マスターがもうすぐ帰ってくる。
今日はマスターは楽器屋へ買い物。
私のために高級なマイクを買ってくるらしい。
『せっかくのメイコの声を鮮明に残しておきたい』
なんて、柄にも無い台詞を置いて、もう6時間。
チャイムが鳴り、マスターの帰りを知らせる。
私は作りかけの夕食の準備をほっぽりだし、玄関へと走った。
「マスター、おかえりなさ……」
「うはー!!疲れた疲れた!それよりメイコ、これ見てくれよ!掘り出しモンだったよ!」
マスターは息を切らせ、汗をだらだらとかきながら扉の前に立っていた。
下には大きなな段ボール箱が。
「……何、それ」
箱は明らかに巨大なキーボードサイズ。
でも一応聞いてみた。
「え、これ?『JUPITER-8』さ!ローランドの名k」
マスターの言葉をそこまで聞いた私は、躊躇無く回し蹴りをマスターの脳天に叩き込んだ。
ぐらぐらとビーフシチューが煮える。
私は鍋の番をしながら、ちびちびとシチューに使ったワインをすすりつつ、マスターを責め立てていた。
「……いくらしたか言ってみてよ」
「ん?25万!!破格だろ?」
私のマスターには散財癖がある。
ついつい衝動買いをする物が多すぎる。
シンセに、シンセ。あとシンセ……ん?
とにかく、おかげで1LDKのこの部屋は素人とは思えないほど充実した機材がそろっている。
「……マスター、自分の貯金状態分かってる?」
「え?えーと……3000円」
「……で、今日の出費は?」
「ローン」
(……はぁ)
出来上がったシチューを皿に盛り付け、ワインと一緒にリビングにいるマスターの下へと持っていく。
「お♪メイコはやっぱ料理上手いなー。他のボーカロイドもそうなのか?」
「こんなに歌う以外の仕事をさせられてるボーカロイドなんて多分私だけよ。どっかのダメマスターのせいで」
マスターは皿が置かれるや否や、シチューにむさぼりつく。
「んぐんぐんぐんぐんぐ」
「今はソフトシンセ主流なんだからそれだっていいでしょ?値段は安いんだし」
「じゅるじゅるじゅるじゅる」
「大体、私がヤマハ製だって知っててのローランドって選択なの?もっとDXとかCSとかVLとかANとか」
「ぷっはー!!ごっそさん」
「人の話を聞けぇ―――――!!」
つい、足がでた。
「ぎゃぼーっ!?!?」
私の踵は見事にマスターの後頭部を直撃し。
マスターはしこたまテーブルに頭を打ち付けた後、動かなくなった。
「あ、やっちゃった……」
「う……あれ、メイコ?」
「やっと起きたわね」
マスターが、私の膝枕の上で意識を取り戻したのは、その数十分後の事だった。
「……痛かった」
私の膝に頭を乗せたまま、マスターが頭に出来たタンコブをさする。
その光景を見ていると、流石にやりすぎた感が漂ってきた。
「ごめんなさい、マスター」
マスターの頭を撫でながら、素直に謝ってみる。
いつもならこれで機嫌を直してくれて、いそいそと曲制作に取り掛かってくれるんだけど……
「いや!!許さんっ!!」
「え、ちょ!?……ひゃああぁっ!!」
なぜか、今日のマスターはエッチだった。
私の太腿をツツッと舌でなぞりつつ、脚全体を手でさすってきた。
いきなりの行為に、私は上ずった声を上げてしまう。
「やぁぁっ……!!う……っ!!」
マスターはいつの間にか体を起こし、座ったまま私を抱きとめる。
片手は私の股間に伸び、舌は首筋へと場所を変えていた。
「はぁぁぅあっ……!!ちょ、やめ……!!」
「ふふ……今日は何か可愛く喘ぐね」
マスターの顔が赤い。
思い出した。マスターって下戸だっけ。
だからといってまさかワイングラス一杯のワインだけでこんなにノリノリになるなんて思わなかった。
やがてマスターの舌は私の胸まで降りてきた。
服の前をはだけさせられ、包み隠さずマスターに私は胸を見せるハメに。
「ん……む……」
「や……!!っ、はぁぁぁっ……ん、っ!!」
ちゅぱちゅぱと音を立て、マスターは私の胸の先っぽをついばむ。
「ひゃぁぁっ!!あ、はあぁぁっ……」
