「マフラーはいいぞ」  
急にKAITO兄さんがそんなことを言い出した。  
「はぁ、もう冬と言うに相応しいくらい寒くもなってきましたし、温かそうですからね、マフラー」  
あまりに唐突な振りだったが、KAITOに同意するミク。  
流石にこの時期肩丸出しの服装は寒い。風邪を引く前に衣替えをしたいのだが、こういうのはイメージとか大事だからと言われ、会社からこの服以外を着ることを許可されていないのだ。  
デザイナーの人になんとかしてもらいたいが今のところ新しい衣装の案はきていないらしい。  
時折、我慢できず影でこっそり普通の服を着ようと考える事もあるがそうはしない。  
「うん、確かにこうして身に付けていれば暖かいという利点もある。でもこのナギマフラーは夏の強い日射しを遮る影を作る事ができるし、鼻まで隠せば花粉症対策とかもできるんだ。多分」  
その理由はKAITO兄さんだ。  
KAITO兄さんは夏も熱中症にかかりそうなあの格好を文句一つ言わず着続け、しかもこの制限された服装を120%使いこなそうとしているのだ。  
まさにVOCALOIDの鏡だ、ミクは心からそう思い兄を尊敬している。  
しかし、ここまで自分の仕事に全力だというのに最近KAITO兄さんにくる仕事は少ない。  
会社にミクからお願いする事もあるが、それでも駄目らしい。世界は本当に理不尽だ。  
「すごい発想です!私なら思いつけません」  
「……俺には時間がたっぷりあるからな……最近じゃ歌う時間より多くなって来たかもな?」  
「……えっと、私は兄さんの声好きです」  
やはり、自分は頭が足りない子供なのだとミクは思った。もし、この場にMEIKOねえさま達がいたならば、あっという間に会話を面白可笑しくしてくれて、きっとKAITO兄さんもずっとニコニコしていてくれるに違いない。  
そうすれば私も一緒にニコニコできるに違いない、皆でニコニコして、それでその気持ちのまま歌って、僧侶様達も一緒に歌ってくれて、ヒ・ダリ様はただ見ているだけで、それに皆でツッコミを入れて……そうやって楽しくなれるはずなのだ。  
でも、今この場にいるのは落ち込んだKAITO兄さんと一人じゃ何もできない未熟なVOCALOIDだけ。  
本当は何か、歌って元気づけてあげたい。  
でもミクの頭にはなんのメロディーも浮かんでこない、それでもなにか言おうとして出てきたのはフォローになるのかも分からない気休めの言葉だった。  
「ん、ありがとう。ミクは、いい子だな……。でも、それはちょっと趣味悪いかもしれないな?」  
「そんなことないですっ!KAITO兄さんの声は、歌は!皆がちゃんと聴いてくれればとても素敵だって言ってくれるはずです!それにKAITO兄さんは声以外も全部です!私はそう思いますっ!」  
確かにKAITO兄さんに比べて私の方が仕事は多いかもしれない。でもそれは本当に私の実力なんだろうか?そう何度も思って過ごしてきた。  
仕事先に行くとよく「ミクちゃんは可愛いから多少音外しちゃったりしても大丈夫だからwww」と言われたりする。  
一応歌手というよりアイドル路線だからなんだろうけれど、歌うことが好きなミクには悔しかった。  
見た目に救われている自分が、その自分が本当に評価してあげて欲しい人間へのスポットライトを奪っているであろうことを。  
「誰がなんと言おうと、KAITO兄さんは絶対に素敵なんですッ!」  
「……」  
 
自分の中に溜まっていたものを全て吐き出して、ミクは真っ赤になってしまった。  
これでは、激励というより告白だ。  
「み、ミク……」  
「あの、あぅ……」  
ミクは袖と自慢のツインテールで顔を覆い隠す。  
真っ赤なままの顔とは反対に思いを吐き出しきった頭はこれからどうしたらいいのか、何も考える事もできずに真っ白になっていた。  
「励ましてくれるのは、その、嬉しいんだけど……。今のはなんだか……こk」  
「告白なんてっ!?そ、そういうつもりだったのではっ」  
「ですよね、分かってはいるけど……それでもやっぱりお兄ちゃん心の汗が止まらないよ。おかしいな、俺は涙を流さないダダッダー♪なはずなのに……」  
恥ずかしさから咄嗟に出た台詞は、さっきのネギによる殴打よりKAITO兄さんにダメージを与えたようだ。顔を背けてなにかブツブツ呟いている。  
告白、するつもりで言ったわけではない。  
でも……。  
「でも、ですね……」  
「?」  
「やっぱり、さっきの告白で、いいです」  
「ミク?急にどうしたんだい?」  
「私……KAITO兄さんをみっくみくにしたいです!」  
好きじゃないわけがない、その『好き』がどの好きなのか、自分の気持ちがわからないわけじゃない。  
だから、喋り下手なこの口から、流れる様にこんな台詞が出てきたんだ。  
そのとき、ミクの顔は耳まで真っ赤に染まっていた。その赤が頭の中までしみ込んできたのか、真っ白だった心の中も徐々に熱く、熱くなってきた。  
「でも、俺はミクのお兄ちゃんだ。本当にいいのかい?」  
「ハイっ!」  
迷う気持ちは1%も存在しなかった。  
 
とりあえず、ソファに座った。二人とも、顔は真っ赤だ。  
「ん……♪」  
どうしていいのか、迷ってでもいたのかちょっと硬くなってしまっているKAITO兄さんにミクからキスをする。  
しかし唇と唇を触れ合わせるだけで、可愛らしい瞳でKAITO兄さんからのキスをおねだりする。  
KAITO兄さんのキスは激しくミクの唇や舌を求め、自分の舌を絡ませる。  
歌う為に作られた形の整った二つの唇からは舌と舌の絡み合いで唾液が混ざりあい生まれる音が大きく、小さく聞こえてくる。  
「KAITO兄さんの……キス、いやらしいです」  
「もっといやらしいことも、するかい……?」  
「ちょっと恥ずかしいけど……はいっ!」  
「それじゃあ、ベッドに……」  
「いえ、ここで……平気です」  
本当はベッドの方がいいかもしれない、でも、ミクはもう身体の火照りが治まらなかった。  
「さぁ!KAITO兄さん早く脱いで下さい!」  
「じゃあミクも……」  
「私はこれがあれば十分です!」  
「ね、ネギ?大胆だなミク……」  
「KAITO兄さん、お尻をこっちに!」  
「え、ちょミク何をアッー!」  
「KAITO兄さん、みっくみくにし〜てあげる〜♪みっくみくにしてやんよ〜♪」  
「ミクさんアッー!ちょ、やめっアッー!なんか違っアッーーー!」  
ミクによるKAITO兄さんへのネギ攻めはMEIKOが帰ってくるまで続いたそうな。  
 
 

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