その日オレはいつものように、恋人である悠里の部屋を訪れていた。  
 本当は毎日のように一緒にいたかったし、いつだって抱いていたかったが、ソレは悠里に止められている。  
「まだ学生の身なのだから、泊まるのは週末だけにしてね」と。  
 それ以来、週末になると悠里の部屋に入り浸るようになった。  
 週休二日の先生稼業とはいえやる事はいくらでもあって、部屋に居る間も仕事をしているときもある。そんな時は懐かしい先生の貌をした悠里にちょっかいを出したり悪戯しつつ待っているのがオレたちの間のお約束だった。  
 悠里の意識を独占出来ないのは面白くないが、先生の貌をした悠里を見つめている時間はそんなに悪くない。  
 鼻歌を歌いながら家の事をしている(断固として言うが炊事は除く)悠里を見ているのも好きだと思う自分がいて、どんだけ好きなんだよと思ったりもするが、これはもう仕方がない。  
 オレが悠里にぞっこん惚れ込んでるのは動かしがたい事実だから。  
   
 そして今、オレはソファに身を沈めて悠里が洗濯物を干しているのを眺めていた。  
 後もう少し、数枚を残すところで、ふと沸き上がった悪戯心に口角を上げそっと立ち上がる。  
   
 ──オレ様に視線も投げずに家事してる、オマエが悪ィんダロ? 悠里。  
   
 丁度干し終わったところを見計らい、後ろからぎゅっと抱きすくめて、耳に唇を押し当てるように囁いた。  
「ゆーりちゃん? 新婚さんゴッコしよーぜぇ?」  
「なっ、清春君いきなりなになに? なんなの」  
 新婚さん、という響きはオレ様が口にするとなんかエロイ。  
 そんなことがちらっと頭を掠めたが、気にせずに慌てふためく悠里を観察する。  
 急なスキンシップ一つにあわあわとするコイツはマジで可愛い。  
 あっというまに赤くなる頬に手を添えるとアッチィアッチィ、こんなところは在学中の時から変わらないオレ様のお気に入りだ。  
「ナァ、新婚さんって言ったらアレだよなぁ?」  
 
 おかえりなさい、あなた。お食事にします? お風呂にします? それとも〜ア・タ・シ?  
   
「って奴ぅ〜?ヒャハハハハ」  
 口をぱくぱくとさせて言葉も出ないほど動揺する悠里を振り向かせ、正面から唇を指でなぞる。  
「言えよ、ナァ。オレ様が今言ったみたいに……あ、お食事はイラねぇゼェ?」  
「なんで急に新婚さんごっこ、なのよぅ」  
「アァ?んなもん、旅行練習ってやつにきまってんダロォ?」  
 ソレを言うなら予行演習でしょ、とツッコミをいれるも、真っ赤な顔ではこれっぽっちも迫力がない。  
 予行演習、いつか二人が新婚さんになる。ということをそれとなく仄めかしてみたら、真っ赤になって恥じらった。ということは、悠里も満更じゃネェって事だ。  
 
「んもう清春くんたら。なんだってそんなに嬉しそうなのよぉ」  
 これ以上ないくらいに満面の笑みを浮かべたオレ様に、ちょっと拗ねたように悠里が言う。  
 バァッカ、これが嬉しくなかったら、何で喜べばいいのか教えて欲しいね。センセイ?  
「おーっトォ。清春君、じゃなくて”あなた”ダロォ? キシシッ」  
「え、あ、あなた?」  
 オマエに名前を呼んでもらうのが一番好きだけどよ、あなたってのも悪かネェ。  
 それに恥じらいながらそう呼ぶその姿が、オレ様大好物だぜ?悠里。  
「ああ、そーやってさっきみたいなセリフ言ってみろよ、このかわいーいオクチでナァ?」  
 むにゅっと唇を押してやる。柔らかいふるりとした唇が旨そうだが、塞いでしまうとせっかくの言葉が聞こえないからココは我慢だ。  
「……えっと、その。こう? 『おかえりなさい、あっあなた。おしょ……はいらないんだっけ、お風呂にします? それとも…わ、わたっ』」  
 わたし? というその一言が、照れなのか羞恥なのかなかなか言葉にならない悠里は、もう耳まで赤い。  
「クックック、お前ほんとサイコー! カーワイイゼェ?  
 勿論−、オマエがいいにきまってんダロ! ……こっち来いよ」  
 言葉と格闘している悠里の腰をぐっと引き寄せ、開いた手で悠里の後頭部に手を添えて唇を塞ぐというより貪った。  
 んっっというくもぐった吐息が、わずかに身を捩り腕でオレを押しのけようとする無駄な抵抗がオレ様を喜ばせる。  
 そうやってオレの仕掛ける事に、精一杯反応してくれるお前が愛しくてならない。  
「んっ、きよはるく・・・苦し」  
 悠里はやっとの思いで唇をずらし、そう告げると、呼吸を整えようと深く息をついた。  
 本当に苦しかったんだろうか、目にうっすら涙が浮かんでいる。  
 そんな姿に、さっきまでほんわかと悠里を想っていた気持ちが霧散した。  
 代わりに沸き上がってくるのは嗜虐と言ってよいほどの劣情。  
   
