「オウ、B6の馬鹿共!オレ様達はもう帰るぜ、またな!」  
 カメラに向かってそう呼びかけて、  
 あー、面白かったぜェ!最ッ高!!キシシシっ  
   
 そう言いつつ、いつもよりもご機嫌にカメラを片付け出す清春君をボウッと見つめたまま、私は体育館に立ち尽くしていた。  
 一連の流れの告白劇や啄まれるような軽いキスを何度も繰り返されたのを、1年間慈しんできたB6達に見られていたと知った衝撃は、前に担がれたと知った時よりも大きいものだったのだ。  
   
「ナンだよブチャ、しけた顔してねェで帰んぞ?」  
 
 そう言って振り返った清春君の顔は今まで見た事のあるどんな笑顔より柔らかいもので、伸ばした手は真っ直ぐに私に向かって伸びていて。  
   
「手、貸せよ」  
 
 そう照れくさそうに言って握った手は驚くほど熱くて。  
 さっきの告白劇は彼にとっても酷く緊張する一世一代の賭けだったのだと理解した。  
   
 いいの?バカサイユに顔だしていかなくて?  
 本当に体育館を出てそのまま学園をでていく彼を追って、卒業式なのに、あんまりにも不義理じゃないの?それって、と訪ねる私に清春君は強がったような口調で言う。  
 会いたいときに何時だって会ったらイインじゃねぇの?と  
 別に卒業したらもう友達じゃなくなるわけじゃないんだから、ということだろうか、男の子たちは妙にさっぱりしていてつかみ所がない。  
 首を傾げながら清春君に促されるまま歩いていくと、急に立ち止まった彼の背中にそのままぶつかった。  
 鼻を押さえて見上げると、いつになく真剣な面持ちの真摯な瞳が私を待ち構えていた。  
 ふと辺りを見回すとそこは自分の家をとうに通り過ぎている場所で、あれ、と踵を返そうとしたところにするりと伸びた腕が私の進行を妨げた。  
「どこ行くんだよブチャ、こっちだろ」  
「え、私の家……」  
 
「いいんだよコッチで……ビデオ見るって言ったろ、オレ様ん家寄れ」  
 ああ、そうだ、確かにさっき体育館でそう言ってた、それを思い出して頬に朱が差す。  
   
『オレ様に告白されてる時のオマエ……この世のどの女よりも最高に可愛かったぜ、』  
『あとでオレ様の部屋で一緒に見ようぜ。それで、どれくらいオマエが可愛かったか、逐一説明してやるよ』  
 
 一年間散々自分を苛め抜いた、それでもどうしても心が惹かれて止まなかった男にこれほど熱く、甘く口説かれたことを思い出したからだ。  
 そ、そうね。さっき言ってたわね。  
 そう返すのがやっとの私の手を改めて取ると、ソンじゃいくか、とその手に力を込めた。  
   
 さっきまで私は間違いなく清春君の担任だったのに、今はもう違う。  
 恋人という立場で彼の横を歩く自分に戸惑いを感じない訳がない。  
 恋人として彼の家を訪れるのだとおもうと、急に緊張が走った。思えばご家族にだって会うのだ、清春君は私をもう担任ではなく彼女として扱うだろう、そう考えるとどこかこう居たたまれない。  
   
 どうしたよ?と様子を伺われ、黙っていてもすぐにバレるとおもって素直にそう告げると。帰ってきた返答はいつものようなからかいを含んだ口調ではなく、ただ一言。  
「今日、誰もイネェから気にスンな」  
 というものだった、それが意味するものはなんなのか、何故か私は気がつけなかった。  
   
   
 お邪魔します、と家にあがり、部屋にいっていろという清春君の言葉の通りに部屋に行くと、少し遅れてペットボトルをもった清春君が入ってきた。  
 幾度かみた彼の部屋、乱雑に散らかっていたはずの部屋はどこか違和感を感じるほどさっぱりとしていた。  
「今日は片付いてるのね」  
 くすりと笑みを零すと面白くもなさそうに軽く整った眉を顰めた。  
「オマエを連れて来るんだから、準備の一つや二つスンだろオレ様だって」  
 どすんとソファに座り込むとテレビに電源をいれて、ここ座れよ、と私を呼んだ。  
 
