『やっぱり……?』  
 
 
二人のデートは植物園とか公園とか。 植物が多い、人が少ないところが常だけど。  
今日は珍しく瑞希が「悠里の部屋がいい」と言い出し、部屋でゆっくりすることになった。  
どんな場所に行っても瑞希は途中で眠ってしまうのであまり変わりないが。  
それでも部屋の中なら爬虫類が大集合することもないし、安心してデートができるのでちょっとうれしい。  
 
「……ここに座って」  
「うん」  
瑞希は悠里をベッドの近くに座らせると包むようにぴったりと後ろからくっついて座る。  
そうして自分は外国の科学雑誌を、悠里は最近手に入れたペーパーバックを読むことにする。  
 
瑞希は以前、人嫌いで人肌を嫌悪していた時期があった。   
でも今はトラウマも乗り越え、今まで与えられなかった人の温もりを取り戻すかのように悠里にくっついてばかりいる。  
 
(こんな大きな体なのに子供みたいなんだから)  
大型犬に圧し掛かられているような気分の悠里だが、最近ちょっと思うことがあった。  
 
卒業式の日に瑞希君は告白をしてくれたけど、キスはしたけどそれ以上は求めてこないでいる。  
私も元教え子にそういう事をするのって……ちょっと抵抗があるけど、瑞希君が求めるのなら……って思ってた。  
だけど、特に何もしないってことは、今はこうやって触れ合っているだけで満足しているのからなのかな?  
 
何せ十数年をずっと人に怯えて生きてきたわけだから、そんなに簡単にその……。  
いきなりああいうことをする気にはなれないのかもしれないし。 だから私もいつかそういうような関係には  
なりたいと思うけど、  
特に急ぐことはないか、ちょっと物足りなさは感じるものの、案外こんな風に、交わす言葉は少ないけど、  
のんびり読書をしたりお昼寝をしたりしながら、優しい空気を共有する関係も悪くない。  
 
と悠里は思っていた。  
 
   ◇◆◇  
 
それにしても今日はいつにもまして本当にべったりだ。   
 
部屋の中だから人目がないせいかな。  
188cmの長身。すらりと長い手足。 若くてしなやかな身体。 キレイで、博識な私の恋人。  
こんなにくっついていると、こっちはついついヨコシマな思いでドキドキしちゃうんだけど。   
瑞希君の息が首筋に当たってくすぐったい……。  
 
「……どうしたの……なんか急に心拍数が上がった」  
ドキッ!! 鋭い。 落ち着かなきゃ、と思えば思う程、ドキドキして首筋まで赤くなっちゃう。   
な、なんとか誤魔化さないと  
「えっ!や、その。……えーっと…えと、あの…………あ、このミステリー面白いの、今度瑞希君にも  
貸してあげる!」  
「……?……うん……」  
そう返事をするとまた瑞希君は雑誌に目を戻す。  
ほっ。 良かった。私がよからぬ思いを想像したなんて悟られたら恥ずかしいしね。  
私もまた小説に没頭しようと思った矢先に、それは起こった。  
 
ぽとり  
 
頭に何かが乗っかった。  
「トゲー」  
瑞希君とさっきまで一緒に雑誌を眺めていたトゲーが何時の間にか私の頭の上に落ちてきた。  
トゲーは瑞希君の友達のとかげ。 とても賢い、しかも声を出すとかげなのだ!  
そのトゲーは瑞希君のそばを滅多に離れたりしないのにどうして?と思っていると、トゲーはするすると  
頭の天辺から髪の毛を伝って降りてきてそのままぽとんと肩にのっかり、ブラウスの襟首から中に飛び込んだ。  
 
「ちょっと、ヤダ!トゲーがエリから服の中に……きゃ!く、くすぐったい、あは、あははそこダメ!イヤ」  
小さな生き物が体を這いずる感覚であまりにもくすぐったくて、体を捩らせた。  
「……」  
「ねえ、早く、捕まえて。捕まえてよー。ヤダ、へんなとこ入らないで、そこダメダメ。 ちょっと、ダメー!!」  
瑞希君はちょっと口を尖らせてむっとしている。  
「……トゲーと二人で楽しんで、ずるい……」  
「そ、そうじゃなくて、イヤ……アハハハハ。 もう〜、早くしてよー、もう我慢できない!!」  
そういうが早いか、私はいきなり服を脱ぎ始めた。  
 
