珍しく寝過ごして朝昼兼用の食事をとろうとパジャマのままリビングのドアを開けると、
MEIKOが一人ソファで雑誌を読んでいた。
「めーちゃんおはよ。あれ、ミク達は?」
「んー、おはよって、もう昼だけどね。あの子らは先週から練習してた曲のレコーディング」
遅くなるかもって、と付け足して再び雑誌に目を落とす。
遅くなる…と、いう事は…暫く二人っきりという事じゃないか!
つい嬉しくてMEIKOの座っているソファに寝転んで勝手にその膝を占領した。
「ちょっと…何やってんの」
「ん〜膝枕♪あ〜いいな〜コレ。このままここで二度寝できそう」
うつ伏せでやわらかな膝枕を堪能していたら尻をピシャリと叩かれた。痛い。
「顔ぐらい洗ってきなさいよ!パジャマも着替える!!」
何だかんだ言ってMEIKOは二人きりの時は、ちょっと甘えても許してくれる。顔を赤くしつつも。
今のこの状況だって年少組の前だったら有無を言わさず首根っこ?まれて床に引きずり降ろされてるだろう。
今の内に存分に堪能しとかなきゃ。
「いい加減に起きなさいよ、コラ」
「……めーちゃん、お昼何食べるの?」
「え?そりゃ何か作るけど…」
「オ…イス」
「何て?」
「オム…ライス食べたいな…卵とろっとろのヤツ」
「却下。今日はパスタな気分なの」
むぅ、納得いかない。もう一押ししてみるか。
「ええー!ヤダ!ヤダ!ヤダ!ヤダ!オムライスじゃなきゃイヤだーー!」
両脚の付け根にぼふっと顔を埋めて頭ごとじたばたしてやった。
「やっww!ちょ…やめてよ、くすぐった…ひぅッww」
良し、いい反応。そのまま1分程じたばたしてたら、今度は丸めた雑誌でスッパーンと頭を叩かれた。
「 ヤ メ ロ 」
「はい…」
しかし俺は諦めない。今日を措いてMEIKOにワガママが通る可能性はめったに無い。
どうしてもMEIKOが作ったオムライスが食べたかったのでさらに攻勢に出た。
MEIKOの服のジッパーに指を引っ掛けて勢い良く引き降ろした。
「オムライ…スッ!」
しかし敵も然るもの。瞬間に此方の動きを察知して完全に下げる前に阻止された。
俺の手を軽く払いのけて
「パスタ」
と言いながらジッパーを元の位置まで引き上げて、再び雑誌を読み始める。
「オムライスーぅ」
ジッパーを下げながらしつこく食い下がる。
「パ・ス・タなのっ!」
雑誌から目も離さずに、手をがっつり?まれてまた元の位置に戻された。
オムライスで下がりパスタで上がる。暫くジッパーはMEIKOの豊かな胸の上を行ったり来たりしていた。
10往復位した頃だろうか、MEIKOが読んでた雑誌を読み終わった。
「さてと…そろそろお昼にしようかなっと。アンタもアホな事やってないで着替えてきなさいよ」
ジッパーはきっちり上まで上げられている。
「ひどいよ、めーちゃん…俺のリクエストきいてくれないんだ…」
「アンタ喰うだけなんだから、文句言わないの!」
何だよ、いつもミク達には甘いくせに…今日くらいいいじゃないか。
勝手にした期待といえばそれまでだけど、ガッカリ感と、よくわからない腹だたしさで俺涙目。
「ほら、どいたどいた」
立ち上がろうとするMEIKOを上半身の体重で押しとどめ、ぼそりと呟いた。
「じゃあ、肉まんでいい…」
「は?」
がばっと上体を起こしリクライニングするソファの背もたれにMEIKOを押し倒した。
MEIKOが短く声を上げたが、お構いなし。
もう、ジッパーを下げるなんてまどろっこしい事はしない。短い裾ごと胸の上にたくし上げた。
露出するたおやかなラインの胸。あるじゃないか、こんな所に美味しそうな肉まんがッッ!!
「いただきますッ!!!」
唇が柔らかい感触に触れたその時…
「「「 ただいま〜 」」」
玄関からミクとリンレンの声。え?遅くなるはずじゃ…そう思った時には既に俺の体は浮いていた。
ああ、コレが巴投げっていう…。視界がぐるっと回った時俺はそんな事を思った。
リビングのソファからドアの横の壁まで部屋を縦断するようにすっ飛ばされ、
建物が揺れる程の音をたてて逆さまの状態で背中から激突した。
すぐ隣にあるドアが開いて最初にレンが入ってきて、俺は重力に従って頭から床に落下した。
「あれ?カイト兄また何かやらかしたの?口は災いの元だよ?」
うん、そうだね。違う意味で口使おうとしてたけどね。
続いてリンが入ってきた
「MEIKO姉おなか減った〜ご飯ご飯」
お腹、へったよな。俺も今食べようと思ってたんだ肉まん。
最後にミクが入ってきた。
「ただいまー。マスター朝飲んだ牛乳に当たって今日のレコーディング中止だって〜」
あぁ、それはキツイね。でも今俺の状態のほうがキツイかな。
「みんなおかえり。そ、それは大変だったわねぇ…」
MEIKOが衣服を正してソファの向こうから顔を出す。
「お昼今からだから、あたし作るからみんなで食べましょ」
「はーい!ミクはネギラーメンがいいな〜」
「ミク姉ぇ…昨日の昼もそれだったじゃんかよ…」
未だ床に伸びている俺をよそに、みんなで昼飯のメニューで盛り上がっている。
今日のメニューはもう決まってるのだよ君達。はいはいパスタパスタ。
「MEIKO姉のご飯美味しいから何でもいいよっ。今日は何〜?」
リンの問いかけに、少しの間決まりの悪そうな顔で黙ったMEIKOが、
チラリとこちらを見た気がした。
「…………オムライス」
「めーちゃん!!愛してる!!」
「いいから着替えてこいっつの!」
食卓に出てきたMEIKO特製オムライスにはケチャップでみんなの名前が書いてあって、
一番大盛りの俺の皿には俺の大きく『バカイト』と書かれてあった。