 どうしよう、凄くどきどきする。今までよりもずっとずっと。  
 今までだって何度も清春君にどきどきしていた、バスケでボールを追う時の彼に、「ナァ、オレ様タイプか?」と妖しげに迫る彼に、私を背に庇いバスケ部の非難を受け流しやり込める彼に……そして、有無を言わせず私の気持ちを暴いた彼に。  
 隣に座るとごく自然に肩に伸ばした手が私を引き寄せた、抵抗もなく重なる唇。  
 体育館で交わしたような、短くちゅっちゅっと幾度も繰り返すキス。ぼうっとなって、手が縋るように彼の服を掴んだ時に彼の舌が滑り込んできた。  
「んっ……」  
 吐息ごと奪われるような、乱暴でがむしゃらな口づけ。  
 まるで清春君そのものだ。  
「──悠里、愛してンぜ」  
 唇を触れあわせたままに言う、吐息だけじゃなく、言葉も、触れる手もすべてが熱い。  
「清春く…ん、ビデオ、見るんじゃなかったの?」  
「ンなもん後だ──今は目の前にいるオマエが可愛い」  
 頭を優しく撫でていた手が頬を滑り、スーツのボタンに手を掛けたときに、身体がびくりと強ばった。  
 ──怖い。  
 荒々しい口づけ、真摯な瞳、抱き寄せられて気がつく胸の広さ、掌の大きさ。  
 視界が歪む、こんな清春君を私は知らない。  
 唇が荒々しく首筋をすべり、軽く歯を立てて甘噛みした時、私は堪らずに彼の胸板を押し返そうと力を込めた。  
「おい、ナンだよ悠里……ってオマエ何泣いてンだ!!」  
 微妙な沈黙が間に落ちる、素直に理由を言うのはさすがに恥ずかしく、視界がぼやけたので慌てて俯く。  
「イヤなのかよ?」  
 問われて首を振る、  
「……イヤなわけない」  
 いきなりだったからか?  
 確かにつきあい始めたその日の内には違いないけど、私たちは充分にお互いを知っていたと思う。  
「怖いの」  
 やっとそれだけ絞り出す。  
 
 そう、ただ、怖いのだ……なぜなら。  
「怖い、だァ?…んな初めてってわけじゃあるまい………おい、まさか……?」  
 気がついたのか恐る恐るといった体で清春君は真剣な表情で私に問うた。  
「まさか、初めて……なのか?」  
 悪かったわね、そのまさかで。とはさすがに言えなかったが目に見えるように黙って頷いて見せた。  
 いい年をして初めてだ。でも仕方がなかったのだ、機会がなかった。  
 教師として聖帝に赴任してからというもの生徒のこと第一で出会いもなにもあったものではなかった、ここ一年は言うにも及ばずだろう、自分の恋愛ごとなどそっちのけで清春たちB6を追いかけていたのだから。  
 その前はその前で、いろいろと不器用で真っ直ぐな悠里は学業と恋愛事を平行しては行えず、結局今に至ってしまったのだ。  
 どうせ私は不器用ですよ、と少しいじけたことを考えていると急に抱きしめられた。  
 ──きつくきつく。  
「マジかよ……スゲェ嬉しい!!」  
 上擦った声が、耳元に感じる息使いがくすぐったくて身を捩らせる。  
「オマエは……その、知っててもおかしくないっておもってたから、嬉しい。オレがオマエの初めてで」  
 耳に直接響く低い声が私を震わせる。  
「私は何もかも清春君が初めてよ」  
 こんなに心奪われたのも、こんなに熱く望まれたのも。  
 唇を、身体を重ねる事も。  
 ぼやけた視界に清春君の珍しく困ったような顔が映る、やわらかなウェーブのかかった髪をくしゃりとかき上げた。  
「ああもう、らしくネェ……でも、できるだけ優しくする。ベッドいくぞ」  
 返事も聞かずに抱き上げて、ふらつく事もなく歩いて数歩のベッドに下ろされた。  
「イヤじゃないって言ったのはオマエだ、もう止めらんネェから」  
 酷く真剣な面持ちで、覚悟しろ。と低い声がして私は目を逸らさず頷いた。  
 再び、しかし優しく唇が重なった。  
 丁寧に舌が口腔内をなぞっていく、どうして良いのかわからない私の舌を絡めて息もできなくなるほど責め立てられ、生理的に涙が浮かんだ。  
 
