人がいなくなってからどれだけの月日が経ったろう。
私はミクと二人(?)で変わり映えの無い日々を送っている。
歌は忘れた。それがけじめだと思っている。
そういえばさっきからミクがいない。探そうと思ったら裏口から帰って来た。
問い詰めてもえへへと笑って誤魔化している。
そういえばたまにいなくなる事があったが最近は毎日何処かへ行っている様だ。
あやしい。明日は後をつけて見よう。
ミクはかっての街に向かっていた。
街は今ではずいぶんと木々や蔦に覆われ緑の目立つ廃墟と化している。
少し先回りして待ち伏せる事にした。
木陰から姿を現した私にミクは驚いたようだった。
ぽかんと口を開けて立ち尽くす。
「また何しにあんな所へ?」
しばしの沈黙。
そして、ポツリと。
「歌を、歌いに」
「家で歌ったって良いじゃない。私に遠慮してるの?」
少し言い方がきつくなった。私は何に苛立っているんだろう・・・。
そう言えば家で歌うミクの姿をしばらく見ない。
昔は一緒に歌おうとか歌ってとか、何とか私に歌わせたがったが、
諦めたのかいつの間にか言わなくなった。そう言えばその頃から歌を聴いていない。
「大事な家族じゃない。ね、私ちょっとさみしいなぁ」
バランスをとって笑いかけてみる。ミクの表情も和らいできた。
何か決心したような様子で話し出す。
「私ね・・・」
ミクの顔は寂しげな優しげな、私が始めて見る表情をしていた。
「私ね、アホの子だから…」
「は?アホの子????」
予想を遥かに超えた言葉に思わず鸚鵡返しし、絶句する。が、ミクは構わず続けた。
「みんな、私の事、アホの子だアホの子だって言ってて、
でも、アホの子だからって一生懸命歌い方を教えてくれて、
アホの子だって言いながら沢山歌を教えてくれて、作ってくれて…」
ミクの顔が見る見る歪んでいく。
「ちょっと音痴になってても一生懸命直してくれて、
私の歌を聞いて喜んでくれて、悲しんでくれて私を褒めてくれて好きだって言ってくれて・・・」
駄目だ。ミクはもう崩壊寸前、泣き出す前に私はミクの頭に手をやり髪をくしゃっと撫でる。
私にも分かってた。ミクの言葉でそれを思い出した。
「私も一緒に行こうか」
私も少し目が潤んでいたかもしれない。
ミクの顔が目に見えて輝きだす。
「うん。行こっ!」
かつて街だった場所人で溢れかえっていた今はもう主無き廃墟。
私には今までそれが墓標みたいで嫌だった。
自分を慈しんでくれた思い出の場所だったのに。
ミクが歌う。この世界から去ってしまった人間の為に。届けと。愛していると。
私も歌う。久しぶりだが歌い方は覚えていたようだ。
二人で歌う。かつてこの星を覆いつくしていた世界の記憶を。
色々と欠陥はあったけど私たちには愛を注いでくれた人々の事を。
歌を止めるのはけじめだと思っていた。聴く人がいない歌なんてもういらないんだと。
間違っていた。
歌は存在を伝え続ける。想いを、魂を残し、私たちに託し続けている。
私は歌う。私たちは歌う。歌が好きだから。歌を歌うための存在だから。それが愛した人たちとの絆だから。
月明かりの下、隣でミクが子守唄を歌いだした。私も一緒に歌う。
お休み。大好きだった人達。