ブラウスのボタンをぷつぷつと外し、脱ぎ捨てる。  
「あ、こんなところにいた! もうトゲー!! 早く瑞希君のところに戻りなさい! きゃ!ちょ、ちょっと!!」  
胸の谷間に潜り込んでいたトゲーは服が急に取り払われて驚いたのか、そこからスススと素早く移動し、次は  
スカートの中に潜り込んだ。  
「きゃあああああ!? ちょっと、こんどはそっちなの?? 瑞希君もなんとか言ってよー!! トゲーが悪戯ばっかりするの」  
「……悠里…………おちついて…………」  
「いや、そんな奥まで入っちゃだめぇーー。 そんなとこ這いずり回ったらだめだって、もー、トゲー!!  
いい加減に出てきなさいーー!!」  
私はとかげが身体を這いずるくすぐったさに我を忘れて周りがまったく見えていなかったらしい。  
今度は慌てて立ち上がるとスカートのファスナーに手をかけた。  
「………ちょ……と、まって…悠里…………」  
そう止める瑞希の言葉に気が付くこともなく、躊躇なくスカートを瑞希の目の前で脱ぎ捨てる。  
「あーーー!!こんなところにいた!! もーどうやって潜り込んだのよ!! ストッキングの中に入って  
動けなくなってる!! あ、そんなにもがいちゃダメだって、ちょっとまって、あ、ヤ、あーーん、もう  
ストッキングが爪に引っかかって破れちゃったじゃないのよーーー!!」  
「……」  
 
トゲーはぴょんと私の体から離れて床を這ってどこかに行ってしまった。  
くすぐったさから解放されて、改めて今の自分の状態に、いかに自分が馬鹿なことをしたかを悟った。  
男性の目の前で洋服を自分で脱ぐなんて。 しかも下着しか身につけていない状態。  
これじゃあまるで瑞希君の目の前でストリップしたようなものだ。  
恥ずかしさにみるみるうちに身体中が赤くなる。  
「あ……、あの……わたし……、ごめんなさ……」  
手早く脱いだ服をかき集めようとしたが。  
「悠里」  
いきなり抱きしめられた。  
抱きしめる瑞希君の腕が身体にぎゅっと食い込む。 身体がきしみそうなくらいだ。 今までにない力強さに驚く。  
「み、瑞希……君?」  
まるで逃がさないとでも言うかのように、強く抱きしめられる。  
「悠里………………。いい?」  
いつも低体温な瑞希君の身体が凄く熱い。 呼吸もハーハーと荒く早いものに変わっていた。  
「…………だめ?」  
そんなおあずけくらった犬みたいないたいけな瞳でみないでよ。 可愛すぎるぅー!  
「えっと、……いい、わよ」  
ちょっと躊躇ったあと、私はOKを出した。  
しかし瑞希君は私を抱きしめたまま、動こうとしない。  
 
「……初めてだから、どうしたらいいか……解らない……」  
 
私がリードしろってことなの? 私だって経験がないわけじゃないけど……、自分からリードするのは始めて  
の経験だ。  
しかし私も教師だ。 生徒が問題が解けなくて困っていたら優しく導くのが使命なはずよ。  
いささか情けない理由を頭の中でこじ付けながら、決心する。 が、がんばれ私。  
「来て」  
そっと瑞希君の両腕に手をかけて自分の身体から剥がすと、右手を握ってベッドのほうに促す。  
そして自分からベッドの上にのり、瑞希君もひっぱる。  
「えっと、じゃあ、まずベッドに横になって」  
「……ん」  
瑞希君は私のいうままにその身体をベッドの上に横たえた。  
少し不安そうな顔が私の中の何かを煽る。  
「服、脱がすね」  
「う、うん」  
ゆっくりと瑞希君の上着を肩から落とし、その下のシャツを捲り上げていく。  
以外と胸板が厚いのよね。 肌から立ち上る瑞希君の香りにくらくらしながら、すぽっとクビからシャツを  
抜いてしまう。  
次はベルトの金具を外しに掛かるが、瑞希君がクッションを背中の下に敷いて少し上体を起こした姿勢の為  
なのか、なかなか金具がうまく外れてくれない。  
ベルトだけ瑞希君が手伝ってくれてなんとかベルトを外すことができた。 後はファスナーを下げて……。  
うわー、なんか心臓がドキドキしてうるさいくらいだ。   
上半身は裸、スボンのファスナーを下げて下着が見えている状態になって、そこで改めて自分のこのステキすぎる  
恋人を眺める。   
 