 涙を唇で吸い上げて、耳元に囁かれる掠れた低音、  
「泣いたってもう止めてやらネェ、オマエを好きだって気がついたときから今日までずっと我慢してた」  
 もう、我慢……いらネェよな?  
 耳朶に歯を立てられながらそう囁かれ、肯定の返事を返す。  
 私だって好きだった、ずっとずっと。  
 気がついて居たはずなのにその感情に気がつかないフリをして、ずっと目を逸らしたままでお別れするつもりだった。  
 でももう、嘘はつかなくていいのだ、清春君にも自分にも。  
 
 清春君の手が私の服をはだけていくのを、抵抗せずに見守った。  
 自分で脱ごうかとも思ったけど、全部オレ様に任せとけばイインだよ、という彼の言葉に従ってじっとしていた。  
「こうやって、オレ様に脱がされて恥ずかしそうにしてる姿が堪んネェ」  
 はだけていく箇所に優しく唇を落としながら、自分も器用に服を脱いでいく。  
 せめて電気を消して欲しいと懇願するも、せっかくのオマエの顔が見えないのはもったいないだろと却下され。恥ずかしいのよと訴えるとそれがイインだろと深いキスで誤魔化された。  
「顔真っ赤だぜェ、ゆーりチャン?」  
 嬉しそうに笑い、ゆっくりと覆い被さってくる。  
 熱い手が、精一杯優しく触れる。いままでの私への触れ片とは全く違うその手に、指に。目を開けば視界一杯に広がる彼の顔に安堵する。  
 清春君の唇が耳朶を這う、時折り軽く歯を立てたり耳へ息を吹き込んだり、その度に身体に言いようのないくすぐったさを超える感覚が私を襲う。  
「ちょ……と、清春君、だっだめよ、くすぐったいから……あっ…ん、ちょっとぉ、やめ…てぇ」  
「こんなに気持ちよさそうなのにやめるわけネェだろ、そうやって見せる反応も全部スゲエ可愛い」  
 耳元で言うの反則だから!  
 そう思ってももう言葉にならない、抗議の声を上げようとすればあられもない吐息混じりの言葉になる、せめておかしな声は上げないように堪えるのが精一杯だ。  
 こもったような呻きに変わった事に気がついたか清春君が私を見ていつものニヤリとした、とっておきの悪戯を思いついたかのような表情に変わる。  
「お?面白れェ、いつまで我慢できるか試すか?」  
 そういって耳の奥にまで舌を這わせてきた、甘いささやきとぴちゃぴちゃという舐める音が耳を襲う。  
 耳や首筋への愛撫に耐えていると、清春君の手が胸に触れた。優しく揉み込むような動きと時折り頂をきゅっと軽く摘まれて電流が走るかのようにびくりとする。  
 
「あぁっ」  
 短く叫ぶかのように声をあげた私を満足そうに見つめて軽く唇を重ねた。  
「そうやってイイ声聞かせてろヨ?」  
 悠里と、私を呼ぶ声が熱い。  
 手が私の膝にかかり反応を楽しむように押し開いた、思わずぎゅっと目をつぶる。清春君に見られているのだとおもうともう彼の顔を見る事もできない。  
 手を掛けた所にちゅっと唇が落とされる、すこしずつそれは脚の付け根に向かって……  
 くちゅり、と濡れた音をたてた。  
 顔を背け、目をしっかりとつぶっていると清春君のすこし筋張った細い指がそこに触れてきた、それにあわせるようにあごを引かれる。恐る恐る目を開けると嬉しそうな悪戯っぽい清春君の顔。  
「こんなにシチャッテ、オレ様嬉しいぜ?」  
 そういう間も指や掌は動きを止めてくれない、ゆるやかに撫でるように敏感な部位を刺激する。  
 もう、声を堪えている事は私にはできなかった。  
 恥ずかしいのに、押さえられない。清春君が触れたところからとけてしまいそうだ。  
「きよはるくん……もう、だめぇ」  
 跳ねる身体を押さえきれない、彼の腕に縋ってあられもない声を上げた。  
「……悠里、イタイと思うけど声とか我慢しなくてイイゼ?」  
 止めてなんてやれネェから、と平坦を装った声で言うと脱いだ服から財布を出してそこからビニールのパッケージを取り出した。それが何かに気がついたわたしは慌てて視線を逸らす。  
 何かを破く音が聞こえて、もう一度名前を呼ばれる。  
 視線を合わせて、いままで一度もこうしていいかもなにも聞かなかった清春君がただ一度だけ訊いてきた。  
「──覚悟、出来たかヨ?」  
 できるだけの笑顔で「ええ、大丈夫よ」と答えてみせる。  
 よろしくね?と付け加えてみると清春君の頬にも赤みが差した。  
「こんなときに可愛いコト言ってんじゃネェよ」  
 唇を重ね合わせて、不自然な熱を伴ったものが押しつけられた。ぐっと沈み込もうとすると鋭い痛みが走る、痛い、痛いけど。  
「……っぅ」  
 涙もにじむ、声を堪えなくていいとは言われたけど、痛みで声を上げるのは憚られた。  
 
