とある寂れた酒場で一人の男が呑んで(省略)
「ヒック……おやっさん、もう一杯」
コップの中の酒を飲み干しドンッとテーブルに置く。
「はいよ、にしても今日は一段と飲むねー」
店主がコップに酒をそそぐ、酒の銘柄には宇津田市農と書いてある。
「またハクを泣かせちまったんですよ、女泣かすなんて最低な男ですよ俺」
店主がツマミを出す。
「これは俺からのサービスだ、まあ、愚痴ならいくらでも聞いてやるから全部吐いちまえ」
店主の優しさにちょっとうるっときた。
「おやっさん……ありがとう」
「よくこの店に来てくれるしこれぐらい当たり前よ!で、何があった?」
「実は……」
〜回想〜
「♪〜♪♪〜」
狭いアパートの個室でキーボードを弾きながら作曲している男がいた、この男がハクのマスターだ。
「こんなもんかな?とりあえず歌わせてみるか、ハク、これを歌ってみてくれ」
「はい、わかりました」
「あ〜♪」
「違う違う、もっとアレな感じで!」
「はい」
マスターがリズムを取る。
「1、2、3」
「あ〜♪」
「違う違う!」
以下ループ
「あー!駄目だ駄目だ駄目だ!」
何回もやり直すが一向に満足の行くものが出来なかった。
「ぐすん……」
急にハクが泣き出す。
「お、おい……」
「ひっく、ごめんなさい……私がこんな…ダメな子だか…ら」
だんだんハクの瞳から溢れる涙が増えていき話し方が途切れ途切れになる。
「何言ってんだよ」
「いえ、マスターは、悪く、ないんで、す…私はできっない…子なんです、このまま…私なんかが、居たって…迷惑なだけです、だから…出ていきます!」
そう言ってハクは泣きながら走って部屋から出ていった。
「おい、待てよ!」
もちろん追いかけたが途中で見失い見付からず今に至る。
〜回想終了〜
「馬鹿野郎ぉおぉぉ!!」
いきなり店主に殴られた。
「ぎゃあぁあぁぁぁ」
そのままふっとび床を少しずざざーっと滑走した。
「それなら見つかるまで探しやがれ!テメェでやった事はテメェできっちり落とし前つけるのが男だろ!」
何がおきたかわからずポカーンとしていたが店主の一言で目覚める。
「おやっさん、ありがとう!俺、探してくるよ!」
「おう、言ってこい!」
店から出ていこうとすると呼びとめられた。
「その前に勘定置いてけ」
「はい……」(そこらへんはしっかりしてんのな……あれ?ツマミの代金入ってね?)
「細かいことは気にすんな」
「……」(心の中読むなよ…)
「ほら、早く行ってやれ」
「は、はい!」
とりあえず勘定を済ませハクを探すために店から飛び出した。