 好きだ、マジで惚れてる、スッゲェ愛してる。  
 こいつが悲しむ姿なんて見たくもない。  
 それなのに、オレはこいつを振り回して、限界ぎりぎりまで追い詰めることに酷く昂ぶる。  
 オレのために考えて悩んで突っ走って、涙を流す姿を見たいのも本心なら。  
 腕の中で可愛い声を上げさせて、声も枯れるほど責め立てた挙げ句に気を失わせるほどに愛しテェのも本心で。  
 これってナニ? 矛盾ってやつ? って思うケド、今更そんな物はどうにもならねぇ。  
 これがオレ様のアイジョーで愛し方ってやつなんだから仕方ない。  
 
「新妻のゆーりちゃんにー大サービスだぜ。ナァ、どんな風に抱いて欲しい?」  
 後ろからぎゅっと抱きすくめると、低く、甘く囁いて、耳朶を食む。  
「ひゃっっ、そんな、どんな風って言われても、きゃっ、ちょっとまってぇ、あんっ」  
 胸をやわやわと揉んだり、時折体を跳ねさせる様を楽しみながら、からかうように言う。  
「んー? 決まったら言えよ? それまでオレ様好きなようにして待ってっからヨォ」  
「んっ、くすぐったいよきよはるくん、考えられないじゃないの」  
 身を捩ってそう訴えられると、途端にテンションが上がった。  
「ほぉーぅ、ゆーりちゃんはこれくすぐったいのかー。シシシッ、じゃぁーこうしてやるぜ!」  
 がしっと頭を逃がさないように押さえつけると、耳に唇を押し当てて息を吹き込んだ。  
「ひゃあああああっっ」  
 跳ね上がる体と上がる悲鳴。  
 耳をなめ回して舌を差し込み、耳朶を甘く噛む。  
 ついでに元から弱いと知っている首筋にも満遍なく舌を這わせた、強ばった体から力が抜けるまでたっぷりと。  
 こうしている間、悠里に考える余裕なんてないのを知りながら。  
 驚きから出る悲鳴だったはずの悠里の声は、だんだんと艶を帯びて、オレ様を煽るソレへと変わっていた。  
「あれー? せっかくオレ様が、オマエの好きなように抱いてやるって言ってんのに、リクエストなしかヨォ」  
 クククっと喉の奥で笑ってやると、息も絶え絶えに悠里が睨みつけてきた。  
「はぁっ、はぁっ……考えなんてまとまるわけ……ないでしょ、あっやんっっ」  
 ──そんな涙目で睨んだってカワイイだけだってぇの。バァカ。   
 悠里をくるりと振り返らせて、両手で顔を包み込む。  
 涙で潤んだ瞳、上気した頬、荒く息をつく唇。  
 ヤベエ、めちゃくちゃにしてやりたいくらいカワイイ。  
 掻き抱くように抱きしめて、再び首筋に顔を埋める。びくりと体を震わせて腕を突っ張り、なんとか体を離そうとしたいのはわかってるけど、そんなもの無視して行為を再開した。  
「こらっっ、あっ。きよはるくん! ……もうだめだったら」  
「ヤ〜ダね」  
 だってオレ様、オマエのキモチイイって感じで、体震わせて声上げんのめっちゃ好き。  
 もっと啼き声聞きテェし、もっとオマエを味わいテェし、もっともっとオレ様に夢中にさせテェ。  
「だからぁ、言ってんダロ? オマエがちゃーんとどうして欲しいって言えたらヤメテやるって」  
 甘ったるい声で啼きながら、呼吸をするのも大変そうにやっと言った一言は。  
「清春君の好きなようにして、もぉだめ。考えられない」  
 という、オレ様好みの返答だった。  
「へぇ〜そっかそっかぁ、オレ様の好きにしていいってカァ? クククっその言葉忘れんじゃねーゾ」  
 お言葉に甘えてと、早速抵抗する気力のない悠里の体からジーンズと下着を引っぺがした。  
「きゃっ、やっやだ、清春くん!?」  
「オーオー、なんかやーらしいカッコだなぁ? なーんも着てないよりもなんつーかそそるゼェ?」  
 カットソーにエプロン、靴下を残してあとは素肌のまま。  
 恥ずかしがって体を隠そうとするのがまたいい。  
 押さえつけた体の敏感な部分にするりと指を滑らせると、そこはもう零れ出しそうなくらい潤っていて、くちゅりとヤラシイ音を立てた。  
 