「ほんと、強情だよなぁ悠里は……ごめんナ?痛ぇだろ」  
 悠里は声出す気ないみたいだから、塞いでおいてやるよ。と舌を絡め取られる。  
 痛いよ、清春君。  
 でも、嬉しいよ。コレはきみとつながる痛みだから。  
「へっ、全部入ったぜェ?これでホントに……オマエはオレ様のもんだ」  
 なにかに満たされた嬉しそうな声、私を見つめる目が今日はなんて優しい。  
 痛みがだんだん鈍くなっていく、痛みになれたのだろうか?あれほど身体を裂かれるような痛みだったというのに。  
 ぎゅっとおおきな掌が私の手を握る、そして、清春君が動き出した。  
 再び感じる熱い痛み、堪らずに肩に縋り付く。  
「ぅあっっ……くぅっ……清春く…ん」  
 清春君が宥めるように私の額や目頭に唇を落として、唇が重なる。  
「超好き、スゲェ好き、愛してンゼ悠里」  
 囁かれる甘い言葉と身体に感じる吐息にくらくらする、清春君に身体の奥をかき乱されているということしか私にはわからなかった。  
「オレもうマジでヤベェ、イクぞ──っ」  
 言われた内容は理解できてたけど、余裕もなく頷くしかできなくて、荒々しい息をついて自分の上にぐったりとその身を預ける清春君を受け止めた。  
「大好きよ清春君」  
 清春君はなんとかそう絞り出した私に、うっすらと目を開けて照れくさそうに、  
「スゲェ良かった、サンキュ」  
 といってぎゅぅっと抱きしめた。  
   
「おい、大丈夫かよ?ホレ水」  
 ぶっきらぼうにミネラルウォーターのボトルを差し出され、それを受け取る。  
「大丈夫・・・うん、たぶん」  
 水を一口飲んでさっきの事を振り返ると余りの恥ずかしさに茹だりそうだ。  
 
 ベッドにどんっと腰掛けて私の髪の毛をひとすくいとると清春君はそのまま髪に口付け笑う。  
「オマエが大丈夫っていうんなら良いんだケドよ」  
 彼を見上げる私と視線がかち合う、清春君はベッドに片手を突いて開いた片手で私の手からペットボトルを取り上げて、そのまま唇を塞いだ。  
 触れるだけじゃない、息すら奪うような口づけに身体が震える。  
 再び身体を横たえようとする清春君に私は慌てて待ったをかけた。  
「ちょ、ちょっと???清春君??」  
「アァ?ナンだよ」  
「私一度身支度したいなって思うんだけど?」  
「いらネェだろ、んなもん。まだここから出す気なんてあるわけネェ」  
 大丈夫、って言ったよな悠里。  
 確かめるように私の目を覗き込む清春君はそれはそれは嬉しそうで……  
「言っただろ?ちゃんと準備したって!ほらまだこんだけあるゼ?」  
 手で示したのは傍らに置いてある箱、おそらくはさっき使ったゴム製品の……あれ、いくつはいってるんだろう?  
「まってよ、私さっき初めてで……そんなにしたら死んじゃうわよ!」  
「るっセェな、オレをいくつだと思ってんだ!1回くらいで収まるかっテェの。もう、オマエが良すぎて自分で抜く気も起きネェよ!」  
 そう堂々と開き直られて二の句が継げないとはこのことだ、唖然とした私を押し倒して組み敷くと、冗談めかした口調で続けた。  
「それに、オマエもまだだろ、いろいろと悠里には教えてもらったから、お返しにオレがいろいろ教えてやるぜェ?」  
 そうして私はこの日、清春君に知らなかった事をいろいろと教え込まされたのは言うまでもない。  
 彼の家から出る事が叶ったのは丸一日後の事だった。  
 

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