部屋へと続く扉の前で悠理はそっと降ろされた。
そのまま翼の手が腰へと伸びて、水分を含み幾分重くなった帯の結び目を解く。
ぼんやりとそれを見つめていた悠理は急激な羞恥心に襲われ、
翼の拳を包み込むように上から手を握った。
翼は形のよい片眉をひょいっとあげると、逆に悠理の手を握り返し、
視線の高さまで持ち上げ、ほんのり色づいた悠理の手の甲に小さく吸い付いた。
「往生際が悪いぞ担任」
欲望を色濃く滲ませる視線に見つめられ、悠理は居心地悪そうに身じろいだ。
「こっこんなときに担任とか言うっ!?」
「こんなときとは、どんなときだ?担任」
「……っ」
しっかりと握られた手をベロリと舐め上げられて、悠理は息を呑んだ。
悠理はどうにも言葉に詰まり、ほんの少し目尻に水分を含ませて意地悪な恋人を睨み上げる。
翼は困ったようにひとつ笑うと、悠理の目尻にたまった涙をちゅっと吸い取り、
今は肩にひっかけられただけの悠理の湯着をゆっくりとその肩から滑らせた。
「すねるな…悠理…」
顔中に小さな口付けを受けながら、自分の背中をゆっくりと辿る大きな手のひらを感じて、
悠理はどうしても消えることのない羞恥心に硬く目を瞑った。
湯着はもう悠理の足元に小さくまとわりつくばかりで、裸体は隠すものなく翼の目前に晒されている。
翼は今日二度目の唇を深く味わいながら、悠理の体を強く引き寄せた。
「…っ…んんっ」
深く深く、口腔内を探られて、悠理は助けを求めるように翼の首に抱きついた。
濡れた肌がこすれあい、二人の熱は加速度的に上がっていった。
「…んっ…ここじゃ…やだよ…」
若さゆえか、どうしても暴走しがちな翼を押しとどめるように、
悠理はそれでも名残惜しげに、身を離した。
翼は軽く肩をすくめると、部屋への扉を開き、どうぞ?とばかりに片手で悠理を室内へ促した。
室内に一歩足を踏み入れた悠理は、自分の体がまだ濡れていることを思い出して足を止めた。
「どうした?」
後から続いた翼が後ろから悠理を抱き込むようにしてたずねた。
「濡れたままでいいの?」
「どうせ濡れるだろ?」
悪戯っ子のような笑みを浮かべて、自分を覗き込む翼の鼻を悠理はぎゅっとつまんで抗議した。
「そういう問題じゃないの!」
今度は「じゃぁどういう問題なんだ?」と問うこともなく、
翼は傍らに置かれていた大きなバスタオルで悠理の体を包んだ。
「…じっ…自分で拭けるからっ」
翼の手からバスタオルを奪うと悠理は黙々と肌を伝う水分を拭き取りはじめた。
それを見て翼も自分の体をざっと拭い、悠理の手が止まったのを見ると、
悠理の前面に回り、ちゅっと音を立てて悠理の鼻先にキスを落とした。
「もうよろしいですか?姫君?」
笑みを含んだ声で翼が尋ねるのに、悠理は広い胸に抱きつくことで答えた。
翼は一瞬ぎゅっと強く悠理を抱きしめたあと、その体を抱き上げ寝室へと足を運んだ。
大きなベッドへと辿り着くまでの僅か十数歩の間にも、二人は小さな口付けを交し合い、
ベッドへ辿り着いたころにはもう、悠理の瞳は欲望に熱く潤み、
その存在すべてで翼をさらに煽っていった。
それでも優しく丁寧に、壊れ物を扱うかのように慎重に、悠理は大きなベッドへ横たえられた。
二人は熱く見つめあい、激しく口付けを交わす。
飲み下しきれなかった唾液が悠理の顎を伝うのを、翼の舌が追いかけ、そのまま首筋へと下りていく。
「…んぁっ…」
熱の篭った身体にはそんな小さな刺激さえ、大きな快楽となって悠理を襲う。
翼は首筋を下から上へ辿り、悠理の小さな耳たぶを見つけると、
