人、追う方は、黒い長髪をなびかせている。僕はぎりぎりあいた隙間に身体を挟み込んだ。  
服が少し破れたが、力ずくで抜ける。だが予想外に時間がかかった。  
二人は、すでにその場にいない。僕は呆然と立ち尽くす。結局、彼女には届かないのか。  
その時、悲鳴のような声が上がった。僕の、丁度真上だった。  
電撃、と言えばいいのか、それが光り、まいの追う少女を捕らえていた。バチバチと音を鳴らし、  
服の破片がひらひらと落ちる。一体何が起こっているのか、分からない。  
だが、現場よりすぐの、水色っぽいビルの屋上に、ロングコートの女性がいる。  
その手から、電撃らしきものを操りながら  
 
電撃の鞭、それに絡め取られた少女の悲鳴が止んだ。  
宙に浮いたまま、掴まれた右腕以外、ぐったりと手足が落ちる。  
屋上、手すり際のまいが、腕を引く。すると、少女の身体が宙に舞った。  
そのまま、屋上へと消える。  
僕は今しがた起こった出来事に驚きつつ、慌てて辺りを見回した。  
水色のビル、その階段がすぐ近くにある。  
高鳴る胸と共に階段を駆け上がった。一体何が起こっているのかという疑惑、  
そして再びまいに出会えるという思いが、僕の足を速くさせる。  
屋上に辿り着いた。塔屋を出ると目の前には柵があり、左に空間があった。  
二人の少女がいた。一人はまいで、もう一人はボロボロになった服の少女が  
うつ伏せに倒れている。まいが、ブーツで少女の臀部を踏みつけると、力任せに  
転がした。少女の身体が仰向けになり、見覚えのある顔にはっとした。  
天野あい、確かモテウチがしきりに気にかけている女だった。それが何故、まいと?  
が、目を凝らしてぎょっとした。天野の右腕が透けて、足元のコンクリートが見えている。  
そしてまいが手から出した電撃、一体何がどうなっているのか分からない。  
だが、結局のところ僕が答えを推論する必要はなかった。  
まいが、天野の脚を開き、自分の脚を絡めた。動けなくするように。  
動く様子のない天野に、悪戯っぽい顔で語りかけている。攻撃した拍子に道路まで飛ばれたら  
まずい、こんなところで一人で消えていくなんて寂しいわね、不完全のままだらだら再生していたあなたが悪い、と。  
まいの手の中で、光る電撃らしきものが集まっていた。  
 
手に集まる電流らしき塊、それを容赦なく足元の天野に叩きつける。  
耳障りなスパーク音と共に天野が悲鳴をあげ、衣服が弾け飛んだ。  
自らが出す電撃の光に照らされるまいの顔は、笑みがある。  
対照的に天野は、まいの放つ電撃の雨の中でのたうち回り、顔を痛みに歪め悶えていた。  
服が弾け、膨らみに欠ける乳房が露になる。  
スカートとパンツが弾け飛び、毛のない秘部が現れる。  
さらに容赦ない電撃に、天野が痙攣するように震え、身悶えた。  
しきりと誰かの名を叫んでいる。ヨータ、ヨータ、と。それはどうやらモテウチの名前らしかった。  
と、電撃を受け続ける天野の身体に、異変が起こっていた。  
右腕と同じく、身体が透き通っていく。  
胸が透け、腕が透け、脚が透けて、その奥にあるものを映していく。  
まいが、笑った。手から放っていた電撃が止む。  
仰け反りかえった天野の身体が、力なく横たわった。  
電撃の余波か、薄い煙が舞い上がり、天野の千切れ飛んだ衣服の破片が浮いた。  
煙が収まると、電撃を受け続けたものの姿が視界に晒された。  
靴と靴下以外、全て剥ぎ取られた、足元のコンクリートを写す半透明の裸身があった。  
「綺麗」とまいが素直な口調で告げた。そして、倒れる天野に迫るまいを、  
僕は塔屋の側からじっと見つめていた。  
 
まいが、天野の身体に触れながら、何やら語りかけている。  
小声で、会話の内容は聞き取れない。だが、まいの指は天野を弄ぶように  
秘部や胸を触っている。僕は妙な興奮を覚えながら二人を見つめている。  
と、まいが天野の身体を抱きかかえた。何やら、強い口調と表情で言った。  
あなたは消えるしかない、と。その表情は、以前僕が愛している、と口にした時、  
浮かべたものに似ていた。しかし、天野を膝上に乗せ、抱き寄せただけで何をするのか。  
不思議に思った僕への答えは、天野の胸へのまいのキスだった。  
一体何の真似を、そう疑問に思いかけた時、甲高い天野の悲鳴が上がった。  
全身を痙攣させ、顔を苦痛に歪め、張り上げるような絶叫を上げた。  
目を凝らし見ると、手からのものとは段違いの電撃が天野の胸を貫いていた。  
まいの口から、多量の電撃が放たれているようだった。  
電撃の音の影で、ザザ、とテレビ画面で聞く雑音のような音が聞こえる。  
見ると、現に天野の身体にノイズのようなものが走り、時折ぶれたりした。  
ビデオガール、恐らく間違いなかった。そして消える、つまりビデオガールの死  
天野は、見る限り、まいの腕の中で抵抗しているようだった。首を振り、痛みに耐えながらも、  
腕を振り解こうと身体をよじっている。  
一方のまいは、冷静な仕事人とばかりに、身動き一つせず、天野に電撃を放っていた。  
僕は、未だに両者を傍観していた。果たして、どうするべきなのか。  
天野は、素性は知らないが、仮にも同じ学校だ。だが、モテウチのことを思うと心に影が差す。  
一方のまいは、以前とは随分と雰囲気が違う。同一人物に違いないが、果たして僕のことを  
覚えているのか、そんな危惧を覚えた。  
やがて悲鳴が、静かなうめき声になり、徐々に、聞こえなくなった。  
天野の顔からは表情が消え、身体を痙攣させながら電撃を受け続けている。  
見るからに身体の透明化は進み、今にも消えそうな感じさえあった。  
僕は、どうするか、迷っている。その時だった。  
足元に転がっていた石を、カツンと、蹴ってしまったのだ。  
 
