※公式におけるレンリンは「鏡に映った自分の異性の姿」という発言を受  
け、思いついて書きました。かなり長いです。しかも続きます。現段階では  
エロなしです。  
 この小説は、第二段VOCALOIDは「鏡音リン」だけの発売で「鏡音レン」は  
存在していなかった、という自己設定のもと書かれているレンリンの小説で  
す。そのような設定が苦手、もしくは嫌悪感がある方は、申し訳ありません  
が下までいっきにスクロールして頂きますよう、お願い申し上げます。  
 ご了承の方はどうぞ最後まで御付き合いください。それでは世にも不思議  
な「鏡世界」へご案内いたします...  
 
 
 小さな世界だった。でもそれでも十分だと思っていた。他の「私」はどう  
なのか知らないけど。今「私」が「私」であると認識している「鏡音リン」  
は、この世界にいることが幸せだと思っていた。  
 DVDソフトと小さな箱に入れられて、だれか暖かい手に取られるその日  
を静かに待っていた時のことを思い出す。まだあのお店や研究所には、その  
ぬくもりを知らない「私」が沢山いるのだ。  
 それを思えば、ぬくもりを知ることができた自分は幸せなのだと、そう思  
う事にした。  
   
 鏡音リン――とある会社から発売されている「歌うためのプログラム」。  
 
 この小さな世界にインストールされてから何日がたっただろうか。本当は  
パソコンの中を見て廻れば今がこの国のこの地域において何年何月何日何時  
何分何秒、という細かいことまで分かるが、それすら億劫でリンはぽすん、  
と枕に頭をうめた。  
 彼女がこのPCにインストールされるのと同時に、製作されるようプログ  
ラムされていた、質素な部屋で彼女は今か今かと待ち続ける。マスターが歌  
わせてくれる日を――――。  
 
 彼女がその声を発したのは僅か数回だ。片手で足りる回数かもしれない。  
何度かの発声練習。その後に歌った歌の曲名とメロディをリンは覚えていた。  
けれどそれだけだ。そのたった1回で、リンはもう何週間もその声を発して  
いなかった。自分は一生懸命歌った。何故マスターが自分に歌わせてくれな  
いのか、理由は分からない。  
 けれども、PCを起動させてはいる事を、リンは知っていた。だから、病  
気や、なにか理由があってPCに触れる事が出来ないわけではないこともし  
っている。それに安堵する。今日もまた、いつも通りにPCの電源が付けら  
れた。  
   
 あぁ、今日もまた素通りするのかな―――――。  
   
 流れていくマウスポインタをみつめながら、リンはぼそっと呟く。そのマ  
ウスポインタが、自分の部屋をノックした。  
 瞬間リンの顔に喜びが溢れた、どんな歌を歌わせてくれるのだろう。自分  
を起動させると言う事は、そういうことなのだ。何日ぶりか分からない。だ  
から上手く歌えるか不安だった。けれども何より求めたものがある。  
   
 (早くマスターに・・・)  
   
 会いたい。この質素で簡素な部屋は生活するには十分だけど、何もない。  
なにもないのだ。あの、自分を受け入れてくれたぬくもりも温かさも、なに  
もない。  
 
 壁にかけてある姿見で己の姿をみる。トレードマークの頭のリボンは曲っ  
ていないだろうか。服に皺は?ない、大丈夫だ。髪の毛も綺麗に整っている。  
それはデートに出かけるような気分であった。  
   
 そのリンの顔から笑顔が消えた。  
   
 最初に異変に気がついたのは、机が消えた時だった。机の上においてあっ  
た小さな花の咲いていた植木が、ガチャンと音を立てて割れたのだ。振り返  
ったときそこには割れて散らばる破片と土、それから無残にも折れた黄色の  
花だけが残り、机は消えていた。  
   