ぴちゃぴちゃとわざと音を立てるようにして舐めしゃぶる。
敏感な耳への愛撫に悠理はくっと身を竦ませる。
まるで鼓膜に直接響かせるかのような、淫らな水音が悠理の身体をさらに熱くした。
「んっ…ひゃっ」
耳への愛撫に気をとられている間にも、悠理の身体を大胆に探っていた翼の乾いた手のひらが、
本格的に胸への愛撫を開始して、悠理は耐え切れず悲鳴のような喘ぎ声を上げた。
すっかり立ち上がった乳首の先端を手のひら全体で撫でるようにされ、
その穏やかな優しすぎる刺激に悠理は知らず、「もっと」と言うように胸をのけぞらせる。
その悠理の無意識な痴態に気をよくした翼は、耳を愛撫していた唇を強い刺激を求める胸元へ移動させた。
「いっ…あっ…」
穏やかな刺激から一転、硬くしこった乳首をねっとりと舐め上げられ、悠理は身をよじる。
もう一方の乳首は親指でくにくにとその感触を楽しむように愛撫されている。
悠理はすでに自分の体の中心からとめどなく熱い液体が生み出されるのを感じていた。
両足をこすり合わせるようにして自ら快感を追いはじめた悠理に翼は気づいていたが、
わざとゆっくり全身をくまなく辿るように、舌を這わせ続ける。
うっすら浮き出た助骨を舌で辿り、小さく窪んだ臍には恭しいキスを、足の指一本一本すべてを口に含み、
ゆっくりと、じれったいほどにゆっくりと、内股を上へと辿っていった。
「…足開いて…」
翼にそう声をかけられるころには、悠理はすっかり息が上がっていた。
快感に霞む脳ではもはや羞恥心を感じる余裕もなく、声に促されるまま悠理はそろりと足を開いていった。
そこは悠理が途中で自覚したとおり、熱く潤みきっていた。
足を開いたことで少し綻びたそこからは、粘性の高い液体がとろりと滴り落ち、
そのあまりにも淫靡な光景に翼はごくりとのどを鳴らすと、
吸い寄せられるように、蜜をたたえた花めかしい場所へ顔を寄せていった。
「ひゃっあっあっ…やっ…」
くちゅりと音がした。
翼が蜜の生み出されている中心に舌を押し込んだ音だ。
ねっとりと舌に絡みつく粘膜の感触と、微かに甘い液体の感触に翼は夢中になってそこを舐めた。
悠理は体内から聞こえる水のはぜるような音と、圧倒的な快感に意味を成さない声を上げ続けた。
「あっ…やっ…もっだっめっ…」
生理的に浮かんでくる涙を振りこぼしながら、悠理は激しく身悶えた。
翼はそんな力ない制止の声などまるで聞こえないように、
後から後から溢れてくる蜜をその舌に乗せるようにして、下から上へと悠理の性器を舐め上げる。
そしてその頂上でぷっくりと膨れ上がった快感の中心ともいえる器官へ、
蜜を塗りこむような愛撫を送った。
「……っ……やっあぁーっ」
高められるだけ高められた性感に、止めともいえる快感を送られて悠理は絶頂に達した。
荒く息を吐き、どうにか呼吸を整えようと胸を上下させている。
しかし翼はそんな悠理の懸命の努力を無視し、まだ僅かに包皮に守られていたそこを剥き出しにして、
舌の裏側を使って円を描くようにぬるぬると刺激した。
「っひっ…だっめっ…つばっさっ…くっ…」
一度いって弛緩し切った所へさらに激しい刺激を与えられて、
悠理は翼の舌が動くたびに、小さな絶頂を迎える。
休むまもなく与えられ続ける快感に、悠理はどうにかなってしまいそうだった。
けれど、もう止めてほしい、開放してほしいと思うよりも遥かに強く、
身体の奥にもっと決定的な刺激がほしいと思う自分の思考を、悠理はもう止められなかった。
