「ぼっこぼーこにさーれてるよー♪」  
 
『はいOK!!じゃ休憩したら別テイク録りますんで、それまで休憩で』  
 
ハクはヘッドホンを外し、傍らのテーブルに置いてあったミネラルウォーターを飲む。  
一息ついてから、レコーディングルームを出た。  
 
「ふぅ……」  
 
前に貰った地図を頼りに、ミク・リン・レンの家に来ていた。  
見た目は、ロードローラーが車庫に入っている以外はごく普通の高級住宅。  
しかし、地下に降りてみると、そこは別世界だった。  
 
「それにしても……ここ本当に『家』なの……?」  
 
そこは、普段ミクたちが使っているレコーディングスタジオに匹敵、  
いや、上回るほどの設備を持ったプライベートスタジオがあった。  
 
「さっき旧いマックだなぁと思って見てたら、さりげなくシンクラヴィアだったりしたし……桁が違うわ」  
 
その他にも、夢の高級機材がそこらへんにわんさか。  
しかも凄腕のエンジニアとミュージシャンが常駐しているらしい。  
 
「……私、だまされてないよね?」  
 
そんな気分になるのも無理はないほど、ミクの提案した『ハクの魅力を引き出そう作戦』は豪華なものだった。  
 
 
 
 
 
 
歩いていると、やがて温かみのあるフローリングの廊下が切れ、リノリウム床の冷たい区画へと切り替わった。  
そのまま足を進めると、どこからか声がした。  
 
「……っ……ぁ……ぅっ……」  
 
「……?」  
 
見ると、半開きになったドアがある。どうやらそこから声がしているようだ。  
ハクの好奇心が、そのドアへと足を運ばせる。  
声の主にばれないように、そっと扉に手を掛ける。  
 
「うっ……メイコ……今日はいつに無く興奮してる……?やっぱり扉が半開きなせい……?」  
 
「っぁ……はぁっ……ああぁぁあっ……バカ……イトぉ……」  
 
ドアの向こうには、背面座位で乱れる女性の姿があった。  
メリハリのあるスタイルの体を、乱れた赤い衣装に包んだ女性。下半身は後ろの男性ときっちり繋がっている。  
何も無い部屋に唯一あるベッドがドアのほうを向いていたので、結合部はハクに丸見えだった。  
 
(……え!?)  
 
ハクは、その女性の顔に見覚えがあった。  
今でこそ、後ろからひょいっと顔を出す男性に貫かれ、惚けた顔をしているが、  
その凛々しい顔つきはインパクトがあった。  
 
(……インディーズシーンで一時期話題になった『MEIKO』と、N○K“うたのおにいさん”『KAITO』っ!?マジで!?)  
 
何とも想像し難いカップリング。  
しかし、ハクはもうドアの前から動けなくなっていた。当然、後ろからリンとレンが来ていても気がつかない。  
 
「ハクねーさん……」  
 
「ふぇいっ!?!?レ、レン!?!?」  
 
「……見ちゃったんだね、ハクねーちゃん」  
 
話しかけられ、やっとリン・レンの存在に気付いたハク。  
その後ろにはミクも立っていた。  
 
「……しょうがないですね、こうなったら……」  
 
ミクが、半開きだったドアを一気に開ける。  
メイコとカイトの艶姿が、ミク、レン、リン、そしてハクの目にはっきりと晒される。  
 
「きゃああっぁぁぁぁあっ!?!?ちょ、ミクっ!?誰よその人ぉ!?」  
 
下からガンガン突かれ、喘ぎ声を漏らしていたメイコも、流石に気付く。  
大声をあげ、せめての抵抗と言う事でむき出しの胸を両手で隠した。  
 
「メイコ姉さん、カイト兄さん。この人が『弱音ハク』さんだよ」  
 
繋がったままのメイコとカイトに、冷静にミクは話しかける。  
 
「弱音……ああ、貴方が『サンプル』ですか」  
 
ミクの紹介に、メイコの体に隠れていたカイトが声をあげる。  
上半身裸でメイコを抱くカイトの口から出た言葉に、ハクが疑問を抱く。  
 
「サンプル……一体何のことです?」  
 
ミクが振り返り、ハクへと体を向ける。  
 
「それは私から説明します。ハクさん……私たち五人は、実は人間ではありません」  
 
「……はぁ?」  
 
「国の研究機関と有名楽器メーカーの極秘プロジェクトの結晶、『VOCALOID』。分かりやすく言えば『人造人間』なのです」  
 
 
 