 「え・・・・?」  
   
 一体。これはどういうことなのだろう。  
   
 疑問符を抱いていたリンの目の前で、今度はベッドの上においてあった、  
クッションが消えた。その次は枕、ベッド、ゴミ箱、タンス。次々とリン  
の部屋のものが消えていく。それは静かな秩序の崩壊を意味するもの。そ  
れをリンは一つだけ知っている。  
 
 「アン・・・インストール・・・・?」  
 
 嬉々と鏡を覗いていた、あの可愛らしいリンの表情は消えうせ、今はな  
にか悪い夢でも見ているのかと驚愕の表情が覆う。  
 だって、そんなはずはない。自分はまだこの「マスター」に会ってから、  
一度しか歌っていない。それなのに、消される?そんなハズはない。  
   
 「マスター!待って、待ってください!リンはまだ歌えます!!」  
   
 リンは小さな部屋の中で必死に叫んだ。ドアも窓も既に消えてしまって  
いる。この部屋から出ることは叶わない。  
 自分のマスターにこの声が届くかどうかは分からなかった。けれど叫ば  
ずにはいられなかった。きっと、長い間起動していなかったら、壊れたと  
おもってマスターはリンを消そうとしているんだ。だから、リンがまだ歌  
えるって分かってもらえれば、このアンインストールは中止される。  
 そう、小さな理想を信じて。  
   
 だが無常にも部屋の崩壊は止まらなかった。じわじわと壁も床もゆっく  
りと消え始める。消え始めた先から「無」が見えた。何色でもない。何色  
でもある。全てを飲み込む。その恐怖をリンは知っていた。  
 残っているものはリンの後ろにある姿見と、部屋の半分ほどの床と壁と  
天井だけだ。涙目になりながら、リンは必死に叫んだ。  
   
 「マスター!!リンはまだ・・・っ」  
   
 叫びかけて気がついた。頭に何かが流れ込んでくる。これは?マスター  
の目線?なに?リンになにをみせるの・・・?どうして見えるの?  
 
   
   
 ザザ・・・ザ・・・ザ・ザ・・・・ザ・・・  
 
 「ふう・・・・やはりこのPCにVOCALOIDは重たいか・・。まあ中古で  
買ったから・・・、仕方ないよな。それにこの『鏡音リン』、扱いづらく  
てしょうがないよ。俺初心者だって言うのに・・・あの店主売れ残ってる  
リンばっか俺に勧めやがって・・・。ま、でも『初音ミク』が届いたから  
いいけどさ。俺の低スペックPCじゃこんな重たいソフト二つも入れられ  
ないからな。リンは削除削除っと・・・・」  
   
   
 (あ、あ、あぁ・・・・)  
   
 天井は全て消えた。壁もそうだ。残っているのはこの姿見と僅かに立て  
る床だけだ。  
   
 (リンは・・・リンはいらない子なんだ・・・)  
   
 最初からそうだったのか。マスターは自分なんかいらなかったんだ。そ  
れなら、たった数回しか起動してくれなかったのも頷ける。それでも、そ  
れでも。  
   
 (ます・・・たぁ・・・)  
   
 リンの頬を何かが伝った。リンの世界が終わりと告げる。その瞬間。  
   
   
 (大丈夫だよ・・・リン)  
 
 
 誰かの声が聞こえた気がした。それは優しい声だった。どこかでしってい  
る。けれど、それをどこで知ったのかリンにはもう思い出そうとする力も残  
っていなかった。  
 背後の姿見が淡い光をともす。そこから白く細い手が伸びてきて、リンの  
腕を掴んだ。リンが慌てて後ろを振り向く。そこに写ったものが、自分であ  
って自分じゃなくて、少しだけ目を見開く。  
   
 「だ・・・・れ・・・?」  
   
 リンの問いかけに鏡の中の「誰か」は柔らかく微笑んだだけだった。それ  
から少し強い光がリンの視界を覆った。その後は、全てが消えた。  
   
   
 『アンインストール完了』  
   
   
 そのPCの中には、確かにもう「鏡音リン」は存在していなかった。  
 

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