凄いキレイ……。 大理石から掘り出された彫刻のよう。 思わずぼーっと眺めてしまう。  
こんなステキな瑞希君を私の好きにしていいなんて……。 鼻血がでそう。 興奮しすぎて息が苦しい。  
 
「悠里……キスして」  
そうだ。 私は自分がリードする、ということに夢中でまだキスすらしていなかった。  
瑞希の両肩に手を置いて唇を近づける。 彼の丹精な顔がどんどん迫ってくる。  
「……」  
吐息が私の唇を掠める。  
そっと触れ合わせると瑞希君の身体がぴくりと動いた。  
な、なんかイケナイ事してる気分……。  
 
そのままキスをしていると瑞希君はとまどっているのか一瞬口を開きかけた。  
そこですかさず舌を入れてみる。 ちょっと強引に、でも恐がらせないように。彼の舌を追いかける。  
「こういうキスはイヤじゃない?」  
散々蹂躙しておいて今更聞くのも変だけど、瑞希君が嫌悪感を持っていないか確認する。  
「……大丈夫……」  
「そう。 じゃあ続けるわね」  
じっと彼のちょっと困ったような瞳を見つめながら、今度は手を少しずつ胸やわき腹に這わせていく。  
指で乳首をはじきながら、耳たぶを優しく噛んだり、首筋を舐めたりしてみる。  
「……っン……」  
「耳、気持ちいいの? 胸はどう?感じる?」  
「ん……気持ちい……うう……」  
されるがままになって、でも少しずつ快感に身を捩るようにする瑞希君を見ているだけで、私も体の中から  
熱い雫が滴り、下着を濡らしていく。  
下のほうに手をずらしていくと、ボクサーショーツを押し上げるように彼のあの部分が盛り上がっている。  
「瑞希君たら。こんなになっちゃったの? キツイよね」  
手で下着の中から解放してあげるとその熱いモノはビクビクと震えて、硬く反り返った。  
「口でしていい?」  
「…………え……、あ、うん」  
こんなことをするのは初めてだから、うまくできるか自信がない。 でも瑞希君を喜ばせてあげたい。  
 
髪がじゃまになるので片側に寄せて肩に垂らす。   
そして両手に瑞希君のそれ持って唇を近づけていく。   
(うわ……おっきい…………こんなの全部入らないよ……)  
「あむ……」  
「……っ……!!」  
ぺろりと先端を舐めたあと、口いっぱいに頬張ると、先からじわりと溢れたちょっぴり苦い味が舌に広がる。  
瑞希君感じてる……。 ちらっと上目づかいで様子を見ると、口の中の灼熱がドクン跳ねてさらに容量を増した。  
その事に驚いて、もっともっと気持ちよくしてあげたくて、唇や舌を必死で蠢かす。   
横によけていた髪の毛が降りてきて私の顔を隠す。  
すると瑞希君が私の髪を摘んで耳に掛けた。 口で奉仕している顔を熱い視線で覗き込んでいる。  
なんか急に恥ずかしくなって顔を背けた。  
でも、瑞希君は手で悠里の顎を捕らえてまた顔を覗き込む。  
 
「ちょ、ちょっと顔見ないで」  
「……でも……悠里が咥えてるところ、見たい……」  
「いや、恥ずかしいもん。 お願い、見ないでって。 もう〜見ちゃダメ」  
「悠里、顔真っ赤だ」  
「だから、恥ずかしいって言ってるじゃないのー」  
「僕の咥えてる悠里の顔……いろっぽい」  
「そういう事言ってる余裕なくしちゃうからねー」  
そう言いながら咥えなおすと、夢中で限界まで硬くなったそれを唇で扱き出す。  
「…………くっ……もう放して……」  
そう懇願する瑞希の声を無視して、喉の奥まで頬張り、大きくて入りきらない部分は両手を使って激しく愛撫する。  
「……本当に、やばい……はや……く……放し……クゥ!……ン」  
喉の奥に熱い液が放たれる。 悠里はその愛しい彼のモノを、なんとか飲み下すことができた。  
そんな私をぼーっと眺めている瑞希君。 ちょっと刺激が強すぎたかも?  
 