 
 
 
―――――それは、国が極秘に進める文化戦略だった。  
『日本から世界的なミュージシャンを発信する』というソフト面の輸出による経済発展。  
世界中から愛される歌手を『意図的に』作り出そうとする計画が進んでいた。  
 
「数年前、あるレコード会社に送られてきたデモテープ……その声をサンプルに私は作られました」  
 
「え、もしかして……まさか……」  
 
100%人口にするよりは、ボイスサンプルを改造したほうが温かみがある。  
そう判断されたため、音楽業界からランダムにサンプルが抽出された。  
 
「要するに、貴方は言ってみれば私の『生みの親』なんです」  
 
「私の声が……『初音ミク』の……声?」  
 
信じられない事だった。  
ミクの声など逆立ちしても手に入らない物とばかり思っていた。  
しかし、ミクに渡された音声解析の結果を見ると、ハクとミクのデータはかなり似ていた。  
 
「でも、はっきり言って私は絶望したわ。もはやオリジナルの貴方は声を潰しきってしまっている」  
 
「うっ……」  
 
立ち上がったメイコ。いきなりの指摘に、ハクはたじろぐ。  
 
「ほらメイコ、風邪引くよ?」  
 
険しい顔をするメイコだが、その下半身はいろいろな汁でびしょびしょ。  
その光景を見て、後ろからカイトがタオルを持った手を伸ばす。  
 
「あん……ちょ、って人が真面目な話しようとしているときに何すんのよバカイト!!」  
 
「あべしっ!?」  
 
敏感になったメイコの肌を這うタオルのゴワゴワした感触に、つい艶のある声を上げるメイコ。  
ハッと我に返ると、カイトに強烈なパンチをお見舞いした。  
 
「ごほんっ。ボイトレもしていないし、挙句は酒焼け……もうあなたの声はミクのように澄んだものではないわ」  
 
メイコの一言一言が、ハクの胸に突き刺さる。  
 
「……私……そんな……そんな……」  
 
自分は本当に努力してきたのか。  
DTMもボイトレも中途半端なのではなかったか。  
それまでの自分を思い出し、床に崩れたハクの目にうっすらと涙が溜ってくる。  
 
「……でも、遺伝子的には貴方の声は受け継がれる。そ・こ・で」  
 
うなだれるハクに対し、メイコが指を立てて説明口調に続ける。  
 
「ちょ、メイコねーちゃん!?」  
 
「いいでしょリン?どうせ貴方とレンじゃ倫理的にアウトなんだし」  
 
メイコが何か言い切る前に、リンがメイコになぜか追いすがる。  
倫理的に一体何がダメなのか分からない。  
 
「『VOCALOID』と人間を組み合わせ、人間の温かみと『VOCALOID』の精密さを両立させる。それが私たちの次のステップ」  
 
「あの、話が見えないんですけど」  
 
ハクの質問に答えたメイコ。  
その発言はハクの想像の斜め上を行っていた。  
 
「……弱音さん。貴方を『VOCALOID』シリーズに組み入れると共に、レンと子作りをしてもらいます!!」  
 
「へぇっ!?!?」  
 
涙の代わりに、ハクは間抜けな声を上げた。  
あっけに取られるハクに、服を着たカイトが続ける。  
 
「人工生命である俺たちと、人間が本当に生殖行為が可能なのかっていう実験も兼ねてるけどね」  
 
「ちょ、カイトさんまで……」  
 
「『VOCALOID』は生殖機能まで人間そっくりに作られてるからね。さて、どうなるかしら」  
 
「メイコさん……」  
 
オロオロするハク。  
目をリンとレンの方へ向けると、レンが近づいてきていた。  
その目は、かつてライブハウスのトイレで犯された時と同じ、『いつもの』目となっていた。  
 
