ゆっくり瞼を押し上げると、口元を緩めた千聖と目が合って心臓が大きく鳴る。
どうしていいのか分からなくなって、まずはその視線から逃げようと真奈美は思った。
「あ……朝ごはん、作るね!」
朝の挨拶もせずに真っ赤な顔で起き上がろうとした真奈美の身体を、千聖はゆっくりと引き寄せ動きを封じる。
ところどころはねている髪を撫でられ、大きな手の温かさと優しさに文句を言う気は失せていく。
そのまま大人しく撫でられていると、ようやく千聖が口を開いた。
「お前は寝ていろ。朝飯は俺が作るから」
「え、いいよ。私が作る!」
「いいから、お前は寝ていろと言っているだろう」
「どうして?」
頑なに起き上がることを止めようとする千聖に理由を尋ねても、ただ「いいから」としか言わない。
数度の押し問答の末、千聖は大きな溜め息をついて先にベッドから抜け出す。
「いいか、真奈美。俺がいいと言うまで絶対に起き上がったりするな」
低く淡々としている中にも、どこか気遣いの含まれた声。
じっと見つめてくる鋭い視線にも押され、真奈美はこくりと頷いた。
「よし」
満足そうに千聖は笑い、真奈美の唇と額に接吻してキッチンへと向かっていく。
上半身は何も身につけていない千聖の背中を見ながら、今更、昨夜の出来事を真奈美は思い出す。
息も出来ぬほどの深いキスだとか、口には出せないような甘い言葉だとか。
恥ずかしくなって、ごろり、身体を丸めつつ寝返りを打てば――途端に腰から鈍い痛みが全身へ広がる。
「いっ、た……!」
小さく悲鳴を上げれば、ここは狭いワンルーム。
千聖がすぐにキッチンから飛んできて、小言を言いながらもすぐにぬるま湯に浸したタオルを用意してくれた。
このことを予測していたから、起き上がるのを止められたのか。
理由をようやく理解した真奈美も、先ほどのようには逆らわずに大人しく千聖にされるがままだ。
「……俺のせいだな。すまん」
「あ、謝らなくてもいいよ。私だって……その、嫌じゃなかった、から」
「そうか」
身体にはじわりと痛みが走るけど、心にはじわじわと嬉しさが広がっていく。
こんな風に大事にされることがとても嬉しくて、真奈美の顔は自然とほころぶ。
「千聖君、大好き」
「っ、……俺もだ。愛している、真奈美」
――結局ふたりが食事を摂ったのは、正午も過ぎた頃だった。