「大丈夫?」  
「ん……口に出しちゃった……。ごめんなさい」  
「いいのよ。気持ちよかった?」  
「……うん……」  
うっとりと答える瑞希君に、今まで心の中に閉じ込めていたことを素直に聞いてみた。  
 
「瑞希君は、その……あまりこういう事したくないんだと思ってた」  
「僕だって、普通の男だよ。 悠里の事、もっともっと……全部、知りたいと……思ってた。 けどなかなか言い出せなくて……」  
「そうよね……。そうだよね。男なんだもんね……。 健康な男の人なら当然の欲求なんだから、  
これからは遠慮しなくていいのよ?」  
「解った……」  
珍しく満面の笑みで返される。 そうか。したかったのか。 それなのに我慢してたのか。 ……なんかカワイイ。  
 
「あー、でもその。今、避妊具を持ち合わせてないから、今日はここまでしかできないけど、いい?」  
「やだ」  
こんな時だけ即答か。  
「でも、そういう事はちゃんとしなきゃいけないのよ? 貴方はまだ学生なんだし、私も教え子がいるから  
途中で産休なんて無責任なことはできないし。 ね? また今度ちゃんと用意してから……」  
そこまでまさに教師らしく説明していたら思わぬ答えが返ってきた。  
 
「大丈夫、持ってるから。 ゴ ム 」  
 
「へ?」  
瑞希がカバンをごそごそと探ってなにやら可愛いふりふりな蝶々結びのリボンが掛かった箱を取り出した。  
包装紙を解くと中身は未開封のコンドームの箱。 フルーツの香りのする、色もカラフルな物だった……。  
誰が選んだか一目瞭然な代物だ。  
「悟郎がくれた。 ”男のタ・シ・ナ・ミ!”って言われた」  
「……はぁ」  
「清春には『愛の48手』の本と女教師モノのビデオと”オレ様特製のオモチャ”というモノを貰った」  
「…………………………はぁ?」  
「翼や瞬や一も、男が何も知らないと女に恥かかせるって、皆いろいろ教えてくれた」  
 
あの馬鹿共があーー。 瑞希君になに変な事を教えてるのよー!!まったくB6は卒業してもロクな事をしない。  
瑞希君は一度覚えたら二度と忘れない優秀な頭脳なのよーーー!!  
その頭脳をムダな知識で埋めるなー!!  
 
「じゃあ、なんで”どうしたらいいか解らない”なんて言ったのよ!」  
「……それは…………単に僕の” 趣 味 ”」  
 
「何 で す っ てーーーーー!!」  
「……怒った?」  
「だって本当にすっごく恥ずかしかったのにぃ。もーーーー!!」  
「そんなに怒らないで……。 お詫びに次は僕が悠里を気持ちよくするから…………………………………………朝まで」  
「そこ!サラっと聞き捨てならない言葉を最後に付け加えない!朝までなんてムリ!明日も授業があるのに。  
 君もレポートがあるでしょ!」  
「だって『48手』全部試すのに、それくらい時間がないと全部コンプリートできない」  
「しなくていい!!」  
「せっかく全部覚えてきたのに…………」  
「今すぐ忘れなさい!!」  
「遠慮しなくていいってさっき言ったばっかりなのに……」  
「その言葉も今すぐ忘れて!!」  
「ここで止めたら悠里もつらいくせに……」  
「うっ」  
痛いところをつかれてぐっと押し黙ったが、やはりそこは教師であり、年齢が上である自分が大人な態度で  
我慢しないと。  
 
「と、とにかく、今日はもうこれでオシマイ!」  
とベッドを降りてシャワーを浴びようと、ベッドから足を踏み出すと。  
むにゅ。  
な、なんか今足の下に……生暖かいモノが……何か確認したいけど、恐くて見れない。  
「ま、ま、ま、まさか……うそ……家の中なのに…………!?」  
恐る恐る足元を見ると、そこには波のようにうねる白いクネクネした生き物達が、床を覆い尽くす勢いで  
大集合していた。  
 
「きゃあああああああああああああ!!いったいどっから入ってくるのよーーーー!!み、瑞希君、  
な、なんとかしてーー!早く帰ってもらうように言ってーー!!」  
「僕が来てって言ったわけじゃないし…………」  
「うそよ。 じゃなきゃこんなに都合よく集まるわけないでしょーー!! なんとかしてよー!!   
はっ!まさか最初にトゲーが頭に落ちてきたのもひょっとして!!」  
ベッドに上がって瑞希の方を振り返ると、何のこと?とシラをきりつつ、彼は微笑みながらこう言ったのだ。  
 
「……これじゃあ、ベッドから降りれないよね。フフ」  
 
瑞希君も”やっぱり男”で、さらにたちが悪いことに”やっぱりB6”であることを、今から散々思い知らされるのであった。  
 
 
 
〜おわり〜  
 

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