「んっ…くっ…もっ…もう…入れて……っ」
悠理が我慢しきれずに訴えた途端、翼は晴れやかな笑みを浮かべると、
愛撫の手を止め、悠理の頬へ穏やかな口付けを送った。
「どうしても…悠理の意思で求めてほしかった…」
「…ばかっ…」
悠理は翼に強く抱きついて、耳元へ囁きを送った。
「…翼くんがほしいよ…」
翼は参ったとばかりに一瞬天を仰ぐ仕草を見せると、
いつの間に用意していたのかすばやく避妊具を着けて、悠理の身体にゆっくりと自分自身を沈めていった。
「んはっ……」
ぬかるみきった悠理のソコはやんわりと翼を受け入れ、ひくひくと蠢きながら、更に奥へ誘おうとする。
「くっ」
翼が耐え切れずに声を漏らし、額から滴る汗が悠理の唇へ落ちた。
その汗をぺろりと悠理が舐めとるのを見て、翼は一気に腰を突き入れた。
「あぁっっ…」
身体の奥へズンっと押し込まれたモノが余りにも熱く、悠理は体内の熱を吐き出すように大きく喘いだ。
一番深くまで繋がった状態で、二人は一時呼吸を整える。
翼は甘さと熱を同じだけ瞳に湛えて、悠理の眉間に口づけした。
「とても気持ちいい…」
甘く囁かれるのに、悠理は羞恥心を取り戻し、イヤイヤと頭をふった。
そのかわいらしい仕草に、翼は笑みをこぼすとゆっくりと大きく腰をまわしはじめた。
「んんっ…」
ぴったりと繋がったお互いの腰を更に押し付けるように緩やかに動かれて、
悠理は必死で唇をかみ締め、こぼれ出そうになる嬌声を抑えようとした。
翼はあえてそれを咎めたてることをせず、緩やかな円運動をやめ、
細かく激しい律動に切り替えた。
「あぁっ…んっ…やっ…あっあっあっあっ…」
突然の激しい律動に悠理はついに堪えていた嬌声をこぼし始めた。
奥を抉られるたびに吐く息とともに短く嬌声がこぼれる。
悠理は翼の広い背にしがみつくように手を回し、与えられる快感に酔った。
寝室には二人の吐く息の熱さが充満し、とろりと滴り落ちそうな淫靡な空気に染まっていた。
「…もっ…だっめ…いっ…いっちゃ…」
熱く堅い翼に中を探られ続け、悠理は息も絶え絶えに訴えた。
翼はその声を聞いて、悠理の体内の微かに膨らんだ部分を先端で強く圧迫するように腰の動きを変えた。
「…あああっ…んーっ…やぁぁぁっっ」
「…っく…」
悠理は全身を激しく麻痺させ、翼の肩に強く爪を立てて一度目よりも高く強く昇りつめた。
少し遅れて翼も、激しく収縮する悠理の中の動きに耐え切れず精を解放した。
ぐちゅりと音をたてて翼が引き抜かれるのに、悠理はどうしようもない恥ずかしさを感じて、
翼の胸へ頬を押し付ける。
翼は悠理の頭へひとつ口付けをして、その身を引き寄せた。
べたつく汗にも不快感などまったく感じず、二人は心地よい倦怠感に身を委ねるようにして、
そのまま眠りについた。
翌朝、翼より一足先に目が覚めた悠理は翼の肩口を枕にして、
全身を委ねるようにして眠っていた自分に気がつき、ぽっと頬を染めた。
そして起きている時より幾分幼く見える恋人の顔を、その胸の中で見つめ、
そっと伸び上がって顎元へ小さなキスを送り、もう一度眠りにつくために瞳を閉じた。
規則正しい悠理の寝息が聞こえてきた頃、翼はそっと目を開いて、
穏やかに自分の胸の中で眠りにつく年上の恋人を起こさないようにそっと囁いた。
「愛してる…悠理」
残念ながら悠理はその頃深い眠りについていたので、
その声がどれほど甘く慈しみに満ちていたのか、
その表情がどれほど喜びを湛えたものだったのか、知ることはなかった。
おしまい。