石が、屋上の柵に当たる。甲高い音が鳴った。  
しまった、素直に僕は思った。二人の少女を見る。  
電撃の音が止み、まいの腕からどさりと天野の身体が落ちる。  
消す、という言葉の通り、天野の身体は、足元のコンクリートを微細に  
映すほど透けてしまっていた。  
まいが、こちらを向く。向けられた、殺意を帯びた表情に、僕は焦りを覚えた。  
だが、目が合うと、その顔が一変する。  
「直人くん?」  
驚きと、微笑の入り混じった顔だった。僕は、それに安堵と、底から沸き上がる喜びを覚えた。  
大人びた風貌にスタイル。それでも、僕は再び出会えたのだ。ビデオガールまいと。  
「けど、どうして?」  
記憶を失わせる薬のことだろう。僕が簡単に説明すると、信じられない、という表情を浮かべた。  
「あの薬が効かないなんて・・・」  
「忘れたくなかったから」  
僕はまいに抱きついた。まいの方は、拒絶することもなかった。  
ああ、これだ。あの視聴覚室で幾度も抱いた人がここにいる。  
と、僕の目が、地面のコンクリートを映す透明の少女に向いた。  
「出来損ないのビデオガールを消しているところだったの」  
事も無げに言う。不完全の不良品だと。ビデオガールには本来使命があり、  
まいは「元気を出して」、天野は「なぐさめてあげる」というタイトルだったという。  
だが天野は、使命はおろか、人間のように暮らし、愛などと口にする。  
「愚か者の極みね」  
まいが天野の髪の毛を持ち上げた。意識がないのか、手足がだらりと下がっている。  
まいが、そのまま天野の胸に口をつけようとした矢先、僕は告げた。天野を助けたい、  
という気持ちがどこかにあったかもしれない。  
「この辺りにモテウチがいた」  
その言葉に、まいの顔色が変わった。先ほどの仕事人のそれだった。  
「邪魔者は、排除しなくちゃね。貴方は別よ。私を呼び出してくれた人ですもの」  
まいが立ち上がりかけて、しかし、足元の天野を見ると、脚を広げて僕に見せた。  
「ところで、この娘まだ処女なのよ。どう、ハメてみる?」  
 
 
まいが、塔屋の奥に消えた。屋上に残されたのは、全身を透けさせた全裸の天野と  
僕だけだった。仰向けに倒れる天野は、額から汗を流し、胸で弱々しい呼吸をしていた。  
その身体を透けて、足元の地面、コンクリートの汚れや継ぎ目が見えている。  
僕は、恐る恐る手を伸ばした。実体があるのか、そんな疑問があった。  
胸に手を触れる。温かい感触があった。膨らみにかけるが、柔らかい。  
そのまま乳房を揉み、乳首に触れ、口をつける。電撃の作用か、硬くなっている。  
僕の中のドス黒いものが、再び動き出していた。  
意識もなく、身動き一つない天野の身体を舐め回す。ガラス像を舐めるような、しかし  
その感触は温かい。不思議な感覚だった。乳首を噛むと、顔がぴくりと反応した。  
手を股間に伸ばす。触れると、僕の顔に笑みが浮かんだ。  
天野のそこは濡れていた。電撃に悶え、涙を流しながら感じていたのか。  
指を挿入する。きつく、一本しか入らない。それより、身体が消失している為か、  
膣に入れた指が外からも見える。僕の指が動く度に、天野の顔が反応する。  
長々と愛撫をする必要は最早なかった。  
僕はズボンのジッパーを開け、男根を膣口に押し付ける。  
う、と声が上がった。僕は指で押し広げたまま、男根を突き入れた。  
処女膜を引き裂き、貫くように僕のものが進む。痛みに天野の顔が歪み、口から  
熱い息を吐き、その目がうっすらと開く。  
「あ・・・、な・・・に・・・?」  
虚ろな目が、驚きで大きく見開いた。天野の透明な腹部に、僕の男根が深々と  
突き刺さっていた。色の薄い血を膣から流しながら  
 

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