「オマエほんっとココ弱ぇんだナ、シシシっっ」  
 ちゅっと大きく音を立てて耳朶にキスを落とすと、甘い吐息を零して体をくねらせる。  
「なあ、悠里。そんなにオレに弱いところ見せちゃっていいんかよ? 容赦なく攻めちゃうゼェ?」  
 ニヤリと笑って言ってやると、  
「も、もうだめ! ほんともう許してぇ。息できなくなっちゃうー」  
 大慌てで首を振った。一度これだけで気を失っちゃうくらい責めてみたいもんだ、どうなっちまうのか見てみテェ。そうは思ったが、今日の所はこっちも構ってやりたいところだから勘弁してやっか、と悠里をオレの膝の上に抱き上げた。  
「え? こ、これって」  
「きょーはオレ様の好きにしていいんだロォ? 自分で挿れな。しっかり見ててやっから」  
 頬に手を添えてじっと見つめると、上気していた頬が比較にならないほど赤くなって熱をもつ。  
「安心していいゼェ、ちゃんっと手伝ってやっからさあ」  
 ほれ、と悠里の腰を誘導して、腰を下ろせばいいだけの位置を教えてやった。  
 躊躇いながら、オレを懇願するように見つめる悠里の顔は超エロい。  
「どうしたんだよ? いつもと違うとドキドキしちゃいまーすってカァ?」  
「もう、バカっっ! んっ……」  
 ずぶ、と悠里の体がオレ様を嬉しそうに飲み込んでいくのがわかる。  
 重力に従って奥の奥に到達すると、そこで動きを止めた。  
「今日は弄ってもいネェのに、ずいぶんヨさそうじゃん。そんなんで動けるのカァ? ほれ、動いてみ?」  
 ずん、と腰を突き上げて促してやると、悠里は切なそうに眉根を寄せて、甘ったるい声を上げながら腰を揺らめかせた。  
「ん、清春くん……今日も意地悪ね」  
「オレ様らしーだろ。でも−、愛情はたっぷりだゼェ? ほらほら」  
 言葉に合わせて動いてやる。カットソー越しに胸がゆれ、エプロンの裾もひらひらと揺れた。  
 見たい部分が、エプロンで見えそうで見えないってぇのもオツなもんだな、と思いながら上で悠里が体を揺らす姿を見る。  
「きよ……はるくん」  
 息を乱しながら悠里が声をかける。  
「アァ? なんだよ」  
「いっつも意地悪だけど……」  
 上気した頬を隠しもせずにオレを見て、一言告げる。  
「──大好きよ」  
 にっこりと笑ってオレの上で踊る悠里はすーげぇ綺麗でエロくて可愛くて。  
 ああ、オレ様もう駄目だ。  
「っ可愛いこと言ってんじゃネェよ! わかってんだよそんなこと」  
 懸命にリズムをとって揺れていた悠里の腰を掴み、そのまま姿勢を入れ替える。  
「──でも、もっと言え。清春くん大好き、愛してるって言え、しっかりオレ様の耳に届くように言ってみろよ」  
「くす、……どっちなのよ? 清春くん照れてるの? ……可愛い」  
 耳、少し赤いね。  
 優しいトーンの声が耳に届くやいなや、下敷きにした悠里をこれでもかってくらい責め立てた。  
 悠里のやらしい声と繋がった場所から聞こえる音がオレを煽る。  
「気持ちよさそうじゃねーか悠里? オレもイイぜぇ」  
「ちょっ、清春くん! あっ、んっ。はげし……ああぁっ」  
「ンァ?激しくしてほしーってカァ? クククっ、やーらしぃなァ悠里ちゃんはよ」  
「ちがっっ、ちょっとまってぇ……あぁっ、清春くん、……いっっ」  
 一際高くなる嬌声と体に走る緊張で、悠里が達したのはわかっても、お構いなしに動き続けた。  
 何度果てても許してやんネェ、オレ様をからかうなんて生意気なんだヨ!  
 胸までまくれあがったエプロンは、もう一切視界を邪魔しない。繋がってるところがしっかり見える。  
 そんな悠里のいい眺めと、喘ぎ声に混じって聞こえる、「きよはるくん、愛してる」という切羽詰まった可愛い声に煽られて、オレは悠里に熱をぶちまけた。  
 何度も、オレの気が済むまで。  
   
「あーキモチイー」  
 ぐったりと悠里の上に覆い被さった。  
「もう、昼間から何をするのかな君は」  
「ナニってセック……」  
「わーっっもういい!もう何にも言わなくていいから、生々しいこと言わないでよ」  
 さんざんヤッてんのに未だに恥じらうところもカワイイ。  
 心地よい脱力感に包まれて、目を閉じる。  
 新婚さん、って奴になったらずーっとこんなふうに傍にいられんのかな?  
 そうならいいなってぇかそうする。  
 オレ様が決めたことは絶対なんだぜ? 楽しみにしてろよ悠里。  
 

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