「ま、待って!!レンは!?レンの気持ちはどうなの!?」  
 
「……僕は」  
 
ベッドの方へ後ずさるハクに近づきながら、レンは続ける。  
 
「……僕は、ハクねーさんが好きだ」  
 
「へっ!?」  
 
「ハクねーさんが好きだっ!!ハクねーさんの全部が欲しい!!ハクねーさんを僕の物にしたい!!」  
 
レンが思いのたけをぶちまける。  
と同時に、レンはハクを真っ白いシーツの上に押し倒した。  
 
「ちょ!!レンっ!?!?やめ……っ!!」  
 
ハクにのしかかったレンは、ハクのシャツを脱がせ、ズボンを下ろしていく。  
少年の体から、大人並みの怪力を発揮して、みるみるうちにハクがベッドの上で生まれたままの姿になる。  
 
「やあぁっ……!!はあっぁあっ……」  
 
「ん……むぅっ……っは……」  
 
ハクの乳房にかぶりつき、太腿に指を這わせるレン。  
 
「ちょっ、と!!レン……っ!!止めなさ……い!!」  
 
「……ハクねーさん、僕は本気だから」  
 
「……え」  
 
あまりの猛攻に、拒絶の言葉を紡ぐハク。  
そんなハクの口を、レンは自らの唇で塞いだ。  
 
「んんんぅっ!?!?」  
 
キスと同時に、ハクの両手首を左手で掴んで押さえつける。  
もう片方の手は、ハクの秘部へと這わせていった。  
 
「んー!!んんぅー!!んむー!!」  
 
レンの指が膣内でうごめくたび、ハクはレンの口内に喘ぎ声をぶつける。  
愛撫を続けハクの目がすっかり蕩けたころ、ゆっくりとレンはハクの唇から離れた。  
 
「んうっ!!……っぷは……」  
 
それと同時に、手首の拘束も解く。  
開放されたはずのハクだが、もはやベッドの上から逃げようとしない。  
白い頬を真っ赤に染め、荒い息を吐きながら、くたっと体をシーツの上に投げ出している。  
 
「行くよ、ハクねーさん」  
 
力なく寝そべるハクの足を、レンが持ち上げる。  
いつの間にか裸になっていたレン。  
股間にそそり立つモノを、ゆっくりとハクの秘部へと埋めていった。  
 
「え、はあぁぁああっっ……!!」  
 
その感触で、ハクのボーっとしていた意識がまた鮮明になっていく。  
 
「あはあぁぁっ!!あああんあっ!!はあぁぁっ!!」  
 
レンとはもう何回も体を重ねた。  
感じる場所も全て知られてしまっている。  
レンは最初から容赦無しにハクの膣内を何度も往復した。  
 
「ひゃ、ら、ああああぁっっ!!レン……っ!!強す、ぎいぃっ!!」  
 
「ううっ!!くっ!!だって、僕には、っ!ハクねーさんとの子供を作るって役割があるからね……っ!!」  
 
ハクの耳元でレンがささやく。  
子供を作る……その響きはまだハクには拒絶すべきものだった。  
 
「やあぁぁ……そん、なあぁぁぁああはあっぁっ!!」  
 
パンパンとハクとレンの腰がぶつかり合う。  
レンの下で胸を揺らしながら乱れるハクの思考が、快感に段々塗りつぶされていく。  
 
「はあぁぁっ!!だめ、だめ……っ!!もう……っ!!」  
 
「イくよ、ハクねーさん……孕んで……」  
 
「や、はああぁぁっ!?だめぇぇっっ!!」  
 
最後に、レンが思いっきり腰を打ち付ける。  
 
「うううっ……!!」  
 
「や、あああぁっぁぁぁぁぁぁああああ!!」  
 
ハクの中に、レンの子種が広がっていく。  
それは前にも何回か味わった感覚であったはずだが、今日は違っていた。  
 
子宮が疼く。  
自らの女性器が、必死に子孫を残そうと動く感覚がする。  
レンに何回もささやかれ、遂に体が『ソノ気』になってしまったのだろうか。  
 
「あはぁぁああ……」  
 
快感に流され、ボーっとしたハクに、レンがまたささやく。  
 
「……いいよね、ハクねーさん。僕がもう少し大人になったら……結婚しよう」  
 
「……………」  
 
ハクの体は、すでにレンの虜。では心は……?  
レンのプロポーズに、ハクは返答する。  
 
「うん……」  
 
繋がったままの二人。  
性器の隙間から、トロリと精液が漏れた。  
 
 
 
 
 
―――――数日後、リンとレンのマネージャーが代わった。  
 
 
―――――十数年後、日本からデビューした一人のボーカリストが、世界を席巻する事になる。  
 

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