ついばまれている方と逆の胸は、マスターが手でゆっくりと揉んでいた。
これでもスタイルはいいほうだと自負してる私の胸が、マスターのごつごつした手で歪む。
「ちょ……!!っあ、ひゃあぁっ!!」
何ともいえないむず痒い感触に身を任せていると、いきなり背中にピリピリと電気のような物が駆け上がる。
マスターが私の胸の先っぽをキュッとつねったのだ。
「あ……はぁ……ぁ……」
体の芯が抜けてしまったように、力が入らない。
そのままマスターの手でソファに寝かされる。
「いくよ……メイコ」
「やっ……あ……」
すっかり出来上がってしまった私のアソコが、マスターのモノを飲み込んでいく。
「ん……くはあぁぁっ……!!あ……!!」
いつもならゆっくりした動きから入るのに、今日は最初からクライマックス。
ゴンゴンと私の奥の奥を突いてくる。
「ああぁぁっ!!はあぁぁあっ!!やぁぁあっ!!あっ!!」
マスターは普段の頼りなさが嘘のように、私の両足を持ち上げ、力強く固定している。
私は本能をむき出しにされ、ただマスターのピストン運動に翻弄されるだけ。
「はあっぁぁぅっ!!やあぁぁあああああっ!!」
パンパンと腰と腰がぶつかる音がする。
マスターの動きが段々と早くなる。
私は声を抑える事を諦め、大声で淫らな声を上げる。
「ほら、もっといい声聞かせてよ……メイコ……」
「く……ううぅぅっっ!!やああぁぁっ!!はああぁあんっ!!」
もう頭の中がぐちゃぐちゃ。
声は絶え間なく口から漏れ、体の芯が火でも点いたかのように熱い。
「うっ……く!!」
「はあっぁあっ!?!?あぁはあぁぁぁ……!!」
マスターが腰を打ちつけ、動きを止めた。
それと同時に私の頭の中は真っ白になり、腰が跳ねる。
「あ……なか……で……」
お腹の中……というよりは子宮の中に、何か感触がある。
それがマスターの精だと認識した私は、体の力を抜いた。
「ばか……」
マスターがモノを抜く。
何となくアソコに手を伸ばすと、精液が垂れてきていた。
『ドワンゴが 午前二時くらいをお知らせします』
点けっぱなしのパソコンから流れた時報で、私は目を覚ました。
あの後ベッドに移動した私とマスターは、体位を変え弄り方を変え、あの後からずっと交わっていたはず。
だけど、いつの間にか寝落ちしていたらしい。
「……体だるい」
タオルを体に巻きながら、のっそりと体をベッドから起こす。
シングルサイズのベッドには、いびきを立てるマスターと、ICレコーダーが転がっていた。
そう、調子に乗ったマスターは、私の喘ぎ声をICレコーダーで録りまくっていたのだ。
「……ホント、何でだろ」
レコーダーのデータを全部消しながら、自嘲ぎみに私は呟いた。
……家事はダメ、お金にルーズ、おまけに下戸でエッチ。
こんなマスターでも、本気を出せば私の魅力を最大限に引き出してくれる。
ブックマークフォルダから、『ニコニコ動画』を呼び出す。
そこには、マスターが私に歌わせた歌がいくつかアップロードされていた。
『mp3希望!!』
『なんだ、ただの神か』
『調教うめぇwwwww』
画面に流れていくのは、マスターの腕を賞賛する文字だらけ。
妹『初音ミク』をはじめ、マスターは他のVOCALOIDに手を伸ばさない。
私だけを見てくれる。
「……あーあ、とんでもないマスターに捕まっちゃった」
それがうれしくて、ついつい私も許してしまうのだ。
だって誰かが歌ってたはず。
『わがままは男の罪 それを許さないのは女の罪』ってね。
さて、マスターが起きるまでボイトレでもしますか。
おまけ
「ふんふーん♪」
何となく今日はニコニコを見たい気分になったのでパソコンに向かっている私。
と、その時。妙に再生数が伸びている動画を見つけた。
タイトルは……
「MEIKOにエッチな台詞言わせてみた」
……どうやら一部データを消し忘れていたらしい。
私はマスターの頭にかかと落としを食らわせた後、運営に通報した。
終わり。